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第195条 単元株式数の変更等
 

 

Ø 単元株式数の変更等(195条)

@株式会社は、第466条の規定にかかわらず、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、定款を変更して単元株式数を減少し、又は単元株式数についての定款の定めを廃止することができる。

A前項の規定により定款の変更をした場合には、株式会社は、当該定款の変更の効力が生じた日以後遅滞なく、その株主(種類株式発行会社にあっては、同項の規定により単元株式数を変更した種類の種類株主)に対し、当該定款の変更をした旨を通知しなければならない。

B前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 

195条は、191条と並んで、株主総会の特別決議によらずに単元株式数に関する定款の定めを変更できる場合、及びその手続きを定めています。すわち、単元株式数を減少し、あるいは単元株式数の定めを廃止する場合には、取締役または取締役会の決定によって定款を変更することができます。

これは、単元株式数引き下げや廃止は実質的には株式分割であって既存株主に不利益を与えることはなく、むしろ小さな株主に対して議決権等の権利を付与するものであるので、株式分割の場合と同様に簡易な手続きで行うことができるとされているためです。

ü 単元株式数の引下げ・廃止のための定款変更

・決定権者

単元株式数を引き下げ、あるいは廃止するための定款変更を行う場合、定款の変更は株主総会の決議によるという466条の定めにもかかわらず、その決定は取締役会の決議によって行うことができる(195条1項)。単元株式数引下げは実質的に株式分割と同じ意味を持っているので、株主総会の特別決議を要するということによって株主の利益を保護する必要がないと考えられたからです。

この点について、取締役会設置会社では株式分割の決定権者が取締役会なので(183条2項括弧書)、195条の単元株式数の引下げ・廃止の決定権者を取締役会とすることに整合性があります。しかし、取締役会非設置会社の場合の株式分割の決定権者は株主総会なのに対して、単元株式数の引下げ・廃止の決定権者は取締役とされていて、平仄が合っていません。

・単元株式数の引下げ・廃止の株主への影響

単元株式数の引下げ・廃止が株主に実際に不利益を及ぼすかについて、191条の場合と同じように、問題となる可能性があります。単元株式数の引下げ・廃止によって各株主の議決権の個数が減ることは考えられないので、各株主を単独で観察した際には不利益は発生しないと言われます。しかし、議決権比率の関係、すなわち他の株主との相関関係から見た場合には、一部の株主に対して不利益が及ぶ場合もあり得る。

まず考えられるのは、議決権行使が株主の増加による議決権の希釈化です。単元株式数が引下げられれば、それまで単元未満株式のみを所有していた株主に対しても新たに議決権が割り振られることになります。これによって、それまでの各株主の議決権割合は希釈されることになるから、既存株主にとっては不利益となります。もっとも、零細株主が新たに議決権を保有することになるとしても、出資割合に忠実な議決権比率に近づくだけの話であり、たとえ既存の議決権がそれによって希釈化されるとしても本来あるべき比率に近づいたためなので、一部の株主には不利益となっても仕方のないことと言えます。

次に、新たに議決権を有することになる株主がいない場合でも、議決権の割合が変化する可能性があり、これによって特定の株主が不利益を被る場合があり得ます。例えば、ある株式会社にはAとBの2人の株主のみがいるとして、Aの持株数は30株でBの持株数は20株とします。現在のこの会社の単元株式数が10株であるとすると、株主総会でAが行使することができる議決権の個数は3個、Bは2個となるので、Bは株主総会で特別決議の成立を阻止できる立場にあるということになります。そこで、単元株式数を10株から7株に引き下げると、Aの議決権の個数は4個となるのに対してBの議決権の個数は2個のままとなり、Bは特別決議の成立を阻止できなくなるわけです。

このように見ると、各株主の議決権が減少しないからと言っても、他の株主との関係で不利益を受ける可能性がないわけではありません。もっとも募集株式の発行等についての手続をみてもわかるとおり、公開会社で持株比率は厳密な保護の対象とはなっていません。また単元株式数の引下げによって大幅に議決権の分布状況が変化するとは考えにくい。それゆえ、単元株式数の引下げ・廃止についても取締役会の決議のみで行うことを認めている、ということです。

ü 単元株式数変更の通知・公告

単元株式数の引下げ、あるいは廃止する定款変更を行った場合には、その変更が効力を生じた日以後に遅滞なく株主に対して定款変更を通知し(195条2項)、あるいは公告しなければならない(195条3項)。通常、定款変更は株主総会による決議を経て行われるものですから、とくに株主に対する通知・公告を行わなくても株主はその変更を知ることができます。しかし、195条1項によって定款が変更される場合には株主総会を経ることはないため、株主がその定款変更を知る可能性は低いと考えられます。単元株式数の変更は株主にとって大きな利害が発生し得る問題であることから、これについての変更を知らされないことは問題であると考えられるため、通知・公告が求められると考えられます。

 

 

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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