新任担当者のための会社法実務講座
第4章.機関 
第1節.株主総会及び種類株主総会
第3款.電子提供措置
 

 

第4章.機関

第1節.株主総会及び種類株主総会

第3款.電子提供措置

Ø 電子提供措置をとる旨の定款の定め(325条の2)

株式会社は取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、次に掲げる資料(以下この款において「株主総会参考書類等」という。)の内容である情報について、電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合にあっては、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいう。以下、この款、第911条第3項第12号及び第976条第19号において同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。

一 株主総会参考書類

二 議決権行使書面

三 第437条の計算書類及び事業報告

四 第444条第6項の連結計算書類

 

ü 電子提供制度の趣旨

株主総会資料の電子提供制度は、株主総会参考書類等の株主総会資料に関して、会社が電子提供制度(電磁的方法により株主が情報提供を受けることができる状態に置く措置)をとった場合、株主の個別の承諾なくとも当該資料を適法にしたものとする制度です。

・従前の制度とその考え方(従前の制度について詳しくはこちらを参照願います)

株主総会資料等の電磁的方法による提供は、今回の法改正で新たに創設された制度ではなく、従来からもあった制度で、それをリニューアルした制度です。したがって、従前の制度を簡単に紹介し、今回の制度との違いを比べてみたいと思います。

従前の制度は、次の二つの枠組みで構成されていました。第一に、会社は株主総会招集通知を発する場合、株主総会参考書類と議決権行使書面を交付しなければならない(301条1項)。第二に、株主総会の招集通知を発する際に電磁的方法で行うことについて株主の承諾があれば書面に代わって行うことができる(299条3項301条2項)。

この制度の導入の背景について考えてみると、第一の制度、いわゆる書面投票制度に伴う書類での情報提供については、1981年の商法改正において、当時の株主総会は株式の相互持合いの普及や総会屋の跳梁跋扈により、株主総会の決議は、実質的に持ち合いをしている会社の意向や総会屋との裏取引で決まってしまうようになっていました。つまり、総会自体が形骸化し、それ以外の株主(個人株主を含む)にとっては株主総会に参加する意欲を失っていたという状態でした。これに対する危機感から、形骸化した総会を実質的に機能するものとするため、積極的に総会参加意欲を向上するために、個々の株主の意思が総会によりよく反映させる仕組みとして、個人株主の総会への参加意欲を高めるために議決権行使のために判断の基準となる情報を書面で十分提供するというものだした。その上、総会に出席できない株主の議決への参加を促すというものでした。

そして、第二の制度、書面による情報提供を電磁的方法でもできるようにした2001年の商法改正によるもので、高度情報化社会の到来に対応するため、株主総会関係書類を電磁的方法によって作成できるようにする、という趣旨のものでした。このような書面を電磁的方法に置き換えるに当たっては、書面による通知を受ける側の承諾があることが前提となり、これはデジタルデバイドに配慮したためです。

これらをまとめると、株主、とくに個人株主が会社経営に対する関心を持たず、株主総会が形骸化しているという危機感から生まれたせいどと言えます。

・新しい制度の考え方、従前の制度とその考え方の違いをもとにして

株主総会をめぐる状況は従前の制度の導入時から大きく変化しました。株式の持ち合いは見られくなくなり、総会屋はほぼ根絶されました。そのため、会社にとって、総会の議決や定足数の確保が必要となり、株式会社は丁寧な株主総会の運営を図るようになってきています。

現在では、多くの上場会社の関心は、会社の意思決定に一定の影響力を持つようになって機関投資家への対応をどうするか、という点に移ってきました。株主総会において機関投資家に賛成票投じてもらうこと、ひいては機関投資家に安定的に株式を保有してもらうことです。そこで、従来とは制度のターゲットが変わったことが大きな違いです。従前の制度は、株主総会に関心の薄い個人株主でしたが、新しい制度では、会社経営に深い関心を寄せている機関投資家です。また、機関投資家は個人株主に比べて情報量や情報の分析能力が格段に勝っています。だからこそ、議決家行使に当たって情報の吟味のニーズに対応すべく、書面による情報提供の制約を取り去り(電磁的情報であればリンクにより情報の在り処を提示して、機関投資家に取得してもらうことが可能となる)、早期に付与することとなったのです。

・電子提供措置とは

電子手卿措置は、電磁気方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めると定義されています(325条の2)。具体的にいうと、株主総会資料をインターネットの自社のホームページ等にアップロードし、株主が閲覧できるような状態にすることです。株主が閲覧することができればよいので、パスワード等を要求して、株主以外の者が閲覧できないようにすることも可能です。実際のところ、自社ホームページで株主に限らず不特定多数の閲覧者に向けて株主総会資料を開示している会社が多い現状からは、パスワードで閲覧を制限することはないだろうと思われます。

また、注意しなくてはいけないのは、アップロードは、印刷することができる状態で行う必要があるという(会社法施行規則222条2項)点です。そのため、たとえば事業報告の内容に相当するものを社長が説明する動画を自社ホームページにアップロードしたとしても、それは事業報告に関して電子提供されたとものとはみなされません。

ü 電子提供制度の定款

・電子提供措置をとる旨の定款の定め

会社が電子提供措置をとる場合、定款に電子提供措置をとる旨の定めを置かなければなりません(325条の2)。また、電子提供措置の対象となる株主総会資料は次の書類です。

株主総会参考書類

議決権行使書面

計算書類・事業報告

連結計算書類

定款の定めによるとされているので、電子提供措置を採用するか否かは会社の任意です。しかし、上場会社は電子提供措置の採用が義務となっています(社債等振替法159条の2第1項)。これは、電子提供措置の機関投資家を念頭に置いたという趣旨から考えると、この措置をとるということは、その会社が、自らの株主構成がどのようなものであるかに関わらず、上場会社は機関投資家を念頭に置いて株主総会運営をすることを宣言することになります。

そして、電子提供措置をとる旨の定款の定めにいて登記すべき事項になっています(911条3項12号)。このことは、電子提供措置をとる旨の定款の定めが株主以外の第三者との関係で意味をもつものとされていることです。

・みなし定款変更(経過措置)

上場会社は電子提供措置のをとる旨の定款の定めを設けることが義務付けられている関係で、上場会社は改正法の施行日を効力発生日として電子提供措置をとる旨の定めを設けると定款変更決議をしたものとみなされます(整備法10条2項)。つまり、この件について株主総会の定款変更の承認決議を受ける必要がないということです。

また、この定款の定め登記事項であるため登記申請が必要となるところ、みなし定款変更に基づく登記は施行日から6か月以内に行えば足りるとされています(整備法10条4項)。

なお、みなし定款変更が経過措置として定められているのは、電子提供措置をとる旨の定款の定めのみで、それ以外の定款の定めについては株主総会の承認が必要です。 

 

Ø 電子提供措置(325条の3)

@電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、第299条第2項各号に掲げる場合には、株主総会の3週間前の日又は同条第1項の通知を発した日のいずれか早い日(以下この款において「電子提供措置開始日」という)から株主総会の日後3箇月を経過する日までの間(以下この款において「電子提供措置期間」という)、次に掲げる事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない。

一 第298条第1項各号に掲げる事項

二 第301条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項

三 第302条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項

四 第305条第1項に規定による請求があった場合には、同項の議案の要領

五 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第437条の計算書類及び事業報告に記載され、又は記録された事項

六 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第444条第6項の連結計算書類に記載され、又は記録された事項

七 前各号に掲げる事項を修正したときは、その旨及び修正前の事項

A前項の規定にかかわらず、取締役が第299条第1項の通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、前項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

B第1項の規定にかかわらず、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日まで第1項各号に掲げる事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第27条の30の2に規定する開示用電子情報処理組織(以下この款において単に「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、同項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

 

ü 電子提供措置期間(第1項)

電子提供措置の開始日は、株主総会の日の3週間前の日または招集通知を発した日のいずれか早い日で、これを電子提供措置開始日と呼び、終了日は、株主総会の日後3ヵ月を経過する日までとされています(325条の3第1項)。

なお、電子提供措置開始日に関しては金融商品取引所の規則で、上場会社は、株主総会の日の3週間前よりも早期にするように努める規律が設けられています。

ü 電子提供措置事項(1項1〜7号)

電子提供措置の対象事項は電子提供措置事項と定義され、従前の会社法で株主に対して書面での提供が必要とされる事項については、すべて電子提供措置事項に該当することになります。具体的にいうと、以下の通りです。ただし、会社の機関設計等により場合分けされているので、分かりにくいかもしれません。

1)298条1項に掲げる事項─狭義の招集通知記載事項(1号)

2)議決権行使書面を採用する場合、株主総会参考書類及び議決権行使書面(2号)

3)電子投票を採用する場合、株主総会参考書類(3号)

4)要件を満たす株主から請求があった場合、株主提案の議案の要領(4号)

5)取締役会設置会社が定時株主総会を招集した場合、計算書類及び事業報告─監査役・会計監査人の監査報告を受ける場合には、監査報告・会計監査報告を含む(5号)

6)会計監査人設置会社である取締役会設置会社が定時株主総会を招集した場合、連結計算書類(6号)

7)電子提供措置事項を修正した時、電子提供措置を修正した旨及び修正前の事項(7項)

※電子提供措置事項の修正(1項7号)

電子提供措置の内容に修正すべき事項が生じた場合には、その修正の内容についても電子提供措置事項として電子提供措置の対象となります。招集通知発送後に電子提供措置の内容を修正した場合であっても、再度招集通知を要しない。

原則として電子提供措置事項の修正は、修正内容をアップロードすれば無制限に許容されるというものではなく、有効に修正をすることができる範囲が従来のいわゆるウェブ修正(会社法施行規則653条3項)と同様に、誤記の修正または株主総会招集通知を発した日後に生じた事象に基づくやむを得ない修正等に限られ、内容の実質的な変更とならないものであると考えられます。

ただし、ウェブ修正は条文で対象事項が限定されています(狭義の招集通知記載事項、議決権行使書面記載事項、監査報告、会計監査人監査報告は修正できない)が、電子提供措置事項の修正に対して同様の条文上の規制はありません。したがって、修正の対象事項はその分広くなったと考えられます。

また、ウェブ修正は条文上招集通知を発送した後の修正を念頭に置いているのに対して、電子提供措置事項の修正は電子提供措置をとった時点から生じるものです。この違いを考えると、例えば株主総会の日の3週間前に電子提供措置を開始した場合、招集通知を発送する前であれば修正は柔軟に考えてもよいのではないかという意見もあります。

ü 電子提供措置事項の例外(2、3項)

電子提供措置を取ることを要しない場合として、次の二つの例外が認められています。

1)議決権行使書を交付した場合(2項)

議決権行使書面については、従来通り株主総会の招集の通知をする場合に招集通知とともに議決権行使書面を交付している場合には、電子提供措置をとる必要がないとされています。

議決権行使書面は、株主総会の受付において本人確認資料として用いられていることや、そこには各株主の氏名や議決権数が記載されるので、そのまま会社のホームページ等にアップロードして掲載するは適切でないと考える会社の意向を無視できないからです。

なお、議決権行使書面は、あくまでも書面による議決権行使の方法であり、電子投票とは違います。電子投票を取られている場合には、株主は、自ら議決権行使書面をプリントしたものを、会社に郵送する方法で用いられる事を想定されています。議決権行使書面について電子提供措置をとっていて、なおかつ、電子投票を取っていない場合には、株主ごとに情報が出力されるようにデータをアップロードしなければならないという問題だけでなく、同一の議決権行使書面が複数印刷されて郵送されるなどの可能性がある点も問題となってきます。この場合に備えて、あらかじめ取り扱いを定めておくことで対応は可能です(会社法施行規則63条3号)。実務では、議決権行使書面については、この例外を用いて従来と変わらず株主に交付することを多くの会社が選択するのではないかと思われます。

2)EDNETを用いた場合(3項)

有価証券報告書または添付書類に、定時株主総会の招集に際して電子提供措置が必要な資料(議決権行使書面を除く)に記載すべき情報を盛り込んだ形で、電子提供措置開始日までに、EDNETに登録すれば、その資料については電子提供措置をとること要しないとされています。これは、株式会社が会社法に基づく事業報告及び計算書類による開示と金融商品取引法に基づく有価証券報告書による開示を実務上一体的に行い、かつ、株主総会の前に有価証券報告書を開示する取組を促進する観点からとられている措置です。

この例外を利用するためには電子提供措置開始日(遅くとも株主総会の日の3週間前)までに有価証券報告書と添付書類をEDNETに登録しなければなりません。そのため、実務のスケジュールとしては、それができる会社は僅少なため、これにより電子提供措置を省略する会社はないのではないかと思われます。なお、この例外には議決権行使書面は対象に含まれていません。

 

Ø 株主総会の招集の通知等の特則(325条の4)

@前条第1項の規定により電子提供措置をとる場合における第299条第1項の規定の適用については、同項中「2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっっては、その期間))」とあるのは、「2週間」とする。

A第299条第4項の規定にかかわらず、前条第1項の電子提供措置をとる場合には、第299条第2項又は第3項の通知には第298条第1項第5号に掲げる事項を記載し、又は記録することを要しない。この場合において、当該通知には、同項第1号から第4号までに掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

一 電子提供措置をとっているときは、その旨

二 前条第3項の手続を開示用電子情報処理組織を使用して行ったときは、その旨

三 前2号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

B第301条第1項、第302条第1項、第437条及び第444条第6項の規定にかかわらず、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社においては、取締役は、第299条第1項の通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類等を交付し、又は提供することを要しない。

C電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社における第305条第1項の規定の適用については、同項中「その通知に記載し、又は記録する」とあるのは、「当該議案の要領について第325条の2に規定する電子提供措置をとる」とする。

 

ü 招集通知

電子提供制度により株主総会を招集する場合であっても、株主が個別に承諾する場合(299条3項)を除き、招集通知(この場合は狭義の招集通知)は書面により発送しなければなりません。しかし、電子提供制度における株主総会招集通知は、株主に対して株主総会の日時・場所等の基本的な情報を通知し、アップロードされた資料にアクセスするように促すものとして位置づけられたもので、従前の招集通知に比べて特別な取扱いをしなければならないところがあります。

ü 招集通知の発送期限(1項)

電子提供措置をとる場合の招集通知の発送期限は、公開会社であっても、なくても、株主総会の日の2週間前までとされています(325条の4第1項による299条1項の読み替え)。なお、法定期限より早期に招集通知を発送することは妨げられませんが、招集通知の発送日には電子提供措置を開始していなければなりません(325条の3第1項)。

これは、株主総会の招集の通知のみであっても、その印刷及び郵送のためには一定程度の時間を要するため、その発送の期限を従来より前倒しにすると、会社の事務負担が過大となるおそれがあり、また、郵送費用の負担の経験のために、株主総会の招集の通知と書面交付請求をした株主に対する電子提供措置事項を記載した書面を併せて発送することができるようにしておくことが望ましいと考えられるためです。

ü 記載事項・添付書類(2項、3項)

電子提供措置をとった場合でも、株主総会の招集の通知に記載しなければならない事項が多くなる時は、結局、招集の通知の印刷や郵送に要する費用が過大となるおそれがあります。そこで、電子提供措置をとる場合における株主総会の招集の通知に記載または記録しなければならない事項については、株主がウェブサイトにアクセスすることを促すために重要である事項に限定するすることとしています。具体的に電子提供制度における招集通知の記載事項は以下の通りです。イメージとしては、はがき1枚で収まる程度のものです。

1)株主総会の日時及び場所(298条1項1号

2)目的事項(同2号)

3)議決権行使書面を採用するときは、その旨(同3号)

4)電子投票を採用するときは、その旨(同4号)

5)電子提供措置をとっているときは、その旨(325条の4第2項1号)

6)EDNETによる例外を利用しているときは、その旨(同2号)

7)その他法務省で定める事項(電子提供措置に係るウェブサイトのアドレス等)(同3号)

電子提供制度は、株主総会参考書類等に関する情報について継続して電子提供措置をとることとする代わりに、株主に対して、株主総会参考書類等を交付または提供することを要しないこととする制度です。そこで、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある会社は、株主総会の招集の通知に際して、株主に対して、株主総会参考書類等を交付又は提供することを要しないとされています(3項)。そのため、株主総会資料については同封が不要です。

ü 招集の通知の方法

電子提供措置をとる場合であっても、株主総会に出席しない株主が書面または電磁的方法により議決権を行使することができることとする場合及び取締役会設置会社は、株主総会の招集の通知は書面によってしなければならない、とされています(299条2項)。ただし、これらの場合であっても、株主の個別の同意を得たときは、その株主に対しては電磁的方法によって株主総会の招集の通知を発することができることとなります(325条の4第3項)。

ü 追加の情報提供

会社が任意に招集通知にその他の情報を追記したり、書類を同封したりすることには問題はありません。ただし、法律上の手続きを踏んだ上で行う追加的な情報提供であること、株主を不当に誘導・誤導させるために虚偽を盛り込むような不公正はないことは、当然です。具体的に認められるものは、会社が株主の正確な理解を促したり、自らの見解を強調等するために補足的な情報を盛り込むことや、剰余金の配当の支払手続きに必要な書面を提供することは問題になりません。 

 

Ø 書面交付請求(325条の5)

@電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主(第299条第3項(第325条において準用する場合を含む)の承諾をした株主を除く。)は、株式会社に対し、第325条の3第1項各号(第325条の7において準用する場合を含む。)に掲げる事項(以下この条において「電子提供措置事項」という。)を記載した書面の交付を請求することができる。

A取締役は、第325条の3第1項の規定により電子提供措置をとる場合には、第299条第1項の通知に際して、前項の規定による請求(以下この条において「書面交付請求」という。)をした株主(当該株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日(第124条第1項に規定する基準日をいう。)を定めた場合にあっては当該基準日までに書面交付請求をした者に限る。)に対し、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければならない。

B株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる。

C書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日(当該株主が次項ただし書の規定により異議を述べた場合にあっては、当該異議を述べた日)から1年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、第2項の規定による書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の期間(以下この条において「催告期間」という。)内に異議を述べるべき旨を催告することができる。ただし、催告期間は、1箇月を下ることができない。

D前項の規定による通知及び催告を受けた株主がした書面交付請求は、催告期間を経過した時にその効力を失う。ただし、当該株主が催告期間内に異議を述べたときは、この限りではない。

 

ü 書面交付請求権(1項、2項)

電子提供措置をとる旨の定款の定めがある会社の株主は、その措置によって提供される事項を記載した書面を請求することができます。それが書面交付請求権です。

そもそも、電子提供制度は書面による情報提供をやめて電磁的方法に切り替えることを制度の目的としているもので、それに対して書面交付を認めるということは、もともとの目的と反対の方向性をもっている、つまりは、制度の目的と矛盾するといっていい制度です。これは、電子提供制度が上場会社にとっては機関投資家に対する情報提供の充実という趣旨を徹底できないで、従前の制度の保護対象であった個人株主に対する配慮が必要だったということを示しています。つまり、従来の制度の考え方が残されたのが、この制度であると言うことができます。

書面交付請求という制度は、とくに個人株主でパソコンやスマホといった情報機器やインターネットなどの通信に慣れていない人への配慮、いわゆるデジタルデバイド、しながら個人株主の保護を図る制度と言えます。これによって当然に株主総会資料の情報がもたらされるというわけではなく、原則はあくまでも電子提供措置であり、書面が必要だという株主は、特に会社に対してそのための意思表示をしないかぎり、情報を得られません。従来制度では自動的に書面で情報が与えられていたのとは、ここで大きな違いと言えます。

また、デジタルデバイドへの配慮、あるいは会社から株主に対する株主総会資料の強制的な提供という仕組みが、ある特定の前提を取った場合にのみ正当化できるものであるということ。すなわち、そもそも個人株主を含むすべての株主に株主総会議案等に関する情報が記載された書面を送付し、株主がその情報にアクセスしたい場合には容易にできる状況を用意するというのは、その制度が必要とされる目的や状況があり、また、その制度がその目的を実現する上で効果的であるなどの事情が必要です。これは、従前の制度が導入された1981年の時点では、たしかに必要性はありました。しかし、2020年の時点で、その必要性は当時に比べて大幅に減退していると言えます。

・書面交付請求をすることのできる者

書面交付を請求することのできる者は、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主です。ただし、株主総会の招集の通知を電磁的方法により発することについての承諾(299条3項の承諾)をした株主は、類型的に、インターネットを利用することができる者であるといえ、書面交付請求権を保障する必要がないため、書面交付請求をすることができないとされています(325条の5第1項)。

※単元未満株主の場合

単元未満株主も書面交付請求をすることができます。ただし、電子提供措置事項を記載した書面は、株主総会の招集の通知に際して交付することとされているため、その株主が株主総会で議決権を行使することはできません。したがって、その株主に株主総会の招集の通知を送付する必要がない場合(299条1項、298条2項)には、書面交付請求にかかわらず、電子提供措置事項を記載した書面を交付することは要しないことになります。

・振替株式の株主の書面交付請求権

書面交付請求権は議決権と密接に関連する権利であるから、いわゆる少数株主権には該当しないと整理されています。振替株式の株主は、書面交付請求をする際に個別株主通知を要しない(社債等振替法154条)ことになります。もっとも、振替法上では、振替口座簿の情報が株主名簿に反映されるためには総株主通知が必要であるから、振替株式の株主の中には、株主名簿上に株主として記載または記録されていない者も含まれることになります。そして、このような振替口座簿上のみの株主は、会社に対して自らが株主であることを対抗することはできないので、その他の方法による請求を認める必要があるということで、口座管理機関を通じた請求による方法も認められています。

会社としては、実務上、株主が会社に対して直接請求する場合の請求の方法や本人確認の方法について、株式取扱規則に定めておくことが望ましい。

・書面交付請求の実務の扱い

書面交付を請求する株主は、株主総会の基準日までに請求をすることにより、株主総会の招集通知とともに、株主総会に関する書面の交付を受けることができます。この書面交付請求は、一度請求をすれば、撤回がないかぎり、その後のすべての株主総会の招集に際して有効なものとして取り扱われるものと解されています。

前にも述べたように書面交付請求は、299条3項の承諾をした株主は除外されることから、実務的には、この除外規定をうまく利用して、議決権行使サイト等を通じて、各株主からこの承諾を積極的に取得することで、完全なペーパーレスの株主総会の招集に近づけていくことができます。

・書面の交付

会社は、株主総会を招集するに際して、基準日までに書面交付請求をした株主がいる場合には、電子提供措置事項を記載した書面を、招集通知とともに発送しなければなりません(2項)。基準日後に書面交付請求を行った株主に対しては書面を発送する必要はなく、また、招集通知を発送することを要しない単元未満株主に対しても書面を発送する必要はありません。なお、EDNETを用いることで電子提供措置を要しない会社であっても、書面交付請求を行った株主に対する書面の交付は必要となります。

ü 書面交付請求をした株主に交付される書面(3項)

株主が会社に対して書面交付請求をした場合には、取締役は株主総会の招集の通知に際して、電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければなりません(2項)。

ただし、従来の会社法でも、株主の個別の承諾を得なくても、定款の定めがある場合には、株主総会資料のうちの一部の事項(株主資本等変動計算書、個別注記表及び連結計算書類等)について、招集の通知を発する日から定時株主総会の日から3カ月を経過する日までの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載することによって株主に提供したとみなす、いわゆるみなし提供制度(会社法施行規則94条1項、133条3項及び会社計算規則133条4項、134条4項)が設けられています。このみなし提供制度の対象となる事項については、電子提供制度を利用する場合においても、定款の定めにより、書面交付請求をした株主に交付する書面から省略することができると解されています。

そして、会社は電子提供措置事項のうち法務省令に定めるものの全部または一部については、書面交付請求した株主に交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる(3項)としています。

ü 書面交付の終了(4項、5項)

書面交付請求はいつでもすることができ、一度された書面交付請求は、その後のすべての株主総会について効力を有することとなっています(1項)。しかし、このような規律とすることにより、過去に書面交付請求をした株主が、もはや書面を必要としなくなった場合であっても、わざわざ撤回までしない可能性があり、電子提供制度の意義が減殺されてしまうことになりかねません。

そこで、書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日から1年を経過したときは、会社は、その株主に対して、電子提供措置事項を記載した書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には催告期間内(催告期間は1カ月を下ることはできません)に異議を述べるべき旨を催告することができ、その株主が催告期間内に異議を述べない限り、その株主が行った書面交付請求は、催告期間を経過した時に、その効力を失います(4項、5項)。また、通知および催告を受けた株主が異議を述べた場合では、その意義を述べた日から1年を経過したときに、会社はその株主に対して、同様に通知および催告をすることができるとしています(4項)。

・書面交付の終了についての考え方

最初にも述べたように書面交付請求の制度は、電子提供措置の趣旨と正反対の方向性の制度です。実際上も、行使された請求が累積していくことは、会社にとって事務負担のコストを増やすものです。したがって、これに対応する術を設けておく必要は否定されないだろうし、その意味で毎年書面交付請求の見直しの機会が入るということは一定の合理性があると思われます。また、書面交付の終了制度の持つ意味は、書面交付制度が制度して不可欠のものではないことを示していると考えられます。

・催告による書面交付請求の失効のタイミング

図の通り、基準日@の前に書面交付請求をした株主に対する催告を考えてみましょう。催告書面は招集通知及び電子提供措置の書面の発送と同時に行うことが想定されるため、招集通知Aの発送と同時に催告書面を送ることを前提とします。この時、催告書面を受けとった株主が異議期間中に異議を述べれば、書面交付請求は引き続き有効となります。その株主に対しては、異議の日から1年経過した日から再度催告が可能な状態となります。

他方で、異議期間中に株主が異議を述べない場合、書面交付請求の効力を失うのは、異議期間の経過時です。基準日Bの時点ではもはや書面交付請求の効力は喪失しているから、招集通知Bの発送時には書面の交付が不要となります。

実務上、催告書面をどのタイミングでどのように対象株主に送るべきかという点は検討すべきだと思います。まず、催告書面を発送することは会社の義務ではないし、催告書面を発送しないということでも問題はありません。例えば2年ごと、3年ごとといったように隔年で発送することも考えられます、発送の方法については、催告の対象となる株主は書面交付請求をした株主に限られることからすると、これらの株主に招集通知および電子提供書面を発送する際に、今後の電子提供書面の交付終了についての催告書面を同封して発送するということも考えられます。

 

Ø 電子提供措置の中断(325条の6)

第325条の3第1項の規定にかかわらず、電子提供措置期間中に電子提供措置の中断(株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたこと(同項第7号の規定により修正されたことを除く。)をいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、その電子提供措置の中断は、当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさない。

一 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でか重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。

二 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の十分の一を超えないこと。

三 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の十分の一を超えないこと。

四 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。 

 

ü 電子提供措置の中段の趣旨

例えば、電子公告については、ウェブサイトに使用するサーバーのダウン等により公告期間中に公告事項がウェブサイトに掲載されない期間が生じたり、ハッカーやウィルス感染等による改竄等によって公告事項とは異なる情報がウェブサイトに掲載されてしまう事態(公告の中段)が生じた場合に、常に公告を無効とすることは、会社にとって酷であり、また、公告の対象者である株主等を無用に混乱させることとなるから、救済規定が設けられ、一定の場合には、公告の中断は公告の効力に影響を及ぼさないこととされています(940条3項)。

電子提供措置についても、電子公告と同様に、ウェブサイトに使用するサーバーのダウン等や、ハッカーやウィルス感染等による改竄等が生じ得ることは否定できません。また、このような場合に、常に電子提供措置を無効とすることは、株式会社にとって酷であり、また株主を無用に混乱させることとなりかねません。

そこで、電子提供制度でも、電子公告に倣って一定の要件に該当するときは、電子提供措置の中段は電子提供措置の効力に影響を及ぼさないこととしています。

ü 電子提供措置の中断が生じた場合の救済の要件等

電子提供措置の中断とは、株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったまたはその情報がその状態に置かれた後改変されたことを言います。

電子提供措置の中断が生じた場合であっても、次に掲げる要件をすべて満たすときは、その電子提供措置の中断は、その電子提供措置の効力に影響を及ぼさない、つまり無効とならないこととしています。

1)電子提供措置の中断が生ずることについて株式会社が善意でかつ重大な過失がないことまたは株式会社に正当な事由があること(1号)

2)電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと(2号)

3)電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、その期間中に電子提供措置の中断が生じた時間がその期間の10分の1を超えないこと(3号)

4)株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後すみやかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと(4号)

また、バックアップとして東京証券取引所のホームページにも掲載している場合には、メインとして掲載している自社ホームページ等に障害が発生したとしても救済されることになるだろうと思われます。

この内容も踏まえて、今後、中断が生じていないか、中断が生じた場合にそれが前記の要件を満たしているかについてどの程度管理・確認すべきかは、実務的にはっきりしていません。

 

Ø 株主総会に関する規定の準用(325条の7)

第325条の3から前条まで(第325条の3第1項(第5号及び第6号に係る部分に限る)及び第3項並びに第325条の5第1項及び第3項から第5項までを除く。)の規定は、種類株主総会について準用する。この場合において、第325条の3第1項中「第299条第2項各号」とあるのは「第325条において準用する第299条第2項各号」し、「同条第1項」とあるのは「同条第1項(第325条において準用する場合に限る。次項、次条及び第325条の5において同じ)」と、「第298条第1項各号」とあるのは「第298条第1項各号(第325条において準用する場合に限る)」と、「第301条第1項」とあるのは「第325条において準用する第301条第1項」と、「第302条第1項」とあるのは「第325条において準用する第302条第1項」と、「第305条第1項」とあるのは「第305条第1項(第325条において準用する場合に限る。次条第4項において同じ)」と、同条第2項中「株主」とあるのは「株主(ある種類の株式の株主に限る。次条から第325条の6までにおいて同じ。)」と、第325条の4第2項中「第299条第4項」とあるのは「第325条において準用する第299条第4項」と、「第299条第2項」とあるのは「第325条において準用する第299条第2項」と、「第298条第1項5号」とあるのは「第325条において準用する第298条第1項5号」と、「同項第1号から第4号まで」とあるのは「第325条において準用する同項第1号から第4号まで」と、同条題3項中「第301条第1項、第437条及び第444条第6項」とあるのは「第325条において準用する第301条第1項及び第302条第1項」と読み替えるものとする。

 

ü 種類株主総会への準用

電子提供精度に関する規定は、種類株主総会に準用することとしています。ただし、以下の通り、一部の規定を準用の対象から除外することとしています。

まず、325条の2の規定による電子提供措置をとる旨の定款の定めがある場合には、株主総会であるか種類株主総会であるかを問わずに、電子提供措置をとらなければならないこととなり、同条の規定による定款の定めの内容として、株主総会に係る定款の定めと種類株主総会に係る定款の定めを別個に観念していません。そこで、同条の規定を準用の対象から除外することとしています。

次に、種類株主総会には定時株主総会に相当するものが存在しないから(325条において296条1項は準用していません)、定時株主総会に係る手続きに適用される325条の3第1項(5号及び6号に係る部分に限る)及び同条3項の規定を準用の対象から除外することとしています。

そして、一度された書面交付請求は、その後のすべての株主総会及び種類株主総会に係る書面交付請求を別個に観念することはできません。そこで、325条の5第1項及び3項〜5項の規定を準用の対象から除外することとしています。

 

 


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