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第189条 単元未満株式についての
権利の制限等
 

 

Ø 単元未満株式についての権利の制限等(189条)

@単元株式数に満たない数の株式(以下「単元未満株式」という。)を有する株主(以下「単元未満株主」という。)は、その有する単元未満株式について、株主総会及び種類株主総会において議決権を行使することができない。

A株式会社は、単元未満株主が当該単元未満株式について次に掲げる権利以外の権利の全部又は一部を行使することができない旨を定款で定めることができる。

一 第171条第1項第1号に規定する取得対価の交付を受ける権利

二 株式会社による取得条項付株式の取得と引換えに金銭等の交付を受ける権利

三 第185条に規定する株式無償割当てを受ける権利

四 第192条第1項の規定により単元未満株式を買い取ることを請求する権利

五 残余財産の分配を受ける権利

六 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める権利

B株券発行会社は、単元未満株式に係る株券を発行しないことができる旨を定款で定めることができる。

 

単元株式数に満たない株式を単元未満株式といいます。単元株制度の目的が株主管理コストの削減ということであれば、単元未満株式については、その権利をなるべく制限することが望ましいと言えます。しかし、他方で、単元未満株式といえども会社に出資した結果として発行されるものであり、会社の事業リスクを負担しているという点では通常の株式と同じです。そこで、管理コスト削減という会社総体の利益と、リスク負担に応じた収益権・監督権の確保という個々の株主の利益をどのように調和させるかという問題に対して、会社法では、株主に確保されるべき権利の最低限度を定めた上で、それ以上に健利を制限するかどうかについては個々の会社の定款自治に任されています。

ü 単元未満株式の議決権

単元未満株式の株主は、その有する単元未満株式について株主総会及び種類株主総会で議決権を行使することができません(189条1項)。これにより、株主総会に関する多くの費用、とりわけ招集通知の送付費用を削減させることができるわけです。

条文の文言で「株主総会及び種類株主総会」と明記されているので、189条2項のように定款の定めを認める文言ではないため、単元未満株式についていずれか一方の議決権を与えるという定めを定款に置くことはできません。

ü 単元未満株主が有する権利

会社は条文に列挙された権利以外の権利について、その全部または一部を行使することができない旨、定款に定めることができます(189条2項)。単元未満株主に留保されるべき権利の最低限について定めるとともに、それ以外の権利の取扱いについては会社の定款自治に委ねるというものです。

端株制度のもとでは原則として権利なしで例外的に権利付与というスタイルだったのに対して、単元未満株式の場合は、原則として権利ありで例外的に権利剥奪可能というスタイルになっています。このことは単元未満株式が株主コスト削減のために会社自治により自主的に権利を制限しようとする制度であるためです。

・法定の留保

@)全部取得条項付株式・取得条項付株式の取得対価の交付を受ける権利(189条2項1、2号)

全部取得条項付株式については取得日に、また取得条項付株式については会社が株式を取得すべき事由が発生した一定の日に、それぞれ株式を取得し、それまで株主であった者は株式の対価を取得することになります。したがって、株主にとって取得対価は、それまで株式によって行っていた会社への投資の維持・回収手段として位置づけられることになります。このような投資の維持・回収については単元未満株式の株主についても機械が確保されている必要があります。このため、定款によって、この権利を奪うことはできません。

A)株式無償割当てを受ける権利(189条2項3号)

株式の無償割当ては、その経済的実質から見れば株式分割であり、そこから排除されることは、持株比率の低下に伴う株式の価値の低下につながります。したがって、投資の維持のためには単元未満株主についても株式の無償割当てを受ける権利を定款によって奪うことはできません。

B)単元未満株式買取請求権(189条2項4号)

単元未満株式買取請求権は、市場における流通が期待できない単元未満株主にとって、投資を回収するための重要な手段です。原則として、市場では単元株で売買取引が成立するため、単独で株式を売却することができません。そのため、単元未満株式の買取請求権については定款によっても剥奪することはできないものとされています。

C)残余財産分配請求権(189条2項5号)

残余財産の分配は、株主の側から見ればまさしく投資の回収です。したがって、この権利を排除することは株式投資の本質に反することになります。したがって、単元未満株主についても残余財産分配請求権は保障されるべきであり、定款によっても剥奪することはできないものとされています。

・法務省令上の留保(189条2項6号)

189条2項6号にいう法務省令の定めに該当するのは会社法施行規則35条です。

@)定款閲覧謄写請求権(会社法施行規則35条1項1号)

単元未満株主にとって自己の有する株式の権利内容を知ろうとする場合、定款を閲覧し、必要に応じてその謄抄本の交付を受ける必要があります。しかし従来、これらの権利について明示的に行使を認め、明確化したのが、この条文です。

A)株主名簿記載事項を記載した書面の請求権(会社法施行規則35条1項2号)

もともと、単元株制度が導入された当時は原則として単元未満株式についても株券を発行するものとされていました。しかし、会社法が制定されると株券不発行が原則なり、株式譲渡の際には株券の代替物として事実上必要となる株主名簿記載事項を記載した書面の交付または電磁的記録の提供を求める権利を規定されました。

B)株主名簿閲覧・謄写請求権(会社法施行規則35条1項3号)

C)特定の場合における株主名簿記載事項の書換え、および譲渡制限株式の譲受承認請求・謄写請求権(会社法施行規則35条1項4、5号)

一定の場合には、譲受人からの株主名簿記載事項の書換請求書が認められます(会社法施行規則35条1項4号)。また、株式が譲渡制限株式である場合には、譲受人からの株式譲受承認請求権が認められます(会社法施行規則35条1項5号)。この一定の場合とは、具体的には次の通りです。

ア.相続等の一般承継の場合

イ.吸収分割または新設分割によって、他の会社に単元未満株式が移転する場合

ウ.株式交換または株式移転によって、他の会社に単元未満株式が移転する場合

エ.所在不明株主の有する株式について、競売に変わる売却が行われた場合

以上のように、単元未満株式を取得した者のうち株主名簿記載事項の書換請求を行うことが確実に保障される者は限定されています。したがって、他の方法によって単元未満株式を譲り受けた者、例えば売買によって取得した者は、定款の定めによって株主名簿書換を制限することが可能です。そのような定めがなされる場合、単元未満株式の譲渡可能性は著しく低くなります。

D)株式の併合等により金銭等の交付を受ける権利(会社法施行規則35条1項6号)

会社が株式の併合等によって株主に金銭等を交付する権利については、会社法施行規則35条1項6号によって定款によっても制限できないとされています。具体的には、次の行為によって金銭等を交付する場合が含まれています。

ア.株式の併合

イ.株式の分割

ウ.新株予約権の無償割当て

エ.剰余金の配当

オ.組織変更

剰余金配当請求権は言うまでもなく、株式の併合・分割、あるいは組織変更に伴う代替物給付請求権はまさに投資の維持・回収そのものです。また新株予約権の無償割当ては株式の無償割当てとほぼ同じようなものであるということができます。そう考えると、これらの権利は株主の自益権のなかでも中核的なものであるといえるものです。

E)組織再編行為による再編対価の交付を受ける権利(会社法施行規則35条1項7号)

吸収合併・新設合併、および株式移転・株式交換によって合併後の会社ないし移転・交換後の完全親会社から再編の対価として金銭等が交付される場合について、単元未満株式がこれらの対価を受ける権利を定款によって否定することはできません。これらも投資の維持・回収手段としての意味を有しているからです。

・その他の権利

法律または省令の定めによって単元未満株主に留保されていない権利で、議決権もないし議決権を基礎として行使される権利以外のものについては、原則として単元未満株主による権利行使が認められますが、定款の定めにより排除することもできます。

共益権のうち単独株主権である権利については、株主代表訴訟提起権については、その前提となる会社に対する訴訟提起請求について単元未満株主を除外できることが法文上明記されています(847条1項括弧書)。そして、その他の共益権については違法ないし不当な行為の防止ないし回復のための行為であり、共益的な性格を有すると同時に自己の有する株式の価値の下落を防止ないし価値を回復するという点で自益的性格もあります。したがって、自己の投資の維持・回収という観点からも、この権利は認められてしかるべきとなります。

ü 株券発行会社における単元未満株式の取扱い

・単元未満株式の株券の取扱い

株券発行会社は、単元未満株式の株券を発行しない旨を定款で定めることができます(189条3項)。株券発行会社では、株式を発行した日以後、遅滞なく株券を発行しなければなりません(215条1項)が、189条3項はこの例外を認めています。

株券発行会社では株券の引渡が譲渡の効力発生要件となるので、189条3項により単元未満株式の株券を発行しない旨の定款の定めを置いた会社は、会社の裁量によって株券が発行されない限り、株式買取請求権の行使以外に単元未満株主が回収する方法はないことになります。

・株券発行会社において単元未満株主に留保される権利(会社法施行規則35条2項)

株券発行会社でも、189条2項所定の権利の他、会社法施行規則35条2項所定の権利については定款によっても単元未満株主から剥奪することはできません。このうち、定款閲覧請求権(31条2項、会社法施行規則35条1項1号)、株主名簿閲覧請求け権(125条2項、会社法施行規則35条1項3号)、株式の併合等における金銭等の交付を受ける権利(会社法施行規則35条1項6号)、および組織再編行為における対価の交付を受ける権利(会社法施行規則35条1項7号)については、株券不発行会社と共通です。

@)定款閲覧謄写請求権(会社法施行規則35条1項1号)

単元未満株主にとって自己の有する株式の権利内容を知ろうとする場合、定款を閲覧し、必要に応じてその謄抄本の交付を受ける必要があります。しかし従来、これらの権利について明示的に行使を認め、明確化したのが、この条文です。

@)株式の取得に係る株主名簿記載事項の記載請求権、および当該株式が譲渡制限株式である場合の取得承認請求権(会社法施行規則35条2項2、3号)

株券発行会社では株主名簿記載事項に記載または記録を求める権利および譲渡株式の場合の取得承認請求権について、株券不発行会社の場合のような制限をすることなく認められています。これは、すでに株券が発行されている場合には、株主または株式の譲渡制限性についての期待が、また株主から株券を取得するものには株式そのものの取得可能性に対する期待が生じるのが普通なので、そのような期待に応えてのことであると考えられます。

A)単元未満株式について株券を発行しない旨の定款の定めがない場合における、株所持の申出・株券不所持の申出(会社法施行規則35条2項4、5号)

株券発行会社では、原則として株式の発行とともに遅滞なく株券を発行しなければなりませんが、発行された株券について株主から不所持の申出をすることも可能であり、また公開会社でない場合にはそもそも株主からの申し出があるまで株券を発行しないこととすることも可能です。そしていずれの場合も株主は、株券を必要とする場合に会社に対して株券の発行を請求することができます。

会社法施行規則35条2項4号および5号は、これらの権利を単元未満株式にも保障しています。すなわち、4号では株券の発行を求める権利がまた5号では株券の不所持を申し出る権利が定められています。

単元未満株式について株券を発行する場合には、上記の通り、株主には株券を用いた譲渡の可能性についての期待があるのであり、また株券不所持制度についても通常の株主と同様に単元未満株主にも利用のニーズがあると考えられることによるものと思われます。

  

関連条文

  第1款.総則

単元株式数(188条)

単元未満株式についての権利の制限(189条)

理由の開示(190条) 

定款変更手続きの特則(191条) 

  第2款.単元未満株主の買取請求

単元未満株式の買取りの請求(192条)

単元未満株式の価格の決定(193条)

  第3款.単元未満株主の売渡請求

単元未満株主の売渡請求(194条)

  第4款.単元未満株式数の変更等

単元未満株式数の変更等(195条)

 
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