4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類
役員報酬に関する件
 

 

●役員報酬について

取締役、監査役という役員の報酬、賞与、その他株式会社から受ける財産上の利益は報酬等として、職務執行の対価と位置づけられ、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めることとされています(会社法361条)。そもそも、株式会社の考え方から言えば、経営者が事業を興すのに人々から資金を出資してもらって会社を設立し、出資者には株主(社員)として会社の所有者となってもらい、社員の委任を受けて経営に当たる。そこで人を雇えば、その労働の提供を受けるので賃金債権が発生する。そのような債権を優先的に支払い、残ったものが会社の収益となる。それを委任を受けた経営者と所有者である株主との間で分配するというのが、そもそものあり方のはずです。報酬とは成功報酬とも言われるように、成功した場合の分け前と言うのが本来的な性格です。それを、会社法では役員の職務執行の対価という言い方をしていて、従業員の賃金と似たような言い方をしています。しかも、従業員の賃金は雇用者である会社が決めますが、役員の報酬は委任者である株主が決めるということにはなっていません。

これは、取締役に会社の内部の従業員から昇格して就任するという日本企業の典型的なパターンにゆえに、取締役の報酬と従業員の賃金との区別をつけにくいという現実的なことが要因していて、それが日本の企業人の基本的な考え方になっていると考えられます。実際のところ、従業員として賃金によって生活をしていたものが、取締役に就任した場合、会社からの賃金に生活を依存していたことから生活を転換するということは、まずできないでしょう。個人の収入が成功報酬ということで、従業員の賃金に比べてはるかに不安定要素が高まるとすれば、従業員としての依存生活に馴れた人が、取締役になることを躊躇することになるでしょう。取締役になるということは、長年努めた会社を退職して起業するのと同じリスクをもつことになってしまう(本来はそういうものでしょうが)となるわけです。おそらく、そうなっても敢えて取締役になるというのは、一種の冒険になるでしょうが、そうなった場合、上場企業の取締役を引き受ける人は激減するのではないか。ということで、役員報酬と従業員の賃金の区別を曖昧にするように、無意識のうちにそうなるように進めた、というのが本当のところではないか、と考えられます。

かといって、誰が役員の報酬を決めるのかというと、実際のところは当の役員自身で決める以外にできる人はいない。だから、お手盛りになってしまう危険がついてまわる。それゆえ、報酬を決める最終チェックを形式的にせよ株主に委ねようというのが、会社法での規定と言えます。だから、株主の側からは、役員報酬に対して、常に疑いの眼で見てしまうのは当然ことと考えられます。

では、会社法では役員報酬決定のお手盛の防止を図っているかというと、株主総会の意思が反映した定款に報酬を定めることにして、もし、定款の規定を変更しようとすれば、株主総会で3分の2以上の賛成が必要な特別決議を経ることになるか、実際に株主総会で報酬を決めてもらうかということになっています。

したがって、実際に役員報酬を決めるのは株主総会ということで、その報酬についてはどのようにして株主総会で決められるかの手続きは、議案の参考書類の記載に反映されていることになります。

 

●役員報酬の決め方

役員、ここでは取締役を中心に考えて生きますが、一般的には定款に定めるのではなく株主総会の決議により定めています。では、実際にどのように定めているかについては、取締役の報酬等を次の3種類に分けて、それぞれに決定方法が異なるので、それを株主総会での決議を得るように求められています(会社法361条)。ただし、これらは、役員報酬の議題として、3種類をまとめて同時にひとつの議題として決議を得ることは可能とされています。

@報酬等のうち額が確定しているものについては、その額を決議する(確定額報酬)

報酬等が確定額であるときは、その「額」を定めなくてはなりません(会社法361条1項1号)。取締役の個人個人について、誰々の報酬はいくらと個人別の報酬額を明示して決議することが本分なのでしょうが、一般的ではなく、取締役または監査役をそれぞれ一括して取締役全員の報酬総額を限度額として定めるのが一般的です。これは判例でも認められていることです。また、株主総会でいったん限度額を決定すれば、その限度額を変更するまでは新たに株主総会決議を経る必要はないと考えられていて、実務でも、そのような対応がなされています。その限度枠を決める方法としては、月枠と年枠の2種類があります。

@)月枠

「取締役の報酬は月額○○百万円以内」という決め方です。つまり、月額ベースで限度額を確定させる方法です。

A)年枠

「取締役の報酬は年額○○百万円以内」という決め方です。つまり、年額ベースで限度額を確定させる方法です。この場合、年枠に余裕がある場合に、賞与分を枠内で支給することが可能になります。例えば、年枠2億円として場合に、毎月1千万円の固定報酬を支給すると、年間で8千万円余裕があります。そのうちから賞与分として確定額報酬の一部として支給することが可能になります。これに対して、月枠で確定額報酬を決めた場合には、月ごとの限度枠となるので、賞与のようなまとまった額の余裕が月枠の中で生まれることは難しくなります。

※役員報酬について、税務上で損金算入するためには、確定額報酬の場合には、毎月固定額を支給する場合に限られます。そのため、賞与のような一時的に支給は確定額において損金と認められません。ただし、事前給与確定の届出をすることで損金と認められる可能性はあります。

A報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法を決議する(不確定額報酬)

不確定金額報酬とは、売上や利益等の業績連動報酬、株価連動報酬といったものが該当します。つまり、業績や株価といった成績に対して一定の計算式を当てはめて報酬額を算出するということで、売上なり利益なり株価なりが確定すれば自動的に報酬額が算出されるという報酬です。このような報酬額そのものが確定額でない場合には、具体的な計算方法を定めなければなりません(会社法361条1項2号)。この場合の具体的な計算方法とは、その変数(売上、利益、株価等)の定義や変数が確定するための条件を具体的かつ一義的に定めることです。

※不確定報酬により役員報酬を支給する場合、税務上では損金と認められるのは利益連動報酬に限られ、しかも、下の条件を満たさなければなりません。

@)算定方法が、当該事業年度の有価証券報告書記載の利益に関する指標を基礎とした客観的なもの(下記ア〜ウを満たすもの)であること

ア.確定額を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する利益連動給与に係る算定方法と同様のものであること

イ.報酬委員会(業務執行役員等が委員になっている者を除く)が決定していることその他これに準ずる適正な手続きを経ていること

ウ.その内容が、上記の決定または手続きの終了の日以後遅滞なく、有価証券報告書などに記載されて開示されていること

A)上記の利益に関する指標の数値が確定した後1ヶ月以内に支払われ、または支払われる見込みであること

B)損金経理をしていること

B報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容を決議する(非金銭報酬)

非金銭報酬とは、職務執行の対価としての新株予約権の付与(ストックオプション)、社宅を安価に提供した場合の市場賃料と実際に取締役本人が負担する賃料の差額、退職年金の受給権の付与、生命保険の保険金請求権、ゴルフ会員権などが該当します。いわゆる現物報酬です。このような非金銭報酬の場合は、具体的な内容を定めなくてはなりません(会社法361条1項3号)。この場合の具体的な内容とは、金銭以外のどのようなものを報酬として付与するかを定めることです。実務上は、社宅の供与をする場合には、上限として賃料またはその相当額がいくらまでのものを供与するのか、ストックオプションの場合には、付与するストックオプションの価額の上限額、付与対象となる新株予約権の要綱について決議することになります。

 

●法定記載事項+α

ここでは、取締役の報酬改定議案を中心に見ていきたいと思います。監査役の報酬改定議案は、ほとんど同じですが、若干の点で異なるところがあるので、後で別に異なる点を中心に見ていきたいと思います。それでは見本として、いわゆる参考書類のモデル(株懇モデルを下敷きにしたものです)をサンプルとして、それに即して説明していくことにします。まずは、サンプルの中で赤字で番号を振った項目ごとに説明しますので、サンプルと照らし合わせながら読んでいただきたいと思います。

@議案(会社法施行規則73条1項1号、会社法361条1項)

ここには、通常は、株主総会で決議すべき事項が議案として記載されます。この場合、狭義の招集通知において会議の目的事項の決議事項として記載されている事項と異動がないように注意しなければなりません。そうでないと、議題が異なるという誤解を招く危険が生じます。剰余金の配当を行う場合の決議事項は次の点です(下記の3種類の報酬については、前項で説明したので、ここでは事例の紹介に留めたいと思います。)。

@)報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

A)報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

B)報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

A提案の理由(会社法施行規則73条1項2号)

参考書類には提案の理由を記載しなければなりません(会社法施行規則73条1項2号)。一般的には、「経済情勢の変化及び諸般の事情を考慮」などの文言が書かれているようです。提案の理由には、株主総会において一定の事項を説明しなければならない議案の場合における説明内容を含むとされています(会社法施行規則73条1項1号)。不確定額報酬や非金銭報酬の場合には、具体的な算定方法を相当とする理由を株主総会において説明しなければならないことから、この内容を含めて記載することが求められています(会社法361条2項)。

なお、株主総会参考書類には、提案の理由のほか、この後に説明をしていきますが、「算定の基準」及び「変更の理由」についての記載が求められています。しかし、これらを区分して記載することが困難な場合には、ここで一緒に説明してしまうこともできます。

このような記載内容について概説すれば、提案を受けた株主がその是非を判断するための材料をここで提示していると考えられます。株主総会だからということを抜きに、シンプルに考えてみましょう。取締役の報酬をこうしたいとか、このように算出したいと提案されて、その内容を説明されても、それが妥当なのかどうか、外部の人が判断できるでしょうか。そのためには、例えば、一般的な報酬レベルとか、ライバル他社と比べてどの程度のレベルなのかとか、同じ企業内でも従業員と比べてどの程度多いのかとか、そもそも会社として役員に対する報酬に関して、どのような基本的な方針であるのか、などといったことが詳しく説明されていてほしいと思うのではないでしょうか。その意味では、ここで法定記載事項として規定されている説明で足りるのでしょうか、少なくとも最低限度と考えるのが適切ではないかと思います。

事例サンプル

・経済情勢の変化を理由にしたひな型的な説明

当社の取締役会および監査役会の報酬額は、平成●年●月●日開催の第●回定時株主総会において、取締役の報酬額を年額●億●百万円以内、監査役の報酬額を年額●百万円以内と決議いただき今日に至っておりますが、その後の経済情勢の変化並びに今後の経営体制の強化に対応するため、取締役の報酬額を年額●億●百万円以内、監査役の報酬額を年額●百万円以内と改定することをお願いするものであります。また、取締役の報酬額には、従来どおり使用人兼務取締役の使用人分給与は含まないものといたしたいと存じます。

なお、取締役および監査役の員数は、第●号議案が原案どおり承認可決されますと、取締役は●名(うち社外取締役は●名)、監査役は●名となります。

・業績連動報酬を導入する改定の説明(比較的ていねいな説明)

当社の取締役の報酬額は、平成●年●月●日開催の第●回定時株主総会において年額●百万円以内とご承認をいただき今日に至っておりますが、コーポレート・ガバナンスの強化のため社外取締役を新たに選任することに伴い、その報酬枠を設定するとともに、社外取締役以外の取締役の業績向上への意欲をさらに高めることを目的として、現金による報酬の構成を固定報酬と業績連動報酬とすることとし、取締役の報酬額を次の通り改定いたしたいと存じます。なお、社外取締役については、その職務の性質に鑑み、業績連動型報酬の対象外といたします。

1.固定報酬額

年額●百万円以内(うち社外取締役分は年額●百万円以内)

2.業績連動報酬額

前事業年度の連結損益計算書における親会社の所有者に帰属する当期利益の額の1.0%以内(年額)。ただし、第●号議案が原案どおり承認可決された場合、同議案の社外取締役以外に対するストックオプション報酬額(年額)と合算して当該利益の額の1.0%を超えないものとします。

今般、取締役の報酬について一部を業績連動型報酬とする提案をさせていただきますのは、業績と直接的に連動する報酬を含めることが、取締役の業績向上への意欲や士気をさらに高めることにつながり、取締役報酬のあり方として妥当と考えるからであります。また、当社取締役は、当社の連結子会社を含む当社グループ全体の業績を向上させる責務も担っていることから、報酬額の算定には連結ベースの指標を用いることが適当であると考え、上記の内容としております。

なお、取締役の報酬額には、従来どおり使用人兼務取締役の使用人分の給与は含まないものと致したいと存じます。

Bその他(1)─算定の基準(会社法施行規則82条1項1号、84条1項1号)

役員報酬改定議案では、その報酬について算定の基準を株主総会参考書類に記載しなければなりません(会社法施行規則82条1項1号、84条1項1号)。この「算定の基準」とは、報酬等の算定が適正かどうかを判断するために必要な情報として記載するように規定されています。その記載は、基本となる額、役職、勤続年数等を要素として数式化した基準でも、数式化されない主観的基準でもよく、どのような判断過程をたどって議案に記載された報酬等が算定されたかを理解することができるもの、とされています。また、どのような要素を基礎に議案の額が算定されたかを示すものであれば、基本額、役職、勤続年数等を要素とする数式化された基準には限られず、「その後の経済情勢の変化および諸般の事情を考慮し」などの数式化されない主観的な基準でもよいとする見解もあるということです。

この記述に関する説明は、一般的に説明されているものを引っ張ってきたものですが、これは会社の内部的というのか、一方的な事情で述べられているとしか考えられません。まず、上記説明で例示されている基本額、役職、勤続年数という判断基準は従業員の賃金の体系で用いられてもので、従業員の延長で報酬が考えられていることを如実に示すものといわざるを得ません。会社の内部的には、このような考え方が一般的であるとしても、投資家、とくに海外の機関投資家は従業員と同じような経営者というものを、歓迎すると考えられるでしょうか。それだけでなく、「その後の経済情勢の変化および諸般の事情を考慮し」という抽象的な説明で報酬等の算定が適切であると判断できると認めてくれるでしょうか。

役員報酬は、過大でなければいいというものではなくて、経営者の動機付けの根拠ともなるもの、端的にいえば経営者が頑張るための餌のようなものですから、ある程度の額の報酬を支払うということになるはずですが、それがどの程度の額であれば、経営者が頑張ることができるのか、という株主が一番知りたいことへの配慮が、上記の説明では一顧だにされていません。この点については、後でまとめて考えてみたいと思います。

Cその他(2)─変更の理由(会社法施行規則82条1項2号、84条1項2号)

既に定められている報酬等の内容を変更するものであるときは、その変更の理由を記載しなければなりません(会社法施行規則82条1項2号、84条1項2号)。これは、実際には議案の提案の理由と重複することになるので、まとめて記載されるケースがほとんどです。

Dその他(3)─員数(会社法施行規則82条1項3号、84条1項3号)

議案が2名以上の役員についての定めであるときは、当該定めに係る取締役の員数を記載しなければなりません(会社法施行規則82条1項3号、84条1項3号)。この場合の員数は、定款所定の員数ではなく、実際の員数を記載します。これにより株主は、実際の報酬水準が妥当なものであるかを判断できることになると、一般的には説明されています。

また、株主総会で同時に役員選任議案等で取締役や監査役の増員、減員が生じる場合は、「現在の取締役の員数は○名でありますが、第○号議案が原案どおり可決されますと、取締役の員数は○名となります」、員数が不変の場合は「現在の取締役は○名でありますが、第○号議案が原案どおり承認可決されましても、取締役○名となります」等と記載することになります。

Eその他(4)─社外取締役の区分(会社法施行規則83条3項、84条3項)

公開会社であり、かつ、取締役の一部が社外取締役であるときは、社外取締役に関するものは、社外取締役以外の取締役と区別して記載しなければなりません(会社法施行規則83条3項、84条3項)。

Fその他(5)─使用人兼務取締役社の使用人分給与

使用人兼務取締役の使用人分給与については、総会決議に際して、それを含まない旨を明示して決議するのが一般的です。使用人として受ける給与体系が明確に確定している場合には、使用人分給与を含まない旨を明示して、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決定するのは適法であるとされています。

Gその他(6)─具体的な金額等の決定方法

株主総会においては報酬の総額あるいは上限額を決議した後の具体的な配分については、取締役については取締役会、監査役については監査役の協議によることになるので、その旨を明らかにするために参考書類に記載しているケースが多くあります。

Hその他(7)─監査役の意見

監査役の報酬等について監査役の意見があるとき(会社法387条3項)は、その意見の内容の概要を記載しなければなりません(会社法施行規則84条1項)。

事例サンプル

・増配の場合

当社は安定的な配当の継続を重視し、業績動向及び配当性向などを総合的に勘案して利益配分を決定しており、また、企業として財務体質の強化と将来の利益確保に備えるべく内部留保にも努めております。配当につきましては、単体ベースでの配当性向30%を目処に、連結業績も十分考慮した上で、将来の事業展開及び収益水準を勘案し決配の●円となります。

らないようにします。

 

●IRやコーポレートガバナンスの視点で参考書類を考える


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