原則2−1.
【中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
 

 

 【原則2−1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】

上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきである。

 

〔形式的説明〕

基本原則2.の「上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。」を踏まえて、この原則では「上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべき」として、「活動の基礎となる経営理念を策定すべ」としています。ここでいう、経営理念は、会社の価値観を定めるとともに事業活動の大きな方向性を定め、具体的な経営戦略・経営計画や会社のさまざまな活動の基本となるものと言えます。他方、株主を含むステークホルダーにとっては非財務情報の一つであり、会社がさまざまなステークホルダーに配慮しつつどのように中長期的な企業価値向上を図っていくのかを理解するための重要な情報となるでしょう。そこで、このような内実を伴った理念・考え方を確立することが、ここで求められるということになります。

経営理念を策定して開示することについては原則3−1.で情報開示の点から要請されており、原則4−1.で取締役会の責務として経営の方向性を明らかにすることから経営理念を確立することを求めています。原則2−1.は、これらの原則と重複していると言えます。これについて、二つのことが言えると考えられます。一つは、中長期的な経営の方向性を明らかにする経営理念を確立するということ。ただし、例えば、従来の一般的な中期経営計画として制度的な開示の中に含みこまれていた3年後の売上や営業利益の目標数値のみを発表するということでは、様々なステークホルダーの価値創造に配慮した企業価値向上のことが何ら明らかになっていないことになるので、この原則についての、コンプライとはなりません。そこで、もう一つのことです。策定する中長期の経営理念は様々なステークホルダーに配慮した企業価値向上を含むことであることが必要だということです。

例えば、ESG情報という非財務情報に関するものが含まれていることなどが、その具体的な例と言えると考えられます。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

これまでの説明では、抽象的すぎてイメージしにくいと思います。そこで、例えば、海外展開によりグローバル化を進めている日本企業を考えてみましょう。そのような企業では海外で雇用した人々とどのように一体化し成果に結び付けていくかが課題になります。つまり、従業員というステークホルダーへの配慮ということです。

実際の中長期投資家の視点からすれば、企業分析を中長期視点で実施した場合、決算等の財務情報の相対的な重要性は低くなります。そのかわりに、悪化していく環境問題や厳しくなる環境規制にどう対応していくのかという環境の問題(E)、最近、国内での人手不足や、あるいは企業活動のグローバル化に伴い、海外の方の社員比率が高まっていると思いますが、その中で、経営理念をどう維持し、発展させていくかといった社会的課題(S)、長期的な経営戦略とそれを支える体制というガバナンスの話(G)が重要となってきます。このESGという切り口で非財務情報を分析することで、明確な判断を下せるようになるといいます。

このESGの各項目が企業価値の向上とは次のように直接結びつくのです。まず、Gについては、ここでの「ガバナンス評価」とは、議決権行使で議論される“ガバナンス形態”ではありません。それは、長期的に企業価値、キャッシュフロー創出能力を高める経営・経営体制があるか否かの判断です。全業種平均で見るとG要因は重要で、E要因、S要因の有用性は低いように見えます。しかし、S・G要因が重要な業種・企業もあります。ESGの重要性は企業・業種により異なるのです。S社会の評価の軸は、経営理念などが従業員などのステークホルダーにしっかり浸透して、その思い自体が競争力の源泉となり、企業価値に結びついていると想起されるか否かで行われます。例えば、A社の場合、工場の所在する地域住民・関係は良好とします。よって、同業他社より早く、マーケット拡大に対応した増産体制を整えることが可能となります。これを反映して、売上高予想は強くなります。また、増産となると、従業員の労働時間の増加、あるいは追加での雇用の必要も出てきますが、従業員と良好な関係がある、あるいは、安心な労働環境があるとなると、人件費などのコストをコントロールできた上で増産に対応できることになります。分析の結果、A社は従業員との関係は良好であることが分かったため、業績予想において人件費上昇の予想はモデレートなものとなります。ESGを通じた非財務情報の分析とは、企業の多面的な活動を包括的に理解するということなのです。

このような投資家の判断ニーズに企業の側で積極的に応えることこそ、この原則で掲げていることの積極的な価値といえるのです。

 

〔ステークホルダーに関する経営理念の実例〕

オムロン

2. 従業員との関係

企業理念におけるOur Valuesのひとつである「人間性の尊重」に基づき、国籍や性別、障がいの有無に関わりなく、様々な価値観や考え方を有した多様な人財が個性や能⼒を発揮し活躍できる企業を目指す。 

・自己成長を図る従業員への必要な職務能⼒開発機会を提供する。

・企業理念の実践を促進する仕組みとして、世界中の従業員を対象とした社内表彰制度 「TOGAThe  Omron Global Awards)」を設け、毎年表彰を行う。

・役員と従業員の具体的⾏動指針として「オムロングループCSR⾏動ガイドライン」を周知するとともに、法  令遵守の徹底を図る。

・内部通報窓⼝を設置し、「オムロングループCSR⾏動ガイドライン」、就業規則、法令に違反する行為、またはそのおそれのある⾏為について、通報を受け付ける。内部通報窓口は、社内に加えて、社外の弁護士事務所にも設置する。

・法令、社内規定に従って通報内容を秘密として保持し、通報者に対する不利益な取扱いを行わない。

3. 顧客との関係

企業理念におけるOur Valuesのひとつである「ソーシャルニーズの創造」に基づき、品質第一を基本に、潜在するニーズを感知することにより、社会の課題を解決する商品・サービスを先駆けて提供し、顧客満足の向上に努める。

4. 取引先との関係

法令遵守はもとより、環境・人権等への配慮を含めた統合的なCSR調達をグローバルに推進することで、社会的責任を果たしていく。また、QCDS(Quality, Cost, Delivery, Service)トータルで常にベストな「もの・サービス」をグローバルに調達することにより、価値の高い商品・サービスづくりを行い、顧客満足の向上に努める。

5. 社会との関係

Our Mission(社憲)である「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」に基づき、「企業の公器性」を認識し、事業を通じて社会的課題を解決することを目指す。社会の持続的発展に貢献し続けることが当社の存在価値であり使命であると捉え、よりよい社会の実現を追求し続けていく。

・企業理念に基づき、地球環境に貢献する商品・サービスの提供と、すべての経営資源を最⼤限、有効に  活⽤することにより、グローバルで持続可能な社会の実現に貢献する。

・地域社会、その他ステークホルダーからの問い合わせ窓⼝を設置し、真摯に対応する。

・社会貢献活動に積極的に取り組むとともに、従業員が⾃発的に社会貢献活動に取り組める環境づくり に努める。

 


関連するコード        *       

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