補充原則1−2.@ |
上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきである。
〔形式的説明〕 原則1−2の「株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべき」という求めにしたがつて、その具体化として、補充原則1−2@は、「株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきである」と求めています。この補充原則では、「必要に応じ的確に」とあるように、企業の側の合理的な判断により、株主総会において株主が適切な判断ができることに有効と考えられる情報があれば、必要に応じて公表その他の手段によって提供すべきとしています。 実際に株主総会の招集通知については、会社法や会社法施行規則に沿った全株懇モデル等のひな型どおりに作成されています。上場会社にとっては、ひな型を利用するのは複雑で多岐にわたる法定記載事項を瑕疵なく適切な箇所に適切な箇所に適切な表現で記載できるためです。 しかし、ここで、元来収集通知とは、何のために、誰に向けて発せられるのかという原点に戻って考えてみてもいいのではないでしょうか。上場企業が情報を開示する決められた資料は、招集通知のほかに有価証券報告書や決算短信があります。これらの違いから招集通知の本質的な特徴を見て行くことができると思います。有価証券報告書や決算短信は市場の投資家に向けたものです。この場合の投資家とは、その上場企業に投資しているとは限りません、投資しようか検討しているとか、投資先を探しているといった、言わば上場企業の外側にいて傍観者の立場から企業を観察しようとする人々です。これに対して、招集通知は、傍観者ではなく企業に投資し、リスクを負い、企業行動の責任を被る主体的な当事者である株主に向けた資料です。その人々が主に関心を持っているのは企業の将来です。そのような人々が集まる株主総会で議論したいのは、その企業の将来がどうなっていくのか関することです。例えば、誰が取締役になるのかは企業の将来を大きく左右することです。また、どのように報酬政策が決まるのかは、取締役の意欲の方向性に影響を与えるものですし、定款が変更されるのであれば株主の権利はどうなるのか重大な関心を持たざるを得ません。このようにして決まるガバナンスの枠組みの中で経営陣の日々の意思決定が行われ、その積み重ねが将来の企業価値を決定することになるのです。その意味で、株主にとって招集通知はガバナンスの枠組み決める際の重要な資料なのです。 このような招集通知は、必ずしも、その本来の目的で受け取った株主にとって使い勝手がよいとは言えない、と例えば海外の機関投資家の株主からの声が上がってきているというのです。彼らにとって、議決権行使に必要な情報が足りないからです。機関投資家は他人の資産を預かって運用、つまり企業に投資します。だから議決権はその資産の大切な一部なのです。その資産を効率的に運用していくためには、議決権の行使は、投資戦略と整合的な議決権行使ガイドラインを策定しているのが普通です。そのガイドラインの運用をするためには企業の情報が必要なのですが、その情報が招集通知にすべて掲載されているとは限らないのです。彼らにとって、議決権行使のための参考書類という書類が、実際、参考になっていないのです。 これはどうしてなのでしょうか。その大きな要因は、上場企業の招集通知を作成するのは法務部や総務部に任されることが多いとされていることです。とくに法務部は法的に企業を守ることを主たる任務としています。その目的からは、余計な開示はしないことが得策であり、法令で求められている最低限の開示を隙なく実施することが合理的と考える傾向にあるからです。企業の経営に対して、余計な「ツッコミ」が入る余地をできる限り減らすことを主眼に招集通知を作ろうとします。そのような法務部のニーズに適合しているのが、全株懇モデル等のひな型なのです。 〔実務上の対策と個人的見解〕 招集通知の法定記載事項だけの情報では十分な議案の賛否判断ができないため、議決権行使のためには招集通知以外の複数の開示書類を参照しなければならないという機関投資家の実情を考え、株主総会前の短い期間に機関投資家に適切な賛否の判断をしてもらうことは、上場会社にとっても、株主総会の定足数を満たし、株主総会を成立させることが容易ではなくなってきている実情から、実は有意義なことなのです。そのために、上場企業のなかには、すでに実施している企業もでてきていると言われていますが、機関投資家が賛否判断のために必要と考えられる情報については、必ずしも法定の記載義務が求められていない場合でも、任意に記載することが考えられます。とくに、コーポレートガバナンス報告書で開示を求められている11の原則の開示項目を招集通知に任意記載することは、この補充原則の趣旨に沿うものと考えられます。 例えば、次のような項目の任意記載のやり方があるといっている例もあります(「株主に響くコーポレートガバナンスの実務」P.51より)。 @事業報告において ・直前三事業年度の財産および損益の状況 上場会社が何を重要な経営指標と考えているとその数値の推移を示すために、総資産または純資産、売上高、当期純利益、1株当たり当期純利益の他に、中期計画などで目標として設定している重要な経営指標項目を記載する。例えば、営業利益、営業利益率、ROE、包括利益、自己資本比率、キャッシュフローなど。有価証券報告書の「主要な経営指標などの推移」の項目と一致させることも考えられる。(原則3−1(@)、5−2、1−3) ・対処すべき課題 事業の推進のために克服すべき当面の課題のほか、中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念、行動準則、中長期的視点の課題や中期計画・戦略、リスクと機会となるサスティナビリティーを巡る課題などを記載する。(原則2−1、2−2、2−3、3−1(@)) ・株式の状況 当該事業年度の末日において自己株式を除く発行済株式総数に対する株式の保有割合の高い上位10位の株主の他、発行可能株式総数、発行済株式の総数、当該事業年度末の株主数などの会社法施行前の営業報告書記載事項を任意記載する上場会社は多く見られるが、この大株主の状況と対比することで、持合の状況(投資額がすくないことなど)を示すため、有価証券報告書記載事項である「純投資目的以外の目的で和有する株式の銘柄数及び貸借対照表計上額の合計額」「同上位30銘柄」と、「政策保有に関する方針」具体的な保有の狙い・合理性、「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準」(原則1−4)などを記載する。 ・会社役員に関する事項 コーポレートガバナンス報告書等で開示を求められる原則への遵守状況や説明を行うため、コーポレートガバナンスの方針や取組み、それぞれの状況などを網羅的に記載する。 例えば、「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方・基本方針」(原則3−1(A))、「経営陣幹部と役員選任(指名)の方針・手続」(原則3−1(C))、「経営陣幹部と役員選任(指名)の際の、個々の選任・指名についての説明」(原則3−1(D))、「取締役会の役割・経営陣に対する委任の範囲の概要」(捕縄原則4−1@)、「3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社の取り組み方針」(原則4−8)、「独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準」(原則4−9)、「社外取締役・社外監査役の他の上場会社の役員の兼任状況」(補充原則4−11A)、「取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方」(補充原則4−11@)、「取締役会全体の実効性についての分析・評価の結果の概要」(補充原則4−11B)、「取締役・監査役に対するトレーニングの方針」(補充原則4−14A)、「関連当事者間取引に関する適切な枠組み」(原則1−7)、「株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針」(原則5−1)等を記載する。 とくに、「社外取締役・社外監査役の他の上場会社の役員の兼任状況」は、機関投資家にとって、役員選任議案における社外役員の独立性の判断のための重要な情報となることから、上場会社の役員のみならず、他の法人等の業務執行者も含め、その兼任先との取引・寄附・報酬などの額、株式保有や役員の相互派遣などの状況、退任した兼任先の退任時期などの記載が考えられる。議決権行使助言会社は、これらの兼任先との取引・寄附・報酬などの具体的な額や割合、取引のある兼任先を退任した場合はその退任時期を明確にする等、独立性の高さを具体的に示すように求めている。 なお、「役員の氏名、地位および担当等」では、原則2−4に関連し、各会社の役員の男女別人数及び女性比率の記載を義務付ける「企業内容等の開示に関する内閣府例の改正」を踏まえ、役員の男女別人数と女性の比率を記載する。 また、「取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額」には、法定記載事項のほか、コードで開示が求められている「役員報酬の決定方針・手続き」(原則3−1(B))とともに、有価証券報告書に記載する「役員ごとの連結報酬等の総額等」を記載する。 さらに、改正会社法の施行規則により、2017年5月1日以降、親会社等との間に一定の利益相反取引が行われた場合に事業報告等への記載が義務化される「親会社等との間の取引に関する適切な取組み」(原則1−7)を記載する。 A株主総会参考書類において ・取締役・監査役選任議案 法定の記載事項の他、社外役員候補だけでなく、社内の役員候補も選任理由を記載(原則3−1(X))。また、各候補の略歴、地位および担当等の他、補充原則4−11@の趣旨に鑑み、相当程度の知識・経験・能力などを整理して記載する。 上記のような記載事項を、有価証券報告書の「コーポレートガバナンスの状況」などとも記載内容を一致させることにり、機関投資家にとっては複数の資料を見なくてもよいというメリットがあり、企業の側でも作成の際に、法定書類ごとに記載内容を変えるより、同じ項目はどの書類でも同じ記載をしたほうがミスもなく表現を悩まなくてよい。
〔Explainの開示事例〕 日比谷総合設備 ■株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、可及的速やかに決算を確定するなどして、法定期日より6日前倒しして、株主総会開催日より中20日前に発送しています。 ■招集通知発送より前にウェブサイトなどで電子的に公表をしていませんが、今後、発送前の公表についても検討していきます。
ユニゾホールディングス 当社は、株主が総会議案を十分検討できるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めておりますが、招集通知に記載する情報の電子的に公表について、招集通知発送当日にTDnetや自社ウェブサイトにより行って降ります。今後、招集通知発送までの間に電子的公表を行います。
基本原則1. 補充原則1−2.B 補充原則1−2.C |