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第764条 株式会社を設立
する新設分割の効力の発生等
 

 

Ø 株式会社を設立する新設分割の効力の発生等(764条)

@新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。

A前項の規定にかかわらず、第810条第1項第2号(第813条第2項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、第810条第2項(第3号を除き、第813条第2項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の各別の催告を受けなかったもの(第810条第3項(第813条第2項において準用する場合を含む。)に規定する場合にあっては、不法行為によって生じた債務の債権者であるものに限る。次項において同じ。)は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割会社に対して、新設分割会社が新設分割設立株式会社の成立の日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

B第1項の規定にかかわらず、第810条第1項第2号の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、同条第二項の各別の催告を受けなかったものは、新設分割計画において新設分割後に新設分割設立株式会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

C第1項の規定にかかわらず、新設分割会社が新設分割設立株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って新設分割をした場合には、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

D前項の規定は、前条第1項第12号に掲げる事項についての定めがある場合には、適用しない。

E新設分割設立株式会社が第4項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、新設分割会社が残存債権者を害することを知って新設分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。新設分割設立株式会社の成立の日から10年を経過したときも、同様とする。

F新設分割会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、新設分割設立株式会社に対して第4項の規定による請求をする権利を行使することができない。

G前条第1項に規定する場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、同項第6号の株式の株主となる。

H次の各号に掲げる場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、当該各号に定める者となる。

一 前条第1項第8号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの社債の社債権者

二 前条第1項第8号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの新株予約権の新株予約権者

三 前条第1項第8号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者

I二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合における前二項の規定の適用については、第八項中「新設分割計画の定め」とあるのは「同項第七号に掲げる事項についての定め」と、前項中「新設分割計画の定め」とあるのは「前条第1項第9号に掲げる事項についての定め」とする。

J前条第1項第10号に規定する場合には、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画新株予約権は、消滅し、当該新設分割計画新株予約権の新株予約権者は、同項第11号に掲げる事項についての定めに従い、同項第10号ロの新設分割設立株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。

 

新設分割設立会社が株式会社の場合の、新設分割の法的効力および効力発生時について規定しているのが764条です。新設分割計画で会社分割による承継の対象とされた新設分割会社の権利義務は新設分割計画の定めに従い新設分割設立株式会社に承継されます(764条1項)。事業譲渡のように権利が個別に承継され、義務が個別に引き受けられるのではなく、新設分割契約の定めに基づき新設分割に付与された法的効果として、新設分割設立株式会社に一般承継されます。すなわち、会社分割による承継の対象である権利義務が法定の時点において一般承継されるという法律上の効果が付与されます。また、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、分割対価として付与された株式、社債、新株予約権の権利者となります(764条4、5項)。

新設分割の効力は、新設分割設立会社の成立の日、すなわち本店所在地で設立の登記をした日となります(764条1項)。吸収分割では、その効力は吸収分割契約で定められた吸収分割の効力の生ずる日に発生する(759条1項)のに対して、新設分割の効力は登記と連動しています。

また、債権者保護の観点から、会社債権者異議手続として各別の催告がなされるべき新設分割の債権者に対し各別の催告が行われなかったときは、債権者は新設分割会社および新設分割設立会社の連帯責任を追及することができ、これにより債権者保護が図られています(764条2、3項)。

ü 新設分割の効力発生時(764条1項)

新設分割の効力は、新設分割設立株式会社の成立の日と規定されいます(764条1項)。株式会社の設立は本店所在地における設立の登記によるものだから(49条)、設立の登記の日に新設分割の効力が生ずることになります。すべての新設分割会社が株式会社であるときは、新設分割設立株式会社については、@新設分割承認決議の日、A新設分割のために種類株主総会を要するときは、その書類株主総会決議の日、B株主・新株予約権者に対する株式買取請求・新株予約権買取請求のための通知・公告をした日から20日を経過した日、C債権者異議手続が終了した日、➄新設分割株式会社が定めた日のうち、いずれか遅い日から2週間以内に設立の登記が行わなければなりません(924条1項1号)。すべての新設分割会社が合同会社であるときは、新設分割設立会社については、E総社員の同意を得た日、F債権者異議手続の終了した日、またはG新設分割合同会社が定めた日のうち、すい゛れか遅い日から2週間以内に、新設分割設立株式会社の設立の登記をしなければなりません(924条1項3号)。

ü 新設分割の効果(764条1項)

新設分割設立株式会社設立の日に、新設分割設立株式会社は、新設分割計画の定めに従い、新設分割の承継の対象である新設分割会社の権利義務が、法律上の効果として、個別の承認であれば必要とされる個々の権利義務に関する手続きや行為を要することなく一般承継します(764条1項)。このような権利義務の包括承継(一般承継)は、合併の効果と同じようなものですが、合併の場合は消滅会社は解散し、その権利義務が包括的に存続会社に承継されるのに対して、会社分割の場合は、分割会社は効力発生後も引き続き存続するため、承継されるのは会社分割の対象とされた権利義務に限られ、その結果承継の効果が合併の場合よりも複雑になっていません。

また、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割設立株式会社が対価として交付する株式の株主となり(764条4項)、分割対価が新設分割設立会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債である場合には、分割会社は設立会社の社債権者・新株予約権者・新株予約権付社債権者となります(764条5項)。新設分割設立株式会社が、新設分割に際して、分割会社の新株予約権に代わる新設分割設立株式会社の新株予約権を交付する旨を定めた場合には、新設分割設立株式会社の成立の日に、分割会社の新株予約権は消滅し、その新株予約権者は新設分割計画における設立会社の新株予約権の割り当てについての定め(763条1項11号)に従い、新設分割計画に定められた内容の新設分割設立株式会社の新株予約権者となります(764条7項)。

ü 権利義務の承継

・一般承継

新設分割設立会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割による承継の対象とされた新設会社の権利は、新設分割設立会社に、個別承継であれば必要とされる権利移転行為や権利移転のための条件を充たすことなく承継されます。また、新設分割による承継の対象とされた新設分割会社の債務は、効力発生日に、債務引受けの必要なく、法律上の効果として自動的に新設分割設立会社に承継されます。同じような一般承継の法的効果が認められる吸収合併の場合とは異なり、吸収会社分割の場合には、分割会社は消滅することなく存続するので、権利義務の一部は残ります。したがって、新設分割による承継の対象となった権利義務だけが承継される点で異なります。そのため、新設分割会社のどの権利義務が新設分割により新設分割設立会社に承継され、どの権利義務が残るかを新設分割計画で特定しなければなりません。

※公法上の権利義務の承継

分割会社が有していた許認可等の公法上の権利義務について、会社分割によって承継させることができるか否かは、その公法上の権利義務の根拠法令の規定に従うことになります。したがって、個別の検討が必要になります。また、税法上の権利義務については分割会社の租税債務を設立会社に承継させることは認められませんが、人的分割により分割対価である設立会社の株式が分割会社の株主に交付連れる場合は、設立会社は、分割会社から承継した財産の価額を限度として分割会社の租税債務について連帯納付の責任を負うことになります(国税通則法9条の2)。

・労働契約の承継

会社分割の対象となる労働契約については、それ以外の一般契約とは異なる例外的な法律上の取扱いが適用されます。すなわち、労働契約以外の一般の契約では、会社分割契約に会社分割の対象として記載された場合にのみ設立会社への承継が行われるのに対して、労働契約の場合には、会社分割の対象となる事業に主として従事している労働者とそれ以外の労働者を区分して、会社分割の対象となる事業に主として従事している労働者については、会社分割契約に会社分割の対象として記載されていなくても、労働者本人が対象から除外されていることについて異議を述べれば承継が認められます。また、会社分割の対象となる事業に主として従事している労働者以外の労働者については、会社分割契約に対象として記載されていても、労働者本人が異議を述べれば対象から除外されることとされています(労働承継法4条、5条)。

※労働協約の承継

吸収分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約については、そのうち新設分割設立会社が承継する部分を新設分割計画において定めることができます(労働承継法6条1項)。分割会社は、新設分割計画を承認する株主総会の会日の2週間前の日の前日までに、労働協約を締結している労働組合に対して、労働協約を承継する定めがあるかどうか等の法定事項を書簡で通知しなければなりません(労働承継法2条2項)。

・担保権の承継

担保権は根抵当権を除き、担保権が担保している被担保債権とともに処分する場合でなければ処分できないものとされていて、これは担保権の随伴性の原則と呼ばれています。この随伴性の原則は会社分割の際にも適用されます。したがって、会社分割の対象に担保権とその被担保債権の両方がともに含まれている場合にのみ分割会社から設立会社に承継されます。もっとも、仮に新設分割計画に被担保債権が会社分割による承継の対象として記載されているにもかかわらず、担保権についての記載がない場合でも、通常は解釈により、担保権は被担保債務に付随するとして、承継の対象とされるとしています。

@)根抵当権の承継

一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保する根抵当権は、特定の被担保債権とともに処分を行うことが予定されていないので、会社分割における取扱いについては法律上特別な定めが置かれています。すなわち、まず、@分割会社が根抵当権者である場合、根抵当権の被担保債権の元本が確定する前に、会社分割が実行されると、この根抵当権は、会社分割の実行時点で存在する分割会社の債権に加え、会社分割実行後に分割会社と承継会社の各々が取得する債権も根抵当権の被担保債権となります(民法398条の10第1項)。また、A分割会社が根抵当権の被担保債権の債務者である場合、根抵当権が設定されている不動産が会社分割の対象となるか否かに関わりなく、会社分割の実行時点で存在する分割会社の債務に加え、会社分割実行後に分割会社と承継会社の各々が負担する債務も根抵当権の被担保債務となります(民法398条の10第2項)。このように根抵当権設定者は不安定な地位に置かれるため、根抵当権設定者が根抵当権の被担保債権の債務者ではない場合には。会社分割に対して、元本の確定を請求することができ、請求があった場合には会社分割が実行された時点で元本が確定したものとみなすとされています(民法398条の10第3項)。

A)企業担保権の承継

株式会社が発行する社債を担保するために社債を発行する会社の総財産を担保権の対象として設定される企業担保権については、担保権の対象となる債務を会社分割により承継させることはできないとされています(企業担保法8条の2)。企業担保権が担保する債務を承継させる旨を定めた会社分割契約の条文は無益的記載事項となります。

ü 共同新設分割の場合

新設分割計画の作成は単独行為であり、到達を要しない意思表示です。新設合併契約とは異なり、ひとつの株式会社または合同会社だけで新設分割計画を作成することができます。新設分割計画の作成は組織法上の行為です。2社以上の株式会社または合同会社が共同して新設分割をする場合には、共同して新設分割計画を作成しなければなりません(762条2項)。共同新設分割計画の作成は、合同行為としての性質を有します。ただし、共同新設分割の場合の新設分割の対価の割当に関する事項は、実質的には事業協同契約等に基づくものであるから、双方的かつ到達を要する意思表示です。

新設分割会社は新設分割計画の定めに従い新設分割設立会社の成立の日に新設分割の対価である新設分割設立株式会社の株主や社債権者等になるという規律(764条4、5項)の適用については、新設分割計画の定めを763条1項7号および9号に掲げる事項に読み替えています(764条6項)。これは、共同新設分割における新設分割対価の定めには組織法的性質に加えて契約的側面があることを考慮されているからです。

ü 債権者異議手続の瑕疵の効果─新設分割当事会社の連帯責任

・趣旨

債権者異議手続において各別の催告が行われるべきであるのに、その催告を受けなかった新設分割会社の債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求ができないとされている場合でも、新設分割会社に対して、同社が効力発生日に有していた財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができます。また、各別の催告を受けるべきであったのに受けられなかった債権者は、吸収分割契約において吸収分割後に吸収分割承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができます。

新設分割は、分割当事会社の資産や負債の状況が変動し、また純資産の部も変動することもあり、会社債権者に大きな影響を与える可能性があります。新設分割設立会社には、合併の場合の存続会社の債権者に生ずるのと同じような危険、すなわち、分割会社から承継した権利義務の財務状態が悪ければ債権回収が困難となるリスクが増大することになり、債権者にとって不利益となります。一方、新設分割会社の債権者にとっては、相手方当事会社の経営状態の良し悪しにかかわらず、不採算部門を分割会社に残して他の部分を救済するような新設分割が行われた場合には、固有のリスクが発生します。合併のような完全な包括承継とは異なり、会社分割の場合、部分的一般承継が可能であるため、たとえば不採算部門の分社化や反対に不採算部門を吸収分割会社に残し業績の良好な事業部門を新設分割設立会社に承継させる新設分割のように、分割会社の権利義務が分割会社や設立会社のいずれかに一方的に有利または不利に承継されるおそれがあります。合併の場合には、複数の当事会社の権利義務が一体化されることになるので、仮に合併が失敗した場合一蓮托生になるのに対して、会社分割の場合は、一部の当事会社が破綻しても他の当事会社が継続していくことがありえるため、会社債権者の危険性は合併の場合よりも定型的に大きいと考えられます。そこで、会社分割の場合は、債権者を保護するために、債権者異議手続をはじめとする債権者保護のための諸制度が設けられているのです。

・連帯責任を追及できる債権者

764条2項及び3項の保護を受けることができる債権者は、異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、各別の催告を受けるべき債権者です(764条2項括弧書)。債権者異議手続中にまたは異議申述期間経過後に債務発生原因が発生し、効力発生日までに生じた債務の債権者は、不法行為債権者を除き、債権者異議手続開始時点で会社に知られていない場合を除き、含まれていません。

新設分割会社の債権者でもある金融機関や取引相手は、債務者である会社の公告に注意を払うべきこと、もしくは吸収分割を行うような場合はそれを通知させることを約させる、自衛措置を講ずることなどが期待できるという理由から、官報に加え日刊新聞紙への掲載または電子公告をすれば、不法行為債権者を除き、各別の催告を省略することができます(789条3項)。

・責任の性質

@)不真正連帯債務

各別の催告をすべきであったのに、その催告を受けなかった分割会社の債権者の債権については、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方が物的有限責任を負います。この責任は、吸収分割契約において債務を負担するものとされた会社が負う本来の債務と同一の内容ですが、双方の会社の間に内部的な意思の連絡がなく、不真正連帯債務の関係になると解されています。

したがって、新設分割会社の債権者は、分割会社と承継会社の双方に対して債務の全額を請求することができ、連帯債務者の1人に生じた事由は、弁済や相殺などの債権を満足させるものを除き絶対的効力を有しない。

A)物的有限責任

新設分割会社と新設分割設立会社の双方が負う責任は、物的有限責任です。すなわち、各別の催告が為されるべきであるのに催告を催告を受けなかった新設分割会社の債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に債務の履行を請求できない場合であっても、新設分割会社に対して、新設分割の効力発生日に、有していた財産の価額を限度として(764条2項)、また、新設分割計画で会社分割後設立会社に債務の履行を請求できないとされていても、新設分割設立会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます(764条3項)。

ü 債権者異議手続未了または新設分割の中止の場合の効果(764条6項)

吸収分割の場合は、債権者異議手続が終了していない場合、または、吸収分割を中止した場合には、これまでの事項(759条1〜5項)は適用されません(759条6項)。これに対して、新設分割の場合は、相当する規定がありません。この違いは吸収分割の効果は吸収分割契約で定められた効力発生日に生ずるのに対して、新設分割の効果は新設分割設立会社の成立の日すなわち設立会社の設立の登記の日生ずることと関係しています。吸収分割の場合は、効力発生日を経過したにもかかわらず、債権者異議手続が未了であったり、吸収分割が中止されたりして、吸収分割が実体的に完了していないということがあり得るのに対して、新設分割設立株式会社の設立の登記で、債権者異議手続が履践されたことを証する書面の添付が求められて(商業登記法86条)、債権者異議手続の終了を登記の審査され、またあわせて新設分割による会社設立が手続きを遵守して行われているかがチェックされるため、新設分割について効力の発生を妨げる旨の規定が置かれていないのです。新設分割の場合は、新設分割が不存在であるような場合を除き、、新設分割設立会社の設立の登記の日以降は、新設分割の効力は、新設分割無効の訴えにより争うことになります。

 

 

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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