新任担当者のための会社法実務講座
第754条 株式会社を
設立
する新設合併の効力の発生
 

 

Ø 株式会社を設立する新設合併の効力の発生(754条)

@新設合併設立株式会社は、その成立の日に、新設合併消滅会社の権利義務を承継する。

A前条第1項に規定する場合には、新設合併消滅株式会社の株主又は新設合併消滅持分会社の社員は、新設合併設立株式会社の成立の日に、同項第7号に掲げる事項についての定めに従い、同項第六号の株式の株主となる。

B次の各号に掲げる場合には、新設合併消滅株式会社の株主又は新設合併消滅持分会社の社員は、新設合併設立株式会社の成立の日に、前条第1項第9号に掲げる事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。

一 前条第1項第8号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの社債の社債権者

二 前条第1項第8号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの新株予約権の新株予約権者

三 前条第1項第8号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者

C新設合併消滅株式会社の新株予約権は、新設合併設立株式会社の成立の日に、消滅する。

D前条第1項第10号イに規定する場合には、新設合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者は、新設合併設立株式会社の成立の日に、同項第11号に掲げる事項についての定めに従い、同項第10号イの新設合併設立株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。

 

株式会社の新設合併の効力に関して、新設合併設立会社は、その成立の日に新設合併消滅会社の権利義務を承継します(754条1項)。したがって、合併契約に定められた効力発生日に発生するとしている吸収合併の場合(751条1項)とは異なり、会社設立の日、すなわち設立登記により新設会社が成立した日に新設合併の効力が発生することとなります。株式会社を設立する新設合併の場合、合併対価が柔軟化されても、合併により新設される会社が株式会社であるからには、消滅会社の株主・社員は新設会社の株主となります(754条2項)。3項以下は合併対価の柔軟化に対応した規定です。

ü 新設合併の効力発生

・新設合併の効力発生

株式会社の新設合併の効力に関して、新設合併設立会社は、その成立の日に新設合併消滅会社の権利義務を承継します(754条1項)。したがって、合併契約に定められた効力発生日に発生するとしている吸収合併の場合(751条1項)とは異なり、会社設立の日、すなわち設立登記により新設会社が成立した日に新設合併の効力が発生することとなります。

・設立登記

新設合併が行われ、新設合併設立会社が株式会社である場合、つぎのいずれか遅い日から2週間以内に、新設合併設立会社の本店所在地で、新設合併消滅会社の解散の登記と新設合併設立会社の設立の登記をしなければなりません(922条、商業登記法79、81〜83条)。そして、新設合併は、この設立の登記による新設合併設立会社の成立によって効力を発生します(754条1項)。

.合併承認総会の決議の日

.種類株主総会の決議を要する場合はその決議の日

ウ.株主・新株予約権者に対する株式買取請求権・新株予約権買取請求権の通知・公告をした日から20日を経過した日

エ.債権者異議手続が終了した日

オ.当事会社が合意により定めた日

なお、登記の申請には債権者異議手続が終了したことを証する書面の添付が必要となります(商業登記法81条8項)。吸収合併の場合とは異なり、新設合併については債権者異議手続きが終了していない場合には効力が発生しないことが法文上明示されていませんが、登記申請の関係で実質的に同様の規制が行われています。

ü 権利義務の承継

新設合併登記のときに、新設合併消滅会社は消滅し、その権利義務は新設合併設立会社が承継することになります。実務上は、新設合併の場合にも吸収合併の場合と同様、一定の日(吸収合併であれば効力発生日)に新設合併設立会社の財産、帳簿・書類等が引き渡されることになりますが、法的には権利義務の承継は新設合併設立会社の成立の日にされます。

・権利・義務の全部の一般承継

新設合併設立会社は、合併により新設合併消滅会社の権利義務を承継します(754条1項)。その承継は包括承継で、その際に個々の権利や義務の承継の手続きは必要なく、合併の効力発生日に、当然に、承継されます。

合併における包括承継では、消滅会社の権利義務の一部を承継対象から除外することはできないため、消滅会社が負っていた一切の債務(偶発債務、潜在債務などの隠れた債務も含む)も、消滅会社が債務として認識しているかどうかに拘わらず、存続会社に当然に承継されて、存続会社が責任を負うことになります。この点で、合併を行うにあたって実施される法務デュー・デリジェンスでは、合併の相手方負っている債務を調査することが重要です。

・公法上の権利・義務の承継

新設合併消滅会社が有していた許認可等の公法上の権利義務については、私法上の権利義務のように当然に包括承継されるとは限りません。公法上の権利義務は、その権利義務の根拠法令の規定に従うことになります。それで、権利義務個度に個別の検討が必要となります。根拠法令の規定の仕方は、いくつかのパターンに分けられます。第1は、合併の場合には何らかの手続きをとることなく自動的に権利義務が存続会社に承継されるケースです。たとえば、割賦販売法の前払い式割賦販売の許可(割賦販売法18条の6)や食品衛生法上の飲食店営業等の許可(食品衛生法53条)などです。第2には、合併による承継は認めずに、新設合併設立会社が新たに法令に基づく手続きが求められるというケースです。例えば、銀行法の銀行業の免許、貸金業法の貸金業の登録などです。第3に、新規取得の場合に比べて、簡易な届出等の手続によって権利義務の承継が認められるケースです。例えば、薬事法の医薬品等の製造販売の承認(薬事法14条)などがあります。また、税法上の権利義務は私法の場合と同様に扱われます。また、刑事責任については、消滅会社の確定済みの罰金刑等に基づく金銭支払債務は存続会社に当然承継されますが、新設合併設立会社に対して新設合併消滅会社の刑事責任を追及することはできないと考えられています。

・対抗要件

合併により新設合併設立会社に権利が一般承継された場合、不動産、船舶、株式等の権利の移転に対抗要件を必要とするものについては、それぞれの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません。

ü 新設合併消滅会社の株主の収容(754条2項)

株式会社が存続会社となる吸収合併の場合、消滅会社の株主には必ずしも存続会社の株式が交付される必要はありません。存続会社に株主が存在する以上、消滅会社の株主をも当然に収容しなければならない理由はないからです。したがって、合併契約の定めに従い、存続会社の社債・新株予約権、または金銭等その他の財産のみが交付されることも認められています(748条1項2、3号)。

これに対し、株式会社が新設合併設立会社となる新設合併では、新設合併消滅会社の株主は、合併契約の定めに従い、新設合併消滅会社の株式に代えて必ず新設合併設立会社の株式を交付されます(753条1項6、7号)。新設合併設立会社が株式会社である以上、株主の存在が不可欠だからです。また、その際、新設合併設立会社の株式に加えて、新設合併設立会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債を交付することは可能です(753条1項8、9号)。その上、さらに、一方の新設合併消滅会社の株主にたいしては社債・新株予約権だけを交付し、株式は交付しないという扱い、すなわち、非株式交付消滅会社も可能とされています。

ü 合併対価の柔軟化(754条3項)

新設合併消滅株式会社の株主または新設合併消滅持分会社の社員は、新設合併設立株式会社の成立の日に、新設合併消滅株式会社の株主または新設合併消滅持分会社の社員に対する新設合併設立株式会社の社債等の割当に関する新設合併契約の定めに従い、@合併対価が新設合併設立会社の社債である場合には、新設合併設立会社の社債権者に、A合併対価が新設合併設立会社の新株予約権である場合には、新設合併設立会社の新株予約権者に、B合併対価が新設合併設立会社の新株予約権付社債である場合には、内容に従い新設合併設立会社の社債権者および新株予約権者となります(754条3項)。

 

・合併対価の割当てと株式等の交付

@)割当て・交付の手続き

存続会社が消滅会社の株主に交付する合併対価は、合併の効力発生日の前日の最終の時点における株主に対して割当てを行う旨を、合併契約で規定されることが通常です。

消滅会社が株券発行会社である場合には、株券提出手続によって消滅会社に提出された株券は消滅会社が受理した段階で株券としての効力を失い、また、消滅会社に提出されなかった株券も合併の効力発生日をもって無効となります。存続会社が株券発行会社である場合は、効力発生日以後遅滞なく、割当日の消滅会社の株主名簿上の株主に対して新たに存続会社の株券を発行することになります(215条1項)。

A)振替株式の振替口座簿の記帳手続

上場会社の株式が合併対価として交付される場合、振替株式となります。口座簿の記載手続については、各合併当事会社の株式が振替株式かどうかによって異なってきます。

ü 新設合併消滅会社の新株予約権の消滅と新株予約権者の保護(753条4、5項

・新設合併消滅会社の新株予約権の消滅(754条4項)

新設合併消滅会社の発行した新株予約権は合併の効力発生日に消滅します(753条4項)。新株予約権者は、新株予約権を発行した会社に対して権利を行使するのであるから、発行会社である新設合併消滅会社が合併により消滅すれば、その新株予約権は当然に消滅します(287条)。

・新設合併消滅会社の新株予約権者の保護(754条5項)

新株予約権は権利として何らかの価値が認められるものであるから、新設合併消滅会社の新株予約権者を保護するために、新設合併契約で、新設合併消滅会社の新株予約権者に消滅する新株予約権の代替物として新設合併設立会社の新株予約権または金銭を交付する旨を定めなければならないと定められています(753条1項10号)。新設合併消滅会社が新株予約権または新株予約権付社債を発行している場合に、新設合併契約がこの事項を記載していない場合は、合併の無効事由となります。

新設合併契約に新設合併消滅会社の新株予約権者に対し新設合併設立会社の新株予約権を交付する旨の定めがある場合には、合併の効力発生日に、新設合併消滅会社の新株予約権者は新設合併設立会社の新株予約権者になります(754条5項)。新設合併契約で存続会社が金銭を交付する定めがある場合には、合併契約の効力発生により、新設合併消滅会社の新株予約権者は新設合併設立会社に対して金銭の引渡し請求権を持つことになります。

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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