原則1−4.
【いわゆる政策保有株式】
 

2018年の改訂されたコードからまず見ていき、改訂前の原コードについての説明は、その下に続けます。 

 【原則1−4.政策保有株式】

場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役役会で、個別の政策保有について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである

上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである

参考として、比較のために改訂前の原則を下に示しておきます

 【原則1−4.いわゆる政策保有株式】

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。

上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

 

〔変更された点〕

@上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。

従来の原則では、政策保有に関する方針を開示することを求めていましたが、改訂された原則では政策保有株式の縮減に関する方針・考え方などといった例示が追加されました。これは、単なる例示の追加に止まらず、政策保有の方針の内容について方向性を示したことになります。つまり、従来の原則では方向性が示されていなかったので、政策保有に関して会社がどのように考えているかを開示すればよかったわけです。だから、政策保有を積極的に増やしていくという方針であっても、それを開示すればコンプレインできたことになりました。しかし、改訂された原則では、方向性を示しているので、この原則の基本的な考え方として政策保有株式は縮減するものということが明確に打ち出されたことになります。従って、政策保有を積極的に増やしていくという方針を開示している場合には、この原則に対してエクスプレインしなくてはならないことになるというわけです。そこまで行かなくても、説明できないない政策保有株式を処分しないていれば、エクスプレインしなければならないということ。しかも、この後で、説明(開示)について厳しい要求が追加されているので、その要求を満たすことが出来ないのであれば、処分するように間接的(実質的)に求めているという内容になっていると思います。ここで開き直って、安定株主確保のためとしてエクスプレインすることは現実的に難しいといわざるを得ません。

ただし、この原則の文言は例示なので、政策保有株式縮減の方針を開示しなければならないということではないのです。方向性が同じ方向であれば、縮減に代わる内容でもいいというわけです。もともと保有していないというのであれば、縮減しようもないという会社もあるでしょぅから。

これは、有識者委員会のフォローアップ会議での議論。“近年、政策保有株式は減少傾向にあるものの。事業法人による保有の減少は緩やかであり、政策保有株式が議決権に占める比率は依然として高い水準にある。政策保有株式については、企業間で戦略的提携を進めていく上で意義があるとの指摘もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の弱みを生じさせているのではないかとの指摘や、企業のバランスシートにおいて活用されていないリスク性資産であり、資本管理上非効率ではないかとの指摘もされている。”という内容を踏まえた改訂内容と言えるのではないでしょうか。

Aまた、毎年、取締役役会で主要な、個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。

ここでは、ポイントが何点かあります。

@)個別にすべての政策保有株式を検討するということ。

改訂前の原則では主要な政策保有について検証し、開示するという内容でした。つまり、すべての政策保有株式をそれぞれ個別に検証する必要はなく、所有なものをピックアップして、その保有だけを検証して開示すれば、それを代表とすることで許されたわけです。その場合、主要としてピックアップするのは会社が決めることなので、恣意性の余地がありました。ところが、今回の改定は、すべての政策保有株式を個別に検証しなくてはならなくなりました。もっとも、有価証券報告書では投資目的以外の保有株式について、個別に銘柄、株式数、貸借対照表計上額、保有目的を開示することになっています。ただし、ここで求められている検証が有価証券報告書の開示とはレベルが違うことは言うまでもありません。

A)検証の内容が具体的に示され、厳しいものとなっていること。

改訂前の原則では「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来見通しを検証」するというものでした。それはまた、この検証の対象が政策保有ということで、政策保有することに関して検証するということでした。細かいことかもしれませんが、政策保有株式という株式に関する検証ではないのです。つまり、ある会社と提携して株式を持ち合うということについて中長期の見通しということなので、株式自体の価値といったことは、その一部で全体としての提携のリスクとメリットを中長期で検証するということでした。端的に言えば、長い目で見て総体として提携にメリットがあることを確認できればいいわけです。これに対して、改訂された内容は、政策保有株式に関して「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証する」とされています。その中で、「保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか」というのは、株式を保有していることに伴う便益とリスクというのは、端的に言えば株式の保有自体の損益を検証すること、れが資本コストに見合っているかということは、資本政策や財務政策との関連でメリットを量る、つまり投資としてメリットがあるのかということではないでしょうか。それを具体的に精査するということを求めています。つまり、ちゃんと数字を出して衡量するということです。また、「保有目的が適切か」ということは提携全体がメリットあるかもありますが、保有していることが提携に関して寄与しているのかを精査することを求められるわけです。しかも、改訂前にあった中長期という期間を示す文言が外されました。このことを毎年、取締役会で検証するわけですから、1年間にという比較的短期的な期間で検証するわけです。長い目で見ていられなくなったということではないでしょうか。

B)検証した内容を開示しなければならなくなったこと。

改訂前は説明を行なうべきとしていましたのが、改訂により開示すべきとなりました。この改訂によって、政策保有縮減の方針と毎年の個別の検証の内容をともに開示するということになるわけです。開示というのは、公表するということです。これは、当然コーポレートガバナンス報告書の記載項目になるということです。これに対して、改訂以前では説明であったので、コーポレートガバナンス報告書の記載項目ではなかった。任意で記載する会社もありましたが。説明というのは、質問されれば答えなければならないレベルで、開示のように、きかれなくても会社のほうから公表しなければならないというのとは違います。

B上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

政策保有株式の議決権について、その行使基準を開示することを、原則の改定により具体的でなければならなくなりました。これは、有識者委員会のフォローアップ会議の場などで、議決権行使基準を開示していても、例えば「当該投資先企業において、短期的な株主利益のみを追求するのではなく、中・長期的な株主利益の向上を重視した経営がなされるべきと考えております。当社の利益に資することを前提として、投資先企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上に資するよう議決権を行使いたします。」といったものでは、抽象的で、盲目的に会社提起の議案に賛成の投票していても基準に従ったと言えてしまうのではないか、それでは機関投資家を説得できないのではないかという意見が少なくなかったためと言われています。

厚生年金基金連合会などのように機関投資家で保有株式の議決権行使基準を公表しているところは、一定のROEを下回ると取締役選任に反対するといったようにかなり具体的な基準を設定しているようですが、ここでは、そこまで求めているわけではないと思いますが、少なくとも無条件で賛成の投票をしていると疑われたときに説明できる程度の具体性は必要であると言えます。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

@縮減方針

今回の改訂で、政策保有株式は縮減されるという方向性が明示されてしまった以上、その方向に従うか否かということが、この原則に対する基本姿勢として企業に問われていると思います。まずは、縮減しようとするか、現状維持するか(政策保有株式の保有を増やすという会社は、もはや出てこないのではないか、少なくとも大っぴらにはできない世の中になっていると思います)。そこで、コンプライかエクスプレインを判断することになると思います。ちなみに、とりあえずは、縮減したい考えているといったお茶を濁すような曖昧な方針を打ち出してコンプライとしながら、実質的には現状維持でとぼけるということは、毎年個々の銘柄について取締役会で検証し、その内容を開示しなければならないので、その開示のところでボロが出てしまうことになると思います。

ちなみに、2015年9月のフォローアップ会議では次のような分析がされています。

政策保有をしていないとするものもあるが、保有を前提にその保有方針をしめすものが大多数である。また、その保有方針としては、

@全体的な方針としては、原則不保有又は解消の方向性を打ち出すものもあるが、方向性を示さないものが大多数。

A個別の選別方針としては、総じて、経済合理性で判断するとしている。

その価値判断としては、総じて

ア、取引関係強化による利益

を掲げているが、

イ、投資効率(配当、キャピタルゲイン、企業価値向上、など)を考慮するとする例も多い。以上により、いずれの場合も、経済合理性がない株式の政策保有を続けることは困難になる。

このことから、政策保有株式に関する方針については、縮減の方向性てあること、保有する株式の経済合理性を重視することを内容として含んでいないとコンプライとはならないということです。

また、コード改訂案に対するパブコメに際して、政策保有株式について一律で削減が求められるのかという質問に対して“今回の改訂により、必ずしも政策保有株式の一律の削減が求められるものではありませんが、政策保有株式について、「保有目的が適切か、保有に伴う便益・リスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証する」ことが求められており、こうした検証の結果、政策保有株式の縮減が行われる場合も多いものと考えられます。”し回答しています。ちょっとズルイ回答で直答することから逃げていますが、縮減しないのであれば、エクスプレインで、それをちゃんと説明しなさいというと、言いたいのは明らかです。

従って、現時点で政策保有株式を縮減する方針を立ててそれを開示している会社や政策保有をしていない会社はそのままでいいわけです。そして、そうでない会社は、のような会社を参考に自社の方針を再検討することになる。

では、自社の方針を再検討して、「縮減に関する方針・考え方」とし何を開示すればいいのか、金融庁のパブコメの結果報告(「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について)の中で、次のように説明しています。

政策保有に関する投資家と上場会社との対話をより建設的・実効的なものとするため、自社の個別事情に応じ、例えば、

・保有コスト等などを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか

・検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにはどのように対応するか

などを示すことになるものと考えます。

ということは、どのような場合に政策保有を行うかについては、自社の事業の特性や環境をを踏まえて経済合理性があると納得してもらえるような理由付けをして、その理由に沿わない場合は、原則として保有している株式を売却する、あるいは、理由に沿わない保有はしない、という内容になるのではないでしょうか。

A検証と開示

そして、政策保有の適否を「毎年、取締役役会で、個別の政策保有株式について保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。」ということですから、年間の取締役会の定例的な審議の予定の中に、年間1回は検証の予定を組み入れなければなりません。その求められている内容については〔変更された点〕のところで分析しましたが、実際にどこまで検証するのかについて、パブコメの回答の中で金融庁は“個別の政策保有株式について、取締役会において保有の適否を検証するに際しては、執行側において、一定限度の準備作業を行うことも想定されますが、そうした場合であっても、原則1−4をコンプライする上では実質的に取締役会自らが、個別の銘柄について検証を行うことが必要と考えます。”と答えているので、やりなさいということなのでしょう。ただし、“一定限度の準備作業を行うことも想定されます”ということも言っているので、例えば金融機関のように多数の政策保有をしている場合、取締役会で、そのひとつひとつの銘柄について検証作業すれば多大な時間を要してしまうので、検証委員会のようなもので事前にある程度の作業をすることは可能ではないか。ただし、委員会のメンバーは実務担当者レベルでなく経営者が絡む必要はあるでしょうが。

さらに、その検証の内容を開示しなければならないわけですが、個別に検証した結果を、それこそ個別の結果を開示するのか、つまり、どこまで開示するのか、ということについては、金融庁のパブコメの結果報告の中で、次のように説明しています。

原則1−4は、「検証の内容について」開示することを求めるものですが、必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証の結果を開示することを求めるものではありません。

一方で、単に「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった一般的・抽象的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえ、例えば

・保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか

・設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか

・議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

等について、具体的な開示が行なわれることが期待されます。

実務上は、上記の3点のうち最初の点に関しては、政策保有の縮減方針を具体的に設定しておいて、それを満たしているかを検証するということになるのではないか。そして、第2点が検証の手続を具体的に示す、その基準と手続を踏んだ上で、「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」という結論を導くということになる、ということでしょうか。これは、最低限の保守的な対応ですが、具体的というのが頭を悩ませるところでしょう。ただし、政策保有の銘柄数が少ない会社は有価証券報告書において投資目的以外の保有株式の銘柄とその保有の理由を開示しているので、ここで、有価証券報告書とのバランスを考えて個別の結果を開示することになるかもしれません。

B議決権行使基準示

政策保有株式の議決権行使について、基準を具体的に開示しなければならなくなりました。その求められている内容については〔変更された点〕のところで分析しましたが、実際のところ、投資家などからは無条件に賛成の投票をしているのではないかという疑念(それを「議決権の空洞化」と称しています)を拭いきれないので、そうでないことを証明するために具体的な基準を示して、基準にのっとって投票していることを示せ、ということです。実務上、その具体的というのが、どこまで求められているのかについて、金融庁のパブコメの結果報告の中で、次のように説明しています。

改訂前の原則1−4は、政策保有株主について、株主総会における議決権行使を通じた監視機能が形骸化し、いわゆる「議決権の空洞化」を招くおそれがあるなどといった懸念を踏まえ、議決権行使について、適切な対応を課保するための基準の策定・開示を求めています。

しかしながら、こうした基準を巡っては、内容が明確性に乏しい場合があり、内容をより充実させた上で開示を求めるべきとの指摘や、政策保有株式に係る議決権行使の適切性の確保を図っていくべきではないかといった指摘がなされています。

こうした指摘を踏まえ、今般の改訂においては、原則1−4において、議決権行使についての、適切な対応を確保するための「具体的な」基準の策定・開示を求めており、その基準に沿った対応を行うべきことを明確化しています。

以上のように、具体的な基準を求めていながら、金融庁は、それを具体的に示してくれてはいません。すでに、具体的に基準を開示している例をみると、厚生年金基金連合会などのように機関投資家の公表している保有株式の議決権行使基準に準じているとか(ただし、機関投資家とは違って、単に反対票を投ずるとはせずに、反対投票すべきかを検討するとしています)、実際に議決権を行使した結果を開示しているケースとか。政策保有は取締役会で判断し、毎年それを続けるかどうかの適否を取締役会で検証するというほど、経営の重要事項なのですから、投票するにあたっては、経営が賛成いうことを責任もって判断して投票するくらいのことは、最低限手続として必要なのだろうと考えられます。基準についても、本原則の最初の基本的な政策保有の基本方針が具体的なのですから、それを踏まえた基準ということ、その方向から外れていく内容の議案に対しては反対を検討するというあたりが説得的なのではないかと考えられます。

【例 みずほFG】←政策保有株式を保有しないという方針

・当社および当社の中核子会社は、政策保有株式について、コーポレートガバナンス・コードを巡る環境の変化や、株価変動リスクが財務状況に大きな影響を与え得ることに鑑み、その保有の意義が認められる場合を除き、保有しないことを基本方針とする。

・保有の意義が認められる場合とは、取引先の成長性、将来性、もしくは再生等の観点や、現時点あるいは将来の採算性・収益性等の検証結果を踏まえ、取引先および当社グループの企業価値の維持・向上に資すると判断される場合を言う。

・上記各社は、保有する株式について、個別銘柄毎に、定期的、継続的に保有の意義を検証し、その意義が乏しいと判断される銘柄については、市場への影響やその他考慮すべき事情にも配慮しつつ売却を行う。一方、その意義が認められる銘柄については、これを保有する。

【例 MS&ADインシュアランスグループHD】←政策保有株式を縮減していく方針

a. MS&ADインシュアランスグループとしての政策株式の保有に関する方針について

政策株式とは、運用収益の安定的な確保、資産価値の長期的な向上及び発行体等との総合的な取引関係の維持・強化を目的として、長期保有を前提に投資する株式をいいます。

株価変動の影響を受けにくい強固な財務基盤の構築や資本効率性の向上の観点から、政策株式の保有総額を削減する方針とします。

成長性、収益性等から経済合理性を検証し、取引関係強化等の中長期的な視点も踏まえた上で保有の妥当性が認められない場合には、発行体企業の理解を得ながら、売却を進めます。

保有の妥当性が認められる場合にも、市場環境や当社の経営・財務戦略等を考慮し、売却することがあります。

【例 シークス株式会社】←政策保有株式の方針について経済合理性を具体的に説明

当社がビジネスを展開していくうえで、仕入先、協力工場、金融機関等との良好な関係性を持続することが業容の維持・拡大の前提となっております。このため各ステークホルダーとの取引等の維持・拡大、財務的安定を主な目的として政策保有株式を保有しております。

従って、政策保有株式の前提となる業容の拡大や資金政策上のメリット等に有効性が乏しいと判断した際には、売却も検討してまいります。なお、有効性の評価については、年一回取締役会に「政策保有株式の保有に関する有効性の評価」を付議し、保有継続又は売却について決定しております。また、議決権行使の方針も併せて決定しております。

ただし、コード改訂では具体性も要求されているためは単に「取引の維持・発展」などと書くのではなく、保有目的に関する項目としては、

・取引の具体的な内容(製品名等)

・取引金額(支払い・受け取り)

・取引内容の重要性

・その他重要な契約・提携等の有無

・取引関係の将来見通し(増加・減少)

といったことを記することを検討べきかもしれません。

これはむしろ、毎年の保有の適否の検証に、より求められることではないかと思います。

・保有の増減

・増減の理由

・当該株式を保有することによって得られた効果(メリット・デメリット)

・取締役会における検証状況

【例 阪和興業株式会社】←政策保有株式の検証の内容を具体的に説明

現在当社が保有する全ての上場株式は政策投資目的で、大多数が販売先や仕入先であり、純投資目的で保有している株式はありません。当社では対象株式を取得することで得られる効果を定量的、定性的に測定し、当社の資金使途として適切かどうか検討した上で、取得の是非を判断しております。

 また、毎年、保有株式の発行体を主管している部署に継続保有の意思確認を行い、保有の是非を経営会議及び取締役会にて議論する他、投資等審査委員会において取得後3年を経過した株式の保有効果を検証するなど、保有の合理性を多角的に検証しております。検証の結果、所期の保有目的を達成したものや保有効果が薄れたと判断されたものについては、売却等の手続きを実施しております。

 このように当社の株式保有はキャピタルゲインやインカムゲインを目的としたものではなく、安定的な取引関係の構築や戦略的な提携強化等を主な目的としており、議決権の行使につきましては、当社保有資産価値の維持・向上のみならず保有目的との整合性の観点から判断しております。具体的には次のスクリーニング基準を設け、該当した銘柄については、議案内容を精査の上、賛否を決定しております。なお、この基準のいずれにも該当しない銘柄の会社提案議案につきましては、原則として全てに賛成し、株主提案議案につきましては、個別に賛否を判断いたします。

(スクリーニング基準)

1)株価水準、財務内容から株式価値の毀損が大きいと判断される企業

2)前事業年度の業績において、営業利益、経常利益または当期純利益のいずれかでマイナスを計上している企業

3)法令違反や反社会的行為等社会的に影響の大きい不祥事を起こした企業

4)支配権の変動や企業組織の大幅な改変等、保有目的を阻害したり株式価値を著しく毀損する可能性のある議案が付議された企業については、約7割の取引先企業が目標値を上回っております。

【例 三菱IFJFG】←政策保有株式の検証の内容を具体的に説明

■保有意義・経済合理性の検証

◇グループ銀行では政策投資目的で保有する全ての株式について、個社別に中長期的な視点から成長性、収益性、取引関係強化等の保有意義及び経済合理性(リスク・リターン)を確認しています。このうち、当社の取締役会ではコーポレートガバナンス・コード原則1-4に基づき、主要な政策保有株式(注4)についての検証を行います。

◇なお、経済合理性の検証は、MUFGの株主資本利益率(ROE)目標を基準とした総合取引RORAを目標値として実施します。

◇平成293月末基準の検証結果は以下の通りです。

・保有意義については、検証対象の何れも、当社及びグループ銀行の中長期的な経済的利益を増大する目的で保有しており、その妥当性を確認しました。経済合理性については、検証対象全体を合計した総合取引RORAが目標値を上回っております(注5)。

・なお、個社別には約8割の取引先企業が目標値を上回っております(注6)。目標値を下回る約2割については採算改善を目指しますが、一定期間内に改善されない場合には売却を検討します。

(注4)検証対象の平成293月末基準の保有時価合計は約3.3兆円(簿価:約1.7兆円)と、グループ銀行が政策投資目的で保有する株式(上場)の合算時価の約6割をカバーします。

(注5)(注6)採算については、「取引先企業グループベースで目標値を上回っているか否か」で判定を行っております。検証対象以外の上場株式

【例 花王株式会社】←政策保有株式の検証の結果、現在の状況を説明、議決権行使結果の概要を開示

当社グループは、業務提携、取引の維持・強化等事業活動上の必要性等を勘案し、保有する株式数を含め合理性があると認められる場合に限り、上場株式を政策的に保有します。これらは、株式市場や当社を取り巻く事業環境の変動による影響を受けますが、毎年、取締役会において合理性を確認し、保有継続の可否及び株式数の見直しを実施します。

政策保有株式の議決権に関しましては、適切なコーポレートガバナンス体制の整備や発行会社の中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社への影響等を総合的に判断して行使します。必要に応じて、議案の内容等について発行会社と対話します。

<現状の取組内容>

上記方針の下、保有銘柄ごとにその保有目的や規模の検証を行い、取引先等との対話・交渉を実施しながら見直しに努めました。その結果、2016年12月末時点の政策保有株式の銘柄数は2015年12月末時点の74銘柄から56銘柄に削減しました(なお、貸借対照表計上額の合計額は10,349百万円から8,093百万円となりました)。2016年度に開催された保有先会社の株主総会に対する議決権に関しましては、当該会社の企業価値を毀損する懸念のある提案は無かったため、全て賛成しました。

一方、議決権行使の具体的基準をすでに決めて開示している例が参考になると思います。

【例 三菱IFJFG】←政策保有株式の議決権行使基準の具体的説明

■議決権行使に関する基準

◇当社及びグループ銀行では、政策投資目的で保有する株式の議決権の行使について適切な対応を確保するため、議案毎に以下の2点を確認の上、総合的に判断します。

1)取引先企業の中長期的な企業価値を高め、持続的成長に資するか。

2)当社及びグループ銀行の中長期的な経済的利益が増大するか。

◇中長期的な取引先企業の企業価値向上や当社及びグループ銀行の経済的利益に大きく影響を与えうる重要な議案については、必要に応じて取引先企業との対話等を経て賛否を判断します。当社及びグループ銀行が重要と考える議案は以下の通りです。

・剰余金処分議案(財務の健全性及び内部留保とのバランスを著しく欠いている場合)

・取締役・監査役選任議案(不祥事が発生した場合や一定期間連続で赤字である場合等)

・監査役等への退職慰労金贈呈議案

・組織再編議案

・買収防衛策議案 等

◇主要な政策保有株式については、議決権行使の状況をMUFG取締役会に報告します。

 

〔コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集から〕

2019年11月、東京証券取引所は提出されたコーポレート・ガバナンス報告書の記載を対象として、充実した取り組みが行われ、その内容が投資者に対してわかりやすく提供されていると考えられる開示例とりまとめ「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」として発表しました。

そのなかで、本原則についての事例もあります。

原則1−4は、@政策保有株式の縮減に関する方針・考え方等の開示を求めるとともに、A個別の政策保有株式の保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを具体的に精査した上で、保有の適否を検証し、分かりやすく開示・説明することを求めています。また、B政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応も求めています。

@政策保有株式の縮減に関する考え方及び保有の適否

政策保有株式の縮減に関する方針等としては、時期や縮減の程度等を組む具体的な縮減計画を示していくようなことや、保有の適否の検証において、どのような基準を設定したか、取締役会の議論でどんな結論となったのかなどを具体的に開示することが求められています。

このように事を踏まえて、好事例集では、株式会社三菱UFJフィナンシャルグループの事例を紹介し、縮減に係る方針として、政策保有株式の総量を株主資本の比較で一定の割合まで縮減するという具体的な計画について説明するとともに、保有の適否の検証方法について、使用した指標等も含め具体的に記載したうえで、最近の実際の検証結果の概要と、目標値を下回る銘柄に関する対応方針にいて説明している。

A政策保有株式に係る議決権行使

政策保有株式の議決権行使については、「議案の内容が当該企業の中長期的な企業価値向上に資するものであるかを勘案し、適切に判断します」といった抽象的な開示にとどまらず、より具体的な議決権行使基準を策定・開示し、それに沿った対応がとられることを求めています。

このような事を踏まえて、好事例集で取り上げているのは、澁谷工業株式会社の事例では、買収防衛策や退職慰労金、配当等の剰余金処分案等、主な議案を例示し、それらの議案に対する具体的な議決権行使基準や議決権を行使する際に精査する項目について説明しています。一方、日本プラスト株式会社の事例では、会社提案に賛成できない場合に売却の要否を検討することについて説明しています。

 

 

原コードについての説明です。

 【原則1−4.いわゆる政策保有株式】

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。

上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

 

〔形式的説明〕

@「政策保有株式」について

この原則の対象とされている「いわゆる政策保有株式」については、何らの定義づけが為されていません。法律であれば条文のなかで厳密な定義づけがあるので、法務担当者は要件をチェックして瑕疵の発生を防ぐわけです。しかし、コーポレートガバナンス・コードはプリンシプル・アプローチの姿勢を基本としており、ここでも「政策保有株式」をどのようなものとするかは、各社の合理的な判断に委ねられていると考えられます。では、各社が手前勝手に決め付けてしまっていいのかと言えば、そうした場合に判断の根拠を説明できなければならない、ということになります。そこで、各社の担当者は頭を痛めるわけです。そんなこと説明できる担当者などいないわけですから(実も蓋もない言い方ですが、法務担当者にしろ、顧問弁護士にしろ、それを法律に書かれているとかの拠り所がないところで説明できる能力のある人なんて、私を含めていません。法律に携わる人なんて、所詮は対象は他人事ですから)。ではどうするかというと、何とかして拠り所を探すわけです。その一つは、このコードを策定した委員会での議論です。この原則を決めるときに、どのような議論が行われたのか、つまり立法者の意思に似たものです。また、似たような概念として有価証券報告書で開示を義務付けられている「純投資目的以外の目的で保有する株式」があります。それらから想像できるのは、いわゆる株式の持ち合いは当然含まれますが、それに限らず、例えば一方の上場会社が他方の上場会社の株式を一方的に保有するのみのケース(持合ではない)も含まれると考えられるということです。実際上は、株式の持ち合いのケースを対象として考えれば、間違いがない(少なくとも外せない)というところではないでしょうか。

Aこの原則で求められていること

この原則に書かれているかぎりでは、政策保有株式について、例えば処分すべきであるとか、企業の行動を求めているわけではない。この原則の文言として明らかにされていることは、端的に言えば、政策保有株式についての内容の説明と開示と言えます。これは、さきほど触れた委員会での議論によりますと、この種の企業の情報を自由に自ら調べることができない株主や投資家からすれば、このような政策保有株式は、@利益率・資本効率の低下や財務の不安定化を招くおそれがあるといった経済合理性への懸念、A株主総会での議決権行使に関する懸念があると言います。また、上場企業の資本が本業に直接投資されるのではなく、他の上場企業の投資に充てられると、株主や投資家にとっては、そのような投資に事業上どのような意味合いがあるのか分からない、ということが一般的にも言われるでしょう。そこで、上記の一般的な懸念に答えて、まずは開示することで、上場企業と市場との対話を進めようというのが、この原則の趣旨であると考えてもいいと思います。

それで、この原則において、具体的にどのような開示をしなければならないと書かれているかを整理すると、下の3点ということになります。

1)政策保有に関する方針:この方針は個別銘柄ごとに策定し開示することを求めているのではなく、基本的には、政策保有全般に共通する方針を開示する。

2)保有のねらい、合理性についての具体的説明

毎年の取締役会で主要な政策保有についた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらいや合理性について説明する、とある。この具体的説明の内容は検証の内容そのものではなく、保有のねらいや合理性である。

3)政策保有株式に関する議決権行使基準:個別銘柄ごとではなく、ある程度共通の基準で、必ずしも機械的・形式的に議決権の行使内容が導かれるような基準ではない。

※参考として、上で触れた有価証券報告書での純投資目的以外の目的で保有する一定の株式の記載について下の通り簡単にご紹介します。

1)純投資目的以外の目的で保有する株式(いわゆる政策保有株式)について

イ 全体の銘柄数、貸借対照表計上額の合計額

ロ 次のいずれかに該当するもの(非上場株式を除く)について、その銘柄、株式数、保有目的、貸借対照表計上額

―その貸借対照表計上額が資本金の1%超である

―貸借対照表計上額の上位30銘柄に該当する

2)純投資目的で保有する株式について

―上場・非上場に区分して、貸借対照表計上額の合計額、受取配当金の合計額、売却損益の合計額、評価損益の合計額

有価証券報告書での開示は、とくに方針の記載は求められてはおらず、上記のように決められたとおりに、財務諸表上の資産額と個別の所有銘柄を開示させています。

 

〔実務上の対策と個人的見解〕

この原則についての説明は上記の通りです。と言われても、それですぐに、「じゃあ、こうしましょう。」と行動を起こせる人はまずいないでしょう。原則は理解できた。しかし、この原則に対して、どのように対処するかは企業が、それぞれ合理的に判断することになるわけですから。ここからがスタートということになります。とはいっても、企業の担当者は、例えば、コーポレートガバナンス報告書作成の担当者やコーポレートガバナンス・コード対策のプロジェクト・チームのメンバーからすれば、前例のない事柄に対して余計なリスクを背負いたくはないでしょう。大多数の企業は他社がコーポレートガバナンス報告書で開示している例を参考にして、横並びの考え方で開示を行なうことになるのではないかと思います。しかし、中には経営陣が率先して政策保有株式を含めた、保有資産の内容や資本政策を見直して、政策保有株式を減らしていく企業もあるでしょう(すでに実施済みの企業も含めて)。実際の行動は、言うなればこれらの二極の間のどこかの位置で、どのように対処すべきか判断していくことになるのではないでしょうか。その対処をいくつか考えてみたいと思います。

@他社事例を参考にして(既にコーポレートガバナンス報告書に開示しているケースに範をとる)

上記説明のひとつの極として、既に開示されている例を参考に、自社の状況を当てはめて無難に済ませるという対処の仕方です。ここでは、既に開示されているコーポレートガバナンス報告書の中から数社の例を持ってきて、提示してみます。なお、以下の例は一部の抜粋になるため、詳細については、実際に東証のホームページから各社のコーポレートガバナンス報告書を検索して見てみることをお勧めします。 

 

〔開示事例〕

エーザイ

医薬品製造企業においては、基礎研究・研究開発から薬剤を患者様に届けるまでに長時間を要することを勘案すると、長期的なパートナーの存在は不可欠と考えています。

 当社は、政策保有については、相互の企業連携が高まることで、企業価値向上につながる企業の株式を対象とすることを基本としています。なお、株式保有は必要最小限とし、企業価値向上の効果等を勘案して、適宜、見直すこととしています。

 企業価値向上の効果等が乏しいと判断される銘柄については、市場への影響やその他事業面で考慮すべき事情にも配慮しつつ売却を行なっていきます。

 また、政策保有株式に係る議決権行使にあたっては、当社の保有する株式の価値向上に資すると判断する議案であれば賛成し、価値を毀損すると判断するものに対しては反対票を投じます。 

 

デンソー

1.政策保有に関する方針

自動車産業は素材から新技術まで総合力が試される産業です。当社は自動車部品企業として、グローバル規模での競争に勝ち抜き、今後も持続的に成長していくため、事業の関係強化を図ることが必要だと考えております。あらゆるステークホルダーとの信頼関係を保ちつつ、中・長期的な視点で当社に経済的価値をもたらすために、取引先との関係強化、地域社会との関係維持の観点から銘柄を総合的に勘案し、保有していく方針です。

2.政策保有株式に係る議決権の行使について

当該投資先企業において、短期的な株主利益のみを追求するのではなく、中・長期的な株主利益の向上を重視した経営がなされるべきと考えております。当社の利益に資することを前提として、投資先企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上に資するよう議決権を行使いたします。

 

 

〔Explainの開示事例〕

大東建託

投資目的以外の目的で保有する株式の保有は、1)業務提携、取引の維持・強化及び株式の安定等の保有目的の合理性、2)その連結貸借対照表計上額が総資産の5%以下などの条件をすべて満たす範囲で行うことを基本的な方針としています。

同株式の買い増しや処分の要否は、当社の成長に必要かどうか、他に有効な資金活用はないか等の観点で、担当取締役による検証を適宜行い、必要に応じ取締役会に諮ることとしています。

また、同株式に係る議決権行使は、その議案が当社の保有方針に適合するかどうかに加え、発行会社の効率かつ健全な経営に役立ち、企業価値の向上を期待できるかどうかなどを総合的に勘案して行っています。なお、個々の株式に応じた定性的かつ総合的な判断が必要なため、現時点では統一の基準を設けていません。

 

A真っ正直に本当のことを開示してしまう

正直にありのままを説明してしまうことはどうでしょうか。株主総会を招集するにあたって、だんだんと難しくなってきている定足数の確保と、議案の採決に際して会社提案に対する無条件の賛成票を確保するということ。これにより、株主総会の運営を現経営陣にとって有利なものとすること。誰もが暗黙の了解事項としながら、明言することをためらっていること。海外や機関投資家、あるいは個人株主からは批判されるであろうことです。

しかし、第二次世界大戦前から続いている歴史の古い企業であれば、敗戦により連合軍に占領された際に民主化政策の一環として、経済政策においては財閥解体などが実施されましたが、そのなかで株式が個人投資家に振り分けるという政策が採られました。これにより、個人投資家を増やして、株式市場を活性化し、市場の民主化を進めようとしたわけです。しかし、敗戦後の経済的な混乱した状況のなかで個人に株式が割り振られても、個人は目先の現金の確保にはしり、市場は売りが殺到し短期間で株価は一斉に暴落して大混乱になったといいます。その時の上場企業は、現在と違って自主株買いは商法で禁止されていましたから、企業が共同して互いの株式を買い合うことで株価を維持しようとしたといいます。いわば、間接的な自社株買いです。その後、互いに一定量の株式を保有し合っていますが、その保有株式を市場に売却すれば、発行会社は株価が暴落するおそれがあります。しかし、その発行会社も他方の株式を保有しているわけですから、こちらも保有している株式を仕返しに売るぞ、と警告すれば、相手は保有株式を売れなくなる。そうして、相互に危険を負担し合っていた。という経緯も考えられます。現在であれば、自社株買いは株主還元と歓迎されますが、このような間接的な自社株買いは株主や投資家から警戒されるというのはおかしな話ではないか、と考えるのは変でしょうか。

B総合的に検討する

2015年7月16日付けの日経新聞朝刊の一面に、2014年度に主要企業の持ち合い株の6割が削減されたという記事が載りました(http://www.nikkei.com/markets/features/09.aspx?g=DGXLASGD09H61_10072015MM8000)。おそらく、全体的な傾向として株式の持合は徐々に減っていく傾向にあるのではないかと思います。わざわざコードの原則として「政策保有株式」について方針を開示させるようにした、というのは、委員会では株式の持ち合いに代表される「政策保有株式」が理由を説明しなければならない、特殊な状態であるという認識があるのではないか、と思います。企業経営を特殊な状態からノーマルな状態に戻したいという考え方が根底にあると思います。特殊な状態でノーマルでないからこそ、どうして、こんなことをやっているのかという説明が必要になってくるというわけです。

C政策保有の方針と議決権行使の基準の策定と開示

原則1−4は開示事項として、コーポレートガバナンス報告書に記載しなければなりません。そのためには、従来に策定していなかった企業は、策定しなければならなくなります。@で策定していないことをエクスプレインすれば別ですが、コンプライとするためには、この二つを開示しなければなりません。そこで、既に開示しているケースのパターンを分析して、これから方針を策定しようとする場合の参考にしたいと思います。

(1)政策保有に関する方針

@)保有の目的

多くの企業が、政策保有に関する方針として、政策保有の目的を記載しています。

・取引関係の強化

原則として、事業運営観点で保有目的があると判断した取引先の株式については保有いたしますが、取引関係の強化によって得られる当社グループの利益と投資額等を総合的に勘案して、その投資可否を判断しております。(リクルート)

純投資目的以外に目的で上場株式を保有するにあたっては、投資採算という観点に立ち、投資先企業との取引関係の維持・強化による中長期的な収益の拡大につながるかどうかなど様々な検討を十分に行った上で、総合的に判断します。また、純投資目的以外の目的で保有している上場株式のうち主要なものについては、保有の狙い及び合理性を検証し、定期的に取締役会に報告します。(住友商事)

・企業価値の向上

政策保有株式に関する方針(オムロン)

@持続的な企業価値向上のため、更なる社会的価値を協働し、より安定した企業運営を目的として株式を保有する。

A政策保有株式についてそのリターンとリスク等を踏まえた中長期的な観点から検証を行い、これを反映した主要な政策保有株式の保有目的、合理性について、取締役会において検証する。

B政策保有株式の議決権については、投資先企業の中長期的な企業価値向上の観点からその行使についての判断を行う。

・取引関係の強化と企業価値の向上の両方に言及

政策保有株式に関する方針(トヨタ自動車)

(1)政策保有に関する方針

当社の主たる事業である自動車事業は、素材から新技術まで総合力が試される事業であり、世界規模で競争を勝ち抜き、今後も成長を続けていくためには、開発・調整・生産・物流・販売の全ての過程において、様々な企業との協力関係が不可欠であると考えております。このため、当社は、事業戦略、取引先との事業上の関係などを総合的に勘案し、企業価値を向上させるための中長期的な視点に立ち、政策保有株式を保有しております。

(2)政策保有のねらい・合理性の説明

当社は、必要に応じて、保有先の企業と企業価値向上や持続的成長を促す観点からの建設的な対話を行い、経営上の課題の共有や問題の改善に繋げております。また、取締役会で主要な政策保有株式につきまして、そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行なっております。

A)保有に合理性がある場合に限定するとして、合理性を説明

原則1−4で「保有のねらい・合理性について具体的な説明」と書かれているので、合理性に言及した説明として、保有の目的を記載した上で、その目的に合理性が認められるかどうかという形態で説明をしています。

当社グループは、業務提携、取引の維持・強化等事業活動上の必要性及び発行会社の株価動向を勘案し、保有する株式数を含むごうりせいがあると判断した場合に限り、上場株式を政策的に保有します。これらは、株式市場や当社を取り巻く事業環境の変動による影響を受けますが、毎年、取締役会において合理性を確認し、保有継続の可否及び株式数の見直しを実施します。(花王)

○当社の上場株式における「政策保有に関する方針」は次の通りです。(三井住友FG)

(1)当社は、グローバルに活動する活動する金融機関に求められる行動基準や国際的な規制への積極的な対応の一環として、当社グループの財務面での健全性維持のため、保有の合理性が認められる場合を除き、原則として政策保有株式を保有いたしません。

(2)保有の合理性が認められる場合とは、中長期的な視点も念頭において、保有に伴うリスクやコストと保有によるリターン等を正確に把握したうえで採算性を検証し、取引関係の維持・強化、資本・業務提携、再生支援などの保有のねらいも総合的に勘案して、当社グループの企業価値の向上に繋がると判断される場合を言います。

(3)政策保有株式については、定期的に保有の合理性を検証し、合理性が認められる株式は保有いたしますが、合理性がないと判断される株式は、市場に与える影響や発行体の財務戦略など、様々な事情を考慮したうえで、売却いたします。

C)政策保有株式の売却についても記載する例

・政策保有株式を最小限とする旨

医薬品製造企業においては、基礎研究・研究開発から薬剤を患者様に届けるまでに長時間を要することを勘案すると、長期的なパートナーの存在は不可欠と考えています。

当社は、政策保有については、相互の企業連携が高まることで、企業価値向上につながる企業の株式を対象とすることを基本としています。なお、株式保有は必要最小限とし、企業価値向上の効果等を勘案して、適宜、見直すこととしています。

企業価値向上の効果等が乏しいと判断される銘柄については、市場への影響やその他事業面で考慮すべき事情にも配慮しつつ売却を行なっていきます。(エーザイ)

・必要性や合理性の失われた政策保有株式は売却する旨

当社は、株式の製作保有を以下の方針で行っており、必要最低限の保有水準としています。

・単なる安定株主としての政策保有は、コーポレートガバナンスの観点から行わない。

株式の保有は、配当等のリターンも勘案しつつ、業務の円滑な推進等のビジネス上のメリットがある場合に限る。

・保有する株式については、主にビジネス上のメリット等の観点から定期的に検証を行い、必要性が薄れてきた銘柄を中心に縮小を図る。(資生堂)

・残高削減を基本方針として示す例

■政策保有に関する方針(三菱UFJフィナンシャルグループ)

◇近年、国際金融規制の強化やコーポレートガバナンス・コード導入など、政策保有株式を取り巻く環境は大きく変化しております。

◇当社及びグループ銀行では、このような環境変化を踏まえ、株式保有リスクの抑制や資本の効率性、国際金融規制への対応等の観点から、取引先企業との十分な対話を経た上で、政策投資目的で保有する株式の残高削減を基本方針とします。

◇政策投資目的で保有する株式については、成長性、収益性、取引関係強化の観点から、保有意義・経済合理性を検証し、保有の妥当性が認められない場合には、取引先企業の十分な理解を得た上で、売却を進めます。また、妥当性が認められる場合でも、残高削減の基本方針に則し、市場環境や経営・財務戦略を考慮し、売却することができます。

■保有意義・経済合理性の検証

◇グループ銀行では政策投資目的で保有する全ての株式について、個社別に中長期的な視点から成長性、収益性、取引関係強化等の保有意義及び経済合理性(リスク・リターン)を確認していますこのうち、当社の取締役会ではコーポレートガバナンス・コード原則1−4につき、主要な政策保有株式についての検証を行います。

◇なお、経済合理性の検証は、MUFGの株主資本利益率(ROE)目標を基準とした総合取引(RORA)を目標値として実施しています。

◇上記の検証結果は次の通りです。

・保有意義については、検証対象の何れも、当社及びグループ銀行の中長期的な経済的利益を増大する目的で保有しており、その妥当性を確認しました。経済合理性については、検証対象全体を合計した総合取引RORAが目標値を上回っております。

・なお、個社別には約8割の取引先企業が目標値を上回っております。目標値を下回る2割については採算改善を目指しますが、一定期間に改善されない場合には売却を検討します。

D)その他

・政策保有株式の投資時の方針と継続保有の方針を区別した例

a.MS&ADインシュアランスグループとしての政策株式の保有に関する方針について

政策株式とは、運用収益の安定的な確保、資産価値の長期的な向上及び発行体等との総合的な取引関係の維持・強化を目的として、長期保有を前提に投資する株式をいいます。グループとしての政策株式の保有に関する方針については次のとおりです。

a)政策株式への投資にあたっては、発行体の財務状況、ガバナンス、株価、株式の流動性、取引状況等を慎重に判断します。

b)政策株式に係るポートフォリオの質を維持・向上するために、保有する銘柄の投資効率及び信用・市場リスク等を適切に管理します。

b.政策株式に係る保有のねらいと合理性について

政策株式を保有している三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、政策株式について、投資効率を適切に管理しており、その状況を各々の取締役会に報告することとしています。当社も、各社の状況については確認しています。

なお、グループ中期経営計画において、グループとして2014年度から2017年度の4年間で3,000億円の政策株式を削減する計画としており、順次売却を進めていきます。

(2)議決権行使についての基準

@)投資先企業の企業価値・株主価値に着眼した基準

投資先企業の企業価値や株主価値に着眼し、政策保有先の中長期的な企業価値の向上に資するかを基準とする例が多い。

議決権行使に当たっては、投資先企業の中長期的な企業価値、ひいては株主価値の向上に繋がるかどうかという観点に立ち、様々な検討を十分に行った上で、総合的に判断します。(住友商事)

○当社の「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準」は次のとおりです。(三井住友FG)

(1)原則として、全ての議案に対して議決権を行使いたします。

(2)政策保有先の中長期的な企業価値向上の観点から、当該企業の経営状況も勘案し、議案ごとの賛否を判断いたします。

(3)利益相反の発生が懸念される場合には、利益相反管理方針に従い、対応いたします。

A)投資先企業の企業価値・株主価値に着眼した基準

・政策保有株式の投資リターンに着目し、株主還元を考慮要素に入れた例

議決権行使に関する基本方針(トヨタ自動車)

1)議決権行使の基本的な考え方

当社は、議決権の行使は、定型的・短期的な基準で同一的に賛否を判断するのではなく当該投資先企業の経営方針・戦略等を十分尊重した上で、中長期的な視点での企業価値向上につながるかどうか等の視点に立って判断を行います。

2)議決権行使のプロセス

当社は、議決権行使にあたっては、投資先企業において当該企業の発展と株主の利益を重視した経営が行われているか、反社会的行為を行っていないか等に着目し、議案ごとに確認を行ないます。加えて、下記に記載した項目については必要に応じて個別に精査した上で、当該企業との対話等の結果を勘案し、議案への賛否を判断します(株主還元・授権資本の拡大・買収防衛策・事業再編 など)。

当社の政策保有株式の議決権行使の基準(資生堂)

当社は、政策保有株式の議決権行使にあたっては、提案されている議案について、株主価値の毀損につながるものではないかを確認します。そして、投資先企業の状況を勘案した上で、賛否を判断し議決権を行使します。議案の趣旨確認など、必要がある場合には、投資先企業と対話を行います。

・自社への影響を考慮するとした例

政策保有株式の議決権に関しましては、適切なコーポレートガバナンス体制の整備や発行会社の中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社への影響を総合的に判断して行使します。必要に応じて、議案の内容等について発行会社と対話します。(花王)

・自社の中長期的な経済的利益の増大に寄与するか否かを考慮するとした例

■議決権行使に関する基準(三菱UFJフィナンシャルグループ)

◇当社及びグループ銀行では、政策投資目的で保有する株式の議決権の行使について適切な対応を確保するため、議案毎に以下の2点を確認の上、総合的に判断します。

(1)取引先企業の中長期的な企業価値を高め、持続的成長に資するか。

(2)当社及びグループ銀行の中長期的な経済的利益が増大するか。

◇主要な政策保有株式については、議決権行使の状況を取締役会に報告します。

B)その他

・原則として投資先企業の提案を尊重する旨を基準とした例

政策保有株式に係る議決権行使の基準(コニカミノルタ)

・原則として賛成の議決権を行使しますが、上記の政策保有株式に関する方針に反すると思われる提案にいては適切に評価・判断します。

・当社は2015年6月の経営審議会において主要な政策保有株式についてのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経営合理性や将来の見通しについて検証し、同年同月の取締役会にて確認しております。

・2015年3月末時点の政策保有株式は、46銘柄、その簿価は279億円となっております。また、主要な政策保有株式の発行企業とは現在取引継続中もしくは協業関係にあり、あるいは将来の事業連携が見込まれるため、当該株式の保有には十分な合理性があると判断しております。

・主要な個別銘柄の保有目的については、有価証券報告書に記載しております

 

D政策保有対策─売却の場合の留意点

コーポレートガバナンス・コードの影響、あるいは機関投資家等からは歓迎されないこと(保有の合理性の説明を求められる)などから、規制の強化された金融機関を筆頭に株式持合いの見直しを検討する企業が増えてきています。その場合には、大多数の動きは、現に持合として保有している株式の必要性等を見直して、必要性の高くない株式を売却する傾向になろうとしています。ただし、株主総会の議決権対策や敵対的買収を受けたときの与党株主対策といった持合の潜在的な目的となっている課題が解決されているわけではなく、各企業の動きは一様ではないと思います。

ここでは、持合を見直して保有している株式を売却しようとする場合の実務上の留意点を考えてみたいと思います。このようなケースは特殊ケースになるので一般化は難しく、ケースを想定して考えて行きます。

(1)役職員の派遣を行っている場合

株式の持ち合いに伴って役職員を派遣している場合です。この場合、その派遣役職員を通じて相手の会社に関する情報を継続的に入手し続けている状態にあると言えます。したがって、つねにインサイダー情報に接しているとみなされることになって、それが株式を売却する際の大きな障害となります。

この対策としては、株式を売却する際にはインサイダー情報とは無関係であること、つまり情報が遮断されていることを外部に対して明確に主張できるような措置を講ずることが必要です。情報の遮断と言っても、派遣している役職員は、職務上の義務遂行のためには情報を拒否することはできないため、株式を保有している側で、派遣役職員と、株式売却の判断をする人々との間での遮断する以外にありません。しかし、事業上の必要性から協力関係にあり株式持合いをして、役職員まで派遣しているわけですから、その情報をマネジメントレベルで遮断するということは事実上困難です。そこで、現在活用されているのが信託銀行や証券会社の提供する株式売却のためのサービスを利用するという方法です。つまり、信託銀行なり、証券会社なりに一定の期間内に、一定の価格の範囲内で売却を委託するということです。

(2)業務上の提携関係がある場合

そもそも株式の持合をするには、相手の会社と協力関係にあるからです。実際のところ、株式の持ち合いはその協力関係の一部に過ぎないことが少なくありません。例えば定型関係を契約により合意していることもあるでしょう。しかし、株式を売却することで資本業務提携契約が終了したり、契約解消となれば、「業務上の提携の解消」の決定としてインサイダー情報に該当する可能性があります。この場合には、相手の会社に適時開示を売却の前に公開してもらう必要があります。

なお、株式を売却しても提携契約が継続する場合には、この点については問題ありません。

(3)相手企業の了解が得られない場合

株式の持合をしている場合、継続的な保有に関して何らかの合意がなされている場合があります。実際には、明確な合意がない場合でも相手企業との関係を考えれば、相手企業の合意を得ることになると思います。そのような時に、相手企業の合意を得ることができない場合、株式の売却を阻止するために妨害行為をする可能性が考えられます。その場合、考えられる妨害行為は次のような者があります。

・目論見書作成の拒絶

・インサイダー情報をわざと伝えて、売却できないようにする。

これらの場合には、相手企業に協力するよう説得する以外にありません。


関連するコード        *       

原則1−3

原則1−5

原則1−7

原則2−1

原則3−1

原則4−1

原則5−1

 
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