新任担当者のための会社法実務講座
第185条 株式無償割当て
第186条 株式無償割当てに関する事項の決定
第187条 株式無償割当ての効力の発生等
 

 

Ø 株式無償割当て(185条)

株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の株式の割当て(以下この款において「株式無償割当て」という。)をすることができる。

 

株式無償割当とは、無償という言葉の通り、株主から新たな出資を受けずに、会社の株主に株式の割当をすることをいいます(185条)。株式無償割当の特徴は、株主に対して株主全員に平等に割当をしなくてはならないこと、自己株式がある場合には自己株式に対しては割当をすることが出来ないことにあります。株式無償割当は、全ての株主を対象とし、また既存の株式の保有割合に応じて新規の株式を割当てる必要があります。例えば、会社の株式を100株持つ二人に対して、一人には10株を無償割当、もう一人には20株の無償割当をするというように、恣意的に割当てる株数を選択することは出来ません。

この割当ては、新株の交付でも自己株式の交付でもよい。追加的に新株または自己株式を交付するものなので、種類株式発行会社の場合には、たとえばA種類株式の株主に対してA種株式1株に対してA種株式2株を無償割当することもできます。また、A種類株式に対してB種株式2株を無償割当手てすることもできます。

・株式分割との比較

株式無償割当ての経済実質は株式分割と同じですが、法的には次のような違いがあります。

⓵株式分割は、条文上では株式の発行には含まれないのに対して、株式無償割当は新株が割り当てられる場合には新株の発行に含まれます。

A株式分割において同じ種類の株式の数が増加しますが、株式無償割当においては、同じまたは異なる種類の株式が割り当てられます。

B株式無償割当てでは保有する自己株式を交付することもできますが、株式分割ではできません。

C自己株式は株式分割の対象となりますが、自己株式に株式無償割当はできません(186条2項)。

D株式分割では基準日の設定が義務づけられますが、株式無償割当では義務づけられません。

E決定機関について株式無償割当では定款で別段の定めができますが、株式分割ではできません。。

・募集株式の株主割当てとの比較

募集株式の株主割当ては、有償の株式交付であり、割当てを受ける権利を有する株主は引受人となりますが、出資の履行がないと失権します(208条5項)。これに対して、株式無償割当では、株主の何らの行為を要せずに、自動的に株式が割り当てられ、交付されます。

 

 

Ø 株式無償割当てに関する事項の決定(186条)

@株式会社は、株式無償割当てをしようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 株主に割り当てる株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法

二 当該株式無償割当てがその効力を生ずる日

三 株式会社が種類株式発行会社である場合には、当該株式無償割当てを受ける株主の有する株式の種類

A前項第1号に掲げる事項についての定めは、当該株式会社以外の株主(種類株式発行会社にあっては、同項第三号の種類の種類株主)の有する株式(種類株式発行会社にあっては、同項第3号の種類の株式)の数に応じて同項第1号の株式を割り当てることを内容とするものでなければならない。

B第1項各号に掲げる事項の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 

株式無償割当を会社が行うためには、まず株主総会又は取締役会での決議が必要です。この決議では、株主に割当を行う株式の数や種類、その数の算定方法、株式無償割当の効力が生ずる日を定めなくてはいけません(186条)。

ü 株式無償割当の法定の決定事項(186条1項)

株式無償割当ては、その都度、次の@〜Bの事項を定めて行わなければなりません(186条1項)。

@株主に割り当てる株式の数またはその算定方法。

株式の数や種類とは、株式無償割当では異種の株式や自己株式を交付することが出来るため、その数や種類を定める必要があります。またその数は既存株主に対して株式の保有数の一定割合とする等の株主に一律の算定方法を定める必要があります。

A株式無償割当の効力発生日

株式無償割当の効力発生日とは、効力が生ずる日をもって割当を受けた株式について株主は所有者となり株主としての権利が生じ、また会社は効力が生ずる日の後に遅滞なくその割当があった旨を株主に通知をする必要があるため、明確に定めることが大切です。

B種類株式の場合は無償割当てを受ける株主の有する株式の種類

なお、基準日の設定は義務づけられてはいませんが、株主が多数変動する会社では、実際には基準日を設定することが望ましいとされています。

基準日を設定する場合には、基準日に関する規定に従い、会社は、基準日の2週間前までに、基準日および基準日株主が行使できる権利の内容を公告することが必要です(124条2〜3項)。しかし、基準日を設定しない場合には、条文では2週間前までの公告が義務付けられてはいません。そこで、効力発生日の2週間前までに公告をすべきという見解もあります。

ü 平等な割当て(186条2項)

186条1項1号の株主に割り当てられる株式の数又はその数の算定方法についての定めは、割当てを受ける株主の有する株式の数に応じて、割当ての対象となる株式を割り当てることを内容とするものでなければなりません(186条2項)。ここでいう割当てを受ける株主には会社自身は含まれないと明示されているので、自己株式には無償割当てをすることはできません。

ü 法定事項の決定機関(186条3項)

このような法定事項の決定は、取締役会設置会社では取締役会決議により、非取締役会設置会社では株主総会の普通決議によって行うのが原則です(186条3項)。ただし、定款に別段の定めがある場合にはそれによります(186条3項但書)。別段の定めは、要件を加重するものであっても、緩和するものであってもよいと解されています。ただし、取締役会設置会社では取締役が決定することと定款で定めることを認めることについては、重要な業務執行であるという理由で、疑問視する見解もあります。なお、指名委員会等設置会社では、執行役に決定を委任することが認められています(416条4項)。

 

 

Ø 株式無償割当ての効力の発生等(187条)

@前条第1項第1号の株式の割当てを受けた株主は、同項第2号の日に、同項第1号の株式の株主となる。

A株式会社は、前条第1項第2号の日後遅滞なく、株主(種類株式発行会社にあっては、同項第3号の種類の種類株主)及びその登録株式質権者に対し、当該株主が割当てを受けた株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を通知しなければならない。

 

ü 株式無償割当ての効力発生等

・効力の発生

株式無償割当ての効力は、186条1項2号の効力発生日に生じ、株主はその日に無償割当てを受けた株式の株主となります(187条1項)。

・変更登記

新株の発行による株式無償割当ての場合には、発行可能株式総数が増加することになるので、会社は、無償割当ての効力発生後に、変更登記をしなければなりません(911条3項、915条1項)。

・株主名簿への記載

会社は、株式無償割当ての効力発生後の各株主の株式数等を株主名簿に記載しなければなりません(132条1項152条1項)。

・株券の発行

株券発行会社は、株式無償割当ての効力発生後に、株券を追加発行して株主に交付する(215条1項)。

振替制度利用会社では、振替株式の株主に対して株式無償割当てにより振替株式を交付する場合には、新株を場合には発行会社からの新規記録通知による新規記録手続、自己株式を交付する場合には発行会社からの振替申請による振替手続により、株主等の口座への増加の記録が行われます。

・端数の処理

株式無償割当てにより1株に満たない端数が生じた場合の処理は、株式併合や株式分割の場合と同じです。すなわち、会社は、競売して代金を株主に分配するのが原則ですが、市場価格がある株式は市場価格で売却しまたは買い取り、また市場価格がない株式でも裁判所の許可を得て競売以外の方法で売却しまたは買い取り、代金を株主に分配することも認められます(234条)。

・資本金額等への影響

株式無償割当ては、新株または自己株式の交付ですが、これによって資本金額は増加しません。新株を交付する場合には、資本金等増加限度額はゼロと定められています(会社計算規則39条1項)。自己株式を交付する場合には、その他資本剰余金の額は自己株式の帳簿価額分を減額し、自己株式の対価の額はゼロと定められています。

ü 株主および登録質権者への通知

株式会社は、効力発生後遅滞なく、株主及び登録質権者に対して、株主が割当てを受けた株式の数を通知しなければなりません(187条2項)。違反すると過料に処せられます(976条2号)。

ü 株式無償割当てが違法な場合

・株式無償割当ての差止め

株式無償割当ては、210条において差止め請求権の対象と定められている「募集に係る株式の発行又は自己株式の処分」には概念上は該当しませんが、210条が類推適用されると解すべきという見解があります(最高裁判決平成19年8月7日)。

例えば、A種株式とB種株式を発行する種類株式発行会社で、A種株式の株式に対してだけ無償割当てがなされるような場合であって、それがB種株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるにもかかわらず種類株主総会決議がない等の瑕疵があるような場合に、B種株式の株主が株式無償割当ての差止請求をすることが考えられます。

・株式無償割当ての無効

株式無償割当ては、会社の成立後における株式の発行は自己株式の処分に当たるので、それか違法であった場合は、不存在としなければならないような場合を別として、無効の訴えによってしか主張することはできず、無効判決の効力は遡及しません。

  

関連条文

  第1款.株式の併合

株式の併合(180条)

株主に対する通知等(181条)

効力の発生(182条) 

  第2款.株式の分割

株式の分割(183条)

効力の発生等(184条)

  第3款.株式無償割当て

株式無償割当て(185条)

株式無償割当てに関する事項の決定(186条)

株式無償割当ての効力の発生等(187条)

 

 
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