新任担当者のための会社法実務講座
第4章.機関 
第9節の2.監査等委員会
 

 

第4章.機関

第9節の2.監査等委員会

第1款.権限等

Ø 監査等委員会の権限等(399条の2)

@監査等委員会は、全ての監査等委員で組織する。

A監査等委員は、取締役でなければならない。

B監査等委員会は、次に掲げる職務を行う。

一 取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行の監査及び監査報告の作成

二 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定

三 第342条の2第4項及び第361条第6項に規定する監査等委員会の意見の決定

C監査等委員がその職務の執行(監査等委員会の職務の執行に関するものに限る。以下この項において同じ。)について監査等委員会設置会社に対して次に掲げる請求をしたときは、当該監査等委員会設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該監査等委員の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。

一 費用の前払の請求

二 支出をした費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求

三 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求

ü 監査等委員会の組織構成

・監査等委員会の構成

監査等委員会は監査等委員により組織され(399条の2第1項)、その監査等委員は取締役でなければなりません(第2項)。監査等委員会を組織する監査等委員は3人以上で、しかもその過半数は社外取締役でなければなりません(331条6項)。

・常勤者の有無

監査役会設置会社においては、少なくとも1名の常勤監査役の選任が要求されています(390条3項)が、監査等委員会設置会社に対しては、常勤の監査等委員を選任することは要求する規定がありません。これは、監査等委員会が、内部統制システムを利用して組織的に監査を行うことが想定されているので、常勤の監査等委員の選定を義務付けなくても情報収集の点で問題はないと考えられているためです。

実務上では、監査役会設置会社においては、常勤の監査役が社内の情報把握において重要な役割を果たしていると考えられ、会社の内部事情に精通した会社出身者を常勤の監査役に選任することにより、効果的な監査を実現していることを考慮すれば、監査等委員会設置会社において、常勤の監査等委員を選任することも十分に考えられます。

反対に、情報収集の観点で常勤者の存在が意味を持つとしても、企業の規模が大きくなるにつれ、常勤者が自ら監査できる範囲は全体から見ると小さくならざるを得ず、有効な監査のためには内部監査部門の有効活用が重要となってきます。

会社法施行規則において、監査等委員会が常勤の監査等委員を任意に選定した場合は、その理由及び当該常勤の監査等委員に関する事項を、また常勤の監査等委員を選定しない場合は、その理由を事業報告の記載事項とするものとされています。

・内部統制システムの利用

監査等委員会設置会社においては、監査等委員が取締役であるから、内部統制システムを利用した監査が行われることが想定されています。これに対して、監査役会設置会社では、監査役自身が監査を実施することが基本的な考え方です。また、内部統制システムの一翼をなす内部監査部門との関係について、監査等委員は取締役として内部監査部門に指揮命令を行い得る立場にあるが、監査役と取締役の指揮命令下にある内部統制部門との関係は、基本的に経営者の協力を前提とするものです。

ü 監査等委員会の職務(3項)

監査等委員会設置会社における監査等委員会の職務として、@)取締役の職務執行の監査および監査報告の作成、A)会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定、B監査等委員以外の取締役の選解任または報酬等に対する意見の決定が規定されています。

@)計算書類および事業報告ならびにそれらの付属明細書の監査、監査報告の作成(3項1号)

監査等委員会は、事業年度ごとに計算書類および事業報告ならびにそれらの付属明細書を監査し(436条2項)、監査報告を作成しなければなりません(3項1号)。監査等委員会の監査報告は、監査等委員会の決議によって形成されますが(399条の10第1項)、各監査等委員は、その監査報告の内容が自己の意見と異なるときは、監査報告に自己の意見を付記することができます(会社法施行規則130条の2)。

A)会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定(3項2号)

監査等委員会は、株主総会における会計監査人選任、解任および不再任の議案の内容を決定する権限を有します(3項2号)。なお、会計監査人に職務怠慢、非行または心身故障があった場合には、監査等委員全員の同意により、監査等委員会が会計監査人を解任することができます(340条5項・1項・2項)。また、会計監査人が欠けた場合には、監査等委員会が一時会計監査人を選任しなければなりません(346条7項・4項)。

B)監査等委員以外の取締役の選解任または報酬等に対する意見の決定(3項3号)

監査等委員会は、監査等委員である取締役以外の取締役の選任、解任および辞任ならびに報酬等について、意見を決定しなければならず(3項3号)、これらの意見については、監査等委員会が選定する監査等委員に株主総会での意見陳述権が認められています(会社法342条の2第4項、361条6項)。

ü 監査等委員会の権限(1)─取締役の業務執行の監査権限

監査等委員会は、取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成します。(3項1号)この監査の方法が内部統制システムを利用するものです。また、監査等委員会は取締役の職務の執行の妥当性を監査する権限も有します。この妥当性監査の点は、指名委員会等設置会社の監査委員も同じですが、監査等委員会の場合、監査等委員である取締役以外の取締役の選任等及び報酬等についての監査等委員の意見(妥当性に関する意見)を決定する必要があることから(3項3号)、いっそう明らかです。以下で具体的に職務・権限を見ていきます。

a)調査権限

監査等委員会は、その構成員である監査等委員が内部統制システムを利用して監査を行うことが想定されていて、また、常勤者を置くことを義務付けられていません(監査役会の場合は常勤監査役の設置が義務付けられていた)。したがって、実際に調査を行う者をあらかじめ定め、複数の監査等委員が統一された方針の下に事務を合理的に分担して組織的な監査を行うこととなります。そこで以下の権限については、個々の監査等委員が当然に行使できるとするのではなく、監査等委員会が選定する監査等委員が行使することができるとされています。

なお、監査等委員会は、これらの権限を行使すべき監査等委員を、その都度選定することもできるし、そのような権限を特定の監査等委員に継続的に付与することもできます。また、すべての監査等員に権限を行使する監査委員として指名することも可能です。

ア.事業報告請求・業務財産調査権(399条の3第1項)

監査等委員会が選定する監査等委員は、いつでも、取締役及び使用人に対して、その職務の執行に関する事項の報告を求め、または監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(399条の3第1項)。報告の対象は、報告を求められた取締役・使用人の職務の執行に関する事項であれば、監査等委員会設置会社の事業全般に及びます。また、監査等委員会からの報告を求める方法はどのようなものであってもよく、調査の対象は監査等委員会の業務及び財産の全般であり、会社の帳簿その他の資料の閲覧・謄写を行うことや、取締役・使用人に質問することも可能です。取締役および使用人は、選定監査等委員の請求に応じて報告し、調査に協力する義務を負います。

イ.子会社調査権(399条の3第2項)

監査等委員会が選定する監査等委員は、監査等委員会の職務を執行するために必要ある時は、監査等委員会設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況を調査することができます(399条の3第1項)。

子会社には、外国法人等も含みますが、実際に海外の子会社等が報告し、又は調査に協力する義務を負うかは、その子会社の設立準拠法により決まってきます。なお、子会社調査において、営業秘密を理由に調査を拒否できるかについては争いがあります。

※子会社は、調査が権限濫用である等正当な理由があるときには、その報告・調査を拒むことができます(399条の3第4項)。

ウ.監査等委員会の決議(399条の3第4項)

上記ア..の調査に関して、選定された監査等委員は、報告徴収・調査に関する事項について監査等委員会の決議がある時は、その決議に従わなければなりませんイ.子会社調査権(399条の3第4項)。

b)是正権限

以下のうち、ア.違法行為の阻止に関しては、緊急を要するものであるため、監査等委員会で選定された監査等委員に限らず、各監査等委員の権限とされています。

ア.違法行為の阻止

・取締役会への取締役の不正又は違法な行為等の報告義務(399条の4)。

監査等委員は、取締役が不正の行為をし、もしくはそのような行為をするおそれがあると認めるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(399条の4)。

対象となる事実は、不正の行為または法令定款違反の行為に限らず、広く著しく不当な事実(382条)、すなわち法令定違反ではないが、そのことを決定することや行うことが妥当でない事実も含まれるということです。そして、監査等委員が、この399条の4の条文に基づいて取締役会に報告を行った場合、取締役会は、その事実を調査・検討し、必要な是正措置を取るべきことになり、不正な行為の是正の他、行為者に対する損害賠償請求、または会社ごとに定められている内部規則に則った処分をすることになります。

なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、選定監査等委員に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(399条の14)。

なお、監査役会設置会社や指名委員会等設置会社には、その報告した事実は取締役会議事録に記録され(会社法施行規則101条3項6号)、監査報告に記載される可能性があり(会社法施行規則130条2項2号、131条1項2号、129条1項3号)、株主に提供される(会社法施行規則133条1項2号)ことになります。監査等委員会設置会社については、法務省令に同様の規定はありませんが、同様の措置が類推できます。

・取締役の行為の差止め請求権(399条の6第1項)。

監査等委員は、取締役が監査等委員会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがある時は、その取締役に対して、その行為をやめることを請求することができます(399条の6第1項)。

このような差止請求権は、法令定款を遵守するという取締役の会社に対する忠実義務を履行させる会社の請求権を、監査等委員が株式会社の機関として会社のために行使するものであって、差止請求権の行使は、会社の機関としての監査等委員の義務であり、差止請求権の行使が株主の任意に委ねられている株主の執行役または取締役に対する差止請求権(360条、422条)とは異なるものです。すなわち、取締役による目的の範囲外の行為その他法令定款に違反する行為について、取締役会が適切な対処措置を取らない場合、差止請求権適切に行使することは監査等委員の職務です。

また、監査等委員による差止請求に対して、裁判所が仮処分をもって取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとされています(399条の6第2項)。その理由として、監査等委員が会社の機関として会社のためにする差止の仮処分について手続に慎重を期する必要はないこと、この訴訟の仮処分は監査等委員の機関として行うものであって、その担保は会社が負担しなければならず、その支出をめぐって取締役と監査等委員の間で紛争が生じかねないこと、及び仮に担保の支出を取締役に要求することになれば、被申請人である取締役に仮処分申請を知られて保全処分の密行性を損なうことになってしまうことなどが理由です。

イ.会社・取締役間の訴訟

監査等委員会に選定された監査等委員は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対し、または取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(399条の7第2項)。このような会社・取締役間の訴えにおいても会社を代表する者を一般原則通り代表取締役とすると、訴訟の相手方である取締役がその代表取締役である場合はもちろん、それ以外の取締役でも、適切な訴訟追行がされないおそれがあるので、独立性が保障されている監査等委員が会社を代表することになっています。

会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査等委員です(399条の7第5項)。しかし、監査等委員としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査等委員は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性があります。

また株主代表訴訟において被告取締役(監査等委員を除く。)を補助するため、または株式交換等完全子会社の旧株主による責任追及訴訟または最終完全親会社等の株主による特定責任追及訴訟において株式交換等完全子会社・完全子会社等の取締役・執行役を補助するために、会社がこれらの訴訟に補助参加する場合には、監査等委員全員の同意が必要とされています(849条3項2号)。

ウ.取締役の責任の一部免除等への同意

次にあげる場合に監査等全員の同意が必要になります。

@)取締役の会社に対する責任または特定責任に関する完全子会社等の取締役の責任を一部免除する議案を株主総会に提出する場合(425条3項)

A)取締役・取締役会の決定により取締役の会社に対する責任の一部免除ができる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合なら゛に当該定款に基づく責任免除につき取締役の同意を得る場合および責任免除議案を取締役会に提出する場合(426条2項)

B)非業務執行取締役の会社に対する責任につき責任限定契約を締結できる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合(427条)

エ.取締役の利益相反取引の承認

通常、取締役と会社との利益相反取引により会社に損害が生じた場合には、取締役の任務懈怠が推定されるところ(423条3項)、監査等委員以外の取締役による利益相反取引について、監査等委員会の承認があった場合には、こうした推定規定は適用されないこととされています(423条4項)。このような利益相反取引の承認も監査等委員会の権限となっています。

c)報告権限

ア.監査報告書の作成

監査等委員会は、事業年度こどに監査報告書を作成(399条の2第3項)し、これが監査役設置会社における監査役の監査報告に対応するものです。監査等委員会の監査報告に記載すべき内容は指名委員会等設置会社の監査委員会におけるものに準ずると考えられ、次のことが記載され、株主総会において、株主が求めた事項について説明しなければなりません。

@)業務監査の方法・内容(会社法施行規則129条1項1号)

A)事業報告・その附属明細書が法令・定款に従い会社の状況を正しく示しているかについての意見(同2号)

B)取締役の職務の遂行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったときはその事実(同3号)

C)監査のため必要な調査ができなかったときはその旨およびその理由(同4号)

D)大会社における内部統制の整備についての取締役の決定目取締役会の決議の内容またはその運用状況が相当でないと認めるときはその旨およびその理由(同5号)

監査等委員会の監査意見は多数決により形成されますが、監査役会監査報告の場合と同じく、各監査等委員は、その監査報告の内容が自己の意見と異なるときは、監査報告に自己の意見を付記することができます。

イ.株主総会への報告義務(399条の5)

監査等委員は、取り締まれ焼くが株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものについて法令もしくは定款に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、その旨を株主総会に報告しなければなりません(399条の5)。

このような規定は指名委員会等設置会社の監査委員にはありませんが、監査役設置会社の監査役は、監査等委員と同様、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、法令もしくは定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません(384条)。監査等委員にこのような義務が課されたのは、監査等委員会設置会社においては、指名委員会等設置会社と比較すると、指名委員会、報酬委員会がなく、取締役会の経営者からの独立性が十分ではないから、取締役会における株主総会提出議案や書類の違法性チェック機能だけに依存することができず、監査役に倣って、監査等委員が株主総会に直接報告する制度を設けることとしたためと考えられます。

ü 監査等委員会の権限(2)─経営評価権限

a)意見陳述権の内容

監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の選任、解任または辞任及び報酬等について意見を述べることができ(342条の2第4項、361条6項)、監査等委員会に、そのような決定をする権限がある(399条の2第3項3号)とされています。

これは、監査等委員以外の取締役の選任等や報酬等についても、社外取締役が過半数を占める監査等委員会が影響を及ぼすことを可能とするものであり、監査等委員会は、指名委員会等設置会社における指名委員会や報酬委員会のような決定権は有しないものの株主総会における意見陳述権を通じて、指名委員会や報酬委員会に準じる機能を有することを期待したものです。実際、監査等委員会が、このような意見を株主総会において陳述することになれば経営者サイドとしては無視することはできず、そのような意見に対して合理的な説明や、場合によっては反論を行うことを求められることになると考えられます。

b)監査・監督との関係

会社法は、経営者に対する監視のうち取締役会が実施するものを「監督」、監査役、監査等委員会または監査委員会が実施するものを「監査」と呼んでいます。「監査」及び「監督」には会社法の条文内で定義されているわけではありませんが、「監査」とは業務執行の適法性を確保すること(違法・不正行為を防止すること)を主眼とし、「監督」とは業務執行者の業績を評価し、業務執行の効率性を確保することを主眼とするものと考えることもできます。そういうことであれば、「監督」は人事権の行使を伴う監視、「監査」は人事権の行使等を伴わない監視に至ることになるわけで、モニタリング・モデルにおける取締役会による監督も、このような「監督」の類型のひとつと位置付けて考えることもできます。

監査等委員会の監査等委員以外の取締役の選任や報酬等に関する意見陳述権は、業務執行者の業績を評価し、業務執行の効率性を確保することを主眼とするものであり、また、取締役の人事と報酬にまで影響を及ぼし得る権限といえます。また、従って、このような陳述権は、通常の「監査」の範疇には入らないものといえます。そして条文上も、この意見陳述権は、監査等委員会による「取締役の職務の執行の監査」と並列して規定されています。これに対して、取締役会の監督は、取締役の職務全般に及ぶものであることからすれば、この意見陳述権は「監督」の一部であると整理することが可能です。しかし、意見陳述権は、株主総会における意見陳述権という限られた範囲のものに過ぎないという限界もあるわけです。

監査等委員会にこのよな経営評価機能が与えられていることから、その監査が違法性のみならず、妥当性監査に及ぶことは当然の前提と言えます。

c)監査等委員会の位置づけ

このように監査等委員会には、通常の監査を超えて取締役の指名及び報酬等に影響を及ぼし得る権限が与えられています。従って、監査等委員会は、指名委員会設置会社における監査委員会に対応するものではなく、指名委員会及び報酬委員会の権限の一部を監査委員会にある程度集中させたものと言っていいと思います。この点が、監査等委員会設置会社において、取締役会による取締役に対する重要な業務執行の決定の委任を認める理由の一つとされているわけです。

d)意見陳述権の個々の内容

ア.監査等委員以外の取締役の選任等についての意見の決定・陳述

監査等委員会は監査等委員以外の取締役の選任等についての意見を決定し、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会においてその決定した意見を陳述することができます。指名委員会等設置会社の指名委員会が有する取締役の選任等の議案の決定権には及びません。つまり、取締役の選任議案の決定について実質的な権限を有する代表取締役に対して、監査等委員会が説明を要求すれば、指名委員会における審議と似た審議が監査等委員会において行われることになりますが、監査等委員会には指名委員会のように決定権限があるわけではない。そこが大きな違いです。

株主総会における意見陳述権の内容は、常に意見を述べる義務があるというものではなく、総会の場で、取締役の選任等について株主から説明を求められれば、監査等委員会が鑑定する監査等委員が意見を述べなければなりません。

イ.監査等委員以外の取締役の報酬等についての意見の決定・陳述

監査等委員以外の取締役の報酬等についても、選任などと同じようなしくみがあるわけです。指名委員会等設置会社の報酬委員会に準ずる経営評価の役割が期待されるのであるから、ここでいう「監査等委員である取締役以外の取締役」は、その全員に支給する総額ではなく、個人別の報酬等を指していると考えられます。

ü 職務の執行に関する費用(第4項)

監査等委員が職務執行上必要とする費用の会社による支払いについては、次のように規定されています。

@)監査等委員がその費用の前払を請求した場合には、会社は、その費用が監査等委員の職務の執行に必要でないことを証明しない限り前払いを拒めない。

A)監査等委員が、その費用を立替払いして会社に対し費用・利息の償還を請求した場合も同様となる。

B)監査等委員が、その費用につき負担した債務を自分に代わり弁済するよう会社に対し請求した場合も同様となる。

これは、指名委員会等設置会社の監査委員、監査役設置会社の監査役の場合と同じで、監査等委員は、会社が費用の請求を拒んだときには、これを訴訟上請求することができ、その場合には、それらの費用が監査のために不必要であることを会社が立証しない限り、勝訴することができます。また、そのことを取締役の法令違反としての責任を追求することもできます。さらにその結果、監査のために必要な調査をすることができなくなった旨を監査報告に記載することができます。

※アドバイザーとの契約

会社の取締役や使用人による違法または不当な行為に関する端緒が得られる段階で、監査等委員には、そのような行為の事実調査及びその事実の法律的評価が求められることになります。また、監査等委員は、このような事態において自ら会社に対する善管注意義務を果たすべき行動するひつようがありますが、これらの事項には法律判断が伴うため、弁護士等の外部専門家のアドバイスが必要となる事もあります。しかし、経営者サイドが不正に関与していることが疑われる場合には、経営者が常時依頼している弁護士等の専門家によるアドバイスが期待できない場合も考えられます。そこで、監査等委員会として、平時において独自に弁護士等の外部専門家を選定し、有事の際のアドバイスを適時に受けられるように準備を整えることも考えられます。このように監査等委員会が独自に依頼した弁護士等の外部専門家の費用は、職務の執行に関する費用として会社が負担すべきものの中に含まれるという考え方があります。

Ø 監査等委員会による調査(399条の3)

@監査等委員会が選定する監査等委員は、いつでも、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)及び支配人その他の使用人に対し、その職務の執行に関する事項の報告を求め、又は監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

A監査等委員会が選定する監査等委員は、監査等委員会の職務を執行するため必要があるときは、監査等委員会設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

B前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。

C第1項及び第2項の監査等委員は、当該各項の報告の徴収又は調査に関する事項についての監査等委員会の決議があるときは、これに従わなければならない。

ü 事業報告請求・業務財産調査権(399条の3第1項)

監査等委員会が選定する監査等委員は、いつでも、取締役及び使用人に対して、その職務の執行に関する事項の報告を求め、または監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(399条の3第1項)。報告の対象は、報告を求められた取締役・使用人の職務の執行に関する事項であれば、監査等委員会設置会社の事業全般に及びます。また、監査等委員会からの報告を求める方法はどのようなものであってもよく、調査の対象は監査等委員会の業務及び財産の全般であり、会社の帳簿その他の資料の閲覧・謄写を行うことや、取締役・使用人に質問することも可能です。取締役および使用人は、選定監査等委員の請求に応じて報告し、調査に協力する義務を負います。

ü 子会社調査権(399条の3第2項)

監査等委員会が選定する監査等委員は、監査等委員会の職務を執行するために必要ある時は、監査等委員会設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況を調査することができます(399条の3第1項)。

子会社には、外国法人等も含みますが、実際に海外の子会社等が報告し、又は調査に協力する義務を負うかは、その子会社の設立準拠法により決まってきます。なお、子会社調査において、営業秘密を理由に調査を拒否できるかについては争いがあります。

※子会社は、調査が権限濫用である等正当な理由があるときには、その報告・調査を拒むことができます(399条の3第4項)。

ü 監査等委員会の決議(399条の3第4項)

上記ア..の調査に関して、選定された監査等委員は、報告徴収・調査に関する事項について監査等委員会の決議がある時は、その決議に従わなければなりません(399条の3第4項)。 

Ø 取締役会への報告義務(399条の4)

監査等委員は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければならない。

監査等委員は、取締役が不正の行為をし、もしくはそのような行為をするおそれがあると認めるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(399条の4)。

対象となる事実は、不正の行為または法令定款違反の行為に限らず、広く著しく不当な事実(382条)、すなわち法令定違反ではないが、そのことを決定することや行うことが妥当でない事実も含まれるということです。そして、監査等委員が、この399条の4の条文に基づいて取締役会に報告を行った場合、取締役会は、その事実を調査・検討し、必要な是正措置を取るべきことになり、不正な行為の是正の他、行為者に対する損害賠償請求、または会社ごとに定められている内部規則に則った処分をすることになります。

なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、選定監査等委員に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(399条の14)。

なお、監査役会設置会社や指名委員会等設置会社には、その報告した事実は取締役会議事録に記録され(会社法施行規則101条3項6号)、監査報告に記載される可能性があり(会社法施行規則130条2項2号、131条1項2号、129条1項3号)、株主に提供される(会社法施行規則133条1項2号)ことになります。監査等委員会設置会社については、法務省令に同様の規定はありませんが、同様の措置が類推できます。 

Ø 株主総会に対するの報告義務(399条の5)

監査等委員は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものについて法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その旨を株主総会に報告しなければならない。

監査等委員は、取り締まれ焼くが株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものについて法令もしくは定款に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、その旨を株主総会に報告しなければなりません(399条の5)。

このような規定は指名委員会等設置会社の監査委員にはありませんが、監査役設置会社の監査役は、監査等委員と同様、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、法令もしくは定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません(384条)。監査等委員にこのような義務が課されたのは、監査等委員会設置会社においては、指名委員会等設置会社と比較すると、指名委員会、報酬委員会がなく、取締役会の経営者からの独立性が十分ではないから、取締役会における株主総会提出議案や書類の違法性チェック機能だけに依存することができず、監査役に倣って、監査等委員が株主総会に直接報告する制度を設けることとしたためと考えられます。 

Ø 監査等委員会による取締役行為の差止め(399条の6)

@監査等委員は、取締役が監査等委員会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査等委員会設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

A前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。

監査等委員は、取締役が監査等委員会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがある時は、その取締役に対して、その行為をやめることを請求することができます(399条の6第1項)。

このような差止請求権は、法令定款を遵守するという取締役の会社に対する忠実義務を履行させる会社の請求権を、監査等委員が株式会社の機関として会社のために行使するものであって、差止請求権の行使は、会社の機関としての監査等委員の義務であり、差止請求権の行使が株主の任意に委ねられている株主の執行役または取締役に対する差止請求権(360条、422条)とは異なるものです。すなわち、取締役による目的の範囲外の行為その他法令定款に違反する行為について、取締役会が適切な対処措置を取らない場合、差止請求権適切に行使することは監査等委員の職務です。

また、監査等委員による差止請求に対して、裁判所が仮処分をもって取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとされています(399条の6第2項)。その理由として、監査等委員が会社の機関として会社のためにする差止の仮処分について手続に慎重を期する必要はないこと、この訴訟の仮処分は監査等委員の機関として行うものであって、その担保は会社が負担しなければならず、その支出をめぐって取締役と監査等委員の間で紛争が生じかねないこと、及び仮に担保の支出を取締役に要求することになれば、被申請人である取締役に仮処分申請を知られて保全処分の密行性を損なうことになってしまうことなどが理由です。 

Ø 監査等委員会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表等(399条の7)

@第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査等委員会設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が監査等委員会設置会社を代表する。

一 監査等委員が当該訴えに係る訴訟の当事者である場合 取締役会が定める者(株主総会が当該訴えについて監査等委員会設置会社を代表する者を定めた場合にあっては、その者)

二 前号に掲げる場合以外の場合 監査等委員会が選定する監査等委員

A前項の規定にかかわらず、取締役が監査等委員会設置会社に対して訴えを提起する場合には、監査等委員(当該訴えを提起する者であるものを除く。)に対してされた訴状の送達は、当該監査等委員会設置会社に対して効力を有する。

B第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる株式会社が監査等委員会設置会社である場合において、当該各号に定める訴えを提起するときは、当該訴えについては、監査等委員会が選定する監査等委員が当該監査等委員会設置会社を代表する。

一 株式交換等完全親会社(第849条第2項第1号に規定する株式交換等完全親会社をいう。次項第1号及び第5項第3号において同じ。) その株式交換等完全子会社(第847条の2第1項に規定する株式交換等完全子会社をいう。第5項第3号において同じ。)の取締役、執行役(執行役であった者を含む。以下この条において同じ。)又は清算人(清算人であった者を含む。以下この条において同じ。)の責任(第847条の2第1項各号に掲げる行為の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限る。)を追及する訴え

二 最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。次項第2号及び第5項第4号において同じ。) その完全子会社等(同条第2項第2号に規定する完全子会社等をいい、同条第3項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。第5項第4号において同じ。)である株式会社の取締役、執行役又は清算人に対する特定責任追及の訴え(同条第1項に規定する特定責任追及の訴えをいう。)

C第349条第4項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる株式会社が監査等委員会設置会社である場合において、当該各号に定める請求をするときは、監査等委員会が選定する監査等委員が当該監査等委員会設置会社を代表する。

一 株式交換等完全親会社 第847条第1項の規定による請求(前項第1号に規定する訴えの提起の請求に限る。

二 最終完全親会社等 第847条第1項の規定による請求(前項第2号に規定する特定責任追及の訴えの提起の請求に限る。)

D第349条第4項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査等委員が監査等委員会設置会社を代表する。

一 監査等委員会設置会社が第847条第1項、第847条の2第2項若しくは第3項(同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は第847条の3第1項の規定による請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合(当該監査等委員が当該訴えに係る訴訟の相手方となる場合を除く。)

二 監査等委員会設置会社が第849条第4項の訴訟告知(取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第850条第2項の規定による通知及び催告(取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合(当該監査等委員がこれらの訴えに係る訴訟の当事者である場合を除く。)

三 株式交換等完全親会社である監査等委員会設置会社が第849条第6項の規定による通知(その株式交換等完全子会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

四 最終完全親会社等である監査等委員会設置会社が第849条第7項の規定による通知(その完全子会社等である株式会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

監査等委員会に選定された監査等委員は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対し、または取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(399条の7第2項)。このような会社・取締役間の訴えにおいても会社を代表する者を一般原則通り代表取締役とすると、訴訟の相手方である取締役がその代表取締役である場合はもちろん、それ以外の取締役でも、適切な訴訟追行がされないおそれがあるので、独立性が保障されている監査等委員が会社を代表することになっています。

会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査等委員です(399条の7第5項)。しかし、監査等委員としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査等委員は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性背あります。

また株主代表訴訟において被告取締役(監査等委員を除く。)を補助するため、または株式交換等完全子会社の旧株主による責任追及訴訟または最終完全親会社等の株主による特定責任追及訴訟において株式交換等完全子会社・完全子会社等の取締役・執行役を補助するために、会社がこれらの訴訟に補助参加する場合には、監査等委員全員の同意が必要とされています(849条3項2号)。

 

第2款.運営

Ø 招集権者(399条の8)

監査等委員会は、各監査等委員が招集する。

監査等委員会は、各監査等委員が招集することができます。社外取締役である監査等委員の招集権を保障する等の必要から、定款または規則をもって特定の監査等委員に招集権を専属させることはできないとされています(366条1項では但書により取締役会の招集権を特定の取締役に専任させることを定款に定められる規定があるのに対して、399条の8には、これと同様の但書がないため、できないと解されています)。 

Ø 招集手続等(399条の9)

@監査等委員会を招集するには、監査等委員は、監査等委員会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各監査等委員に対してその通知を発しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、監査等委員会は、監査等委員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

B取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)は、監査等委員会の要求があったときは、監査等委員会に出席し、監査等委員会が求めた事項について説明をしなければならない。

監査等委員会を招集するには、監査等委員は、監査等委員会の日の1週間前(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各監査委員に対してその通知を発しなければなりません(399条の9第1項)。監査等委員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(399条の9第2項)。

監査等委員会の招集機関の短縮を取締役会の決議ではなく定款の定めによることとしたのは、監査等委員は取締役会から独立した地位を有するため、監査等委員会は、取締役会の内部機関とは位置付けることはできず、むしろ取締役会から一定程度独立したものとして、監査役会と類似した位置づけにとなることを考慮して、監査役会の場合と同じような規律(392条1項)としたと考えられます。 

Ø 監査等委員会の決議(399条の10)

@監査等委員会の決議は、議決に加わることができる監査等委員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。

A前項の決議について特別の利害関係を有する監査等委員は、議決に加わることができない。

B監査等委員会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した監査等委員は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

C前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

D監査等委員会の決議に参加した監査等委員であって第3項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。

ü 監査等委員会の決議

監査等委員会の決議は、議決に加わることができる監査等委員の過半数が出席し、その過半数をもって行います(399条の10第1項)。ただし、決議について特別の利害関係を有する監査等委員は、議決に加わることはできません(399条の10第2項)。

取締役は、監査等委員会の要求があったときは、監査等委員会に出席し、監査等委員会が求めた事項について説明しなければなりません(399条の10第3項)。これに対して、監査等委員以外の取締役がいない状況での自由・闊達な議論をする機会を保障するため。監査等委員以外の取締役の監査等委員会への出席権は認められていません。

ü 議事録の作成

監査等委員会の議事については、議事録を作成し、議事録が書面で作成している場合には、出席した監査等委員は、これに署名し、または記名捺印しなければなりません(399条の10第4項)。議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める記名捺印に変わる措置をしなければなりません(399条の10第4項)。

監査等委員会の決議に参加した監査等委員であっても議事録で意義をとどめていないものは、その決議に賛成したものと推定されます(399条の10第5項)。 

議事録の内容については、会社法施行規則110条の3に従います。

Ø 議事録(399条の11)

@監査等委員会設置会社は、監査等委員会の日から十年間、前条第3項の議事録をその本店に備え置かなければならない。

A監査等委員会設置会社の株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

B前項の規定は、監査等委員会設置会社の債権者が取締役又は会計参与の責任を追及するため必要があるとき及び親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。

C裁判所は、第2項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該監査等委員会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第2項の許可をすることができない。 

監査等委員会設置会社は、監査等委員会の日から10年間、議事録をその本店に備え置かなければなりません(399条の11第1項)。

監査等委員会設置会社の株主は、その権利を行使するために必要ある時は、裁判所の許可を得て、議事録の閲覧または謄写の請求を行うことができます(399条の11第2項)。監査等委員会設置会社の債権者が取締役の責任を追及するために必要がある時及び親会社社員がその権利を行使するための必要があるときについても同様です(399条の11第3項)。ただし、裁判所は、閲覧または謄写をすることにより、その監査等委員会設置会社またはその親会社、子会社に著しい損害を及ぼすおそれがある時は、閲覧の請求を許可することができません(399条の11第4項)。

監査等委員である取締役以外の取締役による監査等委員会の議事録の閲覧または謄は認められていません。 

Ø 監査等委員会への報告の省略(399条の12)

取締役、会計参与又は会計監査人が監査等委員の全員に対して監査等委員会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査等委員会へ報告することを要しない。

取締役または会計監査人等が監査等委員の全員に対して監査等委員会に報告すべき事項を通知したときは、その事項について監査等委員会への報告をする必要がなくなる(399条の12)。

なお、指名委員会等設置会社の監査委員会がその委員の中から選定する者は遅滞なく、その委員会の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない(417条3項)とされていますが、監査等委員会には、このような規定は設けられていません。 

 

第3款.監査等委員会設置会社の取締役会の権限等

Ø  監査等委員会設置会社の取締役会の権限(399条の13)

@監査等委員会設置会社の取締役会は、第362条の規定にかかわらず、次に掲げる職務を行う。

一 次に掲げる事項その他監査等委員会設置会社の業務執行の決定

イ 経営の基本方針

ロ 監査等委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項

ハ 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

二 取締役の職務の執行の監督

三 代表取締役の選定及び解職

A監査等委員会設置会社の取締役会は、前項第1号イからハまでに掲げる事項を決定しなければならない。

B監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の中から代表取締役を選定しなければならない。

C監査等委員会設置会社の取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

一 重要な財産の処分及び譲受け

二 多額の借財

三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

五 第676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

六 第426条第1項の規定による定款の定めに基づく第423条第1項の責任の免除

D前項の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。ただし、次に掲げる事項については、この限りでない。

一 第136条又は第137条第1項の決定及び第140条第4項の規定による指定

二 第165条第3項において読み替えて適用する第156条第1項各号に掲げる事項の決定

三 第262条又は第263条第1項の決定

四 第298条第1項各号に掲げる事項の決定

五 株主総会に提出する議案(会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関するものを除く。)の内容の決定

六 第365条第1項において読み替えて適用する第356条第1項の承認

七 第366条第1項ただし書の規定による取締役会を招集する取締役の決定

八 第399条の7第1項第1号の規定による監査等委員会設置会社を代表する者の決定

九 前項第6号に掲げる事項

十 第436条第3項、第441条第3項及び第444条第5項の承認

十一 第454条第5項において読み替えて適用する同条第1項の規定により定めなければならないとされる事項の決定

十二 第467条第1項各号に掲げる行為に係る契約(当該監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く。)の内容の決定

十三 合併契約(当該監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く。)の内容の決定

十四 吸収分割契約(当該監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く。)の内容の決定

十五 新設分割計画(当該監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く。)の内容の決定

十六 株式交換契約(当該監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く。)の内容の決定

十七 株式移転計画の内容の決定

E前2項の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社は、取締役会の決議によって重要な業務執行(前項各号に掲げる事項を除く。)の決定の全部又は一部を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる。 

ü 監査等委員会設置会社の取締役会の職務

@監査等委員会設置会社における取締役会の位置づけ

監査等委員会設置会社の法制化に際して立法者は取締役会の性格についての考えを明らかにしています。それによると、従来の監査役会設置会社の取締役会は経営者の経営について議論し、実際に執行をするアドバイザリー・モデルであるのに対し、委員会等設置会社(改正会社法では指名委員会等設置会社)の取締役会は、経営を監視・監督・評価する役割が中核となるモニタリング・モデルであるといいます。そして、監査等委員会設置会社の取締役会は両者の折衷型で言わばハイブリッド・モデルの性格のものとして考えられているというのです。会社法の監査等委員会設置会社に関する条文は、その理念が基となって制定されていると考えられます。

※アドバイザリー・モデルとモニタリング・モデル

アドバイザリー・モデルの背後には、一般株主の利益は取締役会を監査役による監査・監督により十分に守ることができるので、取締役会は経営を執行するマネジメント・ボードとしての機能を果たすことが企業の株主価値の向上に資するという考え方があります。しかし、最近の状況では、支配株主が存在しなくなった会社では、取締役が株主ではなく自らの又はその他の利害関係者の利益を追求しかねないというおそれが生じているということです。そこで、一般株主の利益を代表する社外取締役が取締役会の半数以上を占め、取締役会における最終的な決定権を有する、ということで取締役会を取締役会が監督することで、この問題に対処するというのがモニタリング・モデルの考え方です。

A監査等委員会設置会社の取締役会の職務

前述の取締役会の位置づけにおいて説明したように、監査等委員会設置会社の基本理念は取締役会の中核的な機能は、経営を監視・監督・評価する役割をはたすというモニタリング・モデルを加味した考え方です。この場合の「監督」とは、監督する人が監督される人(業務執行者)の業績を評価することより、経営の効率性を確保すること、すなわち取締役会が業務執行者の個別的な意思決定や業務執行の合目的性を審査するのではなく、経営陣が策定した経営戦略方針に照らし、その成果が妥当であったかか否かを審査することです。

取締役会が、取締役の業績評価を行い、その経営の効率性を評価するためには、監督の基準となる経営の基本方針を決定し、業務執行取締役に会社の業務執行の指針を示す必要があります。監査等委員会設置会社において取締役会が、取締役の職務執行の監督に集中し、取締役会が監督機能を十分に発揮するためには、細目的事項取締役会決議事項から外し、重要な業務執行の決定を取締役に対して委任できるようにすることが可能となっています。それは、一方で業務執行において迅速な意思決定を可能にし、変化が激しくなっている経営環境において競争に打ち勝つ体制をつくっていくことでもあるわけです。

ü 監査等委員会設置会社の取締役会の基本的権限(399条の13第1項)

監査等委員会設置会社の取締役会の職務は前述の通りですが、その職務を行う権限を有します。一方、362条において取締役会の権限等を規定しているのが一般的な規定と考えられますが、そこで列挙されているのは、 取締役会設置会社の業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督、代表取締役の選定及び解職の三項目であり、下の@〜Bと比べると、ABにあたる項目は同じ文言です。また、@にあたる項目については、監査等委員会設置会社の場合には、経営の基本方針を決定することが追加されているということが文言上の違いです。ただし、文言上での違いは小さくても意味合いは変わってきます。それを踏まえて見ていきましょう。

@経営の基本方針及び会社の業務執行の決定(399条の13第2項)

a)経営の基本方針

経営の基本方針とは、中期経営計画や年度予算であり、コーポレート・ガバナンスの基本方針、経営理念、経営ビジョン及び行動基準等が含まれます。この場合の、経営の基本方針は、業務執行取締役が会社の業務執行を行う際の指針となり、取締役会が業務執行取締役を監督する際の基準になるものです。

※監査役会設置会社では、従来より取締役会が経営の基本方針を決定することは要求されていません。

b)監査等委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項

監査等委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する事項等の監査等委員会の監査が実効的に行われることを確保するための体制に関する事項を意味すると考えられます。その内容は会社法施行規則110条の4第1項に規定されていて、次のような内容です。

・監査等委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する事項

・監査等委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人のその他の取締役(監査等委員である取締役を除く)からの独立性に関する事項

・取締役及び使用人が監査等委員会に報告するための体制その他の監査等委員会への報告に関する体制

・その他監査等委員会の監査が実効的に行われることを確保するための体制

ここでいう「使用人の取締役からの独立性に関する事項」は、監査等委員会のスタッフが、経営者から独立していなければ、その過半数を社外取締役とすることにより適正な監査の実現のために監査等委員会の独立性を確保した法の趣旨を没却しないために必要なものです。監査等委員会の監査実務を執行するスタッフは使用人であるため当然に執行部門の管理下にあります。従って、その独立性の担保のために監査等委員会のスタッフの任命、評価、異動等には、監査等委員会の同意を必要とする。その選任及び解任については監査等委員会の同意を必要とし、事前に監査等委員会の意見を聴取し、取締役はこれを尊重するといったことが考えられます。

監査等委員会は会社の内部統制システムを利用して監査を行うことが想定されているため、これらの事項を決定することが不可欠となります。

c)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

いわゆる内部統制システムに関する事項です。この内容は、会社法施行規則110条の4第2項に規定されています。

・取締役の職務の執行に係る情報の保管及び管理に関する体制

・会社の損失の危機の管理に関する規程その他の体制

・取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

・使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

・親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

監査等委員会は会社の内部統制システムを利用して監査を行うことが想定されているため、また取締役会が監督業務を行っていく上でも、これらの事項を決定することが不可欠となります。

A取締役の職務の執行の監督

取締役会権限として362条に規定されているものと同じ事項です。ただし、この場合にはアドバイザリー・モデルによる取締役会における監督です。しかし、監査等委員会設置会社はモニタリング・モデルの要素が入っているので、監督に期待される内容が異なっているはずです。

他方でモニタリング・モデルの指名委員会等設置会社の監督は、取締役が会社の業務の決定・執行を行うことはなく。執行役が取締役会の決議により委任をうけた事項の決定を行い、かつ業務の執行を行うから、その執行役を監督することが監督の主要業務となっています。一方、指名委員会等設置会社の取締役は、取締役会の構成員としての職務、委員会の委員としての職務を有しているので、その執行が取締役会による監督の対象となります。監査等委員会設置会社は、その両者のハイブリッドというのが基本的な性格でから、監督に関しては、指名委員会等設置会社の執行役に対する監督を監査等委員を除いた取締役に対する監督に置き換えて、監査役設置会社の場合も併せた監督を行うということになると思います。具体的な方法は、形式的には、362条の一般的な規定の方法を準用した、以下のものとなると考えられます。

.具体的方法

a)取締役会への報告義務

取締役会は、業務の執行計画や実施状況の監督を行う場合、代表取締役及び業務担当取締役に対して必要な報告や資料の提示・提出等を求めることとなります。そのため、代表取締役及び業務多寡等取締役に対し、3ヶ月に1回以上、職務執行の状況を取締役会に報告することを要求(363条2項)し、当該取締役会の開催は、書面または電磁的方法による取締役会開催の同意(370条)があっても省略できないものとされています(372条2項)。これは取締役による監督が、形式的なものではなく、取締役会という会議体の中で実質的に行なわれなければならないことを意味します。取締役会では、この報告や提出された資料等を審議検討し、その適否を判断します。適否の判断に際しては、監査役のほか、会計監査人の意見を聴取することや、社内外の専門家の意見を聴取することも認められています。以上の業務執行の監督を通じて、代表取締役または業務担当取締役について是正すべき事項がある場合には、適宜の指摘か行われ、これへの対応が適切でない場合には、取締役会は、当該代表取締役を解職することができます(362条2項3号)。なお、業務担当取締役についても同様に考えられます(363条1項2号)。

※取締役の監督義務

取締役会を構成する各取締役は、取締役会における調査・検討・審議・判断という過程において、会社に対する善管注意義務を確実に履行しなければならない。加えて、その履行が適正であるかについての監督義務を負う、という最高裁の判断が出ています(最高裁昭和48年5月22日)。

取締役会は会社の業務執行を監督する機能を有するため、取締役会を構成する取締役は、取締役会に上程された事柄だけでなく、代表取締役の業務執行全般を監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする責務を有する(366条1項、2項)と言えます。このように、取締役は、業務の適正を確保するため、取締役会の構成員として、監視機能に基づき必要な手段を講じなければなりません。

〔参考〕取締役会の監督権限と監査役監査権限

取締役会は、会社の経営方針・業務執行に関する決定機関であるとともに、その経営方針・業務執行の実践を確保するための監督を行なわなければなりません。したがって、取締役会の監督権限は、業務執行が経営方針に合致しているかどうかを確認することを目的とし、職務執行の適法性にとどまらず、その妥当性に及ぶことから、積極的かつ前向きの監督をするという性格を帯びています。

これに対して、監査役による業務監査は、原則として業務執行の適法性の監査に限られ、相当でない事項または著しく不当な事項を指摘するというものです。したがって、監査役の監査権限は、取締役の行為や取締役会決議の適法性を確保することが目的となるので、消極的かつ防止的な監査をするという性格を帯びています。

これら取締役会による監督権限と監査役の監査権限は、対立するものではなく、健全な会社業務の維持、コーポレートガバナンスの確保を促進する上で相互に補完・関連するするところがあります。

b)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(内部統制システム)

大会社の取締役会は、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務及び当該会社・子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制、いわゆる内部統制システムを整備し運営することによって監督を行います(362条5項)。

上場会社などの大会社の現状では、取締役会による取締役の業務執行の監督は容易でなく、取締役各人の能力に期待するだけでなく、取締役会において判断するために必要な情報が提供され、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保する内部統制システムが必要と考えられるようになりました。会社法及び関係法令では、大会社及び監査等委員会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社についていわゆる内部統制システムの構築を取締役会の義務としています(348条3項4号及び4項、会社法施行規則100条102条)。決定の内容及び運用状況は、事業報告に記載されることにより開示され(会社法施行規則118条2号)、その相当性が監査役による監査の対象となります(会社法施行規則129条1項5号)。法務省令で求められている内容は次のとおりです。

(1)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

(2)取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制

(3)損失の危険の管理に対する規程その他の体制

(4)取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

(5)使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

(6)当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

(7)監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用に関する事項

(8)前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項

(9)取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他監査役への報告に関する体制

(10)その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

※内部統制システム

内部統制システムは1920年頃からアメリカを中心に広まった概念で、当初は財務報告の信頼性確保の前提として、会計監査人が会計監査を行うために必要とした内部牽制のシステムでしたが、次第に、経営者が使用人の業務の効率性・有効性・遵法(コンプライアンス)を監視するシステムの意味合いを強め、現在では、経営者自身を監視するシステムの意味でその語が用いられることもあります。我が国の会社法では、経営者の監督体制を含めた意味で用いられます。

c)社外取締役による監督

社外役員である社外取締役、社外監査役は、いずれも、会社及び子会社において直前に取締役・使用人等ではなかった者であり、外部の視点から職務執行の監督を行うことのできる立場にあります。以下で、取締役会の構成員である社外取締役による監督機能について考えてみたいと思います。

会社法上、監査役会設置会社において社外取締役の選任は義務付けられていませんが、強く推奨されている(327条の2)ことから、会社それぞれの事情に基づいて、社外取締役を選任しています。社外取締役に期待され役割として次の点があげられます。

・透明性の確保

取締役会において社内取締役から一定の距離のある外部者を加えることにより、外部者への説明を通じて、業務執行の透明性を確保することができる。

・助言機能

社外取締役の持つ職歴や経験、知識その他外部者の立場から、経営に対する大局的な観点からの助言を受けることができます。

・監督機能等

経営者の評価・選解任その他取締役会における重要事項の決定に際して議決権を行使することによる「業務改善全般への監督機能と、会社と経営者との間の「利益相反を監督する機能」とを向上させることができます。

B代表取締役の選定及び解職

取締役会権限として362条に規定されているものと同じ事項です。つまり、以下のようなこととなります。

取締役会は、その開催に取締役による招集を要するという性格上、日常的に開催されるものではありません。これを補完するため、取締役会は、日々の業務遂行を委任する(363条1項)ための常設機関として取締役の中から代表取締役を選定する義務があり(362条3項)日常の業務執行を委任します(363条1項)。代表取締役の員数に制限はなく、数名とするのが通例です。

また、取締役会はその決議により代表取締役を解職する権限を有し、解職決議により代表取締役の地位が剥奪された場合は、当人への告知なしにその効力が生じます(最高裁判決昭和41年12月20日)。

なお、実務上は、代表取締役選定の際に、その対象となる代表取締役候補者は特別利害関係人(369条2項)に当たらず、この選定議題に関する取締役会の議決に加わることができるのに対して、代表取締役の解職に際しては、その対象となる代表取締役は特別利害関係人に該当し、解職議題に関する取締役会の議決には加わることができないとされています。この違いについては、一般的に、代表取締役の選定について候補者自身が議決権を行使することは、業務執行の決定への参加に他ならず、特別利害関係には当たらないと解されているからです。

ü 重要な業務執行に関する原則的規定(399条の13第4項)

監査等委員会設置会社の取締役会は、原則として、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することが出来ないという、362条4項と同じ内容の条文です。

・重要な財産の処分及び譲受け

・多額の借財

・支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

・支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

・社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項

・定款授権による取締役の責任免除 

この規定は、監査等委員会設置会社には、指名委員会等設置会社とは違って指名・報酬委員会が置かれないことを踏まえ、監査等委員会設置会社の取締役会から取締役に対して委任することが認められる業務執行の範囲を、監査役会設置会社の取締役会から取締役に対する決定の委任が認められる業務執行の範囲と同じようにして、原則として、重要な業務執行の決定を取締役に委任することは出来ないようにしたものです。

ただし、監査等委員会設置会社は、監査役会設置会社とは異なり、上記の事項のうち、「取締役の責任の免除」に関する決定を除き、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる措置が設けられています(399条の13第5、6項)。この点については、モニタリング・モデルの取締役会を前提に、取締役に対する業務執行の決定の委任を認めるのであれば、この規定は実際上は適用されなくなる場合もあることになります。

ü 重要な業務執行の決定の取締役への委任(399条の13第5、6項)

監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役である場合は取締役会決議により、取締役の過半数が社外取締役でない場合には定款の定めにより、取締役会は、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、重要な使用人の選任及び解任、重要な組織の設置、変更及び廃止に関する決定のみならず、株式の発行・自己株式の処分を含めた多くの重要な業務の決定を取締役に対して委任できることになっています(399条の13第5、6項)。この規程は、監査等委員会設置会社においていわゆる経営と監督の分離を可能とさせるもので、この規定にによって業務執行の決定権限の大幅な委任を受けた取締役が会社を経営し、取締役会がその業務執行を監督することになるわけです。

監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、取締役会の監督機能の充実が図られていて、取締役に対しする重要な業務執行の決定の委任を可能としても、取締役会による経営者の監督は制度的に担保されています。

これに対して、監査等委員会設置会社の社外取締役が過半数に満たない場合に、指名委員会等設置会社のように三つの委員会といった制度の伴わない監査等委員会設置会社の取締役に、同じようにひろく権限を委任してよいのかという議論もあります。これに対しては、定款の定めによって重要な業務執行の決定の取締役への委任が認められていますが、その理由は下に列挙されている通りです。

・監査等委員会設置会社制度の趣旨は、取締役会の監督権限の充実を図るところにあり、取締役会による監督を実効性のあるものとするためには、社外取締役をはじめとする経営を監督する者が個別の業務執行に逐一関与するのではなく、監督により専念することができるようにすることが望ましいと考えられたこと。

・経営の監督という観点から、社外取締役を含む監査等委員会設置会社の取締役全員で決定すべき業務執行の範囲をについては、各社の状況によって様々であるあり得るため、その点を踏まえて株主の判断に委ねるべきこと。

・監査等委員である取締役以外の取締役の任期は1年間であるので、株主は毎事業年度の定時株主総会において、取締役の選任を通じて、取締役による業務執行の決定を含む職務執行の状況を監督することができること

・監査等委員会設置会社には、指名委員会等設置会社のように三つの委員会はないけれど、監査等委員に、監査等委員である取締役以外の取締役の選任、解任又は辞任及び報酬等についても株主総会において、意見陳述権が与えられていることとされていること。

ところで、社外取締役は株式会社の業務に関する詳細な知識を有しているとは限らず、社外取締役を積極的に登用するために、無目的な事項に関することが望ましい、という考え方もあります。監査等委員会設置会社において、定款の定めにより重要な業務執行の決定を取締役に委任することを可能としたのは、監査等委員会設置会社の利用の勧奨策であり、社外取締役の選任を推進しようとする政策的判断が含まれていると考えられます。

なお、取締役に対する重要な業務執行の決定の委任について定款に定めが置かれた段階では、取締役に対する委任は未了であり、取締役会が取締役に対する委任の決議を行った段階で、取締役がその事項について決定する権限を持ったことになるということです。

〔参考〕取締役に対しする重要な業務執行の決定の委任する定款の事例

第○○条(重要な業務執行の決定の委任)

当会社は、会社法第399条の13第6項の規定により、取締役会の決議よって重要な業務執行(同条第5項各号に掲げる事項を除く)の決定の全部または一部を取締役(監査等委員である取締役を除く)に委任することができる。

これらの規定によって、取締役に決定権限を委任することができる重要な業務執行の決定は、399条の13第1項1号及び3号の所定の事項、及び第5項各号所定の事項以外の事項となります。つまり、以下の事項以外の事項です。

@399条の13第1項1号及び3号の所定の事項

1.経営の基本方針

2.監査等委員会の職務の執行のために必要なものとして法務省令で定める事項

3.内部統制システムの整備に関する事項

4.代表取締役の選定及び解職

A399条の13第5項各号所定の事項

1.株式及び新株予約権に関する事項

譲渡制限株式の譲渡承認等(1号)、定款授権がある場合の自己株式の買受に関する事項(2号)、譲渡制限新株予約権の譲渡承認(3号)

2.株主総会に関する事項

株主総会招集の決定(4号)、株主総会に提出する議案(会計監査人の選任及び解任並びに不再任に関するものを除く)の決定(5号)

3.取締役会の招集権者の決定(7号)

4.取締役に関する事項

利益相反取引等の承認(6号)、会社と監査等委員との間の訴えにおける会社を代表する者の決定(8号)、定款授権にもとづく取締役会による取締役の責任免除(9号)

5.計算書類等の承認(10号)

6.中間配当の決定(11号)

7.組織再編に関する事項(監査等委員会設置会社の株主総会の決議による承認を要しないものを除く)

事業譲渡等(12号)、合併(13号)、吸収分割(14号)、新設分割(15号)、株式交換(16号)、株式移転(17号) 

Ø 監査等委員会による取締役会の招集(399条の14)

監査等委員会設置会社においては、招集権者の定めがある場合であっても、監査等委員会が選定する監査等委員は、取締役会を招集することができる。

 

 

〔参考〕監査等委員会設置会社への移行手続

参考として、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する場合に、どのような手続を行っていくかを簡単に見てみたいと思います。

@移行手続きスケジュール

監査等委員会設置会社への移行は定款変更や役員選任などが必要なので、株主総会の決議をゴールとしてスケジュールを設定することになります。なお、実質的な運営は、株主総会の決議を受けてからとなり、それぞれの会社の状況によって異なってくると思われるので、ここでは形式的な制度移行に限って話を進めていきます。その際に、便宜的に3月決算、6月の定時株主総会の会社を想定した、大雑把なスケジュールを以下に示しました。

1〜2月 基本的方向性の決定

監査等委員会設置会社に移行するか否か、全体スキームの検討

2〜3月 移行のための関係者との調整

監査等委員候補者の確定、監査委員以外の取締役及び監査役との調整

具体的な制度の構築

4月    プレスリリース(監査委員等設置会社への移行のお知らせを新監査委員候補者も含めて)

4〜5月 移行のための具体的作業

ペーパーワーク(定款変更案、取締役会規則改定、監査委員会規則等の諸規則の作成)

5月    株主総会招集の取締役会決議

5〜6月 株主総会準備

株主総会招集通知、株主総会シナリオ、想定問答

6月    株主総会

上記スケジュールに従って、以下でのそれぞれの手続について概要を述べていきたいと思います。

A監査等委員会設置会社への移行の是非の検討。

最初は、監査等委員会設置会社へ移行するか否かを、はっきりさせること。これがないと始まりません。その際の参考として、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行するする際の、メリットとデメリットの例を示します。

メリットとして考えられること

a)役員構成の最適化

・社外役員を含めた役員削減

監査役会設置会社では、社外監査役は最低2名、それに加えて上場会社であれば社外取締役は1名は選任するとして、社外役員が社外取締役1名と社外監査役2名の計3名ということになります。これが、監査等委員会設置会社に移行した場合、監査等委員会に社外取締役2名が最低限ということで、社外役員に削減することができるということです。

・社外役員を一本化

監査役会設置会社では社外取締役と社外監査役の区分が曖昧になりがちなことを、監査等委員会設置会社に移行することによって、一本化することができ、取締役ながら監査委員という立場で、経営の執行には参加しないという規制をかけることが可能となり、さらに監査委員会の委員長を社内の監査委員とすることで社外役員に対して制度上の牽制を働かすことができます。

b)意思決定の迅速化と監査監督機能の分化

・取締役への権限委任

監査等委員会設置会社では定款に規定することにより、株主総会の招集、増資や組織変更等以外の取締役会で決議しなければならない事項の決定を各取締役に委任することが可能となります。とくに緊急時に臨時の取締役会の招集を待たずに取締役の決定で施策を講じることが法的に認められるわけで、迅速な意思決定がすすめられます。

・監査等委員会の権限と責任

監査等委員会の機能については法規上で幅を持たせて規定されているため、現状の監査役会から取締役に対する強い監督まで会社の状況に応じて柔軟に設定できる。やり方によっては監査等委員会に社長の輔弼機能を持たせることも可能となります。

c)株主総会決議事項の省略

監査等委員会設置会社の取締役の任期を1年とすることに伴い、定款に規定を置くことにより、取締役会の決議により剰余金の配当を決定できることになり、株主総会では報告すれば足りることになります。

また、監査等委員会設置会社に移行する際に取締役の報酬枠を改めて決めなくてはなりませんが、報酬枠を年間報酬の枠で決めることにより、枠内で賞与を支給すれば、株主総会に役員賞与を議題とする必要がなくなります。

d)株主や投資家に対する透明性の向上アピール

海外の投資家に対しては監査役会よりも社外取締役を複数置いている監査等委員会の方が圧倒的に理解を得やすくなります。さらに機関投資家に対して株主総会の決議助言会社であるISSやグラスルイスは2名以上の独立取締役を選任していない会社の取締役の選任に反対を推奨しているので、それもクリアできることになります。

デメリットとして考えられること

a)取締役の任期を現行の2年から1年に短縮され、定時株主総会で毎回取締役の選任を義務付けられる。 移行の際には、いったん取締役を新たに選任しなおさなくてはならないという手続面です。

b)監査等委員会は株主総会で取締役の指名と報酬について意見陳述権が認められるため、あらかじめこれらの件について事前相談しなければならなくなる。

c)移行に際の煩雑な手続きを踏まなければならない。

d)実績のない新たな制度であるため、未知のリスクがある。

※一度、監査等委員会等設置会社に移行した後で、以前の監査役会設置会社に戻ることも可能であると考えられます。かつての委員会設置会社から監査役会設置会社に戻った前例もあるからです。

B監査等委員会設置会社への移行するとして、制度設計のための方針(スキーム)の決定。

監査等委員会設置会社に移行することを決定してから、実際の制度を具体的にどうするかを作っていかねばなりません。そのためにおおよその方針を固めます。その際の検討事項として、制度設計に必要なことを下に示しておきます。なお、これは形式的なことで、一つの例ですから、実際には、会社それぞれの事情があるので、これ例外に会社として検討しなければならないこともあると思います。そこは、各社で考える必要があります。

a)制度設計の検討

取締役会の規模と構成─移行前の取締役会に監査等委員会を加えたものとするか

取締役会をモニタリング・モデルに改めて、規模や構成を一新させるか

監査等委員として取締役に、どこまで取締役会の決議に参加させるか

b)重要な業務執行の決定に関する取締役会の権限の取締役への移行

取締役会の権限の取締役への委任をどこまで認めるか

取締役に権限を委任することに伴い、委任を受けた取締役に対しての取締役会の監督体制

c)任意の指名・報酬委員会設置の有無

d)監査体制

監査等委員会の規模と構成

最低限の3人体制とするか─移行前の監査役会を監査等委員会に横滑りさせるか

常勤の監査等委員を選任するか

内部統制システムの体制づくり←監査等委員会は内部統制システムを通じて監査を行う

C監査等委員会設置会社への移行の適時開示

監査等委員会設置会社への移行は、取締役会で決定した時点において上場会社の適時開示の対象となります。「その他の決定事実に係る開示事項」として、a.事実の概要、b.決定の理由、c.今後の見通し、d.その他投資者が会社の情報を適切に理解・判断するために必要な事項を記載します。具体的には次のような記載が考えられます。

また、この移行に伴い定款の一部変更が必要になりますが、その決定(株主総会に付議することを決定)した際に「定款の変更」の適時開示がひつようとなり、これに加えて、代表取締役の異動を伴う場合には「代表者の異動」も適時開示の対象となります。

D株主総会への付議

監査等委員会設置会社への移行については、株主総会で次の順番で諮ることになります。また、株主総会では、それ以外の決議事項もあると思いますので、総会全体の決議事項を考える必要があります。

第○号議案 定款一部変更の件

この定款変更が承認されることによって、監査等委員会設置会社への移行が株主に承認されることになります。以下の議題は、この定款変更が承認されることを前提としています。従って、もし、この議題が否決された場合には、以下の議題は審議する必要がなくなります。

第○+1号議案 取締役(監査等委員である取締役を除く取締役)○名選任の件

監査等委員会を置く旨の定款変更をした場合、取締役の任期は定款変更の効力が生じた時に満了する(332条7項1号)ため、設置会社に移行する場合は、必ず取締役(「監査等委員である取締役」及び「監査等委員以外の取締役」)を選任しなければなりません。監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とは区別して選任しなければならないため(329条2項)、議案を分ける必要があります。

第○+2号議案 取締役(監査等委員である取締役)○名選任の件

第○+3号議案 補欠の監査等委員である取締役1名選任の件

補欠の選任は必ず行なわなければならないというものではありません。

第○+4号議案 取締役(監査等委員である取締役を除く取締役)の報酬等の設定の件

監査等委員会を置く旨の定款変更をした場合、取締役の報酬等は「監査等委員である取締役」と「監査等委員以外の取締役」とを区別して定めなければならない(361条2項)という、監査役会設置会社の場合の取締役とは別の決め方になるので、ここでそれぞれの取締役ごとに新たに報酬等を決めることになります。

第○+5号議案 取締役(監査等委員である取締役)の報酬額の設定の件

上記以外の決議事項としては、剰余金の配当については、これら一連の議題より前に諮るのが一般的で、退任する取締役及び監査役に対する退職慰労金の議題は、これらの後ということになります。

各決議事項について、内容を簡単に見ていきたいと思います。

a)定款の一部変更の件

ア.定款変更の理由

変更の理由として監査等委員会設置会社へ移行する旨およびその理由について記載します。

例えば、

1.提案の理由

(1)当社はコーポレートガバナンスの一層の強化の観点から、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行いたします。その具体的目的は以下の通りであります。

・監査等委員会を設置し、監査を行う役員に取締役会における議決権を与えることで、より一層監査・監督機能を強化する。

・当社取締役に取締役会の業務執行権限の一部を委任することにより、より迅速かつ効率的な会社運営を図る。

・上記の通り「監査・監督機能の強化」と「迅速な業務意思決定の実現、経営の効率化」を実現できる体制を構築し、コーポレートガバナンスを強化するとともに更なる企業価値向上を図る。

これに伴い、監査等委員会設置会社への移行に必要な、監査等委員会及び監査等委員に関する規定の新設ならびに監査役および監査役会に関する規定の削除等の変更を行なうものであります。監査等委員会設置会社への移行以外の理由による定款変更事由があれば記載、変更に伴う条文の繰り下げ、あるいは繰り上げも併せて記載します。

イ.定款変更の内容

監査等委員会設置会社への移行に伴い以下の点について定款の内容を変更することが必要です。なお、具体的な定款の条文については株懇モデル等を参考にしてください。

(1)機関の設置

監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行する場合、監査等委員会を置く旨を定める(326条2項)ほか、監査等委員会設置会社には監査役を置くことはできないので(327条4項)、監査役および監査役会を置く旨の規定を廃止することになります。

(2)取締役の員数

通例として取締役の員数を定款で定めていることから監査等委員である取締役の員数についても定款で定めを新設することになります。また、監査等委員以外の取締役の員数と監査等委員である取締役の員数をそれぞれ定めている会社もありますが、監査等委員以外の取締役の員数を直接定めることはせず、監査等委員である取締役も含めた取締役の員数と監査等委員である取締役の員数を定めているケースもあります。

(3)取締役の選任方法

取締役の選任決議に際しては定足数の緩和および累積投票の排除のために選任方法についての規定があることが通例であることから、定款に取締役の選任は監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任しなければならない旨を記載します(329条2項)。

(4)取締役の任期

監査等委員会設置会社の取締役の任期は、監査等委員については2年、監査等委員以外の取締役については1年とされ(332条1項、3項、4項)、定款においてもその旨の規定を置くことが一般的となっています。また、任期の満了前に退任した監査等委員の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を、退任した監査等委員である取締役の任期の満了する時までとすることを定款で定めることができます(332条5項)。更に、監査役任期4年から監査等委員任期2年と任期が短縮されたことに伴い、補欠の監査等委員である取締役の予選決議の有効期間は原則1年であるところ、期間を延長し2年間と定款に規定することも考えられるます(会社法施行規則96条3項)。

(5)取締役会の招集

監査役が廃止されることに伴い、取締役会の招集を監査役に発信することは不要となり、招集通知の省略や書面取締役会の異議申し立てについても監査役の関与がなくなることから、監査役の文言は削除することとなります。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、取締役会を招集することができ(399条の14)、その旨を定款に規定することも考えられます。

(6)重要な業務執行の決定の委任

監査等委員会設置会社は、@取締役の過半数が社外取締役である場合、又は、A定款の定めがある場合には、取締役会決議によって重要な業務執行の決定または一部を取締役に委任することができる(399条の13第5項、6項)。いわゆるモニタリング・モデルと呼ばれるもので、取締役会の主たる機能を経営の意思決定ではなく、業務執行者に対する監督機能に求めるもので、取締役会の決議事項を大幅に減少させることが可能となります。

(7)取締役の報酬等

取締役の報酬等は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければなりません(361条2項)。

(8)取締役の責任免除

会社法改正により責任限定契約を締結できる範囲が社外役員から非業務執行取締役等に拡大され(427条1項)、監査等委員会設置会社への移行に伴って、社外取締役でない監査等委員や監査等委員以外の非業務執行役員との間で責任限定契約を締結する可能性がある場合は、当該定款変更を行っておくことが考えられます。

また、取締役の損害賠償責任を、取締役会決議による責任免除ができる定め(426条1項)の規定していない会社は、規定を新設することも考えられます。

なお、上記の責任限定契約に関する定款変更および取締役会決議による責任免除の規定の新設に関しては、各監査等委員の同意を得なければなりません(427条3項)。監査等委員会設置会社への移行に際しては当該定款変更を行う場合には、まだ監査等委員は選任されていないが、同意を求めている主旨を勘案すると、各監査役の同意を得ておくべきと解釈されると考えられます。

(9)監査等委員会に関する事項(監査等委員に関する事項を含む)

監査等委員会設置会社に移行する場合には、監査役および監査役会に関する規定を削除し、代わりに監査等委員会に関する規定を新設することになります。

具体的な規定としては以下のようなものが考えられる。

@監査等委員会規程

A監査等委員会の招集通知

監査等委員会の招集通知は、原則として会日の1 週間前までに各監査等委員に発しなければならなりませんが、定款の定めにより、その期限を短縮することが認められています(399条の9第1項)。

なお、招集通知の期限の短縮は、監査役会と同じく(392条1項かっこ書)定款で定める必要があり、取締役会の決議で行うことは認められていない(指名委員会等設置会社の監査委員会では取締役会の決議で可能(411条1項かっこ書))。これは、監査委員会は取締役会の内部機関であると位置づけられるのに対し、監査等委員会は取締役会の内部機関であると位置づけることはできず、取締役会から一定程度独立した存在と位置づけられるためです。

B監査等委員会の決議方法

監査役会においては、条文上、定足数についての規定がなく、現実に出席している監査役の数にかかわらず、監査役全員の過半数をもって決議が成立するが(393条1項)、監査等委員会においては、定足数が規定されている(399条の10第1項)。すなわち、変更案の定款の記載としては「監査等委員会の決議は、決議に加わることができる監査等委員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。」と下線の部分が必要となります。

C常勤の監査等委員

監査等委員会においては、監査役会と異なり常勤者の選定は必須ではないが、任意で選定することも可能です。一般的には常勤の監査等委員に関する定款の定めを置く会社が多く、その中でも「常勤の監査等委員を選定することができる」という定款の規定上、選定するかどうかを監査等委員会の任意の判断に委ねているという会社が多数ですが、一方、「監査等委員会はその決議によって常勤の監査等委員を選定する」と定めている会社もあり、定款の規定上、常勤の監査等委員の選定義務を監査等委員に課しているようなケースもあります。

D 監査等委員会の議事録

E 監査等委員会の招集権者

F その他(監査等委員会の権限など)

(10)その他取締役に関する事項

代表取締役および役付取締役の選定については、監査等委員以外の取締役から選定する旨を明記す

ることも考えられます。

(11)会計監査人に関する事項

会計監査人の報酬の規定を設ける場合、同報酬の同意権については、監査役会設置会社においては監査役会にあるが(399条1項、2項)、監査等委員会設置会社においては監査等委員会にあるため(399条1項、3項)、「監査等委員会の同意を得て定める」旨を記載することも考えられる。

(12)剰余金の配当等の決定機関

監査等委員会設置会社への移行することで分配特則規定の要件(監査等委員以外の取締役任期1年)を充足することから、移行を機に剰余金の配当等の決定機関を取締役会決議にて行う旨の規定を新設することも考えられます。

(13)附則

現行定款において、「監査役に関する責任免除」に関する規定を置いている会社が、監査等委員会設置会社への移行に伴い、「監査役」に関する規定を削除してしまうと、移行後に当時監査役であった者の責任を取締役会決議で免除を行う際、根拠となる規程がないなかで、そのような免責は可能であるのかという問題が発生する可能性があります。この点、免責決議を行う時点においても当該定款は必要であるとの見解もあることから、定款変更の効力発生以前の監査役の行為について、経過措置として、取締役会の決議によって責任を免除することができる旨の附則を設けることが考えられます。

また、監査役の責任限定契約に関する規定を置いている会社についても、上記の対応と同様に、経過措置を設けることも考えられる。また、役員等の責任の消滅時効については、判例によれば、民法167条1項により10年とされており(最高裁判例平静20年1月28日頁)、当該経過措置により附則が10年後に削除される旨を規定することも考えられます。

b)取締役選任の件

ア.「監査等委員以外の取締役」の選任議案

議案の参考書類記載事項は、監査役設置会社の取締役選任議案と基本的に同じです。

イ.「監査等委員であるの取締役」の選任議案

監査等委員である取締役選任議案の参考書類記載事項(会社法施行規則74条の3)は、基本的に監査役選任議案の記載事項(会社法施行規則76条)と同様の作りとなっており、従来の記載から大きく変更しなければならない点はありません。ただし、監査役は「地位」を記載することとなっているのに対し監査等委員では「地位及び担当」となっている点に留意が必要です。

監査等委員会設置会社に移行する旨を決議する株主総会の時点で監査等委員会は存在しないので、当該選任議案に対する監査等委員会の同意権限(344条の2第1項)が監査役制度に倣って導入されたものであることを踏まえると、実務上、監査役会の同意を得ておくことが安全であると思われるため、監査等委員会の権限の代替として、監査役会の同意を得ることの要否及び監査役会の同意を得ている旨を参考書類に記載している会社があります。

c)役員報酬の件

ア.「監査等委員以外の取締役」の報酬等

取締役の報酬等については株主総会で上限金額の承認を得た上で、具体的な配分は取締役会に委ねる取扱いが通例です、従前の株主総会決議で承認された上限金額は、「監査等委員である取締役」と「監査等委員以外の取締役」とを区別せず決議されたもので、設置会社への移行後において、これをそのまま監査等委員以外の取締役の報酬等に関する株主総会決議とみなすことができるか、その効力をどのように解すべきかあきらかでないため、設置会社への移行に当たっては、監査等委員である取締役の報酬についての上限額の設定は当然必要であるとして、あらためて監査等委員以外の取締役についての上限額の設定もなされることが一般的です。

イ.「監査等委員である取締役」の報酬等

E取締役会等で決めておかねばならないこと。

株主総会の後、続いて取締役会などを行いますが、そこで制度上決めておくこととして、次のことが考えられます。

・代表取締役及び役付の選定

・使用人兼務取締役の使用人兼務の委嘱

・監査等委員の選定

・独立役員の選定

・取締役の報酬

・関係諸規程の改廃

取締役会規定の改定、監査役会規程の廃止、監査等委員会規程の制定

組織関係の規程の改定

・内部統制の整備の方針の改定

(1) へ
続き (2)  へ

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る