新任担当者のための会社法実務講座
第325条の3 電子提供措置
 

  

Ø 電子提供措置(325条の3)

@電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、第299条第2項各号に掲げる場合には、株主総会の3週間前の日又は同条第1項の通知を発した日のいずれか早い日(以下この款において「電子提供措置開始日」という)から株主総会の日後3箇月を経過する日までの間(以下この款において「電子提供措置期間」という)、次に掲げる事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない。

一 第298条第1項各号に掲げる事項

二 第301条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項

三 第302条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項

四 第305条第1項に規定による請求があった場合には、同項の議案の要領

五 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第437条の計算書類及び事業報告に記載され、又は記録された事項

六 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第444条第6項の連結計算書類に記載され、又は記録された事項

七 前各号に掲げる事項を修正したときは、その旨及び修正前の事項

A前項の規定にかかわらず、取締役が第299条第1項の通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、前項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

B第1項の規定にかかわらず、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日まで第1項各号に掲げる事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第27条の30の2に規定する開示用電子情報処理組織(以下この款において単に「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、同項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

 

ü 電子提供措置とは

電子提供措置は、電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置です。具体的なことは法務省令に定めるとされています。要するに、株主総会資料をインターネット上の自社ホームページ等にアップロードし、株主が閲覧することができる状態にすることです。株主が閲覧できればよいので、パスワードなどを要求して株主以外の者が閲覧することができないようにすることも可能です。

またアップロードは、印刷することができる状態で行う必要がある点には留意が必要です、そのため、たとえば、事業報告の内容に相当するものを社長が朗読する動画を自社ホームページにアップロードしていたとしても、事業報告に関して電子提供措置をとったものとは認められません。

ü 電子提供措置期間(第1項)

電子提供措置の開始日は、株主総会の日の3週間前の日または招集通知を発した日のいずれか早い日で、これを電子提供措置開始日と呼び、終了日は、株主総会の日後3ヵ月を経過する日までとされています(325条の3第1項)。

なお、電子提供措置開始日に関しては金融商品取引所の規則で、上場会社は、株主総会の日の3週間前よりも早期にするように努める規律が設けられています。

ü 電子提供措置事項(1項1〜7号)

電子提供措置の対象事項は電子提供措置事項と定義され、従前の会社法で株主に対して書面での提供が必要とされる事項については、すべて電子提供措置事項に該当することになります。具体的にいうと、以下の通りです。ただし、会社の機関設計等により場合分けされているので、分かりにくいかもしれません。

1)298条1項に掲げる事項─狭義の招集通知記載事項(1号)

2)議決権行使書面を採用する場合、株主総会参考書類及び議決権行使書面(2号)

3)電子投票を採用する場合、株主総会参考書類(3号)

4)要件を満たす株主から請求があった場合、株主提案の議案の要領(4号)

5)取締役会設置会社が定時株主総会を招集した場合、計算書類及び事業報告─監査役・会計監査人の監査報告を受ける場合には、監査報告・会計監査報告を含む(5号)

6)会計監査人設置会社である取締役会設置会社が定時株主総会を招集した場合、連結計算書類(6号)

7)電子提供措置事項を修正した時、電子提供措置を修正した旨及び修正前の事項(7項)

※電子提供措置事項の修正(1項7号)

電子提供措置の内容に修正すべき事項が生じた場合には、その修正の内容についても電子提供措置事項として電子提供措置の対象となります。招集通知発送後に電子提供措置の内容を修正した場合であっても、再度招集通知を要しない。

原則として電子提供措置事項の修正は、修正内容をアップロードすれば無制限に許容されるというものではなく、有効に修正をすることができる範囲が従来のいわゆるウェブ修正(会社法施行規則653条3項)と同様に、誤記の修正または株主総会招集通知を発した日後に生じた事象に基づくやむを得ない修正等に限られ、内容の実質的な変更とならないものであると考えられます。

ただし、ウェブ修正は条文で対象事項が限定されています(狭義の招集通知記載事項、議決権行使書面記載事項、監査報告、会計監査人監査報告は修正できない)が、電子提供措置事項の修正に対して同様の条文上の規制はありません。したがって、修正の対象事項はその分広くなったと考えられます。

また、ウェブ修正は条文上招集通知を発送した後の修正を念頭に置いているのに対して、電子提供措置事項の修正は電子提供措置をとった時点から生じるものです。この違いを考えると、例えば株主総会の日の3週間前に電子提供措置を開始した場合、招集通知を発送する前であれば修正は柔軟に考えてもよいのではないかという意見もあります。

ü 電子提供措置事項の例外(2、3項)

電子提供措置を取ることを要しない場合として、次の二つの例外が認められています。

1)議決権行使書を交付した場合(2項)

議決権行使書面については、従来通り株主総会の招集の通知をする場合に招集通知とともに議決権行使書面を交付している場合には、電子提供措置をとる必要がないとされています。

議決権行使書面は、株主総会の受付において本人確認資料として用いられていることや、そこには各株主の氏名や議決権数が記載されるので、そのまま会社のホームページ等にアップロードして掲載するは適切でないと考える会社の意向を無視できないからです。

なお、議決権行使書面は、あくまでも書面による議決権行使の方法であり、電子投票とは違います。電子投票を取られている場合には、株主は、自ら議決権行使書面をプリントしたものを、会社に郵送する方法で用いられる事を想定されています。議決権行使書面について電子提供措置をとっていて、なおかつ、電子投票を取っていない場合には、株主ごとに情報が出力されるようにデータをアップロードしなければならないという問題だけでなく、同一の議決権行使書面が複数印刷されて郵送されるなどの可能性がある点も問題となってきます。この場合に備えて、あらかじめ取り扱いを定めておくことで対応は可能です(会社法施行規則63条3号)。実務では、議決権行使書面については、この例外を用いて従来と変わらず株主に交付することを多くの会社が選択するのではないかと思われます。

2)EDNETを用いた場合(3項)

有価証券報告書または添付書類に、定時株主総会の招集に際して電子提供措置が必要な資料(議決権行使書面を除く)に記載すべき情報を盛り込んだ形で、電子提供措置開始日までに、EDNETに登録すれば、その資料については電子提供措置をとること要しないとされています。これは、株式会社が会社法に基づく事業報告及び計算書類による開示と金融商品取引法に基づく有価証券報告書による開示を実務上一体的に行い、かつ、株主総会の前に有価証券報告書を開示する取組を促進する観点からとられている措置です。

この例外を利用するためには電子提供措置開始日(遅くとも株主総会の日の3週間前)までに有価証券報告書と添付書類をEDNETに登録しなければなりません。そのため、実務のスケジュールとしては、それができる会社は僅少なため、これにより電子提供措置を省略する会社はないのではないかと思われます。なお、この例外には議決権行使書面は対象に含まれていません。 

 

関連条文

電子提供措置をとる旨の定款の定め(325条の2) 

株主総会の招集の通知等の特則(325条の4) 

書面交付請求(325条の5) 

電子提供措置の中断(325条の6)

 

 
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