新任担当者のための会社法実務講座
第4章.機関 
第7節.監査役
 

 

第4章.機関

第7節.監査役

株式会社において、取締役という機関は共通していますが、監査役という制度については、例えば、日本企業がアメリカの機関投資家とのミーティングの際に、ガバナンスについての議論で監査役のことを理解してもらうのに苦労したという話をよく聞きます。一方、ドイツの大会社には監査役会がありますが、日本の監査役とは全く性質のことなるものになっています。このように、日本の監査役制度というのはグローバルに普遍性のある制度ではないのです。少し長くなりますが、それを経緯をまじえて少し説明していきたいと思います。

@旧商法

明治維新により日本の資本主義経済や近代的な法制度がつくられました。株式会社法を含めた商法典も、1884年4月、外務省嘱託であったドイツの法学者で経済学者でもあったヘルマン・ロエスレルによって起草されました。これが旧商法と呼ばれるものです。しかし、帝国議会に諮られると、商工業者からの猛反発をうけ、結局、起草しなおされ1893年に漸く成立したのが現行の商法典です。しかし、株式会社に関係する部分は、旧商法の内容が引き継がれました。この旧商法には監査役が規定されていました。

この旧商法では株主総会と取締役会を常設とし、任意の監査役会という三つの機関で、株主総会は株主たちを代表する機関として取締役と監査役会員選任し、取締役が管理(マネジメント)を、監査役会がその監視を分担するというものでした。

このうち監査役会については、ロエスレルがドイツ人であることから、ドイツの監査役会に倣ったものと思われるかもしれません。ドイツの監査役会は、いわゆる二層制の機関構成といわれるもので、株主総会が監査役会を選任し、さらに監査役会が取締役会を選任、監督するもので、当時のドイツの会社では、監査役会は、監督機関というよりも、むしろ銀行をはじめとする大株主の代表として取締役会の選解任権を握り、取締役会をコントロールする傾向が強かったと言います。監査役会は実質的には業務執行機関だったようです。ロエスレルは、このような監査役会の経営への干渉に批判的だったといいます。彼は、監査役会という名前はドイツからもってきましたが、その内容はイギリスの合資株式会社の会計監査役や会計監査にプラスして業務監査権を与えるフランスの制度に近いものだったといえます。彼は、株主総会、取締役会、監査役会を国家の統治機構のように三権分立に譬えていたと考えられます。ロエスレルは、「監査役会は業務の執行をすべきものではなく、取締役たちの業務執行を、法律及び定款、また株主及び債権者の利益の観点から監視しなければならない。違法または会社に損害を生じさせる業務執行を阻むべき確乎とした機能と権限とを与えられた特別の機関」としました。これは、イギリスやアメリカのモニタリング・ボードという、取締役会が業務執行者を監督する制度ともドイツの監査役会ともことなる独特で複雑な制度で、これをベースに日本の株式会社のガバナンス機構が作られたといえます。なお、先ほど触れたイギリスの会計監査役は会計監査を専門的に行う、現在の日本の制度では外部会計監査人に近いものと言えます。

A1950年商法改正によるアメリカ法の影響

第二次世界大戦後の1950年、連合国による占領政策のひとつとして商法改正が、アメリカの主導で進められました。その趣旨は、取締役会の継受、代表取締役の創設、監査役の廃止でした。これはアメリカ的な取締役会の導入が図られたということに異論の余地はありません。

とくに監査役の廃止については、英米法では取締役会が業務監査を行い、さらに職業的専門家である会計監査人が会計監査を行うのが通例で、業務監査はあくまでも取締役会の内部で自治的に行われるべきというものでした。その考えに従って商法改正作業が進められ、従来の監査役は廃止ということになり、その代わりに会計監査機関として会計監査役を創設することが企てられました。その後の国会審議で、会計監査役の名称を監査役に戻したことから、表面的には、監査役は廃止さなかったように見えることになりました。従って、このときに監査役は会計監査のみを行うものとなりました。しかし、その一方で、取締役会が果たして業務監査を内部で行えるようなものに変わっていたのか。それが、この後、監査役が再び業務監査を担うことになったり、監査役会を設置するようになるという手直しが加えられ、日本の独特の制度が出来上がっていくことになります。

B1974年商法改正による監査役制度の強化

この改正を契機となっのは、1965年の山陽特殊製鋼事件をはじめとした粉飾決算による倒産の発生です。このとき監査役は株主総会で粉飾決算の計算書類を適正・妥当と報告しでおり、監査制度への強い批判が起こったことからです。これはまた、1950年の商法改正で、取締役会に期待された内部監査が、その期待を裏切って、機能していなかったことが明らかになり、取締役会の内部監査に加える形で監査役の業務監査の復活が図られたということです。具体的には、この改正で、株式会社を規模に応じて大中小の三種類にわけて、中会社では会計監査人には会計監査の権限しか与えられていなかったのに、新たに業務監査権が加えられました。また大会社では、監査役に業務監査権が与えられるとともに、会計監査人による会計監査を義務付けられました。そして、すべての会社で監査役の任期は2年に延長され代表取締役からの独立性を高められました。この後、監査役制度強化の商法改正が断続的に行われました。1981年の商法改正では、ロッキード事件などの大型疑獄事件で会社資金不正支出という不祥事が明るみに出たことなどから、監査役の報酬や監査費用の独立性、監査役の取締役会招集権、取締役の取締役会への報告義務など、その他大会社においては監査役の複数名選任と常勤監査役制度の創設等が図られました。

Ø 監査役の権限(381条)

@監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

A監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

B監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

C前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。

ü 業務監査と会計監査

監査役・監査役会の職務とその権限は、業務監査と会計監査に大別できます。業務監査は、取締役(会計参与設置会社にあっては取締役及び会計参与)の職務執行を監査することです(381条1項)。ただし、公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く)では、定款に定めることにより、監査役の監査の範囲を取締役会が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告することに限定することができるとされています(389条1項)。この監査役の監査範囲の限定は、業務監査を行わず会計監査のみに限定したことになります。従って、会計監査というのは、上述の内容で、具体的に何を行うかについては389条2〜6項に記されていて、逆説的に参照することになります。なお、会計監査人設置会社の監査役は会計監査人の選任等に関与する権限も有しています(340条)。

〔参考〕会社法制定前の商法の時代の監査役の監査範囲

会社法以前の監査役の監査範囲は、会社の規模によって段階的に分けられてしました。小会社の監査役の職務は会計監査に限定され(従って、これに該当していた会社は、会社法の現在では、定款に監査範囲を限定する規定を置いています。)、中会社では業務監査権が加えられました。また大会社では、会計監査人による会計監査を義務付けられることに伴い、会計監査人の監督監査が加わりました。

ü 業務監査の個別の職務・権限

監査役設置会社の監査役による業務監査と取締役及び取締役会による職務執行の監督との違いは、後者が業務執行の妥当性にの妥当性まで及ぶのに対して、監査役の監査権限は原則として業務執行の適法性(法令・定款違反)の監査に限られて、限定された問題についてのみ、相当でない事項または著しく不当な事項を指摘するにとどまるものです。

監査役が違反の有無を監査すべき法令として次のようなものがあげられます。

・株主・会社債権者の利益の保護を目的とする具体的規定(156条、356条1項、365条)

・取締役の善管注意義務・忠実義務を定める一般的な規定(330条、355条)

・公益の保護を目的とする規定(独占禁止法、労働関係諸法規等)

監査役の具体的権限(義務)は、次の3点になります。

a)調査権限

ア.報告請求・業務財産調査権

取締役の職務執行等を調査する権限です。この権利は、いつでも、従って権限濫用にならない限りは、時期・方法に限定なしに認められます。会社の帳簿・書類については、その閲覧・謄写が認められ、また、本店、支店、工場、倉庫等に赴いて現実に財産の状況を調査することが出来ます。

・監査役はいつでも、取締役・会計参与・使用人に対して事業の報告を求め、または会社の業務・財産の状況を調査することができる(381条2項)。

・監査役設置会社の取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告することが義務付けられている(357条1項)。

・取締役会設置会社の監査役には、取締役会への出席義務があり(383条1項)、これは業務財産調査権の一部とみることもできる。

※情報の収集・監査の環境の整備義務

・監査役は、その職務を適切に遂行するため、会社・子会社の取締役・会計参与・使用人等と意思疎通を図り、情報の収集および監査の整備に努め、必要に応じ、他の監査役との意思疎通及び情報の交換に務めなければならない(371条1項、会社法施行規則105条2項)。

・取締役・取締役会は、監査役の職務の執行のための必要な体制の整備に留意しなければならない(会社法施行規則105条2項)。

・いわゆる内部統制の体制の整備についての取締役会の決定・取締役会の決議の内容または体制の運用状況が相当でないと認めるときは、監査役は、監査報告にその旨及びその理由を記載しなければならない(会社法施行規則129条1項5号)。

イ.子会社調査権

監査役は、その職務を行うために必要な場合は、子会社に対し事業の報告を求め、または子会社の業務・財産の状況を調査することができます(381条3項)。子会社利用した粉飾決算。例えば、個会社に対して架空売上を計上する、すなわち、実際には子会社に対して製品を売却していないにもかかわらず売却したように仮装して、子会社から製品の受領証の交付を受ける等して、親会社の債権を水増しするようなこと。のような粉飾決算を発見するためには、子会社の財産状況の調査が必要です。また、親会社が子会社の支配・管理のみを目的とする持株会社である場合には、実際の事業を行うのは子会社なので、そこからの情報は不可欠です。また、完全子会社の取締役の責任追及の訴えで会社を代表するのは監査役にあります(386条1項)。

・監査役はいつでも、取締役・会計参与・使用人に対して事業の報告を求め、または会社の業務・財産の状況を調査することができる(381条2項)。

※子会社は、調査が権限濫用である等正当な理由があるときには、その報告・調査を拒むことができます(381条4項)。

b)是正権限

ア.違法行為の阻止

・監査役設置会社の監査役は、取締役会に出席し、必要があると認められるときは意見を述べる義務がある(383条1項)。

監査役は取締役会の構成員ではなく、議決権を認められているわけではないので、たとえ取締役会て意見を述べることができたとしても、そこで無視されれば違法な決議等が行われることを直接ぼうしすることはできません。しかし、取締役会に出席していれば、そのような決議が行われたことを、その場で知り得るから、早期に取締役の違法行為の差止請求権の行使(後述)を行使するなどの措置を講ずることができるからです。

・取締役が不正の行為をし、もしくはその行為をするおそれがあると認められるとき、または、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役あるいは取締役会に報告することを要する(382条)。

この報告に基づいて取締役会において、その業務執行の監督権による適切な措置を講ずることが期待されているわけです。なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、監査役に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(367条)。

・取締役の法令・定款に違反する行為により会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、監査役は、その行為の差止めを当該取締役に対し請求することができる(385条1項)。

この請求権は、通常は仮処分申請を裁判所に申し立てることによって行使されます。取締役の違法行為の差止請求権は株主にも認められています(360条)が、監査役の差止請求権を株主のそれと比べると、下の3点に違いがあります。

@)株主にとっては取締役の違法行為等の差止めは権利であって義務ではないのに対して、監査役にとっては必要であるときは、行使することが権利であるとともに義務でもあり、それを怠れば任務懈怠の責を負わされることになります。

A)行為差止めの仮処分について株主の場合は担保を立てさせられる(民事保障法14条)のに対して、監査役の場合はその必要がありません(385条2項)。

イ.会社・取締役間の訴訟

監査役は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対しまたは取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(386条1項)。このような会社・取締役間の訴えにおいても会社を代表する者を一般原則通り代表取締役とすると、訴訟の相手方である取締役がその代表取締役である場合はもちろん、それ以外の取締役でも、適切な訴訟追行がされないおそれがあるので、取締役からの独立性が保障されている監査役が会社を代表することになっています。

会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査役です(386条2項)。しかし、監査役としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査役は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性背あります。

ウ.取締役の責任の一部免除等への同意

次にあげる場合に監査役の同意(監査役が二人以上いる場合には、各監査役の同意)が必要になります。

@)取締役の会社に対する責任または特定責任に関する完全子会社等の取締役の責任を一部免除する議案を株主総会に提出する場合(425条3項)

A)取締役・取締役会の決定により取締役の会社に対する責任の一部免除ができる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合なら゛に当該定款に基づく責任免除につき取締役の同意を得る場合および責任免除議案を取締役会に提出する場合(426条2項)

B)非業務執行取締役の会社に対する責任につき責任限定契約を締結できる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合(427条)

オ.各種の訴え・申立て

監査役は、会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条2項)及び株主総会決議取消の訴え(831条1項)を提起することができ、また特別生産の申立て(511条1項)および特別清算開始の調査命令の申立てをすることができます。

c)報告権限

ア.監査報告書の作成

監査役は、監査の結果を株主等に報告しなければなりません(381条1項)。そのため監査役は、事業年度こどに監査報告書を作成し、それは株主・会社債権者・親会社役員等の閲覧等に供されることになります。業務監査事項に係る監査報告は、取締役が作成する事業報告及びその附属明細書を受領した際に作成すべき監査報告の内容をなすものが多い。底には、次のことが記載され、株主総会において、株主が求めた事項について説明しなければなりません(314条)。

@)業務監査の方法・内容(会社法施行規則129条1項1号)

A)事業報告・その附属明細書が法令・定款に従い会社の状況を正しく示しているかについての意見(同2号)

B)取締役の職務の遂行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったときはその事実(同3号)

C)監査のため必要な調査ができなかったときはその旨およびその理由(同4号)

D)大会社における内部統制の整備についての取締役の決定目取締役会の決議の内容またはその運用状況が相当でないと認めるときはその旨およびその理由(同5号)

イ.株主総会提出議案・書類の調査・報告

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、法令・定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を報告することを要する(384条)。

監査役の総会に対する意見の報告は議案または書類が法令・定款に違反し、または著しく不当な場合にのみ、すればよいと考えられます。この点は監査役の監査報告書の記載とは違っています。監査報告書では適法な場合もその旨の記載が要求されますから、また、報告は書面によっても、口頭によっても、どちらでもよく、監査役が数人の場合は、各自が意見を報告する必要がありますが、各自の意見が同じのときは、そのうちの一人が連名で報告することもできます。

監査役は、取締役会に出席し、意見を陳述する権利を認められています(383条)から、総会提出議案・書類が取締役会の議題になれば、そこで調査をして、法令・定款に違反し、または著しく不当な総会議案が提出されることを阻止する機会が与えられていることになりますが、監査役の意見が無視されて、そのような議案・書類が総会に提出されようとするときは、監査役は総会で意見を述べることになります。

監査役は、いわゆる独任制の機関であって、複数の監査役がいる場合にも各自が単独でその権限を行使することができます。業務執行に関する妥当性の判断と異なり、違法・適法に関する判断は、監査役の多数決で決着をつけるべき問題ではないからです。

ü 監査役の義務と責任

・監査役と会社の関係

会社と監査役との関係は、取締役の場合と同様に委任に関する規定に従います(330条)。従って、監査役は、その職務を遂行するにつき善管注意義務を負います(民法644条)。監査役は業務執行を行わないので、取締役のような会社との利害対立に関する細かい規定は設けられてはいませんが、しかしそれは、予防的・形式的な規制がないというだけであって、例えば、監査役が職務上知り得た会社の営業秘密を利用して私利をはかる等の行為により会社に現実に損害を生じさせた場合には、善管注意義務の責任を免れ得ないでしょう。

・監査役の会社に対する責任

監査役は任務懈怠による責任を負います。会社に対して、連帯して、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負います(430条)。それらの者の内部関係においては、その任務懈怠の軽重に応じて負担部分が決められます。監査役と取締役との連帯責任が認められた例として、山陽特殊鋼事件があります。この事件では、取締役が粉飾決算をして違法配当議案を作成して総会に提出し、監査役が総会に提出される計算書類の調査について果たすべき注意義務を尽くさず、違法配当議案が適正妥当である旨の監査結果を総会で報告し、そのために、違法配当議案が原案通り承認されて、会社に損害を与えたというものです(神戸地裁姫路支部判決昭和41年4月11日)。

監査役会設置会社では、監査役会の決議に参加した監査役で議事録に異議をとどめない監査役は、決議に賛成したと推定されることになります(393条4項)。しかし、取締役の場合とは異なり、監査役会において決議に賛成しても任務懈怠が推定されることはないので、決議賛成監査役についても、その決議時の任務懈怠の有無は個々に問題とされます。

・監査役の第三者に対する責任

監査役がその職務を行う際に悪意または重大な過失がある場合は、その監査役は第三者に対しても連帯して損害賠償の責任を負います(429条1項。430条)。

監査役が、監査報告に記載しまたは記録すべき重要な事項について虚偽の記載(不記載)をした場合には、その行為(懈怠)をすることに関して注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に対して損害賠償をする責任を負います(429条2項3号、430条)。

〔参考〕監査役、会計監査人、内部監査のいわゆる三様監査

参考として監査役・監査委員・監査等委員(以下、まとめて「監査役」)監査、会計監査人監査、内部監査部門による内部監査のいわゆる三様監査について少し説明しておきます。三様監査については、同じ監査を担う役割があっても、その相違を理解した上で、相互の効果的な連携を図るという目的があります。

A)三様監査の各役割

ア.監査役・会計監査人・内部監査部門

三様監査を担う主体のうち、監査役と会計監査人は、会社法上の機関です。すなわち、監査役は、取締役の職務執行を監査する権限を有し(381条1項)、会計監査人は、会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査します(396条1項)。その上で、監査役も会計監査人も、事業年度ごとに監査報告を作成し、株主に通知しなければなりません(381条1項、396条1項)。

監査役は、会社と委任関係にある会社法上の役員です(330条、329条1項)。会計監査人は、会社法上の役員ではないものの、監査役と同様に、会社と委任関係にあります(330条)。委任関係の場合は、委任者に対して善管注意義務を負うことになる(民法644条)ことから、法的には、監査役と会計監査人は、会社に対して善管注意義務を負う会社機関と位置付けられます。従って、監査役と会計監査人は、その職務の任務懈怠によって会社に損害が生じれば、会社に対して損害賠償支払いの責任を負います(423条1項)。会社が監査役や会計監査人に対する責任追及を行わなければ、株主代表訴訟の対象となります(847条1項、3項)。

なお、会計監査人は、公認会計士の資格を有する会計の専門家であるのに対して、監査役は特段の資格要件が法定化されているわけではありません。

他方、内部監査は、法的に位置付けられた法定監査ではありません。会社組織の中で、専任の内部監査担当者がいる会社のほか、経理・財務部門等との兼務となっている会社もあります。もっとも、上場している会社では、金商法上の財務報告に係る内部統制の有効性を評価した上で、内部統制報告書に記載する必要(金商法24条の4の4第1項)から、実務を行う内部監査部門に専任の担当者を配属している会社が多くなっています。

イ.監査役監査と内部監査の違い

三様監査の対象は、会社の各執行部門であることから、監査対象部門が三様監査の違いを認識した上で、監査を受けることが出発点です。三様監査の中では、会計監査人監査は、会計に特化した監査であり、純粋外部の職業専門家によるものとの認識は得られやすいと考えられます。他方で、監査役監査と内部監査は、各部門にとってその違いを十分に理解しているとは言い難い印象です。同じ社内の人間による不祥事防止のための監査であろう程度の認識が一般的のように思われます。その結果として、監査役監査と内部監査への対応負荷が大きい場合や、重複しているとの認識があると、監査対象部門は形式的な対応となり、監査の実効性が十分に上がらない可能性が高くなります。

監査役監査と内部監査の違いの第一は、監査役制度が会社法に規定されていることから監査役監査は法定監査であるのに対して、内部監査は法令上の規定はないことです。従って、会社内の組織の名称(監査部、内部監査室等)から社内での位置付け(社長直轄、総務部等と並列)など、各社によりさまざまです。また、内部監査が法令上の規定がないということは、監査業務の方法や手続きも各社が社内的に決定すればよいこととなります。

第二の違いは、監査役の監査対象は取締役の職務執行を監査すること(381条)に対して、内部監査の対象は、従業員全般というのが通常の実務です。内部監査部門は、取締役の指揮・命令に服することになるので、指揮・命令権を持つ監督者に対して直接監査することは、物理的にあり得ても、現実的には考えにくいと言えます。他方、監査役は、株主総会で取締役とは別に選任され(329条1項)、法的に執行部門から独立していることから、監査役監査の対象が取締役となり得ます。従って、取締役が違法行為や不正行為等により会社に著しい損害を及ぼすことがないか、言い換えれば、取締役が会社に対して善管注意義務を果たしているか、監査を通じて確認することとなります。

もっとも、取締役の違法行為等は、取締役自らに限らず、部下への下命や、部下達の違法行為等を是正しないで見て見ぬふりをする不作為も含まれるので、監査役監査では、各部門の執行役員以下からの報告聴取や重要会議・重要書類の閲覧等を通じて、取締役の善管注意義務違反の有無を監査することになります。

第三の違いは、内部監査は組織監査であるのに対して、監査役監査は、監査役間で相互に意見交換をするものの、最終的には他の監査役の意見に左右されないで意見表明ができる独任制となっていることです(390条2項)。独任制は、各監査役の独立性を担保したもので、取締役には法定されていない特異の権限です。

B)三様監査の中で監査役の果たすべき役割

ア.監査役と会計監査人との連携

監査役は、必ずしも会計に知見があるとは限りません。しかし、監査役は最終的に、会計監査人監査の相当性を判断した上で、期末の監査役(会)監査報告に反映し、株主に提出する義務があります。このためには、監査役と会計監査人との具体的な連携は不可欠です。

期初においては、相互の監査計画を説明し、当該事業年度において重点的に監査を行う必要がある項目を確認しあうことが大切です。必要に応じて、監査役と会計監査人が同行して棚卸立会やシステム監査を実施することもあり得ます。また、期初の段階で、会計監査人から取締役や執行役員との面談・ヒアリングの要望があった場合には、監査役が積極的に調整することが考えられます。純粋外部者である会計監査人は、社内情報にアクセスする機会が少ないため、会計監査人にとって会計監査上必要と考えるヒアリング等については、監査役としてそのような場を設定することも大事な役割です。

監査役は、会計監査人が取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したときには、報告を受けたり、報告を請求したりする権限があります(397条1項、2項)。期末には、会計監査人の会計監査報告の内容の通知を受ける権限もあります(会社計算規則130条)。しかし、重大な事実に限らず、不正の恐れや懸念があるような事実についても会計監査人が発見した場合には、監査役は期中の段階から会計監査人から報告を受ける関係を構築しておくべきです。また、監査役からも、業務監査を通じて気になった点があれば会計監査人に説明し、会計監査の点から確認してもらうこともあり得ます。このためには、監査役と会計監査人が定例的に監査の実施状況の報告と意見交換を行うこと、とりわけ、会計監査人と経理・財務部門で意見の相違があった点などについては、監査役として状況を把握しておくことが重要です。

監査役は、会計監査人から不正会計や法令・定款違反の重大な事実の報告を受けた場合には、監査役会等の場で十分に審議・協議した上で、必要に応じて独自に調査したり、取締役に対して必要な対応を促したりするなどの措置を講ずる必要があります。

なお、監査役は会計監査人の報酬同意権があり(399条)、かつ公開会社の場合は、事業報告に報酬同意理由を開示しなければなりません(会社法施行規則126条2号)。従って、監査役は、執行部門が作成する報酬案に対して、会計監査人に対する評価を踏まえて、その妥当性について合理的な判断を行う必要があります。監査役の実務としては、会計監査人からの要望と経理・財務部門の意見の双方を聴取した上で、法的に執行部門から独立した立場で同意の有無を判断することになります。

イ.会計監査人と内部監査部門との連携

三様監査は、本来、等距離で相互に連携を図っていく性格のものですが、会計監査人が通常接するのは経理・財務部門であり、独立した組織の内部監査部門との接点は必ずしも深くありません。内部監査部門が、金商法上の財務報告に係る内部統制の評価実務を行っている場合には、会計監査人・内部監査部門双方にとって、評価の視点からもお互いの意思疎通は重要です。

しかし、内部監査は法定監査でないことから、会計監査人は、監査役に対する場合と異なり、内部監査部門に対する報告義務は存在しません。従って、監査役は、意識的に両者の接点を持たせる役割があります。具体的には、会計監査人が監査役に対して会計監査の実施状況を報告する場所に内部監査部門の担当者が同席し、一緒に意見交換に加わるようにしたり、内部監査部門による内部統制システムの構築・運用状況の評価を会計監査人に説明したりする場があってよいと思われます。監査役として、内部監査部門による評価を会計監査人に説明したり、三者が一堂に会して、意見交換を行ったりすることも有益です。

ウ.監査役と内部監査部門との連携

社内では監査役監査と内部監査との差異が十分に理解されない可能性があることから、期初の段階で監査役は内部監査担当者との打ち合わせを通じて、相互に重複のない監査実務を行うようにすることが必要です。例えば、監査対象部門に対する監査日程が近接している場合は、ある程度の間隔をあけること、監査の方法も内部監査部門が網羅的なチェックリストを利用している場合には、監査役監査では世間で問題となっている不祥事や前年の監査で指摘した事項の改善状況等、重点を絞った監査を行うことが考えられます。

同じ社内の監査ということで、監査役スタッフと内部監査スタッフが兼務している会社が見られるように、効率的監査を実施するために、監査役またはそのスタッフが内部監査部門と行動を共にして監査することも否定されるわけではありません。しかし、このような場合も、監査役監査は、法的に取締役の職務執行を監査する役割があるとの視点を常に念頭に置くべきです。すなわち、監査を通じて事件・事故を発見した場合にも、その原因が内部統制システムの不備による取締役の善管注意義務違反に起因したものか否かを判断する視点を持っておくべきです。

Ø 取締役への報告義務(382条)

監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。

取締役が不正の行為をし、もしくはその行為をするおそれがあると認められるとき、または、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役あるいは取締役会に報告することを要する(382条)。

この報告に基づいて取締役会において、その業務執行の監督権による適切な措置を講ずることが期待されているわけです。なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、監査役に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(367条)。

Ø 取締役会への出席義務(383条)

@監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が2人以上ある場合において、第373条第1項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第2項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。

A監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第366条第1項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。

B前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。

C前2項の規定は、第373条第2項の取締役会については、適用しない。

 

Ø 株主総会に対する報告義務(384条)

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。 

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、法令・定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を報告することを要する(384条)。

監査役の総会に対する意見の報告は議案または書類が法令・定款に違反し、または著しく不当な場合にのみ、すればよいと考えられます。この点は監査役の監査報告書の記載とは違っています。監査報告書では適法な場合もその旨の記載が要求されますから、また、報告は書面によっても、口頭によっても、どちらでもよく、監査役が数人の場合は、各自が意見を報告する必要がありますが、各自の意見が同じのときは、そのうちの一人が連名で報告することもできます。

監査役は、取締役会に出席し、意見を陳述する権利を認められています(383条)から、総会提出議案・書類が取締役会の議題になれば、そこで調査をして、法令・定款に違反し、または著しく不当な総会議案が提出されることを阻止する機会が与えられていることになりますが、監査役の意見が無視されて、そのような議案・書類が総会に提出されようとするときは、監査役は総会で意見を述べることになります。

Ø 監査役による取締役の行為の差止め(385条)

@監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

A前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。 

取締役の法令・定款に違反する行為により会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、監査役は、その行為の差止めを当該取締役に対し請求することができる(385条1項)。

この請求権は、通常は仮処分申請を裁判所に申し立てることによって行使されます。取締役の違法行為の差止請求権は株主にも認められています(360条)が、監査役の差止請求権を株主のそれと比べると、下の3点に違いがあります。

@)株主にとっては取締役の違法行為等の差止めは権利であって義務ではないのに対して、監査役にとっては必要であるときは、行使することが権利であるとともに義務でもあり、それを怠れば任務懈怠の責を負わされることになります。

A)行為差止めの仮処分について株主の場合は担保を立てさせられる(民事保障法14条)のに対して、監査役の場合はその必要がありません(385条2項)。

Ø 監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(386条)

@第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合には、当該各号の訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合

二 株式交換等完全親会社(第849条第2項第1号に規定する株式交換等完全親会社をいう。次項第3号において同じ。)である監査役設置会社がその株式交換等完全子会社(第847条の2第1項に規定する株式交換等完全子会社をいう。次項第3号において同じ。)の取締役、執行役(執行役であった者を含む。以下この条において同じ。)又は清算人(清算人であった者を含む。以下この条において同じ。)の責任(第847条の2第1項各号に掲げる行為の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限る。)を追及する訴えを提起する場合

三 最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。次項第4号において同じ。)である監査役設置会社がその完全子会社等(同条第2項第2号に規定する完全子会社等をいい、同条第3項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。次項第4号において同じ。)である株式会社の取締役、執行役又は清算人に対して特定責任追及の訴え(同条第1項に規定する特定責任追及の訴えをいう。)を提起する場合。

A第349条第4項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査役が監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が第847条第1項、第847条の2第1項若しくは第3項(同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は第847条の3第1項の規定による請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合

二 監査役設置会社が第849条第4項の訴訟告知(取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第850条第2項の規定による通知及び催告(取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合

三 株式交換等完全親会社である監査役設置会社が第847条第1項の規定による請求(前項第2号に規定する訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第849条第6項の規定による通知(その株式交換等完全子会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

四 最終完全親会社等である監査役設置会社が第847条第1項の規定による請求(前項第3号に規定する特定責任追及の訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第849条第7項の規定による通知(その完全子会社等である株式会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

監査役は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対しまたは取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(386条1項)。このような会社・取締役間の訴えにおいても会社を代表する者を一般原則通り代表取締役とすると、訴訟の相手方である取締役がその代表取締役である場合はもちろん、それ以外の取締役でも、適切な訴訟追行がされないおそれがあるので、取締役からの独立性が保障されている監査役が会社を代表することになっています。

会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査役です(386条2項)。しかし、監査役としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査役は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性背あります。 

Ø 監査役の報酬等(387条)

@監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

A監査役が2人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。

B監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。

ü 監査役報酬の規制

監査役の報酬についての規定は1981年の商法改正によって新たに設けられたもので、それ以前は取締役の報酬に関する規定が準用されていました。取締役の報酬は定款または株主総会の決議によって決められるものとさていましたが、当時の監査役報酬の実務における決め方は、監査役の報酬は取締役の報酬と一括して役員報酬として報酬額の上限が株主総会で決められ、その限度内で取締役会または代表取締役が各取締役及び監査役の報酬の具体的な額を決定するのが通常でした。

この場合、報酬への規制はありましたが、その内容は取締役の報酬の決め方がお手盛りにならないようにする趣旨のものでした。しかし、監査役の報酬に関しては、この規制は意味がないことになります。すなわち、監査役には業務執行ないしその決定の権限がないので、お手盛りで報酬を決めることの弊害ということがありえないからです。監査役の報酬については、取締役とは異なった種類の規制が求められるわけで、それは監査役の報酬が取締役会あるいは代表取締役の意思によって左右されると監査役の地位の独立性が損われるとうことになります。その考えには、1981年以前の監査役の報酬の決め方はそぐわないものでした。そこで、取締役の報酬に関する規定の準用をやめて、新たに監査役の報酬についての規制を設けることになりました。

ü 監査役報酬の決定

監査役が受けるべき報酬等は、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定める(387条1項)とされています。なお、株主総会において取締役の報酬と一括して決議することは認められないと解されています。つまり、監査役の報酬は、株主総会において、取締役の報酬の議案とは別の議案として、取締役の報酬の上限とは別に上限を定めることになります。

なお、監査役の報酬を取締役とは別に定めることにしても、株主総会で決議するには議案として提起しなければなりません。株主総会の議案は取締役会で決められます。そこで、監査役の独立性の保障という立場から、監査役には報酬等について意見を述べることができます(387条3項)。

ü 監査役が2人以上の場合

監査役が2人以上の場合であって、定款または株主総会の決議で報酬の総額のみが定められている場合には、その範囲内で監査役の協議により、各監査役の報酬の額を決めることができます(387条2項)。監査役の取締役会や代表取締役からの独立性を保障するためには、監査役の報酬の総額を、取締役の総額とは別に定めることとするだけでは十分でなく、各監査役が受ける報酬の額も、取締役会や代表取締役の意思とは独立に決められなければならないので、それを監査役の協議で決められることとなったということです。監査役の協議とは多数決による決議ではなく、全員一致の決定を言います。協議が不調の場合には、報酬額が決まらず、会社は報酬を支払うことはできません。なお、各監査役の報酬の決定を代表取締役に一任するという監査役の協議は、監査役の独立性を保障するという規定の趣旨に反するので効力が認められないということになりますが、代表取締役に原案の作成を依頼し、それについて各監査役が了承して協議が成立するとすることは差し支えないと言われます。

ü その他

公開会社では、監査役に支払った報酬等の額(総額)は、事業報告の内容の形で、株主・会社債権者・親会社社員に対し開示されます(435条2項、会社法施行規則121条4号)社外監査役にかかる報酬等は、別途記載されます(会社法施行規則124条5、6号)。

ü 取締役の報酬等との差異

監査役は業務執行を行わないことから、取締役の報酬等の場合とは異なり、賞与や業績連動報酬、ストックオプションのようなインセンティブ、退職慰労金の功労加算金等について支給の是非を含めた議論があります。以下で簡単に紹介しておきます。

・賞与

監査役は業務執行を行いませんが、監査を通じて会社の信用維持や業績向上に寄与していることから、賞与支給も合理的であると解されています。また、会社法上も、監査役の報酬等の定義(387)が、取締役の報酬等の定義(361条1項)と同一であることから、監査役への賞与支給を認めているものと考えられます。

ただし、会社の業績向上に直接貢献しないという職務の性質に加え、特別利害関係を有する(賞与増額のため、粉飾決算を容認しかねない)とも言えることから、監査役への賞与支給を不合理とする見解もあります。

なお、賞与が報酬等に含まれるため、監査役への支給に当たっては、株主総会において取締役取締役分と区分して決議し、監査役の協議によって配分を決定する必要があります。また、監査役の意見陳述権の対象となります。

・業績連動報酬と非金銭報酬

監査役の報酬等に関する会社法の規定(387条)には、取締役の報酬等に関する規定のうち、不確定金額報酬(361条1項2号)、非金銭報酬(同項3号)に相当する規定がありません。

この点に関して、会社法の立法担当官は、不確定金額報酬(業績連動報酬)について、経営の意思決定に参画しない監査役の職務に適合しないため当該規定がないと理由を説明しています。その上で確定額の上限を定めれば、その範囲内で配分を決めるときに業績連動報酬の計算方法で各監査役の配分金額を決めるという、実質的な業績連動報酬の工夫は可能と冠代えられます。

他方、非金銭報酬(現物報酬)についての規定がないのは、現物報酬を禁止する趣旨ではなく、取締役の場合のような現物報酬を相当とする理由の説明義務がないことを表わしているに過ぎないという趣旨を説明しています。

・ストックオプション

上述の通り、非金銭報酬の監査役への支給が認められていると考えられることから、その一種であるストックオプションについても、監査役を対象とすることが可能であり、実際に導入している事例もあります。

ただし、機関投資家によっては、監査役の職務の性格から肯定的に判断しない例もあります。例えば、企業年金基金連合会の株主議決権行使基準では、ストックオプションの付与について、「権利付与対象者の範囲についは、業績向上との関連性が強くないと考えられ場合(監査役、取引先等)は肯定的な判断はできない」と記しています。

・退職慰労金

取締役の退職慰労金と同様に在職中の職務執行の対価としての報酬の後払いであるため報酬等に含まれ。当然に支給することが認められています。ただし、以下の点で議論があります。

金額決定の一任先

退職慰労金の具体的金額について、株主総会において決議されなかった場合、取締役会に一任することは許されず、監査役の協議によって決定する必要があります。

功労加算金の是非

退職慰労金には、報酬の後払い部分と功労加算部分の2種類の要素があります。このうち、在任中の業績等から功労が推認される取締役とは異なり、監査役については、業務執行に関与せず、業績には直接貢献しないため、功労加算を不合理とする見解もあります。

ü 補欠監査役の報酬等

監査役の欠員に備え、株主総会決議によって補欠監査役を選任することができるが(329条2項)、補欠監査役への報酬、手当て等の支給については、会社法上明確な規定がありません。

補欠監査役は、監査役としての業務を行わないため、報酬等を支払うべき理由はないと考えられますが、一方で条件付ながら一定の限度で補欠監査役として拘束するひとになるため、合理的な範囲内で報酬等を支払うことに妥当性もあると考えられます。支払う場合、条件成就までの間、補欠監査役は会社法上の役員ではないので役員報酬制の適用を受けず、実務上も、報酬について特に株主総会には付議しないのが一般的です。なお、補欠監査役を監査役に準じて考えると、その報酬についても念のため株主総会の決議をを得ておくほうが良いと考え、その報酬についても念のため株主総会において選任決議に併せて、補欠監査役にいて医学の報酬等を支払う旨を決議または開示し、具体的金額については監査役報酬枠の範囲内で監査役協議により決定することが望ましいという見解もあります。 

Ø 費用等の請求(388条)

監査役がその職務の執行について監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)に対して次に掲げる請求をしたときは、当該監査役設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。

一 費用の前払の請求

二 支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求

三 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求

ü 制度の趣旨・経緯

監査役が職務の執行のために要する費用の会社に対する前払い請求及び償還請求等についての規定は、1981年の商法改正の際に設けられました。それ以前は、監査費用に関する規定はなく、従って委任事務費用の前払・償還請求に関する民法649条の規定が適用され、その場合には、監査役は、その費用が職務執行のために必要であり、または必要であったことを立証しなければならず、会社がそれについて争うような場合は、費用の点から十分な監査をすることが妨げられるおそれがありました。

1981年の商法改正は監査費用に関する規定を新たに設けて、その中で挙証責任を転換して、会社が監査のために不必要であることを立証しない限り、費用の前払のたは償還を拒むことができないものとして、監査の充実を担保することを図っています。会社としては、監査役の請求が職務執行と無関係のものである場合を除き、その費用が不必要であることを立証することは困難であるから、監査役の職務執行に必要な合理的な範囲の支出が法律上保障されていると言えます。

ü 監査費用の請求

監査役が職務執行上必要とする費用の会社による支払いについては、次のように規定されています。

@)監査役がその費用の前払を請求した場合には、会社は、その費用が監査役の職務の執行に必要でないことを証明しない限り前払いを拒めない。

A)監査役が、その費用を立替払いして会社に対し費用・利息の償還を請求した場合も同様となる。

B)監査役が、その費用につき負担した債務を自分に代わり弁済するよう会社に対し請求した場合も同様となる。

監査役は、会社が費用の請求を拒んだときには、これを訴訟上請求することができ、その場合には、それらの費用が監査のために不必要であることを会社が立証しない限り、勝訴することができます。また、そのことを取締役の法令違反としての責任を追求することもできます。さらにその結果、監査のために必要な調査をすることができなくなった旨を監査報告に記載することができます。

上記の監査役の職務執行上必要とする費用には、監査に必要な一切の費用が含まれます。すなわち、監査役自身が実地調査等に要する費用、訴訟提起に必要な費用(東京高裁判決平成24年7月25日)等のほか、補助者として弁護士や公認会計士などを依頼する、監査役スタッフを雇用する等の費用も含まれます。

※監査役スタッフの雇用

会社が監査役のスタッフとして必要な使用人を監査役の指揮下に入れない場合、監査役は、この権限を利用して自分でスタッフを雇用することもできます。 

Ø 定款の定めによる監査範囲の限定(389条)

@公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第381条第1項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。

A前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

B前項の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。

C第2項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。

一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面

二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの

D第2項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

E前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の規定による報告又は調査を拒むことができる。

F第381条から第386条までの規定は、第1項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない

公開会社でない株式会社は、定款に定めることにより。監査役の監査の範囲を、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるもの(389条3項、会社法施行規則108条)を調査し、その調査の結果を株主総会に報告すること、つまり会計監査に限定することができます(389条1項)。

監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定された会社についは、監査役が置かれていない会社におけると同様に、以下の5点において、株主の取締役に対する監視権限が強化されています。

1)取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を各株主に報告しなければならない(357条)1項。

2)各株主が会社に「著しい損害」が生ずるおそれのある取締役の行為を差し止めることができる(360条1項)。

3)各株主は、取締役が法令・定款違反の行為をするおそれがある等のことを認めるときは、取締役会の招集を請求することができる(367条1項)。

4)各株主は、裁判所の許可なしに取締役会の議事録の閲覧を請求できる(371条2項)。

5)取締役・取締役会の決定による役員等の責任の一部免除ができない(426条1項)。

 

節.監査役

第1款.権限等

Ø 監査役会の権限等(390条)

@監査役会は、すべての監査役で組織する。

A監査役会は、次に掲げる職務を行う。ただし、第3号の決定は、監査役の権限の行使を妨げることはできない。

一 監査報告の作成

二 常勤の監査役の選定及び解職

三 監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定

B監査役会は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならない。

C監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない。

ü 監査役・監査役会の設置

株式会社は、定款の定めによって、監査役または監査役会を置くことができるとされています(326条2項)。ただし、次の二つの場合を除いて、です。

@)監査役の設置義務(327条2項)

取締役設置会社は、原則として監査役を置かなければならないとされています(327条2項)。監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社は、業務執行の決定を取締役会が行い、株主総会の権限が制約される等のことから、株主に代わる取締役の監視機関として監査役が必要とされます。

A)監査役会の設置義務(328条1項)

大会社である公開会社は、監査役会を置かなければならないとされています(328条1項)。

ü 監査役会について

監査役会設置会社では、監査役は半数以上の社外監査役を含む三人以上で構成され、全員で監査役会を組織します(390条1項)。監査役会設置会社は非公開会社であっても、定款に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する規定を設けることはできません(389条1項)。

※半数以上の社外監査役

上記の通り、監査役会の構成員である監査役のうち半数以上は社外監査役でなければなりません。この「半数以上」という言い方は、よく似ている言い方の「過半数以上」とは違ので注意が必要です。過半数というのは半数をすぎるということで半数は含みません。従って、監査役が3人の場合には、社外取締役は2名以上必要です。それでは、監査役が4人の場合を考えてみましょう。「半数以上」というとであれば、半数は含まれるので、最低2人の社外監査役が必要ということになります。これに対して「過半数以上」ということになると、半数を含めず、半数を越えなければならないので。2人という半数を越えなければならないので、3名以上の社外監査役が必要ということになります。

そもそも監査役ではなく監査役会という組織体にしたには、大会社において監査役の員数が3人以上とされて、取締役が3人以上で取締役会が設置できるのと同じように監査役会も設置できるようにするのが自然ということ。また社外監査役の導入も併せて決まったことに関連して、監査役の間で役割を分担し、かつ、それぞれが担当した調査の結果を監査役全員の共通の情報として、組織的、効率的な監査をすることができるようにするためということ。そしてまた、監査役会として業務執行陣に意見を述べることにより、監査役が個々に意見を述べるより、経営陣に対する影響を強められること。これらの理由からです。

ü 常勤監査役について(390条3項)

監査役会設置会社は、監査役の中から常勤監査役を選定しなければなりません(390条3項)。

常勤監査役とは、他に常勤の仕事がなく、会社の営業時間中原則としてその会社の監査役の職務に専念する者です。監査役会の設置が義務付けられる公開会社である大会社の監査役の仕事量は常勤者を必要とするという認識に基づき、その選定が要求されています。ただし、常勤監査役に選定された者の勤務状態が常勤の名に値しなくても、その選定またはその監査が無効になるわけではなく、監査役の善管注意義務違反の問題が生ずることになる。

ü 監査役会の権限

監査役会設置会社では、監査役の全員で監査役会を組織します。しかし、監査役会制度の下でも監査役の独任制は維持されており、監査役会の機能は、各監査役の役割分担を容易にしかつ情報の共有を可能にすることにより、組織的・効率的監査を可能にするものです。監査役会の職務は以下の3点であり、監査役会の権限はその職務の遂行に関わるものとなります。それ以外については個々の監査役の権限として残されています。例えば、業務監査の権限自体は、独任制の個々の監査役にあり、ただ監査報告書の作成権限は監査役会にあるということです。

@)監査報告の作成

A)常勤の監査役の選定及び解職

B)監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定(390条2項)

例えば、上記B)について、監査役会は、その決定(決議)をもって、監査の方針、会社の業務・財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定める権限を持っています。しかし、その決定により各監査役の権限の行使を妨げることはできないとされています(390条2項但書)。それは、個々の監査役が自己の判断で行う取締役の責任通級の提訴、業務調査権等を制限することはできないということです。

※監査役会による各監査役の職務分担の決定の意義

監査役会の決定により各監査役の分担を定めることは、調査の重複を避けた組織的・効率的な監査を可能にします。しかし、各監査役が分担された職務以外の権限を行使することを阻止できないから(390条2項但書)、監査役会の決定により職務分担を定めることの法的意義は、定められた分担が合理的と判断される限り、各監査役は、自己の分担外の事項については職務遂行上の注意義務が経験される点にあります。

具体的な監査役会の権限を以下にあげていきたいと思います。

・取締役及び会計監査人から報告を受け、または取締役から計算書類・附属明細書を、会計監査人からは監査報告書を受領する権限。

すなわち、取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合に、取締役から報告を受ける権限、会計監査人が取締役の職務遂行に関し不正の行為または法令等に違反する重大な事実を発見した場合に会計監査人から報告を受ける権限、取締役から計算書類・附属明細書を受領する権限、及び会計監査人から監査報告書受領する権限

・会計監査人の選任、不再任、解任に関する権限

すなわち、取締役会に会計監査人の選任、不再任及び解任の議案を株主総会に提出させる権限、会計監査人の解任権

・監査役の選任議案に同意する権限

・監査報告書の作成に関連する権限

・監査役の職務の執行に関する事項の決定権限

・監査役に職務の執行の状況を報告するように求める権限

ü 監査役会の職務(390条2項)

@)監査報告の作成

監査役会は、監査報告書の作成を、各監査役の報告に基づいて行います(390条2項、会社法施行規則130条、会社計算規則123条、128条)。監査役会による監査報告の作成は、各監査役が自己の調査の結果または他の監査役の調査の結果に基づいて、監査役会において自己の監査の結果についての意見を表明し、監査役会は、その各監査役の監査の結果に基づいて監査報告書を作成します。

監査役会の監査意見は多数決により形成されます(399条1項)。しかし、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査報告の内容とが異なる場合には、各監査役は、監査役会監査報告の内容を付記することができます(会社法施行規則130条2項)。

A)常勤の監査役の選定及び解職

B)監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定(390条2項)

監査役会の決議で、監査の方針、業務・財産状況の調査の方法その他の職務の執行に関する事項について定めます。これによって、例えば監査役の全員が個々的に会社の業務執行の全部にわたって調査するのではそれぞれが詳細に調査することができずに適当でない場合には、監査役会の決議をもって、それぞれの監査役について職務分担を定める。常勤の監査役とそれ以外とくに社外監査役のそれぞれの役割も、この決議によってさだめられ、組織的な監査を可能にします。ただし、この決議は、監査役の職務の執行の権限の行使を妨げることはできないので、例えば、職務分担の定めが提案された場合に、監査役の全員がそれに賛成して可決されたときは、監査役の全員がそれに拘束されるとともに、その定めが善管注意義務を尽くして相当である時は、その定めに従って職務を行えば免責されることになる。これに対して、この定めが多数決で可決されたが、1人の監査役が反対した時は、それに賛成した監査役は、その定めに拘束されるとともに、その定め従って職務を行えば免責されます。その意味で、この決議の効力が認められます。また、その定めに反対して監査役は、その定めに拘束されず、自らの判断でした調査の結果については、監査役会の求めにより監査役会に報告しなければならないことになっています。そこで各監査役としては、その報告を聞いて、善管注意義務を尽くして判断して相当と認めたときは、その結果に基づいて自己の監査の結果を発表して良い。しかし、さらに自ら調査の必要がある、あるいは担当監査役に調査させる必要があると判断したときは、自ら更に調査し、あるいは監査役会で定めるところにより、さらに調査することができ、また、そのようにする義務があると考えられます。

ü 監査役会への報告義務(390条4項)

監査役は、監査役会の求めがある時は、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない(390条4項)。これにより、監査役間の情報の共有が可能になる。監査役会において職務分担を定めた場合には、この報告を受けることによって、それぞれの監査役が分担した調査の結果をすべての監査役がの共通の知識として、それについて疑問があるときには、さらには監査役会において調査する契機とすることができます。なお、この義務は監査を終えた場合にも負うもので、この義務に違反したときは、任務懈怠の責任を負うことは言うまでもありません。

第2款.運営

Ø 招集権者(391条)

監査役会は、各監査役が招集する。

監査役会は、各監査役が招集できるとされています(391条)。これは独任制の趣旨から、取締役会のような形で招集権者を限定する(366条)ことは認められません。仮に招集権者を社内規程等で定めた場合には、事実上の一応の拘束力は認めれますが、それは絶対的なものではなく、それ以外の者が招集した場合には、その招集も効力があり、その定めは拘束力を有しないと考えられます。

Ø 招集手続(392条)

@監査役会を招集するには、監査役は、監査役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各監査役に対してその通知を発しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、監査役会は、監査役の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

招集手続については、取締役会と実質的に同じです。

Ø 監査役会の決議(393条)

@監査役会の決議は、監査役の過半数をもって行う。

A監査役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

B前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

C監査役会の決議に参加した監査役であって第2項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。

監査役会の決議は、監査役の過半数(現存する監査役の数が法令・定款に定める)をもって行います(393条1項)。取締役会の場合と異なり、定款に決議の省略(書面決議)ができる旨を定めることはできません。会議の省略を認めては、各監査役が独任制の機関であるというだけにとどまらない合議体の機関を設けた意味(密接な情景共有による組織的・効率的監査)が乏しくなるからです。

Ø 議事録(394条)

@監査役会設置会社は、監査役会の日から10年間、前条第2項の議事録をその本店に備え置かなければならない。

A監査役会設置会社の株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

B前項の規定は、監査役会設置会社の債権者が役員の責任を追及するため必要があるとき及び親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。

C裁判所は、第2項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該監査役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第2項の許可をすることができない。

 

Ø 監査役会への報告の省略(395条)

取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が監査役の全員に対して監査役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査役会へ報告することを要しない。

取締役、会計参与、監査役または監査役会に報告すべき事項を監査役の全員に対して通知したときは、当該事項を監査役会へ報告することを要しない(395条)。取締役等には監査役会の招集権限がないことの関係で、法律関係を明確化する趣旨で定められた。

 

節.会計監査

Ø 会計監査人の権限等(396条)

@会計監査人は、次章の定めるところにより、株式会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査する。この場合において、会計監査人は、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならない。

A会計監査人は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、会計に関する報告を求めることができる。

一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面

二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの

B会計監査人は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人設置会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は会計監査人設置会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

C前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。

D会計監査人は、その職務を行うに当たっては、次のいずれかに該当する者を使用してはならない。

一 第337条第3項第1号又は第2号に掲げる者

二 会計監査人設置会社又はその子会社の取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又は支配人その他の使用人である者

三 会計監査人設置会社又はその子会社から公認会計士又は監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者

E指名委員会等設置会社における第2項の規定の適用については、同項中「取締役」とあるのは、「執行役、取締役」とする。

ü 会計監査人設置会社について

会計監査人は1974年の商法改正により大会社に対して会計監査人による決算監査の制度を導入したことにより設置が義務付けられることになりました。現在の会社法では、大会社は会計監査人を置かなければなりません(328条)。それは株主や会社債権者など計算が適正であることに利害関係を有する者が多いからということです。監査等イ委員会設置会社及び指名委員会等設置会社も、会計監査人の設置を義務付けられています(327条5項)。また、それ以外の株式会社が定款の定めにより会計監査人を置いた場合(326条2項)には、監査役を置かねばならず(327条3項)、その監査役は業務監査権限を有するものでなくてなりません(389条1項)。これは会計監査人は、業務監査を行う機関とセットでなければ本来の機能を果たすことができないと考えられているからです。

これらの会計監査人設置会社は、その旨と会計監査人の氏名(名称)を登記します(911条2項19号、商業登記法47条2項11号、54条2項)。

ü 会計監査人の地位について

会計監査人は、監査役と同じく株主総会で選任されますが、監査役のような会社の機関を構成する者ではなく(329条1項)、会社の外部の者であって、会計監査人設置会社の計算書類を会社との契約により委任を受けて監査する専門職業人(436条2項、441条2項、444条4項)です。そのため外部監査人と呼ばれることもあります。会計監査人となる資格は、公認会計士または監査法人に限られる(337条1項)ことです。監査法人が会計監査人に選任された場合は、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、会社に通知しなければなりません(337条1項)。

なお、金融商品取引法の適用会社では、財務計算に関する書類(財務諸表)の監査証明をする公認会計士あるいは監査法人と会社法上の会計監査人とは、通常は同一です。上場会社では、その公認会計士あるいは監査法人は財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府例で定める体制について経営者が評価した「内部統制報告書」の監査証明も行います(金商法193条の2第2項)。

会計監査人の被監査会社からの独立性を維持し、監査の公正さを保障するとともに、会計監査人としてふさわしくない者を排除するため会計監査人の欠格事由を定めています。(337条2項)会計監査人としての資格を有しない者または欠格事由のある者を会計監査人に選任しても、その選任は無効であり、また選任後にそれに該当すれば、その時点から会計監査人の地位を失うことになります。そして、そのような者が監査報告書を作成しても法律上の効果を生じません。欠格事由の「公認会計士法の規定により、第435条第2項に規定する計算書類について監査をすることができない者」の具体的内容として、以下の者があげられます。

・その会社の役員(取締役又は監査役)であり、もしくは過去1年以内に役員であった者など、会社と著しい利害関係がある公認会計士(公認会計士法24条)

・その会社の株式を所有する監査法人なと、会社と著しい利害関係がある監査法人(公認会計士法34条の11)

・公認会計士または監査法人が虚偽または不当な監査証明をし、または公認会計士法またはそれに基づく命令に違反した等の理由により業務停止処分を受け、業務停止期間中のもの(公認会計士法29〜31条、34条の21)

ü 会計監査人の職務と権限

会計監査人の基本的職務とそれに伴う権限は会社の連結及び計算関係書類を監査して、監査報告を作成することです(396条1項)。会計監査人の職務と権限の行使を行うために必要なものとして、次のような措置がとられています。

@)取締役及び使用人に対する報告請求権(396条2項)

いつでも、会社の会計帳簿、これに関する資料の閲覧・謄写をし、または取締役や使用人に対し会計に関する報告をもとめることができる。

A)会社及び子会社の業務・財産調査権(396条3、4項)

必要がある時は、子会社に対し会計に関する報告を求め、または会社・子会社の業務・財産の調査をすることができる。ただし、子会社は調査が権利濫用である等正当な理由があるときは、これを拒むことができる。

※会計監査人は、会社の内部統制の状況を把握した上で、監査対象の重要性・危険性等を考慮してその会社に適用すべき監査手続、実施時期、試査の範囲を決定し、監査計画を立てます。監査計画は、監査実施の過程において、事情に応じて修正されます。会計監査人である監査法人の各関与社員・補助者等がその会社の監査に従事する日数、報酬、経費の負担等は会計監査人と会社間の監査契約書に記載され、往査場所、時期、日程等は、それとは別に決定されます。

Ø 監査役に対する報告(397条)

@会計監査人は、次章の定めるところにより、株式会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査する。この場合において、会計監査人は、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならない。

A監査役は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人に対し、その監査に関する報告を求めることができる。

B監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会」とする。

C監査等委員会設置会社における第1項及び第2項の規定の適用については、第1項中「監査役」とあるのは「監査等委員会」と、第2項中「監査役」とあるのは「監査等委員会が選定した監査等委員」とする。

D指名委員会等設置会社における第1項及び第2項の規定の適用については、第1項中「取締役」とあるのは「執行役又は取締役」と、「監査役」とあるのは「監査委員会」と、第2項中「監査役」とあるのは「監査委員会が選定した監査委員会の委員」とする。

ü 会計監査人の会計監査報告(397条1項)

会計監査人は会計に関する監査の職務・権限を有するのに対して、監査役は業務一般についての監査(その中には会計監査を含みます)の職務・権限を有しています。この点についての両者の職務・権限の関係として、会計に関する監査について、無意味な重複を避けるため、第一次的には会計監査人が監査を行い、その監査報告書を監査役会に提出し、監査役会は、その会計監査人の会計監査を前提として、会計監査人の監査の方法または結果についての各監査役の意見に基づき、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めた場合にのみ、その旨及び理由並びに監査役の監査の方法の概要または結果を監査報告書に記載するという構造をとっています。このことから、監査役と会計監査人との間には、緊密な連携関係が不可欠といえます。

ü 監査役の会計監査人に対する説明・報告請求権(397条2項)

上述のとおり、監査役は会計監査については、会計監査人の監査報告書の相当性を判断して自分の行った監査について監査役会に報告し、監査役会は、それに基づいて監査報告書作成します。そのため、監査役は、その判断にあたって、会計監査人に対して、その監査報告書について説明を求めることが当然必要になります。そこで、監査役にはその権利が与えられている(3971条2項)と言えます。

これに対して、会計監査人は監査役の指揮・命令を受けるわけではなく、独立の専門職業人として自己の監査計画に沿って監査を実施しているわけであるから、新たな調査を必要とする事項については、監査役から報告を求められた場合に監査計画を修正し監査役に協力するか否かは、会計監査人としての善管注意義務に従って判断することになります。

ü 会計監査人の報告義務(397条2項)

会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関して不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは遅滞なく、これを監査役に報告しなければなりません(397条)。業務監査は会計監査人の職務ではありませんが、会計監査の際に取締役の不正行為等を発見する可能性があるので、このような報告義務が課せられています。

 

Ø 定時株主総会における会計監査人の意見の陳述(398条)

@第396条第1項に規定する書類が法令又は定款に適合するかどうかについて会計監査人が監査役と意見を異にするときは、会計監査人(会計監査人が監査法人である場合にあっては、その職務を行うべき社員。次項において同じ。)は、定時株主総会に出席して意見を述べることができる。

A定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があったときは、会計監査人は、定時株主総会に出席して意見を述べなければならない。

B監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会又は監査役」とする。

C監査等委員会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査等委員会又は監査等委員」とする。

D指名委員会等設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査委員会又はその委員」とする。

 

Ø 会計監査人の報酬等の決定に関する監査役会の関与(399条)

@取締役は、会計監査人又は一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。

A監査役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査役会」とする。

B監査等委員会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査等委員会」とする。

C指名委員会等設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査委員会」とする。

ü 会計監査人の報酬等

会社が会計監査人に支払うべき報酬等は、定款あるいは株主総会で定める必要はありません。しかし、取締役がその報酬等を定める場合には、監査役(監査役が二人以上の場合にはその過半数)の同意を得なければなりません(399条1項)。会計監査人の監査を受ける立場の取締役(経営者)のみがその決定に関わると、会計監査人が会社に対して十分な質・量の役務を提供することが困難な低い水準に報酬等を抑制したいとのインセンティブが働くことを防止するための措置です。

※公開会社は、会計監査人の報酬等の額及びその報酬額について監査役が同意した理由を、非監査業務の内容と共に事業報告に開示しなければなりません(会社法施行規則126条)。

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