新任担当者のための会社法実務講座
第325条の2 電子提供措置をとる旨の定款の定め
 

 

Ø 電子提供措置をとる旨の定款の定め(325条の2)

株式会社は取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、次に掲げる資料(以下この款において「株主総会参考書類等」という。)の内容である情報について、電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合にあっては、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいう。以下、この款、第911条第3項第12号及び第976条第19号において同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。

一 株主総会参考書類

二 議決権行使書面

三 第437条の計算書類及び事業報告

四 第444条第6項の連結計算書類

 

ü 電子提供制度の趣旨

株主総会資料の電子提供制度は、株主総会参考書類等の株主総会資料に関して、会社が電子提供制度(電磁的方法により株主が情報提供を受けることができる状態に置く措置)をとった場合、株主の個別の承諾なくとも当該資料を適法にしたものとする制度です。

・従前の制度とその考え方(従前の制度について詳しくはこちらを参照願います)

株主総会資料等の電磁的方法による提供は、今回の法改正で新たに創設された制度ではなく、従来からもあった制度で、それをリニューアルした制度です。したがって、従前の制度を簡単に紹介し、今回の制度との違いを比べてみたいと思います。

従前の制度は、次の二つの枠組みで構成されていました。第一に、会社は株主総会招集通知を発する場合、株主総会参考書類と議決権行使書面を交付しなければならない(301条1項)。第二に、株主総会の招集通知を発する際に電磁的方法で行うことについて株主の承諾があれば書面に代わって行うことができる(299条3項301条2項)。

この制度の導入の背景について考えてみると、第一の制度、いわゆる書面投票制度に伴う書類での情報提供については、1981年の商法改正において、当時の株主総会は株式の相互持合いの普及や総会屋の跳梁跋扈により、株主総会の決議は、実質的に持ち合いをしている会社の意向や総会屋との裏取引で決まってしまうようになっていました。つまり、総会自体が形骸化し、それ以外の株主(個人株主を含む)にとっては株主総会に参加する意欲を失っていたという状態でした。これに対する危機感から、形骸化した総会を実質的に機能するものとするため、積極的に総会参加意欲を向上するために、個々の株主の意思が総会によりよく反映させる仕組みとして、個人株主の総会への参加意欲を高めるために議決権行使のために判断の基準となる情報を書面で十分提供するというものだした。その上、総会に出席できない株主の議決への参加を促すというものでした。

そして、第二の制度、書面による情報提供を電磁的方法でもできるようにした2001年の商法改正によるもので、高度情報化社会の到来に対応するため、株主総会関係書類を電磁的方法によって作成できるようにする、という趣旨のものでした。このような書面を電磁的方法に置き換えるに当たっては、書面による通知を受ける側の承諾があることが前提となり、これはデジタルデバイドに配慮したためです。

これらをまとめると、株主、とくに個人株主が会社経営に対する関心を持たず、株主総会が形骸化しているという危機感から生まれたせいどと言えます。

・新しい制度の考え方、従前の制度とその考え方の違いをもとにして

株主総会をめぐる状況は従前の制度の導入時から大きく変化しました。株式の持ち合いは見られなくなり、総会屋はほぼ根絶されました。そのため、会社にとって、総会の議決や定足数の確保が必要となり、株式会社は丁寧な株主総会の運営を図るようになってきています。

現在では、多くの上場会社の関心は、会社の意思決定に一定の影響力を持つようになって機関投資家への対応をどうするか、という点に移ってきました。株主総会において機関投資家に賛成票投じてもらうこと、ひいては機関投資家に安定的に株式を保有してもらうことです。そこで、従来とは制度のターゲットが変わったことが大きな違いです。従前の制度は、株主総会に関心の薄い個人株主でしたが、新しい制度では、会社経営に深い関心を寄せている機関投資家です。また、機関投資家は個人株主に比べて情報量や情報の分析能力が格段に勝っています。だからこそ、議決家行使に当たって情報の吟味のニーズに対応すべく、書面による情報提供の制約を取り去り(電磁的情報であればリンクにより情報の在り処を提示して、機関投資家に取得してもらうことが可能となる)、早期に付与することとなったのです。

・電子提供措置とは

電子手卿措置は、電磁気方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めると定義されています(325条の2)。具体的にいうと、株主総会資料をインターネットの自社のホームページ等にアップロードし、株主が閲覧できるような状態にすることです。株主が閲覧することができればよいので、パスワード等を要求して、株主以外の者が閲覧できないようにすることも可能です。実際のところ、自社ホームページで株主に限らず不特定多数の閲覧者に向けて株主総会資料を開示している会社が多い現状からは、パスワードで閲覧を制限することはないだろうと思われます。

また、注意しなくてはいけないのは、アップロードは、印刷することができる状態で行う必要があるという(会社法施行規則222条2項)点です。そのため、たとえば事業報告の内容に相当するものを社長が説明する動画を自社ホームページにアップロードしたとしても、それは事業報告に関して電子提供されたとものとはみなされません。

ü 電子提供制度の定款

・電子提供措置をとる旨の定款の定め

会社が電子提供措置をとる場合、定款に電子提供措置をとる旨の定めを置かなければなりません(325条の2)。また、電子提供措置の対象となる株主総会資料は次の書類です。

株主総会参考書類

議決権行使書面

計算書類・事業報告

連結計算書類

定款の定めによるとされているので、電子提供措置を採用するか否かは会社の任意です。しかし、上場会社は電子提供措置の採用が義務となっています(社債等振替法159条の2第1項)。これは、電子提供措置の機関投資家を念頭に置いたという趣旨から考えると、この措置をとるということは、その会社が、自らの株主構成がどのようなものであるかに関わらず、上場会社は機関投資家を念頭に置いて株主総会運営をすることを宣言することになります。

定款に定める事項は電子提供措置をとる旨だけで足りるとしています(325条の2後段)。これは、定款に電子データを掲載するウェブサイトのアドレスまでを定めなければならないとすると、そのアドレスを変更しようとするたびに、定款の変更を株主総会で決議しなければならなくなります。その煩雑さを避けて、定款にウェブサイトのアドレスまでを記載しなくてもよいとされたものです。

そして、電子提供措置をとる旨の定款の定めにいて登記すべき事項になっています(911条3項12号)。このことは、電子提供措置をとる旨の定款の定めが株主以外の第三者との関係で意味をもつものとされていることを明確化したということです。

・みなし定款変更(経過措置)

上場会社は電子提供措置のをとる旨の定款の定めを設けることが義務付けられている関係で、上場会社は改正法の施行日を効力発生日として電子提供措置をとる旨の定めを設けると定款変更決議をしたものとみなされます(整備法10条2項)。つまり、この件について株主総会の定款変更の承認決議を受ける必要がないということです。

また、この定款の定め登記事項であるため登記申請が必要となるところ、みなし定款変更に基づく登記は施行日から6か月以内に行えば足りるとされています(整備法10条4項)。

なお、みなし定款変更が経過措置として定められているのは、電子提供措置をとる旨の定款の定めのみで、それ以外の定款の定めについては株主総会の承認が必要です。 

ü 上場会社等における電子提供制度の利用の義務付け

上場会社等の振替株式を発行する会社、株式を上場し保振制度によって株式を購入することができる会社は、類型的に、その株式の売買が頻繁に行われ、不特定多数の株主がいることが想定され、所有と経営の分離の程度も大きいので、株主総会において議決権を行使するため、株主総会参考書類等の内容を検討する期間を確保することが重要となります。そのため、振替株式を発行する会社は、電子提供制度を利用することを義務付けられることによって、投資家が議決権を行使するために株主総会参考書類等の内容を検討する期間を確保する必要性の高さに対応させられると考えられます。また、振替株式を発行する会社は、総じて、株主の数が多いから、株主総会資料の電子提供制度を利用することによる時間や費用の削減などの便益は大きいと見込まれ、電子提供制度を利用することを義務付けことによって株主総会実務の負担を軽減できると考えられました。

そこで、振替株式を発行する会社については、電子提供措置をとる旨を定款で定めなければならないとし、電子提供制度を利用することが義務付けられました(振替法159条の2第1項)。

※経過措置

振替株式を発行する会社が電子提供措置をとる旨を定款で定めるなければならないとすると、このような会社は、改正法の施行日をその定款の変更が効力を生ずる日として定款を変更していなければならないことになってしまうと、実務に混乱が起こるおそれがあります。そこで、改正法の施行日において振替株式を発行している会社は、改正法の施行日をその定款の変更が効力を生ずる日としする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更の決議をしたものとみなすことと規定されました(整備法10条2項)。

また、定款変更の決議をしたものとみなされる会社は、その決議をしたものとみなされた後に、株主が書面交付請求をするための期間を一定期間保証しておかないと、株主に不測の不利益を生じさせるおそれがあります(325条の5第1項)。そこで、経過措置として、その会社の取締役が改正法の施行日から6ヶ月以内を株主総会の日とする株主総会の招集手続きについては、なお従前の例によることとし、かつ、その期間は、株主は種面交付請求ができるとしています。つまり、みなし定款変更の対象となる会社の株主総会であって、その招集手続きで電子提供措置がとられるものは、速くても施行日から6ヶ月後以降を開催日とすることになります。そして、株主総会の基準日から株主総会日までの期間は3ヶ月をこえることができない(124条2項)ので、そのような株主総会の基準日は、最も早くてもその3か月前、すなわち施行日から3ヶ月を経過した日となります。したがって、株主には、書面交付請求のために、少なくとも3ヶ月の期間が保障されることになります。

ü 電子提供措置の登記

電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるかどうかは、株式を取得しようとする者にとって重要な事実です。それゆえ、登記により公示される必要があると言えます。そこで、電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは、その定めを登記しなければならないとしています(911条3項12号の2)。なお、電子提供措置のウェブサイトのアドレスについては、招集通知の記載事項として株主に提供されることとなり、登記事項とする必要性は高くないとされ、また、ウェブサイトのアドレスを変更するたびに変更登記の申請を要するものとすると煩雑になってしまうので、電子公告の場合とは異なり、登記事項とはなっていません。

 

関連条文

電子提供措置(325条の3) 

株主総会の招集の通知等の特則(325条の4) 

書面交付請求(325条の5) 

電子提供措置の中断(325条の6)

 

 
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