3.(4)その他
13)IRツールとしての決算短信
〜企業集団の状況
 

 

決算短信は決算期末に作成する通期の決算短信と各四半期に作成する四半期決算短信とに大きく分けられます。前回まで述べてきた項目は、その両方の決算短信で載せられている項目といえます。(前回のリスクに関する項目は別)今回から述べていく項目は、通期の決算短信のみに載せられる項目と言っていいと思います。

今回は「企業集団の状況」について考えてみたいと思います。

ウェブの検索で決算短信を探して見てみると、この項目は連結決算の対象となるグループ会社を紹介しているケースが多いようです。しかし、と天邪鬼な私は、ここでひっかかるのです。ここで何回も申し上げているように、決算短信というのは、企業が投資家に対して、決算の報告をするというだけでなく、決算というまとまった数字をもとに投資家や株式市場に企業の存在をアピールし、認知してもらうもの、企業が市場とコミュニケーションを続けていくためのツールとして活用できるもの、と考えています。そういう前提で、企業グループに属する会社の一つ一つの社名と事業内容がいちいち紹介されている、というだけで、積極的にそれを知りたいと思うでしょうか。好みの違いや個人的な考え方の違いはあるにしても、大きな企業グループでひとつひとつの会社を紹介されても、その会社に余程興味がある場合以外には、積極的に知りたいとは思わないのではないかと思います。その企業グループを投資の対象として評価するとか、新しい投資対象を探して決算短信を手にしている、というような場合に、このような項目について投資家が知りたいと思うのは、企業グループが経営を進めて行く際の組織体制と祖家に関する基本姿勢ではないかと思うのです。

別の観点から言えば、巨大な企業グループをトップが経営としてマネジメントする場合に、個々のプロジェクトを直接マネジメントすることはせずに現場の責任者に事業は任せて、各プロジェクトに対する資金や人の流れをコントロールすることで、全体の舵をとっています。つまり、トップマネジメントは、資金すなわち投資と人すなわち人事組織のコントロールが中心となっていると言えます。その時、決算短信の「企業集団の状況」という項目は、のトップマネジメントの人事組織のコントロールに対応していると考えられないでしょうか。そして、企業への投資を考えている人は、このことに対する興味はとても大きいと思います。具体的に言うと、グループの企業の紹介とかグループ構成とかグループ内の分担とか、そのようなことの前提になることではないかと思います。つまり、どうしてこのような構成にしているのかという方針です。それは、グループを経営する、あるいは事業戦略を推し進めるに当たって、最適の組織構成を経営として選択しているはずであるから、その選択の際には、そういう組織にすることのメリットやリスクを検討しているはずで、そういうことも含めて(当然、公表できない事項もあるはずですが)そのような組織でなければならないか、ということ。そこには、複数のプロジェクトを同時併行で進めている場合には、それぞれのプロジェクトに対する評価や経営的な位置づけがなされ、それに応じた組織づくりをしているはずで、そういう方針も見えてくるのではないか、例えば、どのプロジェクトをメイン事業、コア事業として重点を置いているかとか、また組織のつくりによって、一点集中型の戦略かリスク分散型の戦略かということも実際の組織からも実践の点から理解できることになるわけです。

それだけにとどまらず、細かなことを言えば、各ブロジェクトの特徴や市場環境(市場規模や成長性、シェア)などによって組織構成のつくり方も変わってくる可能性があります。複数のプロジェクトが併行していれば、それらの関連性や補完性などの側面も考慮されているはずです。そうなると、事業の説明や事業戦略の説明も関連して来ることになります。とくに、先ほど挙げた事業環境は、投資家が事業に関して特に知りたい情報であり、決算短信にはそういう情報を説明する場所がないため、ここで説明すれば、投資家にとっては非常にありがたいことになるのではないかと思います。

そして、人事組織を築いていくのは、昨日今日でできることではなく、時間を要することなので、この後で考え行く項目である、中長期的な経営課題とも関連して来ることになります。つまり、人づくり、組織作りは、企業の将来に向けての投資のような側面もあるので、将来にむけて企業グループをどのような方向に導いていくのか、ということと連動しているはずです。

実際に各企業の決算短信を見てみると、このようなことを説明している企業はありませんし、証券取引所も、そのようなことを決算短信に求めてはいません。しかし、投資家の側に立って考えてみれば、あるていど妥当性はあるのではないかと、思います。企業の中には、そういう視点で決算短信の「企業集団の状況」の記述をすれば、投資家の企業に対する理解が、かなり進むのではないかと思います。

私の勤め先の決算短信は、ここで私が貶めている各企業の短信の記述と大同小異の状況でありますが、主要事業とされている複数の事業のそれぞれの相互の位置づけなどを説明することから、少しずつ変えて行こうと考えています。


4)14)IRツールとしての決算短信〜会社の経営の基本方針 へ

 
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