新任担当者のための会社法実務講座
第753条 株式会社を
設立する新設合併契約
 

 

Ø 株式会社を設立する新設合併契約(753条)

@二以上の会社が新設合併をする場合において、新設合併により設立する会社(以下この編において「新設合併設立会社」という。)が株式会社であるときは、新設合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 新設合併により消滅する会社(以下この編において「新設合併消滅会社」という。)の商号及び住所

二 株式会社である新設合併設立会社(以下この編において「新設合併設立株式会社」という。)の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数

三 前号に掲げるもののほか、新設合併設立株式会社の定款で定める事項

四 新設合併設立株式会社の設立時取締役の氏名

五 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める事項

イ 新設合併設立株式会社が会計参与設置会社である場合 新設合併設立株式会社の設立時会計参与の氏名又は名称

ロ 新設合併設立株式会社が監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合 新設合併設立株式会社の設立時監査役の氏名

ハ 新設合併設立株式会社が会計監査人設置会社である場合 新設合併設立株式会社の設立時会計監査人の氏名又は名称

六 新設合併設立株式会社が新設合併に際して株式会社である新設合併消滅会社(以下この編において「新設合併消滅株式会社」という。)の株主又は持分会社である新設合併消滅会社(以下この編において「新設合併消滅持分会社」という。)の社員に対して交付するその株式又は持分に代わる当該新設合併設立株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該新設合併設立株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項

七 新設合併消滅株式会社の株主(新設合併消滅株式会社を除く。)又は新設合併消滅持分会社の社員に対する前号の株式の割当てに関する事項

八 新設合併設立株式会社が新設合併に際して新設合併消滅株式会社の株主又は新設合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる当該新設合併設立株式会社の社債等を交付するときは、当該社債等についての次に掲げる事項

イ 当該社債等が新設合併設立株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ロ 当該社債等が新設合併設立株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ハ 当該社債等が新設合併設立株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項

九 前号に規定する場合には、新設合併消滅株式会社の株主(新設合併消滅株式会社を除く。)又は新設合併消滅持分会社の社員に対する同号の社債等の割当てに関する事項

十 新設合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、新設合併設立株式会社が新設合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる当該新設合併設立株式会社の新株予約権又は金銭についての次に掲げる事項

イ 当該新設合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して新設合併設立株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ロ イに規定する場合において、イの新設合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、新設合併設立株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ハ 当該新設合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額又はその算定方法

十一 前号に規定する場合には、新設合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する同号の新設合併設立株式会社の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項

A新設合併設立株式会社が監査等委員会設置会社である場合には、前項第4号に掲げる事項は、設立時監査等委員である設立時取締役とそれ以外の設立時取締役とを区別して定めなければならない。

B第1項に規定する場合において、新設合併消滅株式会社の全部又は一部が種類株式発行会社であるときは、新設合併消滅会社は、新設合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、同項第7号に掲げる事項(新設合併消滅株式会社の株主に係る事項に限る。次項において同じ。)として次に掲げる事項を定めることができる。

一 ある種類の株式の株主に対して新設合併設立株式会社の株式の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類

二 前号に掲げる事項のほか、新設合併設立株式会社の株式の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容

C第1項に規定する場合には、同項第7号に掲げる事項についての定めは、新設合併消滅株式会社の株主(新設合併消滅会社及び前項第1号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第2号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて新設合併設立株式会社の株式を交付することを内容とするものでなければならない。

D前2項の規定は、第1項第9号に掲げる事項について準用する。この場合において、前2項中「新設合併設立株式会社の株式」とあるのは、「新設合併設立株式会社の社債等」と読み替えるものとする。

 

新設合併とは、二つ以上の会社がする合併で、合併により、その当事会社はすべて解散し、その権利義務を合併により設立する会社(新設会社)に承継させるものです。

ü 合併当事会社の商号および住所(753条1項1号)

・合併契約の当事会社

合併は新設合併消滅会社の間の契約であり(748条)、合併当事会社の代表権を有する者が契約を締結することとなります。株式会社では、取締役・代表取締役・代表執行役が、持分会社では、会社を代表すべき社員が行います。株式会社については、取締役会設置会社の場合は取締役会決議を要し、取締役会設置会社以外の株式会社の場合は取締役の過半数の同意を得て、代表権を有する取締役によって締結されます。

このように、会社の代表機関が合併契約を締結することとなりますが、代表機関の行為はすなわち会社の行為であるから、新設合併の場合には、合併の当事会社として、消滅会社となる会社が新設合併契約を締結することとなります。それゆえ、合併をめぐる利害関係人への情報開示という意味から、新設合併消滅会社の商号・住所が記載事項とされています。

・合併当事会社の確定

合併契約では、当事会社の商号と住所を規定しなければなりません。住所は本店の所在地(27条3号)では足りず、本店の所在場所(911条3項3号)が記載されなければなりません。商号と住所の記載により、会社の同一性が明らかとなるからです。それぞれの会社の種類、株式会社であるか持分会社である場合には合名会社、合資会社、合同会社の別が明らかにしなければなりません。これは、それぞれの会社の商号の中で明記されます。

ü 新設合併設立会社の組織等(753条1項2〜5号)

新設合併設立会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数(753条1項2号)、定款で定める事項(753条1項3号)が定められなければなりません。

設立時取締役の氏名(753条1項4号)、そして設立株式会社が選択した機関構造に応じて、設立時会計参与の氏名(753条1項5号イ)、設立時監査役の氏名(753条1項5号ロ)、設立時会計監査人の氏名・名称(753条1項5号ハ)が記載されなければなりません。

・新設合併設立会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数(753条1項2号)

新設会社が公開会社であるときは、発行可能株式総数は、設立時発行株式数の4倍を超えてはならない(814条1項)。

・設立時取締役の氏名(753条1項4号)、設立株式会社が選択した機関構造に応じて、設立時会計参与の氏名(753条1項5号イ)、設立時監査役の氏名(753条1項5号ロ)、設立時会計監査人の氏名・名称(753条1項5号ハ)

新設合併に際して選任される役員等は、株主総会が合併契約を一括して承認するという形で選任が行われるもので、各候補者が個別に賛否が問われることは予定されていないと解され、株主総会参考書類の記載事項からしても(会社法施行規則89条4〜7号、74〜7条)、各候補者を個別に選任決議行われるとは考えられていません。

なお、設立時代表取締役は、設立時取締役が選定します(47〜8条)。

・新設会社の組織(753条1項6号)

新設会社の組織に関しては、新設合併設立会社が新設合併消滅会社の株主・社員に株式を交付する場合に、資本金および準備金の額に関する事項が記載されていなければならないとされています。

ü 合併条件─交付される対価(753条1項6、8、10号)

新設合併消滅会社の株主・社員に対して、その株式・持分に代えて新設合併設立株式会社の株式が交付されることとなりますが、その場合に、交付される株式の種類・数またはその算定方法に関する事項、およびその株式の割当てに関する事項を定めなければなりません(753条1項6、7号)。株式会社を設立する新設合併の場合、必ず新設合併設立会社の株式を交付しなければなりませんが、それに加えて、新設合併設立会社の社債を交付する場合には、社債の種類、種類ごとの合計額または算定方法、新株予約権を交付する場合には、新株予約権の内容及び数または算定方法、新株予約権付社債を交付する場合には、社債の種類、種類ごとの合計額または算定方法に加えて、新株予約権の内容及び数または算定方法を定めることになります(753条1項8、9号)。金銭や存続会社の親会社の株式等も消滅会社の株主に対する合併対価として認められている吸収合併の場合とは異なり、新設合併の場合には、社債、新株予約権、新株予約権付社債のみ追加的な合併単価となります(753条1項8号)。新設合併設立会社には他に交付できる財産がないと考えられたためです。

また、新設合併設立会社が株式会社であり、新設合併消滅会社の一部または全部が種類株式発行会社である場合、新設合併設立会社が新設合併消滅会社の株主に交付する対価について、新設合併消滅会社が発行する種類の株式の内容に応じ、ある種類の株式の株主には新設合併設立会社の株式は割り当てないこととすることも含め、新設合併設立会社の株式の割当てについて、株式の種類ごとに異なる取扱いをする旨および異なる取扱いを定めなくてはならない(753条2〜4項)とされました。

・新設会社の株式(753条1項6号)

合併に際して消滅会社の株主に対して新設会社の株式を交付するときは、その株式の数(新設会社か種類株式株式会社の場合には、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法を定めなければなりません。

「当該株式の数」は、新設合併を実行する際に、新設会社が消滅会社の株主に対して交付する株式の総数のことです。「算定方法」とは、例えば消滅会社から承継する純資産の額を1億円と定め、交付する株式の数については、1億円を存続会社の株式の時価で除した数とする、ただし、合併契約が株主総会で承認された日の前日の取引所の終値を株式の時価とする、というような定め方です。

消滅会社に対して行われる株式買取請求の効力は、合併の効力発生日に生ずる(786条5項)ので、株式買取請求の対象となっている株式については、消滅会社が消滅し、対象となっている株式が消滅する直前(合併の効力発生の直前)に消滅会社による買取の効果が発生することとなるので、合併対価の算定の際には除外することとなります。

実務上は、株主名簿に言及して株式数を算定するという書き方が一般的です。

この事例のように総株式数の算定による場合は、消滅会社の株式数に一定の比率を乗じる形をとるのが一般的です。この場合に、比率を乗じて得た数について、端数が生じる場合は、「1に満たない数は切り捨てる」と付記する場合があります。この場合会社法234条1項の括弧書で端数は切り捨てと規定されているので、この付記は不要です。

・存続会社の資本金および準備金に関する事項(753条1項6号)

合併の対価として新設会社の株式を交付する場合は、存続会社の資本金および準備金の額に関する事項を定めなければなりません。この場合に資本金および準備金として計上すべき額については会社計算規則35条および36条に規定があります。

他方、その他資本準備金およびその他利益剰余金に関する事項を定める必要はありません。これは、資本金、資本準備金および利益準備金の変動額が定まれば、その他資本準備金およびその他利益剰余金の変動額は一義的に定まるからです。

・新設会社の社債(753条1項8号)

合併に際して消滅会社の株主に対して、新設会社の社債を交付することができます。その場合、社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法を、合併契約書に記載しなければなりません(753条1項8号)。この「社債の種類」については、744条1項5号イ、107条2項2号ロ、681条1号の規定により会社法施行規則165条に掲げる事項が社債の種類とされています。また、「社債の種類ごとの各社債の金額の合計額」は、社債原簿に記載されるべき種類ごとの社債の金額の対価として交付される合計額です(681条2項)。なお、この定めは消滅会社の株主に交付する社債の総体についての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかについては749条1項3号に定められています。

実務では、社債を合併対価として用いる場合、合併契約の別紙で、社債の条件を規定します。

・新設会社の新株予約権(753条1項10号)

消滅会社が新株予約権を発行している場合には、新株予約権者には、その新株予約権に代えて、新設会社の新株予約権、新株予約権付社債または金銭を交付することとなりますが、その場合、内容および数またはその算定方法を合併契約に記載しなければなりません(753条1項10号)。「新株予約権の内容」とは、会社法236条1項各号に掲げられている事項を意味しますが、排他的にこれだけと限定しているわけではありません。また、「新株予約権の数」については、具体的な数が記載それないときには、その数の算定方法として新株予約権の数を正確に算出できる数式を合併契約に記載されなければなりません。なお。この規定は消滅会社の株主に交付する新株予約権の総体としての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかは、別途749条1項3号として定められています。

ü 合併条件─割当比率(753条1項7、9、11号)

新設合併消滅会社が交付する株式・社債等を、新設合併消滅会社の株主・新株予約権者・社員に対して、どのように割り当てるかを定めなくてはなりません(753条1項7、9号)。原則的には、株主平等の原則により、新設合併消滅会社の株式1株について新設合併設立会社のいかなる種類の株式を何株割り当てるかといったように機械的に定まることになります(753条3、4項)。この点、新設合併設立会社の株式を新設合併消滅会社の株主等に対し、機械的に持株数に比例して割り当てると、各株主に交付する株式数に端数が生じてしまい、競売による処理が必要となります(234条1項)。そこで、新設合併の場合には、社債等を交付することにより、その調整を図ることとしています(753条1項8号)。新設合併の場合、金銭等は原則として合併対価として認められているからです(753条1項8号)。

合併条件の不公正それ自体は合併の無効原因にはならず、株式買取請求権・新株予約権買取請求権の対象となるにすぎません。また、合併条件が不公正であったとしても、新設合併消滅会社の株主・新株予約権者に対して新設合併設立会社の株式・新株予約権が交付されるかぎり、それらの株主・新株予約権者の損害は認められるにしても、会社に損害が発生するものではないので、株主が代表訴訟により取締役の責任を追及することはできないとされています。

・割当比率(合併比率)

合併対価を各株主にどのように割り当てるかとういうのは、消滅会社の株式1株について交付される合併対価の内容および数・額・量が合併契約に定められるということで、これを割当比率または合併比率といいます。

割合比率が消滅会社の株主にとって重要であることは言うまでもありません。

※合併対価の割当を受けない者

損沿合併存続会社は原則として消滅会社の株主に合併対価を交付しなければなりませんが、消滅会社が自己株式を保養している場合、そして存続会社が消滅会社の株式を保有している場合、これらの株式については合併対価を交付してはならないとされています(753条1項7号括弧書)。

※合併対価の割当の基準時

新設会社の合併対価の割当てを受けるべき消滅会社の株主は、どの時点の株主か特定する必要があります。それが基準時です。割当てされる基準時に株主名簿に記載されている株主に対して合併対価を割り当てるということになります。実務上は合併契約書に合併の効力発生日またはその前日における株主と合併契約に記載されることが多いようです。

・種類株式の場合の特則

吸収合併に際して、合併消滅会社が種類株式発行会社である場合には、種類株式の内容に応じて、ある種類の株式の株主に対しては対価の割当をしないこととすること、また、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いをすることが許容されています(753条2項、3項)。例えば、消滅会社が優先株式と普通株式を発行している場合、優先株の株主に対しては合併対価の割当てをしないというケースです。

吸収合併に際して存続会社が消滅会社の種類株主に交付する金額等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨および異なる取扱いの内容を、合併契約で定めなければなりません(753条2項)。また、異なる種類株式について、それぞれの評価価値が異なる場合は、合併対価がその内容または数、量、額において当然異なってきます。

・株主平等の原則

吸収合併契約における合併対価の定めは、原則として、消滅会社の株主の有する株式の数に応じて交付することをないようとするものでなければならない(753条3項)とされています。これは、新設会社は、消滅会社の株主に対して、株主平等の原則に従って、合併対価を交付しなければならないと言っているのと同じです。

合併対価の割当ての定め方は、消滅会社の株主の有する株式の数に応じて金銭等を交付する内容でなければならないことは、合併対価の内容および価値の両方の面で求められています。したがって、存続会社のA種類株式とB種類株式の価値がたまたま等しくても、消滅会社の株主Cに新設会社のA種類株式1株、消滅会社の株主Dには新設会社のB種類株式1株を交付するという定め方は認められません。

合併契約に上記のような株主平等の原則に反する定めをした場合、原則として合併無効事由となりますが、消滅会社の株主の全員の同意がある場合には合併無効事由にはなりません。

※株主平等の原則の例外

株式会社の株主が消滅会社の株主である場合(自己株式)には、その株式には合併対価が割り当てられません。したがって、これらの者には株主平等の原則の適用はありません。

に合併対価を交付しなければなりませんが、消滅会社が自己株式を保養している場合、そして存続会社が消滅会社の株式を保有している場合、これらの株式については合併対価を交付してはならないとされています(753条1項7号括弧書)。

・合併比率公正の原則

新設会社が消滅会社の株主に交付する合併対価は、消滅会社の株主が有する株式の経済的価値に応じて公正に定められなければならないという考え方、言い換えると、消滅会社の株式の価値と交付される合併対価の価値とがある程度等しく定められなければならないとする考え方を合併比率公正の原則と言います。

ü 任意的記載事項

合併契約では、会社法で規定されている法定記載事項以外の事項についても記載される事項があります。それが任意的記載事項です。合併の本質や法令の強行規定に反しない限り、その内容は有効となります。代表的な事項について、以下で見ていくことにします。

・株主総会の期日

合併契約において、その合併契約を承認するための株主総会を開催する時期を規定するケースは少なくありません。

これは旧商法で、株主総会の期日が合併契約の必要的記載事項とされていたことの名残です。ただし、合併契約で規定された効力発生日が到来しても、合併当事会社のいずれかの会社で合併契約の承認決議が終わっていなければ、合併の効力は生じません。したがって、当事会社の一方で合併契約を承認する株主総会の開催が遅れることは、もう一方の当事会社にとっては大きな迷惑となり、場合によっては損害が発生することもありえます。そこで、合併契約において株主総会の期日を規定することがあるのです。

・財産承継

合併により承継する財産について、合併契約で規定することは、実務上多く見られる。

効力発生日に消滅会社のすべての権利義務は新設会社に承継される(754条1項)ので、合併契約書で承継する権利義務の範囲を定めることはできません。しかし、実務上では多く見られる条項であり、設けることで害となるものでもありません。

・善管注意義務

合併比率等の合併の条件は、原則として、合併契約の締結時または株主総会による承認時の当事会社の財産状態をもとに定められています。仮に、その後効力発生日に至るまでに当事会社の財産状態が大きく変化したりすれば、当初定めた合併条件を見直す必要が生じてしまう可能性があります。そのような事態の発生をできるかぎり避けるために、合併契約の締結時がら効力発生日までの間、当事会社がン会社財産および会社経営について善管注意義務を負うと定めることは、実務上、少なくありません。

・剰余金の配当および中間配当

これは旧商法において、利益の配当額および中間配当額の上限を決めることが合併契約の必要的記載事項とされてきたことの名残です。

このような事項を合併契に規定していたのは、配当ということは、合併当時会社から財産が流出する行為であり、資産総額の減少をもたらし、ひいては合併対価の定め方や合併比率に影響を及ぼす可能性があるものである。また、例えば、定時株主総会の前に合併契約を締結し、定時株主総会でその契約を承認するスケジュールで合併を行い場合、同じ総会で配当額が決められる、というように確実に発生するものです。そこで、配当額の上限を合併契約で決めて、財産の流出を抑えようとするものです。しかし、同じように合併比率に影響を与える行為は、剰余金の配当だけでなく自己株式の取得などいくつかあります。

剰余金の配当額の上限の規定は前記の善管注意義務の条項に対する例外規定としての意味があると言えます。当事会社の財産状況に大きな影響を与える行為について、あらかじめ当事者が合意するということで規制するということになります。そのため、善管注意義務の規定とセットで合併契約に置いているのが一般的です。

・合併により退任する当事会社の役員の退職慰労金

新設合併が実行される場合、通常、消滅会社の取締役等は終任となります。このとき、消滅会社が終任となる取締役等に支払う退職慰労金は、その職務の執行対価としての性質を有するものであるかぎり、株主総会の決議に基づくものでなければなりません。しかし、退職慰労金の金額が多額となるときは、会社からの財産の流出となり、合併比率に影響を及ぼす可能性が生じます。そこで、配当金の上限を合併契約で決める場合と同じように、合併契約に規定を設ける場合もあります。ただし、退職慰労金を株主総会で決議する場合にでも、上限を明示しないのが通常なので、合併契約では、協議・合意に基づき額を定めるという形の規定になると考えられます。

・消滅会社の従業員の処遇に関する事項

合併の効果として、消滅会社のすべての権利義務は新設会社に承継される(754条)ので、従業員のとの労働契約関係も、従業員の承諾なく、存続会社に承継されます。この労働契約が承継されるということは、消滅会社の従業員の労働条件が消滅会社のときのまま、存続会社に引き継がれるということです。存続会社の労働条件に転換されるということではありません。それゆえ、合併の効力発生日までの間、および効力発生後も継続して、存続会社の労働条件と、消滅会社から承継された労働条件とを調整することが必要となります。

・合併契約の解除・変更

合併契約を締結した際に前提としていた状況が効力発生日に至るまでの間に変化してしまった場合には、そのまま、合併の効力を発生させてしまうことは、当事会社の意思に反することとなってしまう。この点、変化した状況によっては、一方の当事者にとってはそのままの合併比率で合併することは問題とはならないが、他方の当事者には問題であるという事態も起こり得ます。この点への対応として、合併契約の解除に関する条項を規定することが考えられます。例えば、天災地変その他の事由により合併当事会社のいずれの財産に著しい変動が生じた場合を条件として契約を解除できるという内容の条項を合併契約にもうけるということです。しかし、「その他の事由」の範囲は曖昧であるし、「財産に著しい変動」は判断が介在することとなるので、このような条項が契約にあったとしても、株主総会の承認を得ずに取締役会の限りで解除の決定をすることが適当て言えるかは問題があるという考えがあります。

実務では、実際に何らかの事象が生じた後に協議を行うという程度の規定を設けているケースが多いようです。

また、合併契約の変更の場合も、同じように考えられます。

 

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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