新任担当者のための会社法実務講座 第762条 新設分割計画の作成 |
Ø 新設分割計画の作成(762条) @一又は二以上の株式会社又は合同会社は、新設分割をすることができる。この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない。 A二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合には、当該二以上の株式会社又は合同会社は、共同して新設分割計画を作成しなければならない。 会社法762条は第1項で、株式会社または合同会社が、新設分割計画を作成することにより、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に承継できる旨を規定しています。762条1項は、新設分割を行うことのできる会社の種類を株式会社と合同会社に限定するとともに、1社または2社以上の会社が新設分割計画を作成することにより新設分割を行うことがい゛きると定めています。新設分割の場合は、新設分割計画作成後の時点で、新設分割会社の権利義務の全部又は一部を承継する会社が存在しないので、会社分割契約の相手が存在せず、吸収分割の場合とは異なり、契約を締結することができないわけです。 1つの会社が新設分割を行う場合として、分社化や持株会社化などグループ内再編の手法としての利用が考えられます。2社以上の会社が共同して新設分割計画を作成することにより新設分割をする共同新設分割も可能です(762条2項)。共同新設分割が利用される場合としては、グループ内再編の他、実質的な企業買収や合弁企業の設立などの場合が考えられます。単独新設分割の新設分割計画は組織法的な性格を持ち、共同新設分割における新設分割計画は組織法的性格に加えて債権的側面の両面があります。新設分割計画が組織法上の行為であることの意義として、@原則として株主総会の承認を要する、A第三者に対して効力を有する等単なる債権的効力を超えた効力を持つ、B新設分割無効の主張は会社分割無効の訴え(828条1項)によらなければならならず、法律関係の早期かつ画一的確定が図られているなどの特色をあげることができます。共同新設分割の場合には、2社以上の新設分割会社間で共同事業や合弁会社の契約が締結されるのが普通で、実質的には吸収分割契約のルールが類推適用される場合が多いと考えられます。 ü
新設分割とは 新設分割とは、1社または2社以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させること(2条30号)です。すなわち、会社分割により新会社が設立されるとともに、新設分割により承継される対象である権利義務が新設分割会社から新設設立会社に承継されます。新会社を設立し、新設された会社との間で吸収分割を行うと同じ結果となりますが、新設分割による場合の方が、会社の設立と吸収合併の手続きが一体化して、手続きが簡素化されています。 ü
会社分割の種類 ・吸収分割と新設分割 会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を既存の会社に承継させることを吸収分割と言います。これに対して、新設分割とは。会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を後者分割により設立する会社に承継させることを言います。吸収分割の場合に、会社分割を行う側の会社を吸収分割会社といい、会社分割により権利義務を承継する側の会社を吸収分割承継会社と言います。また、新設分割の場合に、会社分割を行う側の会社は新設分割会社と言い、会社分割により降ら多に設立され権利義務を承継する会社を新設分割設立会社といいます。新設分割とは、その手続きに基づき新会社が設立され、その会社に対して分割会社の権利義務を承継されるものであり、会社設立の手続と吸収分割さの手続が一体化したものです。したがって、新設分割においては、必ず、新設分割設立会社の株式が、分割会社に交付されることになります。 ・物的分割と人的分割 分割会社に対して承継会社または設立会社から分割対価が交付される形態を物的分割といい、分割会社の株主または社員に対して承継会社または設立会社から分割対価が交付される形態を人的分割と言います。この区別は、旧商法下ではありましたが、平成17年の会社法制定により物的分割に一本化されました。しかし、会社法のもとであっても、分割会社がその対価として取得する、会社分割により権利義務を承継する承継会社または設立会社の株式を直ちに剰余金の分配として株主に交付することにより実質的な人鉄分割と同様の効果を生ずることは可能です。アメリカではスピン・オフと呼ばれている事業再編の携帯です。 ・単独分割と共同分割 分割会社が1社である場合を単独分割と言い、2以上の会社が共同して行う会社分割を共同分割と言います。複数の会社が、1社の承継会社に対して吸収分割することを共同吸収分割、1社を新設分割する場合を共同新設分割といいます。共同新設分割は会社法に明文の規定がありますが、共同吸収分割の規定はありません。しかし、複数の分割会社が1つの承継会社との間で吸収分割契約する場合には、各分割会社が承継会社との間で個別に吸収分割することで、実質的に共同吸収分割が可能となります。 ・三角分割 株式会社が吸収分割を行う場合、その対価を承継会社の親会社の株式とすることも可能である。このような会社分割を三角分割といいます。子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されていますが、子会社が三角分割を行うために親会社株式を取得する場合について。子会社による親会社株式の取得・保有規制の例外規定が置かれています。すなわち、吸収分割における承継会社は、分割会社に交付する承継会社の親会社株式の総数を超えない範囲内で所得することができ、会社分割の効力発生日までの間、吸収分割を中止した場合を除き、親会社株式を保有し続けることができます。 ü
会社分割が用いられる局面 ・M&A 会社分割は、M&A取引においてきわめて頻繁に用いられ、今日では必須のツールとなっています。M&Aで用いられる他の手法、例えば株式譲渡、合併、株式交換では、どれも会社の事業と資産・負債のすべてを対象としているために、買い手側から見た場合、リスクが大きい部分あるいは魅力のない部分を除外することができません。これに対して、会社分割の場合には、その対象を限定できるためニーズに柔軟に対できるのです。 また、会社分割をM&Aで用いる場合、@買い手あるいは買い手が設立した受け皿会社が会社分割により対象事業を承継する直接的な方法に加えて、A売り手が対象事業を会社分割により分離した上で、会社分割により対象事業を承継した会社の株式を譲渡する方法が用いられることが多いようです。さらに、B合弁事業を組成することもあります。 ・グループ内事業再編 会社分割は、グループ内事業再編においても頻繁に利用されています。主体となる親会社の傘下に多数の子会社が存在すね企業グループを想定すれば、その形態は、@親会社から一部の事業を切り出して子会社とするケース、A親会社から一部の事業を切り出して既存の子会社と統合するケース、B子会社の事業の一部を他の子会社に移管するケース、C複数の子会社からそれぞれの事業を切り出して新たに設立する子会社に統合するケース、など多種多様なものが可能となります。 ü
会社分割のための事前準備 ・会社分割の立案・策定 @)会社分割を立案するに際しての検討事項 ア.ストラクチャー 会社の事業の一部または全部を他の会社に移転・継承させる手続きとして会社分割を選択した場合、その具体的なストラクチャーには、様々な選択肢があります。それは次のようなものです。 @吸収分割か、新設分割か 対象となる事業を他の会社に譲渡する目的で会社分割を実施するのであれば、現金を対価とする吸収分割の方法によることが直接的な方法ですが、新設分割により対象となる事業を承継させたうえで設立会社の株式をすべて譲渡する方法により、対象となる事業を譲渡する方法も考えられます。この選択の際に一般的に検討すべき法律上の留意点として次のようなものが考えられます。 a.新設分割の場合に利用可能な対価の種類についての制限 新設分割の場合には、会社分割に際して株式を発行することが必要であり、株式数が会社分割計画の必要的記載事項となります。この点については、承継会社の株式の交付が必須ではない吸収分割との違いです。さらに、新設分割の場合は、事業を承継する新設会社が、その承継事業の対価として株式に加えて、社債、新株予約権、新株予約権付社債を交付することは認められていますが、これに以外の金銭等を対価とすることは認められていません。 b.許認可との関係 会社分割の対象となる事業に必要な許認可が会社分割の効力発生により承継会社または設立会社に承継されるか否かについては、各許認可の根拠法令によって決まっていて、承継会社または設立会社は対象となる事業に必要な許認可を新たに取得しなければならない場合が多いのです。また、許認可の取得の申請はすい゛に設立済みの法人であることを求められるのが一般的です。ところが、新設分割の場合は、設立会社の設立登記が行われた時点で効力が発生し設立会社が成立することになり、それまでに対象となる事業に必要な許認可を取得することはできません。このような事態を避けるため、あらかじめ受け皿となる会社を設立して会社分割の対象となる事業に必要な許認可の取得申請を事前に進め、新設分割ではなく、受け皿会社に対して吸収分割を行うのが一般的です。 c.その他の事項 新設分割の場合は、吸収分割とは異なり、設立会社の定款、取締役、監査役等、設立会社の組織に関する事項が新設分割計画の必要的記載事項とされており、新設分割の場合には設立会社に分割会社の自己株式を承継することはできません。また、吸収分割は、吸収分割契約に記載された効力発生日に効力を生じるのに対して新設分割は設立される会社の成立の日に効力を生じ、分割の対象となる事案の権利義務を承継します。 A会社分割により割り当てられる対価をどうするか 会社分割では、新設分割の場合の一定の例外を除いて、承継会社または設立会社の株式以外の対価、例えば、金銭、社債、新株予約権その他を対価として用いることが可能です。対価の選択に関する法律上の留意点は次のとおりです。 a.税務上の適格性の検討 会社分割では承継会社もしくは承継会社の100%親会社の株式を会社分割の対価とすることが税務上の適格会社分割の要件とされています。したがって、それ以外の場合について税務上は適格会社分割となりません。 b.新設分割の場合の対価の利用の制限 新設分割の場合には、設立会社が、その株式に加えて、社債、新株予約権、新株予約権付社債を会社分割の対価として交付することは認められていますが、金銭その他の財産の交付は認められていません。 c.人的分割の場合の対価の利用の制限 人的分割(分割会社の株主・社員に対し承継会社または新設会社から対価が交付される場合)の場合に、分配可能額による剰余金の配当の規制を受けることなく、分割の効力発生日に剰余金の配当として分割会社の株主に対価を交付する場合には、承継会社または設立会社の株式以外の対価の割合が5%未満でなければなりません。 d.親会社株式 会社分割を吸収分割で行う場合、承継会社の親会社の株式を会社分割の対価として、分割会社に交付することも可能です。 e.無対価 吸収分割の場合は、無対価とすることは可能です。例えば、100%の資本関係にある親子会社間で吸収分割を行う場合です。 B対価の割当を分割会社に対して行うのか、分割会社の株主に対して行うのか 対価の割当を分割会社の株主に対して行う場合、原則として分割会社の株主に交付できる対価は承継会社または設立会社の株式に限定されます。上場会社のような多数の株主が存在する会社が、対価を分割会社の株主に交付する形で会社分割するケースは少なく、このやり方は非上場の子会社の事業を対象とするグループ内の事業再編の際で利用される程度です。 a.人的分割における対価の制限 対価の割当を分割会社の株主に対して行う会社分割は、分割会社に対する分割の対価の交付と、剰余金の配当または全部取得条項付株式の取得の対価として、分割会社の株主への分割の対価という構成に整理されています。 承継会社もしくは承継会社の100%親会社の株式を会社分割の対価とすることが税務上の適格会社分割の要件とされていますしたがって、それ以外の場合について税務上は適格会社分割となりません。一方、これらの制限を超えて分割会社が株主に対して承継会社または設立会社の株式以外の対価を交付する場合でも、会社分割と剰余金の配当を組み合わせて行うことは可能です。ただし、この場合は通常の剰余金の配当等と同様の手続きを踏むことになり、分配可能額による配当規程を受けることになります。 b.人的分割における債権者保護手続き 物的分割の分割会社の債権者保護手続きの対象となる債権者は、分割会社に対してその無債務の履行を請求することができない債権者に限られますが、人的分割の場合は分割会社のすべての債権者となります(789条1項2号括弧書)。 これらの選択をする際には、法律上の留意点だけではなく、取引の目的を達成するために何が適切かを検討することが重要となります。会社分割を用いた取引の目的を大別すると次のとおりとなります。 ア.分割会社による事業譲渡目的での会社分割 取引の対象となる事業を承継会社に譲渡する目的で会社分割を行う場合です。この場合、分割対価は承継会社の株式ではなく承継会社の事業リスクを受けない金銭であることが一般的です。 イ.分割会社による承継会社のいわゆる「逆取得」目的での会社分割 取引の対象となる事業を承継会社に吸収分割により移転・承継させたうえで、その対価として承継会社の株式を取得して、承継会社の支配権を得るという場合です。 ウ.ジョイントベンチャーの組成目的での会社分割 複数の会社がショイントベンチャーを組成する手法としても会社分割を利用することができます。この場合には、ジョイントベンチャーの対象となる事業はジョイントベンチャーを組成するそれぞれの会社の事業の一部ということもあれば、その会社だけがジョイントベンチャーに拠出し他の会社には現金出資を行うというは場合もあり得る。」 エ.グループ内事業再編目的での会社分割 親会社の事業と子会社の事業あるいは複数の子会社の事業に重複する部分がある場合に、重複している部分を会社分割により統合して整理したり、また、特定の事業部門について会社分割を用いて分社化したりするなど、グループ内の事業再編に利用できる。 イ.対価の検討 会社分割では、吸収分割の場合の一定の例外を除いて、承継会社または設立会社の株式以外の対価、例えば、金銭、社債、新株予約権、債権その他の資産や権利についても対価として用いられることが可能です。以下で法律上の留意点をあげていきます。 @税務上の適格性の検討か 設立会社または承継会社、承継会社100%親会社の株式を分割対価とすることが税務上の適格会社分割の要件の一つとされています。従って、これ以外の対価を選択する場合には税務上適格会社分割とはなりません。 A新設分割の場合の利用の制限 新設分割の場合は、設立会社が、その株式に加えて、社債、新株予約権または新株予約権付社債を会社分割の対価として交付することは認められていますが、金銭その他の財産の交付は認められていません。 B人的分割の場合の利用の制限 人的分割の場合に、分配可能額による剰余金の配当規制を受けることなく、分割の効力発生日において剰余金の配当として分割会社の株主に対して会社分割の対価を交付する場合は、承継会社または設立会社の株式以外の対価の割合が5%未満である必要があります。 C親会社株式 会社分割を吸収分割で行う場合、承継会社の親会社の株式を会社分割の対価として交付することも可能です。会社法上、子会社による親会社株式の取得に関しては一定の規制が課されていますが、組織再編取引に際して親会社の株式を組織再編の対価として交付する場合には、その限度において子会社が親会社株式を取得することが可能とされており、吸収分割の場合もあてはまります。 D無対価 吸収分割の場合は無対価とすることも会社法では可能です。例えば、100%の資本関係のある親子会社間あるいは100%親会社の支配下にある子会社・孫会社間で吸収分割を行う場合等は無対価で会社分割を行う場合が少なくありません。一方、新設分割の場合は、設立会社の設立時に株式を発行する必要があります。 ウ.その方の検討事項 @共同分割 複数の会社がそれぞれ分割会社として新たに設立する会社に事業を移転・承継させる場合を共同新設分割といいます。各分割会社は共同で新設分割計画を作成する必要があります(762条)。新設分割を行う複数の会社のすべてで取締役会の承認を得て時点で、はじめて新設分割計画が作成されたこととなります。 また、複数の会社がそれぞれ既存の会社に事業を承継させる場合を共同吸収分割といいます。この場合、同じ会社を承継会社とする複数の吸収分割を並行して行う場合には、そのままであればどちらか一方だけについて効力が生じてしまうおそれがあり、それぞれの吸収分割契約において相互にその実行を停止条件とするといった契約上の手当てを行う必要があります。 A株主総会その他分割の手続きにおける株主の関与の程度 上場会社のような株主数が多い会社では、株主総会の招集および開催して、その承認決議を経ることの手続き的負担が大きく、また、準備期間も長期にわたる。これらのことから、会社分割の行う場合には、株主総会決議の要否や株主買取請求権行使の可能性などについて慎重に検討しておく必要があります。 B会計・政務上の検討 会社分割の具体的とストラクチャーや取引の具体的な事実関係により、資産の評価、のれんの計上の可否、繰越欠損金の取扱い、所得課税の有無について、会計・税務上の取扱いが変わってくる可能性があります。実際に会社分割のストラクチャーを検討する際には、どのような会計および税務上の差異があるかを把握することが重要です。 C上場会社の実質的存続性 部活会社を非上場会社、承継会社を上場会社とする吸収分割を行った結果、上場会社である承継会社の実態に著しい変更が生じ実質的存続性が認められないような場合や、上場会社が会社分割によりその事業を他の会社に承継させることにより上場会社の実体がなくなり実質的存続性が認められないような場合がある点に留意しなければなりません。 A)会社分割のスケジュール 会社分割のために会社法で必要とされる手続きをすべて行うための最短期間は、会社分割契約・計画の締結・決定から会社分割の効力発生日までの約1ケ月です。しかし、実際には会社法上の手続き以外にも様々な実務上の課題の検討や準備作業が必要となり、相当長期間(数カ月、場合によっては1年)になることが一般的です。ここでは、上場会社同士の会社分割を利用した大規模な事業承継行う場合を例として、通常必要とされる段階は次のようになります。 @秘密保持契約の締結 会社分割に関する取引について本格的な検討を始める前に、当事者間で会社分割に関する検討・交渉を行っている事実やその検討・交渉内容に関する秘密を保持することに加えて、会社分割の対象となる事業や、会社分割の対価として株式を発行する場合には、株式を発行する承継会社の事業等の情報等、一般には公開されていない情報を交換することになるため、これらの情報等について秘密を保持することを相互に合意しておく必要があります。」 A第1次デュー・デリジェンスの実施/公正取引委員会への事前相談 秘密保持契約が締結されると、デュー・デリジェンスが始まります。もっとも、取引について公表される前の段階では、デュー・デリジェンスを受ける側がデュー・デリジェンスを行う側の要請に応じ必要な資料・情報を収集し質問に答えるために十分な体制を整備することが困難な場合が少なくありません。従って、通常は、大規模な取引の場合は、公表される前の段階では、十分なデュー・デリジェンスを完了させることが困難となります。 大規模な取引では、独占禁止法上の問題がないことが当初から明白であるケースは少なく、取引の公表前に公正取引委員会への事前相談の要否も含め、慎重に検討する必要があります。 B基本合意書の締結 正式の会社分割計画の確定に至る前の段階では、共同分割の場合などは会社分割に関する覚書または基本合意書といった文書が取り交わされる場合が考えられまい。この文書の記載内容については、このような文書を締結する目的、基本合意書締結のタイミング、会社分割の当事会社の属性によって大きく変わってきます。一般的には会社分割の検討や準備には多大な手間とコストがかかるため、会社分割に向けた本格的な検討や準備を開始する前に当事会社の相応のレベルで会社分割に向けた共通認識を書面の形で記録に留めたいという要請が働くことから、その要請を充たすことを目的として締結されることが多いと考えられます。 C取引の公表 上場会社を当事者とする取引で、会社分割を実行することについて決定した場合は、金商法および金融商品取引所の規則に従い、その取引に関する事項を公表しなければなりません。基本合意書を締結する場合には、その締結の段階で公表することになります。 D第2次デュー・デリジェンスの実施 基本合意書締結時までに本格的なデュー・デリジェンスが完了していることは稀であり、通常の場合、基本合意書締結後も最終契約の締結時までデュー・デリジェンスを行い、完了させることになります。 E条件交渉/確定/分割計画の作成 基本合意書締結後は、その内容に基づき会社分割の取引その他の詳細な条件について最終交渉を行い、その内容を確定し、分割計画の作成へと向けて進むことになる。 F株主・従業員・取引先等の関係者への説明 会社分割にかかる取引は、対象となる事業内容やその規模のいかんにより、対象となる事業に従事している従業員を含めた各当事者の従業員や、取引先等の関係者に大きな影響を与えることになります。会社分割の対象となる事業に従事している従業員については、その権利が不当に害されることを防ぐため、労働契約承継法において、従業員に対して行うべき説明の内容と時期や労働契約承継の手続きについて特別の定めがなされています。これらは最終契約が締結された時点で適用されます。実際には、取引公表の時点から必要に応じて適宜、前倒しで、従業員への説明会や労働組合との協議等を開始しています。 また、会社分割を実行するにあたっては、具体的なストラクチャーや当事者の規模、会社分割の対象となる事業の規模、対価の額等に応じて、株主総会での特別決議による承認を受ける必要があり、また反対株主による株主買取請求権の行使を避けるため、株主の理解を得る努力も必要となります。 G競争法対応/許認可 会社分割による事業統合の結果、一定の取引分野で高い市場シェアを結うことになる等、明確に競争を実質的に制限するおそれがないと判断することが難しい場合、届出書のドラフトチェックを行う届け出前相談行う。 また、会社分割の当事者が国外でも事業を展開している場合海外事業法上問題となるかのチェック、その国でも問題とならないかのチェックと、必要な場合は事前折衝を行います。また、会社分割の当事者がいわゆる規制業種である場合には、国内外の規制当局との事前折衝が必要となります。 ・プロジェクトチームの組成および情報遮断の必要性 @)プロジェクトチームの組成 会社分割の実行は、当事会社の株主、従業員を含め、多くの関係者に重大な影響を与えることが多いため、合併についての取引が対外的に発表することができる段階までは、社内では、可能なかぎり少数の者のみから構成されるプロジェクトチームを組成し、情報管理を行うことになります。例えば、社長または担当の取締役をリーダーとして、当初は経営企画部や社長室といった部署の少数の担当者でメンバーを構成し、初期段階の検討を行います。その後の検討・準備が進むにつれて、財務部、法務部、人事部などの各主要部署から合併の担当者を選定し、適宜メンバーに加わることが一般的です。 そして、会社分割が公表された後は、基本的に機密性について考慮に入れる必要がなくなるため、公表とともに、各部署の担当者からなるプロジェクトチームを組成し、社内では合併の準備に当たるとともに、相手方当事会社のプロジェクトチームとともに準備委員会を組成し、合併の準備、検討を行なうことになることが多いようです。 プロジェクトチームには、社内の担当者だけでなく外部のアドバイザー(弁護士、フィナンシャル・アドバイザー、会計士、税理士その他)を利用することも少なくない。 A)情報遮断の必要性 ア.金融商品取引法上のインサイダー規制 金融商品取引法では、上場会社の運営、業務等に関して、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な事実が公表される前に、その事実を知った一定の会社関係者等が、その上場会社の株式等の売買を行うことは禁止されています(金商法166条)。上場会社が会社分割の決定をした場合は、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な決定事項となるため、インサイダー情報に該当します(金商法166条2項1号)。 会社分割は、上場会社の取締役会または社長等が合併の決定をした時点からインサイダー情報に該当します。 イ.独占禁止法上の情報遮断の必要性 会社分割の効力発生前に、合併の検討・準備の情報交換や統合準備作業によって、事業者間に競争を準備する暗黙の了解や共通の意思が形成されたり、またはこの情報交換が手段となって一定の取引分野での競争が実質的に制限されたりする場合には、独占禁止法で禁止されている不当な取引制限に該当する懸念があります。このような懸念を避けるために、統合交渉等のために必要な一定の情報交換を行う場合には、交換される情報の性質、範例、共有される人の範囲等、一定の情報管理の方策をとることが必要と考えられます。具体的には、統合交渉や実行準備のための情報交換の際に交換する情報の範囲を統合の交渉や実行の準備に必要な最小限のものに限定すること、検討・交渉を営業部門ではない部門に担当させること、相手方の具体的情報は担当部門のみがアクセスできるものとし、受領した情報については営業部門からは遮断する措置を講ずること、これらの方策を社内及び相手方においても周知徹底させること、などが考えられます。 ウ.個人情報保護法上の個人情報の第三者提供の許容性 会社分割当事会社が個人情報取扱事業者に該当する場合は、取引前に相互に情報を交換する場合には、交換する情報が個人情報を含む場合は、開示を差し控えるか、個人が特定できないような方法を検討することが必要です。 なお、個人情報保護法23条4項2号において、会社分割その他の事由による事業の形象に伴って個人データが提供される場合には提供を受ける者は提供が禁止される第三者には当たらないとされています。したがって、会社分割に伴って分割会社から承継会社に個人データが承継されることは問題がないということになります。 ・デュー・デリジェンスの実施 会社分割の取引の検討を行なうにあたって、会社分割当事会社は、取引を進めることについての重大な障害の有無、採用するストラクチャーの実施可能性の検討、対価の算定の基礎となる事業価値評価に反映させるべき事項の確認、取引の実行のために行うべき手続きの確認、取引実行後に事業を統合する場合にはその統合に向けて必要な作業の把握等の目的で、法務、会計、税務その他の観点からデュー・デリジェンスを行います。 また、日本の企業同士のM&A取引においてデュー・デリジェンスを実施するのが一般的となってきています。このようなM&A取引を実施するに当たって通常行われるデュー・デリジェンスを実施せずに取引を実行し、相手方会社の重大な問題や瑕疵を見逃したために、その結果として会社に損害が生じた場合には、担当取締役に善管注意義務違反の問題が生じる可能性があります。 @)デュー・デリジェンスの要否 会社分割を利用した取引は、具体的なストラクチャーに多くの選択肢がありうる取引であり、デュー・デリジェンスで留意すべき問題点は、そのストラクチャーに応じて異なってきます。ここでは、会社分割を利用して行われる典型的な取引を複数想定して、その際の留意点を検討します。 @分割会社が対価の内容に応じて行うべきデュー・デリジェンス 会社分割により分割会社が交付を受ける対価が承継会社の株式や新株予約権付社債である場合等は、対価の価値が、承継会社の事業価値に依存することになります。したがって、承継会社の事業価値を検証するためのデュー・デリジェンスの要否を検討する必要があります。この場合、対価としての受領する株式や新株予約権付社債等を発行している会社が上場会社であって会社分割実行後の分割会社の承継会社への持株比率が小さければ、主として市場株価と公開情報に依拠し、デュー・デリジェンスを簡略化すねことが少なくありません。 他方、会社分割の対価として、分割会社が承継会社の株式の過半数を取得するような逆取得の場合の取引の際には、承継会社が取引実行後は連結決算の対象となるため、より本格的なデュー・デリジェンスを行わなければなりません。 A分割会社が自社を対象とするデュー・デリジェンスの要否 会社分割を行う際には、分割会社の事業との関係での取引を実行する際の問題点の有無や取引の実行が分割会社の事業に及ぼす影響も確認しておく必要があります。分割会社が自ら事業を対象として行うデュー・デリジェンスの場合、会社分割の実行が第三者との間で締結している重要な契約の条項、たとえば、借入契約等の禁止規定に抵触しないのか否かを含めて会社分割の実行の支障となる障害の有無を確認する必要があります。また、会社分割を行う際に分割会社の側で重要となるのが、具体的にどの権利・義務を、あるいは資産・債務を会社分割の対象とするかの検証作業です。 A)デュー・デリジェンスのタイミング デュー・デリジェンスの開始時期は、会社分割にかかる取引に関する検討の進捗状況や実行までのスケジュールに応じて検討されることになります。一般的には最終契約の締結前の中間ステップとして基本合意書が締結されるケースでは、予備的なデュー・デリジェンスを行った後、基本合意書を締結し、その後に本格的なデュー・デリジェンスを行います。 本格的なデュー・デリジェンスでは、一般的に、関連資料の開示を請求し、開示された資料の検討を経て、相手方の経営陣や担当者に対するインタビューを行い、必要に応じて現地視察などのステップを踏むのですが、資料開示から1ヵ月程度で終了することが多いようです。 A)デュー・デリジェンスの留意事項 合併取引に際してデュー・デリジェンスを実施する場合、法務の観点から特に注意すべき事項は、次のとおりです。 ア.対象となる事業の遂行に必要な資産、権利、契約等の把握 会社分割では、会社分割契約・計画により設立会社に移転・承継させる権利、義務が定められますが、その際、会社分割契約・計画に会社分割の対象となる事業を下属して遂行していくために必要な資産・権利や契約等をすべて含めるべきことは要求されていません。したがって、M&A取引の買い手側は、デュー・デリジェンスにより、何が会社分割の対象となる事業に必要なのかを把握する必要があります。さらに、会社分割の対象となる事業が分割会社の社内で分割会社の他の事業部門からどのようなサポートを受けているのか等の内部取引についても把握する必要があります。最終契約締結の時点では、このような資産・権利等の使用契約やサービス契約の条件として合意ができていない場合には、その後合意が成立し契約が締結されることを取引の前提条件とすることになります。また、買い手側がデュー・デリジェンスにより、不要な資産・権利・契約を把握した場合には、これを会社分割の対象から除外することを検討することになります。 また、会社分割を用いたM&A取引の売り手側が行うデュー・デリジェンスも同じように重要です。会社分割の対象となる事業に関連している資産・権利・契約等を把握し、また、他の事業との内部取引等相互依存関係について把握することが、売り手側から見た場合の最適な会社分割の対象の確定や、会社分割実行後に売り手側が承継会社・設立会社からサービスの提供を受ける必要の有無やその必要がある場合の条件の検討の前提として必要です。 イ.許認可関連 会社分割の場合には、会社分割によりその対象となる事業を設立会社に承継させること自体に関係官庁の諸認可が必要な場合があり、また、設立会社の側で会社が分割の対象となる事業の遂行に必要な許認可を新規に取得ことが必要となる場合が少なくありません。このような許認可を洗い出して、その対応のために必要となる手続きの有無・内容、その手続きかかる期間・コストは、合併の内容やスケジュールに影響を与えるため、重要となります。 ウ.相手方からの同意取得が必要な重要契約の有無 会社分割では、取引を実行した結果、契約の当事者が交替することになり、この点について会社分割による移転・承継の対象となる重要な契約がどのように規定しているかを把握することがデュー・デリジェンスの中心的なテーマの一つである。会社分割では、原則として相手方当事者の同意を得ることなく、その対象とされた契約を分割会社から承継会社・設立会社に移転・承継させることができます。 しかし、相手方当事者の同意を得ることなく会社分割による移転・承継を行うことが禁止されている場合や、契約の準拠法が外国法である場合等については、この原則に依拠することに問題がある。また、会社分割の対象が承継会社の株式であり、会社分割の結果承継会社の株主構成が大きく変わるような場合には、承継会社の契約に規定されているいわゆるchange of
control条項への抵触ももんだとなります。また、そもそも会社分割を禁止する規定を含んだ契約は、分割会社および承継会社の双方で問題となります。したがって、これらのような契約については、会社分割の実行に先だって相手方から同意を得る必要の有無や同意が得られることを取引実行の条件とする必要性の有無を検討する必要があります。 エ.重複契約の有無 会社分割の対象となる事業が承継会社の既存の事業と同種のものである場合等、分割会社がそれぞれ同一の相手方との間で仕入契約や販売契約等の同種の契約を締結している場合、分割会社が締結している契約が会社分割によりそのまま新設会社に承継されると、同一当事者間で同種の取引のための契約が複数併存する時代が生じてしまいます。両方の契約の条件が異なる場合には、どちらの条件を適用するかの判断をしなければなりません。そのため、重複契約の有無とその条件をデュー・デリジェンスで確認する必要があります。 重複契約の処理としては、分割会社の契約条件の方が、新設会社の契約条件よりもその契約の相手方当事者にとって有利である場合は、分割会社が締結している重複契約を会社分割の対象から除外するという方法も検討の対象となるでしょう。しかし、契約が承継されない場合に、会社分割により分割会社の側で分割会社にそのまま残る重複契約に基づく義務を履行できず債務不履行責任が発生するような場合には、この問題への対応を検討しなければなりません。 オ.分割を要する契約の有無 例えば、会社分割の対象となる事業と対象とならない事業の双方で、同一の契約に基づきリース資産、システム、特許権等を使用しているような場合には、会社分割実行後これをどのように取り扱うかが問題となります。 カ.クロスライセンス契約 グロスライセンス契約とは、特許権等知的財産権の権利者同士が互いに相手方当事者の知的財産権を利用することを許諾するライセンス契約のことです。このような契約では、相互に使用料の支払いを不要とする場合も多く、また、両当事者の相対的な技術的優位性や発明の技術の利用決定等を考慮して、使用料の支払いの要否と料率等が定められることになります。 このようなクロスライセンス契約が、会社分割の対象となる事業とそれ以外の事業の双方に関連している場合には複雑な問題が生じる可能性があります。まず、相手方当事者へのライセンスの対象となっている分割会社が保有する知的財産権が会社分割により分割会社と承継会社・との間に分属することとなる場合に、会社分割実行後の相手方当事者に対するライセンスの義務をどのように履行するか、さらに、このクロスライセンス契約をどのように取り扱うべきかが問題となります。その他の問題となるケースがあり、クロスライセンス契約の取扱いは複雑な問題に発展する可能性があり、デュー・デリジェンスの際には十分な配慮が必要となります。 キ.借入に関する契約 分割会社が締結しているローン契約とこれに基づく債務を会社分割の対象に含めて承継する場合、貸付人との間で協議を行いその同意を得ておく必要がある場合が多くあります。該当するローン契約があるかを確認する必要があります。 ク.根抵当権 根抵当権については、その元本の確定前に根抵当権の被担保債務の債務者を分割会社とする会社分割があった場合には、その根抵当権は、会社分割の当時存在する債務ならびに分割会社および承継会社・設立会社が会社分割後に負担する債務も根抵当権の対象とされている種類の債務の範囲内で担保することになり、根抵当権設定者の地位を有する者からすれば想定していない債務が担保の対象に追加される可能性があるので、会社分割の効力発生までに事前に元本の確定を行うなどの対応を検討すべきこととなります。 ケ.偶発債務等の潜在債務 偶発債務等の潜在債務の発生原因は様々なものが考えられるが、実務上問題になるものとしては、環境問題、PL問題、知的財産権の侵害を含む紛争、経営指導念書等を含む保証、未払い残業代などがあげられます。デュー・デリジェンスを通じて偶発債務等の潜在債務の原因となりうる事項の存在が確認された場合、M&A取引の買い手側は、会社分割による移転・承継の対象からかかる偶発債務等の潜在債務を除外することを検討するほか、会社分割の効力発生後に同じような事実関係が継続することにより想定外の債務を負担する可能性の有無を検討する必要があります。とくに後者については、事実関係を会社分割までに変更できないかぎり、会社分割に対して補償の請求求めることができないようにしておくか、対価の算定にリスクを織り込む必要があることになります。 ü
新設分割の当事会社 新設分割を行うことのできる会社の種類は株式会社と合同会社に限定されるので、合名会社・合資会社が分割会社となり、株式会社・合同会社を新設会社とする新設会社分割はできません。合名会社および合資会社の債務が会社分割により株式会社・合同会社に承継されると、新設分割会社の債権者は会社財産しか引当てにできなくなり、その法的地位を一般的に害されるおそれがあると考えられるからです。もっとも、合名会社・合資会社は、定款変更により合同会社に持分会社の種類を変更することは可能なので、いったん合名会社に種類を変更して、株式会社などを設立会社とする新設分割を行い、その後再び、合名会社・合資会社に会社の種類を変更することによって事実上の会社分割を行うことができます。 ü
新設分割計画 ・新設分割計画の手続き 新設分割の場合は。新設分割会社の権利義務の全部又は一部を承継する会社が計画作成時には存在しないので、吸収分割にあるような会社分割契約の相手が存在しない。それゆえ、契約を締結することはできません。そこで、新たに設立する会社に対して権利義務を移転する形態の組織再変更の計画書を作成することになっています(762条)。2社以上の会社が共同して新設分割計画を作成しなければなりません(762条2項)。 新設分割計画は、組織法的行為なので、新設分割会社の代表取締役・代表者により作成されます。簡易分割に該当し、株主総会の承認を要しない場合を除き、取締役会設置会社においては、取締役会決議に基づくことが必要となります。簡易分割に該当する場合でも、共同新設分割により合弁事業を立ち上げる場合など、重要な業務執行に該当すれば、取締役会決議を要する。新設分割計画が効力を生ずるためには、簡易分割に当たる場合を除いて、原則として株主総会の特別決議が必要です(804条1項)。合同会社が新設分割を行う場合には、その事業に関して有する権利義務の全部を他の会社に承継する場合に限り、総社員の同意を必要となりますが、定款に別段の定めを置くことができます(813条1項)。 2社以上の会社が共同して新設分割計画を作成する機会も含め、新設分割計画は、株主総会の決議より前に作成されていても、決議後にその決議に基づき作成されても構わない。また、株主総会決議より前に株式買取請求手続きおよび新株予約権買取請求手続を開始することもできます。ただし、新設分割の登記の要件として、新設分割の効力が発生する日までに、株主総会の承認決議を受け、株式買取手続・新株予約権買取手続を開始し、ならびに債権者保護手続を終了している必要があります。吸収分割と異なるのは、効力発生日です。吸収分割の場合は吸収分割契約で効力発生日を定め、その日に吸収分割の効力が発生するのに対して、新設分割の効力発生日は新設分割設立会社の成立すなわち設立の登記の日となります。 ・要式性 新設分割計画は、書面であるとか電磁的記録であるとかで作成することは要求されておらず、不要式の行為とされています。しかし、実務上は、組織法上の行為が書面や電磁的記録で作成されず、代表者の署名等もないと、新設分割計画の有効な作成は、認められにくいでしょう。また、新設分割の登記申請には、新設分割計画書の添付が必要とされており、書面の存在が前提されています。 ü
新設分割手続きの概要 会社分割は、分割会社の権利義務を一般承継の形で新設会社に移転させるという合併によく似た効果を生じさせる佐敷法的な行為であり、合併と同じように会社分割の当事者である会社の株主および債権者の双方に重大な影響を及ぼすことから、会社法は、合併の場合と同じように株主および債権者の利益を保護するために慎重な手続きを定めています。新設分割において、分割会社と新設会社それぞれに必要となる手続きは下表のとおりです。 会社法では、新設分割の主要な手続きである株主総会での承認決議、反対株主による株式買取請求の手続き、分割会社の新株予約権者による新株予約権買取請求の手続き、債権者保護手続きなどについて、相互の関連は求められておらず、それぞれ同時に並行して進めて、効力発生日までに終えればよいことから、時間的な先後関係を定めずに、並行して手続きを行うことが可能となっています。 ü
会社法以外の会社分割手続き─上場会社の場合の手続き 会社分割当事会社の両方またはいずれか一方が上場会社の場合には、会社法上の手続以外にも、金融商品取引法や上場規則の手続きが必要となります。 ・金融商品取引法上の手続き @)組織再編成にかかる開示制度 金商法は、会社分割のような組織再編成において対価として発行・交付される有価証券の発行者に関する情報開示を義務づけています。このような発行開示を求める趣旨は、組織再編成に関する情報は投資者にとっても重要な投資情報であり、また、会社法で組織再丙の対価の柔軟化が認められた結果、合併の場合であれば消滅会社の株主に存続会社以外の会社の株式が交付される場合には情報が入手できないおそれがあるため、その会社に関する情報開示を義務づけることなどにあります。 A)臨時報告書の提出義務 吸収分割の場合の分割会社、承継会社のいずれかまたは両方が金商法の継続開示義務を負っている場合には、一定の軽微基準を満たさないかぎり、継続開示義務を負っている会社は、吸収分割が行われることを取締役会等の機関が決定した場合に、臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5第4項、開示府令19条2項7号)。 臨時報告書の提出を免れる軽微基準とは、継続開示義務を負っている会社の資産の額が、最近事業年度末日の純資産額10%以上減少し、または増加することが見込まれず、かつ、継続開示義務を負っている会社の売上高が会社の最近事業年度の売上高の3%以上増加することが見込まれない場合です(開示に関する内閣府令19条2項)。 ・金融商品取引所の上場規則の手続き @)適時開示 上場会社の取締役会等が合併を行うことを決定した場合や、公表済の合併を行なわないことを決定した場合には、上場規則に従って開示が必要となります。一般的な開示事項は次のとおりです。 @会社分割の目的 A会社分割の要旨 (1)会社分割の日程 (2)会社分割方の式 (3)会社分割にかかる割当ての内容 (4)分割会社の新株予約権および新株予約権付社債に関する取扱い (5)会社分割により増減する資本金 (6)承継会社が承継する権利義務 (7)承継会社の債務履行の見込み B会社分割に係る割当ての内容算定根拠等 (1)割当ての内容の根拠および理由 (2)算定に関する事項 (3)上場廃止となる見込みおよびその理由 (4)公正性を担保するための措置 (5)利益相反を回避するための措置 C会社分割の当事者である会社の概要 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)設立年月日 (7)発行済株式総数 (8)決算期 (9)従業員数 (10)主要取引先 (11)主要取引銀行 (12)大株主および持株比率 (13)当事会社間の関係など a.資本関係 b.人的関係 c.取引関係 d.関連当事者への該当状況 (14)最近3年間の財政状態および経営成績 (15)分割または承継する事業部門の概要 a.分割または承継する部門の事業内容 b.分割または承継する部門の経営成績 c.分割または承継する資産、負債の項目および帳簿価格 D会社分割後の状況 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)決算期 (7)純資産 (8)総資産 E会計処理の概要 F今後の見通し A)合併等による実質的存続性の喪失に係る上場廃止基準(不適当な合併等) 上場会社が非上場会社との間で吸収合併等を行った結果、上場会社に実質的存続性が認められず、かつ一定期間内に新規上場基準に準じた審査に適合しない場合には、上場廃止となります(上場規程601条)。これはいわゆる裏口上場の防止を木でとしたものです。 上場会社が非上場会社に対して吸収合併等をする場合には、上場会社は、非上場会社の事業の概況、事業の状況および設備の状況等を記載した「非上場会社の概要書」を、合併等の決議または決定後に速やかに東京証券取引所に提出しなければなりません(上場規程421条)。実務上は、決定の2週間前までに事前相談することが要請されています。 ü
会社法以外の会社分割手続き─独占禁止法の規制 独占禁止法は、第4章(9〜18条)で、株式取得および保有、役員兼任、合併、会社分割、株式移転および事業譲受けについて一定の規制を課しており、一般に企業結合規制と呼ばれています。 独占禁止法15条の2は、企業結合規制の1つとして会社分割を規制していて、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになる会社分割および不公正な取引方法によるものである会社分割を禁止しています。このような違法な会社分割を公正取引委員会が事前に探知するために、国内売上高合計額が一定額以上の会社同士の会社分割について、当事会社に会社分割計画を事前に公正取引委員会に届け出ることを義務づけています(独禁法15条の2第2項)。この届出を行った会社は、届け出受理の日から30日の待機期間が経過するまで合併してはならないことになっています(独禁法15条の2第4項)。なお、新設会社分割の場合、対象となるのは共同新設分割の場合のみで、単独の新設会社分割は、それ自体は企業結合規制の対象となっていません。 ・届出 @)届出要件 共同新設会社分割取引において事前届出が必要とされているのは次のいずれかを満たされている場合です。 @共同新設分割分割しようとする会社のうち、会社分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が200億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が50億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超える場合。 A共同新設分割分割しようとする会社のうち、共同新設分割分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が50億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が200億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超える場合。 B共同新設分割分割しようとする会社のうち、共同新設分割分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が100億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では100億円)を超え、かつ吸収分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が50億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では50億円)を超える場合。 C共同新設分割分割しようとする会社のうち、共同新設分割分割しようとするいずれか1つの会社の国内売上高合計額が30億円を下回らない範囲内において政令で定める金額(現時点では30億円)を超え、かつ共同新設分割分割によって事業を承継しようとする会社の国内売上高合計額が200億円を下らない範囲内において政令で定める金額(現時点では200億円)を超える場合。 A)届出の必要がない場合 上記の要件を満たす場合であっても、すべての共同新設分割分割会社が同一の企業集団に属する場合には、届出は不要です(独禁法15条の2第2項但書)。これは、グループ会社間の共同新設分割分割は結合関係が新たに形成されたり、強化されたりするわけではないと考えられるからです。 B)届出の様式および添付書類 届出書のフォーマットは公正取引委員会のホームページからダウンロードできます。記載上の注意も、そこにあります。 https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/bunkatsu2_files/10_youshiki.doc この届出書に、次の書類を添付します(企業結合規則5条)。 @届出会社(当事会社のすべて)の定款 A分割契約書または分割計画書の写し B届出会社の最近1事業年度の事業報告、貸借対照表および損益計算書 C届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有するものの名簿(届出日現在) D届出会社において会社分割に関し株主総会の決議等があった時は、その議事録等 E届出会社の属する企業集団の親会社の作成した有価証券報告書等の企業集団の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なもの C)届出の提出 届出書の提出の時期について明確な規定はありませんが、基本的には、共同新設分割分割予定日から遡って1年程度が目途と考えられています。届け出先は、原則として存続又は設立する会社の本店所在地を管轄する公正取引委員会の事務所です。 計算書類等の監査等(436条) 計算書
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