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第768条 株式会社に発行済株式 を取得させる株式交換契約 |
Ø 株式会社に発行済株式を取得させる株式交換契約(768条) @株式会社が株式交換をする場合において、株式交換完全親会社が株式会社であるときは、株式交換契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 株式交換をする株式会社(以下この編において「株式交換完全子会社」という。)及び株式会社である株式交換完全親会社(以下この編において「株式交換完全親株式会社」という。)の商号及び住所 二 株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対してその株式に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項 イ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交換完全親株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項 ロ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法 ハ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法 ニ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項 ホ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 三 前号に規定する場合には、株式交換完全子会社の株主(株式交換完全親株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項 四 株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項 イ 当該株式交換完全親株式会社の新株予約権の交付を受ける株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権(以下この編において「株式交換契約新株予約権」という。)の内容 ロ 株式交換契約新株予約権の新株予約権者に対して交付する株式交換完全親株式会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法 ハ 株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、株式交換完全親株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法 五 前号に規定する場合には、株式交換契約新株予約権の新株予約権者に対する同号の株式交換完全親株式会社の新株予約権の割当てに関する事項 六 株式交換がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。) A前項に規定する場合において、株式交換完全子会社が種類株式発行会社であるときは、株式交換完全子会社及び株式交換完全親株式会社は、株式交換完全子会社の発行する種類の株式の内容に応じ、同項第3号に掲げる事項として次に掲げる事項を定めることができる。 一 ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類 二 前号に掲げる事項のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容 B第1項に規定する場合には、同項第3号に掲げる事項についての定めは、株式交換完全子会社の株主(株式交換完全親株式会社及び前項第1号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第2号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない。 株式交換をする会社は、完全親会社となる株式会社との間で、株式交換契約を締結しなければなりません(767条)。締結された株式交換契約の定めに従って、株式交換の効力が発生します(769条)。株式交換契約は、原則として株主総会の特別決議による承認を得なければなりません(783条1項、795条1項)。株式交換の重要性から、会社法768条は、株式会社に発行済株式を所得させる株式交換契約で定められるべき事項を規定しています。なお、会社更生法上の株式交換のように、他の法律で必要な記載事項についての特則が定められている場合もありますが、このような特別なケースを除き、基本的には会社法で足ります。 ü
必要的記載事項と任意的記載事項 株式交換契約については、法律により、必ず定めなければならない事項が定められています(768条)。株式交換契約は、会社法では、必ずしも書面であることを求められているわけではありませんが、法律で必ず定めるべき事項とされている記載事項を必要的記載事項と呼びます。必要的記載事項を記載した株式交換契約の締結、そして法定の手続きを経ることにより、法律上の効果として、株式交換契約に定めるところに従った株式交換の効力が発生します。 他方、実務では、必要的記載事項に当たらない事項を、株式交換契約に規定することも少なくありません。株式交換契約は、その名の通り、契約ですから、必要的記載事項以外の合意事項を記載することも可能です。それが任意的記載事項です。 なお、株式交換等を利用したM&A取引の場面でも、他のM&A取引のときと同様に表明保証、取引実行の前提条件や補償等に関する事項について合意したいところです。しかし、株式交換契約は、株主総会の決議による承認が必要で、当事会社としては株式交換契約に、それらの事項を記載することは避けようとするのが一般的です。そこで、法定書類としての株式交換契約には必要的記載事項とごく基本的な任的記載事項を記載するにとどめ、それとは別に、当事会社間で契約書を別途締結し、その契約書の中に、表明保証、取引実行の前提条件や補償等に関する事項を記載するということが、しばしば行われます。もっとも、このような別途契約で、株式交換契約で定めた株式交換の条件、特に交換対価やその条件を実質的に変更することは、それによって不利益を受けるすべての株主が契約の当事者となっている場合はとにかく、そうでない場合には、どこまで別途契約に定めるかということには議論があります。 ü
株式交換契約で定めるべき事項 ・合併当事会社の確定(768条1項1号) 株式交換契約において、株式交換をする株式会社(株式交換完全子会社)と株式会社である株式交換完全親会社の商号と住所を定めなければなりません(768条1項1号)。同一の所在場所における同一の商号の登記は禁止されている(商業登記法27条)ことから、当事会社が特定されることになります。 <記載例> 第○条 甲および乙の商号および住所は次のとおりとする。 (1)甲(株式交換完全親会社) 商号:○○株式会社 住所:○○県○○市○○町○丁目 (2)乙(株式交換完全子会社) 商号:△△株式会社 住所:△△県△△市△△町△丁目 上記記載例のように一つの独立した上皇として記載することまで法律上求められているわけではなく、株式交換契約のどこかで明記されていれば足りるため、契約の頭書の部分に記載している例も少なくない。 ・株式交換完全子会社の株主に対して交付する対価の金銭等(768条1項2号) 株式交換契約では、完全親会社が株式交換に際して完全子会社の株式に対して、その株式にかわる金銭等を交付するときは、その金銭等について定めなければなりません(768条1項2号)。株式交換の対価です。組織再編の対価の柔軟化として、完全親会社の株式以外の金銭等も対価として利用することができると、会社法は明確に規定しています。典型的には金銭ですが、その他にも、完全親会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債、完全親会社の完全親会社株式(三角株式交換)などが用いられるのが一般的です。 @)株式交換完全親会社の株式(768条1項2号イ) 株式交換において交付する交換対価が完全親会社の株式である場合、交付する株式の数(種類株式の場合は、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法を定めなければなりません。算定方法の記載も認められているので、交付する株式の具体的な数を記載するところまでは求められておらず、その算定方法を記載すればよいとされています。下の記載事例では、一般的な株式の具体的な数の記載まですることなく、交換比率を使った算定方法の記載をする仕方です。なお、完全親会社が保有する子会社の株式に対しては、対価の割当てをすることはできません。783条1項3号および3項で、交換対価を交付する完全子会社の株主から完全親会社を除外しているのは、その趣旨です。そのため下の記載事例では「(ただし、甲を除く。)」と記載しています。他方、吸収合併の場合とは異なり、完全子会社が保有する自己株式については、会社法の条文上、株式交換の対象から除外されておらず、その自己株式にも交換対価が交付されます。 <記載例> 第○条 甲(完全親会社)は、本株式交換に際して、乙(完全子会社)の株主に対して、乙の株式に代わる金銭等として、効力発生日前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(ただし、甲を除く。)が保有する乙の株式数の合計数に×××を乗じて得た数の甲の株式を交付する。 ア.算定の結果生じる端数 株交換対価として交付する総株式数の算定にあたっては、基準となる完全子会社の株式数に対して、一定の比率を乗じる形をとるのが一般的です。比率で乗じるということになると、算定されて株式数に1に満たない端数が生じる可能性があり、この端数の取扱いについては、株式交換契約に「×××を乗じて得た数(ただし、1に満たない数を切り捨てる)」などと記載し、1に満たない端数を切り捨てることを明記する例もあります。しかし、この端数の取扱いについては、会社法では234条1項柱書の括弧書により、このような端数は自動的に切り捨てられることになっています。だから、契約書にその旨を記載する必要はありません。 イ.自己株式の交付 会社法における株式の交付という概念は株式の発行と自己株式の処分の双方を包摂しています。そこで、交換対価として自己株式を用いる場合、旧商法下の時のような交換対価として自己株式を用いる場合に株式交換契約に交換対価として新たに発行する株式に代えて用いる自己株式の数および種類を明記する必要はなくなりました。 A)株式交換完全親会社の株式を交付する際の資本金および準備金に関する事項(768条1項2号イ) 合併の対価として完全親会社の株式を交付する場合は、完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項を定めなければなりません。この場合に資本金および準備金として計上すべき額については会社計算規則35条および36条に規定があります。通常は、下の事例のように、これらの額の変動額を定めることになります。 <記載例> 第○条 本株式交換により増加する甲の資本金および準備金の額は、以下のとおりとする。 1.資本金:○○円 2.資本準備金:○○円 3.利益準備金:○○円 他方、その他資本準備金およびその他利益剰余金に関する事項を定める必要はありません。これは、資本金、資本準備金および利益準備金の変動額が定まれば、その他資本準備金およびその他利益剰余金の変動額は一義的に定まるからです。 B)社債・新株予約権・新株予約権付社債(768条1項2号ロ〜ニ) 交換対価として、完全親会社の社債、新株予約権または新株予約権付社債を交付することも可能です。この場合、以下の内容を株式交換契約に記載しなければなりません。 ア.社債:社債の種類および種類ごとの各社債の合計額またはその算定方法 イ.新株予約権:新株予約権の内容および数または算定方法 ウ.新株予約権付社債:社債部分については上記アの内容、新株予約権については上記イの内容 「社債の種類」については、744条1項5号イ、107条2項2号ロ、681条1号の規定により会社法施行規則165条に掲げる事項が社債の種類とされています。実務的には、社債を交換対価として用いる場合には、株式交換契約の別紙として、これらの社債の条件を規定し、交換対価としての社債を特定することになります。また、「社債の種類ごとの各社債の金額の合計額」は、社債原簿に記載されるべき種類ごとの社債の金額の対価として交付される合計額です(681条2項)。なお、この定めは完全子会社の株主に交付する社債の総体についての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかについては768条1項3号に定められています。 合併対価が存続会社の新株予約権の場合には、新株予約権の内容および数またはその算定方法を合併契約に記載しなければなりませんが、「新株予約権の内容」とは、会社法236条1項各号に掲げられている事項を意味しますが、排他的にこれだけと限定しているわけではありません。また、「新株予約権の数」については、具体的な数が記載されないときには、その数の算定方法として新株予約権の数を正確に算出できる数式を株式交換契約に記載されなければなりません。なお。この規定は完全子会社の株主に交付する新株予約権の総体としての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかは、別途768条1項3号として定められています。 <記載例> 第○条 甲(完全親会社)は、本株式交換に際して、乙(完全子会社)の株主に対して、乙の株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(ただし、甲を除く。)が保有する乙の株式数の合計数に×××を乗じて得た数の別紙○に記載する内容の新株予約権を交付する。 C)その他の財産(768条1項2号ホ) 交換対価として完全親会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債以外の「その他の財産」を交付する場合には、その財産の内容、財産の数または額(またはこれらの算定方法)を株式交換契約に定める必要があります。この定めは、交換対価として株式等が使用される場合と同様、完全子会社の株式に交付する財産の総体としての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかという点については、別途768条1項3号として定めることになります。 対価として交付する財産に制限はないので、完全子会社の株主に対して、その有する株式の数に応じて平等に交付することができる性質のものである限り、対価として用いることが可能です。具体的に以下のようなものが考えられます。 ア.完全親会社以外の会社の株式等 完全親会社以外の会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債を合併対価とする場合は、これまでの存続会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債併を合併対価とする場合に記載されるべき事項についての規定が準用されます。株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の別に応じて、それぞれの場合の記載事項が記載されなければなりません。 そして、株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の発行会社自体についての記載も必要となります。具体的には、株式交換契約に記載されるべき財産の内容には、@交換対価としての株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の発行会社である会社の商号、A国籍および住所(所在場所)、B発行団体の国での業組織上の位置付け、Cそこで使用されている言語等の記載が必要となります。 イ.公債 交換対価が国債その他の公債の場合には、原則として、交換対価が完全親会社の社債である場合に合併契約に記載されるべき内容に相当する内容の記載が必要と考えられます。なお、それに加えて、公債の場合、その発行団体についての記載も必要となると考えられます。 具体的には、交換契約書に記載されるべき財産の内容としては、@交換対価としての公債の発行団体等の名称、A国籍および住所(所在場所)、B発行団体などの国内での行政組織上の位置づけ、またはどのような団体かの記載、C団体で使用されている言語等の記載が必要と考えられます。 ウ.金銭 交換対価が金銭の場合、完全親会社が完全子会社の株主に合併対価として交付する金銭の総額が記載されなければなりません。 金銭が外国通貨であるときは、外国通貨による総額を記載した上で、交換契約を承認する株主総会の日または可能な限りそれに近い日の為替レートおよび取締役会で合併契約が承認された日の為替レートによる日本円への換算金額での記載も必要となります。 <記載例> 第○条 甲(完全親会社)は、本株式交換に際して、乙(完全子会社)の株主に対して、乙の株式に代わる金銭等として、乙の株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(ただし、甲を除く。)が有する乙の株式数の合計数に金○円を乗じて得た額と同額の金銭を交付する。 エ.キャッシュアウト・マネージャー たとえば、交換対価の全部を金銭として株式交換を実行することにより、完全子会社の少数派株主から株主の地位を奪うのが、キャッシュアウト・マネージャーです。この場合、完全子会社の多数派株主も株主の地位を失うことになりますが、多数派株主は、事前に完全親会社の株主になってもらう仕掛けが構築されています。 オ.三角株式交換 株式交換において完全親会社となる会社の親会社の株式を株式交換の対価として、完全子会社に交付するのが三角株式交換です。 <記載例> 第○条 甲(完全親会社)は、本株式交換に際して、乙(完全子会社)の株主に対して、乙の株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(ただし、甲を除く。)が有する乙の株式数の合計数に×××を乗じて得た数の○○株式会社の株式を交付する。 D)無対価 合併に際して、消滅会社の株主に対して対価を交付しない、いわゆる無対価合併がありますが、株式交換についても無対価も、会社法で認められています。なお、無対価合併が行われる定型的な場合は、100%親子会社関係にある親子会社で、親会社を存続会社、子会社消滅会社として吸収合併を行う場合です。無対価株式交換は無対価合併ほど実務上使われる頻度は高くないが、使われる例としては、ある会社(A社)が100%子会社を2社(X社+Y社)持っている場面で、株式交換をすることにより、そのうち1つの子会社(Y社)ともう一つの子会社(X社)の下にぶら下げるというものがあります。これにより、兄弟会社の関係にあった子会社が親子会社の関係になるというわけです。 ・株式交換完全子会社の株主に対する割当てに関する定め(768条1項3号) 株式交換契約では、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等の記載(768条1項2号)に加え、金銭等の割当てに関する事項を定めなければなりません(768条1項3号)。この2号と3号の違いについて分かりにくいところがありますが、2号は株式交換完全子会社の株主に対して交付する対価の総体、すなわち「どのような対価か」についてであり、3号はその対価を各株主に「どのように割り当てるか」についてでです。法律上は、異なる項目として整理されていますが、株式交換契約では双方についての定めがあればよく、一つの条項にまとめて記載しても問題ありません。 <記載例> 第○条 第○条の対価の割当てについては、効力発生日の前日の最終の乙(完全子会社)の株主名簿に記載または記録された株主(ただし、甲を除く。)に対し、その保有する乙の株式数に×××を乗じて得た数の甲の株式を割り当てる。 ・株式交換完全子会社の新株予約権者に対する対価およびその割当てに関する定め(768条1項4、5号) 株式交換完全子会社新株予約権を発行している場合も株式交換の効力発生後も、それが残るとなると、せっかく株式交換によって完全子会社化したにもかかわらず、新株予約権が行使されることによって、完全子会社ではなくなってしまう可能性が残ってしまいます。新株予約権の中には、取得条項を入れて新株予約権発行会社が完全子会社となる株式交換契約について株主総会の承認があった時に、新株予約権発行会社が新株予約権を取得できるようになっているものもあります。しかし、そういう場合だけではありません。そのため、株式交換契約に、株式交換に際して、株式交換完全子会社の新株予約権者に対して、消滅する新株予約権の対価として株式交換完全親会社の新株予約権を交付することができるようになっています。その場合、株式交換契約には、@新株予約権の内容および数または算定方法、A新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、その新株予約権付社債についての社債に関する債務を承継する旨ならびにその承継に係る社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法、B新株予約権の割当てに関する事項を記載しなければなりません(768条1項4、5号)。 <記載例> 第○条 1.甲(株式交換完全親会社)は、本株式交換に際して乙(株式交換完全子会社)の新株予約権者に対して、その有する乙の新株予約権に代わる新株予約権として、本株式交換の効力が生ずる直前時における乙の新株予約権の総数に×××を乗じて得た数の別紙○に規定する内容の甲の新株予約権を交付する。 2.前項の対価の割当てについて、本株式交換の効力が生ずる直前時における乙の新株予約権者に対し、その有する乙の新株予約権の数に×××を乗じて得た数の別紙○に規定する内容の甲の新株予約権を割り当てる。 ア.対価の種類 新株予約権の交換対価として交付できるものは、株式交換完全親会社の新株予約権に限定されています(768条1項4号柱書)。交換対価として交付する新株予約権は、新たに発効することも、株式交換完全親会社が保有する自己新株予約権を使用することも可能であり、株式交換契約においていずれかの方法によるかを特定する必要はありません。 イ.新株予約権付社債の取扱い 株式交換完全子会社が新株予約権付社債を発行している場合において、その新株予約権部分について、株式交換完全親会社の新株予約権が交換対価として交付される場合、社債部分は効力発生日に株式交換完全親会社に承継されることになります(769条5項)。そのため、株式交換契約には、社債部分の承継の条件として、@社債にかかる債務を承継する旨、A承継する社債の種類、B種類ごとの各社債の金額の合計額または算定方法を記載することが必要となります(768条1項4号ハ)。 ウ.新株予約権者に対する対価の交付について平等原則 株式交換完全子会社の株主に対する対価の交付は、その保有株式数に応じて平等に行わなければならないという会社法の規定があります(768条3項)。しかし、このような規定は新株予約権者に対する対価の交付についてはありません。とはいえ、規定がないからといって、合理的な理由もなく、同一内容の新株予約権について、交換対価の交付にあたって異なる扱いをすることは、常識的に認められるべきではありません。 ・株式交換完全子会社が種類株式発行会社であるときの特則(768条2項) 完全子会社が種類株式発行会社であるときは、株式交換の当事会社は、完全子会社の発行する種類の株式の内容に応じ、金銭等の割当てに関する特段の事項を定めることができます(768条2項)。完全子会社のある種類の株主に対して金銭等の割当てをしないこととすることもできます(768条2項1号)。 ・効力発生日(768条1項6号) @)効力発生日の特定 株式交換契約には。株式交換がその効力帆を生ずる日、つまり、株式交換の効力発生日を記載しなければなりません(768条1項6号)。この点についての記載例は下の通りです。 株式交換の効力は、株式交換の登記日ではなく、当事会社が株式交換契約の中で合意した日において生じます(769条1項)。そのため、株式交換契約の中では、効力発生日として具体的な日付を記載する必要があります。 <記載例> 第○条 本株式交換の効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)は、令和○年○月○日とする。ただし、本株式交換の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合、甲(株式交換完全親会社)および乙(株式交換完全子会社)は協議し合意の上、これを変更することができる。 A)効力発生日の変更 株式交換契約で記載した効力発生日までに、株式交換を実行するための前提条件が充足されていない場合には、株式交換の効力発生日を遅らせるということもありえるでしょう。たとえば、株式交換を実行するに当たって、一定の許認可の取得を前提条件としていた場合、または法律上必要な債権者保護手続が完了せず、そもそも会社法で株式交換の効力を発生されることができない場合(769条6項)があります。このように前提条件が満たされない場合、当事会社としては、株式交換を中止するか延期するかの判断を迫られることになります。そして、延期を選択した場合には、新たな効力発生日を合意する必要がありますが、会社法上、効力発生日は当事会社の合意により変更することができることとなっており(790条1項)、新たな効力発生日の合意ができれば、株式交換の手続きを一からやり直すという事態を避けることができます。効力発生日の変更は会社法で認められているので、株式交換契約で明記する必要はありませんが、上記記載例のように、記載するのが一般的です。 効力発生を延期させるために効力発生日を変更する場合には、変更前の効力発生日の前日までに、変更後の効力発生日を公告することが必要です(790条2項)。 ü
任意的記載事項 株式交換契約では、会社法で規定されている法定記載事項以外の事項についても記載される事項が少なくありません。それが任意的記載事項です。これら任意的記載事項は、その記載がなくても、株式交換の有効性そのものには影響がありませんが、確認的な意味を持つものを含め、規定していることが少なくありません。以下で、代表的な事項について、以下で見ていくことにします。 ・株主総会の期日 株式交換契約において、その契約を承認するための株主総会を開催する時期を規定するケースは少なくありません。これは旧商法で、株主総会の期日が合併契約の必要的記載事項とされていたことの名残です。しかし、会社法では必要のない規定です。そのため、きさいするにしても、株主総会の開催予定日として特定の日を記載せずに事例のようにきさいすることもかのうです。 <記載例> 第○条 甲(株式交換完全親会社)および乙(株式交換完全子会社)は効力発生日の前日までに、それぞれ株主総会を招集し、株式交換契約承認する決議を求める。 ・株主総会の要否 株式交換の場合には、簡易株式交換や略式株式交換の要件を満たし、株主総会の承認が不要なケースもあります。苔を契約に記載する場合、確認的な意味合いとなります。 <記載例> 第○条 甲(株式交換完全親会社)は、会社法796条2項の規定により、本契約につき株主総会の承認を得ないで本株式交換を行う。ただし、会社法796条3項の規定により、本契約につき株主総会の承認が必要となった場合、甲は、効力発生日の前日までに、本契約につき株主総会の承認を求める。 ・自己株式の消却 株式交換では、完全子会社となる会社が有する自己株式にも対価の割当てがなされることになります。そのため、対価が完全親会社の株式である場合、株式交換の結果、完全子会社となる会社が有していた自己株式が完全親会社の株式となり、完全子会社が完全親会社の株式を保有してしまうことになります。会社法では、子会社がこのような事情により親会社株式を取得することは、例外的に許容されています。しかし、その場合でも、子会社は相当の時機に取得した親会社株式を処分しなければなりません(135条3項)。 子会社による親会社株式の保有については、このような制約があるため、そのような事態の発生を防ごうと、株式交換の効力発生前に、完全子会社となる会社に自己株式の消却をさせるケースがあります。それを株式交換契約の条項とするケースが下の記載例です。 <記載例> 第○条 乙(株式交換完全子会社)は、本株式交換により甲(株式交換完全親会社)が乙の発行済株式(ただし、甲が有する乙株式は除く。)の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)において乙が有するすべての自己株式(本株式交換に関する会社法785条に基づく乙株主の株式買取請求に応じて乙が取得する株式を含む。)を効力発生日の前日までに開催する乙の取締役会決議により、基準時において消却する。 ・善管注意義務 交換比率等の株式交換の条件は、原則として、株式交換契約の締結時の当事会社の財産状態をもとに定められています。仮に、その後効力発生日に至るまでに当事会社の財産状態が大きく変化したりすれば、当初定めた株式交換の条件を見直す必要が生じてしまう可能性があります。そのような事態の発生をできるかぎり避けるために、株式交換契約の締結時から効力発生日までの間、当事会社がン会社財産および会社経営について善管注意義務を負うと定めることは、実務上、少なくありません。 <記載例> 第○条 甲(株式交換完全親会社)および乙(株式交換完全子会社)は、本契約締結後、効力発生日に至るまで、善良なる管理者の注意をもってそれぞれの業務を執行するとともに、資産および負債を管理し、その他その財産および権利義務に重大な影響を及ぼす行為をする場合には、あらかじめ相手方の同意を得なければならない。 上記の例では、概括的な善管注意義務を課すことで、変なことがおこらないようにしています。すなわち、一種の現状維持義務を規定しているというわけです。 ・剰余金の配当の限度額 配当ということは、当時会社から財産が流出する行為であり、資産総額の減少をもたらし、ひいては対価の定め方や交換比率に影響を及ぼす可能性があるものです。そのため、株式交換契約締結後から効力発生日までの間に、当事会社による配当は原則として禁止するのが一般的です。しかし、他方で、株式交換契約締結時と効力発生日の間に、期末配当や中間配当の時機が入り込んでくる場合には、配当せざるを得ないでしょう。そのため、配当は原則として禁止としながらも、一定の限度で可能とする規定を株式交換契約の条項として入れる場合もあります。 <記載例> 第○条 1.乙(株式交換完全子会社)は、本契約締結後効力発生日に至るまでの間に、その時点における乙の株主に対し、総額○円を限度として剰余金の配当を行うことができる。 2.甲(株式交換完全親会社)および乙は、前項に定める場合を除き、本契約締結後、効力発生日より前の日を基準日とする剰余金の配当を行ってはならない。 ・重大な変動が発生した場合の対応 株式交換契約締結時に前提としていた状況が効力発生日までの間に大きく変化してしまった場合、そのまま株式交換の効力を発生させてしまうことは、当事会社の意思に反してしまうこともありえます。そのような事態の発生に備えて、重大な変動が発生した場合に備えるための定めを条項として株式交換契約に記載する場合もあります。。 <記載例> 第○条 本契約締結から効力発生日に至るまでの間に、@天災地変その他の事由によって、甲(株式交換完全親会社)もしくは乙(株式交換完全子会社)のすい゛れかの財産状態もしくは経営状態に重大な変動が生じた場合、またはA本株式交換の実行に重大な支障となる事態もしくはその実行を著しく困難にする事態が生じた場合には、甲および乙は、相互に協議し合意の上、本契約の内容を変更し、または本契約を解除することができる。 このような規定を設ける際に、考慮すべき重要なポイントは、重大な変動等の事象が生じた場合に、当事会社に一方的な変更権または解除権を付与するかどうかです。記載例のように、「相互に協議し合意の上」と規定することで、変更するにせよ、解除するにせよ、当時会社間で別途合意が成立することを求めている事例が少なくありません。ただし、このような規定を入れたからといって、会社法の株式交換の手続きをやり直すことなく、契約の変更を常に行うことができるとは限らないことに注意する必要があります。 ・解除条件 株式交換契約において、一定の事由が生じた場合には、株式交換が自動的に失効する旨の解除条件を規定することもあります。典型的なものとして、必要な株主総会の承認が得られなかった場合です。。 <記載例> 第○条 本契約は、効力発生日の前日までに、甲(株式交換完全親会社)または乙(株式交換完全子会社)の株主総会の決議による承認が得られなかった場合には、その効力を失う。 記載例のような株主総会の承認が得られなかった場合以外にも、株式交換の効力発生に必要な関係官庁の許認可が取得できなかった場合や、一定の日までに効力が発生しなかった場合を解除条件とする例もあります。 ・表明保証・補償等 株式交換を利用したM&A取引の場面でも、他のM&A取引のときと同様、表明保証、取引実行の前提条件や補償等に関する事項について記載したいということがある。しかし、株式交換契約は株主総会の決議に付されたり、開示書類として公開されたりするものであるため、当事会社としては、契約への記載を避けるのが一般的です。そのため、これらの事項は株式交換契約には記載されず、それとは別に当事会社間で締結される経営統合契約などに盛り込まれるのが一般的です。 株式交換完全子会社の株主は、実質的には株式の売主としての立場となるため、実質的に買主の立場となる株式交換完全親会社にしてみると、株式交換完全子会社についての表明保証やその造反に基づく補償を、完全子会社からもらいたいと考えたとてしも不思議ではない。また、株式交換の効力発生前に、株式交換完全子会社に重大な問題があることが判明した場合には、株式交換の効力発生自体を止めたいと考えることもありえます。反対に、株式交換完全子会社の株主としても、交換対価として株式交換完全親会社の株式を受け取る場合、株式交換完全親会社の実際の財務状況等が株式交換契約締結時に想定していたものよりも著しく悪いことが判明した場合には、何らかの救済措置がほしいと考えることもありえます。そこで、別途契約で、株式交換完全子会社と株式交換完全親会社の間で相互に自らのことについて表明保証することはあります。 ü
具体例 以上のことを踏まえて、株式交換契約の全体的な記載例を下に示してみます。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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