新任担当者のための会社法実務講座
第5章.計算等
 第1節.会計の原則 第2節.会計帳簿等
 

 

第5章.計算等

第1節.会計の原則

ü 計算規制の目的

株式会社の計算とは、会計のことです。取締役は、会社の業務を合理的に執行する必要から、その財務状況を刻々と把握していなければなりませんが、それを株主や会社債権者に説明できなければなりません。会計とは英語でacountですが、この言葉のもともとの意味は計算ではなく説明です。株主や債権者に状況を説明するには一定のルールが必要となります。説明によって、受け取られ方が変わってしまうと、会社の状況が正確に伝わったとはいえません。そこで法的な規制が加えられているわけです。計算に関する規制の具体的な目的として次の2点があげられています。

@)分配可能額算定目的:株主の有限責任の制度的裏付けである株主に対する剰余金の配当等の財産分配の限度額(分配可能額)を定める主題としての必要性

A)情報提供目的    :会社債権者が債権回収の可能性を判断し、株主が将来のリターン・リスクを予測するなど、会社の利害関係者がそれぞれの意思決定を行なう前提となる情報を会社から開示させる必要性

ü 計算規制の沿革

・財産法的立場(昭和37年以前)

財産法的立場とは、企業の解体(会社の清算)を前提として会社のここの財産を処分した場合の処分価額をもって会社財産として表示することを目的とする立場です。例えば資産の評価については時価評価、つまり、その資産を市場で売却した場合の売り値がその資産の価値となる評価がとられます。これを会社債権者の立場から言えば、会社財産を処分してその売得金からその会社に対する債権の満足を得ることを想定するものです。

しかし、破産のような非常の場合を除いて会社が清算されることはありえず、通常では会社は事業を継続的に行っています。そういう実態には会社財産の処分を前提とする財産法的立場は即していないと言えます。

そこで昭和37年の法改正によって損益法的立場に移行しました。

・損益法的立場(昭和37年〜平成11年)

損益法的立場とは、企業の継続を前提として、企業の収益力を正確に把握し、かつ表示することを目的とする立場です。そのために、費用対収益の原則により期間損益計算をする方法がとられます。資産の評価では原価主義、つまり取得にかかった費用がその資産の価値となる評価がとられます。これを会社債権者の立場から言えば、会社が上げる収益からその会社に対する債権の満足を想定するものです。

・金融資産の時価評価の導入(平成11年以降)

しかし、グローバル経済の進展などにより企業が海外の証券市場に上場したり、海外の投資家からの投資を受けたり、国際会計基準の影響などもあって、日本国内の計算方式はローカリズムとして見直しを迫られてきました。そこで平成11年に金融資産の評価に時価主義が導入される改正が行われました。

ü 他の法令による会計規制

・金融商品取引法

金融商品取引法に基づく開示義務を負う株式会社が投資者の投資判断に資するため公示する有価証券報告書等には、「経理の状況」が記載されます。その主要な内容は、連結財務諸表の用語、様式およぴ作成方法に関する規則等に従い作成された財務計算に関する書類であり(金商法193条)、公認会計士または監査法人による監査を受けます。企業会計審議会が公表する「企業会計原則」をはじめとする会計基準は、その財務計算に関する書類が従うべき「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当します。

※連結財務諸表

連結財務諸表は、二つ以上の会社が支配従属関係の下に企業集団を形成している場合には、例えば親会社から子会社へ販売された製品が未だ子会社にとどまっている限り未実現の利益と評価する等、企業集団を単位として作成する財務諸表です。多くの会社を支配下に置く上場会社等の真の財政状況・経営成績は、連結財務諸表によらねば分からない面が多く、金融商品取引法に基づく財務計算に関する書類は、現在は連結財務諸表を主、適用会社の個別財務諸表を従とする形で記載されています(連結中心主義)。

・税務会計

株式会社の風所得の計算上も、会計規則(租税会計)が必要です。法人の収益・費用等の額は、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従って計算されるべきものとされ(法人税法22条4項)、かつ、法人の確定申告は「確定した決算」に基づき行われるべきものとされていること(法人税法74条1項)から、原則として、会社法に基づく計算をベースに課税所得を計算する仕組みをとっています。しかし、租税会計の目的は、課税負担の公平とか特定の投資の勧奨などの制作の実現とか。会社法とは異なる部分があるので、両者間で収益・費用の年度帰属等について異なるルールがとられています。

Ø 会計の原則(431条)

株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。

ü 一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行(431条)

計算関係書類の内容、例えば損益計算書であれば、会社が商品を販売した場合に契約締結、出荷、引渡し、検収、代金回収等のどの時点で売上を計上すべきか、言い換えれば、事業年度の売上としてどの時点で計上できるか、といった会計の処理の原則あるいは基準について、会社法及びそれに基づく法務省令には、具体的な規定はほとんどありません。

会計の処理に関する大部分の事項は、株式会社の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うべきだということを定める包括規定(431条)で処理されます。

・「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」とは何か

「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」は具体的には、企業会計審議会が公表する企業会計原則をはじめとする会計基準は、一応それに当たるとされています。

企業会計審議会が公表する会計基準は、金融商品取引法に基づく財務諸表及び連結財務諸表が従うべき「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当する旨が定められています。この会計基準が431条にいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に該当するか否かに関する明文の規定はありませんが、旧商法において計算書類の会計監査人による会計監査の基準が当時の証券取引法に基づく監査基準と一致させる意図で策定された経緯から、或いは企業会計の実際の現場の慣行からも該当するものと考えられています。

・包括規定の意義

会社法が制定される前は、旧商法32条2項で、「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」と規定されていました。この規定は適用範囲を「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈」としていましたが、ここでの「規定」には商業帳簿の作成目的を定めた商法32条1項も含まれるとされ、したがって計算書類等を含む商業帳簿の作成全般に関して公正な会計慣行の斟酌が要求されていると解されていました。公正な会計慣行を「斟酌」するとは、特別な事情がないかぎりは公正な会計慣行によらなければならないという趣旨です。このように包括規定で計算関係書類は公正に行われるという包括的な規定で具体的なルールは会計基準等に委ねるという方式は諸外国でも一般です。

 

第2節.会計帳簿等

第1款.会計帳簿

Ø 会計帳簿の作成及び保存(432条)

@株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。

A株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。

ü 会計帳簿

「会計帳簿」とは、会社計算規則59条3項にいう「会計帳簿」のこと、すなわち計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(仕訳帳、総勘定元帳及び各種の補助簿、例えば現金出納帳、手形小切手元帳等)をいいます。すなわち、事業上で生ずる一切の取引を継続的かつ組織的に記録する帳簿です。

また「その事業に関する重要な資料」とは432条1項の「(会計帳簿又は)これに関する資料」とほぼ一致すると考えられますが、これは会計帳簿作成の材料となった資料(伝票、受取証、契約書、信書等)を言いいます。

ü 会計帳簿の作成及び保存

株式会社は毎事業年度の終了後に計算書類等を作成しなければなりません(435条1項)が、その作成のベースとなるのが会計帳簿です(435条2項、会社計算規則59条3項)。従って会計帳簿は会社計算規則4〜56条出定めるところにより、適時に正確に作成されなければなりません(431条1項)。旧商法では、成立の時及び毎決算期における営業上の財産及びその価値、並びに取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を、整然かつ明瞭に記載することを要すると規定されていました。

会計帳簿の保存については、通常会計期間(例4月から翌年3月)を1期間として保存期間を考えます。会社法では10年間と規定されていますが、会計年度の10年で考えます。つまり、会計年度の1年分をまとめて保存します。それに従い、保存期間の開始は次の会計期間の始まりとなります。条文の「会計帳簿の閉鎖の時」は、その会計年度の決算で締め切った日をいいます。

※税務上の保存期間

会社の経理部署における実務上の会計帳簿などの経理資料の保存期間については、税法では7年間の保存期間としています。会計帳簿については会社法と税法とで求められている保存期間が食い違っているので、実務では、より長い会社法の10年間の保存期間を適用して、税法上の対象であって会社法の対象とならない証憑類、たとえば領収書などは7年間の保存として使い分けて法定の最低基準をクリアしています。実際のところは、社内規則でまとめて10年間保管したり、処分しないで半永久に保管し続けているところもあります。

Ø 会計帳簿の閲覧等の請求(433条)

@総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

A前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。

一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。

五 請求者が、過去2年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

B株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、会計帳簿又はこれに関する資料について第1項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

C前項の親会社社員について第2項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。

ü 会計帳簿の閲覧権(433条1項)

総株主の議決権の3%以上または発行済み株式の3%以上(ともに、定款によるその割合の引き下げは可能)を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写を請求することができます(433条1項)。この権利(会計帳簿の閲覧権)は、株主が取締役の責任追及の訴えを提起するため必要な調査をする場合等に、会社の業務・財産状況の調査のための検査役選任請求権と並び重要な役割を果たすものです。

また、親会社の議決権の3%以上を有する社員は、その権利(親会社の社員としての権利)を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(433条3項)。これは子会社を利用した取締役の不正行為等を防止する必要があるからです。

ü 閲覧謄写の請求(433条1項)

会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧・謄写を請求する者は、その請求の理由を明らかにしなければなりません(433条1項)。この場合の請求の理由は、閲覧を求める理由及び閲覧させるべき会計帳簿またはそれに関する資料の範囲を会社が認識できるように、閲覧目的等が具体的に記載されている必要があります(最高裁平成2年11月8日)。しかし、請求者は、その閲覧・謄写請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することの立証までは求められていません(最高裁平成16年7月1日)。

また、子会社の会計帳簿またはこれに関連する資料の閲覧・謄写を請求する親会社社員は、権利行使のためそれが必要な理由を疎明して裁判所の許可を得なければなりません(868条2項、869条)。

※旧商法では、この請求は書面で行わなければならないとされていましたが、会社法では、とくに規定されていません。しかし、実務的には公開会社では株式取扱規則などに少数株主権の行使手続について規定されており、それに従って請求手続が行われます。閲覧・謄写請求の申請書は多くの公開会社では所定の用紙を備えていて、必要事項を記入し、個別株主通知又は受付票をそえて会社に申請するという手続が一般的です。

ü 閲覧謄写の請求の拒絶(433条2項)

会計帳簿の閲覧・謄写請求は、会社の業務が円滑の執行される妨げとにもなり得るし、営業秘密の漏洩の危険もあるので、株主の権利保護上で真に必要な場合にのみ認められるものです。その一方で取締役が恣意的に株主の権利行使を妨害する事態もあることを懸念し、会社は法令に列挙された次の拒絶事由に該当することを立証した場合には請求を拒絶できるとしています(433条2項、4項)。なお、親会社社員が請求する場合には、会社は裁判所の許可の手続き中に立証しなければ、決定が降りた後では間に合わなくなります。

閲覧拒絶事由は次のいずれかに該当する場合です。

@)請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

A)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

B)請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

C)請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。

D)請求者が、過去2年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

会社が拒絶事由に該当することを立証しないまま閲覧・謄写請求を拒む場合には、請求者は保全必要性を疎明し、閲覧・謄写を求める仮処分を裁判所に申請することができます。

Ø 会計帳簿の提出命令(434条)

裁判所は、申立てにより又は職権で、訴訟の当事者に対し、会計帳簿の全部又は一部の提出を命ずることができる。

会社法434条は、民事訴訟法の特則であり、裁判所の職権により得る点(民事訴訟法219条)及びその所持者である訴訟当事者に提出拒否が認められない点(民事訴訟法220条)が、433条の株主の閲覧・謄写請求と異なります。

 

款.計算書類等

 

Ø 計算書類等の作成及び保存(435条)

@株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

A株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

B計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。

C株式会社は、計算書類を作成した時から10年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。

ü 会社成立の日における貸借対照表の作成義務(435条1項)

株式会社は、法務省令(会社法施行規則58条)の定めるところにより、その成立の日における会計帳簿に基づき、貸借対照表を作成しなければなりません(435条1項)。

ü 計算書類等の作成(435条2項)

株式会社は、各事業年度の計算書類として貸借対照表、損益計算書その他に株主資本等変動計算書、個別注記表及び事業報告とこれらの附属明細書を作成しなければなりません(435条2項)。なお、これらの計算書類の作成に係る期間は、その前事業年度の末日の翌日から当事業年度の末日までの期間で、この期間は1年以内ということになります(会社計算規則59条2項)。実務的には、その事業年度の終了後に作成することになります。そして、これらの計算書類等は会計帳簿に基づいて作成しなければなりません(会社計算規則59条3項)。

ü 計算書類等の主な内容

・損益計算書

損益計算書は、一事業年度に発生した収益とそれに対応する費用とを記載することにより、その期間内の会社の経営成績を明らかにする計算書です(企業会計原則第2の1)損益計算書は、@売上高、A売上原価、B販売費及び一般管理費、C営業外収益、D営業外費用、E特別利益、F特別損失の項目に区分して、以上から算出される税引前当期純損益金額の次に、課される税額等を表示することにより、最終的に当期純損益金額を算出する形で記載されます(会社計算規則88条〜94条)。

ア.営業損益計算

その会社の営業活動から生ずる収益・費用を記載する部分です(企業会計原則第2の2A)。例えば製造業の場合、営業収益として事業年度の売上高(会社計算規則88条1項1号)を記載し、その額から営業費用として、まずそれに対応する売上原価(会社計算規則88条1項2号)を控除して売上総損益金額(会社計算規則89条)を算出し、次に販売費及び一般管理費(会社計算規則1項3号)を控除して営業損益金額(会社計算規則90条)を算出します。一般に、営業損益は会社の本業による損益、つまり、事業の実力を表わしていると考えられています。

※実現主義

売上高の計上時期については、その事業年度内に商品等の販売または役務の給付が行われたものを売上額とし、これを実現主義といいます。なお、商品の販売はいつの時点とするか、出荷時、受渡時、検収時と分けられますが、便宜上出荷をもって販売としている会社が多いようです。

※原価計算

売上原価には、製造業の場合、材料費、工場従業員の賃金(労務費)、機械設備の減価償却費などが含まれます。費用・収益対応の原則により、その事業年度の売上に対応する部分のみがその年度の売上原価になります。例えば、材料仕入れのための支出のうち@当期内に製品として製造され出荷されたものの材料の部分は売上原価となりますが、Aそれ以外の製造途中のものは半製品などの在庫として棚卸資産として計上され売上原価とはなりません。なお、このAは次の年度に製造され出荷されれば、次の年度の売上原価となります。

※販売費及び一般管理費

会社の営業員の費用、事務管理系の業務の費用は、事業年度中に発生した額がそのまま年度の費用となります。

イ.営業外損益計算

その会社の営業活動以外の原因で、毎年続けて発生するような収益と費用による損益、例えば、受取利息・配当金、支払利息・割引料、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(いわゆる「売買目的有価証券」)の売却損益・評価差額金などです(企業会計原則第2の2B)。

ウ.経常損益計算

損益計算書の営業外損益の記載の後に、営業損益計算額に営業外損益を加えたものが経常損益金額です(会社計算規則91条)。これは、通常、会社の本業の損益である営業損益に借り入れの利払いや預金利息といった金融収支などを加えた会社の年間の損益です。この後の特別損益は臨時で本業以外の理由ものなので、日常的な企業活動の損益と言えます。営業損益が会社の儲ける力を表わすとすると、計上損益は会社の体力を表わすといえます。

エ.特別損益

特別損益は経常的でなく臨時に発生する損益(臨時損益)及び過年度に発生したが未記載の収益・費用(前記損益修正)を記載します(会社計算規則88条)。特別損益の例として、固定資産売却損益、売買目的以外の以外の有価証券の売却損益、組織再編における(負の)のれん、その他に有価証券評価損、災害による損失などがあります。

オ.税引前当期純損益・当期純損益

経常損益金額に特別損益を加えて算出した額は、損益計算書に、「税引前当期純損益金額」として表示されます(会社計算規則92条)。

その次に事業年度に対する法人税等の税額及び税金等調整額を記載して税引前当期純損益に加減下結果が当期純損益です(会社計算規則94条)。なお、一株当たりの当期純損益金額を注記します(会社計算規則113条2号)。

当期純損益金額は、貸借対照表の純資産の部の株主資本(その他利益剰余金)を変動させるもので、株主資本等変動計算書にも記載されます。

・貸借対照表

貸借対照表は、貸借対照表日(計算書類の場合は事業年度の末日)における資産・負債・純資産を記載することにより、その時点の会社の財産状態を明らかにする計算書です(企業会計原則第3の1)。貸借対照表上の資産の部は流動資産、固定資産、繰延資産の三つの項目に分類され。負債の部は流動負債と固定負債の二つに分類されます。純資産の部は株主資本、評価・換算差額等・新株予約権の三つに分類されます

ア.資産の部

貸借対照表上の資産は、会社が保有する物(動産、不動産)、権利(債権、工業所有権等)、その他財産的価値のあるものです。この意義は、資本維持を通じて会社債権者保護を図るという観点からは監禁可能性があることを原則としますが、他方で将来の収益に対応する未実現費用の集積とみる立場もあります。

@)流動資産

流動資産とは、次の資産を言います。短期(1年以内)で現金化することが可能な資産です。

A.その会社の主目的である営業活動上所有しまたは発生した棚卸資産(製品・半製品・原材料等)、現金及び金銭債権(売掛金、受取手形等)

※棚卸資産の評価

原則として取得価額(取得原価、製作価額)を評価とします。ただし、事業年度末日の時価(この場合は正味売却価額、つまり経年劣化してしまった製品は中古品とみなされて定価での販売ができなくなるということです)が取得価額より著しく低く、取得原価まで回復の見込がない場合には、事業年度末日の時価に評価を下げることとなります。この会計処理を評価損、あるいは減損といい、営業外費用又は特別損失で計上します。

※金銭債権の評価

金銭債権(流動資産のみならず、固定資産で計上される金銭債権もある)は、原則として債権金額を計上します。しかし、譲渡性のある金銭債権は金融商品として市場価格があるものが少なくありません。この場合は時価を計上することになります。これは棚卸資産のような費用性資産とは性格が異なり時価でいつでも換金することができるため、時価の方が会社の財政状態を適正に表示することになるからです。

※債権の評価

債権について取立不能のおそれがある場合には、事業年度末日において取り立てることができないと見込まれる額を貸倒引当金として計上し、債権額が控除しなければなりません。一般の貸付金はもとより売掛金のような売上債権では営業相手の経営状態を監視してリスク回避を図ります。

B.会社の営業活動以外で発生した金銭債権(預金、貸付金等)で履行期が事業年度末日の翌日から起算して1年以内に到来するもの、前払費用で事業年度末日の翌日から起算して1年以内に費用となるもの、特定の資産や負債に関連しない繰延税金資産で事業年度末日から起算して1年以内に取り崩されると認められるもの

C.売買目的有価証券、親会社株式

A)固定資産

流動資産とは、次の資産を言います。短期的に現金化することん゛困難な資産です。

A.建物・機械装置・運搬具・土地・建設仮勘定等の有形固定資産

B.特許権・借地権・商標権・リースにより使用する固定資産・ソフトウェア制作費、有償取得したのれんなどの無形固定資産

C.売買目的有価証券以外の有価証券・履行期が1年以上さきの長期貸付金等の投資その他資産

※固定資産の評価

固定資産は取得価額を計上し、かつ各事業年度の末日において減価償却をし、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を計上します。当初予想できなかった価額の減損が生じた場合(例えば災害による物理的減損など)には減損処理をします。

B)繰延資産

繰延資産とは、会社が既に代価の支払をしまたは支払義務が確定し、かつ、それに対応する役務の提供を既に受けたにもかかわらず、それを当事業年度の費用として計上せず、資産の部に計上して、次期以降に漸次償却(費用化)していくことが認められたものです。このような会計処理が認められる理由は、その役務の提供を受けた効果が次期以降の会社の収益に貢献すると期待されるので、後年度の収益に対応する部分は後年度の費用とすることで費用・収益を対応させることに合理性があるからです。

繰延資産は換金可能性がないので、会社債権者保護の要請から計上できるものは限定されています。すわわち、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費の五つです。

イ.負債の部

貸借対照表上の負債は、原則として法律上の債務ですとかと、引当金のように将来の発生費用の見越しであるものも、負債の部に計上されます。

@)流動負債

流動負債と固定負債の区別の基準は、流動資産と固定資産の区別の基準に対応して、債務の履行期が事業年度の翌日から起算して1年以内に到来する金銭債務が流動負債となります。例えば、支払手形、買掛金、未払金、短期借入金などです。

A)固定負債

流動負債以外の負債です。例えば、長期借入金や社債などです。

※引当金

将来の特定の費用または損失に備えるための引当金は、当該事業年度の負担に属する金額に限り、その合理的な見積額を貸借対照表の負債に計上することができます(会社計算規則6条2項1号)。これは、事業年度末日現在、会社に法律上の債務は存在しませんが、将来において特定の支出・損失が生ずる(例えば数年内にある有形固定資産の修繕費用が発生する)可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができ、当期の収益に対応するものとして当期の負担に帰属させることが合理的なものは、その金額を損益計算書上当期の費用として計上し、累積額を貸借対照表の負債の部に計上することを認めています。具体的には、役員退職慰労金、修繕引当金などがこれに当たります。他方、退職給付引当金、製品保証引当金等は停止条件付であったり金額が予測に基づいているとはいえ、一般に法律上の債務であるから、負債の部に計上できるのは当然であり、ここにいう引当金には該当しません。

ウ.純資産の部

貸借対照表上の純資産の部は、資産額と負債額の差額です。その額は実質的には、株主が拠出した金額と留保利益とから成る株主の持分額を表示する部分(株主資本)と、それにも負債にも当たらない中間的性格のものを表示する部分(評価・換算差額等、新株予約権)とからなるものです。

・株主資本等変動計算書

株主資本等変動計算書は、一事業年度における貸借対象表の純資産の部の変動を示すものであり、最近の会計基準の改正により、損益計算書に記載されず貸借対照表の純資産の部に直接記載される項目が増加したこと等から、会社法の制定時に導入されました。

ア.株主資本の変動として、株式の発行による資本金・資本準備金の項目の変動、当期純利益・剰余金の配当による利益剰余金の項目の変動、自己株式の取得・消却・処分による自己株式の項目の変動等が記載されます。

イ.評価・換算差額等として、その他有価証券の評価額の変動によるその他有価証券の評価額の変動によるその他有価証券評価差額金の項目の変動等が記載されます。

ウ.新株予約権の変動として、新株予約権の行使などによる新株予約権の項目の変動等が記載されます。

・個別注記表

個別注記表には次の項目が記載されます。

ア.継続企業の前提に関する注記(会社計算規則98条1項1号、100条)

イ.重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則98条1項2号、101条)

ウ.会計方針の変更に関する注記(会社計算規則98条1項3号、102条の2)

エ.表示方法の変更に関する注記(会社計算規則98条1項4号、102条の3)

オ.会計上の見積りの変更に関する注記(会社計算規則98条1項5号、102条の4)

カ.誤謬の訂正に関する注記(会社計算規則98条1項6号、102条の5)

キ.貸借対照表に関する注記(会社計算規則98条1項7号、103条)

ク.損益計算書に関する注記(会社計算規則98条1項8号、104条)

ケ.株主資本等変動計算書に関する注記(会社計算規則98条1項9号、105条)

コ.税効果会計に関する注記(会社計算規則98条1項10号、107条)

サ.リースにより使用する固定資産に関する注記(会社計算規則98条1項11号、108条)

シ.金融商品に関する注記(会社計算規則98条1項12号、109条)

ス.賃貸等不動産に関する注記(会社計算規則98条1項13号、110条)

セ.持分法損益等に関する注記(会社計算規則98条1項14号、111条)

ソ.関連当事者との取引に関する注記(会社計算規則98条1項15号、112条)

タ.一株当たり情報に関する注記(会社計算規則98条1項16号、113条)

チ.重要な後発事象に関する注記(会社計算規則98条1項17号、114条)

ツ.連結配当規制適用会社に関する注記(会社計算規則98条1項18号、115条)

テ.その他の注記(会社計算規則98条1項19号、116条)

Ø 計算書類等の監査等(436条)

@監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。

A会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。

一 前条第2項の計算書類及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人

二 前条第2項の事業報告及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会)

B取締役会設置会社においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第1項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第1項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。

ü 計算書類等の監査(436条1項、2項)

監査役を置く会社では、計算関係書類、事業報告及びその附属明細書は監査役の監査を受けなければなりません。同じ書類について、監査等委員会設置会社であれば監査等委員会、指名委員会等設置会社であれば監査委員会の監査を受けなければなりません(436条1項)。

会計監査人設置会社では、計算関係書類及びその附属明細書は会計監査人の監査を受けなければなりません(436条2項)。

ü 計算書類等の監査の日程等

会計監査人設置会社か否かにより監査報告の作成に関する日程等が以下のように異なります。

・会計監査人設置会社以外の場合

会計監査人設置会社以外の会社の場合、監査役または監査役会は計算関係書類を、それを作成した取締役から受領したときは、下のいずれか遅い日までに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則124条1項)。

ア.計算関係書類(附属明細書を除く)の全部を受領した日から4週間を経過した日

イ.その附属明細書を受領した日から1週間を経過した日

ウ.特定取締役との間で合意により定めた日

事業報告及びその附属明細書を受領した時も同様です(会社法施行規則132条1項)。

・会計監査人設置会社の場合

会計監査人設置会社において、監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会が取締役(執行役)から事業報告及びその附属明細書を受領した場合の監査報告の内容の通知期限は、会計監査人設置会社以外の会社の場合と同じです(会社法施行規則132条1項)。

計算関係書類について、それを作成した取締役が監査のためにそれを会計監査人に対して提供しようとする時は、各監査役(監査等委員会、監査委員会)に対しても提供しなければなりません(会社計算規則125条)。

計算書類については、会計監査人が事業年度の計算関係書類及びその附属明細書については下のいずれか遅い日までに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。

ア.計算関係書類(附属明細書を除く)の全部を受領した日から4週間を経過した日

イ.その附属明細書を受領した日から1週間を経過した日

ウ.特定取締役との間で合意により定めた日

また、連結計算書類については、会計監査人が事業年度の連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過したまでに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。

監査役・監査役会。監査等委員会・監査委員会は、会計監査人から会計監査報告を受領した日から1週間以内に、計算関係書類についての監査報告の内容を取締役会及び会計監査人に通知しなければなりません(会社計算規則132条)。その際、各監査役は、必要があれば、会計監査人に対しその会計監査報告に関する報告や説明を求めることができます(397条)。すなわち、会計監査人設置会社の監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会は、主に業務監査を担当するので、会計に関する監査報告は、基本的には、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときに、その旨及びその理由が記載されれば足りることとされています(会社計算規則127〜129条)。

ü 計算書類等の監査報告の内容

会計監査人設置会社か否かにより計算書類等に関する監査報告の内容が以下のように異なります。

・会計監査人設置会社以外の場合

会計監査人設置会社以外の監査報告のうち、監査役の監査報告の内容は以下のようになります(会社計算規則122条)。

ア.監査の方法及びその内容(会社計算規則122条1項1号)

監査が適当な方法で十分になされたかどうかを判断させる資料を提供するための事項です。例えば、取締役会への出席、取締役等に対する報告の徴求及び業務・財産の調査、子会社の調査等について記載します。

イ.計算関係書類が会社の財産・損益の状況をすべての重要な点において適切に表示しているかどうかについての意見(会社計算規則122条1項2号)

計算書類が法令・定款に違反し、会社の財産及び損益の状況を正しく示さないものであるときは、その旨を記載します。従っても正しく記載されている場合には記載する必要がない項目です。

ウ.監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則122条1項3号)

監査役には、監査ために各種の権限が与えられていますが、会社側がその権限行使を妨害し、または監査に協力しないとか、監査に要する費用を支出しないなどの理由で、監査のための必要な調査ができない場合等に、その旨及び理由を記載します。

エ.追記情報(会社計算規則122条1項4号)

追記情報は、会計方針の変更、重要な偶発事象、主要な後発事象、その他の事項のうち、監査役の判断に関して説明を付す必要がある事項または計算関係書類のうち強調する必要がある事項とされています(会社計算規則122条2項)。

オ.監査報告を作成した日(会社計算規則122条1項5号)

監査役会の監査報告では、監査役の監査報告の上記の内容に以下の内容が加わります(会社計算規則123条)。

カ.監査役及び監査役会の監査の方法及びその内容(会社計算規則123条1項2号)

キ.監査役会監査報告を作成した日(会社計算規則123条1項3号)

監査役会は一回以上会議を開催する方法まちは情報の送受信により同時に意見を交換することができる方法により、その内容を審議しなければなりません(会社計算規則123条3項)。監査報告の内容は多数決で決定されます(393条1項)が、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査報告の内容とが異なる場合には、各監査役は、監査役会監査報告に自己の監査役監査報告の内容を付記することができます(会社計算規則123条2項)。

・会計監査人設置会社の場合

会計監査人設置会社における会計監査人の会計監査報告は次のような内容となります(会社計算規則126条)。

ア.会計監査人の監査の方法及びその内容(会社計算規則126条1項1号)

イ.計算関係書類が会社の財産・損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかに関する意見(会社計算規則126条1項2号)

ウ.上記イ.の意見がないときはその旨及びその理由(会社計算規則126条1項3号)

エ.追記情報(会社計算規則126条1項4号)

オ.会計監査報告を作成した日(会社計算規則126条1項5号)

会計監査人設置会社における監査役の監査報告は次のような内容となります(会社計算規則127条)。

ア.監査役の監査の方法及びその内容(会社計算規則127条1項1号)

イ.監査報告を作成した日(会社計算規則127条1項6号)

ウ.会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨およびその理由(会社計算規則127条1項2号)

エ.重要な後発事象(会社計算規則127条1項3号)

オ.会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項(会社計算規則127条1項4号)

カ.監査のために必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則127条1項5号)

ü 取締役会の承認(436条3項)

取締役会設置会社においては、計算関係書類及び事業報告並びにその附属明細書は、436条1項及び2項の監査を受けた後、取締役会の承認を受けなければなりません(436条3項、444条)。

※決算短信の開示

事業年度終了後、上場会社は金融商品取引所を通じて「決算短信」の形で報道期間等に対して決算発表を行いますが、それは、通常、計算書類などについてこの取締役会の承認があった段階で行われます。

Ø 計算書類等の株主への提供(437条)

取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第3項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。

取締役会設置会社においては、定時株主総会の招集通知を書面または電磁的方法により発しなければなりません。その際に、株主に対し、取締役会の承認を受けた計算書類・事業報告を提供しなければなりません(437条、会社計算規則133条1項、会社法施行規則133条1項)。その会社が監査役を置く会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社である場合には監査報告、会計監査人設置会社てあれば会計監査報告も提供され、連結計算書類を作成する会社であれば連結計算書類も提供されます(444条6項、会社計算規則134条1項)。

Ø 計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)

@次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。

一 第436条第1項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第1項の監査を受けた計算書類及び事業報告

二 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第2項の監査を受けた計算書類及び事業報告

三 取締役会設置会社 第436条第3項の承認を受けた計算書類及び事業報告

四 前3号に掲げるもの以外の株式会社 第435条第2項の計算書類及び事業報告

A前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。

B取締役は、第1項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

ü 定時株主総会への提出(438条1項)

取締役は計算書類及び事業報告を、その事業年度の定時株主総会に提供しなければなりません。なお、取締役会設置会社は、437条に基づき招集通知に添付して計算書類と事業報告を株主に提供しているため、株主総会には提出するだけでいいということなります(438条1項)。

ü 定時株主総会での承認(438条2項、3項)

原則として株式会社は、ただし、次の439条において会計監査人設置会社に関する特則が認められているので、実際には、それ以外の株式会社は、計算書類に関して株主総会の承認を受けなければなりません(438条2項)。事業報告については、その内容を報告しなければなりません(438条3項)。

計算書類について承認を求める理由は、ひとつの会計事実について複数の会計処理いずれを適用するかといった政策的判断の余地があり得るからだと解されています。

Ø 会計監査人設置会社の特則(439条)

会計監査人設置会社については、第436条第3項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第2項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

会計監査人設置会社は、計算書類が法令・定款に従い会社の財産及び損益の状態を正しく表示しているものとして法務省令で定める次の要件に該当している場合には、取締役会の承認を受けて定時株主総会に提出された計算書類については、取締役が定時株主総会でその内容を報告すれば足り、総会の承認を求めることを要しないとされています(439条、会社計算規則135条)。

ア.会計監査報告の内容に「無限定適正意見」が含まれいること

イ.会計監査報告に係る監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告の内容として会計監査人の監査の方法または結果が相当でないと認める意見がないこと

ウ.当該計算関係書類について監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告の内容の通知が期限内にされないことにより監査を受けたものとみなされた場合でないこと

エ.取締役会を設置していること

このような特則で認められている理由は、会計監査の専門家である会計監査人が適法意見を表明し、監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会がそれに同意見であれば、会計監査人も監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会株主総会で選任され、法律上重い責任を負わされていること、会計監査人の監査により内容の適法性が担保されていること、会計監査人設置会社の計算書類の内容は複雑であり、株主総会で決定するのに原則として適さないからと解されています。

※各会計監査人又は各監査役・監査等委員・監査委員の中の誰かの適法意見がない場合には、計算書類は確定しません。したがって、その場合には、取締役は438条2項に則り、計算書類について株主総会の承認を受けなければなりません。

連結計算書類については、取締役が定時株主総会に提出して、その内容及び監査の結果を報告しなければなりません(444条7項)。連結計算書類に対する会計監査人・監査役・監査等委員会・監査委員会の監査の結果は、株主に提供されていない場合があるからです(会社計算規則134条2項)。

Ø 計算書類の公告(440条)

@株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第1号又は第2号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

B前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第1項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前2項の規定は、適用しない。

C金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前3項の規定は、適用しない。

一般に決算公告と呼ばれるものです。

株式会社は定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければなりません。ただし、大会社は貸借対照表に加えて損益計算書も公告しなければなりません(440条1項)。その際に、公告の方法を官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞への掲載のいずれかとしている場合には、費用等の関係から、公告する貸借対照表については全文ではなくて要旨で足りる(440条2項)。この要旨の記載方法は会社計算規則137〜142条に定められています。

このような貸借対照表の要旨の記載で足るのは官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞への掲載としている場合のみで、電子公告を、その方法している場合は全文を掲載しなければならないことになります。ただし、貸借対照表の電子公告については調査機関の調査を求めることは要しないとされています(941条)。貸借対象表の公告は、開示のみを目的とし、公告に法的効果が伴うものではないので、調査を要求するまでの必要性は乏しいとされているからです。なお、電子公告の方法による場合の貸借対照表の公告期間は、定時株主総会の終結の日後5年です(940条1項1号)。

また、電子公告を公告の方法としない会社は、公告に代えて、法務省令で定めるところにより、貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、インターネット上のウェブサイトに貸借対照表を表示する方法で不特定多数の者が提供を受けられる状態に置く措置を取ることができます(440条3項)。この場合、貸借対照表を公開するウェブサイトのアドレスを登記することが必要です(911条3項27号、会社法施行規則220条1項1号)。

金融商品取引法に基づき有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社は、上記の公告をしなくてもよいとされています(440条4項)。会社法に基づく公告で開示される情報より詳細な情報がEDINETを通じて開示されるからです。

〔参考〕法定公告について

参考として、公告による開示について全般的な説明をしておきましょう。

・法定広告とは

株式会社、とりわけ上場会社において重要な意思決定を社外に周知する場合、通常は金商法上の開示や取引所の適時開示制度にしたがった開示といった、公告以外の方法による開示を使用することが一般的です。しかし、会社法その他の法律によって定められた一定の事項に関しては、各会社が定款に定める公告方法により行うことが義務付けられています。これが法定広告です。会社法で定められている法定広告は、電子公告、日刊新聞紙及び官報の三つです(939条)。ただし、会社法で必ず官報公告を行なわなければならないものも存在しているので留意が必要です。以下で、三つの法定広告について簡単に紹介しましょう。

@)電子公告

電子公告とは、電磁的方法により不特定多数のものが公告すべき内容である情報の提供を受けることができる状態に置く措置をとる方法を言います(2条34号)。具体的には送信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された情報の内容を電気通信回線を通じて情報の提供を受ける者の閲覧に供し、当該情報の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録する方法のうち、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用するものによる措置とする(会社法施行規則222条1項1号ロ、223条)ものです。すなわち、公告しようとする情報をインターネット上の自社ホームページに掲載し、不特定多数の者がアクセスして閲覧できるようにしておくことで、公告とするものです。

なお、会社が電子公告を行うことを可能とするためには、定款において公告方法電子広告とする旨を規定しておく必要があります。また、公告に使用するホームページのアドレスについては、アドレス変更時に機動的に対処する局面が多いであろう事を考慮してホームページのアドレスについては、取締役会決議等での意思決定で足りるとされています。ただし、各会社のホームページアドレスを容易に調査できるようにする観点からアドレスは登記の対象となっています(電子公告規則2条10号)。

また、電子公告の場合、事故その他やむを得ぬ事由によって電子公告による公告ができなくなる場合に備えて、官報または日刊新聞紙を予備的な公告の方法として定めることができる(939条3項)ので、実務上は、不慮の事故に備えて、電子公告を採用している殆どの会社で、予備的な公告を定款に規定しています。

※株懇モデルによる電子公告とした場合の定款の条文

(公告方法)

第5条 当会社の公告方法は、電子公告とする。ただし、事故その他やむを得ない事由らよって電子公告による公告をすることができない場合は、○○新聞に掲載して行う。

A)日刊新聞紙

時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙とは、法令上明確な定めは存在しませんが、一般的には、全国規模の日刊新聞、実際のところは読売・朝日・毎日・産経・日経の各新聞ということになります。通常の定款の規定では、この5社のうちいずれかに定めています。その紙面に公告として掲載するものです。

B)官報

官報は、法律、政令、条約等の公布をはじめとして、国の機関としての諸報告や資料、さらには法令の規定に基づきく各種の公告を掲載する等、国が発行する機関紙です。

通常の法定公告の場合であれば、これまでに紹介した三つの公告の方法のいずれかを選択し広告を行うことになりますが、以下の事項に関しては官報による掲示が義務付けられている法定公告とされています。これらは官報による公告を行わなければ、有効な公告を行ったものとはされないので注意が必要です。

a.債権者異議申立申述公告(779条2項、789条2項、799条2項、810条2項、449条 

b.休眠会社のみなし解散(472条)

c.特別清算(885条)

なお、会社が定款で公告の方法を規定していない場合には、官報による公告を行うことになります。

・電子公告の実務

公告方法として電子公告を使用する場合、公告文そのものは各社で作成し、電子ファイル(PDFファイルを使用するのが一般的です)にした上で、ホームページに掲載することとなります。また、公告内容のデータが期間中継続して、不特定多数の者が提供を受ける状態になっているかどうかを検証・証明する必要があります。そこで、法務大臣の登録を受けた電子公告調査機関の調査を受けなければならないこととされています(941条)。以下で手順について、簡単に記していきたい思います。

ア.調査機関への調査委託

電子公告によって公告を行う会社は、公告期間開始の遅くとも4日前までに、調査機関に対して、以下の事項を示して公告の調査を委託します(電子公告規則3条1項、2項)。

a.商号

b.本店所在地

c.代表者の氏名

d.登記アドレス

e.公告アドレス

f.公告期間

g.公告しようとする内容である情報(公告するPDFファイル)

h.公告すべき内容を規定した法令の条項

イ.公告開始(調査開始)

調査機関は、調査の依頼を受け、公告の開始2日前までに法務大臣に対し、調査委託者の商号・本店・代表者氏名・公告アドレス・公告期間及び公告内容の根拠法令条項についての報告を行うとされています(電子公告規則6条2項)。

調査機関の調査は、公告についての情報の有無、内容を確認するために6時間に1回以上の頻度で公告掲載ホームページのサーバーから自動的に受信し、受信したPDFファイルとあらかじめ受け取っているPDFファイルとが同一であるかどうかを電子的に判定し、記録します。

ウ.調査完了後の結果報告

調査機関は、調査の後地位なく、調査結果を委託者に通知します(946条4項)。通知する項目は、上記a〜hの他、次の事項です(電子公告規則7条)。

公告情報内容(追加公告情報内容)

j.受信情報を受信した日時、情報入手作業の際に電子計算機に入力した公告アドレス

k.判定の結果が、受信情報と公告情報とが同一である旨の結果であった場合は、当該結果および当該判定の日時、規定する結果でなかった場合には、判定の結果及びその日時、手動操作による調査を行った場合、作業者の調査機関職員の指名

l.情報入手作業をしたにもかかわらず、公告サーバーから情報を受信することができなかった場合には、その旨、その日時及び当該情報入手作業の際に電子計算機に入力した公告アドレス

m.調査結果通知に、受信情報内容が公告情報内容と相違する旨の記載もしくは記録、推計されることになる広告の中断が生じた可能性のある時間の合計

n.情報入手作業をすることができなかった場合には、その旨、その時期及びその理由

この調査結果を記載した報告書は、登記の際に必要な書類とされています。

エ.電子公告の中断要件

電子公告の特徴として、対象者への周知のために公告対象期間中は24時間いつでも閲覧できる状態にあることが求められる。となると、厳密に公告対象期間中1分、1秒でも中断することは許されないことになります。しかし、インターネットの接続障害やウェブサーバーの点検整備などで短時間接続できない状況はあり得ます。ひれら短期間の中断であっても広告として成立しないとするのは効果的でないとし、以下のすべての要件を満たした場合には、公告の効力に影響を及ぼさないとされています(940条3項)。

A.広告の中断について公告を行った会社が善意無過失であること、または正当な事由があること

B.広告中断の合計時間が公告期間の10分の1以内であること

C.公告を行った会社が、公告中断を知った後速やかにその内容について追加公告をしたこと

・電子公告以外の公告(官報の利用等)の実務

官報も日刊新聞紙も紙媒体の公告を掲載するので、同じような手続となります。

ア.申込み

申込みに先立っても会社等の依頼者は公告の原稿を作成します。そして、作成した原稿を官報取次所に送り申込みをします。申込みから掲載までの期間は最低でも1週間程度は必要とされています。それで、掲載を待ちます。

イ.閲覧・検索

官報に掲載された公告の閲覧・検索に関しては、官報を購入して紙面による閲覧を粉居ます。インターネット版の官報は30日間は閲覧できるので、それで閲覧します。

Ø 臨時計算書類(441条)

@株式会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(以下この項において「臨時決算日」という。)における当該株式会社の財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより、次に掲げるもの(以下「臨時計算書類」という。)を作成することができる。

一 臨時決算日における貸借対照表

二 臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書

A第436条第1項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社においては、臨時計算書類は、法務省令で定めるところにより、監査役又は会計監査人(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会及び会計監査人、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会及び会計監査人)の監査を受けなければならない。

B取締役会設置会社においては、臨時計算書類(前項の規定の適用がある場合にあっては、同項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。

C次の各号に掲げる株式会社においては、当該各号に定める臨時計算書類は、株主総会の承認を受けなければならない。ただし、臨時計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合は、この限りでない。

一 第436条第1項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社(いずれも取締役会設置会社を除く。) 第2項の監査を受けた臨時計算書類

二 取締役会設置会社 前項の承認を受けた臨時計算書類

三 前2号に掲げるもの以外の株式会社 第1項の臨時計算書類 

 

Ø 計算書類の備置き及び閲覧等(442条)

@株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。

一 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第436条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から5年間

二 臨時計算書類(前条第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 臨時計算書類を作成した日から5年間

A株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第3号及び第4号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。

一 前項第1号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から3年間

二 前項第2号に掲げる計算書類等 同号の臨時計算書類を作成した日から3年間

B株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求

二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

C株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

ü 計算書類などの備置(442条1項、2項)

取締役会設置会社は、計算書類・事業報告及びそれらの附属明細書を、定時株主総会の日の二週間前の日から、本店には5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければなりません。またも、取締役会設置会社以外の株式会社は、同じ書類を、定時株主総会の日の1週間前の日から本店には5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければなりません(442条1項、2項)。

臨時計算書類については、作成した日から、本店に5年間、支店に3年間備え置かなければなりません(442条1項2号)。

ü 計算書類などの閲覧等(442条3項)

株主および会社債権者は、会社の営業時間内は、いつでも上記書類の閲覧を求め、または、会社ま定めた費用を支払ってそり謄本・抄本の交付または電磁的記録に記録された情報の提供等を求めることができます。親会社社員が、自己の権利を行使するため必要ある場合であって、裁判所の許可を得たときも同様です。

※連結計算書類は、計算書類等とはちがって、備置や閲覧にかんして一切規定されていません。

Ø 計算書類等の提出命令(443条)

裁判所は、申立てにより又は職権で、訴訟の当事者に対し、計算書類及びその附属明細書の全部又は一部の提出を命ずることができる。

 

款.連結計算書類

Ø 連結計算書類(444条)

@会計監査人設置会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る連結計算書類(当該会計監査人設置会社及びその子会社から成る企業集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)を作成することができる。

A連結計算書類は、電磁的記録をもって作成することができる。

B事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、当該事業年度に係る連結計算書類を作成しなければならない。

C連結計算書類は、法務省令で定めるところにより、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人の監査を受けなければならない。

D会計監査人設置会社が取締役会設置会社である場合には、前項の監査を受けた連結計算書類は、取締役会の承認を受けなければならない。

E会計監査人設置会社が取締役会設置会社である場合には、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前項の承認を受けた連結計算書類を提供しなければならない。

F次の各号に掲げる会計監査人設置会社においては、取締役は、当該各号に定める連結計算書類を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。この場合においては、当該各号に定める連結計算書類の内容及び第4項の監査の結果を定時株主総会に報告しなければならない。

一 取締役会設置会社である会計監査人設置会社 第5項の承認を受けた連結計算書類

二 前号に掲げるもの以外の会計監査人設置会社 第4項の監査を受けた連結計算書類

ü 連結計算書類

連結計算書類は、株式会社及びその子会社から成る企業集団の財産・損益状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの(444条1項)で、具体的には、連結貸借対象表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書から成ります(会社計算規則61条)。子会社を有する会計監査人設置会社であれば、連結計算書類を作成することができます(444条1項)。

なお、金融商品取引法上の連結財務諸表は、上記に加えて、連結注記表、連結キャッシュ・フロー計算書、連結附属明細書があります。かつ内容的にも、連結財務諸表の方がかなり詳しい内容となっています。

また、事業年度の末日において大会社であって。金融商品取引法上有価証券報告書を内閣総理大臣に退出しなければならない会社は、連結計算書類を作成しなければなりません(444条3項)。

ü 連結計算書類の監査と承認

・連結計算書類の監査報告期限(444条4項)

連結計算書類については、会計監査人が事業年度の連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過したまでに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。

監査役、監査等委員会、監査委員会は会計監査人から連結計算書類に関する会計監査報告を受領した日から1週間以内に監査報告の内容を通知しなければなりません。(会社計算規則132条1項1号)

・連結計算書類の承認(444条5項)

取締役会設置会社においては、連結計算書類は、444条4項の監査を受けた後、取締役会の承認を受けなければなりません(444条5項)。

※決算短信の開示

事業年度終了後、上場会社は金融商品取引所を通じて「決算短信」の形で報道期間等に対して決算発表を行いますが、それは、通常、計算書類などについてこの取締役会の承認があった段階で行われます。

 

節.資本金の額

ü 資本金とは

「資本金は、株式会社において、会社債権者保護のため、株主の出資を一定金額以上財産として保有させる仕組みです。すなわち、有限会社の結果、会社債権者は、会社に債務の弁済に必要な財産を維持させる必要がありますが、不法行為債権者のように、債権取得時に個別交渉で会社にそを義務付けることができない会社債権者もいます。そこで法律上、貸借対照表上の純資産額゛資本金、準備金等の総額を上回る場合でなければ、会社は株主に対して剰余金の配当等財産分与をしてはならないという形で、一定金額以上の会社財産の維持を義務づけています。これを資本維持の原則と言います。」

これが学説上の通説(江頭)と言えるでしょう。しかし、会社法では直接無限責任社員の存在する持分会社でも「資本金」は存在することになっているので、上の通説は持分会社を含めた文脈では説明しきれなくなっています。(ただし、持分会社を除いた株式会社のみに当てはめる場合には有効です)そこで原則にもどりますもともと資本金というのは、株主が会社に出資した財産の総額を記録した数値で、出資時点から、現時点までの間、どの程度その財産が増減したかを把握するために考えられた会計上の工夫と言えます。

 たとえば、A株式会社に100万円を出資した場合、資本金として「100万円」とメモします。その後,A株式会社が事業により、10年後に純資産(=資産−負債)が300万円になったとき、10年前の「資本金 100万円」というメモをみれば、A株式会社は10年間事業を続けて、200万円(300万円−100万円)も利益を出したと分かります。

このように資本金は、実際のところ、過去に出資した財産の価額を記した「メモ」に過ぎないというわけです。したがって、次のことが言えます。

1)資本金は,「現在」いくら会社に財産が残っているあるかということは,何も表していない。

2)資本金という制度だけでは,債権者の保護には何の役にも立たない。

3)資本金は,社員が出資した財産の価額をベースに決められるものなので,社員の権利義務と密接な関連がある。

もっとも、この「資本金」というメモ自体は、株式会社と持分会社に共通の概念ですが、株式会社の世界では株式会社に特有の政策目的を達成するために、資本金というメモを利用して。特殊なルールを採用しています。それが資本の三原則と呼ばれるものです。

旧商法の制定時は以下の三つの原則でした

ア.資本確定の原則

イ.資本充実・維持の原則

ウ.資本不変の原則

しかし、その後の法改正により、定款で資本の額を定めるという規定が廃止されたため、資本確定の原則が廃止され、以下のようなものとなりました。

ア.資本充実の原則

イ.資本維持の原則

ウ.資本不変の原則

ü 資本確定の原則

資本確定の原則は法改正により廃止となったものですが、少し説明していきましょう。

資本確定の原則というのは、定款で資本金の額を決める制度のことです。なぜ,定款で資本金を決めていたかというと、その理由は次の2つの政策目的を実現するためです。

A.無理な設立をして,出資が無駄になることを防止する(健全な設立)

例えば、自動車メーカーを立ち上げるのに最低100億円の資金が必要であるにもかかわらず、出資金が1億円しか集まらなかったのならば、どうしたらよいでしょうか。会社の立ち上げに必要な出資金が集まらなければ、無理に設立をしても、すぐに会社が潰れて、出資金が無駄になってしまいます。そうだとすれば、設立に必要な出資金が集まるまで設立をすることがでいないようにした方が、出資者の保護に役立ちます。

 そこで、資本確定の原則のもとで、発起人が定款を作るときに予め会社をスタートするのに必要な「資本金」の額を定款に記載させ、その額に見合うだけの出資金の拠出者が決まるまでは,設立することができないようにしていたのです。

B.既存株主の持株比率を保護する(持株比率維持)

株主が会社に対する影響力を確保することを認めるということです。資本確定の原則が採用されていた時代は資本金と株式の数が連動していた(資本金が増えれば株式の数が増え、資本金が減れば株式の数は減る)時代でしたから、資本金を定款で決めるということは「株式の数」も定款で決めるということであり、さらにいえば、新株を発行して個々の株主の持株比率を変えるためには、定款を変更しなければならないということを意味していました。

持分会社のように社員全員の同意まではいらないものの、株主総会の特別決議で定款の変更をしなければ新株発行ができないとしておけば、多数派株主が新株発行によって少数派株主に転落することはありません。こうした会社に対する支配権の維持という政策目的を、「資本金を定款に記載する」という手段によって実現していたわけです。

以上のように,資本確定の原則で実現しようとした政策目的は株主の保護を目的としたものであり、この政策目的自体は決して不当なものではありません。

しかし,この資本確定の原則のもとでは新株発行による資金調達をしようとするたび、定款変更が必要となるので、資金調達がやりにくいという不都合がありました。つまり,政策目的の実現手段として、資本金を利用したことが裏目に出たわけです。

そこで、このような不都合を修正するために

@)資本金を定款の記載事項から除き,定款変更をしなくても,新株発行ができるようにし(資本確定の原則の放棄)

A)新株発行を,出資者の集まりである株主総会ではなく,経営の専門家である取締役会で決めることができるようにする(授権資本制度・新株発行の権限を株主総会)

という内容の法改正が行われて、簡単に資金調達ができるようにされました。ただし、健全な設立の政策目的については、会社法においても定款で「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)を定めなければならないとすることで実現されていますし、もう一つの持株比率の維持の政策目的についても、取締役会の新株発行権限に制限をかけないと、経営者が自分の仲間だけに株式を発行して会社を乗っ取ったりするおそれがあるので、定款で発行可能株式総数(37条)を定めなければならないことして、持株比率を極端に希薄化することはできないような工夫がされています。

つまり、かつて「資本確定の原則」で実現していた政策目的を、定款の記載事項を工夫することにより、別の形で実現しているのです。

ü 資本充実の原則

資本充実の原則とは、資本の額に相当する財産が現実に会社に拠出されなければならないという原則です。会社設立によって資本が定められ、あるいはその後に資本が増加する場合に、その額に相当する財産が拠出されていないというのでは、資本を定めた意味がなくなってしまうからです。

会社法では445条で、この原則が反映され、次の点を規定しています。

・設立時であろうが新株発行時であろうが、現実の拠出をしない限り絶対に株主になれない。

・資本金の額は発行価額ではなく、「現実に拠出された財産の価額」をベースに定める。

ü 資本維持の原則

資本維持の原則とは、資本の額に相当する財産が現実に会社に保有されなければならないという原則です。これは実際には、資本金の額に相当する財産が現実に会社に保有されていない場合には、剰余金の配当等をすることができないという原則なのです。このために株式会社では,出資の払戻しが禁止されていますが,その払戻し禁止の手段として

・出資金の額を資本金としてメモする。

・純資産が資本金以下のときは,配当をしたり,株主から自己株式を取得してその対価を支払うことができないようにする

という方法が取られており、これを「資本維持の原則」と呼んでいるのです。

この原則について、株式会社には資本金に相当する財産が必ず存在するのだから債権者が害されることはない、と誤解する人が少なくありません会社に資本の欠損が生じたり,会社が債務超過になったりすることはありますが,経営を失敗して,そうなったのなら仕方ありません。

 また,会社法は,資本の欠損や債務超過が生じたからといって、株主に資本の欠損分や債務超過のマイナス額について追加出資義務を負わせているわけでもないし、会社を強制的に解散させるわけでもありません。つまり、会社法は、資本金に相当する財産を現実に維持し続けなければならない義務を課しているわけではなく、単に出資金の払戻しを禁止しているだけなのです(461条)。

ただし、

分配可能額による配当等の制限(461条)=資本維持の原則

とはいえなくて、分配可能額による配当等の制限は資本維持の原則を含んではいますが、その他の理由による制限も含まれています。例えば、分配可能額の算出には、資本維持の原則とは無関係な利益準備金や自己株式の価額なども計算されるからです。

ü 資本不変の原則

「不変」というと,増加と減少のどちらも禁止されているように見えますが、資本が増加することは、会社財産を確保するための規準となる金額が増加することであって、会社債権者にとって有利なことですから、増加が禁止されているわけではありません。これに対して、資本を減少させることは、会社債権者に不利なことであって、資本不変の原則は、会社が勝手に資本を減少させることを禁止する原則です。この資本不変の原則は、債権者の知らないうちに資本金の減少により、その他資本剰余金が増えてしまうと、資本充実・維持の原則を採用した意味がないので、採用されているものです。

会社法では、債権者保護手続を含む資本金の減少手続を取れば、資本金の減少が許されます(449条)。

第1款.総則

Ø 資本金の額及び準備金の額(445条)

@株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。

A前項の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

B前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

C剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。

D合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。

ü 資本金の額(445条1項)

資本金の額は、原則として設立または株式の発行に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した財産の全額です(445条1項)。

※設立に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した額(会社計算規則43条1項)

設立に際して株主となる者が会社に対して払込んた額から会社の負担に帰す設立費用や決められた準備金等を控除した額となります

※株式の発行に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した額(会社計算規則14条)

原則として、設立に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した場合と同じように計上します。

しかし、その例外として、払込み・給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上せずに、資本準備金とすることができます(445条2項、3項)。いずれにせよ、最低でも払込み・給付に係る額の2分の1以上は資本金に計上しなければいけないわけです。

株式会社では、資本金の額は、定款の記載事項ではありませんが、登記事項になります(911条3項)。

ü 準備金とは

準備金は、法律の規定により貸借対照表の純資産の部に計上することを要する計算上の金額です。準備金という金銭が実際に蓄えられているわけではなく、たんに貸借対照表上で金額が計上されているにすぎないものです。純資産額が資本金と準備金の合計額を上回らなければ配当はできないことになります。準備金には資本準備金と利益準備金があります。

・資本準備金:いわゆる資本取引から生ずるもので、準備金として積み立てが要求されるもの、将来会社の経営が悪化し欠損が生じた際に取り崩して補填にあてることとができるように積み立てられるもの。以下のものが資本準備金となります

.設立又は株式の発行に際して株主なる者が会社に対して払込み・給付した財産のうち資本金として計上されなかった額

イ.その他資本剰余金を原資とする剰余金の配当をする場合に積み立てが要求される額

ウ.合併等の組織再編行為の際に生ずる合併差益等のうち、合併契約等により資本準備金とする旨を定めた額

エ.資本金または資本剰余金を減少した際に資本準備金に繰り入れる旨を定めた額

・利益準備金:将来会社の経営が悪化した場合に取り崩して欠損の補填に当てることができるよう、会社がその他利益剰余金を原資とする剰余金の配当を行う際にその他利益剰余金の一部を割いて積み立てることが要求される準備金で、資本準備金の額とあわせて準備金が資本金の4分の1に達するまで、その他利益剰余金を原資とする配当額の10分の1を積み立てなければならないものです(445条4項)。それは一定の準備金がないと、ある事業年度に当期純損失が生じた場合に直ちに純資産額が資本金の額を下回りかねないからです。

Ø 剰余金の額(446条)

株式会社の剰余金の額は、第1号から第4号までに掲げる額の合計額から第5号から第7号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。

一 最終事業年度の末日におけるイ及びロに掲げる額の合計額からハからホまでに掲げる額の合計額を減じて得た額

イ 資産の額

ロ 自己株式の帳簿価額の合計額

ハ 負債の額

ニ 資本金及び準備金の額の合計額

ホ ハ及びニに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

二 最終事業年度の末日後に自己株式の処分をした場合における当該自己株式の対価の額から当該自己株式の帳簿価額を控除して得た額

三 最終事業年度の末日後に資本金の額の減少をした場合における当該減少額(次条第1項第2号の額を除く。)

四 最終事業年度の末日後に準備金の額の減少をした場合における当該減少額(第448条第1項第2号の額を除く。)

五 最終事業年度の末日後に第178条第1項の規定により自己株式の消却をした場合における当該自己株式の帳簿価額

六 最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額

イ 第454条第1項第1号の配当財産の帳簿価額の総額(同条第4項第1号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に割り当てた当該配当財産の帳簿価額を除く。)

ロ 第454条第4項第1号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に交付した金銭の額の合計額

ハ 第456条に規定する基準未満株式の株主に支払った金銭の額の合計額

七 前2号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

ü 剰余金とは

剰余金は、株主に対する分配可能額を算出する出発点となる数値であり、「その他資本剰余金」及び「その他利益剰余金」からなるものです(446条、461条2項)。貸借対照表の「資本剰余金」及び「利益剰余金」の項目は準備金を含めた資本金以外の資本の大項目で、これに当たりません。

・その他資本剰余金:資本剰余金の項目に含まれるもののうち、資本準備金以外のものを言います(会社計算規則76条4項)。それは資本取引から生ずるもので、具体的には次にあげるものが含まれます。

ア.自己株式処分差益(会社計算規則14条2項、17条2項、18条2項、40条1項)

イ.財産価格填補責任等の履行のために支払われた額(会社計算規則21条)

ウ.合併等の組織再編行為の際に生ずる合併差益等のうち資本金・資本準備金とされなかった額(会社計算規則35条2項他)

エ.資本金の減少額のうち欠損填補・資本準備金への繰り入れに使用されなかった額(会社計算規則27条1項1号)

オ.資本準備金の減少額のうち欠損填補・資本金への組入れに使用されなかった額(会社計算規則27条1項2号)

・その他利益剰余金:利益剰余金の項目に含まれるもののうち、利益準備金以外のものを言います(会社計算規則76条5項)。損益取引から発生する当期純損益金額が累積したものと言えます。

その内訳として、「任意積立金」及び「繰越利益剰余金」は、当期純利益金額が株主への財産分配または利益準備金の積み立てに使用されず、留保されている部分です。「当期未処理損失」は当期純損失金額がが準備金の取崩等により填補されずに累積しているものです。

ü 剰余金の額(446条)

剰余金の額の算出の基準となるのは、「その他資本剰余金」の額及び「その他利益剰余金」の額です。その額の計算は、以下の@の加算額の合計からA控除額の合計を控除することで得ることができます。

@加算額(最終事業年度末日後の「その他資本剰余金」及び「その他利益剰余金」の増加の合計額)

・最終事業年度の末日における「その他資本剰余金」及び「その他利益剰余金」の合計額(446条1号)

・最終事業年度の末日後の自己株式処分差損額(446条2号)

・資本金の減少額(446条3号)

・備金の減少額(446条4号)

・吸収型再編受入行為の際の「その他資本準備金」及び「その他利益準備金」の増加額(446条7号、会社計算規則150条)

A控除額(最終事業年度末日後の「その他資本剰余金」及び「その他利益剰余金」の減少の合計額)

・最終事業年度の末日後に消却した自己株式の帳簿価額(446条5号)

・剰余金の配当をした場合の「その他資本剰余金」及び「その他利益剰余金」の減少額(446条6号)

・分割会社が剰余金の額を減少した場合の減少額(446条7号、会社計算規則150条)

・資本金または準備金への繰入額(446条7号、会社計算規則150条)

 

第2款.資本金の額の減少等

第1目.資本金の額の減少等

貸借対照表上の純資産の額は、会社の業績により変動(増減)します。しかし、純資産の部の一部を構成する資本金及び準備金の額は、法定のルールに従って定まる固定された金額であり、会社の業績によっては変動しません。すなわち、会社の業績が悪いと、純資産の部の他の項目(その他資本剰余金、その他利益剰余金、評価・換算差額等など)の金額が減少するわけであり、それは、「分配可能額」の減少を意味します。そして、資本金または準備金の額を減少させると、分配可能額が増加します。資本金または準備金の額の減少は、このような形で株主・会社債権者の利害に影響を及ぼす行為です。会社法は、関係者の調整のため、資本金・準備金の額の減少の手続を定めています。

Ø 資本金の額の減少(447条)

@株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 減少する資本金の額

二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額

三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日

A前項第1号の額は、同項第3号の日における資本金の額を超えてはならない。

B株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第1項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。

ü 株主総会の決議(447条1項)

株式会社が資本金の額を減少する場合には、次の内容について株主総会で特別決議をしなければなりません(447条1項)。

・減少する資本金の額

・減少する資本金の額の全部または一部を準備金とする時は、その旨及び準備金とする額

・資本金の減少がその効力を生ずる日

なお、上記の資本金の減少額は、その効力が発生する日の資本金の額を超えることはできません。これには二つの意味があり、ひとつは資本金の額は0までは減少させることはできるが、マイナスとすることはできないということ、もうひとつは基準日が株主総会の日ではなく効力発生日であることです(447条2項)。

このような株主総会の特別決議を要する理由は、基本的に株主の払込財産から成っている資本金を株主に対する分配が可能なその他資本剰余金に振り替えることは、事業規模の縮小など、会社の基礎に関わる事態が生じていることが多いからです。資本金の額の減少を決議する株主総会において、この資本金の減少によって生ずる分配可能額を利用した剰余金の配当をなくす旨の決議をすることは可能ですが、その剰余金の配当の効力発生日は、債権者の異議手続の終了後に設定しなければなりません(449条6項)。

※資本金減少の特別決議の例外として、次の二つのケースがあります。

・欠損の填補目的の場合

定時株主総会において、その総会日における欠損の額を超えない範囲で資本金の額を減少する旨を決議する場合には、普通決議で足りるということです(309条2項9号)。それは、新たに分配可能額を生じさせない資本金の額の減少には、会社の一部清算とという性格が乏しいからです。

・株式の発行により減少額以上の資本金の額の増加がある場合

会社が資本金の額の減少と同時に株式の発行を行う結果、資本金の減少の効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らないときは、資本金の額の減少に株主総会決議は不要で、取締役会の決定で足りるということです(447条3項)。

ü 資本金の額の減少の効力の発生(449条)

資本金の額の減少は株主総会で決議した効力発生日にその効力を生ずることになります。ただし、債権者の異議手続が終了していないときは、その終了まで効力を生じないこととなります(449条6項)。

資本金の額の減少は、登記事項であるから、その効力発生後2週間以内に本店の所在地において登記しなければなりません(911条3項5号、915条1項)。

ü 債権者の異議手続

資本金の減少は、従来不可能だった株主への財産分配が以後可能となり会社財産の社外流出が容易となるので、会社債権者にとっては不利益となります。そこで、課医者は資本金の額の減少に際して、会社債権者の保護のために債権者の異議手続をとらねばならないとされています。

・会社債権者に対する公告・催告

会社は以下の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別にそれを催告しなければなりません(449条2項)。しかし、公告を、官報に加えて、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告によってするときは、その催告は免除されます(449条3項)。

@)資本金の額の減少の内容(447条1項)

A)計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの(会社計算規則152条)

具体的には次の事項です。

.会社が最終事業年度に係る貸借対象表を公告等している場合にはその検索方法

イ.特例有限会社であるため当該公告等を要しない場合には、その旨

ウ.最終事業年度がない場合にはその旨

エ.それ以外の場合には最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容

B)債権者が一定の期間内に資本金の額の減少について異議を述べることができる旨

一定期間は、1ヶ月以上であることを要するとされています。

※知れている債権者とは、債権者が誰であり、その債権がいかなる原因に基づくいかなる内容のものかの大体を会社が知っている債権者をいいます。具体的には、金銭債権者には限られませんが、弁済・担保提供・財産の信託の方法により保護し得る債権を有する者に限られます。実務では、少額の債権者には催告を省略し、その債権者が異議を述べた場合には弁済することで片づけてしまう例が少なくありません。

・公告・催告の効果

会社債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、その人は資本金の額の減少を承認したものと見なされます(449条4項)。しかし、異議を述べたときは、会社は資本金の額の減少をしてもその債権者を害するおそれがないときを除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、またはその債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託するしなければなりません(449条5項)。

ü 資本金の額の減少の無効

資本金の額の減少手続に瑕疵がある場合には無効となりますが、それは無効の訴えを裁判所に提起することで生じます(828条1項)。この訴えは、株主、取締役、監査役、清算人、破産管財人または資本金の額の減少を承認しなかった債権者が、この訴えを、資本金の額の減少の効力発生日から6か月以内に限り提起すことができます(828条1項)。

この無効となる自由は手続の瑕疵ですが、具体的には次のものとなります。

A.株主総会決議に無効原因・取消原因がある

B.債権者の異議手続が履行されない

資本金の額の減少を無効とする判決が確定すると、その判決は第三者にも効力を有し(838条)、当該資本金の額の減少は将来に向かって効力を失います(839条)。

 

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