補充原則2−4.@
 

 

 2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂により新設された補充原則です。

 【補充原則2−4.@】

上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ特定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。

また中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

 

〔この補助原則新設(コード改訂)の背景〕

これまで、コード原則2−4において社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保が求められるとともに、原則4−11で取締役会はジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきだとしています。しかし、現実には外国に比べて女性の管理職比率は低水準を続けており、昨今のコロナの感染拡大のような急速な事業環境の変化も起きている中で、企業経営にとって多様性はイノベーションや新しい価値創造の源泉であって経営戦略の要であり、また、取締役や経営陣における多様性を確保するためには、その取締役や経営陣を支える企業の中核人材である管理職も多様性が確保されていることが重要であると、フォローアップ会議で指摘されますが、現実には、前述のとおり進んでいません。女性の登用に限らず、中途採用や外国人の登用も進んでいません。そうした点から多様性の確保は未だ不十分なのは明らかです。

このように指摘や現状の認識を踏まえて、補助原則2−4@は、今後企業が新たな成長を実現する上では、取締役会だけでなく、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められという考え方のうえで、とくに取締役会や経営陣を支える管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の公表を求めています。

〔形式的説明〕

補充原則2−4@は、(1)多様性の確保についての考え方、(2)自主的かつ測定可能な目標及びその状況ならびに(3)多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針及びその実施状況の開示が具体的内容となります。

(1)多様性の確保についての考え方

2−4@の文言は、まず「女性・外国人・中途採用者」を多様性の要素として特筆しています。このうち「女性」「外国人」が多様性の要素であることは改定前のコード原則4−11でも「ジェンダーや国際性」として明示されているのですが、このたびの改訂により中途採用者が追加されました。その趣旨としては、他社での職務経験・経営経験を有することによる会社固有の価値に縛られない意見を通じ、果断な意思決定等につながることを考慮したゆえです。

なお、多様性の確保のあり方については、各社の状況に応じて様々であることから、多様性の要素は「女性・外国人・中途採用者」に限られるのではなく、各社それぞれに他の要素を加えることが考えられます。その場合は、各社によってそれぞれの事情を考慮した上で決定し、「多様性の確保についての考え方」の開示の中で、その内容を具体的に示していくことになります。

ただし、上記の通り多様性の要素は「女性・外国人・中途採用者」に限られない一方、補充原則2−4@は、少なくとも「女性」「外国人」「中途採用者」についての多様性の確保は必要という前提に立っているのであり、これらのいずれかについて「自主的かつ測定可能な目標」を示さない項目がある場合には、その旨と理由を着さあする必要があります。

(2)自主的かつ測定可能な目標とその状況の開示

「自主的かつ測定可能な目標」については、特定の数値を用いた目標利ほか、例えば、程度という表現やレンジを用いて示す形や、現状の数値を示したうえで現状を維持とか現状より増加させる、などといった目標を示す形、努力目標として示す形でもよいと、パブリック・コメントでは説明されています。

なお補充原則2−4@の文言の中では、具体的な目標数値を定めろとは一言も言及していないので、「測定可能な目標」については一律の数値目標でなければならないというわけではなく、各社において定めればよいと考えられます。ただし、「女性」の登用の目標については、経団連が2020年11月17日に公表した「新成長戦略」の中で2030年までに役員に占める女性の比率を30%以上にするという目標が示されていることなどから、30%という数値が一応の目安となり得る可能性が高いと思われます。

また、「その状況」を開示すべきとされていますが、この場合の「その状況」とは、目標の実際の進捗状況・達成状況であり、目標と状況の乖離について投資家と企業との間で建設的な対話を進めることが期待されていると考えられます。

(3)多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針とその実施状況の開示

「中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。」というのは、多様性に向けた人材育成方針と社内環境方針とその実施状況の開示を求めるものです。多様な人材を活かし社内全体としての多様性の確保を推進するためには、人材育成体制や社内環境の整備が必要であるとして、これらの方針や実施状況についても開示が求められています。

このうち「人材育成方針と社内環境整備方針」については、たとえばコロナの状況を踏まえたデジタル化を伴う人材育成や社内環境整備の方針であり、その方針の中に人材採用に関する方針を含めることも想定されています。その他、すでに人材の多様性確保のための体制整備について開示している企業では、「女性」の確保に向けた試みとして、時間単位の年次有給休暇制度、時差出勤制度の導入、育児サポート手当の支給、男性育児休業取得の推進等が、「外国人」の確保に向けた取組として、外国籍従業員の定着に向けたサポート体制の整備等が幅広く記載されており、このような取り組みの参考になると思います。

〔実務上の対策と個人的見解〕

 

〔実務上の対策─開示事例〕

@多様性の確保についての考え方の開示

まず、多様性の要素として、「女性・外国人・中途採用者」が特筆されています。このことを踏まえて、女性、外国人および中途採用者のそれぞれについて、管理職への登用等に関する開示を行っている開示事例が多いようです。また、多様性の要素は、この3つに限られるものではなく、他の要素(たとえば年齢)を加えることも考えられるものとされており、年齢等の要素に言及するヤマハのような事例もあります。

補充原則2−4@の開示対象のひとつは、「多様性の確保についての考え方」であり、これについては、企業理念はや行動指針などの基本的な方針等における多様性に関する記述を引用する多様性の確保についての考え方アズビルの例があります。その他、ダイバーシティ&インクルージョン方針等を等を策定し引用するヤマハなどの事例もあります。

アズビル

〔中途人材の登用等における多様性の確保〕

中途人材の登用等における多様性確保の詳細につきましては、本報告のV「株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況」の「3.ステークホルダーの立場の尊重に係る取組状況」の「その他」に記載しておりますのでご参照ください。

※補足説明の記述

〈多様性の確保についての考え方〉

当社は、一人ひとりの個性を尊重し、その特徴を活かし、活き活きと働くことで成果を高めていくことが企業成長の原動力であると考えられており、グループ行動指針に「『多様な人材』とチームワークによるダイナミックな価値創造」「学習する企業風土とイノベーションによる成長」を定め、さまざまな個性・能力・知見を備えた個々の人材を大切にし、その多様性を尊重するとともに、前例にとらわれない、枠を超えた発想と革新的な行動により、絶えず学習し、成長し続けるよう促しております。加えて、能力発揮度合いに基づく公正な評価を踏まえた登用・処遇を行うことで、女性、外国人、中途採用者に限らず、多様な個性、特徴、多様な経験をみつ人材が中核人材として活躍しており、当社の持続的成長に資する人的資本価値を高める取り組みに繋がっております。

〈多様性の確保の自主的かつ測定可能な目標及び確保の状況〉

(1)女性社員

女性の役員、役職者、管理職などの役割に応じたウェイトと人数を掛け合わせた独自の算定ポイントで中核人材の活躍目標を設定しており、2024年度には2017年度比で2倍以上目指しております。ダイバーシティ推進タスクの活動等も通じて、女性が重要な役割を担い、責任ある立場で活躍する取組みを進めており、当社の持続的成長に資する人的資本価値を高める取組みに繋がっております。

(2)外国人社員

グローバル化の推進とあわせて外国籍社員の採用を進めており、2022年新卒採用100名を目標とする中で、海外大学出身人材・外国籍人材を10名採用する目標を掲げております。国内社員が海外での活躍機会を得る一方で、海外現地法人社員が国内で研鑽機会を得るなど、多様な人材が融合し合うことによって、新たな価値を創造しながら、人材のグローバル化にも繋げております。また、中核人材の活躍について上級基幹職の外国籍社員は6名在籍しており、2024年度に現状以上とする目標を設定しております。

(3)中途採用社員

即戦力としての期待等から、毎年一定数の中途採用を進めており、2021年度中途採用では30名の目標を掲げております。実戦的な実務能力が発揮され、その発揮能力に応じて組織責任者等への登用が進んでおります。また、中核人材の活躍について、中途採用社員のうち上級基幹職は2021年6月時点で232名、19%を占めておりますが、2024年度に現状以上とする目標を設定しております。

〈多様性の確保に向けた人材育成方針、社内環境整備方針、その状況〉

人材育成の専門機関であるアズビル・アカデミーが、「働き方改革」と「ダイバーシティ推進」の両輪で業務改革を推し進める人材を育成しております。2017年度に立ち上げたダイバーシティ推進タスクによりリーダー育成、多様な働き方、風土改革が進んでおりますが、これまでの女性活躍中心の取組みを外国人社員、中途採用者へと順次展開してまいります。また、2019年の健幸宣言において、会社とそこで働く社員が協働し、快適で働きやすい職場環境づくり、心身の健康づくりに積極的に取り組みことを宣言しており、多様な人材が各々の社会的、身体的特徴、思想や価値観の違いを認め合い、就労や活躍の機会を尊重しております。育児・介護、その他の様々なライフイベントが発生する際等でも仕事と両立できるよう支援制度を整えることで、すべての社員が継続して働きやすい職場となるよう環境整備を進めております。

https://www.azbil.com/jp/ir/management/governance/pdf/Corporate-Governance_20210624.pdf

A自主的かつ測定可能な目標とその状況の開示

「自主的かつ測定可能な目標」は、具体的な人数やその割合等、特定の数値を用いて定めることもできますが、それらに限られず、例えば、程度という表現やレンジ(範囲)を用いて示す方法や、現状の数値を示したうえで「現状を維持」、「現状より増加させる」といった目標を示す方法でも、「測定可能」な目標に含まれるとされています。アズビルなどが現状の数値を示してそこからの増加等の目標示す開示をしています。「その状況」について、目標と併せて開示するあおぞら銀行の例もあります。

あおぞら銀行

〔女性・外国人・中途採用者の管理職などへの登用等多様性の確保〕

〈多様性の確保についての考え方〉

当行は、従来から性別や国籍に関係なく、能力や実績を重視する人物本位の人材登用を実施しております。この歴史的な産業構造の転換期にあって、持続的な成長と企業価値の向上を実現させるためには、多様な視点や価値観を尊重することが重要と考え、経験・技能・キャリアが異なる人材を積極的に採用しつつ、これらの人材が活躍できる職場環境を整備します。

特に経営の中核を担う管理職層においても、多様性の確保が重要との認識のもと、女性・外国人・中途採用者の管理職比率に目標を設定します。当行の特色である中途採用者の高い管理職比率を維持しつつ、女性管理職比率については、調査役(係長級)の目標も設定して中核人材プールを拡充し、将来的には管理職比率20%の達成を目指してまいります。

〈多様性の確保の自主的かち測定可能な目標、その状況〉

項目            現状      目標       達成時期

女性管理職比率         11.8%   13%以上    2023年3月末

女性調査役(係長級)比率   33.5%   35%以上    2023年3月末

外国人管理職比率         2.9%   3%以上    2023年3月末

中途採用者管理職比率     42.5%   40%以上    継続維持

*管理職は労基法上の管理監督者に該当し、部長相当クラス、課長相当クラスの合計

*調査役は管理職の一つ手前の職階

*外国人管理職比率はGMOあおぞらネット銀行を除く国内・海外グループ会社を含めた数値にて算出

〈多様性の確保に向けた人材育成方針、社内環境整備方針、その状況〉

方針@ 多様性を重視した採用と実力本位の評価の継続

取組み内容

・新卒・中途を両輪とする採用活動の計測

・女性向け採用セミナー等のイベント開催

方針A 女性従業員のキャリア形成支援

取組み内容

・キャリア研修等を通じた未経験業務へのチャレンジの促進

・社内短期トレーニー等の育成プログラムの拡充

方針B 多様な従業員の更なる活躍に向けた環境整備

取組み内容

・柔軟な働き方の推進と休暇取得促進等によるワークライフバランスの向上

・国内外の社員との個別面談を通じた環境整備の継続

B多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針とその実施状況の開示

ここでは、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針を、その実施状況と併せて開示することが求められています。多様な人材を活かし社内全体としての多様性の確保を推進するためには、人材育成体制や社内環境の整備も重要であることから、多様な働き方やキャリア形成を受け入れた上で、社員のスキルや成果が公正に評価され、それに応じた役職・権限、報酬、機会を得る仕組みの整備を求めています。

この点については、人事に関する基本方針を策定し、その中で多様性の確保にも言及している旨を開示する三井住友トラスト・ホールディングスの例もあります。

三井住友トラスト・ホールディングス

〔女性・外国人・中途採用者の管理職などへの登用等多様性の確保〕

<中核人材の登用等における多様性の確保>

1.多様性の確保についての考え方、人材育成方針、社内環境整備方針

当グループでは、個々人の多様性と創造性が組織の付加価値として存分に生かされ、働くことに夢とやりがいを持てる職場を提供するとともに、高度な専門性と総合力を駆使してトータルなソリューションを提供できる人材集団を形成し、その活躍を推進するための人事の基本方針を策定しています。

また、2018年4月には「三井住友トラスト・グループ人材育成方針」を制定し、職場の環境整備及び人材力の強化に取り組んでいます。

2.多様性の確保の状況

・信託銀行グループとしての強みの源泉である多様性確保に向けて、新卒採用に加え、キャリア採用についても積極的に実施しています。近年では、異業種からの採用も含め、中核子会社である三井住友信託銀行においては、国籍に関わらず、日本国内で毎年約100人前後のキャリア採用を実施しており、年間採用数の約2割の人材をキャリア採用にて確保しています。

・海外の各拠点においては、合計700名超の現地スタッフが活躍しています。

・女性の管理者の登用については、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画(以下、「行動計画」という。)として、2020年3月までに課長級以上の女性管理職を300名とする目標を掲げ、2019年10月に357名と前倒しで目標を達成しました。2020年4月からは、意思決定ラインにおける女性を増やすことを目的に、2023年3月末までに課長以上のラインのポストに就く女性の比率を12%以上、マネジメント業務を担う女性の比率を30%以上とする新たな行動計画を策定し、統合報告書等にて開示しています。

今後も引き続き、人事の基本方針及び人材育成方針を踏まえた職場環境の整備、登用や研修等を実施し、多様な人材の活躍を推進してまいります。

Cエクスプレインの開示

エクスプレインの事例は少ないですが、女性・外国人の管理職への登用数が十分でないことを理由とする事例、従業員に占める女性・外国人・中途採用者の比率が大きくないことを理由とする事例、企業規模や事業ドメインが限定されていることを理由とする事例、事業の特性上から多様性の確保が推進できていないことを理由とする事例等があります。

 


関連するコード        *       

基本原則2.

原則2−5.

基本原則4.

基本原則5.

 
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