「経営成績に関する分析」の項目について「当期の経営成績」の次に「次期の見通し」の部分について考えてみたいと思います。原則的には、「当期の経営成績」で実績について説明があって、それを踏まえて「次期の見通し」として、これからどうするのか、ということを説明していく、というものでしょう。おそらく、投資家の立場では、この部分を一番詳しく知りたいのではないかと思います。とはいえ、大多数の企業では、「当期の経営成績」と「次期の見通し」の説明を比べて見ると、前者の「当期の経営成績」に関する分量が「次期の見通し」よりもかなり多くなっています。それは決算短信が、決算報告が主な目的であり、今期の業績を説明することを優先しているのは、この書類の本来の目的から考えれば、無理のないことです。しかし、そこでまた、話は逆転しますが、では決算発表は何のためにあるのか、何のために短信を市場に向けて発表するのか、ということになれば、市場の投資家に投資してもらうため、投資判断をするためのものです。そうだとすれば、投資家が投資判断をするために、投資先を見つけるために資する情報を載せることが本来の目的ということになり、現時点では投資家は企業の今後の見通しを決算報告よりも重要視するのであれば、そちらを優先して載せることが本来の目的に適っていると考えることもできるわけです。まあ、このような神学論議のような屁理屈を述べたところで、実際には決算は経理の部署が担当し、決算の方法や決算短信の形式は上場規則や会計原則で事細かに規定してあって、その通りにやらなければいけないということになっていて、それをどこの企業でも踏まえているということなのでしょうけれど。もしそうであれば、それを何の反省もなく決まったことだからと鵜呑みにしてしまって、自らの業務に何の疑いもなく従事している各業の経理担当者というのは、誤解を恐れずに言ってしまえば、ホワイトカラーではなくてブルーカラーの仕事になってしまっているのであって、そこまで細かく決まっていて、その通りに作業を進めればいいのであれば、何も判断をしたり考えることのできる人間が従事する必要がなくて、決まった計算をするのならばすべてコンピュータやアルバイトに投げてしまえばいいという程度のものになっているのではないか、とかなり口を滑らせてしまいました。閑話休題で、話を元に戻します。
また、一昔前であれば、これから企業がどのような施策を打って、どの程度の目標をもって事業活動を行っていくことを具体的に説明してしまうと、それは株主や投資家に対して約束したことになってしまって、後になって目標が達成できなかった際には、経営者の責任を問われることになるから、あえて言質を取られぬように曖昧な説明でごまかすという考え方の人、これは法務、総務畑、あるいは経理畑の年配の人に多いでしょうか。あるいは部署の体質になっていて若い人も染まっているケースもあります。あるいはまた、営業畑の人などは具体的施策をライバルに知られることになるので営業阻害要因となるという人もいるでしょう。ついでですが、このような想定される企業内の抵抗の声は、前のパラグラフと同じようにリスクに向き合うことをせずに所与の作業に終始するブルーカラーの発想に近いと思います。例えば、ライバルに知られるという杞憂に対しては、その程度のことなら注意深く観察していれば、センスの鋭い人なら想像できてしまうことで、これだけ情報化の進んだ時代にライバルはとっくにその程度のことは想定していると考えて、その対策を考慮しながら施策を進める方が、よほどリスク管理していると思います。逆に、ライバルが何をやろうとしているか、こちら側だってその程度の情報は当然得ているはずなので、そこで自社のことを知られてはまずいと考えるのは状況把握が甘いと言わざるを得ません。またまた、脱線してしまいました。今度こそ本題に戻ります。
百歩譲って、企業でも投資家が重視しているということを分っていても、実際には説明するのが難しい所ではあると思います。表面を撫でるだけの通り一遍でも済ませられてしまうのですが、この内容を企業の外部のひとに深く理解してもらおうとすれば、企業の強みとか市場の特性とかリスクといった基本的なことを理解してもらわなければなりません。だから、どの程度まで説明するか、その点を含めて企業の姿勢が明らかになってくるところだと思います。逆に、投資家はここのところに注目しているので、ここで企業の内容まで踏み込んだ説明をすることによって、企業への理解も進むという積極的に活用することもできると思います。
ここで、ある程度踏み込んだ説明をする場合、ここでの説明に際して補助的な説明を行うか、他の項目のところで説明をしておいて、関連させながら読んでもらうかというやり方があると思います。また、両方のやり方を併用することもありだと思います。ひとつあるのは、「当期の経営成績」で結果に対する反省を行った結果、新たな年度に向けて方針を立てていくという継続性が、ここでの説明で読む人に感じられることは大切であると思っています。そして、ここで書かれたことは翌年の決算短信の「当期の経営成績」において結果と評価が説明されるというサイクルが継続的に回っていくことになります。これはなにも決算短信に限ったことではなく、企業の仕事の進め方の基本としてPDCAなどといわれるものと、そんなに変わりはありません。つまりは、日頃やっていることを、そのまま出せばいいわけで、それほど難しいことを言っているわけではありません。
では、実際のところ、具体的にどのように「次期の見通し」を書いていくかについて、企業によって千差万別様々な書き方があるので、私の勤め先に即して考えていきたいと思います。既述のパターンは「当期の経営成績」に準じたものになると考えています。これは、前期の実績に対する検証と反省をベースにして今後の方針を考えていくという、いわゆるPDCAと似たような考え方によれば、こうした方が書きやすいし、読む側でも実績と今後の展望を関連して見ることができる。また、1年後の実績を見る時も、同じパターンで記述されるので展望が実際にどのような成果となっているのかを追いかけやすいと思うからです。具体的に言うと、最初に市場動向にたいする展望を簡単に記述し、そういう状況に対して、どのような方針でどのような戦略を立てているかの概略を簡単に説明する。ここで重点的な施策を説明してもいいと思います。そして、具体的な施策についてはセグメント別の事業の説明のところで、各セグメントの個別の市場動向に対する展望とともに説明していくというパターンです。何をどう説明していくかについては、企業それぞれの施策の立案プロセスや実行の仕組みが違うので、具体的にどうすべきということはできません。しかし、今期は当社はこうするんだという意気込みとか気迫のようなメッセージを込めてもいいのではないか、と私は思っています。直接的に意気込みの言葉を入れるまでは行かなくても、やる気があるのか、と読む人に疑問を抱かせてしまうようなら、展望を説明しても何の意味がないことになるわけですから。計画をたてたら、後は実行する。この実行するが伝わらなければ、計画を説明しても意味がないわけですから。