この補充原則で具体的に求められている(@)〜(C)の事項について、実際のところどうなのか、ひとつひとつ考えてみたいと思います。
(@)十分な監査時間がとられているかどうかということについて。
外部会計監査人と会社との力関係によると思いますが、外部会計監査人が大手の監査法人である場合、担当の公認会計士がスタッフを伴って会社に赴いて監査を実施するわけですが、その監査法人内に審査部とか監査部等の名称の内部監査部署があって、会社担当の会計士の監査内容を審査します。その審査部の承認を得ることができて、はじめて担当会計士は担当会社の監査結果を正式にその会社に報告することができる。有価証券報告書や株主総会の計算書類に対する監査報告書を発行することができるようになっています。その監査法人の内部審査において、十分な時間をかけたものであるのか、ということは当然チェックされているはずです。だから、大手監査法人であれば、監査のための時間を会社に対して要求し、その要求を満たすものでなければ、監査報告書を作成してもらえないことになっているはずです。
一方、外部会計監査人に対して会社が支払う監査報酬の計算は、その監査に要した延べ時間に対して、時間単価を乗じて算出しています。だから、監査に時間がかかった場合には、会社が支払う監査報酬が増えることになります。だから、そこで会社と外部会計監査人との間で、監査時間に関しての折衝が行なわれます。業績や資金に余裕のある会社は別として、それほど景気がいいとは言えない会社では、経費の削減は至上課題であるため、監査費用も例外ではありません。
コーポレートガバナンス・コードを作成する学者やお役人は、このような企業の現場の厳しい状況は分からないと思いますが、このような要素も絡んで、現場はギリギリの調整を実際に行なっていると思います。
(A)CEO、CFOなどの経営幹部との面談
前項の説明と重複しますが、外部会計監査人が大手の監査法人であれば、経営陣との面談は監査プログラム項目としてあるので、実施していないと内部審査で所定の手続きを踏んでいないとして、審査の承認を得ることができなくなります。この面談は、外部会計監査人は監査記録として文書化して保存しているはずです。また、定期的に監査が実施されているので、定例化されている会社がほとんどではないかと思います。外部会計監査人が会社に監査で赴く前の、日程調整の際に会社側の対応部署である経理部や監査部などと経営陣面談の手配も同時に準備しているようになっていると考えられます。
(B)関係機関との連携、監査役会設置会社であれば、監査役との連携
これも前々項の説明であるように監査法人の監査プログラムと内部審査の点もあります。一方会社側においても、JSOXにおける内部統制、財務報告に関する内部統制の中で、全社的な体制として監査役または監査役会が会計監査人と緊密に連絡をとりあい連携するという項目があります。また、監査役会が株主総会招集通知に対する監査報告書を作成する際にも、会計監査人との連携について記載されています。これらのことから、大手監査法人の場合であれば、会計監査人と監査役または監査役会との間で定期的なミーティング(多くの場合は(四半期)決算に対する監査報告)が行なわれ、双方で記録をのこし、それぞれの統制活動の証拠としている、ということになっていると思います。
(C)不正発見への対応
この場合、外部会計監査人が不正を指摘した場合の対応ということになっていますが、外部会計監査人と良好な関係を保っている会社であれば、正式に不正を指摘する前段階で非公式に是正の勧告があって、例えば決算数値が正しい数値に修正可能であれば、不正の発生を未然に防ぐとか、それができないような根の深いものであれば、仕方のないことなのでしょうが。その程度の連携は取られているところもあります。もっとも、そのような連携が取られているところでは、不正が頻繁のあるようでは信頼関係など築けないはずですが。
では、この場合に会社は何をするのかを簡単に考えてみましょう。
まず、不正を識別あるいは可能性を認識した場合、経営者は信用の維持の観点から、損害の拡大防止、早期収束、原因究明、再発防止等の対応を適切に実施する必要があります。とくに不正が発見された場合は、事態が極めて深刻な状況になっているみとも想定されるため、有事の対応として迅速かつ的確な対応が求められます。不正は往々にして外部又は内部者との共謀があることが多いので、証憑書類等の偽造、改竄を行っている可能性も高いことから不正の範囲、期間の検討を慎重に行う必要があります。また、経営者が関与している場合には、範囲が拡大し、不正の調査が困難を伴うことになります。従業員不正の場合には、内部統制や内部監査を中心に解決にあたりますが、経営者の場合は取締役会・監査役会が不正リスクを評価し、率先して解決に当たらなくてはなりません。
また、不備を指摘された場合の対応については、その体制とは、@被監査部門が一定の期間内に計画的に改善するとともに、A内部監査部門等がその進捗状況を確認する体制、ということになります。