原則5−2.
【経営戦略や経営計画の策定・公表】
 

2018年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前の原コードについての説明は、その下に続けます。 

 【原則5−2.経営戦略や経営計画の策定・公表】

経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである

 参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます

 【原則5−2.経営戦略や経営計画の策定・公表】

経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである

 

 

〔変更された点〕

@経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、

従来の原則に、自社の資本コストを的確に把握した上で、という文言が挿入されました。この文言は条件をつける役割を果たしていて、何についての条件かというと、その先のフレーズ、すなわち。「収益計画や資本政策の基本的な方針を示す」と「収益力・資本効率等に関する目標を提示し」の二つの内容に対して、自社の資本コストを的確に把握した上で、と条件をつけています。つまり、「収益計画や資本政策の基本的な方針を示す」も「収益力・資本効率等に関する目標を提示し」も、自社の資本コストを的確に把握した上でのものでなくてはならないということです。資本コストを的確に把握したという条件をクリアした収益計画や資本政策の基本方針、あるいは収益力・資本効率に関する目標でなければならないということです。これは、求められている収益計画や資本政策の基本方針、あるいは収益力・資本効率に関する目標の内容や開示のレベルがワンランク上昇したということです。何せ、それまでは、自社の資本コストを的確に把握していなくても許されていたということになりますから。しかし、改訂後は許されない、コンプレインできないということになります。

Aその実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するかについて

この部分の改訂もフレーズの挿入です。この部分で挿入された事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含むというのは、その後の「経営資源の配分等」に関する例示です。つまり、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等は経営資源の配分等に含まれるのです。だから、前段の条件づけのように、文言が加わることによって求められる内容のレベルが上げられるという内容の変化を伴うものではありません。しかし、ここで敢えて「経営資源の配分等」の中に含まれるた事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等をとくに例として示したということは、経営資源の配分の中でも、これらの項目を優先的に株主に説明してほしいという要請があらわれていると考えてよいと思います。また、例示をしているということで、「経営資源の配分等」の実行について説明するのを、より具体的にしてほしいという要請も暗に示されていると考えられます。

この原則の改訂の場合は、形式的に変更された部分を追いかける以上に、実質的な内容のほうが、より重要となっているので、改めて、内容面を考えていきたいと思います。

〔実務上の対策と個人的見解〕

おそらく、今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂において、内容においては最重要な改訂になると考えられます。フォローアップ会議においてコーポレートガバナンス改革の進捗状況の検証を行うこととなったのは、多くの企業において経営陣による果断な経営判断が行われておらず、企業や経済の成長がいまひとつであるという状況認識があったからです。そこからフォローアップ会議によって5つの課題が提起されましたが、その5つのうち2つの課題に直接関係し、しかも企業の経営判断そのものと関係する内容の原則であると考えられます。従って、この原則については、各企業に対して形式的な対応では不十分で、それぞれの企業の事情や経営に応じた実質的な対応が求められていると考えられます。

@フォローアップ会議の指摘と投資家と企業の対話ガイドライン

まずは、確認のために、フォローアップ会議の提起した5つの課題のうち、この原則5−2が直接関係する2つの課題を下に簡単に紹介しておきます。

1.経営環境の変化に対応した経営判断

コーポレートガバナンス改革は、経営陣による果断な経営判断を促すことを通じ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促すことをねらいとしているが、多くの企業において経営環境の変化に対応した果断な経営判断が行われていないというのが実情。投資家からは、企業の取り組みとして事業の選択と集中(経営ビジョンに即した事業ポートフォリオの見直し)に期待しているのに対して、企業の側では現状における体力強化を志向している。それが投資家からは資本コストを上回るリターンも上げられず微温的と映る。以上のような現状の認識から次のような課題と対策をあげている。

・事業ポートフォリオの見直しなどの果断な経営判断とそれに伴う方針の明確化

・自社の資本コストの的確な把握

〔参考〕投資家と企業の対話ガイドライン

1−1.持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための具体的な経営戦略・経営計画等が策定・公表されているか。また、こうした経営戦略・経営計画等が、経営理念と整合的なものとなっているか。

1−2.経営陣が、自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているか。その上で、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、収益力・資本効率等に関する目標を設定し、資本コストを意識した経営が行われているか。また、こうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか。中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか。

1−3.経営戦略・経営計画等の下、事業を取り巻く経営環境や事業等のリスクを的確に把握し、新規事業への投資や既存事業からの撤退・売却を含む事業ポートフォリオの組替など、果断な経営判断が行われているか。その際、事業ポートフォリオの見直しについて、その方針が明確に定められ、見直しのプロセスが実効的なものとして機能しているか。

2.投資戦略・財務管理の方針

投資家の多くは、企業の手元資金について、適正な水準を上回っていると認識している。極言すれば、成長に向けて資金を有効に活用できていない。これに対して企業側は適正な水準と認識し、両者の認識にギャップがある。一方で、手元資金の水準がどの程度が妥当なのかについて、明確な考え方がない企業が多い。以上のような現状の認識から次のような課題と対策をあげている。

・戦略的・計画的な設備投資・研究開発投資・人材投資等の実施

・手元資金の活用を含めた適切な財務管理の方針の策定・運用

〔参考〕投資家と企業の対話ガイドライン

2−1.保有する資源を有効活用し、中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から、地俗的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資・研究開発投資・心材投資等が、戦略的・計画的に行われているか。

2−2.経営戦略や投資戦略を踏まえ、資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定・運用されているか。

以上のことから、内容についてだいたいのイメージは摑めたのではないでしょうか。とくに、参考としてあげた投資家と企業の対話ガイドラインの各原則は、本原則5−2の内容を噛み砕いた内容なので、一般的な内容の理解は進んだのではないかと思います。

A自社の資本コストを的確に把握するということ

実際に、原則の文言に「自社の資本コストを的確に把握する」ということが挿入されてもいますが、上記のフォローアップ会議で指摘された課題にしろ、参考としてあげた投資家と企業の対話ガイドラインにしろ、資本コストを把握するということが非常に重要視されていることが分かります。上場企業の経営において、とくにファイナンス面において資本コストの重要性は当たり前のことですが、ここにきて資本コストが頻発するほど重視されているのはどういうことでしょうか。

コーポレートガバナンス・コード改訂についてのパブコメに対する金融庁の回答で、次のように説明されています。“多くの企業において経営環境の変化に応じた果断な経営判断が行われていないとの指摘がなされており、例えば、日本企業においては、事業ポートフォリオの見直しが必ずしも十分に行なわれていないとの指摘がありますが、その背景として、経営陣の資本コストに対する意識が不十分であることが指摘されています。また、上場企業が資本コストを上回るリターンを上げているかどうかについて、投資家と企業の間に認識に相違があるとの指摘もなされています。このため、フォローアップ会議の提言においては、「自社の資本コストを的確に把握すべきことを明確化する必要がある」とされ、原則5−2を改訂し、それぞれの上場会社において、自社の資本コストを的確に把握することを求めることとしたものです。”

では、資本コストを把握したとして、その具体的にどこまで開示し説明するのか、例えば計算には推計や仮定を伴うが、その数値まで明らかにするということなのでしょうか。それに対して金融庁のパブコメ回答で次のように言っています。“「資本コスト」は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられます。適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられます。原則5−2において、資本コストの数値自体の開示は求められていない点はご理解のとおりですが、対話ガイドライン1−2において「目標設定した理由が分かりやすく説明されているか」との点が示されていることも踏まえ、同原則が求める「収益力・資本効率等に関する目標を提示」する中で、投資家に対して、自社の資本コストについての考え方や経営における活用状況などを分かりやすく説明することが求められるものと考えます。”

ということはつまり、経営者が果断な経営判断ができない理由として資本コストを把握していないからと考えられたということです。株主資本コストは言ってみれば、投資している株主が企業にかけている期待が、企業の側には負債として資本コストとなるということで、経営者が期待に応えていない、もっていうと期待されていることを自覚していないということを指摘していると考えられます。経営者と株主とでは、求めている方向性が違います。それは当然のことですが、ややもすると株主の方を向かず経営者自身にとって都合のいいところに閉じこもってしまっている。端的に言うと、安全策をとっていればミスのような減点は少ないが、加点もない。それが投資リターンを期待する株主には、サボっているように映る。だから、株主からの期待を自覚しろ、といったところが心情としてあると思います。結果として、資本コストを上回るリターンを達成できないでいるわけです。それは企業が成長していないということにつながるわけです。

一般論としてですが、そういう心情を踏まえて、収益計画や資本政策の基本的な方針、あるいは収益力・資本効率等に関する目標といった、企業が成長していく際にめやすとして掲げるものを、本気で成長させていくこと、株主の期待に応えることを自覚して(経営者というのは、株主から経営をいたくされたエージェントなのですから)考え、そして説明しなさいということを心情として求めているのではないか、と思われます。

 

 

 原コードについての説明です。

 【原則5−2.経営戦略や経営計画の策定・公表】

経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである

 

〔形式的説明〕

この原則は、経営戦略や経営計画の策定・公表に際しては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示すべきとし、またその実現のための具体的な実行策について、株主にわかりやすい言葉・論理で明確に説明を行なうべきというものです。ここでの経営戦略や経営計画とは何かの明確な定義は置かれていませんので、各企業で何が経営計画に当たるのかを判断することになります。ただし、その中には、この原則求められる内容を踏まえていなければなりません。例えば、収益力・資本効率等に関する目標の提示が求められていますが、ここでこのように収益力・資本効率等に敢えて言及されているのは、有識者会議において(あるいはその結論ともいえる伊藤レポートにおいて)、日本企業の資本効率の水準が低いことを重大な課題として、その主な理由は、財務レバレッジではなく、売上高利益率の低さにあると指摘されていることが反映しているとされています。したがって、この原則5−2において上場企業が示すべき事項として、資本政策の基本的な方針と並んで収益計画が挙げられているのも、同じ背景によるものだとされています。したがって、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、このような背景を考慮したうえで、それぞれの上場企業で株主が求める情報は何かという観点から、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示することが求められることになります。この場合の収益力・資本効率等に関する目標は、コーポレートガバナンス・コードのプリンシプル・アプローチの原則からして、特定の指標を指定しているわけではありません。たとえば、資本効率の目標として、必ずしも資本利益率(ROE)を用いることが求められるわけではなく、一例を挙げれば、投下資本利益率(ROIC)の指標を用いること等も選択肢となり得るという説明もあります。そもそも、株主や投資家が納得する内容であれば、これらの目標は具体的数値である必要はないという考え方もあり得ると言えます。また、収益力・資本効率等に関する目標の実現のための具体的な実行策を説明することが求められます。これは、単に目標を示すだけではなく、それに至る道筋・戦略についても説明を求められることになります。その具体的な説明内容については、各企業に特有の事情もあるので、そのことを踏まえた合理的な判断に委ねられている。

収益力・資本効率等に関する目標とその実現のための方策を株主と共有することは、上場企業と株主との間で建設的な対話を進める上で重要な基盤となると考えられ、このような観点から、この原則の目指すところの実現へ向けた積極的な取組みが進められることが期待されているといえます。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

コーポレートガバナンス・コードというと、

 

〔開示事例〕

製菓

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