新任担当者のための会社法実務講座
第4章.機関 
第5節.取締役会
 

 

第4章.機関

第5節.取締役会

第1款.権限等

Ø 取締役会の権限等(362条)

@取締役会は、すべての取締役で組織する。

A取締役会は、次に掲げる職務を行う。

一 取締役会設置会社の業務執行の決定

二 取締役の職務の執行の監督

三 代表取締役の選定及び解職

B取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。

C取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

一 重要な財産の処分及び譲受け

二 多額の借財

三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

五 第676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

七 第426条第1項の規定による定款の定めに基づく第423条第1項の責任の免除

D大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。

取締役会は、株式会社の取締役全員で構成される会議体です(362条1項)。公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会など設置会社では、必ず設置することを求められています(327条1項)。

取締役会は、業務執行に関する意思決定機関であり、また同時に業務執行に関する監督機関でもあります。取締役会が業務執行に関する意思決定機関であるという事は、株主総会の招集、株式や社債の発行、会社財産の処分、営業所の設置、組織再編等の業務執行に関する決定を取締役会が行うということです。この決定を実行するのは業務執行機関である代表取締役ないし業務執行取締役です。取締役会の、このような権限に関連して、取締役会が業務執行機関である代表取締役に対して、どの範囲で業務執行に関する意思決定を委ねることができるかが問題となります。一方では、業務執行に関する意思決定権が取締役会にあるといっても、日々の営業取引等の日常の業務執行についてまですべて取締役会が決定しなければならないというのでは、取締役会が会議体であることからいっても煩雑であり、またそのような事項の決定は代表取締役に委ねても弊害はない。しかし、他方で、どんな事項でも代表取締役に委ねてもよいということになると、代表取締役の権限が強くなりすぎて、専横的になってしまう可能性が生じ、取締役会による業務執行の監督機能が働かなくなるおそれがあります。そこで、会社法は特定の重要事項の決定については取締役会で決定しなければならないとしています。それが昭和56年の商法改正で明文化されました。なお、これらの取締役会で決議すべき事項は、必ず法定の要件を満たした自身の決議で決定しなければなりません。

ü 取締役会設置会社の業務執行の決定(362条2項1号)

取締役会は、法令または定款で株主総会の決議事項とされているもの(295条2項)を除く、会社の業務執行について決定する権限を有しています。また、会社法や定款で定められた以外の事項は、取締役会の定める規則(取締役会規則)や個別決議により、代表取締役やそれ以外のの業務執行取締役等に委任することができます。

一方、362条4項で列記されている事項その他の重要な業務執行の決定については、取締役会の専権事項となっており、たとえ定款で規定したとしても、代表取締役等に委任することはできないとされています。これは当該事項については、取締役全員の協議により、適切な意思決定が為されることを期待されているためです。

以下で、その代表取締役等に委任できない重要事項について検討していってみたいと思います。

@重要な財産の処分および譲受け(362条4項1号)

「重要な財産」とは会社の所有する不動産、動産、生産設備、金銭、有価証券、知的財産権等です。また、その「処分および譲受け」は広い概念であって、例えば、「処分」は譲渡、賃貸、担保設定、貸付、出資、寄付、債務免除、債権放棄、廃棄等が該当し、「譲受け」は設備投資、財産の賃借、知的財産権の使用契約などが含まれます。また、事業の譲渡および譲受けについても、重要な財産の処分および譲受けに含まれるとされますが、事業の全部または重要な一部の譲渡や全部の譲受けは株主総会の決議事項となります(467条1項)。

重要な財産の処分に当たるかどうかは、「当該財産の価額、会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様、従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきもの」として、保有株式を譲渡した際に、その株式の帳簿価額が会社の総資産の1.6%に相当し、また、その株式の譲渡は営業のため通常行われる取引に属さないとして、重要な財産の処分に当たるとした最高裁判決(平成6年1月20日)があります。これを受けて、保有総資産の1%に相当する額程度と、社内の取締役会規則や付議事項などの基準としている会社も少なくありません。

※「重要」や「多額」の判断

取締役会で決定すべき事項の中に「重要」とか「多額」という形容が付されていますが、そうでない普通の場合とを区分する基準は規定されていません。その基準は相対的なもので、すべての会社に共通の画一的基準があるわけではありません。会社の規模、業種、また取引に関係する事項であれば取引の種類または取引の相手方等により、具体的個別的に判断することになります。例えば、同じ1億円の取引であっても、大規模会社から重要な財産の処分または譲受けに含まれないのに、小規模会社なら含まれるとか、同じ1億円の貸付でも、貸付を営業の通常の過程でしている金融業者がする場合には重要な財産の処分に含まれないが、金融業者以外がする場合にはそれに含まれる可能性があります。また、取引の相手方が、子会社か、関連会社か、あるいは海外企業か、さらには経営成績の悪化している企業か等によっても異なってきます。取締役会で決定すべき事項かどうかは、これらの基準のもとに客観的に決められるものであって、客観的に見てそれに該当するにもかかわらず、取締役会に付議しないで行為をした取締役は法令違反の責任を負わされることになります。多くの会社では、取締役会規則、あるいは取締役会に付議する基準(付議基準)をあらかじめ定めています。これらは絶対的意味をもつものではなく、付議事項とされていなかったものでも、客観的に見て取締役会で決すべきものと判断されるときは、取締役会に付議しなければ、法令違反の責任を負うことになります。付議事項が善良なる管理者の注意をもって適切に決められたものである以上は、それによって行動した場合はには、法令違反の責任を問われることはないということになります。ただし、善管注意義務を満たしているかどうか基準も絶対的ではないわけですが。

また、財産の種類、処分及び譲受けの態様について質的な側面は個別に見ていくと、例えば、次のように考えられます。

ア.会社の日常類型的反復的な業務執行行為(棚卸資産の販売、原材料の仕入れ等)については、原則的には重要な財産の処分に該当しませんが、次のような場合は、重要な財産の処分に当たると考えられます。

a.従来の取引と異なり、特定の相手方に対して短期間に多量の商品を販売する場合には、売買条件、債権回収の安全性、市場に与える影響等から重要な財産処分にあたる可能性があります。

b.販売戦略などの理由で従来の取引とは異なる価格設定(赤字を含めた大幅な値引き)などの異例な取引によるリスクが業績に多大な影響を与えると予想される場合

c.不動産会社における棚卸商品としての不動産の譲渡の場合にも、特定の相手方に対して多数の不動産を一括して売却するような場合

イ.不動産については、量的な重要性の目安に加えて、当該不動産が営業上の拠点となりうるか、本社屋などのように会社組織上重要なものであるか、などの質的な重要性を勘案される。

ウ.有価証券については、資金運用であるか投資か、発行会社との関係、発行済みの有価証券に対する取得する有価証券の比率などを勘案して重要性が判断されます。

エ.知的財産権については、会社の営業上必要なものであるか否かが勘案されることになります。

オ.債務担保設定については、自社債務か否か、担保の目的物、形態などが勘案されることになります。

カ.貸付については、貸付先との関係、貸付先の財産状態などが勘案されることになります。

キ.出資については、出資の状況、出資比率、他の出資者の状況などが勘案されます。

ク.寄付金については、相手先、金額、支払時期、方法等が勘案されます。

ケ.債務免除については、債務の種類、免除の理由、相手方の状況などが勘案されます。

これらのように、重要性の質的側面が高くなれば、金額が低額でも重要となり、質的な重要度が低ければ金額の基準は高くなると考えられます。

A多額の借財(362条4項2号)

「多額」の基準については、経営への影響の観点から各社で判断ということになりますが、「借財」とは、会社における金銭債務の負担であり、金融機関などからの借入、債務保証、リース契約、手形割引等をさします。

B支配人その他の重要な使用人の選任及び解任(362条4項3号)

「支配人」とは、名称にかかわらず、会社の事業に関する包括的代理権を与えられた者を指します。また、「重要な使用人」とは、支配人及びそれに準ずる重要性を有する使用人を指し、一般的には役員を除いた各部門の最高位の使用人、さらに具体的には本社部門の部長職や支店長、所長、工場長等、一定以上の決裁権限を有する者と言えます。この場合も、各企業では取締役会規則や付議事項において、社内の役職位について取締役会で決定するものを規定しているところが多いようです。

C支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(362条4項4号)

「支店」とは、930条に基づく登記がされているものに加え、名称に関わらず、独立的に営業活動を継続することができる組織と施設を備えている拠点を指します。また、「重要な組織」とは、その組織の設置、変更及び廃止が会社の経営に与える影響度を基として、事業部や生産工場、研究所等が該当します。さらに、「変更」とは移転、統合、分割等を指します。

D社債の発行(362条4項5号)

「重要な事項」とは会社法施行規則99条に定める、2以上の募集に係る総額等の事項の決定の委任、募集総額の上限、募集社債の利率に関する事項の要綱、募集社債の払込金額に関する事項の要綱で、これらに加えてそれらの前提として社債発行の目的や必要性も含まれます。

E取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(362条4項6号)

 

F定款の定めに基づく取締役等の損害賠償責任の免除(362条4項7号)

取締役の損害賠償責任の一部を定款に規定することによって、取締役会の決議で、一定限度の枠内で免除するという426条1項に基づく決議です。

Gその他重要な業務執行(362条4項)

「重要な業務執行」とは、会社経営のための事務処理のうち、会社に重大な影響を与える事項であると考えられ、経営戦略や事業計画の策定、予算の決定、業務提携や新規事業への進出、人員整理、あるいは重大な訴訟の提起や和解等が含まれています。しかし、「重要な」というのは抽象的・相対的な概念であるため、取締役会に決定を委ねる(=取締役会に議案を付議する)都度、個々の付議者が判断するのでは一貫性に欠け、また恣意的になるおそれもあります。実際には、各会社の実情に応じた客観的な基準について、取締役会規則や取締役会付議事項等の社内規程によって定められているのが一般的です。これは万一訴訟等になった場合への対策としても有効です。

なお、取締役会は「重要な業務執行」について、基本的部分を決定する必要はありますが、その範囲内における具体的方法、細目の決定については、代表取締役等に委任することは可能とされています。

H362条4項に定める以外の取締役会の専決事項

362条4項以外にも、会社法等で特に取締役会の決議を要すると定めた事項があります。これらも代表取締役や取締役に委任することはできません。代表的なものを以下に列挙します。

a)譲渡制限株式・譲渡制限新株予約権の譲渡承認など(139条1項、140条5項、265条1項)

b)時株式の取得価格等の決定(157条2項)、子会社からの自己株式の取得(163条)、市場取引等による自己株式の取得(165条3項)

c)取得条項付株式の取得(168条1項)

d)特別支配株主の株式等売渡請求の承認等(179条の3、179条の6)

e)株式の分割(183条2項)、株式無償割当(186条3項)

f)所在不明株主の株式の競売等(197条4項)

g)公開会社における募集株式・新株予約権の募集事項の決定等(201条1項、202条3項、204条2項、240条1項、241条3項、243条2項)

h)株式を振替制度の取扱い対象とすることへの同意(社債株式振替法128条2項)

i)株主総会の招集の決定(298条4項、325条)

j)代表取締役の選定(362条2項)

k)監査役設置会社以外における取締役・会社間の訴訟の会社代表者の決定(364条)

l)取締役の競業取引・利益相反取引の承認(365条1項)

m)計算書類・事業報告・附属明細書の承認(436条3項)

n)株式の発行と同時に行う資本金・準備金の額の減少(447条3項、448条3項)

o)中間配当(454条5項)

p)会計監査人設置会社・取締役の任期が1年等の要件を満たす会社における剰余金の配当(459条1項)

※取締役会の決議を欠いた行為の効力

ア.取引行為

A会社の代表取締役甲が、取締役会で決議すべき事項について、その決議を経ないで第三者Bと行為した場合(瑕疵ある決議をした場合も同様)に、その行為の効力がどうなるかについて、判例は、取締役会決議を欠いた重要財産の処分行為について、原則として有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときは無効であるとしています(最高裁昭和40年9月22日)。この基準によれば、過失(軽過失)のある相手方が保護されない点で、349条5項が適用された場合と結果が異なってきます。

イ.その他の行為

代表取締役が取締役会の決議に寄らないで募集新株の発行・社債の募集のように取引の安全を強く要請されるようなことを行った場合、決議を欠いても無効事由とならないされています。他方で、取締役会の決議なしに株主総会の招集は決議取消事由となります。このように適法な決議によらない代表取締役の行為の効果は区々であるので、一つ一つ別個に考えていかなければなりません。

ü 取締役の職務の監督(362条2項2号)

取締役会は、業務執行に関する意思決定を為すだけで、業務執行は代表取締役やそれ以外の行執行取締役(及びその指揮下の使用人)が行います(363条1項)。取締役会は、これら取締役の職務の執行、つまり取締役会において決定した事項や代表取締役・業務執行取締役に委任された業務が適切になされているか(不当な職務執行等に対する予防的な監督を含む)を監督し(362条2項2号)、不適正認めた場合にはそれらの者を解職しなければなりません(362条2項3号、363条1項2号)。

この場合の「職務の執行」とは、具体的事業活動について関与する業務執行に加え、取締役による業務の監督や取締役会における意思決定も含まれます、また、監督対象となる取締役は代表取締役や業務担当取締役に限定されず、また役付けの有無に関係なく、すべての取締役が該当します。一方、「監督」とは、監督する者が監督される者(業務執行者)の業績を評価することにより、経営の効率を確保することと考えられます。これは単に取締役個々の意思決定や業務戦略の妥当性を審査することではなく、取締役会全体がひとつの組織として機能しているかを評価されることであるとされています。

なお、取締役会による業務執行の監督は、直接的には代表取締役・業務執行取締役が対象ですが、実際の業務執行はこれらの指揮監督を受けた使用人等か行うため、会社の事業全体に及ぶものとなります。

@具体的方法

a)取締役会への報告義務

取締役会は、業務の執行計画や実施状況の監督を行う場合、代表取締役及び業務担当取締役に対して必要な報告や資料の提示・提出等を求めることとなります。そのため、代表取締役及び業務多寡等取締役に対し、3ヶ月に1回以上、職務執行の状況を取締役会に報告することを要求(363条2項)し、当該取締役会の開催は、書面または電磁的方法による取締役会開催の同意(370条)があっても省略できないものとされています(372条2項)。これは取締役による監督が、形式的なものではなく、取締役会という会議体の中で実質的に行なわれなければならないことを意味します。取締役会では、この報告や提出された資料等を審議検討し、その適否を判断します。適否の判断に際しては、監査役のほか、会計監査人の意見を聴取することや、社内外の専門家の意見を聴取することも認められています。以上の業務執行の監督を通じて、代表取締役または業務担当取締役について是正すべき事項がある場合には、適宜の指摘か行われ、これへの対応が適切でない場合には、取締役会は、当該代表取締役を解職することができます(362条2項3号)。なお、業務担当取締役についても同様に考えられます(363条1項2号)。

※取締役の監督義務

取締役会を構成する各取締役は、取締役会における調査・検討・審議・判断という過程において、会社に対する善管注意義務を確実に履行しなければならない。加えて、その履行が適正であるかについての監督義務を負う、という最高裁の判断が出ています(最高裁昭和48年5月22日)。

取締役会は会社の業務執行を監督する機能を有するため、取締役会を構成する取締役は、取締役会に上程された事柄だけでなく、代表取締役の業務執行全般を監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする責務を有する(366条1項、2項)と言えます。このように、取締役は、業務の適正を確保するため、取締役会の構成員として、監視機能に基づき必要な手段を講じなければなりません。

〔参考〕取締役会の監督権限と監査役監査権限

取締役会は、会社の経営方針・業務執行に関する決定機関であるとともに、その経営方針・業務執行の実践を確保するための監督を行なわなければなりません。したがって、取締役会の監督権限は、業務執行が経営方針に合致しているかどうかを確認することを目的とし、職務執行の適法性にとどまらず、その妥当性に及ぶことから、積極的かつ前向きの監督をするという性格を帯びています。

これに対して、監査役による業務監査は、原則として業務執行の適法性の監査に限られ、相当でない事項または著しく不当な事項を指摘するというものです。したがって、監査役の監査権限は、取締役の行為や取締役会決議の適法性を確保することが目的となるので、消極的かつ防止的な監査をするという性格を帯びています。

これら取締役会による監督権限と監査役の監査権限は、対立するものではなく、健全な会社業務の維持、コーポレートガバナンスの確保を促進する上で相互に補完・関連するするところがあります。

b)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(内部統制システム)

大会社の取締役会は、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務及び当該会社・子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制、いわゆる内部統制システムを整備し運営することによって監督を行います(362条5項)。

上場会社などの大会社の現状では、取締役会による取締役の業務執行の監督は容易でなく、取締役各人の能力に期待するだけでなく、取締役会において判断するために必要な情報が提供され、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保する内部統制システムが必要と考えられるようになりました。会社法及び関係法令では、大会社及び監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社についていわゆる内部統制システムの構築を取締役会の義務としています(348条3項4号及び4項、会社法施行規則100条102条)。決定の内容及び運用状況は、事業報告に記載されることにより開示され(会社法施行規則118条2号)、その相当性が監査役による監査の対象となります(会社法施行規則129条1項5号)。法務省令で求められている内容は次のとおりです。

(1)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

(2)取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制

(3)損失の危険の管理に対する規程その他の体制

(4)取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

(5)使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

(6)当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

(7)監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用に関する事項

(8)前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項

(9)取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他監査役への報告に関する体制

(10)その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

※内部統制システム

内部統制システムは1920年頃からアメリカを中心に広まった概念で、当初は財務報告の信頼性確保の前提として、会計監査人が会計監査を行うために必要とした内部牽制のシステムでしたが、次第に、経営者が使用人の業務の効率性・有効性・遵法(コンプライアンス)を監視するシステムの意味合いを強め、現在では、経営者自身を監視するシステムの意味でその語が用いられることもあります。我が国の会社法では、経営者の監督体制を含めた意味で用いられます。

c)社外取締役による監督

社外役員である社外取締役、社外監査役は、いずれも、会社及び子会社において直前に取締役・使用人等ではなかった者であり、外部の視点から職務執行の監督を行うことのできる立場にあります。以下で、取締役会の構成員である社外取締役による監督機能について考えてみたいと思います。

会社法上、監査役会設置会社において社外取締役の選任は義務付けられていませんが、強く推奨されている(327条の2)ことから、会社それぞれの事情に基づいて、社外取締役を選任しています。社外取締役に期待され役割として次の点があげられます。

・透明性の確保

取締役会において社内取締役から一定の距離のある外部者を加えることにより、外部者への説明を通じて、業務執行の透明性を確保することができる。

・助言機能

社外取締役の持つ職歴や経験、知識その他外部者の立場から、経営に対する大局的な観点からの助言を受けることができます。

・監督機能等

経営者の評価・選解任その他取締役会における重要事項の決定に際して議決権を行使することによる「業務改善全般への監督機能と、会社と経営者との間の「利益相反を監督する機能」とを向上させることができます。

ü 代表取締役の選任及び解職(362条2項3号)

取締役会は、その開催に取締役による招集を要するという性格上、日常的に開催されるものではありません。これを補完するため、取締役会は、日々の業務遂行を委任する(363条1項)ための常設機関として取締役の中から代表取締役を選定する義務があり(362条3項)日常の業務執行を委任します(363条1項)。代表取締役の員数に制限はなく、数名とするのが通例です。

また、取締役会はその決議により代表取締役を解職する権限を有し、解職決議により代表取締役の地位が剥奪された場合は、当人への告知なしにその効力が生じます(最高裁判決昭和41年12月20日)。

なお、実務上は、代表取締役選定の際に、その対象となる代表取締役候補者は特別利害関係人(369条2項)に当たらず、この選定議題に関する取締役会の議決に加わることができるのに対して、代表取締役の解職に際しては、その対象となる代表取締役は特別利害関係人に該当し、解職議題に関する取締役会の議決には加わることができないとされています。この違いについては、一般的に、代表取締役の選定について候補者自身が議決権を行使することは、業務執行の決定への参加に他ならず、特別利害関係には当たらないと解されているからです。

ü 指名委員会等設置会社の取締役会の特則(362条2項3号)

指名委員会等設置会社における取締役会は、取締役会が選任した執行役に業務執行をの決定を大幅に委任することができます。監査役会設置会社のようは場合は、業務執行の決定の多くを取締役会が行わなければならず、しかも取締役会が通常は多人数で組織されているため迅速な業務執行の決定が難しいのです。指名等委員会設置会社は、さらに、執行役が業務執行を決定する方法は法定されていないので、機動的な決定が期待できると考えられています。これにより、取締役会は、主に監督機関の役割を担い、実効的な監督を行うことが想定されており、各委員会の過半数が社外取締役であることが求められています。この委員会が強い権限を有する制度です。

指名委員会等設置会社の取締役会は監査役会設置会社の場合と同様に業務執行との決定と職務執行の監督の権限を有していますが、業務執行の決定について特有の規定がなされています。

@指名委員会等設置会社の業務執行の決定

監査役会設置会社と同様に、会社の業務執行のすべてについて決定する権限を有しています(416条1項1号)が、機動的な意思決定を行うことができるようにしたことが指名委員会等設置会社の主な特徴ですから、取締役会決議により業務執行の決定を執行役への大幅な委任ができるようになっています。

そこで、執行役への委任が認められず取締役会が決定しなければならない事項は、次のとおりです(416条2項、4項)。

a)経営の基本方針(416条1項1号イ)

取締役会・執行役が業務を決定死、取締役会が取締役・執行役の職務の執行を監督(評価)する際の基本方針であり、中長期計画等がこれに該当します。

b)重要な業務執行組織等に係る事項

・執行役の選任・解任(402条2項、403条1項、416条4項9号)

・執行役の職務の分掌・指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項(416条1項1号ハ)

・代表執行役の選定・解職(420条1項・2項、416条4項11号)

・各委員会を組織する取締役の選定・解職(400条2項、401条1項、416条4項8号)

c)内部統制システムに係る事項

指名委員会等設置会社においては、監査委員会は、内部統制部門を通じて取締役・執行役の職務執行の監査を行います。そのため、取締役会は次の事項を決定しなければなりません。

・監査委員会の当該職務の執行のため必要な事項(416条1項1号ロ、会社法施行規則112条1項)

・執行役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務及びその会社・子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な事項(416条1項1号ホ、会社法施行規則112条2項)

d)定款授権がある場合の自己株式買受に係る事項

定款で市場取引等により自己株式を取得することを取締役会に授権している場合(165条2項、3項)における取得株式の種類・数・取得価額の決定(416条4項2号)

e)株主総会係る事項

株主総会の招集の決定(416条4項4号、298条1項)

株主総会に提出する議案の決定(416条4項5号)

f)計算書類の承認(416条4項13号、436条3項、441条3項、444条5項、459条1項)

g)中間配当の決定(416条4項14号、454条5項)

h)会社の組織再編行為に係る事項

・事業譲渡等(416条4項15号、467条1項)

・合併(416条4項16号)

・吸収分割(416条4項17号)

・新設分割(416条4項18号)

・株式交換(416条4項19号)

・株式移転(416条4項20項)

i)利益相反取引等の承認等・責任の一部免除

取締役・執行役の、競業・利益相反取引の承認(416条4項6号、356条1項)、

責任の一部免除の決定(416条4項12号、426条1項)

j)その他

・会社・監査委員会間の訴訟において会社を代表する者の決定(416条4項10号、408条1項1号)

・取締役の招集権者の決定(416条4項7号、366条1項但し書き)

・譲渡制限株式・新株予約権の譲渡承認(416条4項1号・3号)

以上の指名委員会等設置会社の取締役会の専決事項に対して、一般の取締役会の決定を要する事項の中で指名委員会等設置会社では執行役に決定を委任できる事項は次のとおりです。

a)重要な財産の処分・譲受け(361条4項1号)

b)多額の借財(361条4項2号)

c)重要な使用人の選任・重要な組織の設置等(361条4項3号・4号)

d)要綱を定款で定めた種類株式の内容の決定(108条3項)

e)自己株式の取得価額等の決定・子会社からの取得(157条、163条)

f)取得条項付株式の取得(168条1項)

g)株式の分割・株式無償割当(183条、185条)

h)所在不明株主の株式の競売等(197条4項)

i)公開会社における募集株式・新株予約権の募集事項の決定(201条1項、240条1項)

j)社債の募集に関する重要事項の決定(361条4項5号)

k)特別支配株主の株式売渡請求の承認等(179条の3第3項、179条の6第2項)

l)簡易合併・略式合併等株主総会の承認を要しない組織再編行為の決定(784条、796条)

なお、執行役に委任されていない行為を執行役が取締役会の決定を経ずに行った場合の効果は、代表取締役が取締役会の決議を経ずにその行為を行った場合に準じて、原則として有効となりますが、相手方が血気を経ていないことを知りまたは知りうべきときは無効となります。

A指名委員会等設置会社の執行役等の職務の執行の監督

指名委員会等設置会社の取締役会は、執行役等の職務の執行を監督します(416条1項2号)。指名委員会等設置会社においては、各執行役が取締役会の決議により委任を受けた事項の決定を行い、かつ会社の業務執行を行うから、執行役による行執行を監督することが、取締役会による監督の主要なぶぶんとなります。

指名委員会等設置会社では、取締役が業務の決定・執行を行なうことはなく(415条、416条3項)、各取締役は取締役会の構成員としてとしての職務、各委員会の委員としての職務を有しているので、それらの職務の執行が取締役会による監督の対象となります。

取締役会による執行役等の監督は、妥当性・適法性の両面に及びます。しかし、執行役・取締役の違法行為に対する訴訟遂行権限は監査委員会または各監査委員に、各執行役・取締役が受ける報酬等の決定権限は報酬委員会に、株主総会に提出する取締役等の選任・解任議案の決定権限は指名委員会・監査委員会にそれぞれ属するので、取締役会は、主にその監督権限を、取締役の職務分掌の決定、または執行役の解任・職務の分掌等の決定の方法により行使することになります。

各委員会の委員である取締役であってその所属する委員会が選定する者は、遅滞なく、委員会の職務の執行の状況を取締役会に報告はなければなりません(417条3項)。 

ü 監査等委員会設置会社の取締役会の場合

監査等委員会生徒の特徴は、第一に組織に対する規制が柔軟であり、当事者の選択の余地が広い点です。すなわち、一方の極として、取締役会が重要な業務執行の決定の大部分を行う形、言い換えれば、単に監査役会を監査等委員会に置き換えただけの形をとることもできれば、他方の極として、取締役の過半数を社外取締役が占め、重要な教務執行の決定を大幅に取締役に委任したモニタリング・モデルの機関形態になる事も可能です。このことは、このような会社形態は、社外取締役の設置について便宜を図るという点を除いて、明確な理念がかけてことの現われと言えます。

第二に、制度の利用勧奨策か手厚く盛り込まれていることです。すなわち、指名委員会、報酬委員会を欠くこと等から、取締役会による業務執行の監督機関が指名委員会等設置会社と同等とは言い難いにも関わらず、定款の定めによって、指名委員会等設置会社に置けるのと同等の業務執行の決定権限の委任を行うことができます。また、監査等委員会が利益相反取引を承認した場合には、その取引に関与したドリ縞利益の任務懈怠の推定がなくなります。

@監査等委員会設置会社の業務執行の決定

監査役等委員会設置会の業務執行の決定は、取締役会、並びに取締役会が選定した代表取締役、代表取締役以外の業務執行取締役などにより行われます(399条13、363条1項、415条、416条)。多くの部分は監査役会設置に会社おける業務執行の決定と実質的に同じシステムと言えます。監査等委員会設置会社に特有の点としては、次の二つの条件うちいずれかを満たせば、取締役会は、指名等委員会設置会社が執行役に委任できるのと同じ業務執行事項の決定を、取締役に委任できることです(399条の13第5項・6項)。

・取締役過半数が社外取締役であること

・定款の定めがあること

取締役に委任することが可能な重要な業務執行事項の範囲は、指名委員会設置会社において執行役への委任が可能な範囲と実質的に同じで、この委任を行えば、機動的意思決定ができます。

A監査等委員会設置会社の業務執行の監督

基本的には、監査役会設置会社の場合と同じように、監査等委員会設置会社の取締役会は、業務執行に関する意思決定を為すだけで、業務執行は代表取締役やそれ以外の行執行取締役(及びその指揮下の使用人)が行います(363条1項)。取締役会は、これら取締役の職務の執行、つまり取締役会において決定した事項や代表取締役・業務執行取締役に委任された業務が適切になされているか(不当な職務執行等に対する予防的な監督を含む)を監督し(362条2項2号)、不適正認めた場合にはそれらの者を解職しなければなりません(362条2項3号、363条1項2号)。

Ø 取締役会設置会社の取締役の権限(363条)

@次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。

一 代表取締役

二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの

A前項各号に掲げる取締役は、3箇月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。

ü 代表取締役

代表取締役は、会社を代表する機関です(349条1項)。取締役会設置会社の業務執行は、代表取締役及び取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選定された者が行います(363条1項)。すなわち代表取締役が株主総会または取締役会の決議を執行するほか業務執行権を有する各取締役は、取締役会から委任を受けた事項については、自ら決定し執行します。

業務執行が対外的行為である場合は、代表取締役であれば、会社を代表する行為となります(349条4項、5項)。とくに393条5項では「この権限に制限を加えたとしても善意の第三者に対抗することはできない」とされています。

なお、代表取締役以外の業務執行取締役も、代表取締役のような包括的権限ではないが、一定の範囲で会社を代表する権限を与えられている場合が少なくありません。

ü 代表取締役の選定、就任及び終任

・代表取締役の選定・就任

取締役会設置会社の場合、取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなければなりません(362条3項)。取締役会設置会社以外の株式会社は株主総会の決議により選任します(349条3項)。定款上、社長等一定の役職の取締役は当然に代表取締役であると定める例が多いのですが、その場合でもその役職にない代表取締役に選定する余地を認めているケースが少なくありません。

代表取締役の就任・退任は登記事項です。氏名・住所が登記されます

また、代表取締役の就任・退任は適時開示事項です。一般的には定時株主総会にける取締役選任と同日に選任された取締役により新たに代表取締役が選定されるという手続を踏むため、通期決算発表の際に、予定事項として開示する場合が多い。ただし、それより前に取締役会で内定している場合には、その時点で開示します。また、期中で臨時に代表取締役が退任及び選任された、つまり変更された場合には金商法に基づく李氏報告書を提出しなければなりません。

・代表取締役の終任

代表取締役が取締役の地位を失うと、当然に代表取締役も終任となります。しかし、取締役の地位を維持しながら代表取締役の職のみを辞任することは可能です。取締役会は、その決議により代表取締役を解職することができます(362条2項3号)。この解職決議により地位が剥奪されれば、当人への告知なしに解職の効力が発生します。

・代表取締役に欠員が生じた場合の措置(351条)

代表取締役に欠員が生じた場合には、取締役に欠員が生じたばあいと同じ扱いが為され、任期満了またしは辞任による代表取締役はあらたに代表取締役が選定され就任するまで、引き続き代表取締役の権利義務を有し(このことは、取締役の地位を有する場合に限られると考えられます)、必要があれば一時代表取締役を選任することができます。

ü 代表取締役の権限

代表取締役は、会社を代表する権限である代表権を有します。代表権とは、A会社の代表取締役甲が第三者Bとなした行為の効果が、甲自身ではなくA会社に帰属する権限を意味します。この点では、本人Aの代理人甲が第三者Bと為した行為の効果がAに帰属する権限すなわち代理権と差異がないが、代表取締役の権限は、次に述べるように包括的・不可制限的である点で、たんなる代理権と区別されます。代表取締役の権限は、取引の安全のために、このように法定されるものであって、これを定款で変更してもその効力は認められません。したがってまた、取引の相手方としては、代表取締役を相手に取引すれば安全です。代表取締役が誰かは登記を閲覧することによって確認できます。

・包括的権限(349条4項)

代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為を有します(349条4項)。会社の業務に関する行為とは、業務としてなされる行為であると(絶対的商行為または営業的商行為。商法501条、502条)、業務のために為される行為(附属的商行為。商法503条1項)であるとを問わない。運送業務を営む会社において、運送契約を締結する行為は業務として為される行為であり(商法502条4号)、そのためにトラックを購入し、あるいはその資金を借り入れる行為は業務のために為される行為です(商法503条1項)が、そのいずれもが代表権の範囲内です。また、会社が数種の業務を営み、または複数の営業所を有している時も、代表権は業務の種類ごとまたは営業所ごとに限定されることはありません。さらに会社の業務に関するかどうかは、客観的に判断され、その主観的意図は問われません。したがって、会社の代表取締役の資格で借り入れをすれば、その代表取締役の主観的意図が自分の個人的目的のためであっても、借り入れの効果は会社に帰属します。また、代表取締役は裁判上または裁判外の一切の行為をする権限を有していますから、その資格で、会社のために事業に関して、訴を提起し、第三者と契約を締結し、裁判外の請求をすることもできます。以上のような意味で、代表取締役の権限は包括的であると言います。

・不可制限的権限(349条5項)

代表取締役の代表権に制限を加えても、この制限を善意の第三者に対抗することができないということです(349条5項)。例えば、一定金額以上の借入れについては取締役会の承認を要するとした場合や又は代表取締役の権限の範囲を特定事項に限定した場合において、代表取締役がそのような制限を超えた取引を行ったときでも、その制約を知らない取引の相手方に対して会社はその取引の無効を主張できない。同様に、代表取締役が定款に違反して代表権限を行使した場合は、取引の安全を確保するため、行為の相手方がそのことを知っている場合を除き、一般的にその行為は会社を拘束することになります。また、代表取締役がその有する権限を濫用して、例えば、自己使用の意図のもとに会社名義で金銭を借入れ、これを自分の利益のために使用した場合にも、客観的にそれが代表取締役の行為と見られる限り、その借入れは会社が行ったものとしての効力を生じることになります。

・取締役会の決議を欠いた行為の効力

ア.取引行為

A会社の代表取締役甲が、取締役会で決議すべき事項について、その決議を経ないで第三者Bと行為した場合(瑕疵ある決議をした場合も同様)に、その行為の効力がどうなるかについて、判例は、取締役会決議を欠いた重要財産の処分行為について、原則として有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときは無効であるとしています(最高裁昭和40年9月22日)。この基準によれば、過失(軽過失)のある相手方が保護されない点で、349条5項が適用された場合と結果が異なってきます。

イ.その他の行為

代表取締役が取締役会の決議に寄らないで募集新株の発行・社債の募集のように取引の安全を強く要請されるようなことを行った場合、決議を欠いても無効事由とならないされています。他方で、取締役会の決議なしに株主総会の招集は決議取消事由となります。このように適法な決議によらない代表取締役の行為の効果は区々であるので、一つ一つ別個に考えていかなければなりません。

・代表権の濫用

代表取締役が、会社の利益のためではなく、自己または第三者の利益のためにその権限を行使することを代表権の濫用と言います。例えば、自己または第三者の借財の返済のために、A社代表取締役甲として、Bから借り入れをする行為等が、これに当たります。この行為の効力については、Bが甲の目的を知りまたは知り得べかりしときは無権代理行為となります(民法107条、最高裁昭和38年9月5日)。代表権に限らず権利の濫用が許されることではないのは当然のことです。それゆえ実際には代表権の制限に関する規定の準用することで、相手方の過失の有無を問題とする必要がないということになります。実際の場面を見てみれば、代表権の濫用は、外形上、行為者と会社の利益が相反しません。利益相反取引(356条)の場合で取締役会の承認がない場合に相手方が悪意でない限り取引の無効を主張できないのですから、この場合に相手方の過失の有無を問題するのはバランスを失するという議論もあります。

ü 業務執行状況の報告(363条2項)

取締役は3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条2項)。取締役会における取締役の職務執行の監督の機能を十分に発揮させるために、各取締役が職務執行の状況について情報を得ていることが必要だからです。そしてまた、監査役は取締役会に出席する権限が与えられているから、この報告は、監査役に対してもなされることになり、監査役の業務監査の充実役立つことになります。なお、この職務の執行状況の報告も、職務執行の一環としての性質をもつものですから、この報告は執行を統括している代表取締役がその責任において、みずから行うか、他の炊き問うな取締役に行わせることができます。

 

Ø 取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

第353条に規定する場合には、取締役会は、同条の規定による株主総会の定めがある場合を除き、同条の訴えについて取締役会設置会社を代表する者を定めることができる。

【353条の説明を参照して下さい。】

 

Ø 競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条)

@取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

A取締役会設置会社においては、第356条第項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

ü 競業取引の規制(356条1項1号、365条1項)

@競業取引規制の内容

・競業避止義務

取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとする時は、その取引についての重要な事実を開示して、承認を受けなければなりません。この規定は、取締役の競業が会社のノウハウ、顧客情報等を奪う形で会社の利益を害する危険が高いので、予防的・形式的に規制を加えたものです。したがって、たとえ競業の要件に当たらなくても、取締役が営業秘密を利用して私利を図る等で会社に現実に損害を生じさせた場合には、取締役の忠実義務違反の責任が生ずるということはあり得るということです。取締役会設置会社の場合には取締役の承認となります(365条1項)が、取締役会設置会社以外の株式会社では株主総会の普通決議による承認ということになります。

なお、監査役は、この規制の対象外です。

・競業取引規制の内容

競業をなすにつき承認を得なければならない「取締役」には、業務執行に関与する代表取締役のたは代表取締役以外の業務執行取締役会のみならず、すべての取締役が含まれます。

「会社の事業の部類に属する取引」(競業)とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引です。なお、「会社の事業の部類に属する取引」について、法令の通常の用語法によれば、会社の定款所定の事業目的に該当する取引を指す(商法509条1項)ことになります・しかし、定款所定の事業でも、現在会社が全く行っていない事業に属する取引を承認しなければならないとすることはないですし、他方で定款には今だ所定されていないが、会社が進出を企図し市場調査を進めている事業は対象にしなければなりません。また、会社の取り扱っている商品と完全に一致する必要はなく、それと同種あるいは類似の商品を取り扱うことも含まれます。また、「取引」には、販売・仕入の両方を含み、例えば、ある商品の製造・販売を目的とする会社であれば、その原材料を購入する取引も競業となりえます。

「自己または第三者のために取引しようとするとき」とは、取締役が自分自身の名前もしくは第三者の名前で行った取引というのではなく、その行為を行った取締役もしくは第三者がその行為によって利益を受けるということを指します。たとえば、取締役が会社の名前で取引し、その結果得られた利益がその取締役自身または第三者の桃になる場合が、これに当たります。

「第三者」とは、通常、他社の代表取締役を指します。

「重要な事実」とは、取締役会がその競業取引によって会社が損害を受けないかどうかを判断するために必要な事実のことです。単発の取引であれば相手先、目的物、数量、価格、履行期等を指しますが、競業会社の代表取締役に就任する等のため包括的な承認を得る場合であれば、その会社の事業の種類、規模、取引範囲等を開示すべきことになります。

取締役会の承認は、必ずしも個々の取引についてである必要はなく、取引の対象、頻度などを開示した事実から、会社に損害を生じないと判断することが可能な範囲では、包括的に受けることも可能です。取締役会が事後的に追認することも可能ですが、事後の承認については、事前に承認を得るのに事後に承認したような場合には、その行為による善管注意義務違反の責任を問われる可能性が、事前に承認を得た場合に比べて大きくなることは否定できません。追認の可否については取締役の責任問題になるので注意が必要です。

A競業取引における報告義務・説明義務

・取締役会への報告義務(365条2項)

取締役会設置会社では、競業取引を行った取締役は、遅滞なく、取引について重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。取締役がその取引をするについて取締役会の承認を受けていない場合だけでなく、取締役会の承認を受けていた場合にも、報告義務があります。これは、監督機関としての取締役会及びそれに出席する権利を有する監査役が、実際に為された取引が承認された範囲に属するかどうか、その取締役に忠実義務がないかを判断し、会社に損害を生ずる可能性がある時はそれに対する処置を講ずる機会をあたえるためです。

なお、報告義務違反には過料の制裁があります(976条23号)。

・開示義務(会社法施行規則128条2項)

競業取引については、事業報告の附属明細書に取締役の兼務の状況を開示しなければなりません(会社法施行規則128条2項)。監査役の重要な監査の対象であり、株主総会での説明義務の範囲に含まれています。

B競業取引規制の効果

・取締役会の承認の効果(取締役会の承認受けてなされた場合)

取締役会の承認を受けたにもかかわらず競業取引によって会社に損害が生じた場合には、その協業取引をした取締役は当然のこととして、それだけでなく取締役会で承認することに賛成した取締役も、その賛成したことについて善管注意義務違反(会社に損害が生じないと判断するについての善管注意義務違反)があれば、会社に対して損害賠償責任を負うことになります(423条)。取締役は、会社に損害を生じることが取締役に社会通念上要求される注意をもってしても予測することができなかった場合に、はじめて責任を免れることになるります。取締役会の承認が必要であることの意味は、このように承認した取締役が善管注意義務違反による損害賠償責任を負うことにあり、これによって、安易な承認をしないことが期待されています。

もっとも我が国では、競業承認は取締役を系列会社(合弁企業等)に代表取締役として派遣する等の正当な事業目的に基づきなされることが多いので、結果的に会社に損害が生じたからといって、簡単に競業取締役または取締役会において承認を与えた取締役の善管注意義務違反を安易に判断できないところもあります。

・違反の効果(取締役会承認を受けずになされた場合)

取締役会の承認を受けずになされた競業取引についても、その行為の効力自体は否定されません。取引の効力を否定すると、規制の対象とされなていない相手方が、この規制によって不利益を受けることになり、不都合となるからです。

取締役会の承認なしに競業取引をしたときは、その行為をした取締役は損害賠償責任を負うことになる(423条1項、356条1項1号)ほか、解任請求の対象にもなり得ます。会社法では、会社側の損害額の立証の困難さを排除するため、取引により取締役もしくは執行役または第三者が得た利益の額を会社が蒙った損害の額と推定することとされます(423条2項)。したがって、違反行為をした取締役において、会社の損害がその違反行為と因果関係のないこと、または取締役もしくは第三者が得た利益より少ないことを立証すれば、責任を免れ、または責任を減ずることができ、逆に損害を受けた会社側もその蒙った被害がその利益より大きいことを立証して、それ以上の損害賠償を求めることも可能です。

C競業避止義務に類似する問題

・会社の機会の奪取

会社が関心を持つはずの新規事業機会等を取締役が自己の事業にしてしまうことが、同人の会社に対する忠実義務違反となることがあり、「会社の機会」の奪取といわれます。取締役がその職務上知り得た外部情報を会社に無断で自己の事業にする場合等が、その典型例です。

問題は、取締役が個人の資格で得た情報等をどこまで会社に提供せねばならないかです。これは、忠実義務よりむしろ取締役の善管注意義務の一環として会社の新規事業の開発等に努める義務がどこまであるかの問題といえますが、会社が上場会社等か閉鎖型か、及びその取締役の社内的立場等により、その義務の程度は異なると解すべきでしょう。

・退任予定の取締役による従業員の引抜き

退任後に会社と同一または類似の事業を開始することを企図する取締役が、在任中に部下に対し退職して自己の事業に参加するよう勧誘することが、取締役の忠実義務違反となることがあります。問題は忠実義務違反が成立する要件であり、在任中に部下に対し退職勧誘をすれば当然に義務違反になると解する見解がありますが、そうではなく、取締役と当該部下との従来の関係等諸般の事情を考慮の上不当な態様のもののみが義務違反になると解すべきでしょう。

・退任後の競業禁止特約

取締役の退任後の競業は、原則として自由です。退任後の競業を禁止する取締役・会社間の特約は、取締役の職業選択の自由に関わるので、取締役の社内での地位、営業秘密・得意先維持等の必要性、地域・期間等の制限内容、代償措置等の諸要素を考慮し、必要・相当性が認められる限りにおいて公序良俗に反せず有効と解すべきでしょう。

ü 利益相反取引の規制(356条1項2号、3号、365条1項)

@利益相反取引規制の内容

・利益相反取引回避義務

取締役会設置会社では、取締役は、自己または第三者のために会社と取引をしようとするとき(直接取引)および会社が取締役の債務を保証することその他の取締役以外の者との間において会社とその取締役の利益が相反する取引をしようとする時(間接取引)は、重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければなりません(365条1項)。、取締役会設置会社以外の株式会社では株主総会の普通決議による承認ということになります。

この規定は、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己の田は第三者の利益を図ることを防止する趣旨で設けられたもので、忠実義務がこの規制の根拠になっているので、忠実義務を負担していない監査役に対しては、利益相反取引規制は存在しないと言えます。

・利益相反取引規制の内容

利益相反取引は、上述のように大まかに言って「直接取引」と「間接取引」の2種類に分けられます。

●直接取引

直接取引については、取締役会の承認があれば、民法108条で規定されている自己契約または双方代理に当たる場合でも、取引をするでも、取引をすること自体は禁止されません(356条2項)。

この規定は、取締役が自己または第三者の利益を図って会社に損害が生じることを防止するためのものですから、直接取引と言っても、取締役の会社に対する負担のない贈与はもちろん、運送契約・保険契約・預金契約・定価による売買契約の締結など、定型的な取引であって、会社に損害が生じる可能性のない取引は含まれない。つまり事前の承認を得る必要がないと解されています。ただし、定型的で会社に損害を与える取引というのでは明確な基準ではありいません。例えば手形行為が利益相反取引に含まれるか否かで議論が分かれます。ただし、判例及び通説では、手形の振出が原因関係におけるものとは別の新たな債務を負担し、しかも、その債務は、実証責任の過重、抗弁の切断、不渡処分の危険性を伴い、原因債務をよりいっそう厳格な支払義務であることを理由に、手形行為は含まれる(最高裁昭和46年10月13日)としています。

(直接取引の例)

会社の取締役に対する金銭の貸付及び約束手形の振り出し

会社と取締役との間での商品、土地、株式、債権等の財産の売買

会社から取締役への贈与

会社による、取締役の会社に対する債務の免除

●間接取引

間接取引とは、たとえばA会社の取締役甲がA会社以外の者乙から借り入れをしている場合に、A会社が甲のこり借入金債務のために、乙と保証契約を締結し、または乙を担保権者とする担保権を設定し(物上保障)、あるいは甲の債務を引き受ける等の行為を言います。これらの取引は、あくまでA会社と乙との間でなされるものであって、甲とA会社との間でなされるわけではありません。それゆう直接取引ではないのです。しかし、甲に有利でA会社に不利であるという点で、直接取引と同じような規制が必要であることは分かると思います。なお、A会社を代表して乙とこの契約をていけつするのが、甲自身か、甲以外のA会社の代表取締役かは問われません。

(間接取引の例)

取締役が第三者に対し負担する債務について会社がする保証、物上保証

取締役が第三者に対し負担する債務について会社がする連帯保証契約

取締役配偶者の債務について個人としてする連帯保証に加え、会社を代表してする連帯保証

取締役が第三者に対し負担する債務の会社による引き受け

※企業グループの中では、取締役が子会社の代表取締役を兼務する例が少なくなく、兼務する取締役は、自分は一体どの会社のために働いているのか、兼務先との関係で利益相反ではないか、ということを常に意識する必要があります。たとえば、子会社の代表取締役を兼務する親会社の取締役が、親会社と兼務先子会社との間で取引を行うような場合です。この場合、利益相反取引に関する規制の適用があるとされます。だたし、兼務先の子会社において他に複数の代表取締役がおり、他の代表取締役が取引する場合など個別の判断が必要な場合もあります。なお、100%子会社親子会社間において取締役を兼務する場合には実質的に利益相反取引に立たないで、利益相反取引に関する規制の適用はないとされています。包括的承認及び追認の可能性、当該取締役の特別利害関係人としての議決権行使の排除等は、競業取引と同様です。なお、株主全員の同意がある場合には、取締役会の承認を要しないという判例があります(最高裁昭和49年9月29日)。

取締役の利益相反取引の承認は、個々の取引に対して承認されるのが原則です。しかし、関連会社間の取引のように反復継続して同種の取引がなされる場合については、取引の種類・数量・金額・期間等を特定して包括的に承認を与えても良いと解されています。株主総会の承認は普通決議となります。決議の際、利益相反取締役は特別利害関係人となります。なお、承認に際しては、取引についての重要な事実の開示・相当の説明等が必要です。

A利益相反取引における報告義務・説明義務

・取締役会への報告義務(365条2項)

取締役会設置会社では、会社と利益が相反する取引を行った取締役は、遅滞なく、取引について重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。実務上は、包括承認によった場合には、報告も定期的に包括的に行う場合が多いようです。報告の趣旨や内容は、競業取引に関する報告と同様となります。また間接取引について報告義務を負うのは、会社を代表して取引をする代表取締役です。

・開示義務・株主総会での説明義務等(会社計算規則112条1項)

利益相反取引については、「関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間の取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)」(会社計算規則112条1項)とされており、個別注記表に開示しなければなりません。

また、利益相反取引は、株主総会での説明義務の範囲にも含まれます。

なお、旧商法施行規則133条では、監査報告書への記載について特別な扱いがされており、利益相反取引に関しては個別に監査の方法の概要を記載し、もし取締役の義務違反があればその事実に関する記載は各別にされることとされていました。しかし、会社法では当初は、他の義務違反行為とは区別はされていませんでしたが、平成26年の改正により、子会社少数株主保護の観点から、個別注記表等に表示された親会社等との利益相反取引に関し、会社の利益を害さないように留意した事項、当該取引が会社の利益を害さないかどうかについての取締役会の判断及びその理由等を事業報告の内容とし、これらについての意見を監査役会等の監査報告の内容とするものとされています(会社法施行規則129条1項6号)。

B利益相反取引規制の効果

・取締役会の承認の効果(取締役会の承認受けてなされた場合)

取締役会設置会社において取締役会の承認を受けた取締役の利益相反行為は、有効になります。自己契約または双方代理になる場合でも、民法108条の適用はありません(365条2項)。

取締役会の承認を受けたにもかかわらずその利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、その取引関して任務懈怠のある取締役は、会社に対する損害賠償責任を負うことになります(423条1項)。利益相反取引が取締役会の承認を受けて取引されたが、その取引が忠実義務または善管注意義務に違反するときは、任務懈怠の責任を問われることになるということです。例えば、明らかに会社に不利で取締役に有利な取引が取締役会の承認を得て為された場合には、その取引をした取締役には忠実義務違反(355条)、また取締役会でこの取引の承認に賛成した取締役には善管注意義務違反(330条、民法644条)の責任が問われることになります。つまり、責任を問われる取締役は次のように分類されます。

ア.その取引をした取締役

イ.会社がその取引をることを決定した取締役

ウ.その取締役会の決議に賛成した取締役

利益相反取引は、旧商法では無過失責任とされてきましたが、会社法では過失責任に改められました。しかしながら、この任務懈怠の推定が設けられたことにより、任務怠らなかったことを立証しない限り責任を負うことになります。さらに会社法では、取締役が自己のためにした取引に関しては特則を設けており、自己取引をした取締役の損害賠償責任は、任務懈怠がの取締役の責めに帰することができないじゆうであるものであることをもって免れることはできない(428条1項)とされています。

取締役等の任務懈怠の責任を免除するには、総株主の同意が必要になります(424条)。また、会社法では取締役等の責任の一部免除についても規定が設けられています(425条、426条、427条)。ただし、責任の一部免除等に関する規程は、自己取引関する責任については適用されません(428条2項)。

・違反の効果(取締役会承認を受けずになされた場合)

取締役会の承認を受けずになされた直接取引については、会社と取締役の間または会社と第三者との間では無効となります。この点で無効とならない競業取引とは異なります。この規定は会社の利益保護のためのものですから、取締役の方から取引の無効を主張することはできません(最高裁昭和48年12月11日)。また、会社が取引の無効を主張できる場合、会社債務の保証人も無効を主張できるのが原則です。これは無効を主張できるのは会社のみで保証人も無効を主張できないとすると、保証人が会社に対し求償を求めた場合の処理が問題になるからです(最高裁平成21年4月17日)。ただし、多くの場合の保証人は事情を知りつつ保証した他の取締役であるので、この場合には信義則上無効を主張できないと解されています(最高裁昭和50年12月25日)。

一方、間接取引の相手方(最高裁昭和43年12月25日)及び会社が取締役を受取人として振り出した約束手形(一種の直接取引)の譲受人という第三者(最高裁昭和46年10月13日)に対しては、会社が無効を主張するには、取引安全の見地から、その相手あるいは第三者が取締役会の承認がないことを知っていることを会社が主張・立証できてはじめて無効を主張することができるものとされています。また、会社から取締役に譲渡された不動産の転得者等の第三者との関係においても適用される(東京地裁平成25年4月15日)とされています。

取締役会の承認を受けずに利益相反取引を行った取締役は、任務を怠ったとして損害賠償責任を負う(423条)ほか、解任請求(854条)の対象となります。損害賠償責任を負うのは、直接取引においては、会社と取引をした相手方である取締役(その者が第三者のためにした場合も含む。)だけでなく、会社を代表して取引をした取締役も含まれます。間接取引においては、会社を代表して取引をした取締役であり、利益を受ける取締役については、会社が保証債務を履行し、またはその提供した担保権を実行されて損害を蒙ったときは、会社は、当全にその取締役に対して求償権を取得します。

C利益相反取引回避義務に類似する問題

・支配株主の利益を図る取引

取締役の利益相反取引と同様に会社の利益が害される危険は、取締役に対して事実上の影響力を有する支配株主(親会社等)と会社の取引(企業グループ内の製品の売買等)にも存在します。会社に少数株主が存在する場合には、取締役は会社に対する忠実義務を免れないから、支配株主の圧力の下に会社に不利な非通例的取引を行った取締役は、会社の損害を賠償する責任を負います(423条1項)。この場合、企業グループ全体の利益のために会社の利益を犠牲にしたという抗弁は認められません。

〔参考〕関連当事者取引

利益相反取引と類似した概念として関連当事者取引があります。金融商品取引法では有価証券報告書において注記で開示が義務付けられており、また上場会社が対象となっているコーポレートガバナンス・コードでは原則1−7において規制し監視を求めています。

関連当事者とは、会社またはその役員と一定の関係を持つもので、その当事者間の取引が会社や株主共同の利益を害するおそれのあるものを規制、監視するというもので、会社法の利益相反取引もこの中に含まれる広い概念です。

※関連当事者とは、具体的には、主に以下のような関係者を指します。

1.親会社

.子会社

.同一の親会社をもつ会社等

.会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社

.関連会社および関連会社の子会社

.主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族)

.役員およびその近親者

.主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社等およびその子会社

※関連当事者間の取引に関するコーポレートガバナンス・コードの説明は、別に、こちらを参照願います。

 

款 運営

Ø 招集権者(366条)

@取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。

A前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。

B前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。

ü 招集権者(366条1項)

取締役会は、各取締役が招集権を有します(366条1項)。代表取締役だけでなく他の業務執行取締役あるいは社外取締役でも、つまり取締役であれば、誰でも取締役会を招集できるということです。

ü 定款による招集権者の特定(366条1項但し書き)

定款または取締役会の決議で招集権者を定めたときは、その定められた招集権者が取締役会を招集します(366条1項但し書き)。これは、招集権を有する各取締役が、それぞれに招集すると、同一の議題について矛盾した決議がされたり、また他の取締役が招集するだろうと考えて誰も招集をしなかったりして、適切に取締役会の招集が為されないようなことが起こらないように、誰かにマネジメントを一任しようとしたためと考えられます。実務上は、定款で招集権者を定めているのが通例であり、その場合の定款の規定例は次のとおりです。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集権者および議長)

第22条 取締役会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会長か、これを招集し、議長となる。

定款で指定される招集権者は、経営を取り巻く環境を迅速かつて的確に把握するという観点から、経営トップが(代表取締役、社長、会長など)選定されるのが一般的です。

以下では、招集権者を定めた場合に想定されるイレギュラーな場合です。

・取締役が任期満了により改選になる場合

定款で招集権者を定めた場合、その招集権者である取締役が任期満了となる定時株主総会に関し、その後に開催される取締役会の招集権者は、誰になるのでしょうか。これについては、取締役全員改選後の取締役会の招集については招集権者の定めはなく、原則に戻り、各取締役が招集権を有するということになります。その場合であっても、取締役会長が招集権者となっている場合には、適時に、その会長が招集通知を出して、取締役候補者にも、事前に通知しておくことで足りるとされています。なお、取締役及び監査役全員の同意がある場合、招集手続をとらなくても取締役会を開催できる(368条2項)ので、実務上は、事前通知の際に取締役候補者を含めて取締役及び監査役の全員に同意を得ることにより、招集手続が省略されたものとして取り扱うのが無難と言えます。

・招集権者である取締役に欠員または事故がある場合

招集権者として定められた取締役に欠員または事故がある場合、定款または取締役会で、招集権者の順位を定めているときは、その順位に従って招集権者となります。また、そのような順位を定めていない場合は、原則に戻り、各取締役が招集権を有することになります。

定款で招集権者を定めている場合、併せて招集権者の順位を定めている場合は少なく、欠員または事故がある場合は、あらかじめ定めた順序に従う旨を定め、その決定は取締役会において行われるとしているのが通例です。その場合の定款の規定例は次のとおりです。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集権者および議長)

第22条 取締役会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会長か、これを招集し、議長となる。

2.取締役会長に欠員または事故があるときは、取締役社長が、取締役社長に事故があるときは、取締役会においてあらかじめ定められた順序に従い、他の取締役が取締役会を招集し、議長となる。

このような定款の規定のしたがって、順位を取締役会で定めているわけですが、その方法としては、具体的に氏名を特定できるように順位を定めて、取締役の改選等によりその順位に変動が生じる場合には、その都度取締役会で決定するという方法と、取締役の地位等に基づき、ある程度の幅を持たせて取締役会で決定する方法とがあります。また、その決めた順序を取締役会規則の中で定めるという形にしている例が少なくありません。

※招集権者の順位を定める取締役会規則の規定例

(招集権者)

第○条 取締役会は取締役会長が招集氏し、取締役会長に欠員または事故があるときは、取締役社長が、取締役社長に事故があるときは、次の順序による。ただし、同順位の者が複数選任されている場合は、その就任の順による。

@副社長

A専務

B常務

Cその他の取締役

※定款で、あらかじめ定めた順番に従うと定めて、取締役会規則等で具体的に順番を定めていない場合には、各取締役が招集権を有することになります。

〔参考〕監査役による招集

監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければなりません(383条1項)。この場合において、必要と認めるときは、取締役(招集権者を定めている場合は招集権者の場合は招集権者)に招集を請求することができます(383条2項)。さらに、招集が遅れる場合には、監査役は自ら取締役会を招集することもできます(383条3項)。

ü 招集権者への招集の請求(366条2項)

招集権者を定めている場合でも、他の取締役は招集権者に対して、会議の目的事項を示して取締役会の招集を請求することができます(366条2項)。ここで目的事項とは、議題を意味するもので、議決すべき内容を示す議案まで意味するものではありません。この場合の招集の請求の方法については、明文の定めがないので、口頭でも足りると考えられていますが、書面または電磁的方法による請求が一般的ですが、取締役会規則で、細かく手続を定めている会社もあります。

招集の請求を受けた招集権者が招集を行う場合、他の取締役から示された目的事項を明らかにする旨は会社法では定められていません(そもそも招集手続において目的事項の開示まで求められていません)。最も、明らかにしないことを肯定する理由がない限り、目的事項を示して招集手続を行なうべきとされています。

招集請求が為された場合、招集権者である取締役は、合理的な理由がないにもかかわらず、この請求を放置して請求手続をとらないときは、任務懈怠として責任を負うことになります(423条1項)。

この招集請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を開催日とする招集通知が発せらない場合は、請求をした取締役が自ら取締役会を招集することができます(366条3項)。

※招集の請求する場合の要件の加重または緩和

383条2項により取締役会の請求権者でない取締役は招集の請求をする場合の要件について、定款または取締役会規則で、厳しくしたり緩和することはできません。例えば、招集の請求をする時に目的である事項を示すことになっていますが、それ以上に議案や請求理由まで要求することはできない、と考えられています。これは、法が取締役に付与した権限を会社の内部規範で制限することになるんらでス。また、逆に要件を緩和して目的を示さなくても請求できるようにするのも、383条の規定に反すると考えられています。これは、実際に会議の目的を示さないで取締役会の招集を請求されても、招集権者は、招集の要否を判断できないからです。

Ø 株主による招集の請求(367条)

@取締役会設置会社(監査役設置会社及び委員会設置会社を除く。)の株主は、取締役が取締役会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができる。

A前項の規定による請求は、取締役(前条第1項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の目的である事項を示して行わなければならない。

B前条第3項の規定は、第1項の規定による請求があった場合について準用する。

C第1項の規定による請求を行った株主は、当該請求に基づき招集され、又は前項において準用する前条第3項の規定により招集した取締役会に出席し、意見を述べることができる。

指名委員会等設置会社以外で監査役設置会社でない会社の株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為もしくはこれらの行為をする恐れがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができます(367条1項)。

その場合の請求は、取締役(招集権者を定めた場合は招集権者)に対して請求します(367条2項)。

さらに、この招集請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を開催日とする招集通知が発せらない場合は、請求した株主は自ら取締役会を請求することができます(367条3項)。

Ø 招集手続(368条)

@取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

ü 取締役会の招集期間(368条1項)

取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役及び各監査役に対して招集通知を発出しなければなりません(368条1項)。この招集期間は、定款をもって短縮することができ、実際の事例としては「3日前」と定めている会社が圧倒的に多いと言われています。さらに、定款に招集期間を定めている場合には、但書きとして、緊急の必要があるときは、期間短縮ができる旨を規定しているのが一般的です。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集通知)

第23条 取締役会の招集通知は、会日の3日前までに各取締役および各監査役に対して発する。ただし、緊急の必要があるときは、この期間を短縮することができる。

なお、この一週間とは、民法140条の期間計算の原則に基づき、招集通知を発した日と会日との間に中7日をおかなければならないという意味です。

ü 招集通知の対象者(368条1項)

招集通知は、取締役会の構成員である取締及び監査役の全員に発出しなければなりません(368条1項)。したがって、決議事項について特別利害関係を有する取締役も、招集通知の相手方となります。これは、取締役会においては、招集通知に示された取締役会の目的事項以外の事項についても審議し、決議できることに起因するものです。

ü 取締役会の招集通知の方法

招集通知の方法については明文の規定はなく、書面または電磁的方法によらず、口頭で行っても差し支えないとされています。しかしながら、実務上は、、緊急事態等やむを得ない場合を除き、書面または電子メールによる通知を行っている場合が多いようです。

なお、外国に常駐する取締役に対して招集通知を発出しなくてもよいとする見解もありますが、国際化が進展し、通信技術が発達した今日において通知不要とする根拠はなく、外国の拠点に常駐している取締役に対しても招集通知を発出しなければなりません。

また、招集通知には、会議の日時及び場所を示す必要はありますが、目的事項を示す必要はないとされています。株主総会の招集通知は会議の目的事項を記載しなければなりませんが、取締役会の場合とは違います。株主総会の場合には、株主に対して、総会に出席するかどうかを判断する材料として、また出席するとしてその準備の材料として、議題の記載が要求されるのに対して、取締役会の場合には、取締役はその職務として取締役会に出席するぎむがあり、それに出席するかどうかの自由がなく、また、出席したら、業務執行に関する諸般の事項が議題とされることを予期すべきだからです。したがって、例えば、招集通知に一定の事項を議題とする旨の記載がなされていても、それに拘束されることなく、それ以外の事項も議題にすることができる。つまり、議題ないし議案は各取締役が提起することができる。そういうところが株主総会と違うと考えられています。当然、機動的な意思決定が求められたときに招集通知に記載された議題でないので決議できないでは、間に合わない事だってあるわけです。実際の業務執行が絡んでくれば当然のことです。もっとも、近年のコーポレートガバナンス向上の要請に鑑み、取締役会で活発な議論を行うために、目的事項はもとより、その議案の内容及び参考資料をも事前に示すことは、コーポレートガバナンス・コードでも求めれていることでもあります。右に招集通知の記載例を示しておきます。

〔参考〕コーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会の活発な議論を促す運営の推奨

コーポレートガバナンス・コードの【原則4−12.取締役会における審議の活性化】では、招集通知を早期に発出するとか、事前に資料をおくって議題の内容を理解してもらった上で会議に臨んでもらうといったことを推奨しています。詳しくはこちらを参照願います。

ü 取締役会の招集手続に瑕疵ある場合

取締役及び監査役に対する招集通知に漏れがある場合、瑕疵ある招集手続となり、関係する取締役会決議の無効原因となりますが、その場合であっても通知に漏れがあった対象者が実際に取締役会に出席し異議を述べなかったときは、瑕疵は治癒するというのが一般的見解です。

招集通知に漏れがあった場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき別段の事情があるときは、瑕疵は決議の効力に影響がないとする裁判例もあります(最高裁昭和48年7月6日)。この場合「特段の事情」を認めた場合としては、「取締役会に出席せず、会社の運営を他の取締役に一任していた名目的取締役に対して通知を欠いた場合(東京高裁昭和49年7月6日)」「すでに辞表を提出し取締役としての職務をとっていなかった取締役に対して通知を欠いた場合(東京高裁昭和49年9月30日)」などがあります。 

Ø 取締役会の決議(369条)

@取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

A前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。

B取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

C前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

D取締役会の決議に参加した取締役であって第3項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。

ü 取締役会の議事の運営

取締役会の運営は、会議体の一般原則によるほか、定款・取締役会規則等の内部規則、慣行に従って行われます。法令上とくに議事運営に関する規定はありません。取締役会はすべての取締役で組織され(362条1項)、個人的な信頼に基づき選任された取締役が相互の協議・意見交換を通じて意思決定を行う場であり、したがって、代理出席は認められませんし、遠隔地にいる取締役の映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(テレビ会議など)による参加は、出席と認められます(民事訴訟法204条)。

監査役設置会社の監査役は、取締役会の構成員ではありませんが、業務監査を適切にするため、取締役会出席し、必要があると認めるときは意見を述べる義務があります(383条1項)。

実務においてはも会社の内部規則に、議長は取締役会長または社長に定めているのが一般的です。さらに議長に事故がある時に備えて他の取締役が議長になる順番をあらかじめ定めています。

ü 取締役会の決議(369条1項)

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し(定足数)、その出席取締役の過半数の賛成により成立します(369条1項)定款の定めにより、この定足数・必要賛成数の要件を加重することはできますが、緩和することはできません(369条1項)。

株主総会の場合は、上記と同様の普通決議があり、そのほかに重要な項目に関しては特別決議があるように決議の酒類がありますが、取締役会には特別決議はありません。また、取締役会に出席した各取締役は平等に1個の議決権を有するところは、株主総会のように持ち株数に応じた議決権による多数決とは違います。

また、取締役会の決議に参加した取締役であって取締役会の議事録に異議を表明したという記録が残らないものは、その決議に賛成したものと推定されることになります(369条5項)。これは裁判等で、不正な決議に参加したか否かの証拠とされるものです。

ü 特別利害関係人の議決権行使の排除(369条2項)

決議について特別の利害関係を有する取締役は、決議の構成を期する必要上、議決に参加することはできません(369条2項)。なお、特別利害関係を有する取締役は定足数算定の基礎にも算入されません。

株主総会の場合は、特別な利害関係のある株主であっても決議から排除されることはありません。このように決議において特別な利害関係を有する者に対する取り扱いが株主総会と取締役会とで異なるのは、取締役の取締役会における議決権と株主の株主総会における議決権との性質の違いによるものです。つまり、株主は自己の利益のために株主総会における議決権行使をするのに対して、取締役は会社の受任者として会社の利益のために議決権を行使しなければなりません。いわゆる善管注意義務のもとでは自己の利益のために議決権を行使することは許されないからです。

どのような場合に特別の利害関係があると判断されるかについて、会社法に具体的な規定はありませんが、次のような場合には特別の利害関係があると考えられています。

・代表取締役解職決議における解職対象の代表取締役

代表取締役は会社を代表する権限を有し、会社の経営支配に大きな権限、影響力を有しています。このような代表取締役を本人の意思に反してその地位から排除することを議論する場合、その本人に公正に議決権を行使することを期待することは困難と言えます。したがって、取締役会の決議の公正を担保するため、特別利害関係あるものと考えられています。

・役付取締役解職決議における解職対象の役付取締役

常務、専務などの役付取締役というのは会社法で規定されたものではありません。しかし、定款で役付取締役が決められていてその選任について取締役会決議によると定められている場合、その役付取締役の解任の決議については、その本人は特別利害関係にあると考えられています。

・競業・利益相反取引の承認決議における対象取締役

この場合の承認を受ける取締役が特別利害関係にあめことは間違いないでしょう。しかし次のような場合はどうでしょう。Aが甲、乙両会社の代表取締役を兼任している場合に、甲会社が乙会社の保証人になるについては、甲会社の取締役会決議を要することになると考えられますが、甲会社の取締役会でAは特別利害関係にある(最判昭和45年4月23日)ことになります。

また、次のような場合には特別の利害関係はないと考えられています。

・代表取締役選定決議における選定対象である代表取締役

・定款または株主総会で定めた取締役の報酬総額の配分を決定する場合の各取締役

株主総会が定めた報酬総額の配分を取締役会において決定する場合は、取締役全員の共通事項であるから特別利害関係は生じないと解されています(名古屋高判昭和29年11月22日)。

ü 取締役会決議の瑕疵

取締役会の決議の瑕疵があった場合として、次のようなケースが考えられますが、その決議の効力を考えてみましょう。

・招集手続に瑕疵がある場合

取締役会の招集手続に瑕疵がある場合は、特定の取締役(あるいは監査役)に招集通知漏れがあったり、招集権者の招集に基づかずに取締役会が開催されたり、招集通知期間が不足したりした場合です。このような場合、株主総会とは異なり、会社法は特別の規定を設けていません。しかし、取締役会は取締役全員によって構成される会社の意思決定機関です。取締役全員の協議と意見の交換により会社の業務執行の意思を形成し、その執行を監督させるものでありますから、取締役全員について出席の機会が保障されなければならず、その会議の招集手続に瑕疵がある時は、合議体による決議の成立過程における重要な瑕疵として、無効であると解されています。

・監査役に対して通知漏れのあった場合

監査役には取締役会に出席して意見陳述権があります。これは、取締役会における業務執行の意思決定は、監査役の監査の下にさらされていなければならず、この決定の違法性、不当性につて常に監査役の監視を受けていなければならないということです。それが不当に阻害されているということから、その場合の取締役会決議は無効になる解されています。

・欠格事由のある取締役あるいは非取締役が参加した決議の効力

欠格事由に該当する者を株主総会で取締役に選任したとしても、その選任は無効となります。また、取締役が在職中に欠格事由に該当するに至ったときは、その時点で取締役でなくなります。そのような取締役が参加した取締役会の決議は、原則として無効となります(大阪地判昭和57年12月24日)。

・決議内容に法令・定款違反のある場合

取締役会の決議の内容が法令や定款に違反している場合、その決議は無効となります。

株主総会の決議の瑕疵に、瑕疵の態様に応じて、決議取消の訴。決議不存在確認、無効確認の訴の制度が規定されています。しかし、取締役会については特別の規定がないので、民法及び民事訴訟法の理論に基づいて処理すべきものと解されています。つまり、この無効は当然かつ絶対的に無効であって、無効を主張する利益のある限り、何人からも何人に対しても、いつでも、いかなる方法でも無効を主張することができる。必要あれば、取締役会決議無効確認や不存在確認の訴えを提起することができる。 

Ø 取締役会の決議の省略(370条)

取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。

取締役会は、取締役による審議を通じて意思決定をするための会議体であるため、原則として、現実に会議を開催する必要があるとされ、いわゆる持ち回り方式による決議は、その趣旨に反するものとされていました。しかし、海外に居住する取締役がいるときに機動的な意思決定をする必要か生ずる場合など、実際には現実の会議による審議を経なくても決定できる場合も想定されることから、370条の規定に基づき、定款に規定することにより、取締役が他の取締役(決議に加わることができない取締役に限る)に提案し、その提案に全取締役が書面または電磁的記録により同意した場合には、取締役会の決議があったものとみなされる(取締役会の決議の省略。370条)こととなりました。

なお。決議があったものとみなされるのは、決議に加わることができる取締役の全員の同意の意思表示が提案者に届いた時となります。また、監査役設置会社においては、監査役が提案に異議を述べた場合は、取締役会の決議の省略によることはできません。監査役は、異議がないときは、特段の行為をするひつようはありませんが、異議がなかったことを明らかにするため、実務上は、異議がない旨の書面等を提出しているケースがあります。 

Ø 議事録等(371条)

@取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から10年間、第369条第3項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

A株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

B監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。

C取締役会設置会社の債権者は、役員又は執行役の責任を追及するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該取締役会設置会社の議事録等について第2項各号に掲げる請求をすることができる。

D前項の規定は、取締役会設置会社の親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。

E裁判所は、第3項において読み替えて適用する第2項各号に掲げる請求又は第4項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該取締役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項において読み替えて適用する第2項の許可又は第4項の許可をすることができない。 

ü 取締役会議事録の作成(369条3項)

取締役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、出席した取締役・監査役が署名または記名押印しなければなりません(369条3項、会社法施行規則101条)。出席した取締役・監査役には途中退出者も含まれます。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(369条4項)。

※取締役決議の省略及び報告の省略の場合に作成される議事録については、取締役・監査役の署名または記名押印は要求されていません。

取締役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した取締役が議事論に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(369条5項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからである言います。

※登記事項について取締役会の決議を要するときは、登記申請書に議事録を添付します(商業登記法46条2項)。

議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則101条3項)

・実際に開催した場合

@)取締役会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役等が取締役会に出席した場合における出席方法を含む)

A)特別取締役による取締役会であるときは、その旨

B)諸集権者でない他の取締役や監査役の請求を受けて招集されたもの等である時は、その旨

C)議事の経過の要領及び結果

D)決議について特別の利害関係を有する取締役があるときは、当該取締役の氏名

E)一定の事項について取締役会において述べられた意見または発言がある時は、当該意見または発言の内容の概要

F)取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人または株主の名称

G)取締役会の議長がいるときは、議長の氏名

※上記以外にには次の事項の記載も望ましいとされています。

a)出席した取締役及び監査役の氏名

b)取締役の総数等

c)閉会時間

d)作成年月日

・取締役会の決議の省略の場合

@)取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容

A)決議があったものと見なされた事項を提案した取締役の氏名

B)取締役会の決議があったものとみなされた日

C)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

・取締役会の報告の省略の場合

@)取締役会への報告を要しないものとされた事項

A)取締役会への報告を要しないとされた日

B)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

ü 取締役会議事録の備置(371条1項)

取締役会議事録(取締役会の決議の省略における各取締役が同意の意思表示をした書面または電磁的記録を含む)は、取締役会の日(取締役会の決議の省略の場合は、決議があったものとみなされた日)から10日間本店に備え置かなければなりません(371条1項)。取締役会の決議及び報告の省略により作成される議事録も、備置きについては通常の取締役会議事録と同様に扱います。

ü 取締役会議事録の閲覧謄写(371条2項、3項、4項)

株主は、その権利を行使するために必要があるときは、会社の営業時間内であればいつでも、取締役会の閲覧または謄写を請求することができます(371条2項)。

ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の株主については、裁判所の許可を得た場合に限り閲覧謄写の請求をすることができます(371条3項)。株主総会の議事録の閲覧には、このような制限がないのに、取締役会の議事録は裁判所の許可が必要になるのでしょうか。それは、株主総会は決議事項が限定されていて、株主総会自体がある程度公開の場でもある(招集通知や株主総会参考書類は公開されます)ので、その議事の内容・結果が公になっても、会社に不利益をもたらすことはありません。これに対して、取締役会では重要な業務執行が決議され、公開されれば会社に不利益となるような企業の秘密にわたる事項が議題とされることも少なくありません。したがって、そのような取締役会の議事録を株主等に無条件に閲覧謄写を認めてしまうと、会社は企業秘密の漏洩、権利濫用的な閲覧謄写を懸念して、議事録の記載内容をあたりさわりないものにしつね閲覧謄写しても意味のないものにしてしまう可能性があります。そこで一方では閲覧謄写請求の要件を厳格にし、会社の上記懸念を解くとともに、記載内容の維持を期待したからです。

会社債権者が、役員の責任を追及するために必要がある時も、これに同じです(371条4項)。

親会社社員も、親会社(例えば持ち株会社)の役員等の責任を追及するため、あるいは子会社の役員等の特定責任等を追及するためには、重要な子会社の経営状況を調査する必要があり得るので、裁判所許可を得て閲覧謄写請求をすることが出来ます(371条5項)。これに対して、裁判所は閲覧謄写により会社またはその親会社・子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは、許可を与えることができません(371条6項)。

Ø 取締役会への報告の省略(372条)

@取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない。

A前項の規定は、第363条第2項の規定による報告については、適用しない。

B指名委員会等設置会社についての前2項の規定の適用については、第1項中「監査役又は会計監査人」とあるのは「会計監査人又は執行役」と、「取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)」とあるのは「取締役」と、前項中「第363条第2項」とあるのは「第417条第4項」とする。

取締役、会計参与、監査役または会計監査人が取締役(監査役設置会社においては監査役を含む)全員に対し、取締役会に報告すべき事項を通知することにより取締役会への報告を要しないこととされています(372条1項)。取締役解の決議の省略と違い、取締役会の報告の省略については定款に規定する必要はなく、また、通知を受けた取締役の同意も要求されていません。

なお、取締役会の決議及び報告の省略の制度を用いて、全く取締役会を開催しないことは認められておらず、業務執行取締役による3ケ月に1回以上のの取締役会に対する業務執行状況の報告(363条2項)は、実際に取締役会を開催して行う必要があります。つまり、取締役会設置会社は、3ヶ月に最低1回以上は取締役会を開催する必要があることになります。また、「3ヶ月に1回以上」と定めているので、報告から次の報告までに3ヶ月を超えてはならないのであり、4半期に1回取締役会を開催すれば足りるということを意味するものではないとされています。 

Ø 特別取締役による取締役会の決議(373条)

@第369条第1項の規定にかかわらず、取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)が次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、取締役会は、第362条第4項第1号及び第2号に掲げる事項についての取締役会の決議については、あらかじめ選定した3人以上の取締役(以下この章において「特別取締役」という。)のうち、議決に加わることができるものの過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行うことができる旨を定めることができる。

一 取締役の数が6人以上であること。

二 取締役のうち1人以上が社外取締役であること。

A前項の規定による特別取締役による議決の定めがある場合には、特別取締役以外の取締役は、第362条第4項第1号及び第2号に掲げる事項の決定をする取締役会に出席することを要しない。この場合における第366条第1項本文及び第368条の規定の適用については、第366条第1項本文中「各取締役」とあるのは「各特別取締役(第373条第1項に規定する特別取締役をいう。第368条において同じ。)」と、第368条第1項中「定款」とあるのは「取締役会」と、「各取締役」とあるのは「各特別取締役」と、同条第2項中「取締役(」とあるのは「特別取締役(」と、「取締役及び」とあるのは「特別取締役及び」とする。

B特別取締役の互選によって定められた者は、前項の取締役会の決議後、遅滞なく、当該決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければならない。

C第366条(第1項本文を除く。)、第367条、第369条第1項及び第370条の規定は、第2項の取締役会については、適用しない。

ü 特別取締役の制度(373条1項)

特別取締役の制度は、取締役会の決議事項のうち日常業務的色彩の濃い362条4項1号及び2号について、その決定を一部の取締役に委ね、取締役会はより基本的な事項の審議に専念することを可能にすることを目的とする制度です。

特別取締役が決定を委ねられた事項(362条4項1号及び2号)

a)重要な財産の処分及び譲受け

b)多額の借財

※特別取締役の制度は、旧商法の平成14年改正により大会社に認められた「重要財産委員会」の制度(商法特例法1条の3)を会社法制定時に手直ししたものです。特別取締役は、上記a)b)の事項を決定する権限を当然に有し、取締役会が事項・金額等を限定して権限の委任を行うことはできません。さもないと取引の相手方に特別取締役の権限の範囲を確認する必要が生ずるからです。もっとも、特別取締役を選定しても、取締役会が上記a)b)の事項を決定する権限を失うわけではなく、両者が同一の事項について異なる決議をしたときは、通常の取締役会で同一事項について二度決議が行われた場合と同様の法律関係となります。特別取締役による取締役会については、株主・監査役による取締役会の招集請求の規定及び書面決議の規定は適用されません(373条4項、383条4項)。他の取締役の出席義務はなく(373条2項)、監査役は原則として出席義務を負いますが、監査役の互選により、監査役の中からとくにその取締役会に出席する監査役を定めることもできます(383条1項但書き)。この場合でも招集通知は全監査役に送付されます。

ü 特別取締役による決議(373条1項)

指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社は、次の二つの要件に該当する場合には、取締役会が3人以上の取締役を特別取締役に選定し、この特別取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって、上記a)b)の決議をすることができる旨を定款に定めることができます(373条1項)。

特別取締役を選定できる要件

ア.取締役が6人以上

←機動的かつ頻繁に取締役会を招集することができる少人数の取締役会には制度の必要性がないため

イ.1人以上の社外取締役の存在

←当該権限委任をしても取締役会の監督機能が働き得ることを保障する必要があるため

すなわち、上記ア.イ.の要件を満たす会社は、a)b)の事項の決定権限を特別取締役に委任することが認められるのです。

※上記のような特別取締役を選定する要件が設けられたのは、次のような事情からです。重要な財産の処分・譲受及び多額の借財の決定が取締役会の法定決議事項となった明定されたのは、昭和56年の商法改正においてです。当時の上場会社の倒産の多くはワンマン社長が暴走して過大な設備投資等を行った結果であったことを反映しています。近年、当該事項が取締役会の法定決議事項であることが会社の迅速な業務執行の決定を阻害しているとの批判が現われたため、特別取締役への権限の委任が認められたが。ワンマン社長とその側近の暴走の危険が消滅したわけではないことから、1人以上の社外取締役選任が、その要件として、牽制が図られているからです。

特別取締役の互選により定められた者は、特別取締役による取締役会の決議後、当該決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければなりません(373条3項)。

特別取締役による議決の定めがある会社は、その旨、特別取締役の指名及び社外取締役の指名を登記しなければなりません(911条3項、商業登記法47条2項12号)。


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