新任担当者のための会社法実務講座 第767条 株式交換契約の締結 |
Ø 株式交換契約の締結(767条) 株式会社は、株式交換をすることができる。この場合においては、当該株式会社の発行済株式の全部を取得する会社(株式会社又は合同会社に限る。以下この編において「株式交換完全親会社」という。)との間で、株式交換契約を締結しなければならない。 株式交換は、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることです(2条31号)。これは、既存の株式会社を完全子会社化する完全親子関係を創設することを目的とする会社法上の組織再編行為の一つです。つまり、完全子会社になる株式会社の発行済株式を全部、完全親会社となる株式会社または合同会社に取得させ、完全子会社となる会社の株主に対して、完全親会社となる会社から金銭等を交付させる会社の行為です。 この制度は平成9年の独占禁止法の改正によって持株会社が許されるようになり、持株会社組織を作るために必要な完全親子会社関係を創設するために、平成11年の商法改正によって導入されました。株式交換は、既存の持株会社が、完全子会社を増やすために便利な制度であり、これに対して株式移転は1社または複数の株式会社がその上に完全親会社である持株会社を創設するために便利な制度です。株式交換と株式移転は、ともに持株会社を創設するために便利な制度として作られたものなので、一緒に議論されることが多いのですが、それぞれは、そもそも用いられる取引の局面が基本的に異なるものです。 株式交換を企業結合手法として見てみると、アメリカの模範事業会社法で示されているように、組織再編の当事会社が、組織再編後にも独立の法主体として存続しつつも、100%の株式所有関係を通して事実上一体化するという特徴があります。完全な企業結合とされる合併のように、法人格が一つに融合するということはないから、ある種の不完全さを残しますが、実際上は同様の事業運営が可能となるし、他方で、完全な融和が必要とされないために、買収後の統合実務が容易になることが期待されます。 また、株式交換は三角合併を直接的な形での実現を可能にしました。会社法性の現代化の焦点のひとつは合併等の対価の柔軟化にありましたが、三角合併もそのひとつです。ただし、三角合併を利用するのであれば、受け皿会社を存続会社として、対象会社を消滅会社とする形で行うことになります。存続会社の株主に合併対価を交付して、存続会社の株主という地位を失わせることができないからです。 ü
株式交換の法律構成 株式交換は、会社の組織に関する行為であると位置づけられています(828条1項11号)。そこで、他の吸収型組織再編行為と同様に、当事会社間で、株式交換のための契約を締結することとされています(767条)。 株式交換は、現物出資の一種として構成されるのではなく、合併に類似する行為として構成されたものです。このことは、完全親会社となる会社の株主総会決議が必要であること、検査役の調査が必要とされていないことなどで示されています。 性質論を離れても、株式交換という用語が会社の組織再編行為の一種を意味するものとして定義されている以上、各種の契約文言の解釈にあたっても、特段の事情がない限り、株式の譲渡には、株式交換に伴う株式の移転含まれていないと解されています。 ü
株式交換が用いられる局面 株式交換は、企業集団において従前からの子会社を100%子会社化する場合や、M&A取引において企業を買収する場合に利用されることが多いものです。M&A取引としては、株式譲受け、事業譲渡などの取引方法に加え、合併や会社分割等の組織再編およびそれらの混合した方法があげられます。それらに対して、株式交換は、基本的には、対象会社そのものの買収で、対象会社の株主が多数存在していてすべての株主の合意を得ることが難しく、買収後も対象会社の独立性を維持したい場合に用いられます。株式交換によるM&Aのメリットは、対象会社をそのまま買収できるため契約関係の処理や許認可などの再取得等の問題が比較的少ないこと、対価として親会社株式を利用する場合には現金の持ち出しが少なくてすむこと、対象会社の少数株主の意向をあまり気にしなくてよいことなどがある。また、他方でデメリットとしては、手続きに時間がかかること、対象会社の財産状況や事業状況に関する対象会社株主からの表明保証等の契約上の手当てが受けられないことなどがあります。 ・国際的三角株式交換 外国会社との株式交換が可能かについては議論があります。株式交換は権利義務の包括的な承継が起きる合併とは異なり、完全親会社による完全子会社の株式取得であるため、外国会社を当事者として認めることは可能だと考える者も少なくありません。しかし、会社法では株式交換の当事会社の種類が規定されており、外国法に準拠して設立された会社を完全子会社または完全親会社とすることはできないということになります。 もっとも、株式交換の対価の柔軟化により、株式交換で完全親会社となる会社の株式以外の資産を対価として完全子会社の株主に割り当てることが可能となったため、外国法に準拠して設立した会社が完全親会社となる受皿会社を日本国内に設立し、受皿会社にその外国親会社の株式を保有させ、受皿会社と完全子会社となる会社との間で株式交換を行って完全子会社となる会社の株式に外国親会社の株式を交付することができ、結果として、外国親会社を完全親会社として株式交換をすることと同様な結果が得られるようになります。 ü
株式交換のための事前準備 ・株式交換の立案・策定 株式交換、株式移転、株式交付は似たところが多いものですが、それぞれ用いられる局面が異なっています。たとえば、事業の一部を第三者に譲渡する場合に事業譲渡を利用するか会社分割を利用するか、あるいは会社分割を利用するに際して吸収分割を利用するか新設分割したうえでその株式を譲渡するのかわ検討することになるのとは異なり、実現しようとする取引目的の手段として、株式交換、株式移転および株式交付の選択肢を比較検討することが必要な場面は限られます。 また、ストラクチャーの決定にあたっては、対価の種類について、株式交換では対価の選択、例えば現金による買収か、株式による買収か、三角株式交換かといった具合に、検討対象となります。 以下では対価の決定についての注意すべき事項と、その他留意すべき事項を見ていきます。 @)対価の決定 株式交換では、完全親会社となる会社の株式だけでなく、その他の財産、たとえば、金銭、社債、新株予約権、債権その他の資産や権利を対価として用いることが可能であり、なおかつ、完全親会社となる会社の株式を全く用いないことも可能です(768条1項2号)。以下で株式交換の対価についての留意点を見ていきます。 @完全親会社の株式 株式交換において、完全親会社の株式を対価とする場合、株式交換契約において定められる対価は、必ずしも確定した株式数を記載する必要はなく、その算定方法を記載するのでもよいということです。対価が完全親会社となる会社の株式である場合で完全子会社の新株予約権が行使される可能性がある場合や自己株式の償却が行われる可能性がある場合、株式交換により発行される完全親会社の新株の総数は株式交換の契約締結から効力発生日までの間に変動する可能性があり、一般的には「完全子会社の普通株式1株に対して完全親会社の株式○株を割り当てる」という算式表示が採用されることが多いようです。 これは株式交換契約の締結から株式交換の効力発生日までの間の完全子会社の株式数の変動を織り込むべき算定方法ですが、株式交換契約の締結から株式交換の効力発生日までの完全親会社の株式の価値の変動を、完全子会社の株主に対して割り当てるこれらの株式の数の算定に織り込むことも可能です。これは、完全親会社の株式が上場していて市場価格が存在する場合、株式交換契約の締結から株式交換の効力発生日までの間の完全親会社の株式の市場価格の変動を織り込むもので、たとえば、完全親会社の株式の一定期間の市場価格の平均値で完全子会社の株式1株当たりについて算定された一定の価格を除すというような算定方法です。このような完全親会社の株式価値の変動を株式交換の交換比率に織り込む算定方法は、買収目的での株式交換の際に、完全親会社事業規模が完全子会社の事業規模に比較して大きいような場合で株式交換や完全子会社の業績等への影響が軽微であるという合理的見込たち場合に、完全子会社の株主に対して割り当てられる完全親会社の株式の価値の大幅な変動が見込まれる場合、その価値の変動を交換比率に織り込むことで、完全子会社となる会社の株主に対して完全親会社となる会社の株式価値の変動にかかわらず一定の価値ある対価を割り当てることを担保することができる。 A現金 株式交換で完全子会社となる会社の株主に対して割り当てる対価をすべて現金とするのであれば、株主との間で株式売買契約を締結して、その会社のすべての株式を取得するのと結果的に同じですが、複数の株主が存在する場合、特に一般少数株主が存在する場合に、株主総会の特別決議を行うことによって、すべての株主から株式譲渡の条件について個別の合意を得ることなく、一定の期日にすべての株主から同一の時要件で株式を取得する効果を得ることができる点で、現金対価で株式交換を行うメリットがあります。 B完全親会社となる会社の親会社の株式(三角株式交換) 株式交換において完全親会社となる会社の親会社の株式を株式交換の対価として、完全子会社に対して交付することも可能です。 会社法では、子会社による親会社株式の取得に関しては一定の規制があり(135条)ますが、組織再編取引に際して親会社の株式を組織再編の対価として交付する場合は、その限度で子会社が親会社の株式を取得することができるとされ、株式交換の場合もそうです(800条)。ただ、具体的に完全親会社となる会社がその親会社の株式をどのように取得するかについては、別に検討すべき問題があることに注意が必要です。 Cその他の留意事項 a.対価に応じた債権者保護手続き 株式交換を行う場合の完全親会社では、基本的に、交換対価の95%以上が完全親会社の株式である場合を除き、完全親会社の全債権者に対して債権者保護手続きが必要となります(799条1項3号、会社法施行規則198条)。 b.税務上の適格性の検討 株式交換では完全親会社の株式または完全親会社となる会社100%親会社の株式を株式交換の対価とすることが、税務上の適格株式交換の要件の一つとされています。したがって、交換対価としてこれらの株式以外のものを用いる場合には、税務上、適格株式交換とならない可能性への留意が必要です。 c.金商法上の規制 株式交換により新たに有価証券が発行される場合またはすでに発行された有価証券が交付される場合でも、株式交換なおける完全子会社の株券、新株予約権証券その他政令で定める有価証券の所有者が多数の場合として政令で定める場合など一定の要件を満たす場合には、有価証券届出書を提出しなければなりません(金商法2条の3、4条1項)。 A)立案・計画の際のその他の留意事項 @上場会社の実質的存続性 完全親会社となる上場会社が、比較的規模が大きな非上場会社を完全子会社とする株式交換のための株式交付を行った結果、完全親会社である上場会社の実体に著しい変更が生じ、その実質的存続性が認められないような場合には、完全親会社が上場廃止となるおそれがある点に注意が必要です。 A米国証券法上の手続き 株式交換の場合に完全子会社の米国居住株主比率が高い場合で、完全子会社の株主に対して関螺旋親会社の株式等の証券をその対価として交付する場合には、米国証券取引委員会(SEC)への登録届出が必要となる場合があります。この登録手続きは、とくに登録届出書に記載する財務諸表関連の準備で、当事者となる会社にかなりの作業とコスト負担を強いることになるので、対価の内容その他の検討に際して考量が必要です。 B許認可との関係 株式交換については、完全子会社の株主の変更に加え、対価に親会社株式を含む場合には、完全親会社の株主の変更があり、ます。株式交換や株主の変更について、銀行業等の規制業者によっては許認可の取得が必要な場合があります。このような場合には、その事前準備に相当の時間、費用、人員が必要となる場合もあり、対価の内容その他の検討に際して考量が必要です。 ・スケジュールと具体的なプロセス 株式交換を実行するに当たって会社法で必要な手続きをすべて行うために必要な期間は最短で、株式交換契約の締結から効力発生日まで1カ月もかかりません。しかし、実際に株式交換を実行するまでには、会社法上の手続き以外にさまざまな実務上の課題の検討や準備作業が必要となることから、株式交換の検討開始から効力発生日までには相応の期間が、具体的には数カ月から場合によっては1年程度に渡ることが一般的です。 ここでは、上場会社を完全子会社とする株式交換を例にとり、通常必要とされる段階は次のようになります。 @)秘密保持契約の締結 株式交換に関する取引について本格的な検討を始める前に、当事者間で株式交換に関する検討・交渉を行っている事実やその検討・交渉内容に関する秘密を保持することに加えて、株式交換の゜完全子会社が実施している事業や、株式交換の対価として株式を交付する場合には、株式の発行会社の事業等の情報等、一般には公開されていない情報を交換することになるため、これらの情報等について秘密を保持することを相互に合意しておく必要があります。 【参考事例】秘密保持契約書
A)第1次デュー・デリジェンスの実施/公正取引委員会への事前相談 秘密保持契約が締結されると、デュー・デリジェンスが始まります。もっとも、取引について公表される前の段階では、デュー・デリジェンスを受ける側がデュー・デリジェンスを行う側の要請に応じ必要な資料・情報を収集し質問に答えるために十分な体制を整備することが困難な場合が少なくありません。従って、通常は、大規模な取引の場合は、公表される前の段階では、十分なデュー・デリジェンスを完了させることが困難となります。 大規模な取引では、独占禁止法上の問題がないことが当初から明白であるケースは少なく、取引の公表前に公正取引委員会への事前相談の要否も含め、慎重に検討する必要があります。 また、完全親会社とそのグループ会社、完全子会社とひのグループ会社に、相当程度の海外事業が存在している場合には、国外の競争法との関係での届出の要否や、実質的な問題の有無、および各国の競争当局への事前相談の要否も検討する必要があります。 B)基本合意書の締結 正式の株式交換契約の締結に至る前の段階では、株式交換に関する覚書または基本合意書といった文書が取り交わされる場合が少なくありません。この文書の記載内容については、このような文書を締結する目的、基本合意書締結のタイミング、株式交換の当事会社の属性によって大きく変わってきます。一般的には株式交換の検討や準備には多大な手間とコストがかかるため、株式交換に向けた本格的な検討や準備を開始する前に当事会社の相応のレベルで株式交換に向けた共通認識を書面の形で記録に留めたいという要請が働くことから、その要請を充たすことを目的として締結されることが多いと考えられます。 C)取引の公表 上場会社を当事者とする取引で、株式交換を実行することについて決定した場合は、金商法および金融商品取引所の規則に従い、その取引に関する事項を公表しなければなりません。基本合意書を締結する場合には、その締結の段階で公表することになります。 D)第2次デュー・デリジェンスの実施 基本合意書締結時までに本格的なデュー・デリジェンスが完了していることは稀であり、通常の場合、基本合意書締結後も効力発生日までデュー・デリジェンスを行い、完了させることになります。 E)条件交渉/確定/最終契約の締結 基本合意書締結後は、その内容に基づき株式交換の取引その他の詳細な条件について最終交渉を行い、その内容を確定し、最終契約の締結へと向けて進むことになる。 F)株式交換の実行に向けた準備作業の推進 株式交換による取引が公表された後は、取引が検討されている事実についての秘密保持の必要性がなくなるので、株式交換の対象の担当者を含めた社内の各部署の担当者を交えて、株式交換の実行に向けた具体的な準備・検討作業に入ります。 このような準備作業を行う際、具体的には、当事者の双方の代表者から構成される準備委員会を組成し、取引実行時の作業のみならず、取引実行後の事業統合にあたって必要な作業も洗い出し、その統合の方法について検討・協議しつつ、必要事項について協議・決定していくという方式をとることになります。 G)株主・従業員・取引先等の関係者への説明 株式交換は、その完全子会社の株式を完全親会社に移転させる取引であり、合併や会社分割等と異なり、完全子会社の従業員との間の雇用関係や、取引先等との間の契約関係について、これら雇用先、契約の帰属先となる当事者の変更が生じるものではありません。 しかし、株式交換の完全子会社となる会社では、企業再編取引に伴う経営方針の変更が想起される結果、今後の処遇について不安を抱く等従業員の間に動揺が起きることが予想される場合もあります。このような場合に加えて、労働組合との協約に株式交換を行う際の事前通知、協議等の条項が存在する場合もあります。このようなケースでは、取引公表の前から企業再編取引が従業員との間の雇用関係に与える影響について従業員または労働組合たいして十分な説明ができるように準備を行い、協議などを始める必要があります。 また、株式交換の取引が解除事由にあたる契約や、株式交換の実行に際して事前同意を要する契約について適切な対応をすることはもとより、契約上は株式交換を゜行うために相手方当事者への通知も含めて措置が要求されていない場合であっても、重要な取引先や顧客に対しては株式交換の取引について説明し、株式交換を実施した後の当事者での取引の継続への不安や疑念を取り除くことの要否を、ビジネス上の観点から検討する必要があります。 また、株式交換を実行するにあたっては、具体的なストラクチャーや当事者の規模、対価の額等に応じて、株主総会での特別決議による承認を受ける必要があり、また反対株主による株主買取請求権の行使を避けるため、株主の理解を得る努力も必要となります。 H)公取委などの関係各官庁への相談/許認可 検討されている株式交換による事業統合や株式取得の結果、一定の取引分野で高い市場シェアを有することになれば、明確に競争を実質的に制限するおそれがないと判断することが難しい場合には、取引の公表に先立ち、公取委に届出前相談や事前相談で問題がないとの心証を得ることができた場合には、取引の公表後正式な届出を行います。 株式交換の当事者の行っている事業が、金融、鉄道、通信、航空等といったいわゆる規制業種で゛あった場合には、規制当局との間で株式交換やそれに伴う株主の変動についての承認を得るため規制当局と折衝を行う必要があります。 ・プロジェクトチームの組成および情報遮断の必要性 @)プロジェクトチームの組成 株式交換の実行は、当事会社の株主、従業員を含め、多くの関係者に重大な影響を与えることが多いため、株式交換についての取引が対外的に発表することができる段階までは、社内では、可能なかぎり少数の者のみから構成されるプロジェクトチームを組成し、情報管理を行うことになります。例えば、社長または担当の取締役をリーダーとして、当初は経営企画部や社長室といった部署の少数の担当者でメンバーを構成し、初期段階の検討を行います。その後の検討・準備が進むにつれて、財務部、法務部、人事部などの各主要部署から合併の担当者を選定し、適宜メンバーに加わることが一般的です。 そして、会社分割が公表された後は、基本的に機密性について考慮に入れる必要がなくなるため、公表とともに、各部署の担当者からなるプロジェクトチームを組成し、社内では合併の準備に当たるとともに、相手方当事会社のプロジェクトチームとともに準備委員会を組成し、合併の準備、検討を行なうことになることが多いようです。 プロジェクトチームには、社内の担当者だけでなく外部のアドバイザー(弁護士、フィナンシャル・アドバイザー、会計士、税理士その他)を利用することも少なくありません。 A)情報遮断の必要性 ア.金融商品取引法上のインサイダー規制 金融商品取引法では、上場会社の運営、業務等に関して、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な事実が公表される前に、その事実を知った一定の会社関係者等が、その上場会社の株式等の売買を行うことは禁止されています(金商法166条)。上場会社が会社分割の決定をした場合は、投資家の投資判断に影響を及ぼすような重要な決定事項となるため、インサイダー情報に該当します(金商法166条2項1号)。株式交換は、上場会社の取締役会または社長等が合併の決定をした時点からインサイダー情報に該当します。 イ.独占禁止法上の情報遮断の必要性 株式交換割の効力発生前に、合併の検討・準備の情報交換や統合準備作業によって、事業者間に競争を準備する暗黙の了解や共通の意思が形成されたり、またはこの情報交換が手段となって一定の取引分野での競争が実質的に制限されたりする場合には、独占禁止法で禁止されている不当な取引制限に該当する懸念があります。このような懸念を避けるために、統合交渉等のために必要な一定の情報交換を行う場合には、交換される情報の性質、範例、共有される人の範囲等、一定の情報管理の方策をとることが必要と考えられます。具体的には、統合交渉や実行準備のための情報交換の際に交換する情報の範囲を統合の交渉や実行の準備に必要な最小限のものに限定すること、検討・交渉を営業部門ではない部門に担当させること、相手方の具体的情報は担当部門のみがアクセスできるものとし、受領した情報については営業部門からは遮断する措置を講ずること、これらの方策を社内及び相手方においても周知徹底させること、などが考えられます。 ・デュー・デリジェンスの実施 株式交換の取引の検討を行なうにあたって、当事会社は、取引を進めることについての重大な障害の有無、採用するストラクチャーの実施可能性の検討、対価の算定の基礎となる事業価値評価に反映させるべき事項の確認、取引の実行のために行うべき手続きの確認、取引実行後に事業を統合する場合にはその統合に向けて必要な作業の把握等の目的で、法務、会計、税務その他の観点からデュー・デリジェンスを行います。 また、日本の企業同士のM&A取引においてデュー・デリジェンスを実施するのが一般的となってきています。このようなM&A取引を実施するに当たって通常行われるデュー・デリジェンスを実施せずに取引を実行し、相手方会社の重大な問題や瑕疵を見逃したために、その結果として会社に損害が生じた場合には、担当取締役に善管注意義務違反の問題が生じる可能性があります。 @)デュー・デリジェンスの要否 株式交換にかかる取引取引の検討を行うにあたっては、取引を進めることについての重大な障害の有無(たとえば、財務諸表等に重大な問題がないか、重大な潜在債務や訴訟リスクはないか等)の問題点の把握、採用するストラクチャーの実現可能性の検討、株式交換における交換比率、その他完全子会社の株主に割り当てる対価の算定にの基礎となる事業価値評価に反映させるべき事項の確認、取引の実行のために行うべき手続き(たちえば、契約の相手方当事者からの同意の取得の要否等)の確認、取引実行後に事業を統合する場合にはその統合に向けて必要となる作業の把握等の目的で、法務、会計、税務その他の観点からデュー・デリジェンスを行う必要があります。 A)当事者の属性による留意点 ア.完全親会社となる会社が行うデュー・デリジェンス 株式交換において完全親会社となる会社は、完全子会社となる会社の株式のすべてを取得するので、グループ内組織再編にあたるような場合を除き、完全子会社に関する事項全般について株式の売買において通常行われるのと同様の観点からデュー・デリジェンスを行います。 デュー・デリジェンスの範囲や深度を検討する際には、一度株式交換を実行するとその効力を覆して原状を回復することが困難であることに留意しなければなりません。 イ.完全子会社となる会社が行うデュー・デリジェンス 株式交換で完全子会社となる会社は、いわば被買取会社です。しかしながら、株式交換により完全子会社となる会社の株主が交付を受ける対価が完全親会社となる会社の株式や新株予約権付社債である場合等は、対価の価格が、完全親会社等の事業価値に依存することになります。したがって、完全親会社等の事業価値を検証するためのデュー・デリジェンスの要否を検討する必要があります。 また、完全子会社となる会社は、自ら実施する事業との関係で、株式交換を実行する際の問題点の有無や株式交換の実行がその事業に及ぼす影響も確認しておく必要があります。例えば、株式交換の実行が、第三者との間で締結している重要な契約の条項に抵触しないか否かを含めて株式交換の支障となる障害の有無を確認する必要があります。これは、完全親会社となる会社が完全子会社となる会社に関して行うデュー・デリジェンスの対象事項でもあります。 B)デュー・デリジェンスのタイミング デュー・デリジェンスの開始時期は、株式交換にかかる取引に関する検討の進捗状況や実行までのスケジュールに応じて検討されることになります。一般的には最終契約の締結前の中間ステップとして基本合意書が締結されるケースでは、予備的なデュー・デリジェンスを行った後、基本合意書を締結し、その後に本格的なデュー・デリジェンスを行います。 本格的なデュー・デリジェンスでは、一般的に、関連資料の開示を請求し、開示された資料の検討を経て、相手方の経営陣や担当者に対するインタビューを行い、必要に応じて現地視察などのステップを踏むのですが、資料開示から1ヵ月程度で終了することが多いようです。 C)デュー・デリジェンスの留意事項 株式交換に際してデュー・デリジェンスを実施する場合、法務の観点から特に注意すべき事項は、次のとおりです。ア〜ウは合併や会社分割等とも共通する一般的なM&A取引の留意点で、詳しい説明は会社分割(757条)の説明を参照願います。そして、エ以降で株式交換の場合のデュー・デリジェンスに関して、特に留意すべき法務上の所有な問題点を説明します。 ア.対象となる事業の遂行に必要な資産、権利、契約等の把握 イ.分割を要する契約の有無 ウ.根抵当権 エ.株主構成 株式交換においてその交換対価を完全親会社となる会社の株式とする場合には、完全子会社となる会社の株主は、株式交換の実行により完全親会社の株主となります。株主と会社との結びつきが強い閉鎖会社との間で株式交換が行われる場合や、上場会社でも主要な割合の株式を有している株主が存在する場合には、株式交換が行われた後の完全親会社の株主構成がどうなるかということは関心事となり得ます。このような場合には完全子会社となる相手方の会社の株主構成について確認する必要があります。 また、上場会社同士の株式交換の場合、米国証券法上の登録が必要になるか否かが問題となり得る程度に外国人株主の割合が高い場合には、米国居住株主の割合を米国証券法令の基準で算定する必要があり、この観点から完全子会社となる会社の株主構成の確認が必要となります。 オ.潜在株式の把握 株式交換の効力発生後に、完全子会社に新株予約権が存在しているような場合や、その他履行であった募集株式の発行が行われる場合には、株式交換の初期の目的を達成できなくなる可能性があります。また、株式交換の効力発生前にこれらの潜在株式に関する権利が行使されることにより新株が発行される予定がある場合には、この新たな発行される株式数を含めて交換比率を算定する必要があります。 このように完全子会社の新株予約権等の潜在株式の存在およびその条件は、株式交換に関する取引のデュー・デリジェンスで確認すべき重要事項です。 カ.許認可関連 株式交換は、完全子会社の株主の変更が発生する取引であり、合併や会社分割のように法人格の合一や消滅、事業の包括承継や事業内容の変更等が生じる取引ではありません。したがって、株式交換の実行それ自体が完全子会社が保有している許認可の対象となる事業の運営について影響を与えることはほとんと゛ないため、完全子会社が保有している事業上必要な許認可についてこの観点から精査をする必要はありません。 キ.相手方からの同意取得が必要な重要契約の有無 株式交換は完全子会社の株式が完全親会社に移転する取引であり、その契約の当事者の変更が発生しうる合併、会社分割または事業譲渡とは異なります。また、事業譲渡のようにすべての契約の相手方から個別に株式交換の実行について事前の承認が必要となるわけでもありません。しかし、契約によっては、契約の当事者による株式交換の実施が、解除事由や事前に相手方の承認を得るべき事由として定められている場合があり、このような場合には株式交換の効力発生日までにその相手方からの事前の承諾を得ておく必要があります。 ク.重複契約の有無とその整理 株式交換の当事者となる会社がいずれも同種の事業を実施している場合には、同一の相手方との間で仕入契約や販売契約等の同種の契約を締結している場合がある。合併や会社分割の場合と異なり、株式交換の場合には、当事者となる会社は事業・権利関係の全部又は一部が一方から他方に承継されるわけではないため、その効力発生日後であっても完全親会社と完全子会社とがそれぞれ当事者となる契約については、その条件の変更がなされることなく存続します。 しかし、株式交換を通じた事業・経営統合は、これらの取引関係を整理統合して収益の改善を図ることによりシナジーを達成することを目的としているケースもあります。このような場合には、完全親会社と完全子会社が締結しているそれぞれの同種契約の条件をその契約相手との交渉の上、一本化することが企図されます。このような目的で、デュー・デリジェンスでは、株式交換の当事者となる会社がそれぞれ締結している同種契約を把握し、その時要件を確認する作業を行うことがあります。 ケ.クロスライセンス契約 クロスライセンス契約とは、特許権等の知的財産権の権利者同士が相互に相手方当事者の知的財産権で保護される発明・技術等を利用することを許諾し合うライセンス契約のことである。株式交換は、その完全子会社の事業や契約の帰属主体に変動が生じるものではないので、完全子会社が締結しているクロスライセンス契約の対象となる知的財産権がその会社の保有している特定の知的財産権に限られ、また、クロスライセンス契約の相手方が保有する知的財産権で保護される発明・技術等の使用が許諾される当事者も完全子会社となる会社に限られるのであれば、一般には問題点を検討するだけで十分てす。 ただし、場合によっては精査が必要となることもあります。 コ.借入に関する契約 株式交換の当事者となる会社に金融機関その他投資家からの借入や社債等による資金調達が存在する場合、これら貸付人、社債権者等との間で協議を行いその同意を得ておく必要の有無を検討しておく必要がある場合が少なくありません。これらの借入に関する契約には、事前に貸付人等の同意を得ずに株式交換や重要な企業再編が行われた場合や支配権の変動があった場合には、請求により期限の利益を喪失し、直ちに弁済すべき旨が定められていることがあります。それで、株式交換の親会社で債権者保護が必要な場合で、債権者保護手続を履践した場合、またはこれらの債権者保護手続きが不要な場合でも、貸付人等の同意を得ずに株式交換を実行した場合には、株式交換に関して事前の同意を要求する条項に違反があったとして、個人債務、社債等の起源の利益を喪失し、貸付人等からその借入債務、社債等の全額の即時弁済を求められる可能性があります。 サ.偶発債務等の潜在債務の有無 株式交換は、合併や会社分割とは異なり一方の当事者の権利関係や事業の全部または一部が他の当事者に承継されるわけではなく、完全親会社は完全子会社の債務について、これらの株式の保有を通じて間接的な責任を負うにすぎません。しかし、株式交換における完全子会社について存在する偶発債務等の潜在債務は、交換比率やその算定に重要な影響を与える可能性があるので、その調査は重要です。 偶発債務等の潜在債務の発生原因は様々なものが考えられますが、実務上頻繁に問題になるものとしては、環境問題、PL問題、知的財産権の侵害を含む紛争、経営指導念書等を含む保証債務、未払残業代、製品の品質保証、業務上の法令違反行為等があげられます。デュー・デリジェンスを通じて偶発債務等の潜在債務の原因と4なりうる事項の存在が確認された場合、このような原因となりうる市施工の存在が確認された場合、このような原因が存在する当事者が、株式交換の効力発生後に想定外の債務を負担する可能性の有無を検討する必要があります。 ü
基本合意書 上場会社同士で大規模な企業再編取引を行なおうとする場合には、その企業再編取引を行うための正式な最終条件や遵守すべき手続について約する契約の締結に至る前の段階において、基本合意書が締結されることが少なくありません。また、このような場合でなくても、最終契約の締結に向けてのステップとして基本合意書が締結されることも多いです。 ・基本合意書の内容 基本合意書の内容は、個々の場合に応じて様々なものとなります。以下で、基本合意書に含まれそうな主要な項目について簡単に見ていきたいと思います。 @)当事者 株式交換を用いた取引の当事者は、株式交換により完全親会社および完全子会社となる会社で、これらの会社が基本合意書の当事者となります。 A)目的 多くの基本合意書では、最初に、企業再編取引の目的や基本合意書締結の目的等が規定されています。この項目は、当事者の具体的な権利義務を設定するものではなく、企業再編取引を行う意向とその意義等を確認するものであることが多いです。なお、ストラクチャーとして会社分割以外の方法を引き続き検討する場合には、株式交換を利用することを明確には記載しないこととなります。 B)株式交換を用いた取引の具体的なストラクチャーおよび主要な条件 想定されている取引の具体的ストラクチャーやその基本的な条件について基本合意書に記載するか否か、記載するとした場合にどこまで詳細に記載するのかということが、実務上は大きな検討課題となります。個々での基本的な条件の例としては、買収目的で行われる株式交換において完全子会社の株主に割り当てられる完全親会社の株式の種類・数や金銭の額等が挙げられます。とくに、取引の具体的なストラクチャーを確定したうえで、対価を含む基本的な条件について合意し基本合意書に記載するためには、その時点までに会社分割の対象となる事業に関する事業価値評価等が確実性を持って行われることがひつようです。しかし、取引公表の前のデュー・デリジェンスの実施には制約があります。 一般論として、基本合意書を締結して取引を公表すると、その時点で対価を含む取引の基本的条件についても合意し、これを記載することが、株主や株式市場に対する情報提供という意味では望ましいとしても、最終合意において合意すべき事項の一部についてこれを具体的に記載するという考え方もあります。実際には、当事者間で、案件ごとの個別具体的な事情を踏まえて、最終契約に至るまでに基本合意書を締結するか否か慎重に検討すべきです。 C)誠実交渉義務・独占交渉義務 基本合意書締結の段階では株式交換にかかる取引の詳細な条件がすべて決定されていない場合が多く、そのような場合には、取引の詳細かつ具体的な条件の決定に向けた交渉が当事会社間で行われるわけです。その交渉を誠実に行うということを規定したのが誠実交渉義務です。基本合意書では、この誠実交渉義務には法的拘束力を持たせることが一般的です。合併を行うことに関して基本的に合意しているので、誠実に交渉を行うのは当然のことと言ってもいいですが、念のために規定するところもあります。 誠実交渉義務に加えて独占的な交渉義務まで規定するかどうかは、個別の案件の事情によります。たとえば、基本合意書締結後に本格的なデュー・デリジェンスを行う場合や、基本合意書締結後に改めて詳細な事情に黙づいて確認的なデュー・デリジェンスを実施する場合など、基本合意書締結後は準備を本格化させることにより、それまでの期間と比べて費用が多大になる場合が多くなります。さらに、対外公表によって、競業他社その他の第三者が当事会社の一方に対してより良い条件を提案する等して干渉してくることも想定されます。そこで、交渉において第三者の干渉してくる可能性を低くするために、基本合意書に独占交渉義務を課することがあります。このような独占交渉義務に関する規定が設けられる場合には、独占交渉義務が適用される期間についても規定されるのが一般的です。一般的には、独占交渉期間は3〜6ケ月程度とすることが多いようです。 D)解約金、違約金 基本合意書を締結したものの一方の当事者の都合により最終契約の締結に至らなかったり、独占交渉義務から解放されるために支払われる解約金や違反したときの違約金に関する規定を設けることもあります。この場合、違約金の金額が低額である場合には、違約金を支払えば第三者と交渉できてしまうとみなされる危険もある一方、違約金が高額である場合には不当な制限となる危険もあるので、違約金額については慎重な判断が求められます。 E)デュー・デリジェンス 取引に関する公表がまだされていない段階では情報管理の観点から関係者の範囲を極力限定せざるを得ないため、基本合意書を締結して取引の関する公表までにデュー・デリジェンスを完了させているのは稀です。特に基本合意書で対価に関する事項が定められていない場合は、基本合意書締結後に本格的なデュー・デリジェンスを行ったうえで、その結果も踏まえて対価等の交渉が行われます。また、基本合意書で対価等が定められている場合でも、事後的に確認的なデュー・デリジェンスが行われることも少なくありません。このように基本合意書締結後にデュー・デリジェンスが行われるので、基本合意書にデュー・デリジェンスの実施に関する規定が設けられることがあります。その場合、デュー・デリジェンスの実施およびその具体的範囲・方法、それに対する受入側の協力等を双務的に規定する一般的です。 F)取引の実行に向けた準備の推進 取引の実行に向けたデュー・デリジェンスの実施を含む検討・準備作業は、株式交換の当事者が行っている事業の規模が大きくなればなるほど膨大になり、その準備にかかる手間・時間は看過しえないものがあります。また、株式交換による完全子会社化では、当事者が協力して取引実行後の経営または事業の統合に向けた作業を最終契約の締結前から開始すべき場合もあります。このような場合、基本合意書を締結し、取引について公表することによって、公表された範囲で秘密保持の必要がなくなるため、社内の関係部署と担当者がその検討・準備詐欺用に関与できることになります。それで、基本合意書を締結し、取引について公表することによって、社内の関係部署と担当者が広くその検討・準備作業に関与できるようになります。基本合意書には、このような目的で、事業統合準備委員会の設置に関する規定を設けることがあります。 G)法的拘束力 基本合意書のどの規定が法的拘束力を持つかを基本合意書に明確に規定しておくことは、その後の無用の紛争を回避するために重要です。一般的には、守秘義務その他準拠法等の一般条項もそして、もし規定される場合には独占交渉義務については、確定的な意味合いで法的拘束力があるものと定められています。 ・基本合意書の効力 基本合意書は会社法が規定しているわけではなく、そこに記載されている事項について、一律に同じ効力が認められることにはなりません。合併の目的や合併の条件に関する事項などは合併契約書を締結するまでの間に、紆余曲折を経ることが一般的です。この場合、基本合意書に記載された内容と最終的に合併契約に記載された内容に異同が生じたとしても、原則として、当事会社および取締役は、会社に対しても株主に対しても債権者に対しても、法律上の責任を問われることはありません。 なお、当事会社が上場会社の場合には、基本合意書を取り交わした時点で。合併について公表されるので、その後、基本合意書の内容を変更・修正する場合には金融商品取引法の問題、例えば風評の流布や偽計等の禁止(金商法158条)違反や相場操縦(金商法159条)など、に該当する可能性があることに注意する必要があります。 ・基本合意書の取り交わしと取締役会の承認 基本合意書の取り交わしには、とくに当事会社各社の取締役会の承認決議までは必要ないという見解が多いようです。しかし、基本合意書に記載された事項の中には、違反した場合に損害賠償が請求される可能性があるものもあり、そのような事項については取締役会の承認を経るほうが望ましいと考えられます。 ü
株式交換契約 会社が株式交換を行うためには、株式交換当事会社は株式交換契約を締結しなければなりません(767条)。株式交換契約は株主総会での承認が必要となります(783条1項)。 株式交換契約の締結・作成は組織法上の行為としての性質をもつものであることから、、株式交換の当事者となる会社の代表取締役または代表執行役が行います。もっとも、これは重要な業務執行行為に該当することから、株式交換契約の締結に先だって、取締役会の決議(362条4項)が必要となります。ただし、指名委員会等設置会社の場合、株主総会の承認を要しない簡易交換や略式交換の株式交換契約の内容の決定については、取締役会決議により執行役に委任することができます(416条4項)。監査等委員会設置会社で取締役の過半数が社外取締役である場合、または定款に定めがある場合には、株主総会の承認を要しない簡易交換や略式交換の株式交換契約の内容の決定については、取締役会決議により取締役に委任することができます(399条の3第5項)。 ü
株式交換手続きの概要 株式交換は、既存の株式会社を完全子会社とする完全親子会社関係を創設することを目的とする会社の行為であり、既存の株式会社の株主の有する全株式が既存の他の株式会社に移転し、前者の株主に後者から金銭等が交付される会社の行為です。株式交換のために必要となる手続きについて、会社法は、完全子会社側(782条以下)と完全親会社側(794条以下)に分けて規定しています。その手続きを完全子会社側と完全親会社側それぞれにわけて下表にまとめました。 ü
会社法以外の株式交換手続き─上場会社の場合の手続き 株式交換の場合の完全子会社もしくは完全親会社の両方もしくは一方が上場会社の場合には、会社法上の手続以外にも、金融商品取引法や上場規則の手続きが必要となります。 ・金融商品取引法上の手続き @)組織再編成にかかる開示制度 金商法は、株式交換のような組織再編成において対価として発行・交付される有価証券の発行者に関する情報開示を義務づけています。このような発行開示を求める趣旨は、組織再編成に関する情報は投資者にとっても重要な投資情報であり、また、会社法で組織再丙の対価の柔軟化が認められた結果、合併の場合であれば消滅会社の株主に存続会社以外の会社の株式が交付される場合には情報が入手できないおそれがあるため、その会社に関する情報開示を義務づけることなどにあります。 A)特定組織再編成発行手続 株式交換の場合の開示規則を具体的に見ると、株式交換に当たって完全子会社の株主に交付される交換対価が完全親会社の株式、第三者の株式等の金商法2条3項が定義する第1項有価証券である場合には、完全子会社の株主等が50名以上である場合に、「特定組織再編成発行手続」に該当し、発行価額の総額が1億円以上である場合には有価証券届出書の提出が義務づけられます(金商法4条1項5号)。 これに対して、株式交換に当たって完全子会社の株主に交付される交換対価が金商法2条3項が定義する第2項有価証券である場合には、完全子会社の株主等が500名以上である場合に、「特定組織再編成発行手続」に該当し、発行価額の総額が1億円以上である場合には有価証券届出書の提出が義務づけられます(金商法4条1項5号)。 金商法は、株式交換手続における事前開示書面の備置きを発行規制における「勧誘」に見立てて規制しており、有価証券届出書の提出が義務づけられている場合には、完全子会社による事前開示書面の備置きまでに、届出がされていなければなりません。 B)臨時報告書の提出義務 株式交換の場合の完全子会社、完全親会社のいずれか一方または両方が金商法の継続開示義務を負っている場合には、一定の軽微基準を満たさないかぎり、継続開示義務を負っている会社は、株式交換が行われることを取締役会等の機関が決定した場合に、臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5第4項、開示府令19条2項7号)。 臨時報告書の提出を免れる軽微基準とは、継続開示義務を負っている会社の資産の額が、最近事業年度末日の純資産額10%以上減少し、または増加することが見込まれず、かつ、継続開示義務を負っている会社の売上高が会社の最近事業年度の売上高の3%以上増加することが見込まれない場合です(開示に関する内閣府令19条2項)。 ・金融商品取引所の上場規則の手続き @)適時開示 上場会社の取締役会等が株式交換を行うことを決定した場合や、公表済の合併を行なわないことを決定した場合には、上場規則に従って開示が必要となります。一般的な開示事項は次のとおりです。 @組織再編の目的 A組織再編の要旨 (1)組織再編の日程 (2)組織再編の方式 (3)組織再編にかかる割当ての内容 (4)組織再編に伴う新株予約権および新株予約権付社債に関する取扱い (5)会社分割により増減する資本金 (6)承継会社が承継する権利義務 (7)承継会社の債務履行の見込み B組織再編に係る割当ての内容算定根拠等 (1)割当ての内容の根拠および理由 (2)算定に関する事項 (3)上場廃止となる見込みおよびその理由 (4)公正性を担保するための措置 (5)利益相反を回避するための措置 C組織再編の当事会社の概要 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)設立年月日 (7)発行済株式総数 (8)決算期 (9)従業員数 (10)主要取引先 (11)主要取引銀行 (12)大株主および持株比率 (13)当事会社間の関係など a.資本関係 b.人的関係 c.取引関係 d.関連当事者への該当状況 (14)最近3年間の財政状態および経営成績 D組織再編後の状況 (1)名称 (2)所在地 (3)代表者の役職・氏名 (4)事業内容 (5)資本金 (6)決算期 (7)純資産 (8)総資産 E会計処理の概要 F今後の見通し A)テクニカル上場 上場会社が、株式交換により非上場会社の完全子会社となる場合、完全親会社となる非上場会社が発行する株券について上場廃止基準に定める流動性基準への適合状況を中心に確認し、速やかな上場を認める制度としてテクニカル上場制度があります。本来、株式交換の完全親会社が上場するためには、原則通り新規上場の審査を受けて、上場基準をクリアすることが求められるのですが、上場会社が株式交換により非上場会社の完全子会社となるような一定の企業再編の場合には、流動性基準への適合状況を中心とした確認を行う簡易な手続きによって上場が認められています。 非上場会社との間で吸収合併等を行った結果、上場会社に実質的存続性が認められず、かつ一定期間内に新規上場基準に準じた審査に適合しない場合には、上場廃止となります(上場規程601条)。これはいわゆる裏口上場の防止を木でとしたものです。 B)合併等による実質的存続性の喪失に係る上場廃止基準(不適当な合併等) 上場会社が非上場会社を完全子会社とする株式交換を行った結果、上場会社に実質的存続性が認められず、かつ一定期間内に新規上場基準に準じた審査に適合しない場合には、上場廃止となります(上場規程601条)。これはいわゆる裏口上場の防止を木でとしたものです。 上場会社が非上場会社との間で株式交換併等をする場合には、上場会社は、非上場会社の事業の概況、事業の状況および設備の状況等を記載した「非上場会社の概要書」を、株式交換等の決議または決定後に速やかに東京証券取引所に提出しなければなりません(上場規程421条)。実務上は、決定の2週間前までに事前相談することが要請されています。 ü
会社法以外の会社分割手続き─独占禁止法の規制 独占禁止法は、第4章(9〜18条)で、株式取得および保有、役員兼任、合併、会社分割、株式移転および事業譲受けについて一定の規制を課しており、一般に企業結合規制と呼ばれています。 ・届出 @)届出要件 株式交換取引において事前届出が必要とされているのは以下の場合です(独占禁止法10条2項)。 @株式を取得しようとする会社(以下、「」株式取得会社という)およびその会社属する企業集団に属するその会社以外の会社の等の国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計」という)が200億円を超え、かつ A株式発行会社およびその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合において、 B株式取得会社による株式の取得により、株式取得会社の属する企業結合集団の株式に係る議決権の割合が、新たに20%または50%を超えることとなる場合 A)届出の必要がない場合 株式取得には、他の企業結合形態である合併等について規定されているような適用除外規定はありません。これは、株式取得の届出要件が、企業結合形態としての議決権の保有割合の変動を基準としており、同一企業集団内での株式の譲渡であれば、企業結合集団としての保有割合に変動はなく、届出要件を満たさないことになるからです。したがって、株式交換の場合、その当事会社が同一企業結合集団に属しているとしても、株式交換によって同一の企業結合集団に属さない他の株主の議決権を取得することになるので、株式交換の当事会社が同一の企業結合集団に属するか否かで届出の要否が決まるわけではありません。たとえば、すでに50%超の議決権を有する親子会社間で株式交換が行われる場合には、株式交換により新たに株式を保有することによって議決権の保有割合が50%を超えることとなるわけではないので、届出要件に該当せず、届出は不要ということになります。 B)届出の様式および添付書類 届出書のフォーマットは公正取引委員会のホームページからダウンロードできます。記載上の注意も、そこにあります。 https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/bunkatsu2_files/10_youshiki.doc この届出書に、次の書類を添付します(企業結合規則2条の6第2項)。 @株式所得に関する契約書の写しまたは意思決定を証するに足りる書類 A届出会社の最近1事業年度の事業報告、貸借対照表および損益計算書 B様式の取得に関し株主総会または総社員の同意があった時は、その決議または同意の記録の写し、会社法上、株主総会などを開催する必要がない場合には、不要 C届出会社の属する企業集団の最終親会社により作成された有価証券報告書等の企業集団の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なもの C)届出の提出 届出書の提出の時期について明確な規定はありませんが、基本的には、行為予定日から遡って1年程度が目途と考えられています。届け出先は、原則として存続又は設立する会社の本店所在地を管轄する公正取引委員会の事務所です。 D)届出後のスケジュール 届出書を公正取引委員会に提出すると届け出受理書が交付されます(企業結合規則7条1項)。届出受理書記載の受理日から30日を経過する日までは株式取得の禁止期間であり、この間は株式交換を実行してはからないとされています(独禁法10条8項)。 公正取引委員会は届出を受理してから、株式交換が独禁法10条1項に違反していないかどうかという観点から審査を行い、違反を認めれば排除措置を命じることができます(独禁法17条の2)。この排除措置が命じられる場合には、禁止期間内に、当事会社に対して排除措置命令前の意見聴取に関する事前通知があります(独禁法10条9項)。 以上により、届出要件を満たす株式交換について、@報告等要請を受けずに排除措置命令を行わない旨の通知を受け、届出に係る禁止期間が経過した時点、またはA届出後に報告等要請を受けた場合に、届出受理の日から120日を経過した日と報告書等要請に基づき提出すべき書類がすべて受理された日から90日を経過した日のいずれか遅い日が経過した時点において、排除措置命令前の意見聴取に関する事前通知を受けずに排除措置命令を行わない旨の通知を受けていれば、問題なく株式交換を実行できることになります。 株式交換実行後に、株式取得会社は規定の方式で完了報告書を提出しなければなりません(企業結合規則7条5項)。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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