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新任担当者のための会社法実務講座
第784条 吸収合併契約等 の承認を要しない場合 |
Ø 吸収合併契約等の承認を要しない場合(784条) ①前条第1項の規定は、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社(以下この目において「存続会社等」という。)が消滅株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。ただし、吸収合併又は株式交換における合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合であって、消滅株式会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、この限りでない。 ②前条の規定は、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社または株式交換完全親会社が吸収合併消滅会社、吸収分割会社または株式交換完全子会社の特別支配会社である場合には、消滅会社等の株主総会における吸収合併契約、吸収分割契約または株式交換契約の承認決議を必要としない場合がある。いわゆる略式吸収合併、略式吸収分割、略式株式交換です(784条1項、存続会社の場合は796条)。また、略式吸収分割とは異なる要件で吸収分割について株主総会で吸収分割契約の承認決議を必要としない場合として簡易吸収分割があります(784条2項)。 ü
吸収合併消滅会社についての略式吸収合併手続(784条1項) 吸収合併存続会社が、吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合には、消滅会社の株主総会においてその議決権の90%以上を存続会社がコントロールしているので消滅会社において株主総会を開催しても決議の結果が明らかであること、同時に、このような場合には迅速かつ簡易な組織再編行為を可能とすることが望ましいと考えられたことから、消滅会社での株主総会の承認決議を省略できるものとされています。 ・略式吸収合併の手続き 略式吸収合併の手続きは、株主総会が不要である以外は、通常の合併手続きと変わりありません。784条1項の文言は783条1項を適用しないと言っているだけで、すなわち、消滅会社において株主総会の決議により吸収合併契約の承認を受けることが不要となるということです。だから、合併契約の承認が不要なわけではないのです。この場合、消滅会社における吸収合併契約の承認は取締役会の決議によることになります。また、種類株式発行会社の場合、種類株主を保護するための種類株主総会の決議(783条3項)は省略できません。 略式合併の手続きを簡単にまとめると、①事前開示事項の備置き、②合併契約締結、③株式買取請求・新株予約権買取請求、④債権者保護手続、⑤合併の登記および⑥事後開示事項の備置き、が必要となります。 日程表のサンプルは下表のとおりです。
・特別支配会社の意義 特別閾会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を他の会社およびその会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合におけるその他の会社のことです(468条1項括弧書)。したがって、略式合併が認められるのは、存続会社が特別支配会社で、消滅会社が被特別支配会社です。なお、被特別支配会社は株式会社でなければなりません。 また、支配される株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を、他の会社およびその会社の完全子会社、そのた法務省令で定める法人が有する場合も、他の会社は特別支配会社となります(468条1項)。 また、法務省令で定める会社とは、①他の会社がその持分の全部を有する法人(会社法施行規則136条1項1号)、②他の会社および特定完全子会社がその持分の全部を有する法人(会社法施行規則136条1項2号)、③特定完全子法人がその持分の全部を有する法人(会社法施行規則136条1項2号)。 ・略式吸収合併が認められない場合(784条1項但書) 吸収合併について、消滅株式会社の株主に交付される合併対価の全部または一部が譲渡制限株式等であって、消滅株式会社が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でない場合には、被特別支配会社であっても略式吸収合併は認められません。この場合は、783条1項に従い、吸収合併の効力発生日の前日までに株主総会の特別決議により吸収合併契約の承認を受けなければなりません。 これは、公開会社である消滅会社の株主に対して、組織再編の対価として譲渡制限株式等が交付される場合には、株主総会での特殊決議(株主の半数以上が出席した株主総会における議決権の3分の2以上の賛成が必要とされており、株主の頭数をベースとした要件が課されているため、90%以上の議決権を保有していても必ずしも決議が成立するとは限りません)が必要とされていることとバランスをとったためです。 ü
吸収分割株式会社についての略式吸収分割手続(784条1項) 吸収分割承継会社が、吸収分割株式会社の特別支配会社である場合には、吸収分割株式会社において株主総会の決議による吸収分割契約の承認を受けなくてもよくなります(784条1項)。これが略式吸収分割です。この場合、吸収分割株式会社における吸収分割契約の承認は、取締役会の決議によることになります。 ただし、承継会社の全株式が譲渡制限株式であり、かつ、分割対価の全部または一部がその承継会社の譲渡制限株式であるときは、承継会社において略式分割によることはできず、承継会社は従属会社であっても株主総会を省略することはできません(796条1項但書)。
略式分割の手続きは、株主総会が不要である点および特別支配会社が従属会社に対する株式請求権を持たない点以外は、通常の分割手続きと同じように、①事前開示事項の備置き、②会社分割契約締結、③株式買取請求・新株予約権買取請求、④債権者異議手続、➄会社分割の登記、⑥事後開示事項の備置き、などが必要となります。なお、略式分割では、簡易分割とは異なり、その要件を満たすかどうか確定的な判断が最後まで難しい場面が実際に考えにくいから、略式分割の要件を満たす場合であっても通常の会社分割の手続きによって行うことができるかが問題になることは少ないと考えられます。 なお、吸収分割株式会社において省略されるのは、あくまでも株主総会の契約承認決議のみであり、種類株主を保護するための種類株主総会の決議を省略することはできません。 吸収分割株式会社において略式吸収分割が実行された場合、略式吸収分割に反対する株主には株式買取請求権が認められ(785条1項)、吸収分割契約の内容や略式吸収分割の手続きに無効事由があるときには、吸収分割無効の訴えを提起することが認められています(828条2項)。 ü
株式交換完全子会社についての略式株式交換手続(784条1項) 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の特別支配会社である場合に、株式交換完全子会社において株主総会の決議による株式交換契約の承認受けなくてもよくなります(784条1項)。これが略式株式交換です。この場合、株式交換完全子会社における吸収分割契約の承認は、取締役会の決議によることになります。 なお、株式交換完全子会社において省略されるのは、あくまでも株主総会の契約承認決議のみであり、種類株主を保護するための種類株主総会の決議を省略することはできません。
株式交換について、株式交換完全子会社の株主に交付される交換対価の全部または一部が譲渡制限株式等であって、株式交換完全子会社が公開会社であり、かつ種類株式発行会社でない場合には、略式株式交換が認められません(784条1項但書)。この場合、株式交換完全子会社は株式交換の効力発生日の前日までに株主総会の特殊決議により株式交換契約の承認を受けなければなりません。 株式交換完全子会社において略式株式交換が実行された場合、略式株式交換に反対する株主には株式買取請求権が認められ(785条1項)、株式交換契約の内容や略式株式交換の手続きに無効事由があるときには、株式交換無効の訴えを提起することが認められています(828条2項)。 ü
吸収分割株式会社における簡易吸収分割(784条2項) 吸収分割により吸収分割承継会社へ流出する資産額が吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えないときは、吸収分割株式会社において株主総会の決議を必要とするほどの重大な変動が生じたとは考えられないことから、そのような吸収分割契約については株主総会特別決議による承認は必要でない(784条2項)。これが簡易吸収分割です。この場合、吸収分割株式会社における吸収分割契約の承認は取締役会の決議によるものとなります。なお、吸収分割株式会社において省略されるのは株主総会の決議であり、種類株主を保護するための種類株主総会の決議は省略できません。 ・吸収分割株式会社における簡易吸収分割の条件 簡易吸収分割が認められるのは、承継される資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えない場合とし、資産額が基準として用いられています。純資産額を基準として用いるときは、承継負債額が大きい場合には、吸収分割株式会社から同社にとって大規模と考えられる事業が移転する場合にも簡易吸収分割が可能となるため、資産額を基準とすることにより、このようなことも防止しています。 なお、基準となっている吸収分割株式会社の総資産額とは、存続株式会社の総資産額として会社法施行規則187条1項で定める方法により算定されます。すなわち、①資本金の額、②資本準備金の額、③利益準備金の額、④446条に定める剰余金の額、⑤最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額、⑥新株予約権の帳簿価額、⑦最終事業年度の末日において負債の部に計上した額、および⑧最終事業年度の末日後に吸収合併、吸収分割による他の会社の事業に係る権利義務の承継または他の会社の事業の譲受けをしたときは、これらの行為により承継または譲受した負債の額の合計額から⑨自己株式および自己新株予約権の帳簿価額を減じた額です。 これに対して吸収分割承継会社における簡易吸収分割においては、基本的に純資産額が基準として採用され、分割対価の価額が承継会社の純資産額の5分の1を超えない場合に簡易吸収分割が認められる(796条3項)。その計算方法には詳細な規定があります。 ⅰ)分割対価の価額 以下のア~イの合計額 ア.分割対価として交付される承継会社の株式の数×当該株式の1株当たりの純資産額 1株当たりの純資産額は、以下のA、B、Cの数字について、A÷B×Cにより算出された数字(141条2項、会社法施行規則25条)。 A.基準純資産額 算定基準日(会社分割契約締結日または会社分割契約で規定される会社分割契約日から効力発生直前までの間の時)における①~⑥の合計額から⑦の額を控除した額。ただし、ゼロを下回った場合はゼロ。 ①資本金の額 ②資本準備金の額 ③利益準備金の額 ④会社法446条に規定する剰余金の額 ⑤最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額 ⑥新株予約権の帳簿価額 ⑦自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額 B.基準株式数:承継会社の発行株式総数(自己株式を除く)。 C.株式係数:1 イ.分割対価として交付される承継会社の社債、新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価額 ウ.分割対価として交付される承継会社の株式等以外の財産の帳簿価額 ⅱ)承継会社の純資産額 算定基準日におけるイ~ホの合計額からトの額を控除した額。ただし、その額が500万円を下回る場合は500万円(会社法施行規則196条)。 イ.資本金の額 ロ.資本準備金の額 ハ.利益準備金の額 ニ.会社法446条に規定する剰余金の額 ホ.最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額 ヘ.新株予約権の帳簿価額 ト.自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額 ⅱでいう純資産額とは、原則として最終事業年度における純資産の部に計上された額ですが、最終事業年度の末日後に純資産の部の計数に変動があった場合にはその変動を反映させることになっています。 これらの承継会社の株式が分割対価の時の分割対価の価額、承継会社の純資産額、分割会社の総資産額については、算定基準日において産出されることになるので、具体的には分割対価とする承継会社の株式以外の財産などの価額および承継対象資産の帳簿価額や承継会社における簡易分割要件の例外である分割差損が発生するかどうかの判断を効力発生日の直前に行うことが必要となります。 ・簡易吸収分割の手続 簡易吸収分割の手続きは、株主総会が不要である点・株主が株式買取請求権を持たない点以外は、通常の分割手続きと変わりません。つまり、通常の分割手続きと同様に、①①事前開示事項の備置き、②会社分割契約締結、③株式買取請求・新株予約権買取請求、④債権者異議手続、➄会社分割の登記、⑥事後開示事項の備置き、などが必要となります。 なお、承継会社の簡易分割手続きにおいては、株主に対する株式買取請求のための公告または通知後2週間以内に一定数の株式を有する株主が反対する旨を承継会社に通知したときは、効力発生日の前日までに承継会社の株主総会の承認が必要となります(796条3項)。このような反対株主の有すべき株式の数は、具体的には以下の①から③のうち最も小さい数とされています(会社法施行規則197条)。 ①会社分割契約を承認する株主総会において議決権を行使することができる株主の6分の1超 ②会社分割契約を承認する株主総会における定足数を変更または決議要件を加重その他株主総会において会社分割承認の決議が成立するための要件として定款に別段の定めをおいた場合、この株主総会が開催された時に会社分割契約を承認する議案が否決される可能性が生ずる最低株式数以上。 具体的にいえば、たとえば、定款において株主総会の特別決議の定足数を議決権を有する株主の議決権の3分の1以上としている場合、定足数である3分の1に特別決議の不成立のために最低限必要となる出席株主の議決権の3分の1を乗じた議決権を行使することのできる株主の議決権の9分の1以上がここでいう最低株式数に該当します。 ③反対株主による異議の要件自体について定款で別段の定めをした場合の定款で定めた数 反対株主の数が上記の要件を満たした場合には、簡易分割手続きを取ることはできず、効力発生日の前日までに株主総会を開催して会社分割契約の承認を受けなければなりません。簡易分割の際には、吸収分割の効力発生日の前日までにこの株主総会を開催するための手続きをとることができるよう、十分な余裕をもって株主に対する広告などを行う必要があります。 なお、簡易分割の要件を満たす場合であっても通常の会社分割の手続きによって会社分割を行うこともできます。
・簡易吸収分割反対権の不存在 吸収分割承継会社における簡易吸収分割の場合、法務省令で定める数の株式を有する株主には、簡易吸収分割の実行を阻止する反対権が認められています(796条4項)が、吸収分割株式会社における簡易吸収分割の場合、株主にそのような権利は認められていません。 ・株式買取請求権の不存在等 簡易吸収分割の場合、吸収分割株式会社の株主には株式買取請求権は認められていません(785条1項2号)。吸収分割により吸収分割承継会社へ流出する資産額が吸収分割株式会社の総資産額の5分の1を超えないときは、吸収分割株式会社においてとくに株主の保護を必要とするほどの重大な変動が生じたとは考えないからです。 なお、吸収分割契約の内容や簡易吸収分割の手続に無効事由があるときは、吸収分割株式会社の株主に吸収分割無効の訴えを提起することが認められています(828条2項)。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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