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第749条 株式会社が存続する 吸収合併契約 |
Ø 株式会社が存続する吸収合併契約(749条) @会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社(以下この編において「吸収合併存続会社」という。)が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 株式会社である吸収合併存続会社(以下この編において「吸収合併存続株式会社」という。)及び吸収合併により消滅する会社(以下この編において「吸収合併消滅会社」という。)の商号及び住所 二 吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して株式会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅株式会社」という。)の株主又は持分会社である吸収合併消滅会社(以下この編において「吸収合併消滅持分会社」という。)の社員に対してその株式又は持分に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項 イ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収合併存続株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項 ロ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法 ハ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法 ニ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項 ホ 当該金銭等が吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法 三 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項 四 吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる当該吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭についての次に掲げる事項 イ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して吸収合併存続株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法 ロ イに規定する場合において、イの吸収合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収合併存続株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法 ハ 当該吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額又はその算定方法 五 前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する同号の吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項 六 吸収合併がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。) A前項に規定する場合において、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、同項第3号に掲げる事項として次に掲げる事項を定めることができる。 一 ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類 二 前号に掲げる事項のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容 B第1項に規定する場合には、同項第3号に掲げる事項についての定めは、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社並びに前項第1号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第2号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない。 吸収合併は合併当事会社の株主、債権者および消滅会社の新株予約権者等に重大な影響を及ぼすので、吸収合併契約のとくに重要な内容についてはその明確性および定められた事項についての不可変更性を確実にするために、会社法は吸収合併契約に一定の事項を定めるべきことを規定しています(749条1項)。すなわち、吸収合併の実行により、消滅会社の株主にとっては、その有していた消滅会社の株式が消滅し、通常、存続会社から合併対価の交付を受けることになります。そこで、株主が合併契約承認の株主総会で議決権を行使するためには、存続会社の同一性および交付される合併対価の内容等が吸収合併契約に記載され、明確にされることが重要となります。消滅会社の新株予約権者にとっては、その有していた消滅会社の新株予約権は消滅し、存続会社から存続会社の新株予約権または金銭の交付を受けることになるので、交付される新株予約権の内容等が吸収合併契約書に記載され、明確にされることが重要になります。消滅会社の債権者にとっては、その゜債務者が存続会社に更改されることになるので、存続会社の吸収合併後の財務状態いかんによっては、その債務の弁済に危険性が生ずることもあります。そこで、財務状態に関係する合併対価等の事項が吸収合併契約に記載され、その内容が明確にされ、かつ変動しないことが重要となります。存続会社の株主にとっては、交付する合併対価の内容いかんによっては、持分割合が減少し、また、持分の価値が減少することがあります。存続会社の債権者にとっては、通常、存続会社の債務額が増加することになるので、債権の弁済に危険性に変動が生じます。したがって、消滅会社の同一性および合併対価の内容等について、消滅会社の株主や債権者と同じように利害関係があります。 このように合併当事会社の株主、債権者および消滅会社の新株予約権者にとって、明確にされ確定されなければならない必要最小限の事項を吸収合併契約に記載しなければなりません(749条1項)。この記載事項を欠く場合、または記載事項が不実である場合は、原則として合併無効事由となります。 なお、存続会社が持分会社である吸収合併契約については751条、新設合併契約で設立会社が株式会社の場合は753条、設立会社が持分会社の場合は755条と、それぞれ規定されています。 ü
合併当事会社の商号および住所(749条1項1号) ・合併当事会社の確定 合併契約では、存続会社と消滅会社の商号と住所を規定しなければなりません。住所は本店の所在地(27条3号)では足りず、本店の所在場所(911条3項3号)が記載されなければなりません。商号と住所の記載により、会社の同一性が明らかとなるからです。また、いずれの会社が存続会社でいずれの会社が消滅会社であるかが明確になるように記載されなければなりません。それぞれの会社の種類、株式会社であるか持分会社である場合には合名会社、合資会社、合同会社の別が明らかにしなければなりません。これは、それぞれの会社の商号の中で明記されます。 <記載例> 第○条 吸収合併する会社の商号および住所 本合併にかかる吸収合併存続会社と消滅会社の商号および住所は次のとおりとする。 (1)吸収合併存続会社 商号:○○株式会社 住所:○○県○○市○○町○丁目 (2)吸収合併消滅会社 商号:△△株式会社 住所:△△県△△市△△町△丁目 ・合併当事会社の数 会社法では、新設合併は2以上の会社がするとされ、2社以上の当事会社による合併が想定されているのに対して、吸収合併は存続会社と消滅会社という2社の当事会社を想定しています。 ただし、このことは、実務的にみられる3社以上の当事会社による吸収合併を行なうことができないということを意味するものではありません。例えば、A会社、B会社およびC会社で吸収合併を行うとし、こううちA会社が存続会社、B会社およびC会社が消滅会社である場合には、A会社とB会社による吸収合併とA会社とC会社による吸収合併とが、同時に閉口して行われるということになります。この二つの吸収合併の契約をひとつにまとめた体裁で締結することは可能です。吸収合併契約書としては、3社契約ということになります。しかし、その場合は同一の書面に二つの吸収合併が規定されているということになります。そこでは、A社とB社の吸収合併が効力を発生しなかった場合に、A社とC社との吸収合併も効力を発生させないというのであれば、その旨を規定する必要があります。また、資本金および準備金に関する事項については、一方の吸収合併に関する変動と他方の吸収合併に関する変動とを分けて規定される必要があるなど、それぞれの吸収合併契約として必要的記載事項の要件を満たしている必要があります。 ü
合併対価(749条1項2号) 合併に際して、存続会社が消滅会社の株主に対して交付する「金銭等」は金銭その他の財産を言います(151条)。吸収合併存続会社が、吸収合併消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する金銭等を合併対価と言います(会社法施行規則182条2項)。 ・存続会社の株式 合併に際して消滅会社の株主に対して存続会社の株式を交付するときは、その株式の数(存続会社か種類株式株式会社の場合には、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法を定めなければなりません。 この場合「交付する存続会社の株式」は、新株だけでも、自己株式だけでも、また、新株と自己株式を混合してもかまいません。なお、通常、子会社は親会社の株式を取得することが禁じられていますが、合併対価とするために親会社の株式を取得することは特別に認められています(800条)。 「当該株式の数」は、吸収合併を実行する際に、存続会社が消滅会社の株主に対して交付する株式の総数のことです。「算定方法」とは、例えば消滅会社から承継する純資産の額を1億円と定め、交付する株式の数については、1億円を存続会社の株式の時価で除した数とする、ただし、合併契約が株主総会で承認された日の前日の取引所の終値を株式の時価とする、というような定め方です。 <記載例> 第○条 吸収合併存続会社(甲)は、本合併に際して、吸収合併消滅会社(乙)の株主に対して、その有する乙の株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の株主名簿に記載または記録された株主(甲および乙を除く)が保有する乙の株式数の合計数に××を乗じて得た数の甲の株式を交付する。 上記事例は、交付する株式数を確定数(存続会社が消滅会社の株主に対して交付する株式の総数)ではなく、株主名簿に記載された株式の数を基準として、数を裁定することとした事例です。存続会社が有する消滅会社の株式および消滅会社の有する自己株式は、対価の割当をすることができないので、対価の総数の計算の株式数からは除外することになります。 消滅会社に対して行われる株式買取請求の効力は、合併の効力発生日に生ずる(786条5項)ので、株式買取請求の対象となっている株式については、消滅会社が消滅し、対象となっている株式が消滅する直前(合併の効力発生の直前)に消滅会社による買取の効果が発生することとなるので、合併対価の算定の際には除外することとなります。 実務上は、株主名簿に言及して株式数を算定するという書き方が一般的です。 この事例のように総株式数の算定による場合は、消滅会社の株式数に一定の比率を乗じる形をとるのが一般的です。この場合に、比率を乗じて得た数について、端数が生じる場合は、「1に満たない数は切り捨てる」と付記する場合があります。この場合会社法234条1項の括弧書で端数は切り捨てと規定されているので、この付記は不要です。 ・存続会社の資本金および準備金に関する事項 合併の対価として存続会社の株式を交付する場合は、存続会社の資本金および準備金の額に関する事項を定めなければなりません。この場合に資本金および準備金として計上すべき額については会社計算規則35条および36条に規定があります。通常は、下の事例のように、これらの額の変動額を定めることになります。 条)。 <記載例> 第○条 本合併により変動する資本金および準備金の額は、以下のとおりとする。 1.資本金:○○円の増加 2.資本準備金:○○円の増加 3.利益準備金:変動せず。 他方、その他資本準備金およびその他利益剰余金に関する事項を定める必要はありません。これは、資本金、資本準備金および利益準備金の変動額が定まれば、その他資本準備金およびその他利益剰余金の変動額は一義的に定まるからです。 ・存続会社の社債(749条1項2号ロ) 合併に際して消滅会社の株主に対して、存続会社の社債を交付することができます。その場合、社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法を、合併契約書に記載しなければなりません(749条1項2号ロ)。この「社債の種類」については、744条1項5号イ、107条2項2号ロ、681条1号の規定により会社法施行規則165条に掲げる事項が社債の種類とされています。また、「社債の種類ごとの各社債の金額の合計額」は、社債原簿に記載されるべき種類ごとの社債の金額の対価として交付される合計額です(681条2項)。なお、この定めは消滅会社の株主に交付する社債の総体についての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかについては749条1項3号に定められています。 実務では、社債を合併対価として用いる場合、合併契約の別紙で、社債の条件を規定します。 ・存続会社の新株予約権(749条1項2号ハ) 合併対価が存続会社の新株予約権の場合には、新株予約権の内容および数またはその算定方法を合併契約に記載しなければなりません(749条1項2号ハ)。「新株予約権の内容」とは、会社法236条1項各号に掲げられている事項を意味しますが、排他的にこれだけと限定しているわけではありません。また、「新株予約権の数」については、具体的な数が記載それないときには、その数の算定方法として新株予約権の数を正確に算出できる数式を合併契約に記載されなければなりません。なお。この規定は消滅会社の株主に交付する新株予約権の総体としての定めであり、これを各株主にどのように割り当てるかは、別途749条1項3号として定められています。 実務で、新株予約権を合併対価として用いる場合には、合併契約の別紙として、発行要項に相当する内容を規定することになります。 <記載例> 第○条 吸収合併存続会社(甲)は、本合併に際して、吸収合併消滅会社(乙)の株主に対して、その有する株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(甲および乙を除く)が保有する乙の株式数の合計数(785条1項に基づく株式買取請求に係る株式数を除く)に××を乗じて得た数の別紙○に規定する内容の甲の新株予約権を交付する。 ・存続会社の新株予約権付社債(749条1項2号ニ) 合併対価が存続会社の新株予約権付社債である場合には、新株予約権付社債の社債については社債を合併対価として交付する場合の記載事項を、そして新株予約権付社債の新株予約権については合併対価として新株予約権を交付する場合の記載事項を合併契約に記載しなければなりません(749条1項2号ニ)。 ・その他の財産(749条1項2号ホ) 合併対価が存続会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債である場合には、その財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法を合併契約に記載さなければなりません(749条1項2号ホ)。 金銭を対価として用いて行ういわゆるキャッシュアウト・マネージャーや存続会社の親会社の株式を対価として行ういわゆる三角合併などは、このその他の財産の条項により、合併契約で、合併対価の規定を設けることになります。 対価として交付する財産に制限はないので、消滅会社の株主に対して、その有する株式の数に応じて平等に交付することができる性質のものである限り、対価として用いることが可能です。具体的に以下のようなものが考えられます。 @)存続会社以外の会社の株式等 存続会社以外の会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債を合併対価とする場合は、これまでの存続会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債併を合併対価とする場合に記載されるべき事項についての゜規定が準用されます。株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の別に応じて、それぞれの場合の記載事項が記載されなければなりません。 そして、株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の発行会社自体についての記載も必要となります。 具体的には、合併契約に記載されるべき財産の内容には、@合併対価としての株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債の発行会社である会社の商号、A国籍および住所(所在場所)、B発行団体の国での業組織上の位置付け、Cそこで使用されている言語等の記載が必要となります。 A)公債 合併対価が国際その他の公債の場合には、原則として、合併対価が存続会社の社債である場合に合併契約に記載されるべき内容に相当する内容の記載が必要と考えられます。なお、それに加えて、公債の場合、その発行団体についての記載も必要となると考えられます。 具体的には、合併契約書に記載されるべき財産の内容としては、@合併対価としての公債の発行団体等の名称、A国籍および住所(所在場所)、B発行団体などの国内での行政組織上の位置づけ、またはどのような団体かの記載、C団体で使用されている言語等の記載が必要と考えられます。 B)金銭 合併対価が金銭の場合、存続会社が消滅会社の株主に合併対価として交付する金銭の総額が記載されなければなりません。 金銭が外国通貨であるときは、外国通貨による総額を記載した上で、吸収合併契約を承認する株主総会の日または可能な限りそれに近い日の為替レートおよび取締役会で合併契約が承認された日の為替レートによる日本円への換算金額での記載も必要となります。 C)キャッシュアウト・マネージャー たとえば、合併対価の全部を金銭として吸収合併を実行することにより、消滅会社の少数派株主から株主の地位を奪い、他方で、消滅会社の事業はそのまま存続会社が承継するのが、キャッシュアウト・マネージャーです。この場合、消滅会社の多数派株主も株主の地位を失うことになりますが、多数派株主は、事前に存続会社の株主になってもらう仕掛けが構築されています。 D)三角合併 吸収合併では、ある会社(A社)がその権利義務のすべてを他の会社(B社)に承継させ、A社は消滅し、B社は存続します。このとき、A社株式も消滅するため、A社の株主に対しては原則としてB社から合併の対価が交付されます。B社からA社株主に対して交付することのできる対価の種類には会社法上特に制限はありません。そして、この合併の対価としてB社の親会社(C社)の株式がA社の株主に交付される吸収合併を、三角合併といいます。
実際の具体的場面としては、A社が上場会社であり、B社が非上場会社である場合に、B社を存続会社とする吸収合併によりA社の株主に対して非上場会社であるB社の株式が割り当てられると、A社株主は保有する株式の流動性が低下するという不利益を被ります。この対応として、C社が上場会社である場合には、C社がA社を消滅会社として吸収合併するという方法も考えられます。しかし、A社にとってはC社ではなくB社と合併をした方が望ましい場合もあります。たとえば、A社とB社が同業を行っており、A社がB社に吸収合併された方がより多くのシナジーを得られるケースが考えられます。そのような場合には、B社が吸収合併の存続会社になりつつも、合併の対価は、上場会社である親会社C社の株式とすることができれば、A社の株主にとっては合併により交付される新たな株式についても、流動性を維持することができることになります。 <記載例> 第○条 吸収合併存続会社(甲)は、本合併に際して、吸収合併消滅会社(乙)の株主に対して、その有する株式に代わる金銭等として、効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載または記録された株主(甲および乙を除く)が保有する乙の株式数の合計数(785条1項に基づく株式買取請求に係る株式数を除く)に××を乗じた数の○○株式会社(丙)株式を交付する。 ・無対価 合併に際して、消滅会社の株主に対して対価を交付しない、いわゆる無対価合併については、749条1項2号の条文で「…交付するときは」という条件節を含めた文章になっているので、交付するときの他のときも想定しているという解釈から、無対価の合併も認められていると解されています。この場合には、合併契約書にその旨を記載することが必要です。 無対価合併が行われる定型的な場合は、100%親子会社関係にある親子会社で、親会社を存続会社、子会社消滅会社として吸収合併を行う場合です。その他に、共通の会社を100%親会社とする2つの子会社が合併を行う場合です。この場合には、消滅会社の唯一の株主が存続会社の唯一の株主なので、存続会社の株式を対価として交付したとしても、経済的には何も起こらないのだ、無対価であることに合理性があります。このほか、存続会社と消滅会社の間で、消滅会社が債務超過にあり、対価を交付しないで合併を行うことに合理性があると考えられます。 ü
合併対価の割り当て(749条3項) 合併契約には、消滅会社の株主に対して交付する対価の総体についての規定の他に、これを各株主にどのように割り当てるかの定めをすることになります(749条1項3号)。法律上は別の条文になっていますが、合併契約では、契約書の条文として1つの条項の形式で規定するとしても差し支えありません。 ・割当比率(合併比率) 合併対価を各株主にどのように割り当てるかとういうのは、消滅会社の株式1株について交付される合併対価の内容および数・額・量が合併契約に定められるということで、これを割当比率または合併比率といいます。 割合比率が消滅会社の株主にとって重要であることは言うまでもありません。 ※合併対価の割当を受けない者 損沿合併存続会社は原則として消滅会社の株主に合併対価を交付しなければなりませんが、消滅会社が自己株式を保養している場合、そして存続会社が消滅会社の株式を保有している場合、これらの株式については合併対価を交付してはならないとされています(749条1項3号括弧書)。 ※合併対価の割当の基準時 存続会社の合併対価の割当てを受けるべき消滅会社の株主は、どの時点の株主か特定する必要があります。それが基準時です。割当てされる基準時に株主名簿に記載されている株主に対して合併対価を割り当てるということになります。実務上は合併契約書に合併の効力発生日またはその前日における株主と合併契約に記載されることが多いようです。 ・種類株式の場合の特則 吸収合併に際して、合併消滅会社が種類株式発行会社である場合には、種類株式の内容に応じて、ある種類の株式の株主に対しては対価の割当をしないこととすること、また、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いをすることが許容されています(749条2項、3項)。例えば、消滅会社が優先株式と普通株式を発行している場合、優先株の株主に対しては合併対価の割当てをしないというケースです。 吸収合併に際して存続会社が消滅会社の種類株主に交付する金額等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨および異なる取扱いの内容を、合併契約で定めなければなりません(749条2項)。また、異なる種類株式について、それぞれの評価価値が異なる場合は、合併対価がその内容または数、量、額において当然異なってきます。 ・株主平等の原則 吸収合併契約における合併対価の定めは、原則として、消滅会社の株主の有する株式の数に応じて交付することをないようとするものでなければならない(749条3項)とされています。これは、存続会社は、消滅会社の株主に対して、株主平等の原則に従って、合併対価を交付しなければならないと言っているのと同じです。 合併対価の割当ての定め方は、消滅会社の株主の有する株式の数に応じて金銭等を交付する内容でなければならないことは、合併対価の内容および価値の両方の面で求められています。したがって、存続会社のA種類株式とB種類株式の価値がたまたま等しくても、消滅会社の株主Cに存続会社のA種類株式1株、消滅会社の株主Dには存続会社のB種類株式1株を交付するという定め方は認められません。 合併契約に上記のような株主平等の原則に反する定めをした場合、原則として合併無効事由となりますが、消滅会社の株主の全員の同意がある場合には合併無効事由にはなりません。 ※株主平等の原則の例外 株式会社の株主が消滅会社の株主である場合(自己株式)、および存続会社が消滅会社の株主である場合には、その株式には合併対価が割り当てられません。したがって、これらの者には株主平等の原則の適用はありません。 に合併対価を交付しなければなりませんが、消滅会社が自己株式を保養している場合、そして存続会社が消滅会社の株式を保有している場合、これらの株式については合併対価を交付してはならないとされています(749条1項3号括弧書)。 ・合併比率公正の原則 存続会社が消滅会社の株主に交付する合併対価は、消滅会社の株主が有する株式の経済的価値に応じて公正に定められなければならないという考え方、言い換えると、消滅会社の株式の価値と交付される合併対価の価値とがある程度等しく定められなければならないとする考え方を合併比率公正の原則と言います。 消滅会社の株主から見た合併比率公正の原則は、合併実行前に有していた消滅会社の株式の価値とほぼ同額の合併対価の交付を受けられるということになります。吸収合併の実行において、消滅会社の株主の保護の必要性は、存続会社の株主の保護の必要性に比べてはるかに高いものと言えます。存続会社の取締役にとって、合併比率の決定は、一種の経営判断の問題ですが、消滅会社の取締役にとっては、株主との間に利益相反がある可能性が否定できないからです。 存続会社の株主から見た合併比率の公正とは、消滅会社から承継する財産の価値が、存続会社が消滅株主に交付する合併対価の総価値とがおおむね均衡するということです。例えば、金銭を合併対価とする場合、消滅会社から承継する財産の価値とほぼ同額の金額を存続会社が合併対価として交付すると、存続会社には損失が生じないことになり、存続会社の株主も損失が生じないことになります。 <記載例> 第○条 第○条の対価の割当てについては、効力発生日の前日の最終の吸収合併消滅会社(乙)の株主名簿に記載または記録された各株主(甲および乙を除く)に対し、その保有する乙の株式数(785条1項に基づく株式買取請求に係る株式数を除く)に××を乗じて得た数の甲の株式を割り当てる。 ü
新株予約権者に対する対価とその割当て(749条1項4、5号) 合併によって消滅する会社が新株予約権を発行している場合、その新株予約権は合併の効力発生日に消滅します(749条4項)。そこで、会社法は、消滅会社が発行した新株予約権を有する新株予約権者を保護するために、吸収合併に際して消滅会社の新株予約権者に対して、必ず存続会社の新株予約権または金銭を交付することとし、吸収合併契約に交付される存続会社の新株予約権の内容および数または金銭に関する事項、ならびにその割当てに関する事項しなければならないとしています(749条1項4号)。 ・対象となる消滅会社の新株予約権 条文には明記されていませんが、保護の対象となる新株予約権は、権利行使期間の最終日が吸収合併の効力発生日以後に設定されている新株予約権です。というのも、効力発生日までに権利行使期間の最終日が到来する新株予約権については、その新株予約権者が合併の効力発生日までに権利行使をするか、権利行使をせずに新株予約権の消滅を甘受するかを、自己の意思により選択することができるからです。権利行使期間が経過すれば新株予約権は消滅するから、吸収合併の効力発生日以前に権利行使期間の末日が到来する新株予約権については、合併契約でとくに保護すべき定めをおく必要はありません。 ・対価の種類 消滅会社の新株予約権者に対して交付することができる対価は、存続会社の新株予約権または金銭に限られます。この点は、株主に対して交付する対価とは異なる点です。交付される存続会社の新株予約権は新たに発行されるものでも、存続会社が保有する自己新株予約権でも可能であり、このどちらかを特定する必要はありません。また、新株予約権者に対して、対価を交付しないというのも可能です。 存続会社が消滅会社の新株予約権者に存続会社の新株予約権を交付するときは、新株予約権の内容および数(総数)または算定方法を合併契約に記載されなければなりません。なお、消滅会社が新株予約権の内容として、同社が吸収合併の消滅会社となった場合に、存続会社の新株予約権を交付する旨およびその条件が定められていたとしても、その通りに合併契約に定める必要はありません。契約は消滅会社の意思だけで決まるものではないからです。 存続会社が消滅会社の新株予約権者に金銭を交付するときは、金銭の額またはその算定方法を記さ推しなければなりません。 ・新株予約権付社債の取扱い(749条1項4号ロ) 消滅会社の新株予約権付社債については、そのうち新株予約権部分は、合併の効力発生により消滅します(749条4項)が、社債部分は金銭債務であるので、合併が成立したからといって消滅するわけではなく、存続会社に承継されることになります。新株予約権部分に対価として存続会社の新株予約権が交付される場合には、社債部分の承継の条件として、承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法を定めることができることになっています(749条1項4号ロ)。この条文の文言からは、社債の種類を、合併を機に変更することができそうに読めますが、実際上は、そのような変更が合理的とされるケースは稀であると考えられます。そこで新株予約権付社債の場合、原則として、社債部分も一緒にカイトの請求の対象となる(787条2項)と考えられます。 ・新株予約権の割当と株式買取来請求(749条1項5号) 存続会社が消滅会社の新株予約権者に対して、存続会社の新株予約権または金銭を交付する場合の、その割当てに関する事項が、合併契約に記載されなければなりません(749条1項5号)。消滅会社の株主の場合とは異なり、消滅会社の新株予約権者に対する対価の割当については、749条3項のような平等割当の規定がありません。しかし、このような平等割当の規定がないからといって、新株予約権について合理的な理由がなく異なる取扱いをしていいとは考えにくい。つまり、実質的に平等割当の原則があると考えられます。 合併契約に定められた新株予約権に関する事項に不満を抱く消滅会社の新株予約権者のために、以下のような新株予約権買取請求権が認められています。 第一に、新株予約権を発行する際に定められる内容に吸収合併により会社が消滅する場合が定められていなくでも、吸収合併契約に消滅会社の新株予約権に代えて存続会社の新株予約権または金銭を交付する旨が定められますが、合併契約で定められた交付される者の数や゜内容に不満がある消滅会社の新株予約権者のために新株予約権買取請求権が認められています(787条1項1号)。 第二に、新株予約権を発行する際に将来に発生するかもしれない吸収合併を想定し、新株予約権の内容として、吸収合併が生じた時は一定の比率で存続会社の新株予約権の交付を受けるものと定めておく(236条1項8号)場合があります。この場合、吸収合併契約で、この新株予約権の定めとは異なる内容で消滅会社の新株予約権の扱いが定められたときは、不満を抱く新株予約権者のために新株予約権買取請求権が認められています(787条1項1号)。 ・合併無効事由 749条1項4号および5号の事項は、消滅会社に新株予約権または新株予約権付社債が発行されている場合には、絶対的記載事項であり、その記載を欠く場合や不実記載の場合は、吸収合併契約が無効となり、ひいては合併無効事由となります。しかし、消滅会社で新株予約権も新株予約権付社債も発行されていない場合には、記載する必要はありません。 <記載例> 第○条 吸収合併存続会社(甲)は、本合併に際して、吸収合併消滅会社(乙)の新株予約権者に対して、その有する乙の新株予約権に代わる新株予約権として、本合併の効力が生ずる直前のときにおける乙の新株予約権の総数に、××を乗じて得た数の別紙○に規定する内容の甲の新株予約権を交付する。 2. 前項の対価の割当については、本合併の効力が生する直前の効力が生ずる直前のときにおける吸収合併消滅会社(乙)の各新株予約権者に対し、その有する乙の新株予約権の数に××を乗じて得た数の別紙○に規定する内容の甲の新株予約権を割り当てる。 ü
合併の効力発生日(749条1項6号) 合併契約には、吸収合併がその効力を生ずる日を規定しなければなりません(749条項)。 <記載例> 第○条 本合併が効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)は、○○年○月○日とする。ただし、合併手続進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、甲(吸収合併存続会社)および乙(吸収合併消滅会社)において協議のうえ、これを合意により変更することができる。 合併契約に定めた効力発生日は、吸収合併契約を締結する時点および株主総会で吸収合併契約を承認する際の吸収合併の効力が生ずる予定の日の意味です。なぜなら、合併契約上の効力発生日が到来しても、債権者保護手続きが終了していない場合は、合併の効力が発生しない(750条6項)からです。この場合には、債権者保護手続が完了するまで、自動的に効力発生が延期されるのではなく、もう1度手続きを最初からやり直さなければなりません。ただし、効力発生日を、存続会社と消滅会社の合意により変更することはかのうであり、変更する場合には、変更前の効力は嗄声日の前日までに、変更この効力発生日を公告する(790条)ことになっています。効力発生日に合併の効力が発生するので、その日を関係者に周知させる手続きをとる必要がありからです。なお、効力発生日を早めるよう変更することも可能であり、この場合は変更後の効力発生日の前日までに公告しなければなりません。なお、効力発生日を変更する場合、株主総会で承認することは法文で求められていないので、当事会社で効力発生日を変更する旨の覚書を取りつまり役会の決議に基づいて締結し、公告を行いことで足りると考えられています。 ・合併の効力の発生 存続会社は。効力発生日に消滅がい首の権利義務を承継します(750条1項)。すなわち、合併契約所定の効力発生日に吸収合併のすべての効力が発生します。効力発生日に消滅会社の全財産が存続会社に承継され、その財産の管理権が存続会社に移転し、消滅会社の株主名簿・会計帳簿、さらには、従業員に関する書類なども存続会社に引き渡されます。 消滅会社の株主は、効力発生日に消滅会社の株式を失い、合併契約の定めに従い、存続会社の株主となります。また、消滅会社の株主は存続会社に対し、効力発生日に合併契約の定めに従い合併契約所定の株式等以外の財産についての引渡請求権を得ることになります。 合併契約の効力発生日の後、2週間以内に合併の登記を行わなければなりません(921条)。投機がなければ第三者に対抗することができません。 ü
任意的記載事項 合併契約では、会社法で規定されている法定記載事項伊賀の事項についても記載される事項があります。それが任意的記載事項です。合併の本質や法令の強行規定に反しない限り、その内容は有効となります。代表的な事項について、以下で見ていくことにします。 ・株主総会の期日 合併契約において、その合併契約を承認するための株主総会を開催する時期を規定するケースは少なくありません。 これは旧商法で、株主総会の期日が合併契約の必要的記載事項とされていたことの名残です。ただし、合併契約で規定された効力発生日が到来しても、合併当事会社のいずれかの会社で合併契約の承認決議が終わっていなければ、合併の効力は生じません。したがって、当事会社の一方で合併契約を承認する株主総会の開催が遅れることは、もう一方の当事会社にとっては大きな迷惑となり、場合によっては損害が発生することもありえます。そこで、合併契約において株主総会の期日を規定することがあるのです。 <記載例> 第○条 甲(吸収合併存続会社)および乙(吸収合併消滅会社)は、○○年○月○日に、それぞれの臨時株主総会を招集し、吸収合併契約を承認する決議を求めるものとする。ただし、合併手続の進行上の必要性その他の野事由により、甲乙協議のうえ、これを変更することができる。 ・財産承継 合併により承継する財産について、合併契約で次のように規定することは、実務上多く見られる。 <記載例> 第○条 乙(吸収合併消滅会社)は、○○年○月○日現在の貸借対照表その他同日現在の計算を基礎とし、これに効力発生日に至るまでの増減を加除した資産、負債および権利義務の一切を効力発生日をもって甲(吸収合併存続会社)に引き継ぎ、甲はこれを承継する。 2. 乙は、○○年○月○日から効力発生日までの期間における資産、負債および権利義務の変動について、別に計算書を添付してその内容を甲に対し明示する。 上例については、効力発生日に消滅会社のすべての権利義務は存続会社に承継される(750条1項)ので、合併契約書で承継する権利義務の範囲を定めることはできません。しかし、実務上では多く見られる条項であり、設けることで害となるものでもありません。 ・善管注意義務 合併比率等の合併の条件は、原則として、合併契約の締結時または株主総会による承認時の当事会社の財産状態をもとに定められています。仮に、その後効力発生日に至るまでに当事会社の財産状態が大きく変化したりすれば、当初定めた合併条件を見直す必要が生じてしまう可能性があります。そのような事態の発生をできるかぎり避けるために、合併契約の締結時がら効力発生日までの間、当事会社がン会社財産および会社経営について善管注意義務を負うと定めることは、実務上、少なくありません。 <記載例> 第○条 甲(吸収合併存続会社)および乙(吸収合併消滅会社)は、本契約締結後、効力発生日に至るまで、善良なる管理者の注意をもってそれぞれの業務を執行するとともに、資産および負債を管理し、その財産および権利義務に重大な影響を及ぼす行為をする場合には、あらかじめ相手方の同意を得なければならない。 上記の例では、概括的な善管注意義務を課すことで、変なことがおこらないようにしています。すなわち、一種の現状維持義務を規定しているというわけです。 ・剰余金の配当および中間配当 これは旧商法において、利益の配当額および中間配当額の上限を決めることが合併契約の必要的記載事項とされてたことの名残です。 このような事項を合併契に規定していたのは、配当ということは、合併当時会社から財産が流出する行為であり、資産総額の減少をもたらし、ひいては合併対価の定め方や合併比率に影響を及ぼす可能性があるものである。また、例えば、定時株主総会の前に合併契約を締結し、定時株主総会でその契約を承認するスケジュールで合併を行い場合、同じ総会で配当額が決められる、というように確実に発生するものです。そこで、配当額の上限を合併契約で決めて、財産の流出を抑えようとするものです。しかし、同じように合併比率に影響を与える行為は、剰余金の配当だけでなく自己株式の取得などいくつかあります。 滋養預金の配当額の上限の規定は前記の善管注意義務の条項に対する例外規定としての意味があると言えます。当事会社の財産状況に大きな影響を与える行為について、あらかじめ両当事者が合意するということで規制するということになります。そのため、善管注意義務の規定とセットで合併契約に置いているのが一般的です。 <記載例> 第○条 甲(吸収合併存続会社)は、効力発生日までに、総額○円を上限として、剰余金の配当を行うことができる。 2. 乙(吸収合併消滅会社)は、効力発生日までに、総額○円を上限として、剰余金の配当を行うことができる。 ・合併に際して就職すべき取締役・監査役 旧商法では、合併により消滅会社の取締役・監査役が、存続会社の取締役・監査役として就職するとした場合は、合併契約に規定するとされていました。しかし、存続会社の取締役や監査役を追加選任するのは、株主総会を開催して選任決議をするのが本来の手続きです。仮に、合併契約にこの規定を記載するとすれば、契約承認の株主総会決議において、取締役選任と同様の手続き(参考書類に役員選任の事項の記載や各候補者の各個の承認など)を踏まえることは最低限必要です。 ・合併により退任する当事会社の役員の退職慰労金 吸収合併が実行される場合、通常、消滅会社の取締役等は終任となります。このとき、消滅会社が終任となる取締役等に支払う退職慰労金は、その職務の執行対価としての性質を有するものであるかぎり、株主総会の決議に基づくものでなければなりません。しかし、退職慰労金の金額が多額となるときは、会社からの財産の流出となり、合併比率に影響を及ぼす可能性が生じます。そこで、配当金の上限を合併契約で決める場合と同じように、合併契約に規定を設ける場合もあります。ただし、退職慰労金を株主総会で決議する場合にでも、上限を明示しないのが通常なので、合併契約では、協議・合意に基づき額を定めるという形の規定になると考えられます。 <記載例> 第○条 乙(吸収合併消滅会社)の取締役および監査役の退職慰労金については、甲(吸収合併存続会社)と乙としで協議し合意のうえ、乙の株主総会の決議に基づき、効力発生日までに乙が支払う。 ・消滅会社の従業員の処遇に関する事項 合併の効果として、消滅会社のすべての権利義務は存続会社に承継される(750条)ので、従業員のとの労働契約関係も、従業員の承諾なく、存続会社に承継されます。この労働契約が承継されるということは、消滅会社の従業員の労働条件が消滅会社のときのまま、存続会社に引き継がれるということです。存続会社の労働条件に転換されるということではありません。それゆえ、合併の効力発生日までの間、および効力発生後も継続して、存続会社の労働条件と、消滅会社から承継された労働条件とを調整することが必要となります。 <記載例> 第○条 甲(吸収合併存続会社)は、本件合併の効力発生日における乙(吸収合併消滅会社)の従業員を引き継ぐものとし、甲乙双方の従業員の労働条件の相違については、必要に応じて調整する。 合併契約において、消滅会社の責任において従業員の雇用契約を打ち切ることを規定したとしても、合併契約の効力発生によって雇用契約の打ち切りの効果がしょうじるわけではなく、合併契約の規定は、あくまで存続会社と消滅会社の合意による消滅会社の作為義務です。したがって、消滅会社は、合併を理由として従業員を解雇することが正当化されるわけではありません。そこでは、労働法にしたがって解雇の手続きがとられることになります。 ・合併契約の解除・変更 合併契約を締結した際に前提としていた状況が効力発生日に至るまでの間に変化してしまった場合には、そのまま、合併の効力を発生させてしまうことは、当事会社の意思に反することとなってしまう。この点、変化した状況によっては、一方の当事者にとってはそのままの合併比率で合併することは問題とはならないが、他方の当事者には問題であるという事態も起こり得ます。この点への対応として、合併契約の解除に関する条項を規定することが考えられます。例えば、天災地変その他の事由により合併当事会社のいずれの財産に著しい変動が生じた場合を条件として契約を解除できるという内容の条項を合併契約にもうけるということです。しかし、「その他の事由」の範囲は曖昧であるし、「財産に著しい変動」は判断が介在することとなるので、このような条項が契約にあったとしても、株主総会の承認を得ずに取締役会の限りで解除の決定をすることが適当て言えるかは問題があるという考えがあります。 実務では、実際に何らかの事象が生じた後に協議を行うという程度の規定を設けているケースが多いようです。 また、合併契約の変更の場合も、同じように考えられます。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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