3.(4)その他
3)IRツールとしての株主通信〜社長挨拶
 

 

表紙をめくると、多くの株主通信では社長の写真を見ることができます。ほとんどの場合、表紙をめくったページは「株主の皆様へ」というようなタイトルで社長のあいさつが載せられているようです。中には、株主総会招集通知のなかで事業の報告というかたちで載せられた文書がそのまま流用されていて、最後に株主の皆様という文言を取ってつけておしまい、というケースもよくあります。このようなケースでは、独立して事業の報告の説明は省略されることも、よくあるケースです。また、企業によってはインタビュー形式にして読みやすくしたり、社長に対して親近感を抱けるように工夫しているケースもあります。しかし、アメリカの上場企業の年次報告書を読んでみると、“経営者の手紙”というようなコーナーがあってCEO自らが、株主さんに対して、自分の経営をアピールするように業績や将来の計画を熱く語っているのが常です。例えば、JPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモンは40ページも費やして自らの思いを書いていますし、世界的な投資家ウォーレン・バフェットは経営するバークシャー・ハサウェイで毎年書いている“株主への手紙”は新聞でも話題になります。日本企業では社長自ら筆を執ることはしませんが、私は企業としてとしてこのようなことをやってもいいのではないか、と考えました。そのため、できるだけメッセージ性を持たせるように努めています。実際に、このページのあいさつ文については、業績レポートが後にあるので、とくに客観的になる必要はないというのが私の考えです。ここで、株主さんや投資家が一番求めているのは、今期の業績や来期の展望に対して、社長(会社)がどう認識しているのか、ということだと思うからです。具体的に言うと、例えば、当社は今期業績で営業黒字に回復しました。そのことについて、社長はそれで満足しているのか、それだけでは飽き足りず次期以降黒字幅を広げていこうとする意欲が強いのか、というようなことです。これには、経営者としての社長の気持ちの問題が入って来るので、客観的な言い方では十分伝わりません。そして、そのような経営者(会社)の考えていることをメッセージとして直接表現できる場としては、この社長あいさつが一番適している、というよりも、ここしかないと思います。また、冊子の冒頭という一番目につくところに一番大切なことを堂々と掲げるのが、一番読む人に伝わり易いと考えたからです。個人的な意見ですが、企業の経営において事業を伸ばして行こうとすれば、リスクを取るということは避けられないことです。同じように、株主の支持を勝ち取り、市場での株価を上げて行こうと真剣に思うなら、リスクを覚悟で情報発信することは必要だと思います。市場は、そこに企業の本気度を見るはずです。


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(4)4)IRツールとしての株主通信〜事業概況と展望 へ

 
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