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第752条 持分会社が存続 する吸収合併の効力の発生等 |
Ø 持分会社が存続する吸収合併の効力の発生等(752条) @吸収合併存続持分会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。 A吸収合併消滅会社の吸収合併による解散は、吸収合併の登記の後でなければ、これをもって第三者に対抗することができない。 B前条第1項第2号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員は、効力発生日に、同号に掲げる事項についての定めに従い、吸収合併存続持分会社の社員となる。この場合においては、吸収合併存続持分会社は、効力発生日に、同号の社員に係る定款の変更をしたものとみなす。 C前条第1項第3号イに掲げる事項についての定めがある場合には、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員は、効力発生日に、同項第4号に掲げる事項についての定めに従い、同項第3号イの社債の社債権者となる。 D吸収合併消滅株式会社の新株予約権は、効力発生日に、消滅する。 E前各項の規定は、第789条(第1項第3号及び第二項第三号を除き、第793条第2項において準用する場合を含む。)若しくは第802条第2項において準用する第799条(第2項第3号を除く。)の規定による手続が終了していない場合又は吸収合併を中止した場合には、適用しない。 752条は株式会社が存続会社となる場合の750条と同じように、持分会社が存続会社となる吸収合併の効力がしょうすることにより、どのような効果が生ずるかを定めた規定です。規制内容も、基本的には、750条おなじで、吸収合併の効力の発生時期、効力の内容および効力発生を妨げる事由について規定しています。具体的には、第1に、吸収合併の効力の発生により包括承継が生ずること(752条1項)、第2に、吸収合併の効力が発生しても消滅会社の解散は吸収合併の登記の後でなければ第三者に対抗できないこと(752条2項)、第3に、吸収合併の効力の発生により合併契約の定めに従い消滅会社の株主または社員が存続会社の社員になること(752条3項)、第4に、存続会社である持分会社は吸収合併の効力の発生により社員についての定款の定めを変更したものとみなされる(752条3項)ひと、第5に、吸収合併契約に存続会社が社債を交付する定めがあるときには、吸収合併の効力の発生により消滅会社の株主または社員は合併契約の定めに従い存続会社の社債権者になること(752条4項)、第6に、吸収合併の効力の発生により吸収合併契約の定めに従い消滅会社の新株予約権が消滅する(752条5項)こと、第7に、吸収合併の効力発生日が到来しても、合併当事会社における債権者異議手続きが終了していない場合、または吸収合併を中止した場合には752条1〜5項が適用されないこと(752条6項)が定められています。 ü
包括継承(752条1項) 750条1項と同様に、合併により、存続会社は消滅会社のすべての権利義務を承継します(752条1項)。その承継は包括承継で、その際に個々の権利や義務の承継の手続きは必要なく、合併の効力発生日に、当然に、承継されます。一般原則では、債務の引受のためには、債権者の承諾が必要とされていますが、存続会社による消滅会社の債務の引受けについては、個々に債権者の承諾の手続きはとられず、その代わりに、合併自体に対する債権者保護手続がとられます。また、合併による権利の承継は、相続場合の包括継承と同じようなものと考えてもよいと言えます。 合併における包括承継では、消滅会社の権利義務の一部を承継対象から除外することはできないため、消滅会社が負っていた一切の債務(偶発債務、潜在債務などの隠れた債務も含む)も、消滅会社が債務として認識しているかどうかに拘わらず、存続会社に当然に承継されて、存続会社が責任を負うことになります。この点で、合併を行うにあたって実施される法務デュー・デリジェンスでは、合併の相手方負っている債務を調査することが重要です。 これに対して、消滅会社が有していた許認可等の公法上の権利義務については、私法上の権利義務のように当然に包括承継されるとは限りません。公法上の権利義務は、その権利義務の根拠法令の規定に従うことになります。それで、権利義務個度に個別の検討が必要となります。根拠法令の規定の仕方は、いくつかのパターンに分けられます。第1は、合併の場合には何らかの手続きをとることなく自動的に権利義務が存続会社に承継されるケースです。たとえば、割賦販売法の前払い式割賦販売の許可(割賦販売法18条の6)や食品衛生法上の飲食店営業等の許可(食品衛生法53条)などです。第2には、合併による承継は認めずに、存続会社が新たに法令に基づく手続きが求められるというケースです。例えば、銀行法の銀行業の免許、貸金業法の貸金業の登録などです。第3に、新規取得の場合に比べて、簡易な届出等の手続によって権利義務の承継が認められるケースです。例えば、薬事法の医薬品等の製造販売の承認(薬事法14条)などがあります。また、税法上の権利義務は私法の場合と同様に扱われます。また、刑事責任については、消滅会社の確定済みの罰金刑等に基づく金銭支払債務は存続会社に当然承継されますが、存続会社に対して消滅会社の刑事責任を追及することはできないと考えられています。 ü
吸収合併の効力発生と登記の起源(752条2項) 合併の効力発生日から2週間以内に、存続会社の代表者は、存続会社の本店所在地において、消滅会社の解散の登記および存続会社について変更の登記を同時に申請しなければなりません(921条)。旧商法では存続会社の合併登記により学校の効力が発生するされていましたが、現在では、合併契約で定められた日が効力発生日となり(752条1項)、消滅会社の解散は合併登記の後でなければ第三者に対抗できない(752条2項)ので、合併登記は第三者対抗要件としての意味を有しています。 つまり、752条2項は750条2項と同じように、合併の効力発生日以後であっても合併の登記前では、消滅会社が解散していないと第三者が主張してきたときに、存続会社側から消滅会社が解散していたと主張することが許されないことを規定しているものです。 例えば、合併期日以後であって合併の登記以前に、消滅会社の代表取締役であった者が依然として消滅会社の代表取締役のような外観を呈することによって、本来、合併により存続会社に承継されている消滅会社の不動産を、第三者に譲渡した場合、存続会社は消滅会社が解散したことを第三者に主張することができず、不動産を第三者に引き渡さなければならないことになります。 ・合併による変更の登記(存続会社) @)登記事項 存続会社について、合併に伴って登記すべき事項としては、合併をした旨および消滅会社の商号のほかに。合併に伴って変更が生じた登記事項があり、具体的には変更後の資本金の額および発行済株式総数、存続会社が合併に当たって新株予約権を交付した時のそれに関する事項などです。さらに、合併に伴う定款の変更や合併後の役員の選任を決議したときは、それによって登記事項が変更すること。 A)申請と添付書類 存続会社による変更の登記申請に、次の書類を添付します。 ア.合併契約書 イ.存続会社の手続に関する書面 a.合併契約の承認に関する書面:合併契約の承認を行った株主総会の議事録等です。 b.債権者の異議手続の履行を証する書面: 債権者保護手続きのための公告及び個別催告をしたことを証する書面、そして、異議を述べた債権者がいた時の弁済・担保提供等をしたことを証する書面 c.資本金の額が適法に計上されたことを証する書面: 合併により存続会社の資本金が増加する場合は、資本金の額が計算書類規則35条または36条の規定に従って適法に計上されたことについての証明書 ウ.消滅会社の手続に関する書面 a.消滅会社の登記事項証明書 b.合併契約の承認に関する書面:合併契約の承認を行った株主総会の議事録等です。 c.
債権者の異議手続の履行を証する書面 債権者保護手続きのための公告及び個別催告をしたことを証する書面、そして、異議を述べた債権者がいた時の弁済・担保提供等をしたことを証する書面 d.株券提供公告をしたことを証する書面:広告を掲載した官報や日刊新聞紙、電子公告調査機関の報告書 e:主務官庁の認可書またはその認証がある謄本 f:登録免許税規則12条7項の規定に関する証明書 B)登録免許税 ・合併による解散の登記(消滅会社) @)登記事項 消滅会社について、合併に伴って登記すべき事項としては、解散をした旨ならびにその事由および年月日です。 A)申請と添付書類 消滅会社による解散の登記申請書だけで添付書類は不要です。 B)登録免許税 ü
合併の効力発生と株主または社員の関係(752条3項) 752条3項前段は、消滅会社の株式または持分に代えて、株主または社員であった者が存続会社である持分会社の社員となることが合併契約に定められている場合について、吸収合併契約の効力発生日に、吸収合併契約の定めに従い、存続会社である持分会社の社員となることを定めています。この場合、存続会社である持分会社において新たに社員を加入させることになり、定款の変更が必要になります。そこで、752条3項後段は、合併手続き以外の手続きにより存続会社が定款を変更する煩わしさを避けるために、「効力発生日に同号の社員に係る定款の変更をしたものとみなす」旨の規定を設け、合併契約に記載された内容に従い、存続会社の定款が合併の効力発生日に自動的に変更される旨を規定しています。 ü
合併対価としての存続会社の社債の交付(752条4項) 752条4項は、吸収合併契約に、存続会社である持分会社が消滅会社の株主であった者または社員であった者に対して社債を交付することを定めた場合には、752条6項の場合を除き、消滅会社の株主であった者または社員であった者は吸収合併契約の効力発生日に、合併契約の定めに従い、社債権者となる旨を規定したものです。 吸収合併契約に定められた金銭等が社債以外のものである場合には、752条6項の場合を除き、消滅会社の株主または社員であった者は、吸収合併契約の効力発生日に、合併対価である目的物についての引渡請求権を有することになります。 ü
消滅会社の新株予約権の消滅等(752条5項) ・消滅会社の新株予約権の消滅(752条5項) 消滅会社の発行した新株予約権は合併の効力発生日に消滅します(752条4項)。新株予約権者は、新株予約権を発行した会社に対して権利を行使するのであるから、発行会社である消滅会社が合併により消滅すれば、その新株予約権は当然に消滅します(287条)。また、存続会社が持分会社であるかぎり、存続会社が新株予約権を発行することはできません。 ・消滅会社の新株予約権者の保護 新株予約権は権利として何らかの価値が認められるものであるから、合併の消滅会社の新株予約権者を保護するために、吸収合併契約で、消滅会社の新株予約権者に消滅する新株予約権の代替物として存続会社の新株予約権または金銭を交付する旨を定めなければならないと定められています(751条1項)。消滅会社が新株予約権または新株予約権付社債を発行している場合に、吸収合併契約がこの事項を記載していない場合は、吸収合併の無効事由となります。 ・新株予約権者買取請求権(787条) 消滅会社の新株予約権は合併の効力発生日に消滅します(752条5項)が、吸収合併契約には、必ずその代替物である存続会社の新株予約権または金銭が交付される旨が定められます(751条1)。その限りでは、消滅会社の新株予約権者は保護されますが、それが消滅会社の新株予約権者の保護として、必ずしも十分とは言えません。というのも、消滅会社の新株予約権者が交付を受けると定められている存続会社の新株予約権の合併直後の価値または金銭の額が消滅会社の新株予約権者が有していた消滅会社の新株予約権の合併直前の価値より低い場合には、消滅会社の新株予約権者は損害を被ることになるからです。そこで、消滅会社の新株予約権者は合併の効力発生日以前に消滅会社に対してその有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求する権利。すなわち新株予約権買取請求権が認められています(787条)。 ü
効力発生日における吸収合併の効力不発生(752条6項) 合併当事会社か合併を中止した場合または吸収合併契約に定めた効力発生日までに合併当事会社による債権者異議手続が終了しない場合は、752条1項〜5項で定めている合併の効果が発生しません(752条6項)。旧商法では、吸収合併の効力発生が合併登記からとされていたものが、会社法では合併当事会社が合併契約で定めた効力発生日に効力が生じることとなりました。そこで、途中で、合併を中止した場合は、契約で定めた効力発生日に合併の効力を生じないことを法文で明示しました。また、合併の効力発生日までに債権者異議手続が終了しない場合は、債権者保護の観点から、効力発生日に、合併の効力は発生しません。吸収合併の合併当事会社の合意により決めたのですから、当事会社の合意により効力発生日を変更して、このような場合の対処がされる(790条1項)ことになります。 ・吸収合併中止の手続き 合併の中止は、通常の契約と同じように合併当事会社の合意によって行われることになりますが、その手続きの進行の程度に応じて、分けて考える必要があります。 合併当事会社が取締役会の承認を得た上で、合併契約を締結し、株主総会で、その合併契約が承認される前の段階では、取締役会の決議により、合併当事会社の合意により中止することができます。 また、合併契約が当事会社のいずれかまたは両方の株主総会で承認された場合には、効力発生日の変更(790条)のように特段の規定が設けられていないので、その中止について改めて合併当事会社の株主総会の承認決議が必要になると考えられています。 なお、合併契約において解除事由を具体的に特定して記載した解除条項が規定されており、この解除時要項に従って合併契約が解除され、その結果合併が中止される場合には、解除条項を含んだ合併契約が株主総会で承認されているので、合併の中止について株主総会の承認を得る必要はないと考えられます。ただし、実務の実際では解除事由を具体的に特記した解除条項が規定されることは稀で、相互に協議の上解除することかできるという包括的に規定されているのが一般的です。この場合には、株主総会で注視の承認を得ることが適当と考えられています。 ・債権者異議手続が終了しない場合 合併契約記載されている合併の効力発生日が到来する時点で、全部または一部の債権者に対しての債権者異議手続が終了していない場合、効力発生日に認められる合併の効力は発生しないこととされています(750条6項)。 債権者異議手続は次のような手続です。第1に、消滅会社および存続会社が債権者に対して公告をすることから始まります。そこでは、吸収合併を行なう旨、合併当事会社の商号・住所・計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの、および、債権者が1ケ月以内に異議を述べることができる旨を公告します(789条2項、799条2項)。第2に、合併当事会社各社は、知れている債権者に上記と同じ内容を各別に催告しなければなりません(789条2項、799条2項)。第3に、会社債権者から1ケ月という期間内に異議を述べられて時は、会社は、その債権者に対して弁済するか、相応の担保を提供するか、または財産を信託する等して対応しなければなりません(789条5項、799条5項)。合併当事会社の沿い権者異議手続が終了していない場合とは、債権者に対して、上記の第1、第2、第3のいずれかが行われていない場合を言います。
計算書類等の監査等(436条) 計算書
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