補充原則4−2.A
 

 

 2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂により新設された補充原則です。

【補充原則4−2.A】

取締役会は、中長期的な企業価値向上の観点から、自社のサスティナビリティを巡る取組みについての基本的な方針を策定すべきである。

また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

 

〔この補助原則新設(コード改訂)の背景〕

以前より、改訂前のコーポレートガバナンス・コードは補充原則2−3@で、サスティナビリティをめぐる課題への対応が取締役会の責務であることは明確化されていたものの、最近のサスティナビリティをめぐる課題への対応の重要性の高まりを受け、その対応に向けた取締役会での議論がさらに深まるように、取締役会にその基本的な方針の策定と、人的資本・知的財産への投資等に関する監督が求められてきたといえます。

そこで、補充原則4−2Aは、サステイナビリティをめぐる課題についての取締役会の役割について規律するものとして、取締役会の責務として「中長期的な企業価値向上の観点から、自社のサスティナビリティを巡る取組みについての基本的な方針を策定すべきである。」としています。

また、新型コロナウィルスの感染拡大を経て、これまで気候変動をはじめとする環境を中心として注目されてきたサスティナビリティについて従業員の健康・安全な人的資本への投資といった観点から社会の要素を介しても注目が高まっています。このような人的資本への投資への投資等の重要性が高まっていることに加え、フォローアップ会議では、国際競争力の強化という観点から知的財産への投資の重要性を指摘する意見や、企業の持続的な成長に向けた経営資源の配分に当たっては、人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいという指摘があり、このような指摘も踏まえ、補充原則4−2A後段で、「人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。」としています。

なお、補充原則4−2Aをコンプライする上では、取締役会で自社のサスティナビリティをめぐる取組みについて基本的な方針を策定することが求められており、たとえば、取締役会から権限の委任を受けた個々の取締役が基本的な方針を策定する場合には、コンプライと評価されないと考えられているようです。

〔サスティナビリティを巡る取組みについての基本的な方針の策定〕

補充原則4−2Aは、サステイナビリティをめぐる課題についての取締役会の役割について規律するものとして、取締役会の責務として「中長期的な企業価値向上の観点から、自社のサスティナビリティを巡る取組みについての基本的な方針を策定すべきである。」としています。したがって、取締役会は基本的な方針を策定しなければならないことになります。それで、どのように基本方針を策定するか、次のようなプロセスが考えられます。

@重要課題(マテリアリティ)の特定

サスティナビリティをめぐる取組みについて、補充原則4−2Aで求められている基本方針を策定するに当たっては、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社が優先的に取り組んでいくべき課題を特定することが、まず重要です。社会全体が抱えているサスティナビリティ課題は多岐にわたっており、一企業でそれらすべてを解決することは困難であると考えられますが、中期経営計画等の経営戦略の下で戦略的な重要性の高い事業等に投資を集中させるのと同じように、サスティナビリティ対応についても、取り組むべき重要課題をまずは見極めることが必要となります。その上で、そうしてピックアップした重要課題への対応方針を、自社の方針として定めていくことになるでしょう。

その際、取組みを自社の中長期的な企業価値の向上につなげていく観点からは、まずはサスティナビリティ課題を成長機会ととらえる視点が重要になります。具体的には、自社が所有する強みや競争優位性等を踏まえた成長戦略の策定に際して、事業に関連するサスティナビリティ課題を把握し、そうした課題解決への貢献を通じて中長期的に自社の企業価値を向上させていくことができる成長機会を模索していくことが必要となります。

他方、成長機会の面に着目した対応のみでは必ずしも十分ではなく、中長期的な重要リスクの視点からも検討が必要です。その際、特に最近のESG投資の潮流をリードしている年金基金等の機関投資家の視点は重要であり、持続可能な社会・資本市場を構築していくために不可欠な気候変動問題等のシステミック・リスクへの対応を怠ると、世界各国で進んでいる関連法規制強化や将来のさらなる規制強化のリスク等を踏まえれば、長期的には企業の存立基盤自体が揺らいでしまうおそれもあります。企業として一定の貢献・対応をする示すことが社会全体から受容され続けるために必要な条件となる可能性が高いサスティナビリティ課題については、そのような対応に要する時間やコストも念頭に、着実に取組みを進めていく必要があります。具体的には、中長期的な重要リスクの視点からは、自社が営む事業内容や展開地域、将来の規制強化リスクや対応を怠った場合に取引関係に及ぶ可能性のある影響等も念頭に、様々なサスティナビリティ課題に関するリスク水準を的確に把握した上で、そのようなリスクを適切にコントロールしていく対応が必要となってきます。

このように自社に成長機会をもたらし、または中長期的な重要リスクとなるサスティナビリティ課題は、それぞれの企業が営む事業内容や有する強み・競争優位性等によって各社ごとに異なり、必ずしも一様でないことに注意する必要があります。「サスティナビリティの要素として取組むべき課題には、全企業に共通するものもあれば、各企業の事業に応じて異なるものも存在する。各社が主体的に自社の置かれた状況を的確に把握し、取り組むべきサスティナビリティの要素を個別に判断していくことは、サスティナビリティへの形式的でない実質的な対応を行う必要がある」という提言もあり、それぞれの企業ごとに、対応すべき課題をまずはしっかりと選別し、ひとつひとつにしっかり取り組んで着実に成果を出していくことで、自社の中長期的な企業価値の維持・向上に結び付けていくことが重要です。

A重要課題を特定する際の考慮要素

社会全体が抱えているサスティナビリティ課題は多岐にわたりますが、そのような課題の中から自社として取り組むべき課題を絞っていく際には、まずは自社の事業内容との関連性が最も基本的な視点となります。ただし、特に成長機会の観点から解決への貢献を通じて中長期的に自社の企業価値を向上させていくことができる社会課題を探索していく際には、そのような事業機会は既存事業の周辺に位置していることも少なくないことから、事業内容との関連性については、ある程度広めに捉えておくことが有効です。

その上で、自社に成長機会をもたらすサスティナビリティ課題を探索していく場合、自社が有する強みや競争優位性を特定することが、まず重要です。そのように自社が有する強みや優位性を軸に具体的な成長戦略を策定していく中で、サスティナビリティ課題の解決の視点を意識することで、有望な事業機会を探索していくことが可能になります。

他方で、そのような成長戦略の視点は、中長期的な重要リスクの観点からも重要です。成長戦略の策定に当たって自社として目指したい方向を特定し、関連事業の成長軌道を描いていく中で、将来的に成長の障害になり得るサスティナビリティ課題が事前に発見された場合には、その課題に対して着実に取り組んでいくことは、成長戦略の実現性を高める観点からも重要です。

これに加えて、成長機会と中長期的に重要リスクの観点からの重要課題(マテリアリティ)を検討していく場合、事業展開を想定する地域や、地域における関連する規制内容、さらに将来の規制強化リスクについても的確に把握しておくことが重要になります。たとえば、気候変動問題については、世界各国で脱炭素化の宣言や関連する取組みを後押しする大規模な経済対策・規制の導入が相次いでおり、その他の環境課題についても、規制経済への移行に向け、製品の設計やリサイクル等について、規制を強化する動きが見られます。また、人権問題についても、欧州を中心に企業に対して人権デューデリジェンスの実施を求める法令が数多く制定されています。このような規制の同項は企業活動に大きな影響を及ぼす可能性があるため、自社として取り組むべき課題を検討していく際にも、留意しておくことが必要になります。

〔人財・知財のガバナンス(インタンジブルズ・ガバナンス)〕

補充原則4−2A後段は、人的資本や知的財産への投資等に関する自社の経営戦略やその実行に対する監督について新たに言及されています。それは、企業の持続的な成長に向けた経営戦略の中核に人的資本や知的財産への投資を位置付けて、取締役会が適切な監督を行うことで株価や賃金をあげていく、成長戦略としての人財・知財のガバナンスが重要になっています。

そもそも無形資産は、現在の企業の財務的なパフォーマンスにはつながっていないに見えても、未来の財務的パフォーマンスにつながる可能性が高く、企業価値に結びついていると言えます。人口が増加する高度経済成長期のような右肩上がりの時代には、商品や製品を製造する設備投資等の有形資産への投資がちゅうでしたが、暮らしの質や幸福度が求められる現代では、人財や知財、DX等の無形資産を中心とする投資にシフトしていくことが日本企業のサスティナブルな成長につながると考えられると言います。

人財や知財を統合するサスティナブルな経営を実現するための最も重要な無形資産は、次の3点であると指摘されています。

・強靭な取締役会

・CEOのリーダーシップ

・ビジネスモデル

つまり、CEOと独立社外取締役を中心とした強靭な取締役会が、未来の社会を予想、さらにはビジネスの成長シナリオを構想し、目標実現のためにサスティナビリティ方針を策定します。そして、取締役会がその方針を実現するために、人財や知財を含めた無形資産への投資戦略を構築し、その投資戦略にもとづいて中長期的な経営戦略の遂行を取締役会がCEOに権限委譲します。そして、CEOが人財・知財担当の業務執行役員とともに中長期的な人財・知財戦略をリードする形で、CEOのリーダーシップが発揮されます。それに伴い、経営の大胆なリスクテイクが生まれ、新たな事業の創出が期待されます。やがて、人財が生み出した知財を、人財ビジネスに活用することで人財が開発され、再生産されるようになるとノウハウやイノベーションが会社の知的財産として可視化され、企業価値を生み出す反復可能なビジネスモデルとして確立していく、という図式です。 

〔「知的財産への投資等」の「監督」の具体的内容〕

補充原則4−2A後段は、取締役会は「人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分」が「企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべき」と規定しています。ここでいう、取締役会の知的財産への監督の具体的内容としてどのような対応が想定されるか考えてみます。

内閣府知財検討会の2021年9月24日の文書で、監督すべき事項の例として次の4点を挙げています。

@自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析

「知財・無形資産の把握・分析」の手法の例として、検討会はIPランドスケープの活用等をあげています。IPランドスケープとは、、「自社や他社の知的財産および市場を統合的に分析し、そこから得られた情報を経営戦略に役立てる手法」を意味し、具体的には、おおよそ下記の流れでIPランドスケープを進めます。

・知財の専門家が特許マップの作成などにより、他社による技術開発の動向を分析

・分析の結果から自社の注力すべき分野や、新製品開発などに役立つ情報を洗い出して整理

・図表などのツールを使って、経営陣に対して意思決定に役立つ情報を提供

また、コーポレートガバナンスコード改訂に際してのハプコメへの東京証券取引所の回答では経営デザインシート等の活用を提示しています。経営デザインシートは、企業等が、将来に向けて持続的に成長するために、将来の経営の基幹となる価値創造メカニズム(資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み)をデザインして在りたい姿に移行するためのシートです。

自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析に際して、必ずしもIPランドスケープや経営デザインシートに依拠することが必須となるわけではありませんが、それらに共通するコンセプトと考えられるのは自社の知財情報を分析し、経営判断のための材料とするということを実行するために、自社の知財・無形資産にどのようなものがあって、どのような強み・弱みがあるかを分析し、知財部門だけではなく、取締役会、指名・報酬委員会など経営レベルで検討・検証する機会を設け、その結果の概要をコーポレートガバナンス報告書等で開示していくことが望ましいと言えます。

A知財・無形資産を活用したサスティナブルなビジネスモデルの検討

この点について、各社の状況、属する業界の状況、社会・経済状況を踏まえて、各社で検討します。

B競争優位を支える知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略の構築

この点については、検討会が定量的なKPIによる補強されたロジックを構築することが必要であると指摘しています。知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略の実行・実施のためには目標設定が必要になり、それには定量的なKPIや定性的な施策実施目標を設定することが考えられます。

戦略の内容によっては必ずしも定量化になじまないものもありますが、定性的な情報(例えばビジネスモデルなど)だけでは企業間の比較が困難であり、定量的な情報こそが企業を横並びで比較することを可能にすると言えます。定性的な目標設定と併用するにしても、定量的なKPI設定を行うことが望ましいと言えます。

例えば製造業を中心とした既存事業での競争の優位性確保のための知財活動のKPIを考えると、次のような点があげられます。

@)特許及び意匠の権利化に関するKPI

.特許保有(出願)件数

A)特許の質をはかるKPI

.市場カバー率と技術的価値による特許価値の数値化

例えば、出願地域をマーケット規模で重み付けし、相対的に数値化した市場カバー率や、審査における特許の被引用回数を用いて、さらに各国特許庁の公開や特許の技術分野で重み付けされる技術的価値の二つの積を特許の価値として数値化するものてせす。

.業界の特許資産規模ランキングの位置付け

.Patent Asset IndexTM

Patent Asset IndexTMとは、法的に有効な状態にある特許権について、量的指標(件数)と質的指標を使用しているものです。

B)技術の秘匿化(秘密管理)に関する客観的な説明やるKPI

.社員教育の実施回数

.先使用権主張のための準備実施件数

技術を秘匿する場合には、先使用権(他者がした特許出願の時点で、その特許出願となる発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者に認められる権利。先使用権者は、他社の特許権を無償で実施し、事業を継続できるとすることにより、特許権者と先使用権者との間の公平が図られている)の主張の準備も併せて行うことが考えられます。

.技術者の離職率

1人の技術者の人材流出は、そのまま技術の流出につながる可能性があります。

.不正競争防止法違反に対する法的措置の実績

C)第三者の知的財産権侵害リスクの最小化

.カウンター特許(防衛特許)の保有件数

.事前のクリアランス件数

.事業リスク低減件数(模倣排除、鑑定、訴訟、異議・無効等の件数)

D)特許のライセンスアウト活動

.ライセンス契約数

.ライセンス対象の特許保有件数・特許ポートフォリオ件数

.特許ライセンス収入額

.知的財産の売却による譲渡収入額

その上で、目標設定の対象終了後に、取締役会、指名・報酬委員会などで定量・定性の目標の達成状況を検証し、経営陣の評価を行っていくことで監督が実行されたこととなります。

C戦略を着実に実行するガバナンス体制

知的財産に関する投資の監督の観点から特に重要と考えられる「戦略を着実にするガバナンス体制」については、具体的には考えてゆきます。この点について知財検討会では、次の点を挙げています。

@知財投資・活用戦略を議題としてどのようなタイミング(例えば、年度計画、統合報告書作成時)で取り上げるのか?その際、どのような議題を設定すべきか?経営陣に対し、どのような知財関連情報を共有すべきか?その際、IPランドスケープの活用を検討すべきではないか?

知的財産への投資等の監督のために取締役会が取り上げるタイミングについては、年度計画、統合報告書作成時以外には、中期経営計画作成時、事業報告・有価証券報告書・CG報告書作成時等が考えられます。

A知財投資・活用戦略の実効的な監督に向け、取締役会の構成メンバーについてはどのような配慮が求められるか(スキル・マトリックス)?社外取締役にどのような役割を期待すべきか?

知的財産への投資等の実効的な監督ができる取締役会の構成メンバーの選定に関しては、取締役会による検討のほか、指名委員会を設置している会社では指名委員会で審議すべきテーマとなります。

B知財投資・活用戦略の実効に向け、経営陣にどのようなインセンティブを付与すべきか?

知的財産への投資等の実効に向けた経営陣へのインセンティブの付与については、取締役会による検討のほか、報酬委員会を設置している会社では報酬委員会で審議すべきテーマとなります。

C取締役の知財に関する知見を深めるため、どのような機会を活用すべきか?

取締役の知財に関する知見を深めるための機会については、補充原則4−14@が求めるトレーニングの機会に知的財産に関する役員研修などの取組みを盛り込み、その上で補充原則4−14Aが求めるトレーニングの方針の開示を行っていくことが考えられます。

では実務的に、上場企業の開示例や検討会の議論から次のような例を挙げることができます。

@知財戦略審議会の立ち上げ

日本企業では、取締役会で知財が議論されることは多くないので、取締役会において知財投資・活用・開示に関して審議できる体制を整備する。例えば、知財・イノベーション委員会やサスティナビリティ委員会において、重要課題として知財を検討するとともに、執行の監督や投資結果の評価を行います。

A役員会・IRと知財部門の会議の構築およびその開催頻度の増加

B社内表彰制度の導入または改訂

研究開発者のモチベーションと知的財産に対する意識を高めるための知財に関する表彰制度を導入すること、また制度を改訂することです。

C研究開発者(技術者)に対する知財教育

研究開発者の知的財産リテラシー向上のために、知財教育を行うこと等が有用です。

D知財担当者に対するビジネス教育

〔人財・知財に関する開示例〕

知財に関する投資は常にリターンを意識して行われるべきですが、これを推進するための部門や責任者を特定し、組織的にこれを行うためのルーチンの策定などが求められます。推進部門として通常考えられるのは知的財産部門であり、その統括者が推進責任者となるでしょう。ただし、知的財産部門は、知財を経営に結びつけて論じる能力に長けていないケースも想定されることから、適宜、経営企画部門などの戦略部門が補完をし、取締役が執行と実効性を監督することになります。

サンプルとして、次のようなモデルケースを考えてみます。

〔B社は20年前にプロ向けの高性能複合プリンタ事業を立ち上げた。知財戦略には当時から力を入れており、過半の必須特許を獲得しているため、現在は世界的にも高いシェア(40%)を維持しているが、取得した必須特許が20年の経過により満了し始めている。今後のコモディティ化し備えて、より人件費の安い地域での製造及び改良研究も視野に入れつつ、事業の継続を図る。〕

<B社の知財戦略の開示>

・精緻な特許分析を行った結果、本製品において、必須特許が取得できた限界年は2007年ころということが判明した。したがって、コモディティ化する時期はこれらの必須特許がほぼすべて満了する2027年ころと推定される。なお、この分析には2年ほどの誤差が見込まれる。

・コモディティ化が起きると、特許による参入障壁がなくなるので、オーバーヘッドの安い企業が参入してくる。価格競争になるので、製造コストも抑える必要があるが、市場のパイオニアとしては、新たに生じる市場ニーズに対して迅速対応し、グローバルシェアの極端な低下を生じないような戦略を採りたい。

・このためマネジメント的な工夫は次の2点となる。

@)新たに生じる市場ニーズを迅速にとらえる組織の発足

SDGsやESG投資のように、新しい考え方は日々登場しているが、今後登場する新規な考え方をいち早くキャッチして、開発・知財部門にフィードバックする組織の構築。その組織は、営業部門・事業部門・R&D部門・知財部門を横断的に見渡せるいわゆるリエゾン的な職位をイメージしている。

A)その組織の役割及びKPIの定義

上記@によって得られた市場ニーズの要請に基づく機能を世界に先駆けて製品に実践するとともに、他社牽制のために特許を取得していくことに競争力を確保することが基本戦略となるが、リエゾン職位の役割やKPIを定義することによって、その活動の実質化、効率化を図っていく。

・現時点の利益率は限界利益ベースで20%を超えるが、コモディティ化後は半分以下になると想定している上記リエゾン職位が奏功し、他社に対して優位な製品が製造できる限り、一定のシェアは確保できると思われるが、ビジネスとしての旨みに欠ける事態に陥ることも想定できる。この場合、進出先の海外企業に事業売却する可能性も視野に入れることになるが、その際には、特許権とともに売却をすることによって売却価格を上げる必要がある。それを実現するために、売却のための切り出しが可能な特許権取得を心掛けている。

<B社の知財戦略の開示のポイント>

コモディティ化による特許による参入障壁の消失は主たる利益率の低下要因であるところ、B社の開示においては、出願件数や特許査定率といった知財マネジメント的な指標にとどまることなく、利益率や市場シェアといった投資家の関心事の指標をベースとして、知財業界で一般に知られている普遍的なセオリに基づいて分析、開示を行っている。このような手法と観点で対策を開示する。

マネジメント的な工夫2点については、株主が知りたい情報であり、かつ、気密性も少ないので開示すべきであるが、利益率の具体的数字まで公にすべきかは考慮を要するところであり、機密保持等の要請から、企業としてはこれを控えることも容認される。ここで大切なのは、機関投資家やその他の株主が知りたい情報を把握して、開示のための労力や機密保持の観点を踏まえつつ、指標的開示と戦略的開示のバランスを図ることであって、企業の事情で開示の度合い・方式をまちまちに認めるプリンシプルベース・アプローチを忘れてはならない。

 


関連するコード        *       

基本原則2.

原則2−5.

基本原則4.

基本原則5.

 
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