補充原則3−2.A
 

 

 【補充原則3−2.A】

取締役会及び監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。

(@)高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保

(A)外部会計監査人からCEO・CFO等の経営陣幹部へのアクセス(面談等)の確保

(B)外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保

(C)外部会計監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合の会社側の対応体制の確立

 

〔形式的説明〕

@この補助原則が求めていること

この補充原則は補充原則3−2@と同様に、外部会計監査人が、上場企業の開示する情報の信頼性について責任を負っていることを踏まえて、その監査の適正性を確保することを目的として、外部監査人が十分に活動できることを確保するために設けられたと考えられます。

補充原則で示されている4つの事項について、見ていきたいと思います。

(@)外部会計監査人による監査が効果的、効率的に行なわれることは当然の前提であるとして、とくに重要なことである必要十分な監査時間の確保を求めたものです。

(A)外部会計監査人による監査の適正性を確保するため、CEO、CFO等の経営幹部との直接的なコミュニケーションの確保を求めたものです。

(B)上場会社の問題を早期発見し、適正な監査を確保するため関係機関の連携の確保を求めたものです。

(C)外部会計監査人が監査証明を行なうにあたって、法令に違反する事実等を確認した場合には、金融商品取引法上、その内容や是正措置を上場会社に対して通知することが求められています(金商法193条の3第1項)が、これも含まれ、もう少し広く不備や問題点が指摘されたときの会社の対応体制が含まれると考えられます。

これについて、対応を行なうということですから、事実として、行なわれていればコンプライとすることができます。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@実務上の実際

この補充原則で具体的に求められている(@)〜(C)の事項について、実際のところどうなのか、ひとつひとつ考えてみたいと思います。

(@)十分な監査時間がとられているかどうかということについて。

外部会計監査人と会社との力関係によると思いますが、外部会計監査人が大手の監査法人である場合、担当の公認会計士がスタッフを伴って会社に赴いて監査を実施するわけですが、その監査法人内に審査部とか監査部等の名称の内部監査部署があって、会社担当の会計士の監査内容を審査します。その審査部の承認を得ることができて、はじめて担当会計士は担当会社の監査結果を正式にその会社に報告することができる。有価証券報告書や株主総会の計算書類に対する監査報告書を発行することができるようになっています。その監査法人の内部審査において、十分な時間をかけたものであるのか、ということは当然チェックされているはずです。だから、大手監査法人であれば、監査のための時間を会社に対して要求し、その要求を満たすものでなければ、監査報告書を作成してもらえないことになっているはずです。

一方、外部会計監査人に対して会社が支払う監査報酬の計算は、その監査に要した延べ時間に対して、時間単価を乗じて算出しています。だから、監査に時間がかかった場合には、会社が支払う監査報酬が増えることになります。だから、そこで会社と外部会計監査人との間で、監査時間に関しての折衝が行なわれます。業績や資金に余裕のある会社は別として、それほど景気がいいとは言えない会社では、経費の削減は至上課題であるため、監査費用も例外ではありません。

コーポレートガバナンス・コードを作成する学者やお役人は、このような企業の現場の厳しい状況は分からないと思いますが、このような要素も絡んで、現場はギリギリの調整を実際に行なっていると思います。

(A)CEO、CFOなどの経営幹部との面談

前項の説明と重複しますが、外部会計監査人が大手の監査法人であれば、経営陣との面談は監査プログラム項目としてあるので、実施していないと内部審査で所定の手続きを踏んでいないとして、審査の承認を得ることができなくなります。この面談は、外部会計監査人は監査記録として文書化して保存しているはずです。また、定期的に監査が実施されているので、定例化されている会社がほとんどではないかと思います。外部会計監査人が会社に監査で赴く前の、日程調整の際に会社側の対応部署である経理部や監査部などと経営陣面談の手配も同時に準備しているようになっていると考えられます。

(B)関係機関との連携、監査役会設置会社であれば、監査役との連携

これも前々項の説明であるように監査法人の監査プログラムと内部審査の点もあります。一方会社側においても、JSOXにおける内部統制、財務報告に関する内部統制の中で、全社的な体制として監査役または監査役会が会計監査人と緊密に連絡をとりあい連携するという項目があります。また、監査役会が株主総会招集通知に対する監査報告書を作成する際にも、会計監査人との連携について記載されています。これらのことから、大手監査法人の場合であれば、会計監査人と監査役または監査役会との間で定期的なミーティング(多くの場合は(四半期)決算に対する監査報告)が行なわれ、双方で記録をのこし、それぞれの統制活動の証拠としている、ということになっていると思います。

(C)不正発見への対応

この場合、外部会計監査人が不正を指摘した場合の対応ということになっていますが、外部会計監査人と良好な関係を保っている会社であれば、正式に不正を指摘する前段階で非公式に是正の勧告があって、例えば決算数値が正しい数値に修正可能であれば、不正の発生を未然に防ぐとか、それができないような根の深いものであれば、仕方のないことなのでしょうが。その程度の連携は取られているところもあります。もっとも、そのような連携が取られているところでは、不正が頻繁のあるようでは信頼関係など築けないはずですが。

では、この場合に会社は何をするのかを簡単に考えてみましょう。

まず、不正を識別あるいは可能性を認識した場合、経営者は信用の維持の観点から、損害の拡大防止、早期収束、原因究明、再発防止等の対応を適切に実施する必要があります。とくに不正が発見された場合は、事態が極めて深刻な状況になっているみとも想定されるため、有事の対応として迅速かつ的確な対応が求められます。不正は往々にして外部又は内部者との共謀があることが多いので、証憑書類等の偽造、改竄を行っている可能性も高いことから不正の範囲、期間の検討を慎重に行う必要があります。また、経営者が関与している場合には、範囲が拡大し、不正の調査が困難を伴うことになります。従業員不正の場合には、内部統制や内部監査を中心に解決にあたりますが、経営者の場合は取締役会・監査役会が不正リスクを評価し、率先して解決に当たらなくてはなりません。

また、不備を指摘された場合の対応については、その体制とは、@被監査部門が一定の期間内に計画的に改善するとともに、A内部監査部門等がその進捗状況を確認する体制、ということになります。

 

〔開示事例〕

大東建託

(@)外部会計監査人と事前協議を実施の上、監査スケジュールを策定し、十分な監査時間を確保しています。

(A)外部会計監査人から要請があれば、代表取締役をはじめ各業務執行取締役等の経営陣幹部との面談時間を設けています。

(B)会計監査や四半期レビューの報告等を通じ、外部会計監査人と監査役や社外取締役との連携を確保しています。

また、外部会計監査人と内部監査部門との直接的な連携がとれる体制はとっていませんが、常勤監査役が内部監査部門と連携し、随時必要な情報交換や業務執行状況についての確認を行い、外部会計監査人が必要とする情報等のフィードバックを行っています。

(C)代表取締役の指示により、各管掌取締役が中心となり、調査・是正を行い、その結果報告を行う体制としています。

また、監査役会は、常勤監査役が中心となり、内部監査部門や関連部門と連携をとり、調査を行うとともに、必要な是正を求めています。

 

〔Explainの開示事例〕

三菱UFJリース

(2)今年度中に実施予定であるものの、現時点では未実施の事項がある原則

b.補充原則3-2-2(iii)

■外部会計監査人と監査役、内部監査部門、社外監査役の連携

外部会計監査人は、監査役や内部監査部門(監査部)との間で、関係する情報を交換し、また、必要に応じて監査役会に出席する等の方法により、協力関係を構築しております。

また、社外の意見を経営に生かす枠組みを整えるため、代表取締役、常勤監査役、社外役員を構成員とする任意の「社外役員・代表取締役との意見交換会」を設置し、外部会計監査人からの情報は、この意見交換会で監査役を通じて社外取締役と共有いたします。また、意見交換会で社外取締役から提供された情報は、当該意見交換会に出席した監査役を通じて外部会計監査人と共有いたします。


関連するコード        *       

基本原則3.

原則3−2.

補充原則3−2.@

原則4−4

補充原則4−4.@

 
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