新任担当者のための会社法実務講座
第192条 単元未満株式の買取りの請求
 

 

Ø 単元未満株式の買取りの請求(192条)

@単元未満株主は、株式会社に対し、自己の有する単元未満株式を買い取ることを請求することができる。

A前項の規定による請求は、その請求に係る単元未満株式の数(種類株式発行会社にあっては、単元未満株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

B第1項の規定による請求をした単元未満株主は、株式会社の承諾を得た場合に限り、当該請求を撤回することができる。

 

単元未満株式も株式なので、本来は、自由に譲渡することができるはずです(127条)。しかし、株券発行会社の場合には単元未満株式の株券は発行されない、またそれ以外の会社の場合には単元未満株式の株主名簿の名義書換請求権について行使できない旨を、それぞれ定款で定めることが可能です(189条)。その場合、単元ん未満株主が他の者に単元未満株式を譲渡することはできないことになます。あるいは、そのような定款の定めがない場合でも、事実上は、単元未満株式を譲渡することは困難です。つまり、上場会社の場合、市場での株式の売買単位が単元株式数とされているため、単元未満株式を市場で売買することは実際にはできないからです。

このように、単元未満株式の売却が定款上あるいは事実上できないことになると、単元未満株主が売却によって投資を回収することができなくなってしまいます。その場合、残されて手段は会社から出資の払戻しを受けるしか考えられません。しかし、会社にとっては、自己株式の取得であり、特定の株主からの自己株式の取得については株主総会の特別決議が必要となるきまりです(156条1項160条1項)。したがって、そのままでは単元未満株主は、自己の投資を回収することが事実上不可能になってしまうことになります。

このような事態を防止するために、単元未満株主の請求のみによって会社に単元未満株式を買い取らせることができるものとし、これによって単元未満株主の投資の回収を可能にしたものです(155条7項)。この場合の、会社が単元未満株式を買い取るべき旨の請求を行うことを株主に認めるとともに、その手続きと効果について定めたのが192条です。

ü 単元未満株主の株式買取請求権

・株式買取請求権

単元未満株主は、所有する単元未満株式を、会社に買い取るように請求することができます(192条1項)。この制度の趣旨は上述の通りですが、その趣旨に従って、会社は、定款の定めによっても、この買取請求権を排除することができないものとされています(189条2項)。なお、会社は自己株式を取得することになりますが、このことは155条7号で自己株式取得事由として認められているものです。

・株式買取請求権の対象となる株式

単元未満株主が買取請求権を行使できるのは、単元未満株式に関してまみです。例えば、単元株式数が1000株の会社で、1500株を所有している株主は、所有している株式のうちの500株についてののみ、買取請求権を行使することができるということです。そして、単元株式数に達している1000株については市場で売却できるので、買取請求をすることはできません。

株主が複数の証券会社等(口座管理機関)の振替口座に単元未満株式を保有する場合であっても、買取請求の取次の請求を受ける証券会社等では、株主が他の証券会社等で保有する単元未満株式の数を確認することができないため、取次の請求を受ける証券会社等の振替口座に記録されている単元未満株式を基準に請求を受け付けることになります。

また、本来であれば、単元未満株式が発生することはないと思われる上場後間もない会社や1株を100株に大幅分別して単元未満株式を新たに採用した会社でも単元未満株式の買取請求が発生することがあります。相続や一部の証券会社によるミニ株サービスにより単元未満株式が発生しうるからです。

・株式買取請求権の行使期間

条文上には行使期間の指定がされていないことから、単元未満株式がある限りは、いつでも買取請求権を行使することができると考えられています。この点は、譲渡制限株式でも譲渡承認請求に伴って買取請求できると考えられていることや、反対株主の買取請求権が株主総会決議の成立時期にのみ行使できるとされているなど、行使時点に一定の制限があるのとは異なります。

※期末の取次ぎ

振替機関である機構は、株主確定日の前営業日から起算して3営業日前の日から株主確定日までの間は、単元未満株式の買取請求を取り次がないこととしています。

単元未満株式の買取請求の日は、買取請求が会社または株主名簿管理人事務取扱場所に到達した日ではありますが、株主確定日の前営業日から起算して3営業日前の日から株主確定日までの間は機構が株主の買取請求を会社に取り次がないため、この間は、買取請求がされたことにはなりません。株主の買取請求は株主確定日の後に会社に取り次がれ、その取り次がれた日(請求日)の市場における最終価格がこの場合の買取価格になります。

・財源規制の不適用

会社が単元未満株式の買取請求に従って自己株式を取得する場合、単元未満株主の投下資本の回収の機会を保障するものであるため、財源規制等の適用はありません。この点では、譲渡制限株式について会社が自己の株式を取得する場合や取得請求権付株式での請求に基づく取得の場合に分配可能額が取得額の上限とされるのとは異なります。したがって、仮に単元未満株式の買取は分配可能額がない場合でも、請求があれば会社は買取をしなければなりません。

このように財源規制が適用されないのは、一方で単元未満株式の買取請求権が単元未満株主の投資回収の機会を確保するための制度であること、他方で単元未満株主式についてはその額が微少であると考えられることなどから、債権者保護にとって重大な脅威になるとは考えにくいことによるものです。

・インサイダー取引規制の不適用

会社は多元未満株式を保有する株主による請求に応じる義務を負っているものであるから、法令上の義務に基づく売買にあたり、会社については、インサイダー取引規制の対象外となります(金商法166条6項3号)。他方、株主については、単元未満株式の買取請求にいて適用除外とされていません。

ü 株式買取請求の方式と内容

・株式買取請求の方式

単元未満株式の買取請求については、法律では、とくに方式が指定されているわけではないので、原則としては有効な意思表示さえあれば請求がなされたものとして扱うことが可能です。ただし、実務上は会社の定める株式取扱規則などによって書面による行使が求められることが多いと考えられます。また、株式振替制度に伴い、証券会社や振替機関を通じて請求を行う方式を導入することも考えられます。そのような方式の定めは、それが事務処理のために合理的な範囲であり、かつ単元未満株主に対して過剰な負担とならないかぎりにおいて認められると考えられます。

・請求の内容

@請求する株式の数と種類

単元未満株主による請求には、請求する単元未満株式の数を明らかにしなければなりません(192条2項)。このことと関連して、単元未満株主が株式買取請求を行う際に、その有する単元未満株式の全部について一括して請求しなければならないか、あるいはその一部についてのみ請求を行うことが可能かということについては、株主の投資判断を尊重すべきことを根拠として、その一部のみを買取請求することが可能であると考えられています。

Aその他の内容

単元未満株式の買取請求に関して、法の定める以上の内容を申告すべき旨を会社が定めることはできるかということについては、請求の方式についてと同様に、その記載を求めることが事務処理のために合理的な範囲であり、かつ単元未満株主に対して過剰な負担とならないかぎりで認められると考えられています。

・個別株主通知

単元未満株式の買取請求権も少数株主権等(振替法147条4項)にあたるので、本来ならば請求株主は個別株主通知を行って会社に対する対抗要件を備えてから行使する必要があります。しかしながら、個別株主通知の到達までにタイムラグが生じるため、その後に買取請求を行うことは株価変動リスクが非常に大きいという不都合があります。他方、証券会社等を通じて行使されれば、株主確認・残高確認がなされて取り次がれるため実質的なリスクは無いことから、全株懇の株式取扱規程モデルでは、機構が定めるところにより行使される買取請求については、個別株主通知を必要としないものとしています。

ü 株式買取請求の撤回

単元未満株主が株式の買取を請求した場合、株式会社側の承諾を得ないかぎり、その請求を撤回することはできません(192条3項)。これは、単元未満株主による恣意的な株式買取請求を防止するためです。市場価格のある単元未満株式を、とりあえず買取を請求しておいて、市場価格の動向によって請求を撤回するというようにして、株主が僥倖的に行動するよう事態を防止するための措置です。また、撤回を認めることによって、会社側に余計な事務負担が増大することも防止するためです。ただし、会社側が承認すれば撤回できるので、会社側が事務負担を甘受するのであれば、認めるということです。

  

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る