3.戦略的IR (1)ホームページ
2)ホームページというツールの特性
 

 

ここでは、前項で議論してきた理由の前提となっている、インターネットによる情報伝達の特徴、とりわれ他の媒体と違うのは、どのようなところかということを考えていきたいと思います。

まず、ネガティブなところから考えていきますが、ホームページというのは、単位内で伝達できる情報の量と質の関しては、ミーティングや紙媒体には圧倒的に負けるということです。これには異論がある人が多いと思います。例えば、投資家が実際に企業を訪問して、5分間、IR担当者と社内で話をすることと、5分間ホームページを隅から隅まで見て回る、ということを、投資家の人にどちらかを選択してくださいと問いかけると、企業の実力を真面目に評価し投資しようという人なら、間違いなく前者を選択すると思います。それは、訪問して、実際に話をすることで得られる情報の質と量が段違いに多く密度が濃いからです。実際にホームページを作ったことのある人なら分かるのですが、ホームページの画面は制約がかなり多いのです。これは情報をデジタル化させる時点でアナログの情報を切り捨てて行かなければならないという、デジタル情報に本質的な制約があります。例えば、音楽が好きな人なら、デジタルで録音された音楽の情報とすべて10に音の情報を二元化されてしまうので、原音の曖昧な音の情報が切り捨てられてしまって、極めて貧弱な音になってしまうのです。ネットに流れているオフィシャルな音楽ソースは人間の脳の錯覚を利用してそう聞こえるように人間の想像力を刺激している、いわば誤魔化しの音質でデータを分析すれば情報量についてはアナログ録音に敵いません。

もっと直接的な例でいえば、紙媒体の場合、説明会を聞いて補足的にメモを書き込んだとします。その場合、書き込んだインクの古び方によって、後で見た時にいつ頃書き込んだのかということが、だいたい分かる。あるいは手書きの字の状態から、書き込んだ時の気持ちも想像できます。しかし、コンピュータに画面に入力しても、そういう情報はすべて切り捨てられてしまいます。私は以前採用担当をしていたことがありますが、今の新卒の場合はエントリーシートをインターネットで送るようになりましたが、以前は紙に手書きの履歴書を書いて送ってきたのを見ていましたが、それを見ると、書いた人の空間のデザイン力とか企画力、あるいは緊張感を持続できるかという能力がある程度把握できてしまうし、大抵の場合本気度が推測できてしまうのです。しかし、デジタルのエントリーシートではそういう情報は伝わらないでしょう。

しかし、ホームページの場合には、単位当たりの情報量と質では他の媒体に劣るのですが、これを利用する方法が多彩だという点が優れている点だと思います。つまり、単位を組み合わせて構造的なものにすることに適しているのです。その代表的な機能がリンクと検索です。単位当たりの情報は劣りますが、その一部や全部をリンク機能を使って直接的につなげることができる。リンクの凄いところは方向性の制約がないことです。たとえば、ミーティングは一度にやり取りされる情報はすごいものがありますが、1度きりで繰り返しができません。一度逃したらお終いなのです。また、印刷媒体は索引とか注記のようなリンクに近いものはありますが、手間がかかるのと量も質も限定されて、あまり機能していません。ホームページは様々な単位を様々に組み合わせて、情報の関連性を追い求めて、あらたな関連をつくりだすことによってひとつの情報が何重にも生かすことが可能になるのです。それも、関連付ける範囲に制約がないのです。インターネットを通じて、全世界と関連付けることができるわけです。

実際の生活を考えてみてください。われわれは実生活の様々な場面で、様々に情報が錯綜し混沌とした中から、その都度何らかの情報をピックアップして判断を繰り返していると言えます。インターネットでリンクや検索の機能を通じて、ネット上の他の情報と何重にも関連付けられた情報は、一見無秩序に見えて、実は実像に近いということが考えられるのではないか。これに対して、紙媒体の冊子のようなものでは、一つ一つの情報を掘り下げて密度の高いものになっていますが、インターネットのような重層的な厚みは物理的に追求できません。また、部分的な深さを追求していくためには、深く掘り下げる経路が必要で、そのためには混沌として状況を整理し秩序づけることが必要になってきます。古代ギリシャ哲学でいうカオスに対するコスモスという操作です。それを徹底的に進めて行ったのはプラトンでイデアという理念形をつくりましたが、抽象的すぎて、実生活者から見れば多少嘘くさい、綺麗ごとに見えてしまうという点も現われて来てしまうものでした。そういうことを考えると、ホームページで、インターネットの特徴を活用することによって、説明会で紙媒体のような会社側が、会社側の視点で整理し秩序つけられた情報を一方的に提示させられるのではなくて、投資をする側が部分的個別的な情報が提示され、それがリンクという関連の網の目の中から、他の情報との関連も探しながら、投資家自身の視点で切り取って解釈することができる、つまり、一方的に受ける側ではなく、双方向で会社像を自分で作っていくことができる、結果についてはある程度の客観性も担保できるという企業情報のやり取りの可能性があると考えます。

このとき、既存の他の媒体は、ここで得られた会社像にしたがって、更に深く会社を知ることや、自身の会社像の検証をするために役立てることができる。うまくいげば、本来、投資をするということは、その会社に主体的に関わっていくことですが、その前段階で会社を知るということにおいても、インターネットの特性を生かすことによって主体的に関わることのできる機会を作ることができるのではないか、と思うのです。

これを読んだ人は、何か抽象的で非現実的というのか、一般的なインターネットとは企業のホームページの議論と毛色が違うので、変に思われるかもしれません。しかし、前々回で少し触れた、企業の対する情報収集のノウハウやインターネット活用ノウハウをもった、プロの投資家とは別の次元で投資能力をもった潜在的な人々がこれから市場に参入してくることをかんがえれば、そのような人々をターゲットとして考えてみたときな、あながち的外れとは言い切れないのではないか、と考えたりします。


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