4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類 役員報酬議案をIR&ガバナンスから考える |
●報酬ガバナンスという視点 外国人をはじめとして機関投資家が企業のガバナンスを考える際に、エージェンシー論という考え方があります。経営者というのは資金の出し手である株主が代理人(エージェント)として経営にあたらせるということで、その経営者は株主の利益よりも自身の利益を優先して実現させようとするリスクを常に伴うというのです。だから、その防止のための監視役に社外取締役を選任するといったガバナンスということが重要視されるわけです。しかし、それでは片手落ちで、強制するようなことばかりやっていては、その経営者を萎縮させてしまったりすることになってしまう。それよりも自発的に株主にも経営者にも利益になるように持って行けばよいはずだ。つまり、経営者の利益と株主利益の連動性を高めることだ。その経営者の利益として役員報酬、とくにインセンティブということを考えるようになってきている。それが報酬ガバナンスと言われる議論です。 従来の役員報酬に関する議論では、役員は不当に高額の報酬を受けていて、株主に還元すべき資金も独占しようとしていることが問題である、というものでした。例えば、新聞や雑誌の記事において高額報酬の経営者を非難する内容が書かれるといったことや、国による規制として金商法による有価証券報告書の中に役員報酬に関して取締役個人の報酬額を開示させたり、といったことに表われていると考えられます。 しかし、上述の報酬ガバナンスの議論からすれば、経営者の報酬が少なければいい、というものではないのです。むしろ、報酬が少なければ経営者の意欲が減退してしまって、会社の経営よりも保身を優先してしまうおそれが高まることになります。リスクを覚悟して事業を成長させることよりも、事なかれ主義の安全策によって長く地位を確保するほうが確実に報酬を受け取ることができることになるわけですから。これは株主の利益に反する結果となります。また、アメリカの企業で、一時、問題になったこととしてストックオプションなどのインセンティブ報酬を最大化するために短期的に見かけ上の業績をよくして株価が一時的に上がったところで自社株を売って報酬を最大化させる、ということは中長期の成長を考えていないので、その後で株価が急落するおそれがあるわけです。で、当時の経営者は任期を終えて退任しているので、自身の報酬の影響はないという、結果として持ち逃げのようなことになるわけです。株主の立場としては、このようなことはなってほしくない。かといって、社外取締役による監視・規制ではそこまで届きません。 つまり、役員報酬に関しては、もはや高い報酬を得ていないから問題ないということではなくて、役員報酬の内容、例えばどのような基準で報酬額が決められるのか、その決め方についての基本的な方針の説明が、株主や投資家から求められるようになってきている、と考えられるのです。
●役員報酬の説明が会社の経営方針への信頼を高める 株主や投資家は、報酬ガバナンスの観点から会社に対して役員報酬の説明を求めている。これに対して、会社の対応としては、従来では、法令で義務付けられたこと以外は明らかにすることなく、余計なことを開示すれば、それについて追求を受けるかもしれないから、というものでした。しかし、逆に積極的に説明するということも考えてもいいのではないでしようか。株主や投資家のニーズがあるから、それに応えるということで信頼関係を構築できるというメリットがありますし、それ以上のメリットも考えられます。日本企業の役員報酬は業績連動報酬が少なくて、業績とは無関係な固定報酬の占める部分が大きいと言われます。このような固定報酬で役員自身の経済的利益が実現されてしまう報酬内容は、業績悪化によって株主リターンの低下を招いても、経営者は株主の痛みを実感することができない、と株主や投資家にみられています。一般論としてはそのようなことになるのでしょう。しかし、裏を返せば、企業の側で固定額の報酬であっても、その内容を株主に理解してもらえば、誤解を晴らすことになるわけです。たとえ固定額の報酬であったとしても、各取締役の報酬額が、その企業の業績が落ち込んでいるときに、その業績と全く関係なく決められているということはないはずです。そのためには、実際の支給額の実績を明らかにしなければならない場合もあるでしょうが。 役員報酬の改定をする場合、とくに固定額の現金報酬であれば報酬枠の増加は業績が好調な時に提案されるので、その業績と増加の関連を具体的に説明できればいいわけです。 また、業績連動報酬の導入であれば、株主は興味深く説明に耳を傾けてくれることになるでしょう。この場合、業績連動といっても業績を表わす指標が、利益なのか(利益といっても、営業利益、経常利益、当期純利益など様々ある)、売上なのか、利益率、ROE、株価などと様々に分かれる。それらの中で、何を指標とするかは、その企業の事業方針で重視する指標と重なることになるはずです。つまり、役員報酬の算定は会社の事業方針や戦略と密接に連動していることになります。例えば、売上を指標としている業績連動報酬であれば、取締役は売上アップへの動機付けとなり、そこで売上を増やしていくには、どうすればよいのかを考え、そして、機会があれば、その事業戦略を説明する舞台になり得えます。 また、役員報酬の議案は将来に向けた決定です。その意味でも経営方針や戦略に連動しているはずです役員報酬の内容を通じて「この会社がどうなるのか」が見えてくるという道筋が見えてくるというのが理想です。その意味で、役員報酬は経営戦略の一環というわけです。
●議案 上述が定款変更の議案説明の場となりうるのです。
●IRの視点 するケースを考えてみたいと思います。
●当社の従来の体制 当社は2003年の商法改正に従って監査役会を設置して以来、監査役会設置会社の経営形態であり続けてきました。取締役と監査役から成る役員構成で、監査役を3名以上にして、その過半数を社外監査役とすることで、独立性のある立場で取締役に対する監視を強めるという、当時としては従来からの監査役制度を強化するものでした。もともと、当社の取締役会の人数は7名前後の少数で、米国の機関投資家が大株主でいて社外取締役を送り込んでいたため、経営トップが独断にはしることはなく、監査役についてもメインバンクや主要顧客であり、大株主であった鉄鋼会社から人を招いて選任することが続いていました。その後、機関投資家は株式を売却し、鉄鋼会社やメインバンクとの関係も近しいものではなくなりましたが、その伝統文化は引き継がれ、毎回の取締役会は少人数で活発な議論が行われてきました。しかし、国内経済の低迷が長期化し、当社をとりまく経営環境が厳しくなってくるなかで、当社は新たに検査機事業を興し
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