1.IRの定義
(5)そのようなIRをどのように進めるのか
 

 

さて、この章の前提となる考察も終盤に入ってきました。ここまでIRの定義について考えてきましたが、それをどのように進めていくべきなのか、ということを考え行きたいと思います。とはいっても、ここで取り上げるべき内容は、これまでのところで少しずつ出てきているので、ここまで順を追って読んできた方は、議論の粗方は既に出て来たものということになります。ここでは、それをまとめて一つの方向として提示したいと思います。

ここまで、IRについての総体としての定義を確認し、誰がどのようなことを行うのかということを考えてきました。しかし、誰がという要素も何がという要素も単独で成立して言わるわけではなく、それぞれに相互に関係しているわけです。経営者がすることだからこそ、このようなことをしなければならない、というようなことです。だから、ここにどのように行うかということも、誰かの要素でも何がの要素でも考慮されていました。同じように、ここでも相互の関係で検討していくことになります。

先ず、NRIの定義に立ち帰ると“企業と金融コミュニティやその他のステークホルダーとの間に最も効果的な双方向コミュニケーションを実現する”と指摘されています。つまり、IR=INVESTOR RELATIONSということは投資家との間に双方向のコミュニケーションを成立させていくことが必要なのです。この理由については以前検討したので、ここでは省略しますが、企業がIR活動をしていく際に、双方向のコミュニケーションを志向していかなければならないということになります。だから、例えば決算発表というIRがすべき何かについて、双方向のコミュニケーションというどのようにの手段で進めていくということなのです。具体的にはどういうことかというと、決算発表というIRがすべきことは、双方向のコミュニケーションではなく一方的な発表ではIRの定義を満たさないということです。もっと言えば、単に決算結果の数字を一方的に発表して終わり、ということでは投資家と関係を成立させることはできない、ということです。しかし、現実に決算発表を一人一人の投資家と個別にミーティングをして周知されるのかといえば、現実的には不可能でしょう。だから、企業に出来ることは、決算発表においても投資家と質疑応答することを想定して、代表的な質問事項等を念頭に置いて、聞かれる前にあらかじめ発表してしまう、ということではないでしょうか。「投資家の皆さんは、きっとこう言うことを質問したいでしょうから、当社としては先に答えてしまいましょう」というニュアンスは、たとえ、一方的な決算発表であっても、コミュニケーションの要素を内包しています。ということになれば、決算発表において単に決算数字の発表にとどまらず、その数字が出てきた背景とか原因なども詳しく説明しようとする姿勢が求められていると思います。だから、決算説明会というIRイベントについても、企業が一方的に説明するというよりも、実はミーティングに近いものと考えるべきではないでしょうか。かつてGEのCEOにジャック・ウェルチが就任したときに、投資家とのミーティングについて、彼以前のCEOが用いていたIR部門の作成するシナリオを廃止し、自らの言葉で投資家に語りかけ、その場での議論を尊重するようにしたといいます。その結果、GEは市場の評価が高まり、その後の経営でそれを活かすことができたといいます。これはIRの一つの典型、理想に近い例と考えてもいいと思います。

次に検討することは、IRは誰がするのかということに関連したことです。IRは原則として経営者が行うことです。だから、IRは経営者が行うようにしなければなりません。具体的にどういうことかというと、例えば決算発表のさいに、上で考えたように単なる決算数字だけではなくて、その数字が成立した背景とか原因も合わせて説明するということになれば、事業環境やその時期に企業が実行した施策についても説明しなければなりません。そのときの説明は経営者の視点で行っていかねばならないということです。企業の中の一部の事業部の業績の説明は、その事業部の業績ではなくて企業全体の業績なのです、だからそれが全体にどのように貢献したかという視点で説明されなくてはならない、ということです。これは単一の事業だったら問題はありませんが、仮にある時期の事業環境がA事業部にとっては有利でB事業部にとっては障害となってしまったという場合、各々の事業部の立場ではなく、企業全体の経営という視点で見た場合の事業環境の評価認識を説明しなければならないということです。というのも、投資家は個々の事業部に投資するのではなくて、全体としての企業に投資するのですから。

この二点については、相互に関係しています。例えば、IR担当者の方はアナリストの取材を受けたり、機関投資家とのミーティングをする場合に、企業の担当者ではあっても企業を代表して対応しているはずです。そこでは、アナリストやファンドマネージャーは担当者の話ではなく、企業がどうなのか、ということは経営者がどうなのか、ということを聞きたいのです。そのとき、企業の担当者は経営者に代わって、経営者が話すべきことを話しているはずです。

このような、どのようにという要素がまた、何をすべきかという要素を規定してもいると考えられます。

以上がIRに関する定義、総論的な議論です。次章では、各論に移り、このようなIRという定義を基に、実際の企業のIRの実践において、IRを実行して行くということを検討して行きたいと思います。

ゆゆではIRは経営責務であると明確に述べている。ということは、IRは経営者がすべきことであるということだと考えられる。あえて諄い説明はしないが、これまでIR 
 

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