補充原則3−1.@
 

2018年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前の原コードについての説明は、その下に続けます。

 【補充原則3−1.@】

上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

 参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます

 【補充原則3−1.@】

上記の情報の開示に当たっても、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

 

〔変更された点〕

上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって

この補充原則の改訂については、私もいくつか参加した説明会では、金融庁の担当官は説明をスルーしていましたし、とくに説明資料の中にも、この補充原則の改訂に対する解説はされていなかったので、それほど重視していないのかもしれません。ただし、改訂内容は実務としては対応しなくてはいけないことなので、みていくことにします。改訂された内容は原則3−1の開示についてカッコ書きで(法令に基づく開示を含む)という内容を追加したことがまず第1点です。つまり、当初は開示というのは最低限のところでは、コーポレートガバナンス・コードの開示項目として原則3−1の開示について求めていたということです。、コーポレートガバナンス・コードの開示項目ということは、実際のところ取引所に退出するコーポレートガバナンス報告書に開示するということが必要だったわけで、それに対してはひな型記述を避けて付加価値の高い記述をすべきということでした。それが、(法令に基づく開示を含む)ということになれば、法令で求められている開示、例えば会社法に基づく株主総会参考書類や事業報告、金融商品取引法に基づく有価証券報告書についても、ひな型のような記述ではなく、付加価値の高い記載にするということになります。したがって、東証一部の上場企業であれば株主総会で、株主からコーポレートガバナンス・コードの補充原則3−1@で求められているのにもかかわらず、当社の事業報告はひな型の記載になっているが、コーポレートガバナンスに真剣に取り組んでいるのかという質問を想定しなければならなくなるということになるわけです。当然、事業報告がそんな状態であれば、この補充原則に関してコンプライと言えなくなる、ということです。つまり、実務上は事業報告や有価証券報告書の非財務情報の記載を見直さなくてはならなくなるということになります。もし、ひな型の記載になっていれば、改めなければならないわけです。

第2点目として、「上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たっても」の「も」を削除したということです。この場合の「も」というのは、付け加えるようなニュアンスといえます。ついでにの意味合いと言えます。つまり、メインではなかったんです。しかし、そのついでの意味合いを削除たということは、ついでではなくて、メインだということです。それだけ重要度が高くなった、お座なりで済ますことは許されないということではないでしょうか。そんなことはないと思いますが、事業報告や有価証券報告書は見たけれど、他の部署が作成しているので、一応お願いしたからとかでお茶を濁すようなことでは、コンプライになりませんということではないかと思います。

 

 

原コードについての説明です。

 【補充原則3−1.@】

上記の情報の開示に当たっても、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

 

〔形式的説明〕

この補充原則は基本原則3.の後半において、開示される情報(特に非財務情報)が利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきという努力義務を具現化する内容と言えます。すなわち、情報開示が実効性があるものとするために、各上場企業は、各自で、そのための工夫をすることが肝要ということです。各自の工夫というのは、開示内容について各企業で原則3−1.に挙げられている基本線は押さえ手置かなければなりませんが、後は企業独自のものとなるのですから、どのように開示するかは、開示する内容にみあったものとならざるをえません。それを実行する場合について、この補充原則で述べています。

この補充原則で述べられている「ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け」という文言には、二つの意味合いが含まれていると考えられます。

一つは開示の消極性を戒める意味合いです。つまり、開示が「ひな型的な記述や具体性を欠く記述」になってしまうのは、情報開示に伴うリスク、例えば、結果的に記載が虚偽となってしまうリーガルリスクのような「書くこと」のリスクを強く意識しすぎて、無難なものにしようとする意識が働くからです。他社の動向を見て同じような書き方にすれば、目立つことはなく外部から突っ込まれる危険をうまくかわすことができるように思われるわけです。そこで横並びとなって、行き着く先は「ひな型的な記述や具体性を欠く記述」というわけです。しかし、実は、ここには往々にして形式だけで実質的な内容が伴わない事態になってしまうのです。リスクを避けようとして、実際には「書かざる」リスク、つまり十分な情報提供を行なわないことなどによるマーケットリスクを招き入れてしまう結果に陥っているのです。この場合、具体的な突っ込みが企業に来るわけではありませんから、企業の側は認識できないかもしれませんが、確実に市場の信頼がなくなっているのです。気がついたときには、最悪の場合、市場で誰からも見向きもされないという事態になっている場合も、なくはありません。そういう認識を上場会社に求めている点です。

もう一つは、後に続く文言「利用者にとって付加価値の高い記載」となるのは、企業が工夫した記述であり、そのためには「ひな型的な記述や具体性を欠く記述」にとどまらず、そこから脱することで、はじめて工夫が始まるということです。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@個人的見解─事業報告や短信のワンパターンがひな形の典型

実際に法的に義務付けられた開示では、とくに非財務情報では、虚偽記載などのリーガルリスクを避けるため、法律文書と通称されるような形式的な文章になっているケースが一般的です。その典型的なものが株主総会招集通知に挿入される事業報告です。これは、多くの企業では契約書とか官公庁への届出文書を作成する法務部が作成を担当するケースが多く、その場合には契約書や官公庁への届出文書と同じような形式的なものが出来上がってくることになります。その場合、法的な瑕疵を避け、虚偽表示と見なされる危険を避けるため、また、株主総会の議場で余計な質問を誘発することを避けるために情報を出さないように作成されます。そして、開示の文章は各企業で同じような文章、定型的な文章が使われることになります。例えば、営業の概況において「当期におけるわが国経済は・・・」というワンパターンの文章です。

この例を考えてみても、企業によっては景気に左右されない経営を目指しているのであれば、経済状況がどうあろうということは、企業の実績とは関係が薄くなるわけで、それよりも重要なことは企業内の経営課題とその達成状況ということになるでしょう。そのときに、わざわざ経済情勢を説明されても、邪魔なだけです。その反面、課題と状況は十分な情報開示が求められるはずです。このように企業によって、開示の方法は違ってくるのが必然なのです。

また、IRや決算情報において開示される中期経営計画の場合も、売上や利益の数値目標が開示されるのも一種の定型といえるかもしれません。最近はこれにROEの目標数値も加えられるケースも出てきました。これらに対して、例えば投資家が知りたいのは、空虚なROE目標ではなく、企業価値創造を主眼とした、経営理念から経営戦略・事業計画、そしてそれを支えるガバナンス体制についてです。ROE目標を出して終わりではないのです。実際、海外企業では、中期経営計画で詳細な目標を出している企業は少ないですし、ROEを経営の目標数値としている会社はほとんどないという状況です。ただ、これは収益性を軽視しているのではなく、収益性の重視は当然としたうえで、自社の企業価値創造プロセスを表現するのに最も適したKPIをだしているのです。そして、それに加えて、目標数値は開示していても、その目標に対する達成度とその理由は触れられていないケースがほとんどです。

つまり、有用性の高い情報開示というのは、投資家のニーズに企業が応えていくということでもあるわけです。

A原則3−1の5項目の開示を具体的に考える

原則3−1であげられている5項目については、上場会社のなかには、すでに何かしら定められているところも少なくないと思います。しかし、それをそのまま開示すればいいというものでもないでしょう。それは開示される対象である株主や投資家にとってもっとも知りたいもの、そのものとは限らないのです。

では、彼らが知りたいと考えるのは何か。それは、企業がどのような価値を、どのように創造しようとするのか、という経営者のビジョンです。つまり、企業が「どこを目指しているのか(経営理念)」、その目指すところへ「どのような道筋で、どうやって進むのか(経営戦略・計画、ビジネスモデル・収益構造・資本政策)」「どのように適切で規律ある経営を行うのか(コーポレートガバナンス、行動基準、ESG)」というようなことです。つまり、5項目が整合的に一貫性をもって構築されていることが示されることが、まず入り口なのです。具体的には5つの項目を上述のビジョンに沿って整理して、

(@)目指すべき目的地(経営理念)とそこへ向けた道筋と計画(経営戦略・計画)

(A)それを進めるためのガバナンス体制のあり方の考え方・基本方針

(B)推進する経営陣のモチベーションを考えた報酬のあり方に対する考え方

(C)推進する経営陣のメンバーを選ぶ際の方針

(D)実際に選ばれた経営陣のメンバーの指名・選任理由

を一貫したストーリーに沿って説明するということです。その方向性で、各項目について見ていきたいと思います。

(@)経営理念等、経営戦略・経営計画

上場会社の多くは、経営理念等、経営戦略、経営計画を開示しています。とくに経営戦略、経営計画は、3カ年計画、中期計画といった形で開示されています。これをこのまま開示することも考えられますが、それではここで述べている株主や投資家の知りたいという求めに応えるものではありません。つまり、「企業が目指すところ」や「その目指すところへの道筋」のようなビジョンが見えず、中短期的な数値目標が示されるのみというと、経営が実態として目先の対処程度のことしか見ていないのではないか受け取られかねません。

本来、経営理念で示される「企業が目指すべきところ」とは、事業を通じて実現する夢、ビジョンであり、遠く見据えるものです。しかしながら、前述の3カ年計画や中期計画として多くの企業で開示される経営戦略は、そういう遠く見据えた目的地に到達するまでの工程や関連性を具体的に示したものにはなっていません。

話は変わりますが、欧米企業では、具体的な中間の一時点での、売上・利益などの数値目標を開示することは、まずありません。世界の動きは早く、経営環境の変化は激しいため、外部要因で計画が狂うことも多く、3年前に計画した数値が陳腐化してしまうことになるからです。

(A)コーポレートガバナンスの基本的な考え方と基本方針

ここでは、企業のコーポレートガバナンスに対する総論的な考え方と各原則への大まかな対応方針を示すことになります。企業がそれぞれの考えを、ここで十分検討し表わすこととなりますが、その基本的な考え方・方針は(@)で述べた経営者のビジョンの一環であることを踏まえると、次の二つの側面を考えることが重要となります。

第一に、誰のためのガバナンスかという「対象」から見た側面です。日本では、コーポレートガバナンスを経営者による社内統治、あるいはリスクマネジメントと捉えられがちです。しかし、コーポレートガバナンスは、株主を主要な起点とした考え方であるはずなのです。少なくとも資本出してである株主への受託責任を意識したガバナンス体制を構築していることがせ必要なのです。だから、経営陣は、株主に対する受託者責任の意識を強く持ち、経営の規律を高め、企業価値を拡大する方法こそがコーポレートガバナンスであることを意識するということです。

第二に、経営理念の達成の向けた経営戦略・計画の中で、ガバナンス体制、企業の戦略ステージに応じて変わっていかなくてはなりません。例えば、グローバル化を推し進める戦略ステージであれば、役員体制のグローバル化も重要な要素になってきます。これに付随して役員報酬もかかわってくるでしょう。このように目指すところに到達するための戦略と一体となってガバナンス体制が変化していくことが大事なのです。

(三)役員報酬と手続バナンスの基本的な考え方と基本方針

役員報酬と役員指名を行う際の方針と手続は公明正大で透明性が高いものでなければなりません。それたけでなく、経営ビジョンに向いた内容であること、つまり、経営陣幹部にどのようなインセンティブを与えれば、その戦略遂行、計画達成に向けてモチベートされるかという考え方を明確にすることが重要です。詳細な報酬制度の内容は補充原則4−2@で求められていますが、ここでは

・固定報酬中心で年功序列的要素のある日本式報酬制度か、業績連動性の高い米国型か、その中間であり固定報酬と業績連動のバランスをとる欧州型か、などの制度設計

・役員別(取締役、監査役、社外役員、執行役等)の考え方

・固定報酬と業績連動報酬の割合や種類、経営計画・業績との連動方法等の考え方

・企業規模等の他社比較を踏まえた報酬全体のレベルの考え方

ここで重要なのは、業績連動報酬は何の業績と連動させるかです。短期か中長期か、財務的な業績のみか、非財務的な取り組みの成果も織り交ぜるかなど、経営理念や経営戦略・計画との一貫性が求められることになります。

次に、報酬を決定する手続が、公明正大で透明性の高いものであること、社長がお手盛りで決めてしまうのではなく、役員報酬制度に従い、社外取締役も参加した委員会で検討され、取締役会で決定するというような仕組みです。

(四)役員指名の方針と手続

経営陣幹部と取締役・監査役候補指名の方針としては、まず、戦略ステージに応じた役員体制の考え方を整理します。例えば、グローバル化推進のステージであれば、グローバル人材を登用することになるでしょう。

同時に、これらの事業活動のための経営陣幹部・役員の体制だけではなく、監督・監査・助言のための社外役員の体制も状況に応じて変化します。初めて社外取締役を招聘し、社外取締役を含む取締役会の形を整えるステージなのか、その次の段階の社外役員を増やすことで意思決定の積極性や業務執行の合理性を担保するステージなのかによっても対応は異なってきます。

このように経営のステージに応じた経営陣幹部・役員の体制の考え方、特に、多様性や経験・知見のあり方、社内・社外のバランス等を明確にすることが重要です。

次に、指名を行う手続として、社長一人が密室で決めてしまうのではなく、社外取締役を交えた委員会など透明性の高い手続を踏む仕組みを構築することも重要です。

(五)役員個々の選任・指名についての説明

 

 


関連するコード        *       

基本原則1.

基本原則2.

基本原則3.

基本原則4.

原則4−11.

補充原則4−11.A

補充原則4−11.B

基本原則5.

 
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