4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類 定款変更議案をIR&ガバナンスから考える |
●会社の基本的な規定を変えるということは、会社の基本を変えること @IR視点により(株主視点から見た)定款変更の意義 言うまでもなく定款は株式会社の基本的事項を定めたもので、その改定には会社の事業の根本的な変更といった企業の存続や、資本構造やガバナンス形態の変更のような企業価値に大きな影響を与える内容が含まれる、非常に重要な議題と言えます。比喩的な言い方をすれば、政府の最重要事項で、それに基づいて政策が実行される法案や予算案を審議し決定する、国権の最高機関としての国会のようなものが、株主総会で、そこで審議される定款変更は憲法のような重要法令の改正のようなものです。 したがって、定款変更議案というのは、単に定款という規定の条文を変更するということにとどまるものではないのです。例えば、事業の目的を変更したり追加したりするという条文の変更は、事業を変えてしまったり、新規事業を推進するという、いわば事業再編の是非を株主に対して、企業が問う場でもあるのです。その場合、単に「事業の拡大」とか「事業内容の多様化にたいおうするため」といった通り一遍の説明で、果たして納得できるのでしようか。これは、まさに事業方針の根本的な変更として、株主価値に大きく影響を及ぼすものです。会社の経営陣の中で、そのような決定に至ったのは、事業戦略に関して全般的な経営見通しやリスク評価について検討されているはずです。まさに企業の存続を賭けた決定と言ってもいいのですから。それは会社の所有者である株主にとっても重要度は同じです。それほど定款変更は重要なので、その重要度に応じた説明が為されて然るべきはずです。 A法令の変更に伴う定款変更も形式的と済まされない 定款は、会社法などの法令に規制されたものであるため、法令の改正があれば、それに従って形式的な変更が必要になります。その場合、これによる定款変更の大部分は、みなし変更として法令が改正され、施行された時点で定款の該当部分は改正された法令の内容に従って読み直されるので、実質的な内容は法令に応じて変わってしまっているのであり、その後の定時株主総会で定款変更として議案に提出されたものは、その内容と一致するように文言を直すことがほとんどです。その場合、変更理由の説明は、「法令の変更に伴う」といった形式的な説明で終わっているケースがほとんどです。 しかも、定款という法律のような条文の文言は、専門的な素養のない者にとっては読みづらく、意味を掴み難いものです。 しかし、法令の改正によって定款の内容が変更されているのですから、会社の内容について何らかの変更が行なわれているはずなのです。それによって会社の事業や体制が変更されれば、経営に影響が及びます。それが株主の利益に影響があるかどうか、あったとすれば、どのようなものになるのかについて説明がなくて、株主は議案に対する賛否を判断できるでしょうか。おそらく、会社の経営陣においては法令の改正に対しては従う義務がありますが、それによる経営への実質的な影響を検討しているはずです。それは、株主も利害関係は変わらないと言えないでしょうか。
●定款変更議案の作成の現状 上記のような書き方は、企業が議案の説明に対して消極的と責めているような印象を与えてしまいそうです。しかし、企業の側で考えてみると定款変更は株主総会で過半数の株主が出席し、3分の2以上の賛成を要する特別決議による承認を要し、それは、企業にとって困難さを伴い、多大な手間を必要とすることです。しかも、定款で使われている文言は、法律のテクニカル・タームで構成されています。そのため、経営者も日常的に使用している言葉ではないため、企業内の法務部や文書管理を担当する総務部等のスペシャリスト任せにされているのが実態といえます。しかも、このスペシャリストたちの心性は、どちらかというと法的リスクに対する防御的な方向に傾きがちです。ただでさえ、株主総会参考書類の作成は法務部や総務部のスペシャリストが担当することが多いのに、さらに定款に関する説明は法務スペシャリスト向けということで、なおさらリスクを過大視する方向に傾いてしまうのです。これには、経営者も経営企画の担当も入り込みにくいという独特の性格もあると考えられます。 しかし、そこで分業化が進んだ規模の大きな企業をはじめとして、専門化が進んだ法務担当者は、発想や視覚が狭くなってしまっているゆえに、ある意味では必然的と言えるのです。 ではどうすればよいのか、それは、企業それぞれで現状を問題とするかどうかの認識によると考えられます。多分、このページでこれまでに述べてきたことは、荒唐無稽と考えるか、一部でも理解あるいは納得するかで、後者にあたる企業及び担当する人は、それほど多いとはいえないのではないか。
●定款変更議案は株主と会社の経営方針に対する承認を得る絶好のチャンス 上述の現状認識の上で、敢えて、定款変更の説明として、目指すべき方向性について考えてみたいと思います。最初に、定款は会社の基本的事項を規定したもので、当社はこのような事業を行いますとか、当社はこのような体制で経営していきます、ということを条文として明文化したものであると述べました。つまり、経営の基本方針の根幹部分と言えることです。この定款変更をするということは、この基本に関わる変更ということを含んでいます。 ところで、株主総会で報告されたり、議案として提示されることの多くは単年度の事業成果であったり、それによって利益が生じたのであれば、その処分をどう分けるかという剰余金処分や、その成果を踏まえて、次年度以降どうするかという説明とその方向性の経営陣である取締役の選任(実質的には信任?)です。いわば、短期的、せいぜい中期経営計画ていどの中期的な見通しについての議論や報告です。 これに対して、会社の経営陣が自身、当社をどのように考えていて、どのようにしたいのかというビジョンを議論するということは、一部は上記の報告や議論で参照されるかもしれませんが、正面から扱われることはありません。実は、定款変更という議案は、そういうことを議題として株主総会という場で議論し、株主が承認をするためのものでもあると考えられるのです。 例えば、会社の発行可能株式総数を増加させるという定款変更をする場合、なぜ発行可能株式総数を増加するのかという理由は、資金の調達とか、その資金の調達の目的はM&Aとか新規設備投資とか様々なことがあるでしょうが、そのおおもとにあるのは会社の規模を拡大するということです。会社のサイズを、従来のものから変えるということは、それでは足りなくなったからとか現状の大きな変更ということです。会社の事業戦略においては事業のサイズをひとつの枠として前提してそのキャパシティの範囲内で具体的戦略を練っていた、その枠を変えるというのは、大きな戦略変更に結びつくはずです。そのこと自体を株主に正面から説明できるチャンスが定款変更の議案説明の場となりうるのです。
●IRの視点で定款変更に関して、どのような説明が可能か これまで理屈を捏ね回してきましたが、実際に株主総会参考書類において定款変更の説明として、どのようなことができるかを考え、試してみたいと思います。 何度も書いてしつこいようですが、定款変更は会社の基本的な事項の変更です。そのような会社の基本的な事項を変更するには、基本方針の変更や経営戦略の変更によるものです。そこで、説明される側として、この場合知りたいのは、従来の方針とはどのようなものであるのかを改めてはっきりさせて、それを変更する理由として、まず従来の方針では十分でなくなってきたから変更をするので、その従来の方針が十分でなくなったことについての説明が必要で、それは変更の目的、つまりどのように変更して、実際のところ何をどうしたいのか、という具体的なことです。そして、影響というのか、変更することによって新たな方針はどのようなものになるのか、それによって、リスクもあるしメリット(効果)があるだろうからその説明ということになると思います。これは、経営者の経営方針を社内外の関係者に向けて詳しく説明することと、ほとんど等しいと言えるのではないでしょうか。項目を分けたような書き方をしましたが、実際のところ、ここで列記した知りたいことは、一連のつながりのなかにあり、個々に独立させて説明するのは難しいかもしれません。 実際の事例では、2015年6月三菱重工が監査等委員会設置会社に移行するための定款変更、取締役選任、役員報酬の議案の提案理由をまとめて、監査等委員会設置会社という形態の説明や、今までの取締役会の活性化やコーポレートガバナンスへの取り組みを説明した上で、で今まで以上を追求したいということから監査等委員会設置会社に移行するということが数ページにわたって説明されていました。 (http://mhi.co.jp/finance/stock/meeting/pdf/90_notice.pdf) おそらく、この事例は従来の株主総会招集通知のフォーマットでできる限界に近いところまで説明したものと考えられます。この事例であれば、説明内容は事業報告の「今後の課題」の説明に重なってくるでしょう。だから、詳しく説明していけば、その分量は大きくなって招集通知のボリュームは大きくなり、印刷代や郵送の手数料も嵩んできます。そして何よりも、あまりに分量が多大になれば、受け取った株主や投資家の方でも読みにくいものと感じてしまうことになるでしょう。そうであれば、株主総会関係の書類の構成も、それでいいのかということになります。 ここでは、そのような構成までは考えずに、説明、とくに提案の理由の説明の内容について、私なりのサンプルを試みようと思います。比較の意味で、事例として紹介した監査役設置会社から監査等委員会設置会社に移行するケースを考えてみたいと思います。
●当社の従来の体制 当社は2003年の商法改正に従って監査役会を設置して以来、監査役会設置会社の経営形態であり続けてきました。取締役と監査役から成る役員構成で、監査役を3名以上にして、その過半数を社外監査役とすることで、独立性のある立場で取締役に対する監視を強めるという、当時としては従来からの監査役制度を強化するものでした。もともと、当社の取締役会の人数は7名前後の少数で、米国の機関投資家が大株主でいて社外取締役を送り込んでいたため、経営トップが独断にはしることはなく、監査役についてもメインバンクや主要顧客であり、大株主であった鉄鋼会社から人を招いて選任することが続いていました。その後、機関投資家は株式を売却し、鉄鋼会社やメインバンクとの関係も近しいものではなくなりましたが、その伝統文化は引き継がれ、毎回の取締役会は少人数で活発な議論が行われてきました。しかし、国内経済の低迷が長期化し、当社をとりまく経営環境が厳しくなってくるなかで、当社は新たに検査機事業を興し
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