4.株主総会の実務(2)〜文書
(3)株主総会参考書類
コーポレートガバナンス・コードを踏まえて
 

 

●コーポレートガバナンス・コードを踏まえた役員選任議案を考える

@取締役候補指名の方針・手続及び個々の候補者の指名理由の記載

1)記載するか否か

会社法では、取締役・監査役候補の指名理由の記載については、社外取締役(会社法施行規則74条4項2号)・社外監査役(同規則76条4項2号)に関してのみ必要としていて、それ以外の場合には求められていません。2016年の定時株主総会では、上場会社のおよそ半数にあたる企業が、何らかの形で個々の取締役・監査役候補の指名理由の説明を掲載していました(これらの企業のうちの多くが、コーポレートガバナンス報告書において個々の取締役の指名の理由について、株主総会参考書類のURLを示し、参照させることで説明に代えていました)。

一方、コーポレートガバナンス・コードでは、原則3−1において経営の方針の開示を求めていますが、とくに開示すべきものとして「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続の開示(CGC3−1C)」、この方針・手続を踏まえて「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の個々の指名理由の説明(CGC3−1D)」を挙げています。

2)どのように記載する(コーポレートガバナンス・コードの主旨をいかに反映させるか)

各企業で試行錯誤しているようですが、全体的な傾向をまとめると、項目別に次のようなことが言えると思います。

@)選任方針、手続

・指名の方針・手続を直接記載しているケースはそれほど多くない。(2割程度)

議案の最後に「ご参考」として掲載するケース、あるいは議案の提案理由のなかで説明しているケースが見られる。(例えば、増員理由の説明において詳しく触れるといったケースがある←機関投資家は、理由のない取締役の増員には反対する方針を明らかにしているところが多いことも影響している)

※指名方針には、コーポレートガバナンス・コード補充原則4−11「取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方」(CGC4−11@)の内容もあわせて記載することになる。

<記載例(日本郵船の参考書類:取締役選任議案で、取締役会の規模・バランス・多様性に関する考え方、役員の氏名方針・手続、独立性基準をご参考として一括掲載している)> 

http://www.nyk.com/release/dbps_data/_material_/_files/000/000/004/322/129.pdf

<記載例(デンカの参考書類:取締役選任議案で、議案の提案理由の説明において、取締役の選任に関する考え方を掲載している)> 

http://www.denka.co.jp/ir/pdf/160524_shoshu.pdf

 

・個々の取締役・監査役候補者の氏名理由の説明の中で、指名方針を踏まえていることを示す必要があるので、方針を充足していることが分かるように触れているケースが多い。

<記載例(エーザイの参考書類:取締役選任議案で、各取締役の指名理由を記載し、その中で指名の方針・手続を充たしていることを記載している)> 

http://www.eisai.co.jp/pdf/ir/stock/inv104_all.pdf

A)各候補者の個々の指名理由

・法定の社外取締役・監査役に限らず、社内の取締役・監査役の場合でも記載しているケースが多くなっている。

・指名理由の説明のなかで、指名の方針や手続を踏まえていることを示すために、経歴、経験、知見、実績等を紹介し、それが選任基準を充足していることを示しているケースが多い。

<記載例(エーザイの参考書類:取締役選任議案で、各取締役の指名理由を記載し、その中で指名の方針・手続を充たしていることを記載している)> 

http://www.eisai.co.jp/pdf/ir/stock/inv104_all.pdf

・選任基準としては、人格、遵法精神・倫理観、業務上の専門知識、経験、能力、多様性などが掲げられる。

・候補者がこのような選任基準を充たした上で、どのような貢献が期待できるかまで踏み込んだ説明をしているケースもある。

・記載は、候補者の一覧表に理由欄を設けているケースと欄外の注記に各人の指名理由を記載しているケースと、まちまちである。

<記載例(ワコール・ホールディングスの参考書類:取締役選任議案で各候補者の略歴と共に選任理由を記載し、役員の選任基準、独立性基準をウェブサイトに掲載している旨を記載している)> 

http://www.wacoalholdings.jp/ir/public_item/soukai/files/soukai_notice160603.pdf

 

・あえて選任理由としては説明していないものの、略歴を詳細に記載している旨を述べているケースもある。(小松製作所)

http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/ir/shares/meeting/pdf/147convocation_j.pdf

 

A社外役員に関する事項の記載

1)社外役員の独立性判断基準

有価証券報告書では社外取締役または社外監査役を選任するための会社からの独立性に関する基準または方針の内容を記載事項とされていて、コーポレートガバナンス・コードの原則4−9では社外役員の独立性判断基準を策定し開示することを求めている。また、機関投資家や議決権行使助言会社も独立性判断基準が参考書類に記載されることを希望している(この場合、事業報告ではなく参考書類への記載を希望している。これは、社外役員の選任に関する判断において、独立性基準を充たしているかを手早く確認するためと考えられる)。

・独立性判断基準を事業報告や参考書類に記載する企業は増加傾向にあるが、掲載しているのは全体の4分の1程度。

事業報告の「会社役員に関する事項」に記載する例は少数派で、多くの場合参考書類の役員選任議案の末尾に記載している。また、概要のみを記載している例もあるが、完全版を記載する例の方が多い。

・独立性判断基準の内容については、東証の独立性基準そのままではなく、加重して自社基準を定めている例が多い。

東証の基準に加重している理由として、機関投資家や議決権行使助言会社は曖昧な基準では、社外役員の独立性を認めないとしているので、具体的な数値により基準を詳細に決めている。

利害関係の基準:大株主(例えば議決権基準で10%以上)、主要取引先(売上高の○%、相手方の売上の○%)、多額の寄付(いくら以上)

過去の基準:3年とするケースが過半数以上

・個別の具体的な基準に加えて包括的な基準を記載しているケースもある。

「その他、独立性・中立性の観点で、社外取締役としての職務遂行に支障をきたす事由を有していないこと(エーザイ)」

「その他、社外役員としての職務を遂行する上で独立性に疑いがないこと(オムロン)」

2)社外役員に関するその他の事項

@)独立役員に関する記載

東京証券取引所の上場規則では、上場会社は独立役員に関する情報等を株主総会における議決権行使に資する方法により株主に提供するように努めることを求めています。

・独立役員として指定する旨の記載

ほとんどの企業が選任議案に関して参考書類に記載している。また、大部分の企業は、事業報告の「役員の状況」においても独立役員の記載をしている。

<独立役員である旨の記載例>

「当社は、候補者○○氏を、金融商品取引所に独立役員として届け出ており、また、候補者△△氏が選任された場合は独立役員としてと届け出る予定であります。」

・社外役員、独立役員の属性情報の記載

上記の独立役員の記載を行なった企業の14.7%が記載しているが、今後増加傾向にあります。実際のところ機関投資家は、社外役員候補者の兼職先と当社に取引関係がある場合は金額等(単に僅少では判断できないとみなされてしまう)の記載がないと独立性がないと判断されてしまう可能性があります。

主要な取引関係、寄付関係の属性情報について

売上高に占める割合を示しているケース(44%)

具体的な金額を示しているケース(11%)

<属性情報の記載例>

「当社は、候補者○○氏が取締役を務める□□株式会社と××に関する取引関係がありますが、取引金額は年間X円(両社の連結売上高のY%未満)であり、当社の独立性基準を充たしております。」

 

B役員選任に関するその他の事項の記載

1)監査役の財務・会計に関する知見

コーポレートガバナンス・コード原則4−11において監査役は財務・会計に関する適切な知見を有する者が1名以上選任されるべきことを規定している。会社法では事業報告において、監査役、監査等委員または監査委員が財務および会計に関する相当程度の知見を有しているものである時は、その事実を記載しなければならないとしている(会社法施行規則121条9号)。参考書類では、記載事項とはされていないが、該当する候補者がいる場合には、選任理由あるいは注記において項目をたてて記載するケースが多い。

<記載例(資生堂の参考書類:監査役選任議案)>

「社外監査役候補者とした理由

○○氏は、会社法施行規則第2条第3項第8号に定める要件を満たす社外監査役候補者であります。

同氏につきましては、□□大学商学部、大学院商学研究科教授を務め、公認会計士資格を有する財務・会計・税制の専門家であります。また、複数の会社の社外取締役および社外監査役を務めており、豊富な経験と高い識見を有しております。同氏は、社外役員以外の方法で会社経営に関与したことはありませんが、上記の理由から社外監査役として職務を適切に遂行することができると判断しましたので、取締役会は同氏を引き続き社外監査役に定めました。

「略歴及び当社における地位」に記載の略歴およびこれ以外の経歴から、同氏は以下の経験、知見または専門知識を有しております。

●財務・会計・税制に関する専門知識」

2)他の上場会社役員との兼任状況

コーポレートガバナンス・コード補充原則4−11Aにおいて取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合はその兼任状況を開示すべきと規定しています。

これは、実際には事業報告の「重要な兼職の状況」および参考書類の役員選任議案での「重要な兼職」の記載において対応することで足りる、というのが一般的な見解です。

※事業報告で「兼任に関する考え方」を改めて記載しているケースもあります(積水化学工業、亀田製菓)。

3)その他役員選任議案に関する記載の工夫

@)候補者名のフリガナ

A)新任、再任の別

B)取締役会への出席率(具体的な数値で)

C)顔写真(?)

D)(生年月日に加えて)年齢

E)サマリー一覧表

選任する役員数が多数であったり、候補者の略歴等を詳しく記載したりすると、全体像をパッと把握し難くなるので、最初にサマリーで候補者を一覧にして全体像の把握を容易にする。あくまで全体像なので、候補者の氏名(フリガナ)、新任か再任か、現在の役職(地位)、社外役員程度を記載している。

<記載例(オムロンの参考書類:サマリーを記載している)> 

http://www.omron.co.jp/ir/kabunushi/soukai/pdfs/shoshu_79th.pdf

 


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