戦略的IRと言って、抽象的な概念をいじっても仕方がないので、私の勤め先をひとつのケースとして、それに即して考えていきたいと思います。
私の勤め先のような新興市場に上場していて、会社の規模としては中小企業で、時価総額も大きくなくて、B to
Bのメーカーというユーザーや業態の性格から着実な成長を目指しているような、言うならば投資対象としては地味な企業の場合、有名な大企業や先端的で爆発的な成長が見込まれるような企業と違って、投資家の目に触れる機会が少なくなってしまいます。そのため、このようなある程度受け身の姿勢でも、投資家が見にきてくれるような有名企業と同じことをやっていても、知名度のない私の勤め先のような企業には見に来てもらえません。そこで、当然、そのような企業とは違うやり方でIRをやっていくという選択肢が出てきます。ここで、当然と言ったのは、経営戦略が同じような中小のメーカーが大企業と同じような製品で競争関係に立った場合、規模で優位な大企業と同じ土俵で勝負するよりは、競合する大企業がやらないところで特色を出して生き残る、あるいは差別化により競争していくことを選択するはずということからです。それぞれの企業が、その企業の実情に合わせて、それぞれに経営戦略をとっているようにIRについては、その企業に沿った戦略があるはずではないか、というのが私の基本的な考え方です。だから、単一のものさしでIRを考えることについては、違和感を持っています。しかし、事業戦略とこのようなIR戦略には大きな違いがあります。それは、企業の事業では商品というものが各企業では違うのである程度市場が区分されていますが、IRというのは、それこそ企業自身が商品となるので全企業が同一の市場で戦わなくてはならないことです。だからこそ、どのように戦うのかという戦略が経営戦略以上に大切になる、と私は思っています。