2.戦略的IR
(4)この戦略的IRで伝えるべきこと
 

 

さて、ここまでIR戦略とけっこう自慢気に書いてきましたが(本人も、そういう“どうだ!すごいだろう!”というひけらかしたい気持ちがあることは否定しません)。これは戦略ではなくて、戦術ではないかとご意見も出てくるのではないかと思います。厳しい目でみれば、ここまで述べてきたことは小手先のこととも受け取ることができてしまうものです。そこで、今日は、もう一歩踏み込んだ議論に入ります。それは、私の勤務先の企業について、何を投資家に向けて発信したいのか、この企業の本質は何なのかということに関連してくることです。

私の勤務先の企業は、技術力を売り物にしているメーカーです。質の高い製品をユーザーに供給して信頼を得、業績を積み重ねてきています。この連載の最初にも紹介しましたようにB to Bの取引形態で、主要なユーザーは素材メーカーや電機メーカー等という性格のため利益率が比較的低い業界にあり、売上は設備投資動向の影響を受け易いことから、このところの業績の数字はあまり良いものとは言えません。だからと言って、社内が沈滞ムードかというと、技術やさんたちは活き活きと開発テーマに打ち込んでいるし、将来に向けての熱っぽい議論が起こったりしています。そういう企業の空気というようなものは、実際に訪問してもらえば、分かる人は察知できるものですが、数字には現われてきません。私自身、いまの勤め先は好きですし、いい企業だと思っています(これは社員にとって居心地がいいとかいうのとは別に、企業理念とか経営陣の考え方とかも含めてです)。そういう企業だからこそ、熱心に他人に対しても良い企業であることを分かって欲しい、というシンプルな動機でIRを熱心に始めているといってもいいです。果たして、そういう点に投資価値があるのか、というのは投資をする人の価値観にもよるかもしれませんが、少なくても、それが技術開発の活力の源泉でもあるし、現状に甘んじることなく企業として成長する意欲を持っていることは確かです。数字として未だ現われていない投資家にとって未知の要素が、私の勤務先にはある。むしろ、この要素の部分が大きいのではないか、としたら、これを投資家に伝えるべきだし、理解してもらいたい。結果は客観的に数字で表われますが、その背後の数字に現われない投資家にとって隠れたところに本質的なものがあるのではないか。そこで、成長の可能性などを判断してほしい、ということで定性的な文章による情報に力を入れようとしているわけです。

ここまでが、IR戦略の何をするかということについてです。次に、どのようにするかを説明したいと思います。ここまで縷々説明してきたのは、定性的情報、つまり、定量的情報である財務諸表の数字の背景にある事情についての文章での説明に重心をおいて、これを他の企業に比べて充実させていこうということでした。ここからは、充実するといっても、どのようにするのかということについてお話したいと思います。

それでは、実際に、具体的にどうするか、これは企業に関してのひとつのコンセプト、あるいはストーリーといってもいいかもしれません、これを一本筋として一貫性を持たせた筋を中心に様々な情報を枝葉として関連づけていくという記述をとることになると思います。これは、何かどこかで聞いたような感じです。そう、強いて言うなら企業の事業戦略の立て方とよく似ている、というか、同じ方法論です。もともと、文章による情報では、そういうものを表わそうとしているわけで、その表わし方も実はその表わすものによって粗方決まってくるのではないでしょうか。では、実際に、担当者の私はどうしようとしているのか…。これは、さきほどの参考例でお分かりのように、未だ暗中模索の段階と言って、これ以上の説明はお許し願いたいと思います。

そこには課題もたくさんあります。しかし、課題があるということは、それを克服することができれば道は開けるということで、課題も可能性と考えて、それも企業の可能の一環として情報提供していきたい。そのために文章という手段はとても有効です。


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