新任担当者のための会社法実務講座 第184条 効力の発生等 |
Ø 効力の発生等(184条) @基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(種類株式発行会社にあっては、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている前条第2項第3号の種類の種類株主)は、同項第2号の日に、基準日に有する株式(種類株式発行会社にあっては、同項第3号の種類の株式。以下この項において同じ。)の数に同条第2項第1号の割合を乗じて得た数の株式を取得する。 A株式会社(現に二以上の種類の株式を発行しているものを除く。)は、第466条の規定にかかわらず、株主総会の決議によらないで、前条第2項第2号の日における発行可能株式総数をその日の前日の発行可能株式総数に同項第1号の割合を乗じて得た数の範囲内で増加する定款の変更をすることができる。 ü
株式分割の効力発生 基準日において、株主名簿上で、分割の対象となる種類の株式を有する株主は、その株式数に分割割合を乗じて得た数の数式(例えば、10株を11株に分割する場合、20株保有する株主は、20株に2株)を、分割の効力発生日に、追加的に取得します(184条)。取得するのは分割される株式と同じ種類の株式です。端数が生じた場合には金銭交付によって処理されます(235条)。 株式分割の効力発生日に、会社は、分割株式の株主に関して、株主名簿上の登録株式数を増加しなければなりません(132条3項)。振替株式に関しては、振替機関および口座管理機関は、株式分割の効力発生日の2週間前までになされる会社の通知に基づいて、分割日に口座上の登録株式数を増加しければなりませんん(社債株式振替法137条)。そして、振替機関からの総株主通知に基づき、発行会社は、分割基準日での株主を株主名簿に登録し、さらに分割日に上記株主の株主名簿の登録株式数を増加することになります。 株式分割前の株券を失効させる必要はないので、株券提出手続は定められていません。株券発行会社は、株式分割の効力発生日以後遅滞なく、分割によって増加した株式分の株券を発行しなければなりません(215条3項)。 会社は登録株式質権者を、分割した株式について株主名簿に登録しなければなりません。この点、振替株式の質権者については、質権者の申し出があれば、総株主通知を介して、株主名簿に登録されることになります。 ・自己株式 株式無償割当の場合(186条2項)のような自己株式を除外する規定が、株式分割にはありません。したがって、株式分割の対象となる種類の株式であれば自己株式についても分割の効果が生じます。株式分割の効力は自己株式にも及び、株式無償割当の効力は自己株式には及びません。これは、株式分割が株式数の増加であるのに対して、株式無償割当は新株あるいは自己株式の割り当てであるという法的な性質の違いによるためです。 自己株式に資産性はなく、消却もできます(178条)。また、自己株式については議決権も行使できません(308条2項)。自己株式を株式分割の対象にしなくても、それによって株主が損害を被るわけではありません。したがって、原則として自己株式も株式分割の対象となります。 ・端数の処理 株式分割により1株に満たない端数が生じた場合の処理は、株式併合の場合と同じです。すなわち、会社は、競売して代金を株主に分配するのが原則ですが、市場価格がある株式は市場価格で売却しまたは買い取り、また市場価格がない株式でも裁判所の許可を得て競売以外の方法で売却しまたは買い取り、代金を株主に分配することも認められます(234条)。 ・株式分割の瑕疵 @)株式分割の無効 株式分割によって発行済株式総数が発行可能株式総数を超える場合など、瑕疵ある株式分割には、新株発行無効の訴えの規定(828条1項2号、2項2号、834条1項2号)の類推適用、つまり、株式分割によって株式数は増加するが、資産は増加せず、通常の新株発行ではないと解されることが認められると考えられています。また、新株発行不存在確認の訴え(829条1号)に関しても類推適用も認められると考えられています。 A)株式分割の差止め 株式を分割しても、株主の地位に実質的な変動はなく、通常は、株主は不利益を受けるおそれが想定されていません。そこで、株式分割差止に関する特別な制度は規定されていません(東京地裁判決平成17年7月29日)。 もっとも、ある種類の株式を分割するとき、他の種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、種類株主総会の決議を必要とします(322条1項2号)。この種類株主総会が招集されないまま株式分割の効力発生日を迎えようとしているときには、新株発行差止に関する210条を類推適用して種類株式の株主に株式分割差止頼球を認められると考えられています。 ü
株式分割と発行可能株式総数の増加 ・株式分割と発行済株式総数 株式分割の効力が生じると、分割割合に応じて株式数が増加するので、発行済株式総数が増加することになります。発行済株式総数は登記事項であり、その増加の変更登記が必要です。 ・株式分割と発行可能株式総数の増加 発行済み株式総数が定款に定められた発行可能株式総数を超えることになるような株式分割を行う場合には、あらかじめ定款を変更して発行可能株式総数を増加しておかなければなりません。そして、定款の変更には株主総会特別決議を必要とします。 定款で定めた発行可能株式総数の意義は、既存株主の持株比率定価の限界を画する点にあると言えます。そこで、実際に2種類以上の種類株式を発行している会社を除き、発行可能株式総数に株式分割における分割の割合を乗じた数の範囲内であれば、466条の規定にかかわらず株主総会決議によらないで、株式分割の効力発生日の発行可能株式総数を増加する定款変更ができます(184条2項)。この限度での発行可能株式総数の増加によっては、増加・分割前に比べて株主の持株比率低下の限界が引き下げられることはなく株主に不利益はないからです。株式分割自体は株主総会普通決議で行えるので、それに合わせて発行可能株式総数を増加でき、株式分割という手段を用いて機動的に高騰した株価を引き下げることができます。 なお、184条2項の場合においても、公開会社では、変更後の発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍を超えてはなりません(113条3項)。 ※特則による定款変更権限 発行可能株式総数に関する定款変更は、取締役会決議と行うものとされています。2項については、株主総会特別決議を要求する466条にもかかわらず、株主総会特別決議によらず定款を変更できるものとしています。 これは会社に便宜を図った規定で、株式分割の際の発行可能株式総数増加の定款変更は、発行可能株式総数に分割の割合を乗じて得た数の範囲内でなら、株主総会の普通決議でも行うことができます。発行可能株式総数増加の定款変更は会社の組織に関する事項であり業務執行事項ではないですが、株主総会決議によらないとすると、業務執行機関である取締役会が行うことになります。 また、184条2項による発行可能株式総数増加の定款変更は、株式分割の効力発生日に効力を生じます。通常の定款変更は株主総会で特別決議が成立した時点で効力を生じるのとは違います。株式分割の効力を生じない場合には、この定款変更も効力を生じません。 関連条文 第1款.株式の併合 第2款.株式の分割 効力の発生等(184条) 第3款.株式無償割当て 株式無償割当て(185条) 株式無償割当てに関する事項の決定(186条) 株式無償割当ての効力の発生等(187条) |