第2節.株主総会以外の機関の設置
第1節で株主総会に関する規定があって、ここでは株主総会以外の会社の機関についての総論的な規定が集められています。株主総会とそれ以外という分け方をしているのは、ここで規定されている機関と株主総会とで大きな違いがあるからです。その違いとは、株主総会は会社の持分所有者である株主が直接参加していますが、それ以外の機関は参加していません。その代わりに株主でない者が直接参加しています。こちらは株式会社における車の両輪年で株主に対しる経営者による機関なのです。具体的にいうと、取締役及び取締役会、そして監査役(監査役会)です。つまり、ここで規定されているのは経営の組織・機関です。
株主総会は、株主による意思決定の場ですから株式会社は必ず置かなければなりません。しかし、株式会社の経営は、事業の内容や経営環境によって千差万別であり、株式会社はそういうものに適した経営をしていかなければなりません。そのため、経営体制は各会社が自主的に選択できるわけで、どのような経営体制を選択するかは定款に規定することで、株主の承認を受け有効となります。
ü 各機関相互の関係
ア.株主総会と取締役会の関係
株主総会決議事項は、法令・定款で定められた事項に限定されていますが、昭和25年の商法改正以前は、このような株主総会の権限を限定するような規定はありませんでした。この昭和25年の改正によって株主総会の決議事項は会社の基本的事項に限定されることになりました。その結果、株主総会は、それまでは会社の最高の機関であるとともに万能の機関とされていたのに対して、この改正によって、会社の最高の機関ではあるが、万能の機関ではないことになりました。この昭和25年の商法改正は株主総会の権限を縮小することになりましたが、それは決して株主の企業所有権を制限しようとするものではなく、会社事業の経営に関する株主の合理的意思を反映させたもの言えます。すなわち、株主は原則として会社事業の経営については知識・経験を有せず、したがって業務執行の具体的内容についてもすべて株主総会で決議することができるとすることは、会社事業の観点から見て不適当であるので、株主総会の決議事項を基本的事項に限って、それ以外の業務執行に関する事項の決定については、経営の専門家である取締役が構成する取締役会の委ねることにしたのです。しかし、株主が会社事業の経営の関心がある場合があり、また法定事項ではないが総会の権限とすることを要求する場合があるので、法定事項でなくても定款で定めることにより株主総会の権限とすることができるものとしたのです。
イ.取締役会と代表取締役の関係
取締役会は、業務執行に関する意思決定機関であると同時に業務執行に関する監督機関でもあります。取締役会が業務執行に関する意思決定機関であるという事は、株主総会の招集、株式や社債の発行、会社財産の処分、営業所の設置、組織再編等の業務執行に関する決定を取締役会が行うということです。この決定を実行するのは業務執行機関である代表取締役ないし業務執行取締役です。取締役会の、このような権限に関連して、取締役会が業務執行機関である代表取締役に対して、どの範囲で業務執行に関する意思決定を委ねることができるかが問題となります。一方では、業務執行に関する意思決定権が取締役会にあるといっても、日々の営業取引等の日常の業務執行についてまですべて取締役会が決定しなければならないというのでは、取締役会が会議体であることからいっても煩雑であり、またそのような事項の決定は代表取締役に委ねても弊害はない。しかし、他方で、どんな事項でも代表取締役に委ねてもよいということになると、代表取締役の権限が強くなりすぎて、専横的になってしまう可能性が生じ、取締役会による業務執行の監督機能が働かなくなるおそれがあります。そこで、会社法は特定の重要事項の決定については取締役会で決定しなければならないとしています。それが昭和56年の商法改正で明文化されました。
ウ.取締役会と監査役の関係
取締役が業務執行に関する監督機関であることに関連して、そのことと監査役が業務執行に関する監督機関であることの関係が問題となります。取締役会における監督権限は業務執行の適法性だけではなく、その妥当性にも及びます。これに対して監査役の監督権限は適法性監査に限られます。例えば、企業の海外進出に関して、取締役会は、その時期に海外に進出するのが妥当かどうかを判断する権限を有し、それが妥当でないと判断すれば、取締役会として、そのような海外進出の決定をしないことができます。しかしこれに対して、監査役は、その取締役会の決議には参加できません。監査役の権限は著しく不当な場合を含む意味での適法性監査に限られます。このように業務執行に対する取締役会における監督と監査役による監査とでは、その監督ないし監査の範囲が異なり。取締役会の方が監査役より広いというのが違いです。このうち、適法性については取締役会も監査役も同じ適法性であっても、内容的な差異があります。すなわち、監査役はもっぱら業務監査のみをする職務とするものであって、そのために会社法は監査の手段としての様々な権限を与えていて、かつ、その地位の取締役会や代表取締役からの独立性を保障して不安なしに監査を続けることができるようにするためです。それに対して取締役会の構成員である取締役には配慮がなされていないで、実際上は業務担当取締役ないし使用人兼務取締役として、業務執行体制の中に上下の関係で組み込まれているので、一方で業務執行の一翼を担いながら、他方で取締役会の構成員として、取締役会による業務執行の監督を進めるという職務を負っています。
Ø 株主総会以外の機関の設置(326条)
①株式会社には、1人又は2人以上の取締役を置かなければならない。
②株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる。
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取締役の員数(1項)
取締役会設置会社の取締役は3人以上でなければなりません(331条5項)。これは、取締役会が3人以上の取締役で構成されなければならないからです。しかし、取締役会設置会社以外の株式会社の取締役は、1人以上でも認められます(326条1項)。いずれの場合も、定款上、最低限あるいは最高限度の員数に関する定めをすることができます。実際には、取締役会設置会社の定款には取締役の員数の最高限度のみを定めて、最低限度は会社法の3人に従っているケースがほとんどです。
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取締役会設置会社以外の会社の取締役
取締役会設置会社以外の株式会社では、定款で特定の取締役の業務執行を制約しない限り、各取締役が会社の業務を執行できます(2条7号)。すなわち、取締役が1人の場合は、単独で業務執行の決定およびその執行を行うことができます。取締役が2人以上ある場合には、業務執行に関する意思統一がなければ会社の運営は事実上できませんが、定款に別段の定めがある場合を除き、形式のいかんに関わらず取締役の過半数で業務執行の決定を行えばよいわけです(348条2項)。つまり、取締役会設置会社以外の会社でも、第三者機関である取締役が業務執行を行いますが、比較的少数の株主と個々の取締役との信頼関係、取締役相互の緊密な接触といった会社の実態に配慮し、業務執行方法は会社の自治に任されています。現在設立されている中小企業の大多数は、この形態を選択していると考えられます。
Ø 取締役会等の設置義務等(327条)
①次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
一 公開会社
二 監査役会設置会社
三 監査等委員会設置会社
四 指名委員会等設置会社
②取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
③会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
④監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。
⑤監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
⑥指名委員会等設置会社は監査等委員会を置いてはならない。
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監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較
公開会社は取締役会設置会社でなければなりませんが、同時に、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの会社形態をとらなければならないことになります。そこで、この三つの形態について簡単に説明し、それぞれの特徴を比較して置くことにします。なお、それぞれの形態についての詳細は、会社法の該当条文のところで改めて説明していきたいと思います。ただし、会社法の条文は、とくに断りがない場合には、監査役会設置会社を標準として規定していて、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社は、それぞれの場合に限定した条文を置いています。
①監査役会設置会社
取締役会が会社の業務につき意思決定を行い、その意思決定に基づく業務執行を、取締役会が選定した代表取締役その他の業務執行取締役が行う一方、取締役の職務執行に対しては、取締役会から独立した監査役が監査を行うという機関構成になっています。監査役会は、3人以上の監査役で構成され、その半数以上は社外監査役でなければなりません。
この経営形態の取締役会が会社法でデフォルトの、とくに断りのない規定で示しているものです。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社の取締役会は、このデフォルトから外れる部分があるので、その部分をとくに会社法では条文にして規定しているわけです。では、取締役会について概説します。3人以上の取締役の全員で構成される取締役会が、その決議により会社の業務執行の決定を行い、その決定を執行する代表取締役または業務執行取締役を選定し、権限を委任し、かつその者の職務の執行を監視する。その会議の手続にも、個人的信頼に基づき選任された取締役相互の協議・意見交換により一定の結論を得るため、代理出席を認めず、かつ3ヶ月に1回以上招集が必要、等の制約があります。一方で株主総会の権限は制約され、他方取締役会の業務執行の監視のため、監査役会の設置が要求されています。
しかし、実際の企業現場においては取締役会の業務執行は会社法の趣旨からは外れてきている場合の方が多くなっていると思います。上場会社の取締役会は、取締役のほぼ全員が代表取締役(社長)を頂点とする執行担当階層組織の一員であるため、その頂点にいる代表取締役を効果的に監督することが事実上困難になっています。
②指名委員会等設置会社
取締役会は、会社の業務についての意思決定を大幅に執行役に委任する一方、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会を通じて、主として執行役に対する監督機関としての役割を担うという機関構成になっています。各委員会は、3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければなりません。
指名委員会等設置会社の取締役会は、監査役会設置会社の取締役会とは根本的な性格が異なるモニタリング・モデルと呼ばれます。これは海外の上場会社に多く見られるもので、株主により選任された取締役からなる取締役会は経営の基本方針の決定、業績評価、業務執行者の選任・解任しか行わず、かつ、取締役会の構成員の全部または大多数は業務執行に関与しない形の機関構成をとっています。
③監査等委員会設置会社
監査役(会)に代えて、監査等委員会が設置される機関構成を採ります。そして、監査等委員会は、監査等委員として株主総会で選任された3人以上の取締役(その過半数は社外取締役でなければならない)によって組織される委員会であり、取締役の職務の執行の監査等を行います。また、監査等委員会設置会社においては、指名委員会及び報酬委員会の設置は義務付けられていません。言わば、監査役会設置会社と指名等委員会設置会社の中間型と言えます。両者のどちらかに近寄っても、折衷的にするのも、企業の状況に応じてある程度柔軟な制度設計が可能(後述の検討事項の扱い方が鍵)。
④監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較
|
監査役会設置会社 |
指名委員会等設置会社 |
監査委員会等設置会社 |
監査機関 |
監査役会 |
監査委員会 |
監査等委員会 |
構成員 |
3名以上の監査役 |
3名以上の取締役
(監査委員) |
3名以上の監査等委員の取締役 |
社外役員 |
半数以上は社外監査役 |
過半数は社外取締役 |
過半数は社外取締役 |
選任 |
株主総会で選任 |
株主総会で取締役を選任し、
取締役の互選で委員を選任 |
株主総会で監査等委員の取締役
とその他の取締役を区別して選任 |
任期 |
監査役は4年
取締役は2年以内 |
1年 |
監査等委員の取締役は2年
その他の取締役は1年 |
常勤者 |
常勤監査役は必須 |
常勤の委員は任意 |
常勤の監査等委員は任意 |
業務執行者 |
業務執行取締役 |
執行役 |
業務執行取締役 |
指名・報
酬委員会 |
設置は任意 |
それぞれ必置 |
設置は任意
ただし監査等委員会に意見
申述権が認められている |
※公開会社でない株式会社の取締役会
旧商法時代からの株式会社は、定款に取締役会を置く旨の定めがあると見なされていたので、非公開の会社にも取締役会設置会社は少なくありません。そのような会社の取締役は、自身が大株主であるか、株主から派遣された者が、員数合わせのための名目的存在かで、いずれにせよ株主から独立した存在ではありません。しかし、だからといって、取締役会において株主の意思の結集が行われることはむしろ稀です。取締役会がワンマン経営者の諮問機関的存在であればいい方で、まったく会議の開催がなかったり、実質的意思決定は株主の間でなされ、取締役会は形式のみという例も多い、というのが実際です。
Ø 社外取締役を置いていない場合の理由の開示(327条の2)
事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。
Ø 大会社における監査役会の設置義務(328条)
①大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
②公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない。
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監査役会設置の経緯
上場会社における第二次世界大戦後の会社の機関に関する法改正の歴史の相当部分は、監査役制度の強化の歴史と言っていいものです。現在の制度の源となった改正を遡って概観してみると、昭和49年の商法改正で、この契機となったのは昭和40年の山陽特殊製鋼事件をはじめとした粉飾決算による倒産の発生です。このとき監査役は株主総会で粉飾決算の計算書類を適正・妥当と報告しでおり、監査制度への強い批判が起こったことからです。この改正で、株式会社を規模に応じて大中小の三種類にわけて、中会社では会計監査人には会計監査の権限しか与えられていなかったのに、新たに業務監査権が加えられました。また大会社では、監査役に業務監査権が与えられるとともに、会計監査人による会計監査を義務付けられました。そして、すべての会社で監査役の任期は2年に延長され代表取締役からの独立性を高められました。
その後昭和56年の商法改正は、ロッキード事件などの大型疑獄事件で会社資金不正支出という不祥事が明るみに出たことなどから、監査役制度の充実のため、次のような改正がありました。監査役の報酬や監査費用の独立性、監査役の取締役会招集権、取締役の取締役会への報告義務など、その他大会社においては監査役の複数名選任と常勤監査役制度。
そして、平成5年には証券・金融不祥事の続発を契機に監査役の任期を3年に伸長し、大会社での監査役人数の増加、社外監査役制度及び監査役会制度の導入が決められました。
この監査役会導入の理由は、大会社において監査役の員数が3人以上とされて、取締役が3人以上で取締役会が設置できるのと同じように監査役会も設置できるようにするのが自然ということ。また社外監査役の導入も併せて決まったことに関連して、監査役の間で役割を分担し、かつ、それぞれが担当した調査の結果を監査役全員の共通の情報として、組織的、効率的な監査をすることができるようにするためということ。そしてまた、監査役会として業務執行陣に意見を述べることにより、監査役が個々に意見を述べるより、経営陣に対する影響を強められること。これらの理由からです。
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外部監査として会計監査人
上述の通り、昭和49年の商法改正によって会計監査人による決算監査が大会社に義務付けられました。会計監査人は、監査役と同じく、株主総会で選任されますが、監査役とは異なり、会社の機関を構成するものではなく、会社の外部の者であって、会社との契約によって会計監査の委託を受ける者と解されています。会計監査人の監査を外部監査というのは、そのためです