第11節.役員の損害賠償責任
取締役の損害賠償責任は、大きく会社に対する責任と第三者に対する責任の二つに分けられます。取締役の会社に対する関係は民法の委任に関する規定に従う(330条)とされていますが、取締役に起因して発生した損害に対する賠償責任の詳細は民法に従うのでは不十分と考えられ、民法の特別法である会社法に規定が定められています。
(1)取締役の会社に対する責任
取締役は、職務執行上、任務を怠ったことにより会社に損害を生じさせた場合等に、それを賠償する責任を負うことになります(423条)。取締役の責任制度は、会社の損害の回復自体を目的とするものか(損害填補機能)、取締役が任務懈怠することを防止するいわば手段的役割のものか(抑止機能)という考え方に見解が分かれています。とくに旧商法では取締役の賠償責任を原則として無過失責任としていましたので、前者の見解を重視してきました。
※旧商法と会社法の相違点(無過失責任から過失責任へ)
旧商法における民法の特別法としての特色として、取締役の責任の無過失性が挙げられます。取締役の会社に対する損害賠償責任は、旧商法266条では5つの類型に分けたうえで、うち1〜4号で違法配当、利益供与、他の取締役への金銭貸付、利益相反取引をあげ、これらは無過失責任とし、バスケット条項的位置づけの第5号(法令または定款違反の行為)のみが判例上例外的に過失が要件とされていました。
これに対して、会社法では無過失責任規定は大幅に削除され、旧商法の第5号を会社法423条第1項の「任務を怠ったとき」として原則化し、旧商法の1〜4号に相当する規定のほか特則的に設けられた責任規定は、利益供与の一部を除き過失責任となりました。
これは、損害填補機能から任務懈怠抑止へという取締役責任に対する再検討が加えられる中で、無過失責任を課すことが必ずしも取締役の任務懈怠の抑止につながらず、むしろ取締役の人材の確保を困難にしかねないという批判が強まったことが背景となりました。無限定な結果責任を問うよりも、必要な注意を怠らずに職務がなされたうえでの損害という結果の場合は免責(または責任軽減)することが経営に対する萎縮を防ぐという「経営判断の原則」の考え方に立脚することこそが有効という流れにあるものと言えます。
※経営判断原則
経営判断原則は、アメリカにおいて判例法原理として生成・発展してきた“business judgement
rule”に由来するものです。これは、取締役の経営判断が会社に損害をもたらす結果を生じたとしても、その判断が誠実性・合理性をある程度確保する一定の要件の下に行われた場合には、裁判所が判断の当否について事後的に介入し、注意義務違反として取締役の責任を直ちに問うべきではないという考え方です。
この原則は、経営に冒険は不可避であるのに、取締役は株主の利益を最大限にする冒険を避ける傾向もあるので、取締役の冒険心を萎縮させる事後的評価をなすことは株主の利益にならないという考え方に立脚しています。したがって、本来裁判所は判断内容の妥当性・合理性には一切踏み込まず、取締役の裁量に委ねるべきなのですが、実際には裁判所は、評価は分かれつつも、その審理過程において、それぞれの事案に即した詳しい事実認定を行い、経営判断の過程ばかりでなく内容についても審査を加えてきたと言われています。近年の判例では、経営判断の内容については著しく不合理とは言い難いことと、経営会議における討議と弁護士の意見の聴取という手続履歴をもって決定過程に何ら不合理な点は見当たらないこと、の2点をもって取締役の善管注意義務違反はないとしました(最高裁判例平成22年7月15日)。経営判断の過程・内容に対して、裁判所が積極的に吟味・介入すべきが抑制的であるべきかについては、判例は揺れ動いていましたが、この判決により、後者の傾向が示されたと言えます。したがって、経営判断の内容に言及しつつもその妥当性には踏み込まず、著しく不合理といえるかどうかという合理性審査にとどめるという姿勢が明確化され、今後、取締役の責任を問う局面では、経営判断の過程と内容の合理性が善管注意義務の程度・水準において争点の中心となっていくでしょう。
(2)取締役の第三者に対する責任
取締役は、職務執行上、悪意・重過失による任務懈怠があった場合、第三者に対しても責任を負うことになります(429条)。この取締役の責任は、とくに中小企業の倒産時の経営者の個人責任に関する重要な判例を形成することになりました。
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役員等の株式会社に対する損害賠償責任(423条)
@取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
A取締役又は執行役が第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第356条第1項第1号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
B第356条第1項第2号又は第3号(これらの規定を第419条第2項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一
第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二
株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三
当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
C前項の規定は、第356条第1項第2号又は第3号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。
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取締役の責任発生の要件─任務懈怠(423条1項)
取締役の任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務(330条)・忠実義務(356条)の違反を指しますが、実際に損害を発生された事故に対する監督不行き届きという形で取締役の不作為について責任を問われることが多いようです。
一方、取締役による能動的な行為が会社に損害を発生させその発生を防止できなかったという意味での任務懈怠、つまり、業務執行上判断の誤りについては、裁判実務では、意思決定過程に不注意がなければ経営判断として取締役の裁量が認められる場合が多いようです。損害発生のみでは足りず、このような不注意と過失についての証明責任を取締役の責任を追及する原告側が負うことになります。
・不作為による任務懈怠
他の取締役・使用人に対する監督(監視)義務違反を含む不作為が任務懈怠と見なされるケースです。取締役の監督義務については、取締役が自己の業務執行権限外の事項に関し会社の損害を疑わしめる事実を知った場合に、どこまで行動すべき義務があるか、たとえば、取締役会設置会社の場合、取締役会において発言し(362条2項)、監査役に報告した(357条)にも関わらず何の措置もとられないとき、その取締役は何をしなければ注意義務違反となるかという具体的には、その取締役の能力等により違いはあり得ますが、弁護士に相談する、事実を公表すると代表取締役を脅す、あるいは辞任する等しなければ任務懈怠とかるという議論があります。
なお、監督義務に関しては、公開会社の代表取締役には、業務執行の一環として、会社の損害を防止する内部統制システムを整備する義務があります。
・業務執行上の判断の誤り
取締役の業務執行は、不確実な状況で迅速な決断を迫られる場合が多いので、善管注意義務が尽くされたか否かの判断は、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、および、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったを基準になされるというもので、事後的・結果論的な評価をすべきでないと解されます。この場合に考慮されるのが経営判断原則です。
・法令又は定款に違反する行為
取締役の任務には法令を遵守して職務を行うことが含まれます(355条)。この場合の法令には、会社や株主の権利保護を目的としする具体的規定だけでなく、公益の保護を目的とする規定(刑法、独占禁止法など)を含むすべての法令が該当すると考えられます。
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取締役の責任の効果(423条1項)
取締役は会社に生じた損害の責任を負います。損害賠償の方法は、民法の原則(民法417条)により金銭をもってその額を定めることとなります。取締役の法令違反の行為等から会社が同時に利益を受けたときは、場合により損益相殺があり得ます。例えば、自己株式の取得のような予防的見地から規制されたに過ぎない事項の違反行為については、会社に生ずべきより大きな損害を避けるために取締役がそれを行った場合、損益相殺の余地があるという裁判例もあります(東京池判平成26年1月30日)。
※競業取引の損失額(423条2項)
取締役が356条1項(取締役会設置会社では365条、また419条2項において準用する場合を含む)の規定(株主総会または取締役会への当該取引についての重要事実の開示及び承認)に違反して、競業取引を行った場合には、当該取引によって取締役または第三者が得た利益の額が会社の損害額という推定を受けます(423条2項)。
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取締役と会社の利益相反取引取締役の責任の効果(423条3項)
会社法では、取締役は原則としてその任務を怠った場合に会社に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(423条1項)。利益相反取引が取締役会の承認を受けてなされた(356条1項、365条1項)が、その取引が忠実義務違反または善管注意義務に違反するときは、任務を怠った責任を問われることになります。利益相反取引によって会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役はその任務を怠ったものと推定されます(423条3項)。
ア.その取引をした取締役(423条3項1号)
イ.会社がその取引をすることを決定取締役(423条3項2号)
ウ.その取締役会の決議(365条1項)に賛成した取締役(423条3項3号)
利益相反取引は、旧商法では無過失責任とされていましたが。会社法では過失責任に改められました。しかしながら、この任務懈怠の推定が設けられたことにより、任務を怠らなかったことを立証しないかぎり責任を負うことになります。つまり、無過失責任が実質的に残されているというわけです。
さらに、会社法では、取締役が自己のためにした取引に関しては特則を設けて、自己取引をした取締役の損害賠償責任は、任務懈怠がその取締役の責めに帰することができない事由によるものであっても免れることはできません(428条1項)。
※ただし、このア〜ウの任務懈怠の推定について、監査等委員会が事前に承認していた場合には適用しないとされています(423条4項)。
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会社に対する損害賠償責任の特則的類型
会社法では423条の一般的規定以外にも、個別に取締役の会社に対する損害賠償責任を定めた規定があります。それらを以下にまとめてみました。
・株主の権利行使に関する利益の供与
違法な利益供与に関与した取締役は、会社に対して連帯して、その供与した利益の額を支払う義務を負います(120条4項)。ただし、利益供与をした取締役は無過失責任ですが、それ以外の者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます。
なお、利益供与については、会社への賠償責任に加えて、刑事上の利益供与罪として、会社法に罰則規定があります(970条)。
・分配可能額を超えての剰余金分配責任
剰余金の配当等に関する分配可能額(461条2項)を超えて、会社法に基づく自己株式の買取請求に応じる(461条1項1〜7号)もしくは配当を行う(同8号)行為をした取締役及びその行為が株主総会または取締役会の決議に基づいて行われたときはその議案を提案した取締役は、会社に対して連帯して、当該金銭の交付を受けた者が交付を受けた金銭などの帳簿価額に相当する金銭を会社に対して支払う義務がある(462条1項)。ここでは、分配可能額の超過額ではなく金額の全額を支払わなければならないことに注意しなければなりません。
なお、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます(462条2項)。
これは、分配可能額を超える金銭等の交付を受けた者は、会社に対して交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭の支払の義務を負う(462条2項)のですが、その完全な実現は困難なので、その行為に関与した取締役に対して、過失の証明責任が転換された特別の責任を負わせたと解する人もいます。
なお、この義務を履行した取締役は、分配可能額を超える金銭等の交付であることを知ってそれを受領した株主に対して求償することができるとされています(463条1項)。
・買取請求に応じて株式を取得した場合の責任
反対株主からの株式買取請求に応じて支払っ金銭の額が分配可能額を超えるとき、その職務を行った取締役は、連帯して、その超過額を支払う義務を負います(464条1項)ここでは、全額ではなく超過額のみが対象となっています。
なお、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば免責されます。
・出資の履行に瑕疵がある場合の責任
募集株式の発行等または新株予約権の行使の際の現物出資財産の価額が、定められた価額に著しく不足する場合には、その職務を行った取締役など一定の取締役は、会社に対して、当該不足額を支払う義務を負います(213条1項、286条1項)。また、募集株式の引受人または新株予約権者が出資の履行を仮装した場合には、当該仮装に関与した取締役として法務省令で定める者は、会社に対して、仮装した払込金額を支払う義務を負います(213条の3第1項、286条の3第1項)。
・欠損が生じた場合の責任
分配可能額の規制を守ってい場合であっても、剰余金分配行為により期末に欠損が生じたような場合には、その職務を行っていた取締役は、連帯して、その欠損の額(当該分配額を上回る場合はその分配額)を支払う義務を負います(465条1項)。ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことわ証明すれば免責されます。
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連帯責任
上述の責任行為である各行為をした(不作為を含む)取締役自身は、責任を負うのは当然のことです。
これに加えて、当該行為が取締役会等の決議に基づいてなされた場合には、その決議に賛成した取締役は、そのことが任務懈怠に該当する場合には、行為をなした者と同一の責任を負うことになります。これは、取締役会構成員としての監視義務を怠ったことについて責めを問われているということです。
当該行為の決議がなされた取締役会の議事録に異議をとどめていなければ、たとえ真実として反対の意を持っていたとしても、その決議に賛成したものと推定されてしまうので留意が必要です(369条5項)。
また、この場合の任務懈怠該当性については、会社と取締役の間の利益相反取引について取締役会の承認の決議に賛成した場合には任務懈怠が推定されてしまい(423条3項3号)、これを覆すには当該取締役自身が立証する必要があります。
また、同一の事案に対して成立する責任は、連帯責任となります(430条)。
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株式会社に対する損害賠償免除(424条)
前条第1項の責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
前条について説明してきた、取締役の会社に対する賠償責任については、会社法の当初から総株主の同意による責任の免除のみが認められていました。それが、平成13年に株主代表訴訟の増加を契機に、一部免除制度が導入されました。
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総株主の同意による責任免除
以下の取締役の責任を免除するには総株主の同意が必要です(424条、120条5項、462条3項、464条2項、465条2項)。
これらのうち、ウ.における分配可能額超過分の弁償義務(462条3項)については、債権者保護の趣旨から、総株主の同意をもってしても免除することはできません。しかし、エ.とオ.については類似した事象でありながら総株主の同意をもって免除することができます。これについてバランスを欠いているという意見もあります。
株主代表訴訟において和解をする場合には、総株主の同意は不要てす(850条4項)。ただし、上述の分配可能額超過分の弁償義務の分配可能額を超える部分について和解することはできません。
ア.取締役の会社に対する損害賠償責任(423条1項)
イ.違法な利益供与の弁証義務(120条4項)
ウ.分配可能額を超えて剰余金分配したときの弁証債務のうち分配可能額相当分(462条1項、3項)
エ.分配可能額を超えて自己株式買取に応じた場合の責任(464条1項)
オ.期末の欠損填補責任(465条1項)
※取締役の責任の免責に総株主の同意が必要なのは、取締役の責任を追及する株主の責任追及等の訴えの提起権が単独株主権であること(847条1項)とのバランスをとっていると考えられます。そのため、定款で単元未満株主の訴権を制限した場合には、当該株主は総株主には含められません。
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責任の一部免除(425条)
@前条の規定にかかわらず、第423条第1項の責任は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から次に掲げる額の合計額(第427条第1項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、株主総会(株式会社に最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。以下この節において同じ。)がある場合において、当該責任が特定責任(第847条の3第4項に規定する特定責任をいう。以下この節において同じ。)であるときにあっては、当該株式会社及び当該最終完全親会社等の株主総会。以下この条において同じ。)の決議によって免除することができる。
一 当該役員等がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額に、次のイからハまでに掲げる役員等の区分に応じ、当該イからハまでに定める数を乗じて得た額
イ 代表取締役又は代表執行役 六
ロ 代表取締役以外の取締役(業務執行取締役であるものに限る。)又は代表執行役以外の執行役 四
ハ 取締役(イ及びロに掲げるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人 二
二 当該役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた場合(第238条第3項各号に掲げる場合に限る。)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額
A前項の場合には、取締役(株式会社に最終完全親会社等がある場合において、同項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該株式会社及び当該最終完全親会社等の取締役)は、同項の株主総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
二 前項の規定により免除することができる額の限度及びその算定の根拠
三 責任を免除すべき理由及び免除額
B監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社においては、取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第1項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)は、第423条第1項の責任の免除(取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)に関する議案を株主総会に提出するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。
一 監査役設置会社 監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、各監査役)
二 監査等委員会設置会社 各監査等委員
三 指名委員会等設置会社 各監査委員
C第1項の決議があった場合において、株式会社が当該決議後に同項の役員等に対し退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認を受けなければならない。当該役員等が同項第2号の新株予約権を当該決議後に行使し、又は譲渡するときも同様とする。
D第1項の決議があった場合において、当該役員等が前項の新株予約権を表示する新株予約権証券を所持するときは、当該役員等は、遅滞なく、当該新株予約権証券を株式会社に対し預託しなければならない。この場合において、当該役員等は、同項の譲渡について同項の承認を受けた後でなければ、当該新株予約権証券の返還を求めることができない。
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責任の一部免除
取締役の会社に対する任務懈怠の責任は、取締役が職務を行う際に善意・無過失であったときは賠償額の一部を免除することができます(426条、427条、428条)。この制度は、平成13年の改正により、取締役が軽微な過失により巨額の損害賠償責任を負担することをおそれ業務執行が萎縮することを防止し、かつ社外取締役の人材の確保を容易にする目的で導入されました。
責任の一部免除の対範囲は、総株主の同意による責任免除の場合とは異なり、423条1項の取締役の会社に対する損害賠償責任に限定されています。従って総株主の同意による責任免除の対象となっていた違法な利益供与の弁証義務(120条4項)、分配可能額を超えて剰余金分配したときの弁証債務のうち分配可能額相当分(462条1項、3項)、分配可能額を超えて自己株式買取に応じた場合の責任(464条1項)、期末の欠損填補責任(465条1項)については適用されません。
また、善意・無過失であることが、責任の一部免除の要件ですが、取締役が私的利益を得たことまたは犯罪行為等に起因する損害賠償責任は、通常、悪意・重過失と認定され、この要件を満たさないとされています。また、軽過失の行為のうち、取締役が業務執行上の判断の誤りにより責任を負う事態は多くないので、結局、賠償責任の一部免除がなされるのは、他の取締役等への監督(監視)義務違反を含む不作為の責任が多くなっています。
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株主総会決議による事後の軽減(425条)
取締役の会社に対する損害賠償責任(423条1項)については、(@)職務を行うにつき善意かつ重大な過失がないとき、(A)株主総会の特別決議(309条2項8号)によるとき、2つの要件を満たすことにより、賠償責任額から次の合計額(最低責任限度額)を控除して得た額を限度として、その取締役の責任を免除できる。つまり、最低限度額以上の額であればその額に責任を制限できることになります(425条1項)。
α.決議の日を含む事業年度以前の各事業年度に、その取締役が会社から業務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の事業年度ごとの合計額のうちもっとも高い額に、代表取締役なら「6」、業務執行取締役なら「4」、それら以外の取締役なら「2」を乗じた額。つまり、計算式に入る数値のうち、財産上の利益の事業年度ごとの合計額については、責任の問われる行為がなされた時点に関わりなく在職中の最高額がとられますが、それを何倍するかについは、責任を問われる行為がなされた時点において当人が代表取締役であったか、業務執行取締役であったか、それら以外の取締役であったかが考慮されるわけです。
β.その取締役が会社から受けた退職慰労金の額、使用人兼務取締役であった場合の使用人としての退職手当中の取締役在任期間の職務執行の対価である部分、およびこれらの性質を有する財産上の利益の額の合計額と、その合計額をその職にあった年数で除した額に代表取締役なら「6」、業務執行取締役なら「4」、それら以外の取締役なら「2」を乗じた額とのいずれか低い額。
γ.その取締役が有利発行を受けた新株予約権を取締役就任後に行使したときは、行使時における株式の時価から一株当たりの新株予約権の払込金額及び権利行使額の合計額を控除し、その額に行使により交付を受けた株式数を乗じて得た額。
※最低責任限度額を分かり易く概括すると次のようになります。(概括なので、正確ではありません)
・代表取締役
年収6年分+保有ストックオプション評価額
・代表取締役以外の取締役 年収4年分+ストックオプション評価額
・社外取締役
年収2年分+保有ストックオプション評価額
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株主総会決議における条件(425条2項、3項)
株主総会で取締役の責任の一部免除の承認決議の際には、取締役は、責任免除の対象である各取締役について、責任の原因となった事実及び賠償責任額、責任を免除することができる額の限度及びその算定の根拠、責任を免除すべき理由及び免除額を開示しなければなりません(425条2項)。
監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社において株主総会に取締役の責任免除の議案を提出するには、各監査役、監査等委員、監査委員の同意を得なければなりません(425条3項)。なお、この場合の同意は何を基準として同意するか否か、つまり、監査役、監査等委員、監査委員の善管注意義務の基準となることですが、責任免除が大局的に見て会社(株主)の利益に合致するか否かを基準とすることになると考えられます。
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責任免除後の退職慰労金等(425条4項、5項)
責任免除に関する株主総会決議があった後に、会社が、免除を受けた取締役に対して退職慰労金、使用人としての退職手当またはされらの性質を有する財産上の利益を与えるときは、他の取締役に支給する退職慰労金等との総額を示すのでは足りず、当該取締役に支給する額を明らかにして株主総会の承認を得なければなりません(425条4項)。責任免除後に、当該取締役が上記γの新株予約権を行使・譲渡するときにも、同様に株主総会の承認が必要となります(425条5項)。