2.戦略的IR
(5)戦略に基づく戦術
1)ストーリーで語る
 

 

このストーリー(と便宜的に私は言っているのですが)というものについては、他の会社では、似たようなことをやっているのか分からず、IRのことを指導するような書籍や雑誌にも書いていないので、何ともいえないのですが、私が、この仕事を続けているうちに、自然と自分で必要と思うようになり、というよりも、無意識のうちにやっていたという方が近いかもしれません、いまでは、説明会の準備やその資料を作成するとき、また、決算短信や有価証券報告書を作成するとき、あるいは、株主総会の招集通知や株主通信を作成するときに、一番大切なプロセスになっているようです。

そのストーリーというのを一言で説明するのは難しいのですが、簡単に言うと説明会の流れのようなものです。といっても式次第ではなくて、今回の第2四半期の決算説明会の場合ならば、第2四半期の業績について、会社はどう捉えているのか、例えば、今期、何をやろうとして、それは結果として、あるいは途中経過として、会社としてはどう評価するのか、その理由はどうしてか、これを踏まえて、今期の後半で、これをどうしようと考えるのか、また、このことから別な施策を考えたり、方針を転換したりするのか、というようなことを幹としてかためていく作業です。これだけを単に考えるなら、ぱっと数字を見てできないこともないのですが、個々の営業や技術開発の施策はこの幹から派生する枝葉のようなものですから、その関連性と、個々の施策というそれぞれの枝葉の絡み合いを幹との関連性との兼ねあいで、これらを一本の流れに収斂させて行くことです。さらに、これらは単なる事実としてでなく、会社が捉えた事実として評価を加えながら行います。要するに、この期間中、我々はなにをやってきたと考えるのかということです。その結果、説明会では、出席する投資家やアナリストに、どのような説明するか(当然、説明しない部分も含めて)ということを考えるのです。この時に、説明会に出席する投資家やアナリストは、私のような企業の内部のいる人間とは異なる視点で企業を見ますから、彼らの視点からはどのように映るかということや、彼らの立場で、とくに今期の私の会社に対して知りたいと思うことは何か、また、彼らが私の会社に投資している場合、投資リターンの点からどう評価しようとするかを考慮します。そのため、説明会で説明する会社業績への会社の評価や今後の会社がどうなっていくかに関して、社外の声がある程度は反映することになります。むしろ、私見では、これこそがIR、説明会をすることによる効果と思うので、これは絶対に欠かせません。また、これも私見ですが、出席する投資かもアナリストもプロですから、やっていれば、必ず気がつくはずです。(1度出席した程度では分からないこともあるでしょうが、2回出席すれば、必ず分かると思います。もし、分からないようなら、その人はプロのレベルではない人でしょう)これができると、決算数字が出てきた時点で、ストーリーの検証をおこない、細部の修正を行います。経営陣は、このストーリーに対して、決算数値が出るまでは検討するのに慎重になりますが、決算数値が出た時点で、出来上がっていないと経営陣に検討してもらうこともできません。ということは、後追いですが、決算数値が出た時点で、新たにストーリーを作ろうとしても、時間的な余裕はないため、実際のところ、叩き台として提示したストーリーに対しては細部の微調整はあるものの、本筋は通ることになります。当然、それ以前に経営陣の考えはウォッチしているので、経営陣の考えからかけ離れたものは作りませんが。この時点で、例えば、ストーリーの中にある営業のとった施策がストーリーからの視点で見ると、これまでの評価が変わって新たな可能性を経営陣が見出したり、というようなこともあります。IRの仕事を公報というような日本語にしてしまうと、PRの親戚のように思われて、このようなことがバッサリ抜け落ちてしまうのですが、私見ですが、会社と投資家等の株式市場の関係を良好に続けていくのがIRの目的と思っているので、PRのような一方通行ではなく、双方向の関係になると思います。そのため、会社が良くない状態にあれば、それを粉飾するようなことはできず、本当の姿を伝えることが第一で、反対に、会社のことを良く伝えようとすれば、会社に良くなってもらわなくてはならないのであり、そのために市場関係や外部の情報や意見を経営陣に伝えたり、その視点を反映した評価をするというようなことも含まれると思っています。


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