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第125条 株主名簿の備置き及び閲覧等
 

 

Ø 株主名簿の備置き及び閲覧等(125条)

@株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。

A株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

一 株主名簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

B株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。

一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。

四 請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

C株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の株主名簿について第2項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

D前項の親会社社員について第3項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。

 

株式会社は株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合にはその営業所)に備え置かねばならず、株主・債権者・親会社社員は、一定の要件の下で株主名簿の閲覧等を請求することができます(125条)。これは、株主等が権利の確保または行使に関して調査を行うことを可能にし、株主等の保護を図るとともに、間接的には、株主等による監視を通じて会社の利益を保護することが趣旨です。

実務としては、株主提案が起こされたときや会社提案に反対の株主が、他の株主の支持を募ったり、そのための委任状を勧誘するために、株主名簿を閲覧する場合があります。

ü 株主名簿の備置き

株主名簿は、株主名簿管理人を置かない場合には会社の本店(27条3号)に備え置き、株主名簿管理人を置く場合(123条)には、株主名簿管理人の営業所に備え置かなければなりません(125条1項)。ここにいう営業所とは、株主名簿管理人が株主名簿に関する事務を取り扱う場所を指し、商法にいう営業首(商法20条)または会社法にいう本店、支店(27条3号、362条4項)に該当するとまで限定しなくてもいいとされています。

ü 株主名簿の閲覧等の請求

・請求権者

株主名簿の閲覧等の請求ができるのは、株主および会社債権者(125条2項)で、さらに親会社社員もまた権利行使のために必要あるときは、裁判所の許可を得て請求することができます(125条4項)。

なお、単元未満株主は、議決権を有していないと言っても株主であることに変わりはなく、閲覧等の請求権を有しています。これは定款に規定することより単元未満株主から、この権利を奪うことはできません(189条2項、会社法施行規則35条1項)。また、新株予約権は、債権の一種であると解され、新株予約権者は債権者として閲覧等の請求権を有するとされています。

これらの者は、代理人によって閲覧等の請求をすることもできます。

・請求権の行使

株主や債権者等は、会社の営業時間内はいつでも、株主名簿の閲覧または謄写を請求することができます(125条2項)。株主名簿が電磁的記録により作成されている場合は、記録された事項を紙面または映像面に表示したものの閲覧または謄写を請求することができます。また、会社の親会社社員も、権利の行使のために必要があるときは、必要な理由を疎明して裁判所の許可を得ることにより、株主や債権者と同じように請求をすることができます(125条4号)。

@)営業時間

株主等が閲覧等を請求することができるのは、会社の営業時間内だけであり、会社は、営業時間外の請求を拒むことができます。

閲覧等の請求が営業時間内に限定されているのは株主名簿を保管・管理する部門が業務を行っている時間帯でなければ,会社の負担が大きくなりすぎるからであり、したがって、ここにいう会社の営業時間とは、その会社の正規の就業時間のことを指し、例えば店舗における顧客向けの営業時間とは必ずしも一子しないことがあります。

なお、条文の文言では株式会社の営業時間内とされていますが、株主名簿管理人を置く場合には、株主名簿管理人の営業所に備え置くべきこととなるので、その場合の営業時間とは、株主名簿管理人の営業時間を指します。

A)請求の理由

閲覧等の請求は、その請求の理由を明らかにしてしなければなりません(125条1項)。会社法制定前の旧商法の下では、株主等が閲覧等の請求をするために、とくに請求の理由を明らかにする必要はなく、ただ会社は、その請求が濫用的なものであることを証明する時は、この請求を拒否できると解されていました(最高裁判決平成2年4月17日)。これに対して会社法が制定されると、会計帳簿閲覧等請求に関する規定に揃えるように、請求の理由を明らかにすべきことを明文化しました。

株主等に請求の理由を明らかにすることを求めるのは、拒絶事由(125条3項)が存するかどうかの判断を会社が行うことができるようにするためであると解されています。したがって、ここで求められている理由は、具体的な閲覧等の目的を掲げることを要し、単に権利の確保または行使のためという程度では足りないと感がられています。理由を書面の形で記載することは条文では求められていませんが、理由を付さず、または不適法な理由を付した請求は効力を生じないで、過去に理由を提示したことの立証責任は株主等の側にあります。

B)閲覧・謄写

閲覧とは読むまたは調べることを意味し、謄写とは書き写すことを意味します。株主等に閲覧・謄写のけんりがあるとしいうことは、会社の側からいえば、株主等に閲覧・謄写のための場所を提供して閲覧・謄写させ、その間、閲覧・謄写を妨げてはならないという義務を負うということを意味します。

株主等が有するのは閲覧・謄写の権利だけであり、株主等は会社に対して謄本や抄本の交付を求めることまでは認めていません。それゆえ、会社の複写機を使用させることを求めることはできません。会社の側から任意に、株主等の求めに応じて会社の複写機を利用させることは差し支えありませんが、その場合には株主平等の原則との関係から、すべての請求者に同じ対応をしなければならなくなります。

・請求の拒絶

閲覧等の請求は、株主等と有する利益のために行使されるべきものであって、株主等としての資格と離れた純個人的な利益のために行使することは、権利の濫用として認められるものではありません。

会社法制定前の旧商法の下では、会社が閲覧等の請求を拒み得る場合についての明文の規定は存在しませんでしたが、閲覧等の請求が不当な意図・目的によるものであるなど、権利の濫用と認められる場合には、会社は請求を拒絶することができると解されていました(最高裁判決平成2年4月17日)。これに対して会社法では、拒絶理由を明文で定めています(125条3項)。

会社は、法定の拒絶事由に該当することを立証した場合にのみ、請求を拒むことができます(125条3項)。親会社社員が閲覧等を請求する場合には、裁判所は法定された拒絶事由が存在する時は閲覧等の許可をすることができません(125条5項)。拒絶事由がないにもかかわらず、会社が株主等の閲覧等の請求を拒んだ場合には、株主等に対して損害賠償責任を負い、取締役は過料の制裁を科せられることになります(976条4項)。

会社法が定めている拒絶事由は次の通りです。

@)請求者が権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき(125条3項1号)

閲覧等の請求権は、株主等が株主等として有する権利の確保または行使に関する調査のために会社法が認めたものであり、これと離れた目的で閲覧等を請求することは権利の濫用であって認められません。たとえば、自己の商品の販売促進のためのダイレクトメールを送る目的で閲覧等を求める場合、学問上の関心などの個人的興味から閲覧等を求める場合等が該当します。

A)請求者が会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき(125条3項2号)

会社の業務の運営または株主共同の利益を害するために行使することが、権利の濫用として認められるのは当然のことです。例えば、不必要に相次いで閲覧等を求めるような場合が該当します。

B)請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき(125条3項3号)

この拒絶事由は、株主名簿からも会社の資本政策等に関する情報が把握される可能性があるとの理由から、会計帳簿の閲覧等請求の場合と揃えた形で設けられた事由です。

裁判例においては、この拒絶事由では、前記@およびAの拒絶事由の存在の証明責任を転換するにすぎず、請求者が競争関係にある事業を営んでいる場合であっても、それだけでは拒絶事由とはならず、その者が権利の確保または行使に関する調査の目的で請求を行ったことを証明できれば、会社は閲覧等の請求を拒絶することはできないとしています(東京高裁判決平成20年6月12日)。

C)請求者が閲覧等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき(125条3項4号)

このような請求は、株主等としての利益のために権利を行使するためでないのはもとより、株主のプライバシーを害するおそれもあり、権利の濫用に当たります。いわゆる名簿屋等に情報を売却するために請求をしたような場合が、これにあたります。

D)請求者が、過去2年間に、閲覧等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき(125条3項5号)

前項と同様の趣旨から、会社は、過去2年以内に前歴のある者の請求も当然に拒絶できます。過去2以内の前歴は、その会社に関するものである必要はなく、いずれの会社についても存すれば足りると解されています。

ü 実際に株主名簿の閲覧等の請求を受けた場合の実務

実際に、株主等から株主名簿の閲覧等の請求が会社にたいして行われるのは、株主総会の前ということが、最も多いと思われます。そのため、普通は、株主総会の準備の一環として、総会担当者が実務では担当する会社が多いと思われます。

実際に株主等から閲覧等の請求を受けた場合の会社の対応の手順を簡単にまとめておきます。

@本人確認

まず、株主名簿の閲覧等の請求をしてきた者が請求権者であるかを確認します。つまり、請求者が株主  本人かどうか、代理人であれば本人からの正当な授権があるかの確認です。なお、多くの会社では定款で代理人を株主に限定しているので、代理人も株主であるかの確認も必要となります。

本人確認の方法について株式取扱規程などで規定されていて、その規定に従って行われます。多くの会社が参考にしている全株懇モデルの規定例を参考としてあげておきます。

〔参考〕全株懇モデルの株式取扱規程

第3章株主確認

(株主確認)

第10条 株主(個別株主通知を行った株主を含む。)が請求その他株主権行使(以下「請求等」という。)をする場合、当該請求等を本人が行ったことを証するもの(以下「証明資料等」という。)を添付し、または提供するものとする。ただし、当会社において本人からの請求等であることが確認できる場合はこの限りでない。

2当会社に対する株主からの請求等が、証券会社等および機構を通じてなされた場合は、株主本人からの請求等とみなし、証明資料等は要しない。

3代理人により請求等をする場合は、前2項の手続きのほか、株主が署名または記名押印した委任状を添付するものとする。委任状には、受任者の氏名または名称および住所の記載を要するものとする。

4代理人についても第1項および第2項を準用する。

上記の規定に基づいて、実際には次の手順で本人確認を行います。

.株主名簿閲覧等の少数株主権行使の請求書(署名または記名押印のあるもの)および株主本人確認資料の提出を受ける。

※株主名簿の閲覧等や会計帳簿の閲覧等といった少数株主権行使の請求書を会社であらかじめ作成しておいて、請求者には、その請求書に記入して提出を求めるようにしている会社が多いと思います。

請求書の書式はこちらを参考として下さい。

.個別株主通知にて通知される株主の氏名または名称および住所と株主本人確認資料上の氏名または名称および住所の一致を確認する(少数株主権等の内容によっては、個別株主通知が発行されるまでの4営業日間は、個別株主通知の請求時に交付される受付票で、その権利行使を即座に認めることも考えられる)

.対面での権利行使において、株主本人確認資料に顔写真が貼付されている場合は顔写真と対面している株主が同一人物かどうか確認する。

.株主本人確認資料が請求書への押印と当該印鑑にかかる印鑑登録証明書の場合には、印鑑照合を行い確認する。

.法人株主が行う場合であって、対面で権利行使の場合には、対面者についても本人確認を行う。

・法人株主に対しては、委任状や職務代行通知書に以下の本人確認書類のBのaまたはbの本人確認書類の提示を求める以外にも、社員証や名刺の提示を受け、法人株主への電話等による権限確認をもって権利行使を認めることも考えられる。

この本人確認のための確認資料として次のものが挙げられます。

.株主名簿閲覧等の少数株主権行使請求書への印鑑の押印と当該印鑑にかかる印鑑登録証明書

.対象株主が個人の場合((4)の外国人を除く)

.マイナンバー・カード、運転免許証(運転経歴証明書を含む)、各種健康保険証※1、国民年金手帳※2、身体障害者手帳※2、母子健康手帳、在留カード、特別永住者証明書、住民基本台帳カード、旅券等

(非対面の場合は写しでも可)

1 「国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療もしくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合もしくは地方公務員共済組合員証または私立学校教職員共済制度の加入者証」が含まれる。

2 「国民年金法第13条第1項に規定する国民年金手帳、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保険福祉手帳、療育手帳または戦傷病者手帳」が含まれる。

.aのほか、官公庁発行書類等で氏名、住所の記載があり、顔写真が貼付されているもの。

.対象株主が法人の場合((4)の外国法人を除く)

.登記事項証明書

.aほか、官公庁発行書類等で法人の名称および本店または主たる事務所の記載があるもの。

.本邦に在留していない外国人および外国に本店または主たる事務所を有する法人

上記(1)(2)(3)のほか、日本国政府の承認した外国政府または国際機関の発行した書類等であって、本人特定事項の記載のあるもの。

.上記の他、株主本人であることを確認できる他の書類を用いることができる。

<全株懇株式取扱規程モデル>第10条第1項ただし書では、「当会社において本人からの請求等であることが確認できる場合はこの限りでない」とされている。具体的には、株主と面識のある場合は、特に株主本人確認の資料を求めず、株主が社員である場合には社員証、株主が取引先であれば取引印鑑の少数株主権等の請求書への押印をもって株主本人確認とすることが考えられる。

A閲覧等拒絶事由がないかどうかの確認

請求者の本人確認が完了したら、少数株主権行使の請求書に株主名簿の閲覧等を請求する理由が記載されているかを確認します。この理由の記載内容を吟味し、125条3項の拒否事由に該当するかいなかを確認します。

B株主名簿の閲覧等

請求者が本人であることを確認し、請求が拒絶事由に該当しないことが確認できたら、請求に応じることとなります。この場合、社内手続きでしかるべき責任者の承認等を得ることは言うまでもありません。

そこで実際の株主名簿の閲覧等ですが、基準日の名簿であれば、株主名簿管理人と連絡により、請求者には株主名簿管理人のところに行ってもらうか、データを会社に送ってもらい、パソコンのディスプレイに表示したのを閲覧等してもらうか、ということになります。これは、各会社が株主名簿管理人と間で、どのように行うかの取り決めをしているので、その方法に従います。

なお、請求者が基準日以外の日付の株主名簿の閲覧等を請求してきた場合には、すぐには閲覧に応じることはできず、保振に総株主通知を請求して、株主名簿を整える必要があります。

C閲覧等の手数料

法定事項ではありませんが、株主名簿の閲覧等に応じた場合の手数料については、各会社が独自に株式取扱規程等で定めているので、それに従います。

会社によっては、手数料をとらなかったり、コピー機を使用した場合は実費を請求したりしています。


 

関連条文

 株主名簿(121条)

 株主名簿記載事項を記載した書面の交付等(122条)

 株主名簿の管理人(123条)

 基準日(124条)

 株主に対する通知等(126条)

 

 
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