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第765条 持株会社を設立する新設
分割計画
 

 

Ø 持株会社を設立する新設割計画(765条)

@一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割設立会社が持分会社であるときは、新設分割計画において、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 持分会社である新設分割設立会社(以下この編において「新設分割設立持分会社」という。)が合名会社、合資会社又は合同会社のいずれであるかの別

二 新設分割設立持分会社の目的、商号及び本店の所在地

三 新設分割設立持分会社の社員についての次に掲げる事項

イ 当該社員の名称及び住所

ロ 当該社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別

ハ 当該社員の出資の価額

四 前2号に掲げるもののほか、新設分割設立持分会社の定款で定める事項

五 新設分割設立持分会社が新設分割により新設分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務(新設分割株式会社の株式及び新株予約権に係る義務を除く。)に関する事項

六 新設分割設立持分会社が新設分割に際して新設分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立持分会社の社債を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

七 前号に規定する場合において、二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する同号の社債の割当てに関する事項

八 新設分割株式会社が新設分割設立持分会社の成立の日に次に掲げる行為をするときは、その旨

イ 第171条第1項の規定による株式の取得(同項第1号に規定する取得対価が新設分割設立持分会社の持分(これに準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。ロにおいて同じ。)のみであるものに限る。)

ロ 剰余金の配当(配当財産が新設分割設立持分会社の持分のみであるものに限る。)

A新設分割設立持分会社が合名会社であるときは、前項第3号ロに掲げる事項として、その社員の全部を無限責任社員とする旨を定めなければならない。

B新設分割設立持分会社が合資会社であるときは、第1項第3号ロに掲げる事項として、その社員の一部を無限責任社員とし、その他の社員を有限責任社員とする旨を定めなければならない。

C新設分割設立持分会社が合同会社であるときは、第1項第3号ロに掲げる事項として、その社員の全部を有限責任社員とする旨を定めなければならない。

 

会社法765条は、新設分割により設立する会社が持分会社である場合の新設分割計画で定めるべき事項を規定しています。新設分割は、会社の設立手続と吸収分割手続を一体化した組織法上の作為なので、会社法はその条件の内新設分割設立会社の目的・商号・住所、新設分割により承継する権利義務や新設分割の対価等、強行法的に定めるべき事項を規定しています。

その意味は、第1に、新設分割計画で定めるべき事項を法定することによって、法的拘束力を有する新設分割計画の中心的な内容を確定させる意味をもつことです。法定の決定事項の定めを欠き、または違法な内容の定めがされている新設分割計画は無効となります(大審院判決昭和19年8月25日)。第2に、新設分割の当事会社の株主・社員が新設分割計画を承認するかどうかを判断する際に、提供されるべき情報の範囲を決める機能です。新設分割会社が株式会社である場合には、新設分割計画が有効となるためには株主総会の承認決議が必要である(804条1項)のに対して、765条では、株主の意思決定にとって重要な新設分割計画の本質的な事項が何であるかを明らかにしています。新設分割会社が合同会社であるときは、定款に別段の定めがある場合を除き、その事業に関して有する権利義務の全部を新設分割設立持分会社に承継させる場合には総社員の同意を必要とします(813条1項)。そのために、新設分割計画で決定すべき事項を法定することにより、合同会社の全社員が同意するかどうかを合理的に判断するために必要な情報が提供されることになります。また、議決権を行使できない株主や新設分割の承認決議に反対した株主にとっては、株式買取請求権等の株主権を行使し、または株式の売却等の措置を講ずるために必要な情報が提供される必要があります。新設分割計画の内容は、その法定の決定事項およびされに関する説明を中心に事前開示の対象さそれています。これは事後開示の場合も同じです。

ü 新設分割の手続きの概要

・新設分割会社が持分会社の場合

@)新設分割計画の作成と株主総会の承認

新設分割会社は新設分割契約を作成します。新設分割計画は、原則として、株主総会で特別決議による承認を受ける必要があります(804条1項、805条、309条)。この株主総会の招集通知および株主総会参考書類に新設分割を行う理由や新設分割計画の内容の概要が記載されていなければなりません(298条1項、会社法施行規則63条3号)。

新設分割会社は、新設分割契約承認のための株主総会の会日の2週間前の日の前日までに、労働者との間で労働契約の承継に関する協議するとともに、会社分割により労働者の労働契約が承継されるかどうかの通知を行い、労働者の異議申述手続を行わなければなりません(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)。

A)債権者異議手続・株式買取請求手続・新株予約権買取請求手続

債権者異議手続は、新設分割の登記までに終了していればよい(924条1項1号)のですが、債権者が異議を述べることができる催告期間は1か月以上とらなければなりません(810条)。

反対株主保護のための株式買取請求手続については、新設分割会社は、新設分割する旨および設立会社の商号・住所等を、株主総会の新設分割計画承認決議の日から2週間以内に株主に通知または公告しなければなりません。株式買取請求が認められる期間は、この通知または公告した日から20日以内までの間です(806条)。

新設分割会社が新株予約権を発行している場合は、新設分割会社の新株予約権者に対し新株予約権に代えて新設分割設立会社の新株予約権が交付される旨の定めが新設分割計画にある場合、または、それ以外の新株予約権で新設分割に際し新株予約権者に新設分割設立会社の新株予約権を交付することとする胸の定めがある場合、763条10号や11号の定めが、分割会社の新株予約権の内容として定められた新設分割設立会社により交付される新株予約権の条件に合致しないときは、新株予約権者は新株予約権の買取請求が認められます。新設分割会社は、新設分割計画についての株主総会承認決議の日から2週間以内に新設分割をする旨および設立会社の商号・住所等を対象新株予約権者に通知または公告をしなければなりません。新株予約権買取請求が認められる期間は、通知または公告をした日から20日以内です(808条)。

B)開示

新設分割会社は、新設合併契約等備置開始日(803条2項)から新設分割設立会社の成立の日後6カ月を経過するまでの間、本店に法定の事前開示書類・電磁的記録を備置かねばなりません(803条1項2号)。また、新設設立会社の成立後、遅滞なく、設立会社と協力して法定の事後開示書面・電磁的記録を作成し、設立会社成立の日から6か月間、本店に備置かなければなりません。

C)効力発生・登記

新設分割の効力は新設分割設立会社の成立の日に生じます(764条1項、766条1項)。法定の日から2週間以内に、新設分割をする会社については変更登記を、設立会社については設立の登記を行わなければなりません(924条)。新設分割の登記をするためには、株主総会の承認決議を受け、株式買取請求手続・新株予約権買取請求手続を完了し、かつ、債権者異議手続を終了していることが必要です(924条)。

・新設分割会社が合同会社の場合

@)新設分割計画の作成と総社員の同意

合同会社が新設分割会社となる場合は、合同会社を代表えする社員が新設分割計画を作成します。合同会社が新設分割会社となる新設分割では、新設分割会社の事業に関して有する権利義務の全部を承継させる場合には、合併に類似する効果が生ずることになるので、総社員の同意が必要となります(813条1項2号)。ただし、定款に別段の定めを置くことができます(813条1項但書)。

新設分割会社は、新設分割契約承認のための株主総会の会日の2週間前の日の前日までに、労働者との間で労働契約の承継に関する協議するとともに、会社分割により労働者の労働契約が承継されるかどうかの通知を行い、労働者の異議申述手続を行わなければなりません(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)。

A)債権者異議手続

合同会社が新設分割会社の場合には、株式会社である場合に準じて、債権者異議手続きが行われます(813条2項)。すなわち、新設分割の登記までに終了していればよい(924条1項1号)のですが、債権者が異議を述べることができる催告期間は1か月以上とらなければなりません(810条)。

B)効力発生・登記

新設分割の効力は新設分割設立会社の成立の日に生じます(764条1項、766条1項)。法定の日から2週間以内に、新設分割をする会社については変更登記を、設立会社については設立の登記を行わなければなりません(924条)。新設分割の登記をするためには、債権者異議手続を終了していることが必要です(924条)。

ü 新設分割計画

・法的性質

新設分割計画の作成は単独行為であり、到達の必要のない意思表示です。新設合併契約とは異なり、1社の株式会社または合同会社のみで新設分割計画を作成することができます。また、新設分割計画の作成は組織法上の行為でもあります。そのため、原則として、株主総会の承認または総社員の同意を必要とすること、代表者が計画を作成すること、および第三者に対して効力を有するなど、単なる債権的効力を超えた効力を持つなどの特色があります。

2社以上の株式会社または合同会社が共同して新設分割をする場合には、共同して新設分割計画を作成しなければなりません(762条2項)。共同新設分割計画の作成は、合同行為としての性質を有してます。共同新設分割の新設分割対価の割当に関する事項は、実質的には契約に類似しており、双方的意思表示であって、かつ到達を要する意思表示であると考えられます。

・新設分割計画の決定・効力発生

新設分割の場合は、新設分割計画作成の時点において、新設分割会社の権利義務の全部又は一部を承継する会社が未だ存在しないので、会社分割の契約相手が存在せず、契約を締結することはできません。会社法では、新たに設立する会社について権利義務を移転する形態の組織再編行為については統一的に計画の作成を要求されます。

新規分割計画の作成は、組織法上の行為であるので、分割会社の代表取締役・代表者により作成される必要があります。簡易分割の場合を除いて、取締役会設置会社では取締役会決議に基づくことが必要です。簡易分割に該当する場合でも、合現事業を立ち上げるなど重要な業務執行に該当する場合には、取締役会決議が必要となります。

新設会社分割計画が効力を生ずるためには、原則として株主総会の特別決議による承認が必要です(804条1項、805条)。2社以上の会社が共同して新設分割計画を作成する場合も含め、株主総会の承認決議より前に作成されても、決議後に作成されても構いません。

新設分割計画が有効となるのは、新設分割会社の株主総会で特別決議を要する原則的な場合なら、かあ゛節総会の承認決議がなされた時点であり、共同新設分割の場合はすべての新設分割会社の株主総会で新設分割計画の承認決議が為された時点です。

・要式性

新設分割計画には、書面や電磁的記録による作成は会社法上、要求されておらず、不要式の行為とされています。ただし、実務上は、組織法上の行為が書面や電磁的記録によって作成されていなくて、代表者の署名もないと、新設分割計画の有効な作成とは、認められにくい。また、新設分割の登記申請には、新設分割計画の添付が必要とされているので、書面などで作成されるのが一般的です。

・撤回・変更

単独行為であり、かつ到達を要しない法律行為である新設分割計画の作成は、新設分割の効力発生日である新設分割設立会社の成立の日までは、自由に撤回または変更することができます。株主総会の承認決議前の段階であれば、業務執行機関の決定により、撤回・変更が可能です。それに対して、株主総会の承認決議魏後には、施設分割計画の撤回・変更は、株主総会の決議が必要となります。

共同新設分割計画の撤回・変更は複数の当事会社が共同で行わなければなりません。

ü 法定の決定事項

・会社の種類・目的・商号・住所(765条1項1、2号)

新設分割では、新設分割設立持分会社が、合名会社、合資会社または合同会社のいずれかであるかを定めなければなりません(765条1項1号)。また、新設分割設立持分会社の目的、商号、本店の所在地を定めなければなりません(765条1項2号)。持分会社の目的、商号、本店の所在地は、持分会社の定款の絶対的記載事項です(576条1項1〜3号)。

・社員に関する事項(765条1項3号、4号)

新設会社分割計画には、新設分割設立持分会社の社員に関する事項として、社員の名称・住所(765条1項3号イ)、社員が無限責任社員であるか有限責任社員であるかの別(765条1項3号ロ)および社員の出費の価額(765条1項3号ハ)を定めなければなりません。これらの事項も持分会社の定款の絶対的記載事項です(576条1項4〜6号)。です。そして、新設分割設立持分会社が合名会社であるときは、社員の全員を無限責任社員とする旨(765条2項)、合資会社であるときは、社員の一部を無限責任社員とし、その他の社員を有限責任社員とする旨(765条3項)、合同会社であるときは、社員の全員を有限責任社員とする旨(765条4項)を定めなければなりません。持分会社の種類として位置づけたことに伴う措置であり、576条2〜4項に定める定款記載事項に対応しています。

・承継する権利義務(765条1項5号)

新設分割計画により新設分割設立会社が新設分割から承継する権利義務を定めることが必要です。新設分割計画に定められて権利義務が、新設分割の法定の効果として、新設分割会社から新設分割設立会社に一般承継されます。会社分割の対象は権利義務の一部であっても構わないので、承継される権利義務を明らかにする必要があります。したがって、承継される権利義務の対象を特定できるように決定しなければなりません。

新設分割会社の権利義務のうち、会社に留まるのか新設分割設立会社に承継されるのか不明なものがある場合には、原則として新設分割計画の効力がその権利義務に及ぶための要件を欠いているとして承継の対象とはなりません。しかし、承継される権利義務のすべてを個別に詳細に列記しなければならないとすると、実務上大きな負担となるばかりでなく、会社内部の秘密情報の漏洩をまねくおそれがあると憂慮されます。吸収分割契約の法定決定事項は、契約にとって本質的な重要事項を確定させるということだけでなく、議決権行使など株主等が合理的で適正な行動をとることができるように情報提供の範囲を決めるものでもある。通説では、承継する権利義務を逐一すべて決定する必要はなく、特定可能な仕方で決定されていれば足りるとしています。具体的には次のような点が挙げられます。

@新設分割会社の事業に関して有する権利義務の全部を承継させるときは、「新設分割会社の事業に関して有する権利義務の全部」という記載で足りる。

A事業ごとに権利義務の範囲を区分するときは、「新設分割会社の甲事業部門に属するすべての権利義務」という記載で足りる。

B新設分割会社に留まる権利義務を特定し、それ以外の権利義務の一切を新設分割設立会社に承継するという定めは、対象を特定するという観点からは問題がない。

C新設分割により承継される権利義務を特定することが重要であるから、その権利義務が貸借対照表に計上される能力を有するか否かを問わない。したがって、償却済みの資産や自家創設ののれんなども対象とすることができるし、事業を承継する場合には顧客などの事実関係も対象とすることができます。

会社分割による承継の対象となる権利義務に該当するかどうは、権利義務の種類や性質に応じて検討することになります。具体的には以下のとおりです。

@)公法上の法的地位

公法上の法的地位は会社分割の対象となります。それぞれの準拠する法令の趣旨を考慮し個別に判断されることになりますが、契約で承継される権利義務として定めることにより会社分割の対象となります。

例えば、分割会社にあった法人税法上の繰越欠損金は、適格分割型分割でその効果が合併に似ていて、かつ企業グループ内において租税回避目的で行われる分割と認められない場合には、新設会社に承継することができます(法人税法57条3項)。また、業務法上の許可や免許ではそれぞれの業務法に個別に規定が置かれていますが、営業の分割により、とくに認可を要することなく、当然に登録または届出によって地位が承継されると規定されている業務法もあります。

A)民事訴訟法上の法的地位

民事訴訟法上の地位は、会社分割の対象とはならないので、それだけを会社分割による承継の対象にすることはできずことはできず、民事訴訟法の一般原則に従います。

B)私法上の権利義務

@事業の全部または一部を対象とする場合

実務上、例えば、事業譲渡契約では一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する包括的な財産を譲渡の対象とするところから、細部に至るまで記載することまでは求めず、事業譲渡の対象が譲渡会社の現在の事業全部または一部、一部であるときはどの部門なのかを客観的に把握できればいいとても事業を構成する設備等のうち具体的に特定できる者は、譲渡財産として別に条項を設けるのが一般的であるとされています。

会社分割による承継の対象が事業の全部または一部である場合には、実務上は、前述のような事業譲渡と同じような仕方で、新設分割計画への記載は有効とされています。たとえば、「新設分割会社の事業のうち、甲に関する事業を承継し、承継権利義務明細表に効力発生日前日までの増減を加除した資産、負債及び権利義務を、効力発生日において吸収分割設立会社に引き継ぐ」といった記載をした上で、承継権利義務明細表および内訳表を添付するというものだ。

A権利義務の種類による記載

事業の全部または一部を吸収分割の対象とした上で、個々の権利義務を承継権利義務明細に記載する場合、または、事業概念を媒介することなく個々の権利義務を吸収分割の対象とする場合の記載について述べていきます。

a)不動産

不動産について、会社分割の対象を事業の全部または一部とする場合であって、事業を構成する不動産であっても、個別に特定したうえで記載することが望ましいと考えられます。不動産に関する共有権も吸収分割により承継可能です。

b)動産

自動車や船舶のような登記や登録の可能な動産については、不動産の場合と同様に、個別に特定して記載することが望ましい。「特定」されたと評価されるかどうかは、会社分割の対象が事業の全部または一部である場合には、事業譲渡契約と同じように考えることができる。

※担保権の取扱い

担保権の対象となっている資産を会社分割の対象に含めて分割会社から設立会社に承継した場合には、担保権の負担もそのまま移転することになります。この場合の担保権者と設立会社との関係は、会社分割の実行前に担保権が設定されていれば、設立会社は対抗できないとされています。

※根抵当権の取扱い

担保権の中でも、被担保債権とともに処分を行うことが必要とされていない根抵当権については、その会社分割における取扱いについては法律上特別な定めが置かれています。まず、@分割会社が根抵当権者である場合、根抵当権の被担保債権の元本が確定する前に根会社分割が実行されると、この根抵当権は、会社分割の実行時点で存在する分割会社の債権に加え、会社分割実行後に分割会社と設立会社の各々が取得する債権も根抵当権の被債券担保となります(民法398条の10第1項)。また、A分割会社が根抵当権の被担保債権の債務者である場合、根抵当権の設定されている不動産が会社分割の対象となるか否かにかかわりなく、会社分割の実行時点で存在する分割会社の債務に加え、会社分割実行後に分割会社と設立会社の各々が負担する債務も根抵当権の被担保債権となります(民法398条の10第2項)。

c)債権

金銭債権のような分割可能な債権については、その全部または一部を会社分割により承継させることができます。分割可能であるが当事者間の特約により分割を禁止された債権や合意に基づく譲渡禁止債権であっても、原則として会社分割による承継は可能であると考えられています。この点は一般承継という法的効果を有する会社分割の大きなメリットです。将来債権については、範例上、将来発生すべき債権を目的とする債券譲渡契約は、契約内容が譲渡人の営業活動等に対して相当とされる範囲を著しく逸脱したり、他の債権者に不当な不利益を与えるなどの特段の理由がない限り、有効とされます(最高裁判決幣制11年1月29日)。

債権または将来債権の特定については、譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別できる程度に特定されている必要があります。特定されているかどうかの判断要素として、発生原因となる取引の種類、発生期間等に加えて、取引関係や事業等の発生原因などの諸般の要素を勘案し総合的に判断される。

d)契約上の地位

契約上の地位を会社分割により承継させることの可否は、一般的に論ずることはできず、各契約の趣旨や会社分割の個別具体的な状況によって異なってきます。しかし、以下にあげる場合を除き、原則として契約上の地位を会社分割により承継会社に承継することができるとされています。

.契約上の地位に基づく権利義務の一部を承継させること、例えば、ある契約に基づく解除権や取消権などは、それ以外の権利から分離して、会社分割の当事会社に別々に帰属させることはできない。

.競業禁止契約に基づく競業禁止義務のように、権利義務の性質上、経済活動の自由に対する成約を含むためにそれ自体の譲渡が一般に認められていない契約上の地位については事案ごとに検討すべき

.信託契約、賃貸借契約などの長期間継続的な関係や、ライセンス契約等の契約相手方の専門性やノウハウなどに基づく契約上の地位は、事案ごとに検討すべき

.事業全部の経営の委任・賃貸借契約や損益共通契約などについては、会社分割の対象になりません。

d)債務

一般的に、債務者が自らの債務を第三者に移転・承継する方法としては、移転・承継後債務者が債権者に対して債務から免責される免責的債務引受けと、移転・承継後も債務者が債権者との関係では引き続き債務を負担する重畳的債務引受けの二つの方法がある。分割会社の債務を会社分割の対象として新設会社分割計画に記載した場合には、原則として免責的債務引受けと同じ効果生じることとなります。しかし、新設会社分割計画で会社分割設立会社が会社分割の対象となる債務の全部または一部を、重畳的に承継する旨を規定した場合には、重畳的債務引受けの場合と同じように、会社分割の実行後も債権者との関係ででは分割会社も引き続き債務を負担することとなり、債権者は分割会社・設立会社のどちらにも債務の履行を請求できます。

なお、未発生債務や偶発債務について、基本的には。新設分割設立会社に承継させることができます。

e)労働契約・労働協約

会社分割の対象となる労働契約については、それ以外の一般の契約とは異なる例外的な法律上の取扱いが適用されます。すなわち、労働契約以外の一般の契約とは違い、労働契約の場合には、会社分割の対象となる事業に主として従事している労働者とそれ以外との区分に応じて、前者については、労働者本人が対象から除外されていることについて異議を述べれば移転・承継が認められ、後者については、労働者本人が異議を述べれば対象から除外されることとされています(労働契約承継法4、5条)。

※新設分割計画作成後、効力発生日までに発生した権利義務等の帰属

新設分割計画作成時には存在していたにもかかわらず、新設分割計画において分割会社にとどまるのか新設分割設立会社に承継されるのか決定されていないもの、あるいは新設分割計画作成後に新設分割会社に生じた権利義務の取扱い、とりわけ、新設分割会社のある事業部門を新設分割の対象とするような場合は、新設分割計画には明示されなかった権利義務や新設分割計画作成後、新設分割の効力発生日までの間に発生した権利義務であっても、新設分割の対象ととなる事業部門に関する権利義務については、新設分割設立会社に承継されると解釈することができます。「一定の事業部門に属する権利義務すべて」といった文言で包括的に含まれるという理由付けです。

※移転に制限のある権利義務を新設分割の対象に含めた場合の効果

例えば、ある種の営業許可など会社分割によっては承継の対象に含めることのできない権利義務を新設分割の対象とした場合、基本的には、その権利義務についてのみ移転の効力が否定されるにとどまり、新設分割全体がただちに無効となるわけではないと解されています。ただし、営業許可の移転が新設分割を行う全体条件となっているような場合には、営業許可の承継のための所定の手続等を捕っていなかったことが会社分割の無効原因となる可能性があります(名古屋地裁判決平成19年11月21日)。

・分割対価となる社債等に関する事項(765条1項6号)

新設分割設立持分会社は新設分割により新設分割会社に対して、新設分割の対価として新設分割設立持分会社の社債を交付するときは、その社債の種類及び種類ごとの各社債の合計額またはその数の算定方法を必ず定めなければなりません(765条1項6号)。

・事実上の人的(分散型)新設分割(765条1項8号)

旧商法では認められていた人的分割は、会社法では原則として認められません。しかし、765条1項8号は、新設分割株式会社を通じて、全部取得条項付種類株式の取得の対価または剰余金の配当という法形式で新設分割設立持分会社の持分を分割会社の株主に交付・配当することにより人的分割と同様の効果を認めました。会社法が人的分割や中間型の会社分割を廃止したのは、会社分割の対価および剰余金配当の対象財産の柔軟化を認め、承継会社の株式以外の財産を交付することが可能となった会社法の下では、人的分割や中間型の会社分割を、会社分割の対象資産等を単に売却して剰余金の配当等により金銭等を分割する場合と区別することが困難になったためです。

その手続きとしては、新設分割設立持分会社の設立の日に全部取得条項付種類株式の取得または剰余金の配当を行う旨を新設分割計画に明記し、それぞれの手続きを履践する必要があります。全部取得条項付種類株式の取得には株主総会の特別決議が必要です(171条1項)。また剰余金の配当として吸収分割承継会社の株式を現物配当するときも株主総会の特別決議が必要となります(454条4項)。ただし、いずれの場合も、会社分割の対価が設立会社の持分に限られるときは、分割可能額規制の適用が除外されます(792条)。765条1項8号の規定により分配可能額規制の適用が除外されるためには、事実上の人的分割を行う場合に交付される新設分割設立会社の持分は、新設分割の対価として交付された新設分割設立会社の持分が新設分割会社の株主に交付される場合に限られます。

新設分割設立持分会社の持分が無限責任社員の身分である場合には、新設分割会社の社員の保護の観点が必要になります。合併の場合には、全株主の同意があれば株主の不利益の問題はクリアできるとしていますが、会社分割の場合には相当する規定がありません。

ü 法定の決定事項以外の事項

新設分割計画で決定すべき法定事項以外の事項等について任意に定めることはできますが、新設分割の効力発生時に当然に効力が生ずるものではなく、設立会社の定款が作成されてはじめて効力が生じ、また、共同新設分割において規定された任意的記載事項については、共同新設分割の当事会社で債権的効力を生ずるにすぎず、新設分割計画を承認する株主総会決議とは別に、それぞれ法定の手続きに従わなければなりません。

実務上は、新設分割設立会社の成立の日、新設分割会社の新設分割設立会社に対する競業避止義務等について規定が置かれることも多いです。なお、このうち新設分割会社の新設分割設立会社に対する競業避止義務は、事業が会社分割の対象となっている場合には21条の規定が類推適用されると解されています。したがって、競業避止義務についての約定が為された場合には、21条2項の類推適用により分割の効力発生日から30年の期間内に限り有効とされるものと考えられます。

また、新設分割設立会社に何らかの義務を課す場合には、会社は新設分割の効力発生日すなわち成立の日まで存在しないのだから、新設分割設立会社の定款に規定しておくか、会社が成立した後、あらためて新設分割会社との間で契約を取り交わす必要があります。

 

 

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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