一はホームページを作ることによって、企業の情報の伝わる範囲が拡大するということでした。このことにも関連していますが、インターネットというのは、それ以前のメディアに比べて劇的に情報の伝わる範囲が拡大し、伝わるスビードが加速しました。その理由はメディアの構造がこれまでと異なるものだったことによって、情報の質が変わったということが考えられます。単純に言えば、新聞などの活字に印刷される情報とインターネットを流れる情報では、同じ事項が取り上げられていたとしても、実は伝わり方、伝え方が全く違うものになっているということです。当然、そこで人々が受け取ることは違ってきます。メディアとしての新聞が衰退しているのはスピードだけではなくて、そもそも新聞の活字という形態で表わされる情報に対して人々のニーズが無くなってきているからです。つまり、インターネットというのはメディアとしても、単なる伝わり方にとどまらず、いかに伝えるか、何を伝えるかという点でも、以前のメディアと違う異質なメディアであるということです。だから、ホームページで如何に伝えるか、それによって伝わるものというのは、従来の活字の冊子や説明会で伝えていたこととは異質なものになる可能性をもつているということです。そこで、端的に言えば、従来の媒体では伝えることができなかった会社の情報を開示し伝えることができない。もっと掘り下げれば、もともと企業が出していなかった情報ですが、それはもともとあった情報を出せないでいたというのではなくて、そういう情報の出し方という切り口がなかったので、企業自身が気づいていなかったことがあるのではないか、ということでするもっと穿ったことをいうと、そこに経営上のヒントが埋もれていないと誰が断言できるでしょうか。IRということの本来的なあの方を考えれば、ホームページを作ることによるフィードバックをそこまで考えてもいいのではないか。大げさとか、ポジティブすぎるという批判はあるかもしれませんが、インターネットというのは大きなリスクの可能性も秘めていると考えられるわけですから、そこからリスクに見合うリターンが得られるはずだというのは、投資という視点でみれば当然のことで、そういうリターンを考えない方がむしろおかしいのではないか、です。何のためのインターネットなのかということを、果たして本気で考えているのか、ということです。最初のところで少し書きましたが、インターネット業者の人たちは、こういう議論が全くできない人たちばかりでした。
少し抽象的な話になりますが、伝え方が違えば伝わるものが違うということについて考えてみましょう。一般的には、伝える内容というものがまずあって、それを伝えるために手段がいろいろあると考えられているのではないかと思います。結論から言えば、そうではないのです。いかに伝えるかと何を伝えるかというのは、実は表裏一体で相互規定するような関係にあるというのです。それは、たとえば、記号学という分野で記号であるシーニュはシニフィエとシニフィアンの相互関係によって成立しているという議論があります。例えば、日本人は虹は7色といいますが、欧米人は5色といいます。なぜかというと欧米人の言葉には藍色というのがないのです。つまり、彼らにとっては藍色という概念がないから藍色という色を見分けることができない。彼らにはそういう色は存在しないのです。多分、彼らには虹という光のスペクトルのなかで青と黒の間にグラデーションのなかで見分けられないのでしょう。
単純で無理な当て嵌めかもしれませんが、ホームページを作ることによって、ここでの藍色という言葉のような、いままで青と黒の間で見分けがつかなかったことを見分けることで新たな情報を発見できるのではないか。そういう可能性が秘められていると思えるのです。そのためには、単に既に活字やミーティングで開示したものをそのままアップするとか、効率的に載せていくということはナンセンスであること。そういう情報をベースにホームページを構築していくことは折角のインターネットの可能性を自ら塞いでしまうことになりかねないのは、明らかであると思います。そして、思うにほとんどの企業のIRホームページが、そういう点で自暴自棄に自ら進んで陥っているように見えるのも、そういう理由です。
B 他のツールと連動させることによるシナジー効果
第3の理由はホームページ自体に限らないところでの理由です。第2の理由で、インターネットという新たな媒体で、伝える対象範囲と伝える方法・内容が拓かれたことによって、既存の媒体である活字媒体や説明会との関係を新たにつくることで、既存の媒体の位置づけや方法を考え直すことになるということです。ちょっと理解しにくいかもしれませんが、ホームページで、これまでに届かった人に情報が届くことになるなら、その人に対して説明会で面前のコミュニケーションのやり取りをして興味から企業の支持者に変わって行くことを促すような、つまり、媒体相互の連携やあるいは補完といったように各媒体を有機的に連動させることが考えられることです。これによって、既存の媒体をレベルアップあるいはスケールアップできる糸口が見つかるかもしれないし、あるいは、いままで無理な苦労して表わしていたことが、インターネットでは簡単にできるのであれば、分業ということも成立するだろう。その結果、重層的な情報開示ができるようになるのではないかということです。サッカーで単発的な攻撃よりも、フォワードやバックスが一体となって波状的に攻撃を繰り返していく方がゴールしやすいのと同じです。その点で、より戦略的にIRを考えることができるのではないか、ということです。