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第178条 株式の消却
 

 

Ø 株式の消却(178条)

@株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。

A取締役会設置会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければならない。

 

株式の消却とは、特定の株式を消滅させる会社の行為です。

平成13年の商法改正により、自己株式の取得を目的を問わずにできることとなった上で、自己株式を永続的に保有することを認め(「金庫株」の解禁)、同時に、自己株式の処分にも新株発行と同等の手続きを経ることを要求しました。自己株式の処分を、募集株式の発行等として一括して規定する会社法も基本的に、この改正商法の規制を引き継いでいます。このような規制の下では、自己株式を消却した上であらためて新株発行を行うことと、会社が保有する自己株式を処分することでは、実際上の差異はほとんどないことになります。ただし、以下に挙げるように細かな点では、自己株式を消却するか、あるいは、自己株式を消却するか、あるいは自己株式を保有し続けるかによって差異が存在します。現行法では、自己株式を保有し続けるか消却するかによって生ずる違いは、次のものがあげられます。

すなわち、会社が保有する自己株式は貸借対照表上、株主資本の控除項目として計上されます。自己株式を消却した場合、自己株式の帳簿価格を減額し、その他資本剰余金を減額する処理がとられます。消却によって、株主資本内部の内訳が変わるだけであり、分配可能額にも影響はありません。もっとも、会社が保有する自己株式を消却せずに、その後処分した場合には、その他処分差益はその他資本剰余金を増加させるため、自己株式の処分によって会社に流入した財産の価額の一部には配当拘束がかからない可能性がありますが、会社が自己株式を消却した上で、あらためて新株発行をした場合には、資本金及び資本準備金を増加させるため、流入した財産の価額の全額に配当拘束がかかるという相違があります。

ü 消却の手続

自己株式を消却する場合には、会社は、消却する自己株式の種類・数を決定しなければなりません(178条1項)。取締役会設置会社では、取締役会の決議(178条2項)が必要となります。。取締役会非設置会社にあっては、取締役の過半数による決定によって行われます。この場合、消去する自己株式の種類・数、取得から消却までの期間等についての制限はありません。自己株式の消却を決議した場合には、遅滞なく株式失効の手続きをしなければなりません。

この決定の後、会社は、株主名簿から消却する株式に関する事項を抹消したり、消却する株式の係る株券を廃棄するなどの手続きをとる必要があります。この点について、旧商法(平成17年改正前)では212条2項で、自己株式消却の取締役会決議後、会社は遅滞なく株式の失効手続きを為すべき旨を定めていました。会社法では、このような規定は置かれていません。それは、旧商法の下で株式執行の手続き明示されていなかったからだと説明されています。とはいえ、会社法においても消却する株式の株券の廃棄という作業は必要であることには変わりがありません。ただし、株券が発行されている場合はそうでしょうが、株式振替制度のような株券が発行されていない場合には、消却される自己株式と消却されない自己株式を個別具体的に区別する必要はなく、このような場合には株主名簿の記載の抹消によってはじめて消却の効力が生ずるといってもいいでしょう。もっとも、振替株式については、発行者が消却される自己株式について抹消の申請をしなければならず、振替口座簿に減額の記録がなされた日に消却の効力が生ずるものとされています(社債株式振替法158条)。

株式失効の手続は、株主名簿から当該株式を抹消することになりますが、振替株式の場合には、会社が、振替機関等に対して、対象株式の抹消の申請を行い、振替口座簿に減額の記録がなされるのが消去の効力要件です(振替法158条)。

なお、株式の消却には、自己株式の消去のほか、上場会社の振替株式について、振替口座簿に超過記録をした振替機関等が権利放棄によりなすものがあります(振替法145条3・4項、146条1・3項)。

ü 自己株式の消却による発行可能株式総数の変動

自己株式を消却すると、会社の発行済株式総数はその分だけ減少します(これにより、公開会社の発行可能株式総数が発行済株式総数の4倍を超えることは差し支えないとされています)。そこで、株式を消却することによって定款所定の発行可能株式総数から発行済株式総数を減じた数が増加し、その分だけ、会社があらためて株式を発行することができるかが、とくに公開会社について問題とされてきました。

これについては、授権資本制度の趣旨をどのように解するかによって結論が異なってくると解されていました。すなわち、授権資本制度とは、授権株式数の分だけ株式の発行を取締役会に授権するものであると考えれば、すでにその権限は行使されたのであるから、株式を消却したとしても、その分だけ新たに株式を発行することはできないことになります。これに対して、授権資本制度の趣旨を、あり得べき新株発行によって株主が被る持分比率の低下の限界を画すことにあると考えれば、株式消却によって減少した発行可能済株式総数の分だけあらためて新株を発行することは差し支えないと解することができるわけです。

これについて、会社法の下では、株式を消却しても発行可能株式総数は減少しないものと理解されています。その理由は、会社法においては、株式総会決議を経ずに定款変更の効力が゜生ずる場合には明文の規定が設けられており、また、それ以外にも、定款変更がされたとみなす必要がある場合にも明文の規定があるので、そのような規定のない消却の場合には、定款記載事項である発行可能株式総数は減少しないものと解されるということに求められています。

ü 自己株式消却の登記

自己株式の消却により発行済株式総数が減少するので、発行済株式総数の変更登記を行う必要があります(911条3項9号、915条1項)。

一方、定款で定めた発行可能株式総数は影響を受けません。会社法制定前の登記実務は、消却された株式数だけ当然に(定款変更の手続なしに)発行可能株式総数が減少し、したがって、株式の消却の際には、発行済株式総数の変更登記のほか、発行可能株式総数の変更登記も要するものとしていました。しかし、会社法においては、株主総会の決議を経ずに定款変更の効力が生ずる場合については明文の規定が設けられ(184条2項、191条、195条)、また、他の事実の発生により定款変更がされたとみなす必要がある場合についても逐一規定が設けられているので(112条1項、608条3項、610条)、特に規定のない株式の消却・併合の場合には、定款記載事項である発行可能株式総数は減少しません。したがって、株式の消却・併合により減少した発行済株式総数だけ、その後発行可能な株式数が増加することとなります。その意味で、発行可能株式総数は、会社が発行できる株式数の上限というより、既存株主の持株比率の低下の下限を画する定款の定めということになります。なお、発行済株式総数の減少により公開会社において発行可能株式総数が発行済株式総数の4倍を超えることは、構いません。もっとも、発行済株式総数の4倍を超える第三者割当は原則として上場廃止とする証券取引所の規則があることに留意する必要があると思います。

ü 自己株式消却の実務手順等

・日程と主な手続き

@)取締役会決議

取締役会設置会社が自己株式を消却するには、会社は、取締役会の決議により、消却する自己株式の種類・数を決定しなければなりません(178条1項)。また、振替制度のもとでは、取締役会決議日の翌営業日から起算して2営業日目以後の日を消却日(効力発生日)として定めることになります。

〔参考資料〕 取締役会議事録記載例

第〇号議案 自己株式消却の件

議長から、発行済株式総数の減少を通じて資本効率ならびに株式価値の一層の向上を図るため、会社法178条の規定に基づき、下記の通り自己株式を消却したい旨を諮ったところ、出席取締役全員異議なくこれを承認可決した。

1.消却する株式の種類    当社普通株式

2.消却する株式の数      〇,〇〇〇株

                   (発行済株式に対する割合 〇.〇%)

3.消却後の発行済株式の総数   〇,〇〇〇,〇〇〇株

4.消却予定日          令和〇年〇月〇日

以上

A)機構及び株主名簿管理人への通知(決議日)

会社は、消却の決議後ただちにTarget保振サイトを通じて機構に対し、自己株式消却の通知を行います(上図@)。その通知には、消却銘柄、株式数、消却日等を記載します。また、会社は、株主名簿管理人に対しても所定事項を通知します(上図A)。

なお、証券取引所に対しても、消却の決議後ただちに有価証券変更上場申請書(自己株式の消却)の提出が必要となります。

B)口座管理機関への申請(消却日の前営業日から起算して2営業日前迄)

消却日の前営業日から起算して2営業日前までに、会社より口座管理機関に対し、銘柄・株式数を示して株式の一部抹消に関する申請を実施します(振替法158条1項、134条2・3項)(上図B)。

C)機構及び口座管理機関における一部抹消手続き(消却日)

機構及び口座管理機関は、抹消申請の情報を確認の上、効力発生日(消却日)に、それぞれの振替口座簿の記録を減少させます(上図C)。

D)発行済株式総数の変更等の登記(消却日から2週間以内)

会社は、効力発生日(消却日)から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する登記所において、変更後の発行済株式総数(種類株式発行会社にあっては、発行済株式の種類及び種類ごとの数を含む)及び変更の年月日について登記をしなければなりません(915条、911条3項9号)(上図D)。なお、登記手続の際に必要な添付書類は、原則として株式の消却を決議した取締役会議事録のみです。

・留意事項

@)消却株式数の決定

消却する株式数は、保有株式数のほか、買取請求により保有株式数が増加する可能性と買増請求により保有株式数が減少する可能性のバランスや、自己株式を利用したストック・オプション制度の導入の有無及び導入されている場合の必要保有株式数等を勘案して決定することになります。

また、自己株式の保有水準(例えば、発行済株式総数の5%などといった基準)を設定し、それを超過する株式数については消却するという方針をあらかじめ定めている会社もみられます。

A)適時開示、有価証券変更上場申請及び変更報告書の提出

自己株式の消却は証券取引所の適時開示制度における重要な会社情報には直接には該当しません。しかし、適時開示制度では具体的に有価証券上場規程等に掲げられた事項の他に上場会社の運営、業務もしくは上場株券等に関する重要な事項であって投資者の投資判断に著しい影響を与える場合には開示する必要があるとされています。したがって、自己株式の消却を適時開示している例も少なくありません。適時開示を行う場合は、消却の決議後ただちに行うことになります。また、証券取引所に対する有価証券変更上場申請(自己株式消却)も、決議後ただちに行うことになります。

B)株主名簿への反映

自己株式の消却が行われても、株主名簿上の自己株式数を書き換えることはせず、消却日後最初の総株主通知後が行われることによって株主名簿上の自己株式数を更新します。これは、直前の総株主通知後に自己株式を取得し消却した場合には、取得した自己株式数が株主名簿に反映されないため、抹消すべき自己株式が株主名簿上に存在しないケースが考えられるためです。

ü 自己株式消却の開示

公開会社は法令や株式を上場している市場の規則にしたがって、自己株式の取得の開示をしなければなりません。

・会社法による開示

@)事業報告

定時株主総会招集の書類の事業報告において、自己株式の消却は法定記載事項に明示されていないので任意記載事項となりますが、対象となる事業年度において自己株式の消却をした場合、その報告をすることが考えられます。例えば、「その他企業集団の現況に関する重要な事項」あるいは「その他株式に関する重要な事項」に記載しているケースが見られます。

A)計算書類

定時株主総会において計算書類の内容を報告をしなければなりませんが、そこにおいて自己株式関係の開示が行われます。

ア.貸借対照表における開示

自己株式の消却は、会社が保有する自己株式の減少となります。貸借対照表上では、純資産の部の控除項目の減少として記載する旨が定められています。(会社計算規則76条2項5号)

イ.株主資本等変動計算書における開示

株主資本等変動計算書は、貸借対照表上の純資産の部について事業年度中の変動内容を示すものですが、事業年度中に自己株式の消却を行った場合には、純資産の部の構成要素に変動が生じることから、変動の要因となった具体的内容を「当期変動額」の内訳科目として記載した上で、その変動額を記載することになります。

ウ.注記表における開示

.株主資本等変動計算書に関する注記

個別注記表の「株主資本等変動計算書に関する注記」において、事業年度末日における自己株式の数についての記載が必要とされています(会社計算規則105条2号)。

.1株当たり情報に関する注記

注記表では、「1株当たり情報に関する注記」として、「1株当たりの純資産額」および「1株当たり当期純利益(損失)金額」について記載を要する旨定められていますが(会社計算規則113条)、それぞれの算出に当たり分母となる株式数については、「1株当たり当期純利益に関する会計基準」および「1株当たり当期純利益に関する会計基準の運用指針」において、発行済株式総数から自己株式数を控除して算出する旨が定められています。

.重要な後発事象に関する注記

事業年度の末日後に株式会社の翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合、注記表では「重要な後発事象に関する注記」として、その具体的な内容について記載する旨が定められています(会社計算規則114条)。事業年度の末日後に自己株式の消却が行われた場合、その重要性によっては、重要な後発事象と判断して、その具体的内容の記載が必要となります。

・金融商品取引法による開示

@)有価証券報告書

有価証券報告書において、自己株式に関する内容は、「第一部 企業情報」の「第4 提出会社の状況」で、「当事業年度及び当事業年度の末日の翌日から有価証券報告書提出日までの期間」(以下「記載対象期間」という)における自己株式の取得等の状況について、自己株式の取得の事由および株式の種類ごとに記載する旨定められています(開示府令第3号様式 記載上の注意(28))が、具体的には「株主総会決議に基づく取得の場合」、「取締役会決議に基づく取得の場合」および「株主総会または取締役会決議に基づかない取得の場合(例えば、単元未満株式の買取請求による取得の場合など)」に区分して、それぞれの場合における自己株式の取得の状況について記載が必要とされています(開示府令第3号様式 記載上の注意(30)(31)(32))。

また、記載対象期間内に自己株式の処分、消却あるいは合併・株式交換・会社分割の対価として自己株式の交付を行った場合、あるいはその他として、前記以外の理由により自己株式の処分等を行った場合(例えば、単元未満株式の売渡請求に応じた場合など)には、その内容ごとに処分等にかかる株式数および処分価格の総額を記載しする必要があります(開示府令第3号様式 記載上の注意(33))。

なお、前記「2.自己株式等の取得状況」とは別に、自己株式に関しては、「第4 提出会社の状況」の「1.株式等の状況 (8)議決権の状況」や、「第5 経理の状況」の「連結株主資本等変動計算書の注記」や「株主資本等変動計算書の注記」において、期末時点で保有する自己株式数等の記載が必要とされています(開示府令第3号様式 記載上の注意(26))。

A)四半期報告書

四半期報告書では、四半期末時点で保有する自己株式について、「第一部 企業情報」の「第3 提出会社の情報」のうち「(7)議決権の状況」で、保有自己株式数や保有割合等について記載する旨定められています(開示府令第4号の3様式 記載上の注意(16))。

C)大量保有報告書

上場株式の報告書で、その株券保有割合が5%を超える者(大量保有者)は、該当することとなった日から5営業日以内に内閣総理大臣に対して大量保有報告書の提出が必要とされています。ただし、自己株式の場合には、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によりその施行(平成27年5月29日)前に発行者が自己株券を5%を超えて保有した場合は、当該発行者は大量保有報告書の提出が必要となりますが、同法施行後に5%を超えて保有した場合は不要となります。

D)臨時報告書

自己株式の取得等に伴い以下の事象が発生する場合、内閣総理大臣に対して臨時報告書の提出が必要となります(金商法24条の5、開示府令19条)。

なお、臨時報告書の記載事項に不備がある場合または記載内容が事実に反する場合には、訂正報告書の提出が必要となります(金商法7条、開示府令24条の5)。

・金融商品取引所の上場規則等による開示

@)報告

証券取引所に対する有価証券変更上場申請(自己株式消却)も、決議後ただちに行うことになります。

A)適時開示

自己株式の消却は証券取引所の適時開示制度における重要な会社情報には直接には該当しません。しかし、適時開示制度では具体的に有価証券上場規程等に掲げられた事項の他に上場会社の運営、業務もしくは上場株券等に関する重要な事項であって投資者の投資判断に著しい影響を与える場合には開示する必要があるとされています。したがって、自己株式の消却を適時開示している例も少なくありません。適時開示を行う場合は、消却の決議後ただちに行うことになります。

 

関連条文

株式会社による自己株式の取得(155条)

株式の取得に関する事項の決定(156条)

取得価格等の決定(157条)

株主に対する通知等(158条)

譲渡しの申込み(159条)

特定の株主からの取得(160条)

市場価格のある株式の取得の特則(161条)

相続人等からの取得の特則(162条)

子会社からの株式の取得(163条)

特定の株主からの取得に関する定款の定め(164条)

市場取引等による株式の取得(165条)

 

 
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