新任担当者のための会社法実務講座 第123条 株主名簿管理人 |
Ø 株主名簿管理人(123条) 株式会社は、株主名簿管理人(株式会社に代わって株主名簿の作成及び備置きその他の株主名簿に関する事務を行う者をいう。以下同じ。)を置く旨を定款で定め、当該事務を行うことを委託することができる。
株主名簿の名義書換などの株式事務は、会社が自ら行うことについてはもとより差し支えありませんが、株主数が増大すると、会社自らが行うよりも、株式事務の専門家に委託する方が、効率的でかつ時間・費用の節約になり、ひいては株式取引の安全にも資することになるといいます。そこで、株式会社が株主名簿管理に株式事務を委託することができることになっているのです。会社は、定款で株主名簿管理人を置く旨を定めることができます(123条)。株主名簿管理人とは、株式会社との委任契約により株主名簿等(株主名簿のほかにも新株予約権原簿)の作成、記載、変更及び備置きその他の株主名簿に関する事務を株式会社に代行する者で、実際にはその他の株式事務(株主総会招集通知の発送や議決権行使書の集計、配当金の支払い)をも代行しており、法律的には株式事務に関する株式会社の履行補助者としての性質を有する者です。したがって、たとえば、会社は、株主名簿管理人の過失により招集通知を欠いたときは当然に責任を負い、その選任・監督について無過失であったことを立証しても、責任を免れることはできません。 ü
株主名簿管理人の設置 ・定款の定め 原則として株主名簿管理人を設置するかどうかは会社の自由とされています。そして、株主名簿管理人を設置する場合には、定款にその定めをしなければなりません。これは定款の相対的記載事項となります。 定款には、株主名簿管理人を置く旨を定める必要はありますが、具体的に誰を株主名簿管理人とするかまでを定款に定める必要はありまん。株主名簿管理人の具体的な名称、場所、数などは、定款の定めに基づき、取締役会が決定することができます。 上場会社は実際上、金融商品取引所の上場審査基準により、株主名簿管理人の設置を強制されます。 〔参考〕定款の規定例(株懇モデル) (株主名簿管理人) 第10条当会社は、株主名簿管理人を置く。 2株主名簿管理人およびその事務取扱場所は、取締役会の決議によって定め、これを公告する。 3当会社の株主名簿および新株予約権原簿の作成ならびに備置きその他の株主名簿および新株予約権原簿に関する事務は、これを株主名簿管理人に委託し、当会社においては取り扱わない。 ・株主名簿管理人の設置の決定 株主名簿管理人を設置する旨の定款の定めに基づき、具体的に誰を株主名簿管理人にするかについては、取締役会設置会社の場合には取締役会で決定ることができます(362条2項)。ただし指名委員会等設置会社では、取締役会はその決定を執行役に委任することができます(416条4項)。取締役会設置会社以外の会社では、定款に別段の定めがない限り、取締役が1人であればその者が決定し、2人以上のときはその過半数により決定しますが、特定の取締役に決定を委任することもできます。(348条) ・委任契約 株主名簿管理人を置く旨の定款の定めに基づき、取締役会等においてある者を株主名簿管理人に決定することは、会社内部の意思決定にすぎず、この意思決定に基づき、会社代表者がその者との間で委託契約を締結することにより、その者は株主名簿管理人となります。 会社と株主名簿管理人との間で締結される委託契約は、株主名簿の名義書換などの株式事務を委託する準委任契約(民法656条)です。 ・登記等 会社が株主名簿管理人を置いたときは、その氏名(または名称)、住所及び営業所を登記しなければなりません(911条3項11号)。株主名簿管理人が会社であるときは、登記事項である名称は商号を意味し、住所とは本店所在地を意味します。」また営業所とは、株主名簿管理人が名義書換事務を取り扱う場所(事務取扱場所)を意味します。また、募集株式、募集新株予約権の引受の申込みをしようとする者に対し、会社は、これらの事項を通知しなければなりません(203条1項4号及び5項、242条1項4号及び5項、会社法施行規則41条6号、54条6号)。 ü
株主名簿管理人の資格、員数及び権限 株主名簿管理人の資格については、法律上の限定はありません。一般には信託銀行、証券代行会社など株主名簿管理人となることが一般的です。 株主名簿管理人の数に限定はなく、会社は必要とする場所に各別の株主名簿管理人を置くこともできます。 株主名簿管理人は、株主名簿に関する事務を行う権限を有します(123条)。123条は株主名簿の作成と備置きを例示していますが、この他に会社は、株主総会の招集通知(291条1項)、配当財産の交付(457条1項)、株主名簿の閲覧・謄写事務(125条3項)、質権の登録、(148条)、等の株式事務を株主名簿管理人に委託することができます。具体的にどこまでの権限を株主名簿管理人が有するかは、会社と株主名簿管理人との間の委任契約により定まります。 ü
株主名簿管理人の責任 株主名簿管理人は、会社から委託を受け、会社の履行補助者として株式事務を行います。株主名簿管理人が株主名簿に記載すべき事項を記載しない場合には、罰則の制裁があります(976条7号)。 ・会社に対する責任 株主名簿管理人は、準委任によって株式事務を処理する者ですから、会社に対して善管注意義務(民法656条)をおい、これに違反して会社に損害を生じさせた場合には、会社に対して損害賠償責任を負います。この場合の会社の損害は、履行補助者である株主名簿管理人が第三者に損害を生じさせ、会社が第三者に損害賠償責任を負担することで生じた損害も含まれます。 ・第三者に対する責任 株主名簿管理人は、会社と委託契約を締結するにすぎず、株主など第三者とは契約関係に立たないので、第三者に対して一般の不法行為責任(民法709条)を負うことはあっても、第三者に対して債務不履行責任を負うことはありません。株主としては、名義書換が不当拒絶されたこと等により損害を受けた場合には、会社に対して損害賠償責任を追及することとなり、会社は、株主名簿管理人の行為については履行補助者の行為として責任を負います。 関連条文
|