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第787条 新株予約権買取請求
 

 

Ø 新株予約権買取請求(787条)

@次の各号に掲げる行為をする場合には、当該各号に定める消滅株式会社等の新株予約権の新株予約権者は、消滅株式会社等に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

一 吸収合併 第749条第1項第4号又は第5号に掲げる事項についての定めが第236条第1項第8号の条件(同号イに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

二 吸収分割(吸収分割承継会社が株式会社である場合に限る。) 次に掲げる新株予約権のうち、第758条第5号又は第6号に掲げる事項についての定めが第236条第1項第8号の条件(同号ロに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

イ 吸収分割契約新株予約権

ロ 吸収分割契約新株予約権以外の新株予約権であって、吸収分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

三 株式交換(株式交換完全親会社が株式会社である場合に限る。) 次に掲げる新株予約権のうち、第768条第1項第4号又は第5号に掲げる事項についての定めが第236条第1項第8号の条件(同号ニに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

イ 株式交換契約新株予約権

ロ 株式交換契約新株予約権以外の新株予約権であって、株式交換をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

A新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、前項の規定による請求(以下この目において「新株予約権買取請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。

B次の各号に掲げる消滅株式会社等は、効力発生日の20日前までに、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。

一 吸収合併消滅株式会社 全部の新株予約権

二 吸収分割承継会社が株式会社である場合における吸収分割株式会社 次に掲げる新株予約権

イ 吸収分割契約新株予約権

ロ 吸収分割契約新株予約権以外の新株予約権であって、吸収分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

三 株式交換完全親会社が株式会社である場合における株式交換完全子会社 次に掲げる新株予約権

イ 株式交換契約新株予約権

ロ 株式交換契約新株予約権以外の新株予約権であって、株式交換をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

D新株予約権買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

E新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、消滅株式会社等に対し、その新株予約権証券を提出しなければならない。ただし、当該新株予約権証券について非訟事件手続法第百14条に規定する公示催告の申立てをした者については、この限りでない。

F新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、消滅株式会社等に対し、その新株予約権付社債券を提出しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債券について非訟事件手続法第114条に規定する公示催告の申立てをした者については、この限りでない。

G新株予約権買取請求をした新株予約権者は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。

H吸収合併等を中止したときは、新株予約権買取請求は、その効力を失う。

I第260条の規定は、新株予約権買取請求に係る新株予約権については、適用しない。

 

消滅会社の新株予約権者に対しては、存続会社の新株予約権または金銭を交付することができるとされています(749条1項4号)が、さらに当事会社の株主に認められる株式買取請求権と同様の趣旨で、消滅会社の新株予約権者に対しても、その保有する新株予約権の消滅会社に対する買取請求権が認められてします(787条1項1号)。

新株予約権者も、株主と同様に、組織再編行為によりその権利が影響を受ける場合があるため、そのような場合に新株予約権者に新株予約権買取請求権の行使を認めて新株予約権者の保護を図りながら、その一方で、会社の行うことのできる行為の幅を広げようとしたものです。なお、存続会社の新株予約権者に対しては、会社法は買取請求権を認めていません。新株予約権買取請求は、吸収合併等により新株予約権が消滅する場合の救済であり、存続会社の事業内容等に与える影響から保護するものではないからです。

新株予約権者の保護の必要性は、吸収合併、吸収分割、株式交換では、それぞれ異なります。合併の場合、本来は、新株予約権を含むすべての権利義務が包括的に承継され、消滅会社の新株予約権をあらためて考える必要はなく、合併の効力発生日に消滅する新株予約権の新株予約権者への実質的な対価の支払いが問題となります。これに対して、会社分割や株式交換の場合は、分割会社や完全子会社となる会社の新株予約権として残す場合が考えられ、承継の対象となる新株予約権について、発行時の新株予約権の内容との合致の有無が問題となり、承継対象とならない新株予約権について、発行時に新株予約権の内容として承継の定めがある場合に、承継されない不利益に対する保護が問題となります。

消滅会社の新株予約権者による新株予約権買取請求の詳細は、おおむね株主の株式買取請求と同じです。

ü 新株予約権買取請求権(787条1項)

新株予約権買取請求権が認められるのは、原則として消滅会社が新株予約権を発行している場合の新株予約権者です。ただし、合併に際して新株予約権者に対して存続会社の新株予約権を交付する場合で、その交付の条件が新株予約権の発行決議であらかじめ定められた条件に合致する場合は、対象外となります(786条6項)。

・吸収合併の場合(787条1項1号)

吸収合併の消滅会社の新株予約権は、本来、会社の債務として合併によって包括的に存続会社に移転し、対価として存続会社の新株予約権の交付を受けるはずですが、消滅会社の新株予約権者からみれば、合併の結果、権利行使によって消滅会社の株式の交付を受けることは不可能となり、また消滅会社から存続会社への債務者の変更となります。さらに、存続会社の新株予約権の交付を受けるとしても、当初の条件との合致について評価が分かれることもあり得ます。そこで、会社法は、合併の消滅会社の新株予約権は合併の効力発生日に消滅することとし(750条4項)、新株予約権に代わる存続会社の新株予約権または金銭を交付するということにしました。そして、合併契約の承継条件と発行時の承継条件とが合致する場合を除き、新たに新株予約権買取請求権を認めることにより新株予約権者の保護を図ることにしました。

・吸収分割・株式交換の場合(787条1項2、3号)

新株予約権買取請求が認められるのは、分割会社の新株予約権者のうち、以下に該当する者です。

@会社分割契約・計画に承継会社の新株予約権の交付を受け付ける旨を定められている者

A上記以外の分割会社の新株予約権者で、その保有する新株予約権に承継会社の新株予約権を交付する定めが別途されている者(発行決議において会社分割の際に承継会社の新株予約権を交付する旨の定めがされていたにもかかわらず、会社分割契約にその旨の規定がない者)

ただし、承継会社の新株予約権交付の条件が、分割会社における新株予約権の発行決議と合致しているものは除くこととされています。新株予約権引受けの際に会社分割による新株予約権交付の条件にすでに同意している新株予約権者に対して買取請求の保護を与えるのは不要としたものです。

ü 新株予約権付社債の新株予約権および社債の買取請求(787条2項)

新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、新株予約権付社債が新株予約権と社債とを分離して譲渡することができない(254条2、3項)等、新株予約権と社債とが一体的な取り扱いを受けます。このため、新株予約権付社債の新株予約権について買取請求をする場合は、別段の定めがない限り、あわせて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければなりません(787条2項)。

別段の定めとは、新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求を行う際に、その社債の買取請求をしないことができる旨の定めであり、その内容はとくに限定されていません。実務上は、転換社債型新株予約権付社債の場合には、新株予約権部分と社債部分とが一体不可分の商品で、新株予約権とともに社債の償還がなされることが通常です。転換社債型新株予約権付社債以外の新株予約権付社債の場合には、新株予約権付社債とは別に社債部分を残す余地があるが、ほとんど利用されていないのが実情であろう。

ü 新株予約権買取請求権利の行使要件

新株予約権買取請求が認められるのは、原則として消滅会社が新株予約権を発行している場合の新株予約権者です。ただし、合併に際してこのような新株予約権者に対して存続会社の新株予約権を交付する場合で、その交付の条件が新株予約権の発行決議であらかじめ定めた条件に合致する場合は、除かれています(787条1項1号)。

新株予約権ン位鳥請求権の行使のためには、株式買取請求と同じように、新株予約権者が効力発生日の20日前から効力発生日前日までの間に、買取請求にする新株予約権の内容および数を特定して、買取請求権を行使する旨を消滅会社に対して通知しなければなりません(787条5項)。なお、新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合、新株予約権について別段の定めがない限り、社債の買取もあわせて請求しなければならないものとされています(787条2項)。

なお、新株予約権は、会社に対する払込と引き換えに一定数の株式の交付を受けることができるという一種の債権であり、経済的出損の済んだ株式とは異なり、株式会社は業務執行の一環として自己の新株予約権を取得することができます。発行会社による新株予約権の取得については、一般的に、自己株式取得の場合のような財源規制や手続規制はありません。

・新株予約権の登記

組織再編に伴い新株予約権の登記が必要となります。吸収合併の存続会社について変更の登記(915条1項)、吸収分割の分割会社および承継会社についての変更の登記(923条)、株式交換の完全親会社についての変更の登記(915条1項)をしなければなりません。

ü 新株予約権者に対する通知・公告

株式買取請求権の場合と同じように、新株予約権者に権利行使の機会を提供するために、消滅会社は、その新株予約権者に対して通知をしなければなりません(787条3項)。これは、合併に際して新株予約権発行時にあらかじめ決議した条件に従い存続会社の新株予約権を交付する新株予約権者も含めた消滅会社はすべての新株予約権者に対して通知をしなくてはなりません。これは、存続会社の新株予約権の交付に関する新株予約権発行時の条件と実際の合併時の条件が合致しているかについて争いが生じる可能性があるからです。新株予約権者に対する通知は、効力発生日20日前までに、吸収合併をする旨ならびに存続会社の商号と住所を通知しなければなりません(787条3項)。消滅会社が新株予約権者に対して行う通知は、無記名新株予約権の場合を除き、新株予約権原簿に記載(記録)された新株予約権者の住所に宛てて発送すれば足り、通知は、その通知が通常到達すべき時に到達したものとみなされます(253条2項)。無記名新株予約権の場合は、新株予約権者の氏名等は新株予約権原簿に記載(記録)されず、新株予約権番号のみが記載(記録)されるので、公告にすることになります。

消滅会社は、新株予約権者に対する通知を公告に代えることもできます(787条4項)。なお、この場合、株式買取請求の場合とは異なり、特に公告に代えることができるための条件等の定めはなく、消滅会社は、新株予約権者に対する新株予約権買取請求権行使の機会の提供の方法としてはその裁量で通知または公告を選択することができます。

新株予約権付社債の場合、社債の受託会社に対して通知がなされ(789条2項)、新株予約権先社債所持人に対しては、新株予約権付社債の要綱に従い、新株予約権付社債に関する提案、さらに予定される組織再編行為の効力発生日について通知されます。また新株予約権付社債を有するものは、新株予約権者と社債権者の両方の地位を併せ持つことから、組織再編行為に、新株予約権買取請求手続きと債権者異議手続きとの両方の手続きによる保護を受けることができます。

・通知を受ける新株予約権者

新株予約権買取請求をすることができる新株予約権者の範囲と通知を必要とする新株予約権者の範囲は異なります。すなわち、吸収合併消滅会社の全部の新株予約権者が通知を受けることになります(787条3項1号)が、存続会社の交付する新株予約権の割当て等の条件が236条1項8号の条件と合致するときは新株予約権買取請求の対象とはなりません。

・吸収分割において通知を受ける新株予約権者

会社分割において通知を受けるのは、分割会社の新株予約権者のうち、以下に該当する者です。

@会社分割契約・計画に承継会社の新株予約権の交付を受け付ける旨を定められている者

A上記以外の分割会社の新株予約権者で、その保有する新株予約権に承継会社の新株予約権を交付する定めが別途されている者(発行決議において会社分割の際に承継会社の新株予約権を交付する旨の定めがされていたにもかかわらず、会社分割契約にその旨の規定がない者)

新株予約権者に対する通知には、(a)会社分割をする旨、(b)承継会社の商号および住所、(c)振替新株予約権・振替新株予約権付社債を発行している場合は買取口座を記載しなければなりません。

ü 新株予約権買取請求の撤回と失効

・新株予約権買取請求の撤回(787条6項)

新株予約権買取請求をした新株予約権者は。株式買取請求をした株主と同じように、会社の承諾を得た場合に限り、買取請求を撤回することができます(787条6項)。株式買取請求の場合と同じように、株価の動向を見ながら濫用的な買取請求が行われる可能性は否定できないことから、撤回が制限されたと考えられます。

なお、買取価格の決定について、効力発生日から30日以内に協議が調わない場合、効力発生日から60日以内に裁判所への価格決定の申立てがないときは、その期間満了後は、新株予約権者はいつでも、新株予約権者は、いつでも新株予約権買取請求を撤回することができます(788条3項)。

・新株予約権買取請求の失効(787条7項)

新株予約権買取請求が行われた後に会社が吸収合併等を中止した場合は、もはや新株予約権の買取りを請求する理由はなくなることから、株式買取請求の場合と同じように、新株予約権買取請求の効力が失われます(787条7項)。新株予約権者は企業価値が増大するかもしれない組織再編を中止しないことを望むかもしれませんが、そのような場合でも、中止により元の状態に戻るにすぎないため、買取請求を認める必要はありません。

ü 公正な価格(787条1項)

吸収合併等が行われる場合に、消滅会社等の新株予約権の新株予約権者は、消滅会社等に対して、自己の有する新株予約権を「公正な価格」で買い取ることを請求することができます(787条1項)。「公正な価格」とは、株式買取請求権の場合と同じように、経済界で一般に公正妥当なものとして受け入れられている評価方法に基づいて算定される価格です。新株予約権の評価については、これまで募集新株予約権または新株予約権付社債の有利発行における新株予約権の公正な価格、すなわち発行時点の新株予約権の金銭的評価が問題とされてきましたが、新株予約権買取請求権は、新株予約権発行後、権利行使期間内の一定時点での評価が問題となります。

・新株予約権の評価─オプション評価理論

新株予約権がオプションとしての性質を持つことから、その「公正な価格」の評価について、オプション価格理論を踏まえることが求められます。新株予約権の発行時の評価については、新株予約権の有利発行該当性の判定をめぐり議論が蓄積されました。

実務では、オプション評価理論として、ブラック=ショールズ・モデルによる算定、格子モデル、モンテカルロシミュレーションによる算定を、一般的な価格算定モデルとして採用した実例がありますが、裁判所は、どれか1つのモデルを排他的に採用するのではなく、1つのモデルから得られた結果を他のモデルによる結果と照らし合わせることにより、その評価の妥当性を検証するというアプローチを採用する傾向にあります。

・新株予約権付社債の評価

新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、新株予約権の買取請求をするとき、別段の定めがある場合を除き、あわせて社債の買取も請求しなければなりません。この場合、新株予約権の部分と社債の部分とに分けて評価するのではなく、新株予約権付社債として一体として評価することになります。

・発行後の一定時点における新株予約権の評価─「ナカリセバ価格」

新株予約権買取請求権の基準日における評価の方法として、株式買取請求権の買取価格決定の場合と同じように、買取対象となる新株予約権と同一内容の新株予約権が市場で取引され参照に値する価格が成立していれば、これを基準として「公正な価格」を算定する余地もあるが、新株予約権は発行ごとに内容の異なる新株予約権が発行されるのが通例であり、市場価格が成立していることはほとんどなく、一定のモデルに従った評価が必要となります。

まず、新株予約権買取請求権は、新株予約権に定められた当初の条件と組織再編での条件が形式的に合致しないと判断される場合に認められますが、新株予約権の承継によって従前の権利の実質的価値が変更されないためには、合併と同時に新株予約権の権利内容・条件が変更されなければならず、その調整はオプションの行使により発行される株式の数および発行価額(権利行使価格)について、合併の条件として合併比率に従って自動的に行われる必要があります。このモデルは、組織再編などの条件に照らして、評価の基準日にあたかも新株予約権の行使が行われたかのように考え、それから株式を時価で譲渡した場合に新株予約権者が手にする利益をもとに経済的価値を測定する評価方法に見合うものです。このモデルは、行使価格と基準日時点の原罪株価という2つの変数に焦点を合わせたもので、評価の確実性、簡便性、適用の容易さという点でメリットがあり、さらに、場合により企業価値の増分としてのシナジーが考慮され、組織再編の条件に従った調整が行われれば、現在株価を通じて新株予約権の価値に影響を及ぼし、その限りでシナジーがとりこまれるというメリットがあります。

 

計算書類等の監査等(436条)    

計算書

 

 
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