補充原則5−1@
 

 

2021年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前のコードについての説明は、その下に続けます。 

【補充原則5−1@】

株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである。

 参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます

【補充原則5−1@】

株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または、社外取締役を含む取締役または監査役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべきである。

  

〔改訂の背景〕

フォローアップ会議では、監査の観点から社外取締役が投資家との面談に臨むことも必要であるという指摘があったことを踏まえ、改訂により、株主との対話(面談)の対応者について監査役を追加しています。

もとより、補充原則5−1@は「株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で」対応者を決定することを求めており、あらゆる対話について監査役を同席することを求めるものではありません。実務上、株主が監査役との対話を希望するような場合としては、経営陣による不正事態が生じたケースなどが考えられます。

 

 

 【補充原則5−1@】

株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべきである

 

〔形式的説明〕

原則5−1では、第1文において、「上場会社は、株主からの対話(面談)の申込みに対しては、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で前向きに対応すべきである。」と株主からの面談の申込みへの対応が記されていますが、これを具体的に上場企業の基本的な姿勢を求めたのが、この補充原則です。

上場会社は株主と日頃から対話をすることによって、株主の意見を理解したうえで、客観的に見て適切なリスクテイクが可能となり、積極的に経営戦略を推進することができる、ということになります。資本提供者としての株主をコーポレートガバナンスの重要な起点として捉え、その双方が役割を果たすというのが、スチュアードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの考え方です。上場会社と株主の関係は、対話の機会の拡大により大きく変化することが期待されるということになります。つまり、上場会社は、優良な機関投資家を株主に持つことで、健全な「緊張と協調」の関係を築き、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図ることが求められているということです。

一方、機関投資家の株主は、自分たちの考え方やポジションは運用ノウハウに関する部分を含むため、他の株主に知られたくないため、公開の場では限られた質問しかできません。そして、経営者の人となりや考え方を深く理解し、中長期的にどのような経営が行われ、企業価値を拡大していくのかという定性的情報は経営者との一対一の個別対話を強く求めます。

このような状況となった場合、多数の株主に株式が分散保有されている上場会社において、株主からの面談の申込みにすべて応じることは難しく、現実的ではないと言えます。また、上場会社が株主との面談に追われるあまり、日々の経営が疎かになってしまうようでは本末転倒ということになりかねません。現実的には、株主の希望と面談の主な関心事項に加えて、各上場会社の状況に照らし、たとえば株主の持ち株数などを考慮要素に含めることが排除されているわけではないと考えられます。ですから、上場会社が株主からの対話(面談)の申込みに個別に応じないからといって、必ずしも原則に反するということではないと考えられます。原則に記載の「前向きな対応」を図る観点から、例えば、投資家説明会への参加を株主に促す等の対応をとることなどの代替的措置をとることで、対話の場を確保する施策をとることで原則の趣旨に従うことになると考えられます。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

上場会社の多くは、これまでもIR活動に取り組み、株主とのミーティングを実施していると思われますので、この原則の遵守に対しての異論はないと思われます。あとは、この原則をどの程度まで尊重するかによって、各企業の差があらわれてくると思います。そのは現実的には、この原則で示されている内容は最低限に近いことと捉えて、株主との対話を積極的に進めるかということに具現化されると思います。

その前提として対話に対して前向きな姿勢をとることができるか、です。とくに株主対策を法務や総務関係の担当者が心情として、株主から質問攻めされ、痛くない腹を探られたり、経営を批判されるといったことに対して過敏におそれる傾向があります。それは経営者にもありことです。とくに業績が芳しくない時などはなおさらです。日本の上場会社は、一般的に、株主からの質問や意見に対して受け身の姿勢になっています。

このような傾向に対して、原則では双方向の対話が求められているというのは、一方的に質問され、これに答えるということだけてはないということです。株主の質問に対して、なぜ株主はそう考えるのかを聞き返し、その質問の意図を知ることにより株主の考え方を認識することができるのが対話だからです。特に、株主が誤解している場合や、短期的な視点から中長期的な企業価値を損なうような意見に対しては、反論することには何の差支えもないはずです。欧米では、対話の場が経営者がアナリストやファンドマネージャーに対して、経営とは何かというレクチャーをする場になるケースもあるといいます。要は、このような対話を経営陣ばかりでなく、対話の窓口となるIR担当者が経営者に代わって、ある程度できれば、株主も上場会社も建設的な対話ができたことになるわけです。だから、IR担当者は単なる会社のスピーカーという程度であるような上場会社は、その程度と株主に見透かされてしまう、ということではないかと思います。

しかし、多数の株主を抱える上場会社が、株主からの面談申込みのすべてに応じるは現実的とは言えず、原則においても「合理的な範囲で」と記されています。株主からの面談の申込みに、必ず経営陣が会わなければならないというわけではありません。面談希望の株主の状況や面談内容、日程などを考慮して可能な限りということなります。そこで、一定の基準を設けている上場企業もあります。例えば、保有株式数や株主の属性(機関投資家など)から、社長やIR担当役員あるいは担当者といった段階の基準を内々で設けているといった例です。

しかしながら、株主平等の原則を無視できなかったり、これから買おうと考えている潜在株主や少数保有の株主、今後株主となる可能性のある優良な機関投資家との対話を機械的に排除することは、上場会社としてデメリットもあります。そのようなことから、「合理的な範囲」を開示することは必ずしも必要であるとは限りませんし、もし開示するのであれば、その範囲の基準は保有株数などの定量的な基準だけでなく、対話の相手として望ましいと考える株主を定性的に明確にして、これらの株主と積極的に対話するという姿勢を方針として明確に示す方法がデメリットを避け、効果的であると考えられます。

 


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